夜ふかし閑談

夜更けの無駄話。おもにミステリー中心に小説、漫画、ドラマ、映画などの紹介・感想をお届けします

去年の冬、きみと別れ 原作 ネタバレ・あらすじ感想

こんばんは、紫栞です。
今回は中村文則さんの去年の冬、きみと別れをご紹介。

去年の冬、きみと別れ (幻冬舎文庫)


只今公開中の映画の原作小説ですね。

 

 

あらすじ
ライターの「僕」は、本を書く為に殺人事件の被告に面会に行く。
被告の名前は木原坂雄大。35歳。アート写真専門のカメラマンで、主に母方の祖父の遺産で生活していた。二人の若い女性を焼き殺した罪で起訴され、一審で死刑判決。現在は高等裁判所への控訴前の被告であった。
“知る覚悟はあるのか”と問いかけてくる木原坂に不気味さを感じつつも、「僕」は木原坂の事を知る為に木原坂の姉、友人、人形師などに話しを聞いていく。しかし、関係者達は皆どこか異様で、調べれば調べるほどに事件の不可解さは増していった。
果たしてこの事件は本当に殺人なのか?彼は“芸術の為”に二人の女性を焼き殺したのか?それとも――。

 

 

 

純文学とミステリと
中村文則さんは近年注目を集めている作家さんですね。芸人さんなどのオススメでメディアに紹介されたりしたのが大きいと思いますが。映像化も今後ドンドンされていきそうな気配を感じます。
私は中村さんの本を読むのはコレが初です。映画のCMを観て気になり、本屋で原作本を発見。薄くてすぐ読めそうだと思い購入して読んでみました。
今まで気になりつつも中村さんの本を読んだことが無かったのは“純文学作家”のイメージが強かったのが理由に挙げられると思います。普段は大衆娯楽小説を中心に読んでいるので、純文学は少し避けてしまうところがあるんですね。たまには読むし、別に毛嫌いしている訳じゃないのですが。
映画のCMを観る限り、かなりミステリ色が強そうな内容だったので「ミステリも書かれているのなら読んでみよう」と手に取ってみた次第です。

お話の内容としては、純文学とミステリが混ざった感じですね。重きを置かれているのはミステリの方という印象が強いです。“狂気”を描こうとしている部分が純文学的・・・なのかな?あと、性描写が露骨に出て来るところも純文学っぽい(←偏見)

序盤はカポーティ『冷血』と、

 

 

 

芥川龍之介地獄変

 

 

 

の要素(?)が取り入れられた内容になっています。

 

 

 

 


原作と映画との設定の違い
映画は観られてないですが、公式サイトなどからわかる原作との違いを少し。

映画のキャストは以下の通り
耶雲恭介(記者)―岩田剛典
木原坂雄大(殺人事件の容疑者)―斎藤工
松田百合子(耶雲の婚約者)―山本美月
小林良樹(編集者)―北村一輝
木原坂朱里(雄大の姉)―浅見れいな
吉岡亜希子(被害者)―土村芳

 

原作には登場人物達の容姿の説明がほぼ無いので、役と合わないとかそういった文句は浮かびようが無い(少なくとも私は)


まずもって言いたいのは、殺人事件の被告の木原坂雄大と、その姉の朱里以外は上記の名前の登場人物は小説では登場しません。映画で主役とされている耶雲恭介は、原作の“ライターの「僕」”にあたるのでしょうが、如何せん原作では「僕」のままで、最後まで名前は明かされませんし、他の人達も明記されていなかったり、上の名前と下の名前が違ったりします。

 

名前だけではなく、人間関係や状況設定も原作とはだいぶ異なる点があります。


まず、原作では二件の殺人事件の被告・木原原雄大高等裁判所への控訴前で現在は拘置所にいる設定なのですが、映画だと執行猶予がついて釈放されたという設定みたいです。容疑がかかっている事件も二件ではなく一件。


耶雲の婚約者に「松田百合子」とありますが、原作にはそのような婚約者はいませんね。(雪絵という女が名前だけ出てきますが・・・)原作には「小林百合子」という女性が登場しますが、これは二番目の被害者の名前ですね。ライターの「僕」とはまったく何の関係も無い女性です。ちなみに一番目の被害者の名前は「吉本亜希子」。

 

映画だと「松田百合子」を巡って耶雲恭介と木原坂雄大がワチャワチャするみたいですが(それが中心?)、上記の通り設定が異なるので、原作ではもちろんそんな場面は無いです。

映画はかなり大胆にお話の構成が作り替えられているみたいですね。原作のトリックがトリックなので、映像化するにはこれくらい替える必要があるんだと思います。CMや公式サイトを観る限り、“観客を騙したい”という作りになっているみたいなので、映画もやっぱりサスペンス・ミステリを前面に出しているんだと思われます。

 

 

 

混ざった結果
この『去年の冬、きみと別れ』は200ページもない小説ですぐ読み切れちゃいますが、薄い割には読むと頭が疲れる。

それというのも、最初の段階からだいぶ思わせぶりな文章が続くので、私はかなり警戒しながら読んでしまいました。
まぁそこら辺は叙述ミステリでは一般的なことなので良いのですが、この作品の場合は各視点の文章雰囲気の書き分けが特にされていなかったり、登場人物達が意味深な変態発言をしたり、展開が急だったりで、読んでいて混乱するんですね。
再読してもこんがらがったままで、何だかモヤモヤが解消されないところも。私の読解力が乏しいせいなんでしょうけど(^^;)、叙述ミステリは“真相のわかりやすさ”が重要だと(私は)思うので・・・まぁバカでもわかるように書いてくれという愚痴です。

 

と、こんな風に感じてしまうのも私が大衆娯楽小説ばっかり読んでいる人間だからだと思いますが。

 

純文学では起承転結とか、明確なオチとか、お話を理路整然とさせる必要はないし、いわゆる“やりっ放し”もOKなんですが、ミステリで求められるのはこれら要素とは真逆で、全ての伏線が綺麗に回収されるわかりやすいオチなので。


ミステリ目当てで読んでいた人には、伏線回収の甘さや終盤の説明的すぎる独白は何だかしらけちゃうだろうし、反対に、純文学を期待していた人には登場人物達の内面描写はもっと深く書いて欲しいなど、物足りなく感じてしまうところがあると思います。

 

私は会話部分の雰囲気とか独特のザワザワ感があって何か良いなと思いました。特に『姉』とのやり取りが。「いやぁ、怖い女だなぁ」と。
木原坂雄大はミステリアスな雰囲気が終盤、真相が明かされるぐらいになると小者感が漂ってしまってチト残念に感じてしまいましたね。ライターの「僕」は色々人物背景がありそうな癖にほとんど描かれていないのはやっぱり不満。「K2」について詳しく説明しろ~!
個人的には、諸々、もっとページ数あったほうが良かったんじゃないかって意見です。

 

上手く混ざっていると感じるか、どっちつかずになってしまっていると感じるか、人によって意見が分かれるかと思いますね。

 

 

 

 

 

 

 

以下がっつりとネタバレ。未読の方は要注意。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


イニシャル・献辞
文庫版の『文庫解説にかえて』で作者の中村文則さんも書かれていますが、お話の最後の文

「・・・・・・全く同じ本を、片方には増悪の表れとして、そして片方には愛情の表れとして・・・・・・。M・Mへ、そしてJ・Iに捧ぐ」

これの意味がわからない。M・MとJ・Iは誰だと疑問をもつ読者が多いみたいです。

 

この『去年の冬、きみと別れ』は、お話の内容を簡単に要約すると・・・
「吉本亜希子」の元交際相手である「編集者」が、彼女を死に追いやった木原坂兄弟に復讐するべく、偽物を用意して「小林百合子」として「朱里」を殺害、「雄大」にその罪をなすりつける――と、いう計画と実行の記録を“「編集者」がつくる本が好きだった”と言っていた「吉本亜希子」に捧げるべく、そして死刑になる「雄大」に真相を知らせて復讐を完結させるため、ライターの「僕」を利用して『小説』をつくった。


