夜ふかし閑談

夜更けの無駄話。おもにミステリー中心に小説、漫画、ドラマ、映画などの紹介・感想をお届けします

『本と鍵の季節』感想 米澤穂信の新シリーズ(?)開幕~

こんばんは、紫栞です。
今回は米澤穂信さんの『本と鍵の季節』の紹介と感想を少し。

本と鍵の季節 (単行本)

 

久しぶりの青春ミステリ
2018年12月に発売された米澤穂信さんの2年ぶりの新刊ですね。
米澤さんは量産型の作家さんではないので、私個人としては新刊をいつも待ち望んでいる状態なんですが、1ヶ月ほど発売されていることに気づけていませんでした・・・(-_-)
まったく小説の新刊ってのは知らないうちに出ていますよねぇ。そう思うのは私だけでしょうか。特に集英社刊行の文芸は見落としがち。漫画はすぐわかるんですけどね。米澤さんの本が集英社から刊行されるのは追想五断章』以来でしょうか。

 

 

今作は図書委員の高校生男子二人が主役の謎解き青春ミステリで全6編収録の連作短編集。


古典部シリーズ】を始めとして学生が主役の青春日常ミステリで知られる米澤さんですが、

 

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近年は『満願』『王とサーカス』など、社会人が主役の大人向けミステリが多かったので、学生が主役の青春ミステリは久しぶりです。
古典部シリーズ】【小市民シリーズ】が何年も停滞しているので、新しい青春ミステリを書く前にそっちを・・・・・・とか、若干思ってしまったんですが(^^;)、読んでの率直な感想は「めちゃくちゃ面白いじゃないの」と、いったものでした。やはり米澤さんは期待を裏切らない作家さんですね・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


目次
●913
●ロックオンロッカー
●金曜に彼は何をしたのか
●ない本
●昔話を聞かせておくれよ
●友よ知るなかれ

の、6編収録。

古典部シリーズ】が完全な日常謎解きなのに対し、今作は青春ミステリとはいっても、他の学生シリーズと比べると扱う事柄はもっと重めというか、もろに犯罪が絡んでいるものもあるので、『満願』などで興味を持った人にも受け入れられやすい連作短編だと思います。

 

 

『満願』『真実の100メートル手前』『王とサーカス』などの大人向けミステリを経たからこそ、お馴染みの青春ミステリがより洗練されたものになっている印象も受けますね。


私は最初、てっきり他学生シリーズと同じ日常謎解きものだと思っていたので、1話目の「913」は途中からの展開に驚いてしまいました。
公式サイトの米澤さんと青崎有吾さんの対談によると、1話目の「913」を書き上げたときは独立した短編のつもりだったものの、編集さんに登場する男子高校生たちの先を読みたいと言われて連作小説として再構成したのだそうです。編集さんに感謝ですね。

 

 

 

堀川と松倉
ともに高校2年生の図書委員である堀川次郎と松倉詩門の二人が、利用者のほとんどいない放課後の図書室に持ち込まれる謎に挑む様子が描かれる今作。

堀川次郎は童顔で頼まれ事の多い人物。今作の6編は全てこの堀川が「僕」として語り手を務めています。語り手なので容姿などの描写は少なめですね。松倉詩門は背が高く顔もよくて目立つ存在。「快活でよく笑う一方、ほどよく皮肉屋のいいやつ」と、語り手の堀川は称しています。かなり大人びた言動をする人物ですね。まぁ堀川もずいぶん大人びているんですが。高校生男子ってもっと馬鹿な言動するもんじゃないかなぁ~とか思うんですけど。進学校だと違うんですかね?

米澤さんの作品で男子二人がメインのものは珍しく感じますが、今作では男子高校生二人の小気味よい掛け合いが楽しいです。


コンビもののミステリで一方が語り手を務めている場合は、もう片方が探偵役で語り手はその探偵の助手的役割をし、活躍を読者に伝えるワトスン役方式を採られることがほとんどですが、この『本と鍵の季節』ではそうではなく(最初はそう見せかけていますが)、堀川と松倉の二人ともがW探偵役を務めています。互いに考えを補い合って真相を導いていく形ですね。

 

「俺にとって、疑うってのは性悪説だ。自分に笑顔で近づいてくる人間はどいつもこいつも嘘つきで、本音を見抜くにはこっちにも策がいると考える。ところがお前は、そうじゃない。性善説と言えば言いすぎだが、相手の言葉の枝葉に嘘はあっても、その根底にはなにか真っ当なものがあると信じている節がある」

 

上記は松倉が堀川の事を称していうセリフ。


それぞれ違ったアプローチが出来るということで、言ってみれば二人三脚で謎を解明していきます。
堀川のこういった部分は本の後半で幅を利かせてきくるもの。序盤は松倉の謎解きがクローズアップされていますが、後半ではいつのまにか堀川の謎解きに主軸が移るという構造ですね。

 

図書委員活動に着眼されている設定もなかなか珍しいですよね。私も高校時代は図書委員だったのですが、図書室自体が小規模な学校だったので、貸し出しの受付作業以外はほとんど司書さんがやってくれていた覚えが。当時は本好きでもなかったし、今作の二人のように書籍の分類に関してとか、装丁とかサイズとか、全然詳しくなかったですね。設定では堀川も松倉も読書家ではないってことなのですが、「詳しすぎでしょあんたら」って感じでした。進学校だと図書委員をやるからにはこれくらいの知識はあって当然なんですかね?
図書委員の知識が遺憾なく発揮されているのは4話目の「ない本」。図書委員の設定がフルに活用されていて今作ならではです。

 

 

 

 

 

 


推理と友情
公式サイトの対談によると、今作では色々なパターンのミステリに挑戦するのが目的だったのだそう。確かに色々な切り口からの謎解きが展開されつつ、そのどれもが綺麗な道筋を経て着地する手腕はいつもながらお見事です。


それにくわえてさらに見事なのは、今作では推理と堀川・松倉の二人の友情が密接に関わっている点です。それぞれのお話を通してお互いを知り、お互いに知り得ないことを知っていく連作ミステリで、この本の中のどのお話が欠けてもこの本は駄目なんだということが最後まで読むとよく分かります。二人の友情自体が大きなミステリになっている感覚ですね。

