夜ふかし閑談

夜更けの無駄話。おもにミステリー中心に小説、漫画、ドラマ、映画などの紹介・感想をお届けします

『ψの悲劇』ネタバレ・感想 完結まであと一作!

こんばんは、紫栞です。
今回は2018年5月に発売された、森博嗣さんの『ψの悲劇』をご紹介。

ψの悲劇 The Tragedy of ψ (講談社ノベルス)

 

あらすじ
〈死ぬ自由が自分にはある。なにか具体的な不満があったわけではない。自分の意思で自由に行動できるうちに、皆の前から消えようと思う。探さないように。〉
と、書かれた手紙を残し、元大学教授の八田洋久(はったひろひさ)博士は失踪した。
一年後、博士と縁のある者達が八田家に集い、“八田洋久の失踪について、誰も知らない情報を持っている”という島田文子と名乗る女性が、八田博士の実験室にあったコンピュータから「ψの悲劇」と題された、博士が書いたのだと思われる奇妙な小説を発見する。
その日の夜、八田家の飼い猫が謎の死をとげ、翌朝には実験室で招待客のうちの一人が他殺体となって発見された。
この事件と博士の失踪には何らかの関係があるのか?島田文子が八田家を訪れた真意とは?
導かれるのは驚愕の解――。

 

 

 

 

 

Gシリーズ
今作は【Gシリーズ】後期三部作の二つ目。シリーズでは11作目の作品となります。この後期三部作ですが、別名で“悲劇三部作”(エラリー・クイーンの悲劇四部作をもじっていて、作中にも各章の前に引用があります)ともなっており、前作が『χの悲劇』

 

 

 次作予定作品は『ωの悲劇』で、作者の森博嗣さんは「Gシリーズは全12作」と明言されておりますので、次作でGシリーズは完結となります。ですので、『ψの悲劇』は完結作の一個手前の作品ですね。
Gシリーズは9作目の『キウイγは時計仕掛け』

 

 

までは大学生の主要人物たちがギリシャ文字に絡んだ一連の事件に遭遇していくもので、大まかな流れとしては、語り手の加部谷恵美から聞いた事件を、探偵役として海月及介が解くといったもの。途中、【S&Mシリーズ】犀川創平や西之園萌絵【Vシリーズ】瀬在丸紅子など、別シリーズの主要人物たちがお話に登場してミステリとは別で群像劇の様相を帯びてきます。
ですが、後期三部作の始まり『χの悲劇』でこの流れをぶった切り、時間軸が大きく進んで語り手も変わり、今までの主要人物たちも登場しない予測不能な展開になっています。

 

 

 

 

 

 

以下ネタバレ~(『χの悲劇』を未読な人も注意)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SF
森博嗣作品はもはやミステリではない」と言われるようになって久しいですが、確かにこの『ψの悲劇』もミステリというよりはSFでしたね、完全に。
前作『χの悲劇』で時間がだいぶ進んだ訳ですが、今作『ψの悲劇』はどの時間軸が舞台なのかなぁ~と思っていたら、『χの悲劇』よりさらに後の未来でした。「あらすじ」で上記したように、一応殺人事件は起きますが、添え物程度の扱い。後半はロボットだの人工知能だのの話が盛り沢山のバリバリのSF世界に突入します。
近年の森作品は殺人事件に重点が置かれていないものがほとんどですね。毎回頑固に殺人事件発生させる必要も無いのでは?と、思うのですが・・・どうなのでしょう?

 

作品自体も単体で楽しむことが出来る作りになっているとは言い難いです。長年森博嗣作品を読んできた読者じゃないとわからない部分だらけで、もうそういった読者に向けてのみ書かれている作品でしょうね。新規のファンを取り込もうとかは無いというか。【S&Mシリーズ】から続く、壮大なサーガ。すべてがFになるを読んだときは、まさかこんな領域にまで達するとは思ってもみませんでしたよ・・・。

 

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八田洋久
前作『χの悲劇』では語り手が島田文子で、島田さんが肉体としての死を迎えるところまでが描かれるのにくわえ、Gシリーズの主要人物の一人、海月及介の素性の一部が明かされるなど、ファン必見な展開でした。
さて、この後どうなるんだ~!?って感じだったのですが、今作『ψの悲劇』では前作同様島田さんが新たな姿・ニュータイプ島田として登場する以外はシリーズに関係した人物も見当たらず、謎が増えた感じ。
特に今作の中心人物「八田洋久」は色々と思わせぶりな描写も多く(プロペラとか、死んだ奥さんとか)、読者的には「いったい何者なんだ!?」と、考え出すと頭が痛くなる(笑)
最終作の『ωの悲劇』で正体わかるのか・・・・・・それとも【wシリーズ】で、とか・・・。う~ん、頭痛い(^^;)


中盤ははっちゃけた島田さんに引っ張られて軽快な雰囲気で読めましたが、最後の最後がゾッとする終わり方でしたね。
八田博士が生体にこだわった理由って何なのでしょう?この世界ではロボットも人間と見た目が変わらず、周りにも気が付かれない程なので、“生体”にメリットがあるとも思えないのですが。孫を犠牲にするくらいだし、何か訳があるんですかねぇ・・・。

 

 


次で完結!
【S&Mシリーズ】【Vシリーズ】【四季】と続き、Gシリーズと平行して展開されていた【Xシリーズ】も終了していますので、

 

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今著者が抱えているシリーズは残すところGシリーズと【Wシリーズ】のみとなりました。Wシリーズの前に【百年シリーズ】があって、こちらはすでに完結していますが、この二つのシリーズは完全にSFで現代よりだいぶ進んだ時間軸の世界が舞台。

Gシリーズは『キウイγは時計仕掛け』までは比較的地続きな感じだったのが「後期三部作」に入ってからは百年シリーズとWシリーズまでの空白期間を埋める方向でお話が進行しています。明かされる事情も今作『ψの悲劇』では百年シリーズとWシリーズに絞られていました。


時代がどんどん未来に向かっているので、読者的に馴染みのある犀川先生や萌絵、紅子さんや加部谷、山吹などの主要人物たちのその後とかはもう語られないのかしら・・・と、思うと残念で寂しいですが(特に別シリーズでも触れられていない山吹は気になる・・・)しかし、森さんの事だから最終作の『ωの悲劇』でまた時間軸が過去に戻るという事もあり得るかな?とも思います。Gシリーズはまだ放置されている謎が多々ありますからねぇ。完結作をどのようにもっていくのか大変気になるところです。

 

Gシリーズ完結編の『ωの悲劇』は2019年ではなく、おそらく2020年に刊行になる予定とのこと。その間にWシリーズの方を終わらせるらしいです。

と、なると、また新たなシリーズが開始されない限り、森作品の壮大なサーガの最終作は『ωの悲劇』となるってことなのでしょうか、ねぇ・・・?