つまり、読者が読まされていたこの本『去年の冬、きみと別れ』が「編集者」がつくったその本でしたというのがお話のオチなのです。
なので、本の最初にあった献辞


M・Mへ
そしてJ・Iに捧ぐ


の、M・Mは木原坂雄大、J・Iは吉本亜希子のことを示しています。


「オイオイ、それじゃあイニシャルと合わないじゃないか」と疑問に思うでしょうが、作中で「編集者」は

「・・・・・・だから、物語の最初のページには、彼らの名前を書くことになる。外国の小説のように。・・・・・・でも日本人には気恥ずかしいから、アルファベットにしよう。これは『小説』だから本文では仮名を用いたけど、そこには彼らの本名を。・・・・・・まずはあの死刑になるカメラマンへ、そして大切なきみに」

と、言っています。


「木原坂雄大」「吉本亜希子」は『小説』で用いている仮名で、「M・M」「J・I」は彼らの本名のイニシャル
なので、『小説』内の名前と献辞のイニシャルが合わないのは当然で、「M・M」「J・I」のイニシャルをもつ人物を探しても『小説』内にはいるはずがありません。

 

『文庫版解説にかえて』では、“献辞までこういうやり方で仕掛けに使ったものはこれまでになかったので読んだ人が混乱したのでは”と書かれています。しかし、混乱の原因はそれだけじゃなく、読者的には
“イニシャルを出されるとイニシャルに該当する人物を探したくなってしまう”
“最後にこれ見よがしに書くのだから、作中にイニシャルに該当する人物への伏線があったに違いない”
と、いう心理が働いてしまうのでは・・・と、個人的には思います。

 

まぁ単純に、本名が明かされないままでモヤモヤするってのもあると思いますが(^_^;)

 

 

 


このように、この本のストーリーやトリックは小説ならではのものなので、映画ではどのように映像化しているのか大変気になりますね。個人的には色々こねくり回すにしても『去年の冬、きみと別れ』のタイトルの意味は原作通りであって欲しいなぁ~と。このタイトル、なんか綺麗で良いですよね。

 

 

映画観に行けたらまた記事書こうと思います(行けるかどうかまだわからない・・・^^;)

 ※映画、観てきました~。記事はこちら↓

 

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ではではまた~

 

鉄鼠の檻 ネタバレ あらすじ・感想

こんばんは、紫栞です。
今回は京極夏彦さんの鉄鼠の檻をご紹介。

文庫版 鉄鼠の檻 (講談社文庫)

百鬼夜行シリーズ】四作目です。

 

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最近、愛蔵版が刊行されましたね~。

通常書籍には使用しない印刷技術を駆使した永久保存版!京極さんの謹製・厄除け札、中禅寺秋彦が神主を務める「武蔵晴明社」の厄除け札、小説の舞台「明慧寺」の鼠除け札の二枚が挟み込まれていますっ!↓

 

鉄鼠の檻

鉄鼠の檻

 

 

たけぇぇぇぇ(笑)
そして、只今「三社横断 京極夏彦新刊祭」開催中。この『鉄鼠の檻 愛蔵版』と、新潮社の『ヒトごろし』

 

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角川の『虚談』

 

 

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の各単行本の帯についているパスワードを全て集めると、2018年11月30日までの期間限定サイトで百鬼夜行シリーズ】の書き下ろし新作短編が読めます。しかもその短編作品の内容は『ヒトごろし』『虚談』の二作品ともリンクする内容なんだとか・・・何それ?読みたすぎ!
私は既に『ヒトごろし』と『虚談』の二作は購入済みなのですが・・・『鉄鼠の檻』は講談社ノベルス版と文庫版と持っているからなぁ・・・あ~・・・悩んでおります(>_<)おのれ出版社め・・・!

※2019年4月に書籍化されました!詳しくはこちら↓

 

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あらすじ
「拙僧が殺めたのだ」
箱根の山道。盲目の按摩師・尾島佑平は獣道を慎重に歩いていたところ、行く手に何か遮るものがあるのに気がついた。どうも人が蹲っているようだと思った矢先、「それは、拙僧が殺した屍体だ――」と、告げる声が。尾島は盲目の己をからかっているのだと思うのだが、謎の僧侶はしつこく言いつのる。畏くなった尾島は慌ててその場から逃げ出し、駐在警官をともなって戻ってみたのだが、その場には何もなくなり、僧侶も姿を消していた。

その後、箱根・浅間山中の古旅館「仙石楼」の中庭に座禅を組んだ僧侶の屍体が突如出現する。密室状況ともいえる「仙石楼」の中庭。はたして屍体はどこからやって来たものか。古物商の今川雅澄、元医師の久遠寺嘉親、「明慧寺」の取材のため訪れていた中禅寺敦子と鳥口守彦らは容疑者として警察に拘束されてしまう。

同じ頃、京極堂店主の中禅寺秋彦と作家の関口巽は、細君らとともに、山中で土砂に埋もれて発見された土蔵の中の古書鑑定のために箱根湯本に訪れていた。
関口は湯本の旅館で、殺人を犯した僧侶と遭遇したという尾島の話を聞き、さらに“成長しない迷子”の怪異譚を耳にして――。

忽然と出現した僧侶の屍、山中駆ける振り袖の童女、埋没した経蔵、次々と殺害される僧侶達――これら箱根に起きる数々の怪異は、世俗と隔絶した古寺「明慧寺」へと繋がっていく。
京極堂は「明慧寺」に張られた“結界”を消失させることが出来るのか?

「勝ち負けで云えば僕は最初から負けている」

 

 

 


「クローズド・サークル」と「見立て殺人」
今作は箱根が舞台。箱根でのみのストーリー展開となります。
旅行だっ!ってことでテンションが上がる・・・のは私だけかも知れませんが(^^;)

百鬼夜行シリーズでは京極堂の座敷で話しが展開されていくパターンが主なので新鮮。「旅行に行かないかね」とか中禅寺に言われると「行く行く~」と、答えたくなる(笑)


箱根での事件なので木場が登場しないのが残念で寂しいところですが。


お話は箱根にある古旅館「仙石楼」と、謎の寺「明慧寺」での場面が主になります。登場人物達もこの2箇所を行ったり来たり。
“閉ざされた舞台”“見立て殺人”が起こるという内容なので、見方によってはミステリ的にオーソドックスな仕様。ですが、そこは百鬼夜行シリーズなので、やっぱり通常のクローズド・サークルものとは一味も二味も違います。京極さんの手に掛かるとド定番ミステリもこのようになるのだなぁと感心。

 

 


登場人物
今作で登場するシリーズお馴染みキャラクター達は以下の通り
中禅寺秋彦(京極堂)
榎木津礼二郎
関口巽
●中禅寺敦子
●鳥口守彦
●今川雅澄(待古庵)
●益田龍一

今川と益田が今作で初登場(益田は実は『魍魎の匣』のときに捜査員の中にいたようですが)。これで百鬼夜行シリーズの主要キャラクターはほぼ出揃った感があります。


今川は伊佐間と同様、戦時中は榎木津の部下だった男。台詞の語尾に「なのです」がつくのが特徴なのですが、この口調が読んでいると何だか面白いというかカワイイ。榎木津はいつも今川のことを「マチコ」と呼びます。これも何だかカワイイ(笑)


益田はこのときまだ刑事さんです。お調子者の気安い刑事って感じですね。益田はこの事件をきっかけに、ある意味大きく道を踏み外すことになるんですが(^^;)それはシリーズ読み進めてのお楽しみで。
この時点で鳥口とは大分気が合いそうですね。↓
「益田君。そう云うことを軽々しく民間人の前で口にするのは問題だよ。人権侵害だ。捜査上の秘密厳守は警官の原則でしょう」
京極堂はいつもの調子で云ったのだが、益田はきつく叱られたと思ったらしい。
「も、申し訳ない。ど、どうも口が軽い」
「解ります」
鳥口が大きく頷いた。

 

鉄鼠の檻』はシリーズ第一作目の姑獲鳥の夏の後日譚との位置づけも出来ます。

 

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姑獲鳥の夏』は久遠寺医院が舞台のお話ですが、そこの院長だった老医師の久遠寺嘉親が『鉄鼠の檻』で再登場します。久遠寺家の人々は箱根での定宿を「仙石楼」としており(ここの部分の説明もちゃんと『姑獲鳥の夏』で書かれていますよ~)、姑獲鳥の事件で家族を全て失った久遠寺翁は家を引き払い、前の年の暮れから「仙石楼」に逗留中なのです。
この久遠寺翁、『姑獲鳥の夏』ではほんのチョイ役での登場だったのですが、今作ではガッツリと登場。良い味出している勇ましいお爺さんです。
久遠寺翁がいることで、姑獲鳥の事件を想起して関口が悶々としたりします。(四作目ともなると関口の苦悶にも慣れっこになってきますけど^^;)
実は久遠寺翁だけでなく、今作では姑獲鳥での重要人物がもう一人登場。ここら辺は是非読んでお確かめ頂きたい。
いずれにせよ、『姑獲鳥の夏』を先に読んだ方が『鉄鼠の檻』を楽しめるのは間違い無いです。まぁどんなシリーズものも刊行順に読むのが良いのは当然ですけどね。