流れとしては、3話目の「金曜に彼は何をしたのか」のラストでなにやら不穏な空気が漂い始め、終盤の2作「昔話を聞かせておくれよ」「友よ知るなかれ」で友人の思わぬ苦しみが明らかになり・・・てな展開です。

 

米澤さんの青春ミステリは青春のキラキラ感ではなく、青春のやるせない苦さが描かれているものがほとんどですが、今作もやはりかなりのほろ苦さ・ビター感がつきまとっています。終盤の2作で決定的になっていますね。ですが、今作では苦さの先に友情が浮かび上がってくるので、読後は爽やかで穏やかな気分になれます。

 

終盤、二人はお互いの間でどうにも解り合えない部分があることを痛いほど実感します。それを知ったうえで友人関係を続けるのか、続けることが出来るのか。
しかし、そもそも人と人が完全に解り合うことなど不可能だし、友人だからといって解り合う必要なんて端からない。理解ではなく、問われるのは“受け入れるか否か”。さて、二人はどのような答えを出すのか・・・・・・と、まぁコレは読んでのお楽しみで。

 

 


続編
さて、公式サイトの対談で青崎さんからの「今回の次郎と詩門の物語は今後も続いていくんでしょうか?」の質問に対し、米澤さんは「続けてみたいなとは思っています」と返答しています。
なんと嬉しい御言葉!ちょっと含みを持たせた言い方ではありますが・・・(^^;)


いやぁ、もう是非シリーズ化して欲しいところです。今作のラストが綺麗な形で終わっているので、続きを書くのは野暮なのかもって気がしなくもないですが、堀川と松倉の二人はまだまだ読み足りない魅力的なキャラクターなので、個人的には続編を熱望です。編集さんにまた頑張って貰いたいところですね(笑)

 

※2022年11月に続編発売されました!詳しくはこちら↓

 

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とにかく多くの人に読んで欲しいオススメの本ですのでちょっとでも気になった方は是非是非。

 

 

 

 

ではではまた~

 

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『絶対正義』ドラマ 原作小説・あらすじ ネタバレ

こんばんは、紫栞です。
今回は秋吉理香子さんの『絶対正義』をご紹介。

絶対正義

2019年2月から東海テレビ・フジテレビ系で放送予定の連続テレビドラマの原作小説です。

 

あらすじ
「正義こそ、この世で一番大切なものよ」
4人の女たちに届いた一通の招待状。紫色の上品な封筒に、リンドウの花のエンボス加工を施した紙、リンドウの図柄の切手。差出人は高規範子。5年前に殺したはずのあの女――。

高校に入学して間もない頃、和樹・由美子・理穂・麗香の4人は自分たちの仲良しグループに範子を招き入れた。範子は礼儀正しく、一つのルール違反も犯さず、また他者に対しても決してルール違反を許さない。いつでも罪を指摘し、正義を愛していた。
範子はすごい。えらい。誇りだ。
高校時代、範子の「正義」に和樹たち4人は窮地を助けられてきた。
だが、同窓会をきっかけに社会人になってから再開し、また5人で集まるようになると、範子の正義は和樹たち4人に牙をむき始める。それは高校時代から4人の間にそれぞれあった範子への違和感。範子の正義は強烈で異常だった。間違えを一つも許さず、罪をあら探しし、人の揚げ足ばかり取って偉そうに指摘する・・・――あんな女、ほんとはずっと大っ嫌いだった。

範子の「絶対正義」に4人は追い詰められ、殺害し、遺体を隠した。範子は確かに死んでいた。5年経った今、なぜ死んだはずの範子から招待状が届くのか?範子殺害後、順風満帆に過ごしていた4人に混乱と恐怖が襲う――。

 

 

 

 

 

 

 

 

イヤミス
『絶対正義』は2016年に単行本が刊行。ドラマ化をうけてか、今年1月に文庫版が発売されたので、

 

絶対正義 (幻冬舎文庫)

絶対正義 (幻冬舎文庫)

 

 

ドラマ化と秋吉理香子さんの作品だということで気になって読んでみました。

作者の秋吉理香子さんは映画化もされた『暗黒女子』の原作者として有名ですかね。『暗黒女子』については以前にこのブログでも本を紹介しましたが↓

 

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読んだ後に嫌な気分になるミステリ「イヤミス」のジャンルで有名な秋吉理香子さん。

今回も嫌な気分になりつつも読み進めることを辞められない面白さで一気読みでした。
『暗黒女子』同様、この『絶対正義』もド直球のイヤミスです。各章、視点が一人一人順番に描かれる構成や、女友達間での人間関係を描いている点、周りを振り回す強烈な人物が話しの中心になって展開する流れなども同様ですが、『暗黒女子』はお嬢様学校という、ある意味閉鎖空間での特殊な空間や雰囲気を楽しむのに対し、この『絶対正義』では学生生活を経て社会人となってからの女性たちの生活がそれぞれ描かれているので、読者に「私もこんな人と関わってしまったら・・・」と、リアリティのある、思わず想像してしまう恐怖を感じさせるお話になっています。

あと、『暗黒女子』は突き抜けすぎていてもはや嫌とか通り越して爽快感があるラストでしたが、『絶対正義』のラストはひたすら後味が悪いです。ほんと嫌です。イヤミス(-_-)

 

 

ドラマ
ドラマは東海テレビ制作の「オトナの土ドラ」枠での放送です。この枠は通常のドラマ1クールである3ヶ月ではなく、2ヶ月間での放送らしいですね。原作は280ページほどで長編としてはそこまでのボリュームはないので、それくらいの放送期間が丁度良いのかもしれません。

 

キャスト
高規範子山口紗弥加
西山由美子美村里江
理穂 ウイリアム片瀬那奈
今村和樹桜井ユキ
西森麗香田中みな実


公式サイトによると、主演の山口紗弥加さんは前クール『ブラックスキャンダル』に続いて2作目の主演作となっていますね。原作ですと範子は心情描写が一切無い人物ですので、主演となるとドラマでは範子がどのように描かれるのか気になるところ。各話、他キャストの一人一人と順番に対峙していくんでしょうかね?バチバチの女優対決に期待です。

田中みな実さんは今作が初女優デビュー。麗香は芸歴の長い中堅の演技派女優という設定なんですが・・・デビュー作がこの設定の役なんて何だか過酷ですね。こちらも気になるところです。

 

 

 

 

 

 