全ての謎が回収される、長年の読者が報われる素晴らしいラストを期待したいところです。ホント、最終作読み終わったら「今まで読んでて良かった~!」と叫びたいもんだ(^_^;)

 

 

 

 

 


ではではまた~

 

『犯人たちの事件簿』3巻 金田一少年の事件簿外伝 感想・まとめ

こんばんは、紫栞です。
今回は金田一少年の事件簿シリーズのスピンオフ作品金田一少年の事件簿外伝 犯人たちの事件簿(3)』をご紹介。

金田一少年の事件簿外伝 犯人たちの事件簿(3) (講談社コミックス)

早いもので、このスピンオフも3冊目なんですね~。この表紙はKC23巻のパロディ。

金田一少年の事件簿 (23) (講談社コミックス (2383巻))

 

今回は金田一37歳の事件簿(1)』と同時販売でした。

 

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この2冊刊行の前の週に金田一くんの冒険(2)』が発売。

 

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小学生、高校生、中年とそれぞれの世代の金田一を短期間で続けざまに読み、もう何が何だか・・・(^^;)特に『金田一くんの冒険』を読んだ後に『金田一37歳の事件簿』はギャップが激しかったですね・・・。

 

 


3冊目ともなるともうお馴染みだとは思いますが、こちらのスピンオフの概要はもちろん

“最強で最凶な名探偵・・・・金田一一・・・・・・!!これは・・・・そんな少年に不幸にも出会いそれでも犯罪を追い続けた・・犯人たちの物語である!!”

と、いうマニアックなギャグ漫画。

 

3巻で収録されているのは
金田一少年の殺人』『仏蘭西銀貨殺人事件』の二つ。最後に書き下ろしの「外伝煩悩シアター」のミニ漫画が3ページ入っています。もちろん今回も“本編”と合わせて読めばさらに楽しめる作りになっています。見たことないくらい本家の模写が多いスピンオフ漫画・・・。

 


では以下ネタバレ感想~

 

 

 

 

 

 

 


ファイル7金田一少年の殺人」(本家ではファイル10)

 

 犯人:都築哲雄
いつも犯人を追いつめる側の金田一が追われる側になるってことで、本家では人気の高い事件である「金田一少年の殺人」。この『犯人たちの事件簿』は通常はマガジンポケットでの連載ですが、このお話は短期出張連載でマガジン本誌に掲載されましたそうな。なので、犯人の都築さんも最後に「失礼しました 週刊少年マガジンをお読みの皆さん20年ぶりです 昔は硬派なイメージでしたが随分ラブコメが増えましたね」とか、いるせぇ事を言っている(笑)


この事件のメイントリックは“ドア渡り”ですね。結構秀逸なトリックですよね、なんだか。評価する声も多く、わかりやすくて良いのですが、実際にやるとなると大変なんじゃない?と、思う人もいるようで、「水曜日のダウ〇タウン」でもこのトリック検証していましたね・・・。やっぱり犯人の都築さんも

「中年オヤジにはこたえる・・・・ッ!!」

と満身創痍になっている。本家でトリックの再現をした金田一もちょっと汗かいていましたしね(^_^;)


この事件では犯人も暗号解読をしなくちゃいけない立場だったんですよね~。被害者の皆さんは別に何をしたわけでもなく、ただ伝言を託されただけなのにポンポンと殺されちゃって・・・都築さんがもっと早く暗号解いていたらこんなに被害者出なかったろうに・・・都築さんも最後に反省していましたね。


二人の奇妙なスケープゴート生活が可笑しい。究極の「犯人ここにいるよ状態」笑いました。犯人視点としてはテンション上がるレア状況ですよね、これ。

 

 


ファイル8仏蘭西銀貨殺人事件」(本家ではファイル17)

 

 犯人:鳥丸奈緒
このお話、5話分使われていて今までの『犯人たちの事件簿』の中では最長。本家のシリーズの中ではそんなに目立つ事件でもないと思うし何でだろう・・・?
この事件ですが、“精神的双子”という無根拠なものに頼りきっての殺人計画で、世間的には賛否が分かれる作品なのですよね。私はわりと好きなお話なんですけど。


このころの本家は絵柄がキラキラしていたのですよねぇ~。このお話はファッション業界という華やかな世界が舞台ってことで、特にキラキラしていました。メグレ伯爵も“キラキラ男”で本家でも周りが思いっきり引いていましたからね(笑)
この漫画でも触れられているように、メグレ伯爵って何で登場させたのか当時本家を読んでいたときも疑問だったんですよね。「葬送銀貨」の説明させる為だけのキャラクターみたい。奈緒子さんも言っているように

「もうなんか・・・・一瞥するだにポンコツ・・・・!!」

だし。ホント、ただキラキラしてる人(^^;)


「タバコで雰囲気を出しつつ ますみに電話をかける」笑いました。そうなんです、異様なほどタバコの煙漂っていましたからね、本家。

 

 

 

 


犯人総選挙
この『犯人たちの事件簿』なんですが、前回の2巻発売記念で「犯人総選挙」がおこなわれました。
犯人総選挙?そんなの高遠さんが1位に決まってる・・・と、思いつつ、抽選結果を見てみたら・・・


1位 地獄の傀儡師(魔術列車殺人事件)157票
2位 七人目のミイラ(異人館村殺人事件)85票
3位 巌窟王(金田一少年の決死行)48票

 

ほらね。
2位3位も思った通りの犯人がランクインしていますね。「七人目のミイラ」は切なかったからなぁ~。今作の3巻ラストで奈緒子さんが

金田一に匹敵する程の生い立ち・・・・」

と言っていますが、「七人目のミイラ」は生い立ちの面では高遠さんより壮絶なんじゃないかと思う。高遠さんは生い立ちがまだ全て明かされていませんしね・・・。本家も明かす気が残っているのか微妙なとこですが・・・(^^;)

 

この「犯人総選挙」の結果を受けて、次巻では遂に『魔術列車殺人事件』の犯人視点を描いてくれるんだそうです。『魔術列車殺人事件』やっちゃうと、このスピンオフ終わるんじゃ・・・なんて気もしてしまいますが。言わばこの漫画におけるラスボスですからね。3巻は事件数が二つで前2冊より一つの事件が長かったですが、4巻は1冊丸々『魔術列車殺人事件』かも。発売予定は2018年秋頃。

とにかく、次巻も必ず読まねば・・・!ですね(^^)

※4巻の詳細はこちら↓

 

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ではではまた~

 

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『金田一37歳の事件簿』1巻 あらすじ・感想 ”大人版”シリーズ開幕~

こんばんは、紫栞です。
待ちに待った金田一少年の事件簿の“大人版”、金田一37歳の事件簿】が発売されました~。さっそく読んだので、感想や気になったことを纏めようかと思います。

金田一37歳の事件簿(1) (イブニングKC)

 

表紙がマガジンコミックス一作目のパロディになっていて『犯人たちの事件簿』となんだか似たようなノリですね。

 

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でも中身は“少年”のとき同様の本格ミステリでギャグじゃない(ギャグもあるけど)。

イブニングKCだと一般的なコミックスよりちょっとデカイんですね。通常版と特装版があって、特装版は表紙の色が赤(通常版は青)で4大特典付き。お値段は1000円超え。

 

 特典はなにが付いてくるのかというと・・・
●「容疑者になれる権」応募専用ハガキ
●はじめ、明智、ファントム・クリアファイル3種
●フキダシ付き特性メモ帳
●「金田一少年の事件簿」92年当時第一巻デザインポストカード
の、4つ。
「容疑者になれる権」ってなんぞ?と疑問だったのですが、どうやら当たると漫画内に名前を登場させてくれるって事らしいです。

私は・・・通常版を買いました。

 