 

 


以下がっつりとネタバレ~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


お坊さんだらけ
作中、榎木津が
「どうにも坊主が多過ぎるなあ。区別がつかない。坊主が坊主を上手に殺したなんて――僕の趣味じゃないんだがな」
と、云っているように、『鉄鼠の檻』はとにかくお坊さんだらけ。被害者がお坊さんなら犯人もお坊さん。

百鬼夜行シリーズは宗教を扱っているお話が多いシリーズですが、その中でも今作は宗教色がかなり強め。ミステリ小説というよりは“禅の思想”をモチーフにした小説という印象です。そのせいか、『鉄鼠の檻』は前作までの三作を凌駕する分厚さですが“憑き物落とし”にあたる真相部分は他作品よりページ数は少なめです。
いつものウンチクも「禅」と「悟り」についてが中心で、読むととにかく禅宗に詳しくなれますぞい。結構、仏教に対して思い違いしているなぁって気付かされるところが多くって、読んでいると「へ~」の連続ですね。

 

「禅」は他宗教と違い“言葉”を否定する宗教。言葉を操り蠱物を繰り出す陰陽師である京極堂には、“今度ばかりは勝てる訳がない”
しかし、僧侶殺害が相次ぐ中でも「明慧寺」の僧侶達は“檻”に囚われているかのように山から降りようとしない。いつも以上に腰が重かった京極堂も状況を見かねてやっとこさ、動きだす。
憑き物落としの黒装束に着替えて関口に云います。


「行くよ。結界に結界張るようなややこしいことはやはりいけないんだ」
「勝算はあるのか!」
「勝ち負けで云えば僕は最初から負けている」


と言い放ち、明慧寺の扉を開けて京極堂による“結界破り”が開始されます。


ここら辺のやり取りはまるでアクションものみたいで何だかワクワクしますね~。この後のやり取り、関口の「馬鹿云うな。君ひとりに行かせるか――」や、榎木津の「京極だけじゃあ荷が重かろうと思ってね。わざわざ待っていてやったのだ――有り難く思え」など、普段はあまり表立っては出て来ない友情が感じられて良い。


特に榎さんは他にも色々友達思いなところが。珍しく謎解き披露したり、説教したり、迷える人々に影響をあたえてたりだので、今作ではかなりの大活躍ですよ~(^o^)


あと、京極堂の妹・敦子の意外な悩みも少し触れられています。敦子って「ちょっと優等生過ぎる気が・・・」と、第一作から思っていたのですが、まさかそれが本人の悩みだとは・・・。思った以上にお兄さんの存在が大きいんだなぁ~と。ちょっと驚き。

しかし、ここでの一番の驚きは京極堂が旅先に憑き物落としの黒装束持ってきていたことだったりする(笑)

 

 


振り袖娘・鈴子
鉄鼠の檻』は上記のようにお坊さんだらけだし、犯行も滑稽さが漂って猟奇的なものではないしで、百鬼夜行シリーズ独特の耽美で妖しい雰囲気は薄めですが、“成長しない迷子”こと、振り袖の童女の存在は何とも百鬼夜行シリーズらしいです。
この山中で突如出現する謎の振り袖娘、「明慧寺」で面倒をみている少女・鈴らしいと解るんですけど、土地の人が云うには13年前にもまったく同じ姿で目撃されている。
で、話が進むにつれ、この鈴は13年前に火事で行方不明になった少女・“鈴子”が産んだ子ではないかといった流れになる。
しかし、実は「成長しない迷子」はその名の通り、成長していない鈴子そのもの。
ストレスなどで成長が止まってしまうというのは実際にある現象みたいですね。金田一少年でも金田一少年の決死行』でこの現象を扱っていますね↓

 

 

 

いやぁ、ここの真相が解る部分、怖いです!当事者の状況を考えるとかなり。「う、うわああああ」と叫び声を上げるのも納得・・・と、いうか私も一緒に悲鳴上げちゃうよって感じ(^^;)

 

 

 

慈行
美形の僧侶、「和田慈行」ですが、終盤に関口が

「そうだ。なあ京極堂、和田慈行は――何で嘘を吐いたんだろうな」
「嘘?」
「夜坐していたのが常信さんかどうか判らなかったとか云ったんだろう。本当は必ず判る筈なのに」
「ああ」
京極堂は連れない声を出した。
「あの人――慈行さんにはきっと本当に判らなかったんだよ。あの人は――」
そしてそこで黙った。

と、まぁこんな具合にぼかされている。


ううむ。榎木津の慈行に対する「あの坊主は何も中身がない」「お前みたいな空っぽ」「子供の癖に」などなどの発言と、京極堂「あんたは禅など学んでいない。修行などしていない。禅の言葉を学び禅の戒律を修しただけだ。伝えられた心がないんだ!誰からも心は伝わらなかったか!」との発言から考えるに、“カタチだけ”の慈行には判る・判らないとかそういったこと自体が“無かった”というか・・・う~ん。いずれにしろキチンとした説明は出来ないですねぇ。


終盤、慈行は自ら「拙僧は中身なき伽籃堂。ならば拙僧は結界自体なり!」と云っています。
結界自体だった慈行は、京極堂の“結界破り”によって崩れてしまい、とち狂って「明慧寺」に火を放ち全てを消そうとするのでした。

 

 


犯人
この長編小説は「拙僧が殺めたのだ」の一言から始まります。
「え?お坊さんが殺人?」と、思いますが、後に続く事件ではお坊さんばかりが殺されていく。お坊さん同士で何をやっているんだ?って感じですが、最後に解る真相もお坊さんだからこそといったものです。
京極堂は犯人が盲目の尾島に語った「所詮漸修で悟入するは難儀なことなのだ」の一言からだけで犯人を見抜きます。犯人はこれを聞いて「見事。見事な領解である!」と感心するんですが、この“見事な領解”も、犯人の犯行理由も、真相部分より前にある膨大な「禅」と「悟り」についてのウンチクがなければ読者は飲み込むことが出来ません。

もともと「禅」は言葉を否定する宗教。『鉄鼠の檻』が前の三作品を上回るページ数なのも、本来言葉では語れない「禅」を読者にわかりやすく提示する為。無駄に長い訳じゃないんだよと(←ここ重要)


と、いう訳で、大まかな部分は真相部分より前にほぼ説明されているので、犯人の告白もこれ以上無い程アッサリとしたものです。
「あんた犯人か!」と、聞かれて、
「はいはい。左様にございます」
と、すぐに認めちゃいます。ちょっと笑っちゃうぐらいのやり取りですね。

 

 


鉄鼠の檻』はシリーズの他作品に比べると一気読みするというよりは“連ドラ”的に楽しむって要素が強いと思います(一気読み出来るならそれに越したことは無いですけどね~)長いですが、キャラクター達のやり取りや「禅」について勉強しつつ、楽しみながら読んで欲しいです。繰り返し再読するのもオススメ。

 

※漫画や電子書籍もあります↓

 

 

 

 

 

ではではまた~

『犯人たちの事件簿』2巻 金田一少年の事件簿外伝 感想・紹介

こんばんは、紫栞です。
今回は【金田一少年の事件簿】のスピンオフ作品金田一少年の事件簿外伝 犯人達の事件簿(2)』のご紹介。

金田一少年の事件簿外伝 犯人たちの事件簿(2) (週刊少年マガジンコミックス)


前作に引き続きの2巻目ですね~。

 

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前作同様、こちらのスピンオフ作品の概要
“これは――・・ジッチャンの名にかけて謎をすべて解く男・・・金田一一少年と戦った犯人たちの物語である!!”
と、いうギャグ漫画。

1巻目はKC1巻のパロディ表紙絵でしたが、今回は4巻のパロディ。

金田一少年の事件簿 (4) (講談社コミックス (1941巻))


収録されているのは
「雪夜叉伝説殺人事件」

 

 

「タロット山荘殺人事件」

 

 

「悲恋湖伝説殺人事件」

 

 