 


以下ネタバレ~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

正義
高規律子は名前の真ん中の二文字が表すように、みんなの「規範」である人物。頭が良く、服装や髪型は地味、礼儀正しく、規則違反は絶対に犯さない。学生時代は親たちにとっての「理想の子供」、社会人になってからは「尊い人」。
しかし、関わるうちに分かってくるのは、範子の「正義」はどう見ても行き過ぎで、もはやクレーマーのようなものだということ。人間味は欠片も無く、友情も愛情も到底持っているとは思えず、融通は一切利かず、ただただ法律違反者を断罪することに耽っている依存者で異常者。

和樹たち4人は学生時代から範子の異常なほどの「正義」に息苦しさを感じつつも、範子の「正義」の主張に度々助けられて恩を感じ、周りも範子の「正義」を賞賛するので、「間違い無く正しい範子を疎ましく思う私は愚かしい」と思ってしまい、負の感情を周りに吐露することが出来ない。範子を批判すれば自分が批判される。どんなに異常で常識外れなことをしていても、範子の行いは規則・法律の上では「正義」だからです。

正しければ、どんなことをしても良い。
正しければ、全てが許される。
正しいことは、万能なのだ。

よく、「こんな世の中では真面目に規則を守って生活していても馬鹿馬鹿しい目に遭うだけだ」といった意見を抱いたり、実際に開き直って傍若無人に振る舞ったりする人もいますが、何かあって公の場に立たされたとき、やはり圧倒的に強いのは正しい行いをしていた方。
範子は善意から「正義」を遂行しているわけではない。目的は人を糾弾し、断罪して快感を得ること。“それ”には法律が、「正義」が、都合が良い。それだけのこと。

 

範子は法律が「絶対の正義」と位置づけて一連の行動をしていますが、法律が絶対の正義だなんて、現実的には強引すぎる意見です。結局は人が作ったものだから“絶対”なんてある訳ないし、目安ってだけであやふやなもの。と、いうか、「絶対」なんて断言出来るものなどこの世の中では無いに等しい。だからまぁ、あやふやな中で折り合いを付けて生活しているのが社会生活の現実。

 

フリーライターの和樹は本を完成させるために懸命にはたらいている。

主婦の由美子は働かない夫に苦しめられつつも子供を守ろうと奮闘している。

起業家の理穂は不妊治療で思い悩んでいる。

女優の麗香はワケアリの恋人との関係を周りに迷惑がかからぬように気を配りながらひっそりと続けている。

 

4人とも苦悩しつつも善良に生きようと頑張っている無害な人間ですが、範子は無害な人間にも容赦ない。あやふやを許さず、「絶対の正義」を狂気のように押し付ける。追い詰められた4人は善良に生きようとしていたにも関わらず、「正義」の押し付けによって最大の過ちを犯すことになってしまう。
まさに行き逢ってしまった不幸。ホラーの定石。

 

 

 

以下さらにネタバレ~

 

 

 

 

 

 

 

 

ラスト
招待状を4人に送ったのは範子の娘・律子。ドライブレコーダーの映像を観て4人が犯人だということを知り、「思い出の会」で大勢の人間の前で映像を晒して公開処刑してやろうとワザと思わせぶりな招待状を送って罠を仕掛けたというのが真相。

 

ですがこの娘、4人を憎んでいたわけではなく、むしろ大いに感謝しています。「母を殺してくれてありがとう」と。範子はあのような「正義」しかみていない人間。友人である4人があんなに苦しめられていたのなら、一緒に生活している娘の苦痛は想像するに堅くないところ。排除したがり、日々母に対して死に繋がる小さな罠を仕掛けていたのです(※いわゆるプロバビリティーの犯罪)。結果的に4人が都合良く殺してくれた訳ですが。
こんなことをしたのは母親の復讐の為ではない。では何のためなのか


――4人を断罪したいという欲求が抑えられなくなったから。

 

つまり、母親と同じように人を断罪する快感を得てしまったんですね。範子は死んでも、娘である律子が母と同じ所業を繰り返していく。実は範子も母が存命中は躾の厳しさに反発していたが、母が事故死した後にあんな様になったらしく・・・。

もしかしたら・・・・・・母も律子と同じように、罪を犯さない方法で祖母を排除したのではないか?そしてそのことをきっかけに正義に目覚めたのではないだろうか?
 だとしたら母も、いつか娘に排除される可能性を考えていたかもしれない。しかし、その方法が法を犯すものでさえなければ、わたしに葬り去られても良いと思っていたのでは――


人間というものは正義によって誰かを断罪すると、脳の快楽をつかさどる部位が活性化し、麻薬を摂取した時と似たような快感を得られるらしい。母の場合、その傾向が通常の何倍も強かったのではないか。そしてそれが、きっと律子にも受け継がれているのだ。


律子は断罪に目覚め、次の獲物を探して舌なめずりしているシーンでお話は終わっています。家系で受け継がれていく、連鎖ラスト。個人的にはこういった「世に放たれっぱなしです」ラストは好きではないのですが、こういった終わり方もまたホラーの定石ですね。

 

 

不自然
恐ろしくも面白く読めた今作ですが、読んでいると所々不自然さは感じます。


範子ですが、これ、ワザワザ4人に自分を殺すようにプレッシャーをかけているようにしか思えませんね。しかも脅迫じみた行いをするのも4人同時期で、そんな中で4人と一緒に車に乗って山に行く・・・。今日この日に皆で私を殺してくれと言わんばかりで、行動のしかたがあまりに馬鹿すぎるような(^^;)
人間らしい感情が欠落していたから、4人の自分への嫌悪感がわからなかったんですかね?それとも破滅願望でもあったんでしょうか。娘を覚醒させる為なんていったらファンタジック過ぎますしねぇ・・・。

 

範子が六法全書丸暗記しているわりには専業主婦なのも疑問。法律家にでもなりゃいいのに。まぁこんなに融通が利かない人間には無理か。でもそれだと、こんなでよく家庭生活が出来たなとも思いますね。結末を読む前から「こんなで旦那や娘、まともでいられるのかい?」と疑問でした。娘はラストでやっぱり苦痛を感じていたことが明かされていますが、夫はどう思っていたのか・・・分からずじまいです。

 