あらすじ
金田一一37歳。高校時代に数多くの難事件を解決してきたが、今は小さなPR会社の営業部主任で、イベント企画などの仕事に追われるいちサラリーマンとしてうだつの上がらない日々を過ごしていた。
ところがある日、仕事で離島リゾートでの婚活ツアー企画を押し付けられ、企画書を見てみるとツアーの場所はかつて三度も『オペラ座の怪人』になぞらえた連続殺人の舞台となり、その全ての謎を解いた金田一もよく知るあの「歌島」だった。
悪い予感しかしない。もう謎は解きたくない。と、どうしても気が進まない金田一だったが、呪われた館「オペラ座館」はもうない。もう事件なんて起こらない!起こるワケがない!!と自身に言い聞かせ、今度はツアーの引率として仕事で「歌島」に舞い戻ってきた金田一。過去の出来事は忘れて仕事に臨もうとするが、そんな金田一の思いを踏みにじるかのように、やっぱり今回も“ファントム”による惨劇は幕を開けてしまうのだった――。

 

 

以下ネタバレ~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

20年後のみなさん
ストーリーもさることながら、まず気になるのは【金田一少年の事件簿】の登場人物達の20年後の現在ですよね。
金田一は上記のあらすじの通りだとして、この第1巻で明かされているのは・・・

 

美雪大手航空会社のチーフパーサー
剣持警部警察は退官している
明智警視出世して警視長になっている
佐木竜二大手映像会社課長
村上草太地元信用金庫の課長。概婚。子供2人。

 

剣持警部と明智さんは「そりゃまぁそうですよね~」で、佐木と草太は「ぽいわ~」って感じ。明智さんは結婚しているのか気になるところですが・・・まだよくわからないです。

1巻だと、美雪は名前が出て来るのと、金田一と連絡取り合っている様子のみで実際に登場はしてくれませんでした。残念(-_-)

 

そして、容姿の変化なのですが・・・みなさん不思議なくらい全然変わっていない。20年だよ?5年とかじゃないよ?って言いたくなるのですが・・・。人物の容姿はもう開き直ってまったく変えない方針なんですかねぇ・・・。金田一とか、「お前社会人になってもその髪型か」とか思ってしまう。

 

 


『歌島リゾート殺人事件』
と、いう事件名なんですね。今回は。ファン的にはオペラ座”が題名から抜けてるっ!ですが、「オペラ座館」がもうないのだからしょうがないか(^^;)


※過去三回のオペラ座館連続殺人事件についての詳細はこちら↓

 

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今回は「歌島」で婚活ツアーってのが妙な雰囲気。しかし、社会人ならではの題材ではある。
美雪が不在なので、金田一の部下・葉山まりん(きらきらネーム・・・)ちゃんが助手ポジションを務めています。可愛いけども、今後はどうなるのだろうか。美雪が助手してくれないってのはファンとしては寂しいのですが・・・。


この1巻では事件はまだ解決しません。もう1冊丸々使いそうな感じですがどうなんでしょう。


最初の殺人でシャンデリアが落下しなかったので驚きました。まさかのシャンデリア落ちなしか!?とか不安(?)になりましたが、その後やっぱりシャンデリア落下したので杞憂だった(笑)


ミステリの場合、脈で死亡判断するときはほぼほぼ死んでいないというのが定石なので(ボールとか現場に転がっている場合は特に)最初の段階では桜沢さんは死んでいないんですよね、多分。だとすると脈をはかった麻生さんが怪しいですが・・・。胸が丸出しになったときにあった黒子も気になりますしねぇ。犯人がルームサービスのふりしているシーンがあるので、冬木さんも怪しいですけど。でもミスリードかも・・・う~ん。


あと、今回の4代目ファントムは入念な計画は立ててなさそうですね。そしてなんだか性格悪そう(笑)歴代ファントムに怒られるぞ。

 

「戦争中にたくさん人が死んだ島だってリゾートになってる~」と作中で度々出て来るんですけど、じゃあ「墓場島」とかも今はリゾート地になっているのかなぁ~とか思う。

 

金田一少年の事件簿File(14) (講談社漫画文庫)

金田一少年の事件簿File(14) (講談社漫画文庫)

 

 今後出る・・・かも?

 

 

 

 

 

 


なぜ「解きたくない」のか?
今作で「もう謎は解きたくないんだぁぁぁ~!!」と繰り返し言う金田一ですが、なぜそんなに解きたくないのでしょうか?
そもそも、今のPR会社には新卒で入ったとのことですが、高校を卒業してから20年の間に殺人事件には遭遇しなかったのかしら。高校時代にあんなに“死神体質”を発揮していたのに?普通に考えると二時間ドラマの主人公よろしく、仕事の引率先でことごとく事件に遭遇するのが自然なんじゃないかと思うのですけども。


読んでいると、どうも何か決定的な事があって「もう謎は解きたくない」と言っているみたいなのですが・・・。推理のせいで誰か死んじゃったとか?その“何か”で持ち前の死神体質も鳴りを潜めたってことなんですかね?

気になるのは高遠さんとはどうなったんだってところですが・・・。1巻の段階ではまだ高遠さんの話はまったく出て来てない状態です。大変気になりますね。

 

 


解くしかない
本の最後に金田一少年の事件簿外伝 犯人たちの事件簿』からのメッセージ、“初代ファントムから4代目ファントムへの警告・・・!!”が載っています↓


“もう謎は解きたくないって言ってるし流石に大丈夫でしょ・・・”そんな甘い考えは捨てろ・・・!!
気づけば謎を解き始め、犯人を追い詰め始める男・・・それが金田一一なのだ・・・!!

初代ファントム・有森もこう言っていることですし、2巻ではズバッと謎を解いてくれるでしょう(^^)事件以外にも気になるところがいっぱいあるので、今からもう2巻が楽しみです。新しい決めゼリフも爆誕するんだそうな。2巻の発売予定は2018年10月とのこと。発売されたらまたこのブログで纏めたいと思います!

 

※まとめました。2巻の詳細はこちら↓

 

 

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ではではまた~

 

 

 

金田一37歳の事件簿(1) (イブニングKC)
 

 

 

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『金田一くんの冒険2 どくろ桜の呪い』感想・あらすじ

こんばんは、紫栞です。
今回は今月の7日に発売された金田一くんの冒険(2) どくろ桜の呪い』をご紹介。

金田一くんの冒険 2 どくろ桜の呪い (講談社青い鳥文庫)


金田一少年の事件簿】でお馴染みの金田一一が小学六年生のころの冒険を描く、講談社青い鳥文庫から刊行のシリーズ。シリーズ第1弾の『からす島の怪事件』に続く第2弾ですね。

 

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あらすじ
ある日、はじめと美雪が朝早くに登校すると、六年生の各クラスの黒板に謎の文字が落書きされていた。一組から六組まで記された文字を順番につなげると「どくろざくらにちかづくな」という文章になる。どうやら校庭の端に植えられている『どくろ桜』をさしているらしい。
『どくろ桜』は不動小学校に一本だけある桜の木で、花が咲くと“どくろ”の顔に見えて気味悪がられており、木の下には“どくろ先生”に食べられた生徒の死体がたくさん埋まっているという、不動小学校七不思議の一つとして数えられる怪談のあるいわくつきの桜だった。学校では今、この『どくろ桜』を切って新しい遊具を設置する計画が持ち上がっていたのだが――。
はじめたち『冒険クラブ』は「六年生全教室黒板落書き事件」の調査を開始。しかし、調査を進める『冒険クラブ』には次々と恐ろしい出来事が。これは『どくろ桜』の呪いなのか?はたして一連の事件の犯人は誰――?