の三つ。最後に「外伝煩悩シアター」のミニ漫画が4ページ入っています。今回ももちろん本編漫画とあわせて読んだ方が何倍も楽しめますよ~。

 

以下ネタバレ~(を、気にするような漫画ではないですが)

 

 

 

 

 

 


ファイル4『雪夜叉伝説殺人事件』
犯人・綾辻真理菜
雪夜叉といえば氷橋(すがばし)、氷橋といえば雪夜叉。って感じですが。はいはい、やっぱり大変ですよね、女性一人で氷橋造りは・・・。私も本編最初に読んだときは「一人で造るのはちょっと無理なんじゃ・・・」と、思ったものでした。
最後の綾辻さんの「え?造ったの・・・・?」金田一に戦慄するのは凄く納得。ここまでされちゃあそりゃ自白するわ(笑)
雪夜叉伝説殺人事件は本編だと三作目の事件で明智警視が初登場のお話。初登場時は今の姿からは想像出来ないほどの推理ミス、連発していましたね。よくここから大人気キャラに発展出来たもんだ・・・。
あと、皆でアイドルの盗撮動画観るの相当ヘンな状況だよね。これも本編読んだとき「誰かツッコまないのか」と、思ったものでした。しかし、玲香ちゃん、36キロって・・・。絵柄からは想像出来ない細さ。なんてこった(笑)

 

 

ファイル5『タロット山荘殺人事件』
犯人・小城拓也
“ヤな感じ”の犯人ではかなり上位にくる東大出の高学歴犯人・小城さん。犯行中も“東大出”をやたらひけらかしてくる。
タロット山荘殺人事件はメイントリックがシリーズ内ではかなり地味な部類。まぁシンプルなトリックほどミステリとしては優秀なんですが。美雪の人の良さに全てが掛かっているのがチト難点。美雪、マジ天使(笑)
トリックよりも、見立のために風車山の風車に死体をくくりつけるのが一番の重労働のこの事件。コレもですね、はい、本編読んだときに「くくりつけるには何らかのトリックが必要でしょ・・・」とか思ったものでしたね(^^;)
金田一を殺そうとする訳ですが、金田一
「分解したヘッドホンステレオとポケットの中のゴミで種火を燃やしアクリルでできたセーターに火をつけ凍っていた風車を溶かす・・・・そして動いたリフトで帰ってきた」
知恵がすっごい(笑)こんな奴、絶対に殺せる気がしないな。

 

 

ファイル6『悲恋湖伝説殺人事件』
犯人・遠野英治
船の乗客でS・Kのイニシャルの者の中に標的がいるんだけど、それ以上絞り込めないからS・Kのイニシャル全員殺害しようとする、とんでもない犯行計画が印象深い悲恋湖伝説殺人事件。
トリックに必要な偽ニュースを録音するためにアナ学通ったり、遠隔で火をつけるリモコン造りを一から学んだり・・・そんな努力をするくらいなら標的を絞り込む努力をしろ。
ここまでの準備をしたのに橘川のかわりに金田一が来ちゃうってのは遠野的にはホント「何してくれてんだ・・!!」ですね(笑)これは焦る。
“トリックは準備で決まる・・・・これは真理・・・・!!”というのが妙に的を射る感じでツボ。
“トリックの神に愛されてる・・・・?”で天樹さんが出て来るところが凄く笑えました。
それにしても遠野、今思い返してみるとかなりの演技派でしたね・・・。

 

 

今回も、金田一少年の事件簿ファンのかゆいところに手が届く感じのギャグで大変楽しく読ませて頂きました。面白かったです(^o^)

次巻は2018年夏ごろ発売で金田一少年の殺人」をやるみたいです。マガジンポケットで連載中ですが、なんでも2月14日発売の週刊少年マガジンより短期出張連載されているんだそうな。
金田一少年の殺人」はシリーズ屈指の人気エピソード。『犯人達の事件簿』ではどのように描かれるのか・・・期待が高まりますね!

※3巻の詳細はこちら↓

 

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ではではまた~

 

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『金田一くんの冒険1 からす島の怪事件』 感想 17年ぶりの小説版!

こんばんは、紫栞です。
今回は『金田一くんの冒険1 からす島の怪事件』をご紹介。

金田一くんの冒険 1 からす島の怪事件 (講談社青い鳥文庫)

ご存知【金田一少年の事件簿】シリーズの番外編(?)と言えばいいのかしら。講談社 青い鳥文庫からの刊行で、金田一達が小学六年生のときの冒険を描いています。ノベルス(小説)。
前に金田一少年の事件簿のノベルスについてまとめた際、

 

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今後、天樹さんが金田一少年のノベルスを書いてくれることはあるだろうか的なことを呟きましたが・・・書いてくれました!なんと17年ぶりっ!うおお。

 

しかして、ガチガチ本格ミステリ路線で大人向けだった今までのノベルスとは違い、青い鳥文庫からの刊行ってことで雰囲気は大分違うんですが。

 

金田一少年の事件簿と言えば、新シリーズがイブニングで連載開始されましたね。金田一37歳の事件簿】とな。

 

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まさか20も歳とるとは思わなかったので驚き。またはじめちゃんより年下になれる日が来ようとは・・・。
同時期に“中年の金田一”と、“小学生の金田一”が楽しめる展開なのですね。小学生、高校生、中年・・・なんだか壮大な大河推理シリーズですね(笑)

 

 

(一応の)あらすじ
七瀬美雪は不動小学校の6年生。幼馴染みで家が隣同士の金田一一と共に、学校の放課後クラブ活動『冒険クラブ』に所属している。
夏休み、『冒険クラブ』のメンバーは金銀財宝が眠るという「烏島」に行くことに。この島には恐ろしい人くい妖怪「島婆」の伝説が伝えられていた。そして、財宝の調査を開始した美雪達の前にその「島婆」が現れて――。

 

 

 


このお話の語りは美雪です。小学6年生なので語り口は幼い。しかし、はじめちゃんは何だか全然変わらない。言動が高校生のときと大差ないと感じます。男子はそんなものだろうか(笑)
村上草太も『冒険クラブ』のメンバーで登場していますよ~。

はじめちゃんがいつも通りの言動なのもあって、読んでいると殺人事件が起きるのを期待してしまうんですが・・・青い鳥文庫なので血みどろの殺人は起きません(^^;)

 

私は青い鳥文庫を買って読むのはコレが初なのですが、やはり総ルビで漢字が少ない。平仮名ばかりなのが逆に読みづらいと感じますが、お話はコンパクトでサックと読み切れます。

さとうさんの挿絵も結構入っていますね。

どうでもいいことですが、お話に登場する高瀬という大学の先生は50歳ぐらいとのことですが、絵は大分若く見える。大学の“先生”ではなく、大学の“生徒”のようだ・・・。


事件のモチーフは姥捨て山伝説と鬼ヶ島伝説を混ぜたようなものですね。リゾート開発云々の話はすんなりと解決しすぎて「いやいや、大人の世界はそんな簡単なもんじゃない」とか言いたくなってしまいますが、まぁ小学中級からの本なのでそこら辺は御愛敬。
血みどろの殺人事件は起きずとも、謎解きはちゃんとあるので金田一シリーズだわ~」感は満喫出来ます。

 

個人的には天樹さんのあとがきが読みたかったのですが、残念ながら無いです。
だって17年ぶりのノベルスですよ?「帰ってきました!」的な御言葉を頂きたいじゃないですか(-_-)
この『金田一くんの冒険』は“1”とついているし、続刊が予定されているみたいですが、今後あとがきが書かれることはあるんだろうか・・・う~ん。望み薄ですかね(^_^;)

 

しかし、17年ぶりのノベルス。読めて嬉しかったです。ありがとうございます天樹さん~。今後とも期待しております(^^)

 

 

ではではまた~

 

 

 

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狂骨の夢 ネタバレ あらすじ・感想

こんばんは、紫栞です。
今回は京極夏彦さんの狂骨の夢を紹介したいと思います。

 

文庫版 狂骨の夢 (講談社文庫)

 

百鬼夜行シリーズの第三作目ですね。

 

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あらすじ
「妾は人を殺したことがあるんでございますよ」

釣り堀屋の主人・伊佐間一成は逗子の海岸で朱美という女と出会う。風邪を引き、熱で朦朧としている伊佐間を介抱しつつ、朱美は自信の半生を語り出す。そして伊佐間に「妾は人を殺したことがある」と、告げるのだが――。