そもそも、こんな融通が利かない人間が女友達の輪に溶け込み続けていること、周りに受け入れられていることも不自然だと思います。実際はどんな人間も毒を吐きたいものだし、いくら正しいとはいえ、一々法律を持ち出してベラベラ言い出すような面倒な人、皆距離をおいて疎外するのが自然かと。

 

個人的に一番ドン引きしたのは、範子が理穂に卵子提供を持ち出すところですね。なんでこの行為が「正義」なのかというと、アメリカでは卵子精子の提供、代理母出産が広く認められていて法も整備されている。つまり、子供を持つ権利が法的に認められている。であれば、不妊である理穂は夫の権利を侵害している」と、いうのが言い分・・・・・・。
飛躍しすぎだし、もはや正義とか関係なくただのお前の持論じゃないかって感じですが(^_^;)
しかし、嫌いな女と亭主の子供を自分がお腹を痛めて産む・・・・・・考えただけでゾッとしますね。一番のホラーでした。


そんなこんなで、ミステリというよりはホラーを読んでいる感覚でした。(ハッキリ言って、娘が招待状の送り主なのは予想がつきますからね・・・)一気読み必須の作品ですので、ホラー映画を観る要領で夜長に読んでゾッとしてみてはどうでしょう。ドラマで気になった人も是非是非。

 

絶対正義 (幻冬舎文庫)

絶対正義 (幻冬舎文庫)

 

 

 

暗黒女子

暗黒女子

 

 


ではではまた~

『アイネクライネナハトムジーク』伊坂幸太郎の恋愛(出会い)小説~

こんばんは、紫栞です。
今回は伊坂幸太郎さんのアイネクライネナハトムジークをご紹介。

アイネクライネナハトムジーク (幻冬舎文庫)

2019年公開予定の映画の原作本ですね。


特殊なきっかけ
アイネクライネナハトムジーク』は恋愛がテーマの連作短編集。
伊坂さんで恋愛小説というのは珍しいですが、こちらは執筆のきっかけがミュージシャンの斉藤和義さんから「恋愛をテーマにしたアルバムを作るので、『出会い』にあたる曲の歌詞を書いてくれないか」と依頼が来たことによるらしいです。

伊坂さんは斉藤和義さんの大ファンだと公言しており、システムエンジニアを辞めて小説一本でやっていこうと思ったきっかけになったのは斉藤和義さんの曲を聴いたからなんだとか。※こちらの本で語られています↓

 

伊坂幸太郎×斉藤和義 絆のはなし

伊坂幸太郎×斉藤和義 絆のはなし

 

 

こう言った話が斉藤和義さんの耳に入りこのような依頼がきた訳ですね。
しかし伊坂さん、いわゆる「恋愛もの」にあまり興味がないらしく(読者としても今までの作品から感じ取れる)悩んだものの、大ファンであるから一緒に仕事が出来るチャンスを逃したくなくて「作詞は出来ないから小説で」とお返事をして、必死で自分でも楽しめる『出会い』の話を考えたんだとか。
そうして出来たのが本の一つ目の短編「アイネクライネ」で、結果、この短編の文章を使う形で斉藤和義さんは『ベリーベリーストロング~アイネクライネ』なる曲を制作。2007年3月リリースのアルバム「紅盤」に収録されました。

 

 

この曲、私もちょっと聴いてみたんですが、かなり小説の内容とリンクしたものになっています。本と一緒に楽しむべき一曲ですね。


『ベリーベリーストロング~アイネクライネ』がシングルカットされることになり、シングルの初回限定版の付録用に書かれたものが本の二つ目の「ライトヘビー」

 

君は僕のなにを好きになったんだろう/ベリーベリーストロング~アイネクライネ~(初回限定盤)(DVD付)

君は僕のなにを好きになったんだろう/ベリーベリーストロング~アイネクライネ~(初回限定盤)(DVD付)

 

 

「ライトヘビー」では“斉藤さん”たる謎の人物が登場。百円を差し出すとその人の悩みにあった曲のフレーズをパソコンで流してくれるということで、作中で斉藤和義さんの曲の引用が数カ所出て来ます。斉藤和義さんのファンにはたまらないお話ですね。

 

 

 

目次
●アイネクライネ
●ライトヘビー
ドクメンタ
●ルックスライク
●メイクアップ
●ナハトムジー

本のタイトルの『アイネクライネナハトムジーク』はモーツァルトの楽曲名で、非常に有名な曲。タイトルは知らずとも、曲を聴けば誰もが分かる曲ですね。

 

アイネクライネナハトムジーク 第2楽章

アイネクライネナハトムジーク 第2楽章

 

 

意味はドイツ語でアイネ(ある)・クライネ(小さな)・ナハトムジーク(夜の曲)。「ある小さな夜の曲」。小夜曲とも翻訳されています。

上記で「恋愛がテーマ」と書きましたが、実際読んでみると“恋愛”というよりは人と人との“出会い”がテーマの連作短編集といった感じです。後半の3話などは恋愛色はかなり薄いですしね。


各話、描かれているのはとてもささやかな日常なんですが、その細やかな日常の中に奇跡のような“出会い”があり、そして繋がっていく。アイネクライネ(ある小さな)出来事で始まる物語はナハトムジーク(夜の曲)として集約される。


いつもの伊坂幸太郎作品のように泥棒・強盗・殺し屋・超能力・殺人鬼といった犯罪に絡んだものや奇抜な設定なども出て来ませんが、

 

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一つ一つの事柄、人物が綺麗に繋がっていく連作短編の作り方は堂に入ったもので“いつもの伊坂幸太郎作品”だといった印象。

「新鮮でありつつも紛れもなく伊坂作品」といった感じでしょうか。伊坂幸太郎作品の持ち味でもある軽快でしゃれっ気のあるセリフの応酬も通常通り愉しめます。

 

 

 

 

 

 

 

映画
2019年秋公開予定で映画化が決まっています。オール仙台ロケなんだそうな。原作も仙台が舞台。作者の伊坂さんは現在仙台市在住なので、舞台として描くことが多いようです。

 

キャスト
佐藤三浦春馬
本間紗季多部未華子
藤間(佐藤の先輩)-原田泰造
織田一真(佐藤の友人)―矢本悠馬
織田由美(一真の妻)-森絵梨佳
織田美緒(娘)-恒松祐里
美奈子(由美の同級生)-貫地谷しほり
板橋香澄MEGUMI
亜希子(美緒の友人)-八木優希