 

 

 

 

 


シリーズ第2弾は学校が舞台。学校でミステリといえば七不思議。金田一少年で七不思議ですと『学園七不思議殺人事件』をどうしても連想してしまうところですが。

 

 

今作で中盤に出てくるトリックがまた『学園七不思議殺人事件』のメイントリックを連想させるものです。これはあえてなのか、それともただのレパートリー不足なのか・・・。いずれにせよ、小学校の頃にこのトリックを暴いていたなら『学園七不思議殺人事件』のメイントリックなんて一ちゃんには余裕だなという気はする(^^;)

 

前作同様、語り手は終始美雪です。いまさらですが、美雪はむかっしから一ちゃんのことが好きなんだな~というのが伝わってくる・・・。

 

 

さて、今作で注目すべきは千家貴司が登場する点ですね。千家は『首吊り学園殺人事件』

 

金田一少年の事件簿File(8) (講談社漫画文庫)

金田一少年の事件簿File(8) (講談社漫画文庫)

 

 

『魔犬の森の殺人』

 

 

に登場する、金田一少年ファンとしては善くも悪くも忘れられない人物なのですが。


今作では秀才の優等生で生徒会長。一ちゃんをライバル視しているような、美雪に気があるような・・・という描写があります。


・・・・・・なんだか色々と違和感が。


小学校の頃ってそうだったのかい?そうなのかい?う~ん。
まぁそんなこと言うと『魔犬の森の殺人』のときも十分違和感はあったんですけども(^_^;)

今作だと「勝負しないか、金田一とか言い出す千家ですが(ここもまた違和感ですが)、結局お話は全然勝負しないまま終わりました。千家は今後またこのシリーズに登場するのかな。『冒険クラブ』のメンバーじゃないし、最初の“おもな登場人物”に名前がないからレギュラー入りではなさそうですけど。脇では登場しそう。

 


お話は金田一少年シリーズらしくって良かったです。個人的には前作の『からす島の怪事件』より好み。
どうでもいいことですが、読んでて意外だったというかショックだったのが、タイムカプセルが何なのか知らないと登場人物達が言うところですね。今の小学生知らんのか・・・なんだか哀しい(笑)

 

シリーズはまだまだ続きそうですね。また半年後ぐらいに刊行されるのかな?次回作も楽しみです。

 

ではではまた~

 

 

 

『検察側の罪人』 原作小説 ネタバレ感想 驚きの内容とは?

こんばんは、紫栞です。
今回は雫井脩介さんの検察側の罪人をご紹介。

検察側の罪人 文庫  (上)(下)セット

8月24日公開予定の映画「検察側の罪人」の原作本ですね。

 

あらすじ
東京地検の検事・最上毅。彼には「根津女子中学生殺害事件」という、犯人が捕まらないままに時効をむかえてしまった忘れられない事件があった。被害者の女子中学生は最上が大学時代に親しくしていた寮の管理人夫婦の娘だったのだ。
事件から23年が経った2012年4月、大田区浦田で「老夫婦刺殺事件」が発生する。検事として捜査に立ち会った最上は、容疑者リストの中に“松倉重生”の名前を見付けて驚愕する。松倉は「根津女子中学生殺害事件」当時、最有力容疑者として名前が挙がっていた男だった。
最上は今度こそ松倉に法の裁きを受けさせようと決意するが、松倉は時効が成立した「根津女子中学生殺害事件」の犯行は認めたものの、「老夫婦刺殺事件」に関しては一貫して犯行を否認し続ける。やがて捜査線上には別の容疑者も浮上してくるが、最上は松倉犯人説にこだわり続け、捜査方針を変えようとはしなかった。

最上の指導のもと、「老夫婦刺殺事件」を担当することになった新人検事・沖野啓一郎は尊敬する最上検事の期待に応えようと、最上に言われるまま激しい尋問で松倉を締め上げるが、頑として口を割らない松倉の様子や事件現場状況などから、松倉が犯人だとはどうしても思えなくなり、最上が指示する強引な捜査方針に疑問を抱くようになる。
そんな中、新たな証拠が発見され、松倉は逮捕されるのだが――。

 

 

 

 


検察小説
犯人に告ぐ』『クローズド・ノート』『火の粉』『ビター・ブラッドなどなど、著作が数多く映像化されていて大変人気のある作家である雫井脩介さんですが、私は今作が初めて読んだ雫井作品です。映画の予告編を観て気になったので読んでみました。

作品一覧を見てみてもわかる通り、雫井さんは多くのジャンルを手がけていらっしゃいますが、今作はとにかく“検事”のことが描かれている“検察小説”。
「時効」がテーマの一つで、2010年に改正刑事訴訟法が執行されて死刑に相当する殺人罪の公訴時効が廃止されたが、執行前に時効を迎えていた事件は改正前の期間が適用されるため、犯行を行った時期によっては罪科に処されるに済む人間がでてしまうという現実や、検事一人の裁量で事件の流れを決める事が出来てしまう司法制度の問題点などが描かれています。


率直な感想
私にとって初めての雫井作品だった訳ですが、非常に面白かったです。
上下巻で分冊になっている文庫版で読んだのですが、上巻の終盤(つまり物語の中盤)で予想外の展開に驚き、下巻に入ってからは最上と沖野の対立・・・と、いうか、沖野がどのように真相にたどり着くのかが気になって一気読みでした。主要二人はもちろんですが、他の登場人物達の“善くも悪くも人間くさいやり取り”も読んでいて面白かったです。
そして、読み終わってまず思った事は、「映画はどの程度まで原作にそったストーリーにするのかなぁ」と。原作通りだとキャスト的には結構な問題作で、今までにない新鮮な(?)作品になるのではってな気が・・・。

 

 


映画

映画の監督はクライマーズ・ハイ』『日本の一番長い夏』などの原田眞人さん。

 

現在わかっているキャストは以下の通り


最上毅木村拓哉
沖野啓一郎二宮和也
橘沙穂吉高由里子
丹野平岳大
弓岡大倉孝二
小田島八嶋智人
高島矢島健一
諏訪部利成松重豊
白川雄馬山崎努

 

調べると他の役者さんの名前も出ているのですが、どの役をやるのかがまだ明記されていないので・・・。
原作での重要人物である「松倉」が何故かキャスト欄に明記されてないのが疑問。映画の予告映像を観るぶんには酒匂芳さんが松倉を演じてるってことで間違い無いとは思うのですが・・・。この予告映像を観た感じでは、松倉は原作以上に腹が立つ人物像になっていそうですね(^^;)

木村拓哉さんと二宮和也さんが共演することで話題になっている今作。原作は最上と沖野の対決が大きな見所なので、映画ではどのように対決シーンが仕上がっているのか気になるところですね。容姿は二人とも原作から大きく外れているってこともないと思います。特に沖野は原作では“童顔で30代の年相応には見られない”という設定ですしね。


個人的には商売人弁護士・白川雄馬山崎努さんが演じるというのが意外でした。白川と山崎さんだと風格の雰囲気(?)が別物だって気がするのですが・・・。松倉もそうですが、人物像はそれぞれ原作とは多少変えているのかも知れないですね。

 

 

 

 

以下ガッツリとネタバレ~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

人殺し
最初は松倉が「老夫婦刺殺事件」の犯人だと心から信じ、今度こそ法の裁きを受けさせようと純粋に奮闘していた最上ですが、松倉の犯行として辻褄が合わない不都合な飲食店のレシートを家宅捜索で発見、そのレシートを捜査陣に見つからないように破棄したところから道をふみはずし、松倉の部屋から持ち出したものを殺人現場に放置して証拠品を捏造しようとしたりするなど、完全な犯罪行為をしてしまう最上。もはや「老夫婦刺殺事件」の犯人を特定することから“松倉を「老夫婦刺殺事件」の犯人にすること”にしか考えが及ばなくなっていきます。
違法行為や無理な指示で何とかして松倉を逮捕しようとする最上ですが、新たな容疑者・弓岡嗣郎が捜査線上に挙がり、弓岡が犯人だと認めざるおえない状況に陥ると、さらに驚くべき行動にでる。なんと、弓岡を自らの手で計画的に殺害してしまうのです。