一方、元精神神経科の医師で、現在は逗子にあるキリスト教会に寄宿している降旗弘とその教会の牧師・白丘亮一もまた、朱美という女から、死んでいるはずの前夫・伸義が自分の前に何度も訪れ、その度に自分は伸義を絞め殺し、首を切っているという話を告白される。

彼女は大物作家・宇田川崇の妻だった。関口巽は宇田川から記憶喪失の妻の言動についての相談を受ける。「死人が何度も蘇る」といった妄想としか思えぬ内容だが、ただの妄想とは断言出来ぬ事柄が多々あった。宇田川は探偵の榎木津に調査を依頼したいので紹介してくれと関口に頼むのだが、後日、事態は思わぬ展開に。
さらに“海に漂う金色髑髏”“山中での集団自決”と、怪事件が続発して――。

夢と骨と首にまみれた怪事件の数々は、どのように繋がるのか。京極堂は関係者の「憑き物」を落とせるのか。

「今回は高いぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

(本の厚さが)薄い?
狂骨の夢』はシリーズ二作目の魍魎の匣と、四作目の鉄鼠の檻の巨大長編に挟まれていて、本棚に並んでいるのを見てみると(本の厚さが)薄く思えて、京極作品経験者からすると「楽勝」とか錯覚してしまったりするかも知れませんが、それはあくまで“錯覚”であり、最初の講談社ノベルス版で600ページはあるのだから普通に考えれば十分超大作なのですよ。コレを見て薄いとか感じるなら、それはもう京極作品に毒されてきている証拠ですね、きっと。
実際、私も初読のときは『魍魎の匣』読み終わった直後に『狂骨の夢』の厚さを見て「魍魎読みきれたんだからこのこれぐらい楽勝だよね」とか変な自信を持って読み始めたものの、心理学や宗教のウンチクで(と、いうか降旗に)結構苦しめられた記憶が(^^;)

とはいえ、今回久しぶりに再読してみたところ、やっぱり短いというか、コンパクトに纏まっているお話だって気が(あくまで当社比なんでしょうけど)。ウンチク部分もさほど苦にならずに読めました。私も長年京極作品を読んできて鍛えられたのかしら(笑)

 

また、『狂骨の夢』は前作における重要人物の葬儀の場面が最初の方に入るので、『魍魎の匣』の後日談とも位置づけられます。

 

 

魍魎の匣(1)【電子百鬼夜行】

魍魎の匣(1)【電子百鬼夜行】

 

 

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この葬儀の部分も一見無関係に思えますが、京極堂の長話の中に今作への“仄めかし”になるヒントが語られているので要注意。

 

 

 

ミステリイズ
狂骨の夢』は、夢と現実の境界が曖昧になるような幻想小説的な印象が先に来ますが、シリーズ内ではミステリ色が強い作品でもあります。
金色髑髏事件逗子湾生首事件二子山集団自殺事件兵役忌避者猟奇事件朱美の家族が焼死した事件各地を掘り歩く謎の神主事件、これら数々の事件は全部繋がったひとつの事件であり、終盤で一気に絵解きされる京極堂の「憑き物落とし」は圧巻です。こういった面白さはミステリの醍醐味ですね。前半、京極堂の出番は極端に少ないですが、後半での存在感の強さは圧倒的(いつものことかもですが^_^;)

 

 

 

 

登場人物達
榎木津も出番は少なめですが、『狂骨の夢』では秀逸な発言をいくつも残しております。
例を挙げると、

 

「ふん。僕が引っ込んだらつまらないと云うことが後で君たちに解っても、その時は知らないぞっ」

 

「信じるんだね。出番が少ないのだから間違いやしないさ。僕を疑うなど以ての外だ!」

 

「僕も神だ」

 

などなど。榎木津の「神だ」発言はシリーズ内で度々出て来るものですが、言い出したのは『狂骨の夢』が初です(たぶん)。
あと、榎木津と木場の幼馴染み・降旗の視点、幼少期の回想で「将来はなにになりたいか」話で

レイジロウはひと言、王様になると云った。

コレ、個人的に凄くウケるんですが(笑)


降旗の語りはどこか傲慢で、ウジウジしていて、常に深刻な感じなのですが(ホント、この作品を読みづらくしている元凶はコイツだと思う)、そんな文章の中にポンッとこんな発言が入るのが凄いセンス。


榎木津と木場とのやり取りもコミカルで面白い。妙な具合の仲良し感が伝わってきます。木場は『魍魎の匣』では複雑な心境を抱えていましたが、今作では本来のスッパリした性格が気持ちよく描かれていますね。
榎木津をパシリに使って「榎さんはあれでどうして役に立つ」発言をしたり、銃を突き付けられての恫喝もまったく通用しない京極堂には改めて“凄み”を感じる(笑)
関口も今回は事件に強く関わってない分、語りがいつもより(多少)イキイキしています。地の文に所々笑える箇所がありますね。
キャラクターの特徴は勿論、シリーズ独自のシリアスとコミカルの塩梅もこの『狂骨の夢』で完全に安定・明確になった印象を受けます。

そして前作『魍魎の匣』の最後でほんの少し登場したいさま屋(伊佐間一成)が、今作から立派にシリーズの仲間入りです。いさま屋の飄々とした、つかみ所の無い感じって読んいでて癖になるんですよね~(^^)

 

 

 

加筆部分
狂骨の夢』は文庫化される際に大幅な加筆があります。その量、原稿用紙にして四百枚以上。京極さんの場合はいつも文章がページを跨がないように本の形態が変わる度に修正がされるのが常ですが、これほどの加筆は京極作品の中では異例です。

 

加筆された箇所は主に
●元精神神経科の医師・降旗の経歴
●降旗の記憶や夢について
●終盤、お話の鍵を握る“ある人物”の記憶の混同について

これらの加筆はノベルス版

 

 

が出た当初、医学博士の斎藤環さんが専門家の観点からムック本の中で指摘した部分に答える形のものらしいです。
降旗の経歴については、日本に精神分析が輸入された経緯に誤解があったための修正ですね。他、記憶や夢については「意味記憶」だの「エピソード記憶」などの点で、専門家から見ると指摘したくなる箇所を“説得”するように加筆されています。人間心理などは物理法則みたいに明確な答えがある訳ではないので、やっぱり難しいんだろうと思います。いずれも専門家じゃなければ気にならない箇所ではありますが、指摘に誠実に答え、かつ作品に反映されているといったところでしょうか。

なので、読むのなら文庫版がオススメですね。

 

 

電子書籍も↓

 

狂骨の夢(1)【電子百鬼夜行】

狂骨の夢(1)【電子百鬼夜行】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

以下がっつりとネタバレ~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

朱美
今作で何とも魅力的なのは、お話の冒頭部分でいさま屋が出会う“朱美”。
海岸での初登場部分の描写がとにかく怪しげで美しいです。

 

少し上気しているのかもしれぬ。

綺麗な顔だった。

女は伊佐間に気づくと、にんまりと笑った。

 

魔性の者だ。

 

伊佐間は直感的にそう感じた。

 

怪談話に登場する幽霊のような印象深さと、話し振りから解る気っ風の良さがいさま屋のみならず、読者を魅了します。

いさま屋が出会った“朱美”と、宇田川崇の妻である“朱美”とは別人だというのがこのお話の核心部分なのですが、この二人の“朱美”、中身は混同するように描かれている訳では無く、しっかり書き分けがされています。


“朱美”だと名乗っている人物の独白部分や、降旗視点で語られる“朱美”には、いさま屋が出会った“朱美”にあった魅力がまるで感じられず、最初から読者に「同じ人物では無いのでは?」と、漠然とした思いを抱かせる。しかし、いかんせん漠然としていて、どうして“そうなるのか”が解らない。このモヤモヤが最後、京極堂の絵解きで綺麗に明かされてスカッとします。

 

この『狂骨の夢』は最後、朱美の言動でお話が締められますが、この場面でまた心をわしづかみにされるんですよねぇ~。
この朱美ですが、『塗仏の宴』で再登場します。

 

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再登場してくれたときは個人的に凄く嬉しかったなぁ。また登場させて欲しい(^^)

 

 

 

 


立川流
狂骨の夢』を読んで何に一番驚くって、真言立川流の説明部分である。髑髏本尊の健立方法がとにかく凄まじい。作中で木場もドン引きしていましたね。


ひ――百二十回?