久留米和人(美緒、美奈子の同級生)-萩原利久
久留米マリ子(和人の母親)-濱田マリ
小野学成田瑛基
斉藤さんこだまたいち


あと、仙台出身ということでサンドイッチマンの二人が出演予定ですが、何の役かは明かされていません。
久留米和人は小説ですと「ルックスライク」の主役なのですが、母親の下の名前は作中では出て来ません。

最初、映画化の発表では「三浦春馬主役!」と、ドーンと紹介されていたのですが、原作は各話主役が異なる短編集で、どの主役が中心になっているとかもないので「え?主役ってどの主役?」と困惑しましたが、やっぱり一つ目の短編の主役・佐藤だったようです。


映画の前情報などから考えると原作より佐藤の出番が多くなるか、中心人物として配置するのかな?と思います。確かに、原作そのままだと中心人物がいないので映画として纏めづらいんじゃないかとかお節介なことも考えてしまいますので(^^;)そういった作り替えがされるなら納得。
本間紗季とかも、原作では本当にチョイ役なので、多部未華子さんが演じるならもうちょっと登場シーンが多くなるんじゃないかと予想。

 

派手派手しさのない原作なので、映画ではどのように味付けがされるのか気になるところですね。斉藤和義さんの曲は映画で使われるのでしょうか?使うべきでしょう!って思いますけど・・・。

 

 

 

 

 

以下若干のネタバレ~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

頭を使う“繋がり”小説
上記で書いたように、この小説は登場人物達が繋がっていくのが読んでいて愉しいのですが・・・何というか、あまりに巧妙に絡み合って繋がっているので、読み進めていくにつれ人物相関図を解明していくのに躍起になってしまい、特に最後の「ナハトムジーク」では時系列も現在と過去を行ったり来たりでこんがらがってしまいで、ちょっと読んでいると疲れてしまう・・・と、いうのが正直なところ(^^;)

気分的には、もはやミステリを読んでいる感覚。通常の恋愛小説では使わない部分の頭を使いますよ、ええ。

 

読み返しても最後まで分からないのがドクメンタの主役で佐藤の職場の先輩・藤間の奥さんの旧姓ですね。
あと、「メイクアップ」に登場した詐欺師かもしれない男、辻井なのか津川なのか、はたまたどちらも偽名なのか。ひょっとしてこの詐欺師疑惑の男も作中の他人物なのかとか。この「メイクアップ」は“一勝一敗”の結果もどうなったのか気になっちゃいます。

 

思わせぶりだし、他が見事に繋がっていく物語なので、こういったあぶれた部分が引っかかってしまいますが・・・う~ん、でもまぁ改めて考えてみると、別に全部が全部繋がる必要はないですよね。そんな決まりないというか、そもそもミステリ小説じゃなくって恋愛小説だし(笑)。


特に伊坂幸太郎作品の読者はミステリ脳で読んでしまう癖というか、教育(?)がされているので・・・まぁ陥りやすい罠ですかね。もっと深読みせずにフラットに読むべき小説なのかもしれません。

とはいえ、気になるもんは気になるもんで。ネットで調べていて驚いたのですが「ルックスライク」に登場する久留米和人、織田美緒の同級生「水沼」“斉藤さん”なのではないかという意見があるみたいですね。“バンド活動していて長身”などの部分が斉藤和義さんをモデルにしているんじゃないかと。作中の“斉藤さん”も斉藤和義さんをモデルにしているから、イコールで繋がるんではないかってことですね。
これは初読では私は思いもしなかったので「おお!」となりました。確証はないですが、それはそれで面白いですよね。映画でどんなことになっているのかまた気になります。


恋愛小説でみられる濃密さ・生々しさなどは薄く(恋愛小説はそこがあってこそだという意見もあるでしょうが)、ミステリ的な面白さにも溢れた小説なので、普段恋愛小説を読まない人にもオススメです(実際私がそう^^;)。読後の爽やかさが確約出来る素敵な小説ですので映画化などで気になった方は是非是非。

 

 

 

 

ベリー ベリー ストロング   ?アイネクライネ?(シングルバージョン)

ベリー ベリー ストロング   ?アイネクライネ?(シングルバージョン)

 

 


ではではまた~

 

高遠遙一 登場・関連事件まとめ

こんばんは、紫栞です。
今回は【金田一少年の事件簿シリーズ】の「地獄の傀儡師」こと高遠遙一が登場する事件をまとめて御紹介したいと思います。

高遠少年の事件簿 (講談社コミックス)


地獄の傀儡師・高遠遙一とは
金田一少年の事件簿シリーズ】及び『金田一37歳の事件簿』内においての登場人物。母親を死に追いやった人物達を殺害する事件を起こし、金田一一に真相を看破され逮捕されるも脱獄。
その後、「地獄の傀儡師」として殺意を持つ人々を独自の嗅覚で見つけ出し、殺害を唆して殺人計画を提供するという犯罪コーディネーターを生業にして芸術犯罪を追求。
金田一一とは度々事件でわざわざ招待したり、偶然遭遇したりして、その度対立・挑発しあうが、お互いに能力を認めているので稀に共闘して事件を解決させることもあるといった典型的なライバル関係にある。
犯罪に手を染める前はマジシャンを目指して修行していた経験から、計画する犯罪内容にはマジック要素が盛込まれた物が多い。

 

 


では登場する作品を刊行順にご紹介。
以下、大いにネタバレを含みますのでご注意。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


第Ⅰ期
FILEシリーズ
ファイル15『魔術列車殺人事件』

 

高遠さんの初登場作で【金田一少年の事件簿シリーズ】のファンなら絶対に外せない1冊。私も特に好きな作品です。

高遠さんはこの時は「幻想魔術団」のマネージャーをしており(母親の死の真相を探るために潜り込んでいた)、立場を利用して魔術団のメンバーをマジックショウさながらの奇抜で大胆な計画を用いて3人を殺害。計画から実行まで全て自身で行った事件はコレのみで、この事件の段階では犯行理由は母親の復讐という私怨によるものです。
マネージャーとして気弱な人物を演じていたのが一転、解決編で金田一に犯人として指摘されると徐々に態度を豹変させるところが圧巻です。明らかにコレまでの犯人達とは一線を画す存在感。初読のときは通常運転で別段特別感もない事件と思っていたので、解決編を読んでいて「おおお」と興奮しました。