友人である丹野の自殺に啓示を受けた気になった最上は

やってもいない罪をかぶせることにこそ――それも己の罪過を上回る今回の事件のような罪をかぶせることにこそ――断罪を逃れた松倉に下される天誅として、大きな意味が出てくるのではないか。

 

それこそが自分にしかできないことで、

 

二人もの命を奪った凶悪犯だ。
松倉を裁くためだからといって、この男を逃がしていいわけはない。
罰せられるべき男なのだ。

 

との考えから弓岡を殺し、弓岡が所持していた「老夫婦刺殺事件」の凶器を松倉の部屋から持ってきた新聞紙に包んで証拠品を捏造。逮捕見送りになる寸前だった松倉を一転して逮捕させることに成功する。

 

しかし、この発見された凶器の不自然さによって警察の捜査への疑惑が決定的になった沖野は、検事を辞めることを決意。冤罪を晴らそうと松倉の弁護士に接触して検察側、つまり、最上と対決することとなる。

 

私、読んでいてですね、最上が人殺しまでしてしまうのには驚きました。レシートを破棄した段階で「あーやっちゃったー」って感じだったのですが、まさか計画殺人までしでかすとは・・・。文庫だと最上が犯行をおこなったところで上巻が終了するので、読者としては間髪入れずに下巻へ急げ~!です。

 

 

 


正義?
この小説では一応、最上にも沖野にも感情移入出来るように書いている雰囲気なんですが、私個人としては最上には全然感情移入出来ない・・・と、いうか、終始最上に対してはムカムカしながら読んでしまいましたね。
松倉も弓岡もどうしようもないくらい腹立たしい人物なので気持ちはわからないでもないですけど、やっぱり“法律”という圧倒的な力を使える立場の人間が、個人的感情で無罪の人間を陥れようとするのは理不尽で容認出来ないですね。しかも最上は「正義」をおこなっているつもりでいるってのがまた(-_-)

 

最後に最上の犯行を暴いた沖野は“最上はずっと検事だったのだ”みたいな事いいますが、正直言って、人殺しが「正義」とか偉そうに何言ってるんだ、人を殺した時点で検事どころか他にも色々と失格だよ。と、思う。

なので、終盤にはこう、最上にビシッと「なんてバカなことをしたんだ」と言ってくれる人がいるだろうと思って読み進めていたのですが、皆何故か逮捕された最上に同情的で「なんで?」って感じでした。特に、沖野が面会の時に言ってくれるかと期待していたのに「最上さんの力になりたいんです」とか言い出したのには肩透かしで非常に残念。沖野は最後“自分がやったことは「正義」だったのか”と悩みますが、別に悩む必要ないと思う。

 

個人的には法律は正義の為にあるというより、社会秩序のためにあるって思っているので、終盤のまとめ方とかにはちょっとモヤモヤしてしまいました。非常に面白い小説には違いないんですけどね。

 

あと、諏訪部の麻雀のくだりって何のためにあったのかわからないんですが・・・私の読解力が足りないんですかね。私は麻雀に無知な人間なので読んでてちょっと“アレ”だった(^^;)

 


しかし、原作通りなら木村拓哉さんは冤罪をつくろうとする人殺し検事の役を演じるってことですよねぇ・・・出演作全部観ている訳ではないので断言は出来ませんけど、今までにない役柄で斬新なような。代表作のドラマが検事でヒーローなのに・・・

 

 

この映画では真逆だと。う~ん(^_^;)

 


まぁ、色々と気になるところではありますが、原作は「正義」の考え方で意見がわかれる人もいるでしょうが、作者の雫井さんが意識しているという「読者がずっとページをめくりたくなるストーリー」ってのは、まさにその通りという小説なので、読んでいて夢中になれるには必至です。

ちょっとでも気になった方は是非是非、読んでみては如何でしょうか。


ではではまた~

 

検察側の罪人 上 (文春文庫)

検察側の罪人 上 (文春文庫)

 

 

 

検察側の罪人 下 (文春文庫)

検察側の罪人 下 (文春文庫)

 

 

 

学生アリスシリーズ(江神二郎シリーズ) 順番・概要 新作や作家アリスとの繋がりなど

こんばんは、紫栞です。
今回は有栖川有栖さんの2大人気シリーズのうちの一つ【学生アリスシリーズ】(江神二郎シリーズ)の概要と読む順番をお届け。

江神二郎の洞察 (創元クライム・クラブ)

※2大人気シリーズのうちのもう一つは【作家アリスシリーズ】(火村英生シリーズ)ですね。↓

 

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学生アリスシリーズ(江神二郎シリーズ)とは
本格推理小説のシリーズ。ミステリ作家志望の大学生・有栖川有栖(作者と区別するため、以下“アリス”と表記します)が語り手を、アリスが所属している英都大学推理小説研究会の部長・江神二郎が探偵役をつとめ、英都大学推理小説研究会メンバーが直面する事件の謎に挑んでいく姿が描かれる。


1988年~1990年ぐらいまでがお話の舞台。主要メンバー達は皆大学生で作中で時間が経過していきます。
ミステリのシリーズですが、青春小説としての側面も強く、読んでいると学生時代を思い出して懐かしくなる人もいるのではないかと思いますね。特に昭和の終わりかけの頃に学生だった世代にはドンピシャかと。

長編はいずれもクローズド・サークルが主のガチガチの本格推理小説。長編には解決編の前に必ず“読者への挑戦”が差し込まれています。
短編は番外編って感じで「日常の謎」がテーマになっていますね。


EMC
アリス達が所属している英都大学推理小説研究会ですが、“Eitouniv.Mystery.Club”の略称として「EMC」と小説内 では表記されることが度々です。
メンバーは
●江神二郎(部長)
有栖川有栖(通称:アリス)
●望月周平(通称:モチ)
●織田光次郎(通称:信長)
●有馬麻里亜(通称:マリア)
の、計五人。

アリスとマリアは同学年、モチさんと信長さんは二人より一学年上。江神さんは四回生になってからワザと留年を繰り返しているので初登場時は26歳。
マリアは唯一の女子で『孤島パズル』からの途中参加。アリスとマリアの二人は青春っぽく少し甘酸っぱい雰囲気を作品に漂わせ(でもホント、ハッキリしないというかびっみょーな感じですが)、モチさんと信長さんの先輩コンビはコミカルなやり取りで場を和ませてくれます。江神さんは・・・・・・カッコイイです(笑)

 

 

 

 

順番
では刊行順に作品をご紹介。

『月光ゲーム』

 

月光ゲーム―Yの悲劇'88 (創元推理文庫)

月光ゲーム―Yの悲劇'88 (創元推理文庫)

 

 有栖川さんの初めての単独の著作で長編デビュー作。
火山の噴火でキャンプ場に取り残された学生グループ間で連続殺人が発生するストーリー。“火山の噴火”という予測がつかない事態のなかで殺人事件が起きるのがなんだか新鮮。作中、月について語り合うシーンが印象的。登場人物がかなり多いので読むのにちょっと一苦労します。