ですよ。

“性を中心とした忌まわしい密議と、この世のものとも思えない冒瀆的な本尊”で、「淫祠邪教」として糾弾されて江戸時代には絶えたと云われているらしいです。
作中ではこの立川流が実は絶えていなくって~・・・云々といった話で、儀式の為に女性が酷い目にあったりする。
しかし、この『狂骨の夢』では【真言立川流】に対して否定的な意見ばかりでは無く、肯定的な見解も述べています。


作中の京極堂のセリフ↓


「(略)いいですか、これ程確乎り女性を認めている宗教はない。男女揃わぬ限り悟りには至り得ないのですからね。それなのにあなた達はその悟りに至るための神聖な伴侶を単なる道具と考えましたね?誘拐したり軟禁したり、剰え麻薬を売って洗脳したり、それで悟りに至れる訳はない。世界一男女平等の教義に男性理論だけで臨むから失敗するのです。あなた達は愚か者だ。そのお陰で何人の人が死に、不幸になったと云うのです」

 

真言立川流は仏教に欠けている女性原理を大胆に導入したもの。邪教的な展開を遂げてしまったが、元は疾しいところは何もない教義。仏教に限らず、様々な宗教は大抵女性を蔑ろにしていますからね。
立派な教義の宗教活動のはずが、教義をまったく解っていない男性達のせいでただの卑しい犯罪行為に成り下がる。

女性としては読んでいて色々と考えさせられますね。

 

 

 


首を切った理由
が、解らないよね。って、話(笑)
自身のことを“朱美”だと思い込んでいた民江。先天的な脳疾患で顔の区別がつかず、家に訪れる人物を伸義の亡霊だと“ある人物”に思わされ、その度に毎回殺害してしまったのですが、何故殺害の度に首を切っていたのか、具体的な説明はありません。


関口がこの疑問について、京極堂にきいていますが


「関口君。それを尋くのは野暮天と云うものだ。まあフロイトにでも尋くんだね」


「でも君はとっくに答えを知っているさ」


と、返されて終わる・・・・・・わからーん!


いや、関口が云うようにね、解るような気もするんですけど、腑に落ちない気もするというのが正直なところ。うぅむ。フロイトに尋くしかないのか・・・。しかし、明確な答えを出すのも野暮天って気がするのでこのままで良いんですかね(^^;)

民江の犯行には他にも疑問があって、はたして普通体型の女が大の男を絞殺出来るかな?とか、遺体一人で運べるかな?とかあるんですが・・・・・・。これも野暮天ですかね。

 

 

 

間抜けな事件
狂骨の夢』の真相は実は大変馬鹿馬鹿しいというか、間抜けなモノ。

京極堂も作中でそのように述べており、事件の概要を大まかに説明するなら、“皆でフットボールのように髑髏の取り合いをしていた”ってことなのですが。


“深刻さ”と“馬鹿馬鹿しさ”が混在して描かれているのは「狂骨」という妖怪の二面性からとられているらしいですが、この“深刻さ”と“馬鹿馬鹿しさ”は登場人物の降旗白丘の抱え続けてきた悩みにもいえる事ですね。


降旗は幼少期にみた夢の〈解釈〉に半生を捧げて心理学を学んだり、フロイトにのめり込んでみたりと心血を注いできたが、実はその夢は実体験そのもの。〈解釈〉の必要などまったく無用でしたというオチ。なんか、お疲れ様でしたって感じ・・・(^^;)

 

牧師の白丘は長年、自身の〈信仰〉について小難しく苦悶していましたが・・・・・・

「信仰と云うのは――」


「信じる事です。解ることではない。彼らは信じていたのです」


闇に浮かび上がった牧師の顔は、以外にきっぱりとしていた。


「僕も信じれば良かった訳か。信じる者には約束される――それだけのことだった訳だ」

と、まぁこのように京極堂に憑き物落としされます。
悩んでいたのが馬鹿馬鹿しい程の単純な答えですね。〈信仰〉とは“理解”ではなく、“信じる事”。白丘もオツカレ!って感じですね(^^;)


二人ともこう云ってしまっては不憫ですが、深刻ぶっていたが、とんだお間抜けさんだでしたみたいな。しかし、人間は皆、単純な事で悩んでいる間抜けな生き物なのかもしれないですけどね。

 

 

 

映像化
姑獲鳥の夏

 

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魍魎の匣

 

 

と続けて実写映画化されていますので、次は『狂骨の夢』も・・・と、思ってしまいますが。
狂骨の夢』はお話の作り・メインの仕掛けが小説での表現ならではのものなので、百鬼夜行シリーズの中でもたぶん一番映像化が難しい作品です。なので、映画化は今後も望み薄かなと思われ。
が、しかし、志水アキさん作画による漫画はあります↓

 

 

 

ので、工夫次第でどうにかなる・・・かも(笑)

 

 

 


最後に
この『狂骨の夢』ですが、京極さんの別シリーズである後巷説百物語収録の短編「五位の光」との繋がりがあります。是非あわせて読む事をオススメします↓

 

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※ 他、シリーズ同士の繋がりについてはこちら↓

 

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ではではまた~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

三島由紀夫『命売ります』あらすじ・感想 ドラマとの違いなど

こんばんは、紫栞です。
今回は三島由紀夫命売りますを紹介したいと思います。

命売ります (ちくま文庫)

BS JAPANで放送中の連続ドラマ「命売ります」の原作本ですね。

 

 

あらすじ

目を覚ましたら病院だった。どうやら自殺に失敗したらしい。

羽仁男はトウキョウ・アドという会社に勤めるコピイ・ライター。それなりに才能もみとめられ、会社から相当の月給をもらって満足している、精励なまじめな社員だった。別に失恋した訳でもなく、金にもさしあたり困っていない。
いつも夕食をするスナックで夕刊を読んでいるあいだに、急に死にたくなったのだった。ピクニックへでも行こうというような感覚だった。
それから、終電車国電の中で大量の睡眠薬を呑んだのだが・・・・・・。

自殺をしそこなった羽仁男の前には、カラッポな、自由な世界がひらけた。
トウキョウ・アドには辞表を出し、退職金を沢山もらって、新聞の求職欄に次ぎのような広告を出した。

命売ります。お好きな目的にお使い下さい。当方、二十七歳男子。秘密は一切守り、決して迷惑はおかけしません」

命を売り出した羽仁男のもとに、次々と訪れる奇妙な依頼人達。やがて事態は予期せぬ方向に。危険な目にあううちに、ふいに羽仁男は“ある念”におそわれて――。

 

 

 

三島由紀夫のエンタメ小説
命売りますとは何ともインパクトの強いタイトルですが、哲学や思想的な部分を全面に出して書かれている訳ではなく、ユーモラスで娯楽要素の強いエンターテインメント小説になっております。
私は三島由紀夫作品を読むのはこの本が初です。三島作品には勝手に純文学や政治的思想の強いイメージを持っていたのですが、このようなエンタメ小説も書いていると知って面白そうだと思い、読んでみました。(人によっては「初めて読むべき三島作品はコレじゃない」って意見もあるかも^^;)


命売ります』は1968年刊行の小説。年代的なこともあって、ちょっと読みにくいかもとか懸念していたんですが、読んでみると全然そんなことは無く。文章もストーリーも現代でも十分楽しめるものです。
最近、2015年に突如人気が出て2016年にベストセラーになるといった現象が起こった事も、この作品の現代に通用する面白さを証明していますね。今年連ドラマ化されるくらいですし。


1968年当時、『週間プレイボーイ』に連載されていたという事で、男性が喜びろうな要素が多いです。ポンポンと都合の良い美女が出てきたり、ハードボイルド調だったり。

 

 

 

 

命を買いに来る依頼人
依頼人と依頼内容は以下の通り。


老人。50歳年下の若妻・るり子が秘密組織のボスの愛人になってしまったので、羽仁男にるり子の間男になってもらい、現場を目撃されて二人そろってボスに殺されて欲しい。

図書館の女司書。得体の知れない外国人に、呑めば自殺したくなる薬の製法が載っている稀覯本を高額で売ったが、羽仁男にその薬の実験台になってもらい、再びその外国人から金を貰おうと考える。

井上薫という学生の少年。吸血鬼である母親の愛人となって、毎晩母親に血を吸わせてやって欲しい。

B国と対立するA国大使のスパイ。B国大使館に潜入して毒の塗られた人参ステックの中から暗号解読に必要な人参を見つけてもらいたい。

元大地主の娘で未婚の三十女・玲子。玲子は妄想による思い込みから、自分は将来発狂すると信じきっており、薬物に溺れる自堕落な生活をおくっていた。羽仁男に自分と恋人になって心中してくれと言い出す。