名言の、
「君と同じですよ金田一君!ただ僕は人を欺くことに快感を覚え――君はそれを見抜くことに“使命感”を感じているようですがね・・!」
や、
「血ノヨウニ紅イ薔薇」
とか、
「Good Lack!!」
など、オキマリのセリフもこの時点ですでに出て来ます。

ラストに母親である近宮玲子が仕掛けた罠に気が付いて身を引くところがまた良いですよね。
復讐が成就した直後、刑務所から脱獄します。

 


ファイル19『速水玲香誘拐殺人事件』

 

金田一に「犯罪コーディネーター」としての顔を見せる最初の事件。

この事件はFILEシリーズの最後で一端ここで一区切りなので(実際はコミックスのデザインをリニューアルさせただけなんですけどね)満を持して高遠さんを登場させた感じ。
高遠さんは変装して芸能プロダクションの社長秘書・小渕沢秀成として潜り込み、事件の経過を観察。最後の最後、駅の反対側のホームから金田一に電話をかけてくるまで正体は明かされませんが、怪人名が「道化人形」だったり、シルエット部分でマリオネットをいじっている場面があったり、途中で犯人が「血ノヨウニ紅イ薔薇」と言ったりなど、作中で色々と匂わせています。
犯行には直接手を貸しませんが、せっかくの計画を台無しにしたということで、自供中に犯人を自殺に見せかけて毒殺します。

 


Caseシリーズ


Case5(ファイル24)『露西亜人形殺人事件』

 

コミックスの著者のコメント欄で「原作者一押しの最高傑作がコレです」と当時天樹さんが仰っていた作品。

最高傑作かどうかはさておき、高遠さんを語る上では『魔術列車殺人事件』の次に外せない作品で重要です。
今作では高遠さんは金田一同様、暗号解読レースの助っ人として参加して事件に巻き込まれる立場で加害者側じゃありません。『速水玲香誘拐殺人事件』のときはあんなに完璧な変装をしていたのに、何故か今作ではいつもの恰好に仮面を被っているだけで隠す気ゼロ。奇術師のスカーレット・ローゼスというふざけた偽名を名乗り、金田一にもすぐに見破られます。

金田一と“どっちが先に犯人を突き止めるか”の賭けをし、「自分が勝ったら犯人を殺す」と明言して「よし!二人の推理対決だ!」といった運びに。
が、最終的に犯人特定の為に金田一の提案した芝居にノリノリで応じてくれるし、犯人に同情したのか、自殺を止めて改心の言葉を投げかけてくれるし、金田一との約束を守ってくれるし、オマケにマジックも披露してくれるしで、結果的に金田一と協力して事件を解決させた形になっています。この事件ではやっている事だけ見るとかなりいい人っぽい(笑)。単純な殺人鬼ではない、高遠さんの人間味が垣間見られる作品ですね。今作では誰も殺傷せぬまま逃亡。
「私と君は決して交わることのない平行線―――だが平行線は交わりこそしないがいつも隣にある・・!」
の、お馴染みの平行線ウンヌン発言は今作のラストで出て来ます。以降、平行線平行線と事あるごとに発言するように。

 

 

短編集
明智警視の優雅なる事件簿
FILE4『幽霊ホテル殺人事件』

 

 こちらは明智警視が主役の短編集。

『魔術列車殺人事件』より2年前、明智さんのロサンゼルス時代に遭遇した事件で、高遠さんは謎の東洋人マジシャン「マスクマン」としてホテルのディナーショーに出て来ます。何故か演目が終わってプライベートで飲んでいるときまでマスクを被っています。この時はまだ素顔を隠す必要なんてないはずなのですが・・・。バーでマスク被って飲んでいたら目立ってしょうがないですよね(^^;)
手品で明智さんに事件解決のヒントを与えてくれます(いい人・・・)。『魔術列車殺人事件』で警視庁に挑戦状を送りつけてきたのは、この事件で明智さんを“観客の一人”として目を付けたからなんじゃないか、とのこと。まぁ実際は明智さん休暇中だったんだけど・・・。
明智さんは元々近宮玲子と親交があったし、明智さんも高遠さんと奇妙な縁があるんですねぇ。この後の事件でも何回か明智さんをガッツリ巻き込む計画を立てていますから、高遠さんにとっては明智さんも金田一と同等に意識する存在なんですね。
明智さん単独の短編集なので見逃されがちかも知れないですが、決死行への伏線が仕込まれていますので、このお話を先に読んでおいた方が決死行をより楽しめます。

 

 


Case7(ファイル26)『金田一少年の決死行』

 

Caseシリーズの最終事件で第Ⅰ期完結編。

完結編ということで色々と作者の気合いを感じる作品。トリックについては色々物議がありますけどね・・・(^_^;)
新聞広告で明智さんや金田一を誘き出すという方法なのですが、細やか過ぎてちょっとどうかと思ってしまいますね。海外だし。普通は「さあ行ってみよう!」とはならないんじゃ。
最後はやっぱりハッキリとした対立構造ってことで、高遠さんは今作では王道を行く悪役っぷりを発揮してくれます。実行犯のことを思ってちょっと黄昏れたりもしますけどね・・・。剣持警部に化けるところも完結編スペシャルを感じる。冒頭で一人殺しているのが思わぬ伏線になっています。
高遠さんはここで金田一に正式に敗北を認めてお縄に。その後、夏休み前の金田一の元に謎の手紙が届いて、金田一が自転車で旅に出るところで第Ⅰ期幕引き。さて、気になる手紙の主は・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 


不定期連載
(ファイル27)『吸血鬼伝説殺人事件』

 

 前作から四年ぶりの作品。この時は金田一もまだ夏休み旅行続行中です。
高遠さんの姿は出て来ませんが、やはり第Ⅰ期最終回でのあの手紙は高遠さんからだったことが明かされます。新たな事件の「温床」になりかねない場所が書かれている手紙なんだそうな。

 


(ファイル29)『獄門塾殺人事件』

 