 

漫画もある。漫画だと人物がわかりやすいかも↓

 

月光ゲーム (BLADE COMICS)

月光ゲーム (BLADE COMICS)

 

 

 

『孤島パズル』

 

孤島パズル (創元推理文庫―現代日本推理小説叢書)

孤島パズル (創元推理文庫―現代日本推理小説叢書)

 

 英都大学推理小説研究会(EMC)のメンバー・有馬麻里亜の祖父の別荘がある孤島で連続殺人が起こる。
お宝が眠っていると思われる孤島に台風接近、無線機が壊され、連絡船も三日間は来ない・・・と、かなりのベタ設定で「これぞ本格推理小説だ」といった作品。今作からマリアも登場し、ここから本格的にシリーズ独自の展開に進んで行きます。

こちらも漫画がある。全3巻。『月光ゲーム』と同じ漫画家さんによるコミカライズです。↓

 

 

 

『双頭の悪魔』

 

双頭の悪魔 (創元推理文庫)

双頭の悪魔 (創元推理文庫)

 

 大雨で陸の孤島と化した芸術家ばかりが集まっている村と、その隣村とで二手に分かれてしまったEMCのメンバー達。やがて時を同じくしてそれぞれの場所で殺人事件が発生する。
2箇所で起こる事件が平行して描かれているので、語り手はアリスとマリアとで交互になっています。有栖川さんの代表作の一つでシリーズ最高傑作との呼び声も高いです。前2作よりページ数が多く、ほぼ倍の長さ。“読者への挑戦”も三回出て来て大作感が伝わってきます。芸術家ばっかり出て来るということで事件関係者も個性的な人物が多いです。特に「志度晶」は作家アリスシリーズの探偵役・火村先生のモデルとなっているので必見!

この作品だけ映像化されています。20年以上前の作品で、江神二郎役が香川照之さんだという衝撃(笑)「犯人は誰だ?」と「犯人はお前だ」で2作にわかれている。紛らわしい・・・

 

双頭の悪魔 ?真犯人は誰だ? [VHS]

双頭の悪魔 ?真犯人は誰だ? [VHS]

 

 

 

双頭の悪魔?犯人はお前だ? [VHS]

双頭の悪魔?犯人はお前だ? [VHS]

 

 

 

『女王国の城』

 

女王国の城 上 (創元推理文庫)

女王国の城 上 (創元推理文庫)

 

 第八回本格ミステリ大賞受賞作。
大学に姿を見せない江神部長を案じて、部長が向かったと思しき新興宗教団体の総本部へ乗り込んだEMCのメンバー達。部長の安否は確認出来たものの、殺人事件に直面して団体に囚われの身となってしまい・・・。
今のところシリーズ最長の作品で文庫版だと上下巻にわかれています。宗教団体というのが〈人類協会〉というUFOがウンヌンという団体で意外性があって面白いです。今作ではEMCメンバーが勢ぞろいしているので皆の掛け合いもいっぱいあって楽しい。

 

『江神二郎の洞察』

 

江神二郎の洞察 (創元推理文庫)

江神二郎の洞察 (創元推理文庫)

 

 シリーズ初の短編集。9話収録。
昭和から平成への転換期を背景に、アリスの大学入学からマリアのEMC入部までの1年での出来事が時系列順に並べて描かれています。有栖川さんの記念すべき短編デビュー作「やけた線路の上の死体」が収録されており、作者の足掛け27年の成果が収められている至極の1冊。私も大好きな1冊です。

バリバリの本格ミステリの長編とは違い、日常のささやかな謎を扱っている短編集。私は特に「開かずの間の怪」「除夜を歩く」がお気に入り。

 

 

現在ここまで。長編4冊、短編集1冊。すべて創元社からの刊行ですね。

 

 

 

 


新作・完結
【学生アリスシリーズ】は作者の有栖川さんが「長編5冊、短編集2冊で終わらせる」と明言されています。つまり、後は長編・短編集が1冊ずつ刊行されたらシリーズは完結。
しかし、『女王国の城』刊行から既に10年の時が経っていますが最終作となる新作長編・短編集が刊行される気配は今のところまったくありません。『双頭の悪魔』から『女王国の城』までの間も刊行されるまでに15年あいていたりするので、まぁ気長に待ちましょう!ですかね(^^;)


次回作で完結と聞かされると、ファンとしては出て欲しいような、出て欲しくないような微妙な気持ちになりますが、江神さんの亡き母の予言「お前は三十歳を迎えずに、父親より先に死ぬ。多分、学生のまま」の結末や、江神さんの過去、四回生になってからワザと留年を繰り返している事情など、気になる色々が最終作では明かされるでしょうから、読まない訳にはいきません。発売されたらとにかく全力で読もうと思います!

 


作家アリスとの違い
同作家による別シリーズ【作家アリスシリーズ】(火村シリーズ)↓

 

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とはお互いにパラレルな世界関係になっており、【学生アリスシリーズ】内の有栖川有栖が【作家アリスシリーズ】を執筆。【作家アリスシリーズ】内の有栖川有栖が【学生アリスシリーズ】を執筆しているという設定です。


違いとしては、【作家アリスシリーズ】の主役二人は永遠の34歳で(最初は32歳からのスタートですけどね) 社会人の独身男性という設定なのでだいぶ自由度が高く、作者である有栖川さんも「ずっと使えるように設定してある」と言われている通り、限りなく続けられるシリーズなのに対して、【学生アリスシリーズ】では主要人物達は皆学生の身分だし、1988年~と時代設定も定められ、長編はクローズド・サークルもので“読者への挑戦”が必ず入るなど、制約が多いシリーズになります。


【作家アリスシリーズ】は自由度の高い設定でバラエティに富んだお話とコンビの関係性を楽しみ、【学生アリスシリーズ】では制限があるなかでの本格ミステリの醍醐味、青春とノスタルジーを味わうといった感じでしょうか。

 

また、探偵役と語り手の関係も同い年で友人の火村とアリスは遠慮ない掛け合いを繰り広げ、距離も近いですが、江神さんとアリスは先輩・後輩という間柄なので多少距離はあります。尊敬する先輩って感じですね。かわりにモチさんと信長さんが漫才をしてくれます(笑)
大学の准教授で30代の火村先生より、学生で20代の江神さんの方が落ち着いていて老成しているイメージです。アリスは学生シリーズの方は“学生”ということでより純粋で青臭さがありますが、30代設定の作家シリーズの方が抜けててかわいらしい印象が強い(^_^;)

 

最後に

【学生アリスシリーズ】は正統派本格推理小説で作者の有栖川さんのミステリへの思いが凝縮されたシリーズです。
比較的ミステリ作品の中では大作に入るボリュームの長編が主で事件設定もコテコテなので、ミステリをあまり読まない人は最初難色を示すかも知れませんが、本格ミステリならではの洗練されたロジックにくわえて、青春小説としての側面やキャラクターの面白さがあるのでミステリ初心者でも楽しく読めるシリーズだと思います。勿論、本格ミステリ好きにもオススメ。
是非是非、如何でしょうか。

 

ではではまた~

 

 

月光ゲーム―Yの悲劇'88 (創元推理文庫)

月光ゲーム―Yの悲劇'88 (創元推理文庫)

 

 

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『ブレイズメス』『 スリジエセンター』ネタバレ あらすじ感想 ブラックペアンその後の物語

こんばんは、紫栞です。
今回は海堂尊さんの【バブル三部作】の内の二つ『ブレイズメス 1990』スリジエセンター 1991』をご紹介。

 