 

 

と、まぁこんな具合に一癖も二癖もあるような依頼が持ち込まれる訳ですが。
最初の二つまでは“死を恐れぬ男”としてある意味勇ましかった羽仁男ですが、三つ目の依頼・吸血鬼のお母さんに~の辺りから何だか調子が狂ってくる。依頼内容もスパイだの暗号解読だの、きな臭いことに・・・。後半は予測が出来ないストーリー展開となっていきます。

 

 


ドラマとの違い
1968年の小説ですが、ドラマは現代が舞台なので設定は現代風に直されています。長編小説とはいえ、300ページに満たないお話で、連ドラとしてそのままやるにはボリューム不足ですから、お話は膨らましてありますね。まだ二話目まで観ただけですが、各依頼人達の背景や描写が深くなっている感じです。


官能ドラマ風味の仕立てになっているらしいので、毎回女優さんがゲストで登場して、色っぽいシーンを演じてくれるパターンなのでしょうか。


今のところ、主要キャストは主役の山田羽仁男(中村蒼)、喫茶店のマスター・京子(YOU)、その喫茶店の常連客・宮本(田口浩正)の三人のみですかね。井上薫(前田旺志郎)少年も今後レギュラー入りするのかな?


喫茶店の二人はドラマオリジナル。なんか、良い味出していますね(笑)


第二話が吸血鬼お母さんのお話で、原作の女司書さんのお話が飛ばされていたのですが・・・(原作でも、女司書さんのお話は結末が唐突過ぎて読んでて疑問でしたが)。今後やるのか、飛ばしたままなのか微妙なところ。第三話は「天使過ぎる女医の医療ミスで死んでくれ」という依頼内容らしく、コレは原作には無いエピソードなので、ドラマの完全オリジナルですね。
原作で後半のストーリー展開に大いに関係してくる胡散臭い秘密組織ACS(アジア・コンフィデンシャル・サーヴィス)の話題もドラマでは出て来ないので、ドラマは結構オリジナル色が強くなるかも知れません。


美輪明宏さんのナレーションや人間椅子によるオープニングなどが印象強くて良い感じ。低予算ながらもこだわりのあるドラマ作りをする傾向があるテレ東系(注:個人的なイメージです)なので、オリジナル要素が入ってもドラマとしてちゃんと良作にしてくれるのではないかと思います。

 

※ドラマ全体を観終わっての感想はこちら↓

 

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以下ネタバレ~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

お話は前半、死を恐れぬ男・羽仁男の、言うなれば“究極の世捨て人”としての強みが描かれています。生き物にとっての最大級の恐怖、“死の恐怖”を克服している(ようにみえる)羽仁男に対し、依頼人達は畏怖の念を抱く訳です。
しかし、お話が進むにつれて羽仁男の心境は変わっていき、終盤はハッキリと“死の恐怖”を感じるようになる。


そもそも、羽仁男が最初に自殺を決意したきっかけは、夕刊を読もうとしたら活字がみんなゴキブリに見えたからという、解るような解らないような理由が発端。勿論、背景には判で捺したような怠惰な日常への嫌気があるのですが。仕事の能力が高く、女に困る事も無い、世間的には順風満帆な羽仁男だからこそ、日常がつまらないものに思えてしまう。贅沢な話ですけどね。
平凡な日常の中では自分の命を軽んじる事が出来た羽仁男ですが、秘密組織に追われるような非日常の中では強く死を恐怖する。

 

以下は最後の羽仁男と警察官との会話


「あなたは人間はみんな住所を持ち、家庭を持ち、妻子を持ち、職業を持たなければいけないと言うんですか」


「俺が言うんじゃない。世間が言うのさ」


「そうでない人間は人間の屑ですか」


「ああ、屑だろうな。一人ぼっちでヘンな妄想を起こして、警察へ駆け込んで、被害を訴える。そんな男はめずらしくないさ。君一人だと思ったら大まちがいだよ」


「そうですか。そんなら立派な犯罪者扱いをして下さい。僕は不道徳な商売をしていたんです。命を売っていたんですよ」


「はあ、命をね。そりゃ御苦労なこった。しかし命を売るのは君の勝手だよ。別に刑法で禁じてはいないからね。犯人になるのは、命を買って悪用しようとした人間のほうだ。命を売る奴は、犯人なんかじゃない。ただの人間の屑だ。それだけだよ」

 

 

結局、羽仁男は退屈な日常に一過性のヒステリーを起こして「命売ります」と言って、アウトローな気分に浸っていただけ。最後には愚かなことをしていたと思い知らされるのでした。


原作はこのような部分で終わっていて、秘密組織だのとの決着や、羽仁男がこの後どうなったのかは書かれずじまいですが、ドラマではどのような結末になるのか気になるところですね。原作の雰囲気を損なわない最終回を期待したいです。

 

ドラマ観て気になった人にも是非読んで欲しい本ですね。

 

命売ります (ちくま文庫)

命売ります (ちくま文庫)

 

 

 

 

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 ではではまた~

『百器徒然袋シリーズ』あらすじ・ラジオ・ドラマCD・・・諸々まとめ

こんばんは、紫栞です。
このブログ『夜ふかし閑談』も今回でちょうど100記事目です。早いのか遅いのかよくわかりませんが(たぶん遅い)
記念すべき100記事目は京極夏彦さんの【百器徒然袋シリーズ】についてまとめようと思います。“百”からの安易な連想ですが。

 

文庫版 百器徒然袋 雨 (講談社文庫)

 


前説
「それじゃあ探偵を紹介しましょう」
知人・大河内の言葉に唆されて「僕」は神保町の薔薇十字探偵社に訪れた。
大河内が云うには、その“探偵”はまともな男ではない。誰が見たって奇人変人の類で、探偵と云っても調査も推理もしない。それどころか、普通の人間がやるようなことは何もしない。ただ、秘密を暴く力――他人の頭の中を覗く特技を持っていると云う。
戸惑いつつも仕事を依頼した「僕」だったが、何故か依頼人であるはずの自分も“探偵”にこき使われ、気がつけば依頼内容終了後もそれは続き・・・・・・。このまま「僕」は“探偵”の下僕一味の仲間入りをしてしまうのか!?

救いようの無い八方塞がりの状況も、ワールド・ワイドな無理難題も、判断不能な怪現象も、仕掛けられた巧妙な罠も、全てを完全に粉砕する男!
眉目秀麗、腕力最強、天下無敵の探偵・榎木津礼二郎が「下僕」を引き連れ、京極堂店主・中禅寺秋彦を引きずり出して、快刀乱麻の大暴れ!
推理無用、全ての謎を見通して、解決せずに混乱させる・・・!!
「そうだ!僕だ。お待ちかねの榎木津礼二郎だこの馬鹿者!」

 

 

 

 

 

 

 

 


【百器徒然袋シリーズ】とは
京極夏彦の【百鬼夜行シリーズ】(または京極堂シリーズ、妖怪シリーズ)

 

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 のスピンオフ小説の中編集。

百鬼夜行シリーズでの主要人物の内の一人・探偵の榎木津礼二郎が、薔薇十字探偵社に持ち込まれる様々な事件を完全粉砕していく様が描かれる。


『百器徒然袋』のタイトルは鳥山石燕の妖怪画集から取られています。身近な道具類が元となる妖怪達が描かれている画集ですね。


上記の「前説」からもわかると思いますが、本編の百鬼夜行シリーズよりもだいぶ破天荒な、ふざけた、コメディな、笑える内容になっております。公共機関では読まないことをオススメ。噴き出しちゃうんで。※私は新幹線内で読みながら終始ニヤニヤしっぱなしでした(^^;)

しかしながら、ミステリ的部分(と、いうか妖怪小説部分?)は通常の京極夏彦作品同様、しっかりしているので御安心を。

 

このシリーズで語り手を務めるのは、平凡な小市民で電機配線の図面引きである「僕」。シリーズの第一番『鳴釜』で、薔薇十字探偵社に仕事を依頼して以降、色々といいように仕掛けに利用される羽目に。そもそもこのシリーズは、語り手の「僕」が榎木津の立派な「下僕」になるまでを描いたお話――と、いう見方も出来る。

 

 

 

 