 久しぶりに高遠さんが本格的に登場する事件。

コレの直前の作品『オペラ座館第三の事件』のラストで高遠さんは脱獄済みです。脱獄後、金田一に送った手紙と同じ内容もものを明智さんに送っています。
「犯罪コーディネーター」として再始動で、塾講師の赤尾一葉というまたもや安易な偽名と、スケキヨみたいなゴムマスクを被っているだけという雑な変装(この頃は絵柄も雑ですね・・・)で関係者の中に紛れ込んでいます。
実行犯の一人を茎に毒が塗ってある薔薇を投げて殺害という、必殺仕事人みたいなことをやってのけています。

 


(ファイル31)『黒魔術殺人事件』

 

 「犯罪コーディネーター」続行中。

黒魔術師の黒瓜鬼門として潜入。また仮面被っています。いつもは最後まで変装のことはスルーなのに、今作では途中でちゃんと皆の前で正体を暴こうとする金田一。今作ではちゃっかり役者の代役を用意している高遠さん。ちなみにその役者さんは毒仕込まれて高遠さんに殺されちゃいます。今作では唯々非道な殺人鬼ですね。
この時の高遠さんなんですが、顔が・・顔が変・・・!ショッキングな崩壊っぷりです(T_T)中身も容姿も今までと違う・・・つまり別人!と、思いたいけど別人ではない(-_-)

 


(ファイル32)『剣持警部の殺人』

 

 少年法などがテーマの社会派な作品。

被害者達が外道過ぎて胸くそが悪くなるので、個人的には再読がキツい事件(^^;)。
今作では高遠さんのシナリオによる事件だということは最後でわかります。剣持警部が容疑者として追われるように仕組んだ模様。素顔のまま牧師に扮して少年院に通い、犯人を唆しています。大胆ですね・・・指名手配とは?

 

 


20周年記念シリーズ
(ファイル37)『薔薇十字館殺人事件』

 

「地獄の傀儡師」宛に脅迫状が届いてお話が始まるという珍しいパターン。

しかも高遠さん、人を守るのは苦手だとかで条件出して言いくるめ、金田一を助っ人に連れて行こうとします。どういう神経してんだって感じですが、まぁ能力は認めているってことですかね。
今作ではなんとずっと素顔のまま。フラワーアレンジメントをしている遠山遙治と名乗って、金田一君と七瀬さんとは友人として昔から仲良くさせてもらっています」とか言っちゃう。
金田一と美雪と三人で事件捜査するのが新鮮すぎて面白い。息の合った捜査で美雪を呆れさせています。女子のスカートに手を突っ込むシーンが衝撃的。『露西亜人形殺人事件』に続き、ファンとしては外せない作品で、『露西亜人形殺人事件』同様に今作では誰も殺傷していません。
最後は金田一との約束を守って警察に出頭するも、間髪を入れずにすぐに脱獄。どこかの廃墟に向かっています。

今作では高遠さんに腹違いの兄弟である妹がいたことが発覚し、建築家だったらしき父親の謎(育ての父親とはまた別らしい)なども出て来て、ここから新章ともいうべき“高遠さん、自身のルーツ探し”が始まります。

 

 


金田一少年の事件簿R
(ファイル39)『亡霊校舎の殺人』

 

 「犯罪コーディネーター」再開。

ですが、父親が建てたと思しき建築物を探るルーツ探しの方が主な目的らしく、芸術犯罪への意気込みは薄いような(Rに入ってからは全部そんな感じ)。事件現場にはおらず、無線で実行犯とやり取りしています。解決編はモニターでワイン片手に観察していて、まるでテレビ視聴しているかのような気楽さ。ここで高遠さんは思いがけない資金を手にしています。使い道が気になるところ。

 

 


(ファイル41)『蟻地獄壕殺人事件』

 

「犯罪コーディネーター」続行中。ルーツ探しも続行中。
途中で高遠さんが絡んでいるとわかる事件ですが、今作もやっぱりルーツ探しが主で犯行計画にはさほど執着していないように感じる。珍しく本気の変装で巳月七生(男)という高校生の振りして紛れ込んでいます。終盤で、消去法で金田一に正体を見破られるも、ページが足りないのかというくらいに思いの外あっさり逃亡します。

 

 

(ファイル47)『金田一二三誘拐殺人事件』

 

 唐突に【金田一少年の事件簿】最後の事件。

第Ⅰ期最終回と比べるとまったく特別感がない事件なんですが、最後は最後。解決編で高遠さんが事件に関わっていたとわかる事件で若干後付けっぽい。詳しくはこちら↓

 

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Rになってからちょこちょこ登場していた「Caféふくろう」の店主が高遠さんだったことが最後に明かされます。

 

 

 

 

 

 

 

スピンオフ
『高遠少年の事件簿』

 

 遂に出た!な、高遠さん主役のスピンオフ。詳しくはこちら↓

 

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明智さんと高遠さんは出身高校が一緒。ここでもまた明智さんと高遠さんとの奇妙な縁が。

 

作者は違いますが、
『犯人たちの事件簿』4巻もついでに読むべし↓

 

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今後どうなる?
さて、順番に紹介した訳ですが、こうやって順に思い返してみると高遠さんも結構キャラクターとしてその時々で変動していることがわかりますね。
高遠さんが登場する事件ばかり集めて紹介しましたが、シリーズ全体での事件順番が気になる方はこちらをご参照ください↓

 

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第1期だの、短期集中連載だの、20周年記念シリーズだの、Rだので、ややっこしいですよね(^^;)

 

金田一少年の事件簿】の方では結局高遠さんの“自信のルーツ探し”がどうなったのかわからずじまいに終わっていますので、【金田一37歳の事件簿】で明かされるのかどうか気になるところ。2巻に長髪の白髪姿で登場しましたけどねぇ。どうも変なことになっているようですし・・・↓

 

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今後もやっぱり高遠さんから目が離せませんね!