スリジエセンター1991 (講談社文庫)

 

 

続編
【バブル三部作】は『ブラックペアン 1988』から始まるシリーズで「ブラックペアンシリーズ」とも言われているというのはこちらの記事でも書きましたが↓

 

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やはり出版社での呼称である“ブラックペアンシリーズ”よりは作者の海堂さんのいう“バブル三部作”のほうがこのシリーズにはしっくりきます。


三作品すべて読んでみると、第一作目の『ブラックペアン 1988』と後の二作は大半の登場人物達が引き継ぎにはなりますがお話の主軸はまったく別物ですので、三部作といいつつ『ブラックペアン 1988』は別個で考えるべき小説で、『ブレイズメス 1990』と『スリジエセンター 1991』は二つあわせて一つの小説だという感じ。『ブレイズメス 1990』は『ブラックペアン1988』の“続編”じゃないけど、『スリジエセンター 1991』は『ブレイズメス 1991』の“続編”だよ~と。
なので、「“ブラックペアン”のシリーズではないよなぁ」というのが正直なところ。ブラックペアン(黒い外科用止血鉗子)にまつわる話は一作目の段階で完全に終わっていて、二作目三作目には関係ありませんしね(^^;)


でも、登場人物達の人間関係や病院内の状況などは一作目を読んでいないとわからないところが多いので、飛ばさすに一作目から三作目まで順番に読まないとダメだとは思います。

 

 

渡海
一作目を読んだ人やドラマを観ている人は渡海先生が二作目三作目に出て来るのか気になるところではあると思いますが、ハッキリ言って『ブレイズメス 1990』と『スリジエセンター 1991』には渡海先生はまったく出て来ません。まぁ一作目での終わり方が終わり方ですしね。
渡海先生は『ブラックペアン1988』のみの登場人物で、海堂尊作品の他シリーズなどにも今後出す予定は作者にはないかと思います。魅力的なキャラクターなので一作限りなのは勿体ないと感じてしまいますし、渡海先生がその後どうなったのかは読者的には大いに気になるんですけどね~。

 

※6月25日追記。すいません。その後調べてみたらモルフェウスの領域

 

 

 

に思い出の中の人物として、短編集『ガンコロリン』

 

 

 

 収録の「緑剥樹の下で」にその後の物語が描かれているらしいです。調べが浅かったですね・・・申し訳ない。

 

 


『ブレイズメス 1990』

 

 

あらすじ
1990年4月。国際学会に出席する垣谷のお供として、フランスのニースに降り立った世良だが、実は佐伯教授から国際学会に演者として招聘されている心臓外科医・天城雪彦に手紙を届けるメッセンジャーとしての役割を仰せつかっていた。しかし、天城は国際学会をドタキャンしてしまい、発表後に手紙を渡せば任務完了だとタカをくくっていた世良の当ては外れてしまう。
佐伯教授に「ミッションを達成するまでは日本に戻ってはならん」と言われていた世良は、グラン・カジノでようやく天城を探し出し、佐伯教授からの手紙を渡す。手紙の内容は天城を“東城大学医学部付属病院付帯施設、桜宮心臓外科センターのセンター長に推挙する”といったものだった。しかし、天城は手術をうける条件として患者に賭けをさせ、財産の半分を取り上げるような、日本の医療界ではとても容認出来ない方法をとる医師だった。
天城も最初、この依頼を受ける気は無いと言うが、天城の手技に魅せられた世良は天城とのギャンブルの末に説得に成功。天城に帰国を決意させる。
佐伯教授に天城の世話役を任命された世良は、天城と共に「スリジエ・ハートセンター」への設立に乗り出すが、やはり天城の存在は東城大学医学部付属病院の医師達には受け入れられるものではなく、激しく対立していく。
設立への大きな足掛かりとして、自らが確立した術式である“ダイレクト・アナストモーシス" を東京国際学会での公開手術で披露することを宣言する天城だったが、公開手術には様々な壁が立ちはだかっていた。
はたして日本初の公開手術の結果は――?

 

 

 

 

 

 

 

この表紙、前作の『ブラックペアン1988』とかなり似通っていますよねっ!実は私、『ブラックペアン』と間違えて買ったのですよ・・・。それで一作しか読むつもりなかったのに三部作すべて読むことに。まぁ面白かったので結果オーライですけど。私のような粗忽者はそうそういないでしょうが、買うときは一応ご注意を。

 


天城雪彦
前作『ブラックペアン1988』から2年後の世界が描かれています。

前作同様お話は大半が世良視点での語りですが、渡海に変わって今作からはモンテカルロのエトワール(星)”という称号を持つ手術が抜群に上手い天才外科医・天城雪彦がお話の中心となり、世良と二人で「スリジエ・ハートセンター」の設立に挑みます。スリジエはフランス語で“桜”という意味です。


前作の渡海先生も魅力的なキャラクターでしたが、この天城先生も尊大な態度にフランス語混じりのキザな言い回しなど、人によって好みが分かれるかなといった人物ですが、世良同様、振り回されているうちにどんどんと引き込まれていつの間にか好印象を抱いてしまう魅力的なキャラクターです。
世良のことをジュノ(青二才)と呼び、軽快な会話をしたり、ハーレーや外車に乗って連れ回したりするのも読んでいて楽しいところですね。

 


モンテカルロ・ルール
あらすじにも書きましたが、天城はモンテカルロでは患者にカジノで全財産の半分を賭けさせ、賭けに勝って金が二倍になった患者からは治療費として半分を治療費として納めてもらって手術し、負けた患者には治療を諦めて貰うという方法をとっていました。

 

これはただ単に大金が欲しいというのではなく、患者に全財産の半分を差し出す覚悟があるか・手術を乗り切る運があるか。の、二つを見極める為に設けている天城なりの安全保障システム。

頂いた財産の半分は個人としては一切受け取らず、グラン・カジノで基金として運用しているので直接天城の懐に入ってくる訳ではないのですが(グラン・カジノからは破格の待遇を受けますけどね)、まぁ表面的には「とんだ守銭奴医師だ」という風に受け取られる。特にバブル時代の日本では経済的余裕があったがために医師は収益を度外視しての治療・患者が支払いを踏み倒しても事務長に少し怒られればそれですむといった状況下にあったので、天城のように患者から大金と引き替えに手術を受ける医師は批判の対象となる。

 

 


革命
日本にはカジノが無いので患者にルーレットをさせる訳にはいかないけれど、天城は自身のルールを変える気はないと新たなシステムを構築。

日本でも患者から財産の半分を頂戴すると強気な発言を繰り返すのですが、やっぱり周りの医師達はとやかく言って反対してきて・・・・・・で、ここら辺の激しいバトルが話の主軸になっています。

この医療費に対する考え方はバブル時代ならではのもので、この時代設定じゃないと描けない物語ですね。お話を通して作者が伝えたいメッセージもこの“医療費問題”が大きいのだと思います。
今では高度な技術に高い報酬を要求するのは当たり前だ、との考えが一般的になっていますが、この時代には“高い報酬を求める医師は悪だ”なんて意見がまかり通っていたのですね。

 

「医師が医療に専念しろということが、なぜ日本の未来を冥くするんですか」

問いかけた高階講師に、天城は冷たく言い放つ。

「甘やかされたぼんぼんが、いつまでも父親の庇護の下で同じ生活ができる、と思い込んでいるのと同じだから、さ。高階先生の言葉は、医療が潤沢な資金で下支えているから言える、金持ちの意見だ。真実は、腕があってもカネがなければ命は救えない。だから医療は独自の経済原則を確立しておかないと、社会の流れが変わった時、干からびてしまう」