とにかく豪華
榎木津が中心のお話なので、必然的に薔薇十字探偵社の益田龍一(バカオロカ)と安和寅吉(和寅)の出番が多いです。他に京極堂こと中禅寺秋彦関口巽木場修太郎鳥口守彦青木文蔵伊佐間一成(伊佐間屋)、今川雅澄(待古庵)、中禅寺の妹・敦子・・・等々、オールキャスト揃い踏みで大変に豪華なスピンオフシリーズであります。


よくあるスピンオフものだと本編の主要人物はほんのオマケ程度しか登場しなかったり、一人以外はスピンオフのオリジナルキャラクターで占められていたりで、つられて読んでもある部分では不服だったりしますが、この【百器徒然袋シリーズ】では本編以上に主要人物達が登場してくれるので普通のスピンオフでは味わえない満足感が得られます。


特に榎木津と京極堂が全編にわたって登場してくれるのは、本編で虐げられる事に慣れているファン(本編だと主要人物のくせに二人とも出し惜しみ感ハンパないからね・・・)としては「こんなに飴ばっかりもらっちゃって良いのですか」みたいな変な気分になる(笑)
特に京極堂は本編より行動してくれるし、本編よりだいぶ楽しそうでイキイキしています。榎木津はいわずもがな。

 

 

 

 

 

“解決”ではなく、“粉砕”
榎木津が主役だと読む前に聞いたときは「え!榎木津が主役でまともに話が出来るの!?」と困惑したものでしたが、実際読んでみて当初思った通りというか、「やっぱり“まとも”じゃないな、全体的に」なのですが。
講談社ノベルス版の裏の説明に“全てを完全粉砕する”と書いてありますが、これが凄く納得。榎木津は事件を解決させている訳じゃ無いのですね。じゃあ何をするんだというと、“粉砕しているのだ”という説明が一番しっくりくる。
圧倒的な個性(榎木津)が大暴れして事態を混乱させるので、必然的に京極堂が引きずり出されて出番が多くなる。榎木津を扱えるの、京極堂だけなんでね(^_^;)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

読む順番
順番といっても『百器徒然袋―雨』『百器徒然袋―風』の二冊しか刊行されてないのですが、コレが番号じゃなく“雨”“風”なので、どっちが先だったか後だったか意外とごっちゃになる(のは私だけじゃないと思いたい)。
【雨】が先!【風】が後です!※順番通りに読むと楽しめる仕掛けがあるので間違えないよう注意して下さい。

 


一冊につき三話収録されています。

●『百器徒然袋―雨』

 

目録
●鳴釜 薔薇十字探偵の憂鬱
『塗仏の宴』の事件後に当たります。お話には後日談的要素もあり。

●瓶長 薔薇十字探偵の鬱憤
『陰魔羅鬼の瑕』の事件直後のお話。

●山颪 薔薇十字探偵の憤慨
邪魅の雫の後に当たるお話。※このお話が書かれた時は『邪魅の雫』はまだ未刊行だった為、事件についてはほのめかす程度。
鉄鼠の檻に登場した僧侶・桑田常信が出てきます。

 

 

 

●『百器徒然袋―風』

 

目録
●五徳猫 薔薇十字探偵の慨然
『絡新婦の理』で織作家のメイドだった奈美木セツと、別シリーズ『今昔続百鬼―雲』の語り手・上蓮が登場。

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●雲外鏡 薔薇十字探偵の然疑


●面霊気 薔薇十字探偵の疑惑

 

【雨】に収録されている三つの事件はそれぞれ独立したものですが、【風】収録の三つ事件には『塗仏の宴』に登場する羽田製鐵の会長兼取締役顧問・羽田隆三が関わっていて三つ併せて一つの事件ともいえる作りになっています。
さらに、【風】の最終話「面霊気」には巷説百物語シリーズ

 

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 の又市達の仕掛けを匂わせる記述が出てきます。必見!

 


人物の言動や事件の事柄が奇天烈なので、読者も途中まで気付かなかったりしますが(^^;)語り手である「僕」は、【雨】の時点ではずっと名前が伏せられた状態でお話は進行します。【雨】の最後で上の名前が、【風】の最後で下の名前が明らかになりますね。最後の最後でのフルネームの明かされ方が綺麗で上手いです。なんか、“ほっこり”するのですよ(^^)

 

 

 

 


ラジオドラマ
2006年10月から2007年3月にラジオドラマが放送されました。
主なキャスト
榎木津礼二郎佐々木蔵之介
益田龍一石井正則
「僕」田口浩正
中禅寺秋彦髙嶋政宏
関口巽上杉祥三
木場修太郎ゴルゴ松本
鳥口守彦島田敏
榎木津幹麿京極夏彦
ナレーション夏木マリ

 

榎木津のお父さん、榎木津幹麿元子爵を原作者の京極さんがやっています。


著名な俳優さんが多く使われていて豪華ですが、私は中禅寺の声が受け付けなくって早々に離脱しました(^^;)他にも「合ってないんじゃ・・・」て思うキャストは多々ありましたが・・・。個人的には音声ドラマは基本、声優さんがやった方が良いとか思ってしまうタチなので、違和感を覚えてしまうのは色々な先入観が邪魔しているのもあるのでしょうけど。

CDブックとして発売されています。

 

 

 

 

 


ドラマCD
お馴染み志水アキさん作画のコミックス

 

 

 との連動企画で2013年からドラマCD化されています。

 

 

キャスト

榎木津礼二郎小野大輔

「僕」細谷佳正

益田龍一神谷浩史

安和寅吉坂口大助

中禅寺秋彦津田健次郎


こちらはラジオドラマとはうってかわってほぼ声優起用。

アニメ『魍魎の匣

 

 

のキャストともまったく違っての総入れ替え。


アニメも、ラジオも、ドラマCDも・・・・・・ぶっちゃけ、どのキャストもいまいちピンとこない。制作の方もそう思っているのか、いつまでもキャストが安定しないですね。う~ん。思い入れが強すぎてハードル上げすぎなのかな?


こちらのドラマCDも榎木津幹麿元子爵の役は京極さんがやっています。京極さんもう出るのが当たり前っぽくなってる・・・。

 

 

ペーパーバック
デスノート』の小畑健さんとのコラボで、講談社ペーパーバックスKから二冊刊行されています。

薔薇十字探偵(1) (講談社 Mook)


一冊目は【雨】の「鳴釜」

 

爆裂薔薇十字探偵 (講談社 MOOK)

二冊目は【雨】の「瓶長」です。


中身の小説はノベルスと同じなのでお間違えなく。小畑さんの絵も表紙のみで挿絵などは無いです。
個人的に小畑さんの絵は大好きなのですが、この榎木津は綺麗だけどなんだか腹黒そうに見えるね(笑)

 


次はあるのか?
タイトルに使われている鳥山石燕の百器徒然袋は三部作なのですが、はたして京極さんの『百器徒然袋』は第三弾が出るのだろうか。今のところ不明なのですが、【風】で綺麗に終わっているから無いのではってな気が・・・。勿論、刊行されれば全力で買いますけど。まぁ、その前に『鵼の碑』だよね・・・・・・。

 

※2023年に『鵼の碑』でました!

 

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本編を知らなくとも読んで欲しい
百鬼夜行シリーズ』を読んでからの方が楽しめるのはそりゃ間違いないですが、このシリーズ単独で読んでも十分楽しめるし、笑えると思います。
私自身、「本編より好きかも知れない」と時たま思ってしまいますし。
私は最初この二冊を読み終わった後、この面白さを共有したくって、本編を読んだ事ない友達に無理矢理読ませたという過去があります(若気の至り)
職場の先輩と「五徳猫」に出てきた豪徳寺に行ったりもしましたねぇ。先輩と二人で「猫招き。猫招き」とはしゃいだもんです。

 

 

最後に榎木津大明神のお言葉を


「絶対的判断基準は個人の中にしかないのだ。だから一番偉い僕の基準こそこの世界の基準に相応しい。探偵は神であり神は絶対であって一切相対化はされない!」

 

無茶苦茶だなぁと感じますが、読後は「あぁ、榎木津は神なんだなぁ」と納得するしかなくなります。

 

観榎木津懲悪、とくとご覧あれ。

 

ではではまた~

 

百器徒然袋 雨【電子百鬼夜行】

百器徒然袋 雨【電子百鬼夜行】

 

 

百器徒然袋 風【電子百鬼夜行】

百器徒然袋 風【電子百鬼夜行】