 

天城がおこなおうとしているのはただ心臓外科センターを設立しようというのではなく、日本の医療界に「革命」を起こそうというものなんですね。

『ブレイズメス1990』では東京国際会議場での公開手術終了までが描かれており、お話としては中途半端なところで終わっています。その後、「革命」がどうなったのかは『スリジエセンター 1991』にそのまま引き継ぎです↓

 


スリジエセンター 1991』

 

 

あらすじ
1992年春。世良はモンテカルロのオテル・エルミタージュの一室で、無為の時間に漂っていた。目の前の扉が開き、驚いて目を見開いた天城が、いつものように、ジュノ、と呼びかけてくれるのを待ち続けながら――。

1991年4月。天城は「スリジエ・ハートセンター」の設立資金捻出のため、桜宮市の基幹産業「ウエスギ・モーターズ」の創業者である上杉会長の公開手術を計画するが、東城大学医学部付属病院内では佐伯教授と、佐伯教授が招聘した天城への対抗勢力たちが様々な思惑を巡らしていた。そんな中、世良は天城の直属から高階講師の研究室へと戻されてしまい・・・。
天城と世良の二人は「スリジエ・ハートセンター」“さくら並木”を完成させることが出来るのか。天才医師・天城雪彦が灯す“革命”の松明の火――

 


文庫
単行本が刊行されたのは2012年ですが、文庫は最近になって刊行されました。ドラマの効果が強いのかと思われますが。文庫版巻末解説を『ブラックペアン』ドラマで世良役を演じている竹内涼真さんが書いていますしね。加筆修正もあるので今から読む人は文庫版が良いかと思います。私も文庫版で読みました。

 


院内政治
【バブル三部作】完結編の『スリジエセンター 1991』は前2作でも描かれてきた院内政治が最高に加熱しています。状況は天城(と佐伯教授)VS高階の様相がハッキリとしてきます。
前作までは比較的読者にとって好印象な存在だった高階講師ですが、今作ではヒール役的側面が強いですね。
言い分としてはどちらも頷ける部分と頷けない部分とあって、どっちが善い悪いもないなぁと思うのですが、読者としては世良にどっぷり感情移入してしまうので、どうしても天城派になってしまう(^^;)あと、一作目の『ブラックペアン1988』でのこともあり、佐伯教授が負ける姿を見たくないというのもありますが。

 

 


以下ネタバレ~。ご注意下さい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


先に刊行されている【田口・白鳥シリーズ】や、海堂さんの別シリーズでは【バブル三部作】から数十年後の東城大学医学部付属病院が描かれている訳で、そこでは佐伯教授、天城、世良のいずれも東城大学には残っておらず、天城が設立しようとしている「スリジエ・ハートセンター」も存在しないので、海堂さんの“桜宮サーガ”を少しでも読んだことのある読者には、佐伯教授の医療改革や天城の「スリジエ・ハートセンター」設立が失敗に終わってしまう未来がもうわかってしまっている訳です。


そう。ですので私も、世良に感情移入すればするほど気が重くなってページをめくる手が止まってしまい、読み切るのに何日もかかってしまいました。結果がわかっていてもハラハラしてしまう面白い作品ですけどね。


高階の勝利が目に見えているので天城派としてはより高階が憎らしく、「この腹黒ヤロー」とかついつい思ってしまう(-_-)
でも、それは私が天城・佐伯派だからそう感じてしまうだけかと最初のうちは思っていたのですが、高階が天城の足を引っ張る為に手術が思い通りにいかないように画策する行為は『ブラックペアン1988』の頃の“患者の命が第一優先だ”という考えから逸脱してしまっていて「高階、どうしちゃったの」って感じでショックと怒りが。

 

「世良君は、天城先生が目指した、カネがすべての医療施設を作りたいのか」

「俺はただ、天城先生のさくら並木を見てみたかった。それだけです」

「天城先生の発想は今の日本では受け入れられない」

世良は高階をにらむ。世良の視線が、高階の身体に突き刺さる。

「その言い方は卑怯です。今の日本が受け入れられないのではなく、高階先生が天城先生を受け入れることができなかっただけじゃないですか」

 

“カネがすべての医療など間違っているに決まっている”と、自身の行為を日本の医療界の為だのなんだのと正当化し、手段を選ばずに天城を追い落とした高階ですが、その実は「ただおまえが気にくわなかっただけだろう」と。

この高階の欺瞞は読者としても読みながら感じ取っていたので、最後に下っ端の世良が講師であり今や佐伯教授という巨星を撃つことに成功した高階にキッパリと言い放つシーンは悲痛さはありますが、どこか爽快です。「よくぞ言った!」とスッキリしますね。

 

 

 

ラスト

「私は日本では愛されなかった。ささいなことに反発され、刃を向けられ、足を引っ張られる。患者を治すために、力を発揮できる環境を整えようとしただけなのに関係ない連中が罵り、誹り、私を引きずり下ろそうとする。私はそんな母国に愛想が尽きてしまったんだ」

と、世良に言い残して天城は日本を去ってモンテカルロに帰ってしまいます。


他の誰よりも医療に対し真摯な天城だが、考えも技術もあまりにも高みに昇りつめすぎてしまっているがために、周りに阻害され、くだらない院内政治によってつまはじきにされてしまう。天城が疲れてしまうのもわかります。そもそも天城先生に“院内政治”は似合いませんからね。
確かに天城先生のような自由奔放な天才には、日本よりもモンテカルロのほうがずっと似合っているのでしょうが、天城雪彦という天才医師にすっかりと魅了されてしまった世良は諦めきれず、モンテカルロに手紙を出し続けます。そして、熱意によって天城に“スリジエ”の再チャレンジを決意させることに成功。喜び勇んでモンテカルロまで天城を迎えに行くのですが、

が、が、、、、
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・

 

 

 

 


わたくし、結末を読んで大変なショックを受けてしまいました。


いやぁ、前の文面で何となくソレっぽい空気を匂わせているなぁとは少し感じたのですが、一番あって欲しくないことなので「そんなハズないよね」と頭の中で否定していたのですよ、そしたら・・・・・・
もう、私も世良同様、ショックショックですよ(T_T)

 

世良の天城への思いにくわえ、天城の方も世良に大いに信頼を寄せていたのだということがわかる事実が終盤ではどんどんと提示され、切なさ・哀しさに拍車がかかります。
読者としては二人でまた「革命」に挑む姿、天城が世良にジュノ(青二才)と呼びかける姿が見られないことがただただ残念でなりません。

 

この辛く哀しい体験の後、世良がどうなったのかは海堂さんの別シリーズ

極北クレイマー』

 

 

『極北ラプソディ』

 

 

 に続いています。(刊行は極北~の2冊の方が先)

詳しくはこちら↓

 

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また、今作では“ジャネラル・ルージュ(血まみれ将軍)”こと速水晃一がお話に結構絡んできます。

 

 

 

“伝説の始まり”に触れられているので、ファンは必見。

 

海堂尊作品は奥が深いですね~。天城の精神はどのように引き継がれているのか、気になるところです。

 


ではではまた~

 

 

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ブレイズメス1990 (講談社文庫)

ブレイズメス1990 (講談社文庫)

 

 

スリジエセンター1991 (講談社文庫)

スリジエセンター1991 (講談社文庫)