 


ではではまた~

『ポイズンドーター・ホーリーマザー』読むには注意が必要!?な短編集。

こんばんは、紫栞です。
今回は湊かなえさんの『ポイズンドーター・ホーリーマザー』をご紹介。

ポイズンドーター・ホーリーマザー

第155回直木賞候補作。

単行本の表紙がちと怖めですね。文庫版も不気味さが漂っていますが。

 

 

『ポイズンドーター・ホーリーマザー』は短編集。イヤミスの女王として名高い湊かなえさんらしく、期待を裏切ることのない、後味が悪く、“リアリティがあり過ぎるエグみ”に溢れたお話が詰まった短編集です。これぞ湊かなえ作品といった著者の王道を行く1冊。やっぱりこういう短編が抜群に上手い作家さんだと久しぶりに読んで実感しました。

この本を原作としてWOWOWプライムでの連続ドラマ化が決定しています。キャストや演出など、どの女優さんがどの様に演じられるのか気になるところ。
私は文庫本で読みましたが、文庫本の方だとドラマの脚本を担当される清水友佳子さんのあとがきが収録されています。同じく湊かなえ原作のドラマ『リバース』の制作にも関わっていた脚本家さんですね。

 

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目次
●マイディアレスト
●ベストフレンド
●罪深き女
●優しい人
●ポイズンドーター
ホーリーマザー

の、6編収録。
湊さんの作品は連作短編なども多いですが、この短編集は4編までは独立した作品で、終わりの2編「ポイズンドーター」「ホーリーマザー」は繋がったお話。本の表題もこの2編のタイトルを繋げたものになっていますね。
全話主役は女性で6人の女それぞれの物語が描かれます。

 


まずは表題作以外の4作をご紹介。

 

●「マイディアレスト」
姉と妹のお話。異性関係に厳格な母親の言いつけ通りに過ごしてきた結果、異性との交際にコンプレックスがある姉が語り手。妹は姉とは対照的に好き勝手に奔放に楽しんでいて、自分には厳しかった母親は何故か妹に関しては放任気味。妹に子供ができて結婚が決まると、今度は妹を優遇するようになる母親・・・。姉からすると言いつけ通りにしてきた自分が阻害され、好き勝手してきた妹の方が優遇されるというのは如何にも納得いかないですよね、ホント。
しかし、こういう状況というのは家庭内で往々にして起こる出来事。上の子には厳しくあたったのに、下の子には甘くなるというのも、今まで問題を起こしまくっていたのに、子供を産むとなったとたんに全てが帳消しになるというのも。何というか分かり見が過ぎる(^^;)
桜庭一樹さんの短編でも同じような設定のお話がありましたね↓

 

 

ゾッとするようなラストですが、個人的にはこの「マイディアレスト」が一番短編として纏まっている感じがして好きです。

 


●「ベストフレンド」
脚本家になる夢を追い続けている主人公が、ライバルへの嫉妬に苦しみ、失脚を願うようになるが・・・な、お話。読んでいる最中はなんで「ベストフレンド」というタイトルなのかと疑問でしたが、結末を読んで納得。う~ん、でも、ちょっとこの結末への持って行き方は強引かなぁとも思いましたけど。今作の中では一番ミステリ色が強い作品ですかね。
湊かなえさんは脚本家を経ての作家なので、脚本賞などの詳細が描かれているのは興味深いです。受賞するまでも大変ですが、脚本家を職業とするにはその後の立ち回りが大切なんですねぇ。

 


●「罪深き女」
無差別殺傷事件を起こした犯人がいて、このような事件を引き起こさせたのは自分のせいだと警察に訴えに来た女性の証言が中心に描かれるお話。
タイトルの通り、「罪深いんだよこういう人が」と、いった感じ。自分を中心に物事を捉えて、主役気取りで浸っているという。端から見ると独りよがりで滑稽。
しかし、こんな風に自分の言動が周りに多大な影響を与えているのだと思い込んでしまうというのは大なり小なり皆あると思います。こっちは相手にした事をいつまでも気に病んでいたのに、いざ相手に訊いてみると覚えてもいないなんてことありますよね。まぁ逆もしかりですけど。
知らぬうちに自意識過剰になってしまっている状況は多々あります。本来はみんな自分の事で手一杯で他人のささいな言動なんて気にも止めていないことが殆どだったりするんですけどね~。
この作品にも異性関係にやたらと厳しい母親が出て来ます。

 


●「優しい人」
「誰に対しても優しくするように」という母親の教育によって対人関係や自己主張が上手くいかない女性が主役で“優しさ”とは何かを考えさせられるお話。
主人公は母の教えのままに最初のうちは“優しい人”として相手に接するが、いつも相手に一番ダメージを与える状態の時に抑圧された気持ちが爆発してしまい、反発し、拒絶してしまうので結果的に相手からも、その様子を見ていた他の人々からも「酷いじゃないか」と言われてしまう何だか貧乏くじを引き続ける人生を歩んでいます。
とはいえ、私も主人公の行動はちょっと頂けないんじゃないかと思ってしまいましたね。コレはコレで「罪深き女」だなと。
“優しく”と言いますが、行動は母親の強制によるもので主人公の意思は無視されているので、結局“優しくしている”んじゃなくって、命令に従っているだけなんですよね。職務を遂行しているようなもの。“優しさ”なんて際限のないもの、自発的じゃないと対人関係では無理がくるに決まっていますよね。
“優しい”ことは美徳ではあるのでしょうが、ただ唯唯諾諾と優しく接するだけでは“優しい人”ではなくただの“便利な人”になる。利用する人が悪いのは勿論ですが、主張することをまる放棄して“優しい人”ぶるのもまた問題なんじゃないかと思いますね。

 

 

 

 

 

 

 

 

毒親
「ポイズンドーター」と「ホーリーマザー」は毒親がテーマ。タイトルは直訳すると「毒娘」と「聖母」ですね。
「ポイズンドーター」は母親のことを毒親だと告発する娘視点で描かれるが、「ホーリーマザー」では一転して母親は聖母のような人だったという友人視点で描かれ、娘は友人に「あんたは毒娘だ」と糾弾される。

この話で最後に出される結論がですね、親に苦しめられたと感じている人には不愉快になったり怒りが込み上げてきたりすると思うので、注意が必要ですね。物議を醸す作品です。

 

私も読み終わっての率直な意見としては「納得がいかないな」と思いました。

関係の浅い友人に「あんたの母親は聖母のようで、お前の母親に対しての考えは間違いだ」なんて糾弾されても納得なんてできる訳がない。と、いうかそんなことを断言して言える立場にないだろうと。友人は外での母親の姿しか知らないからです。

外での振る舞いと家の中での振る舞いは変わるに決まっているし、家族間でのことは家族にしかわからないのも当たり前。たまに近所で擦れ違う程度でしかない他人が、一緒に暮らしていた娘よりも知っていて理解しているなんてことある訳がない。それを!正論述べている顔をして「毒娘」だの言って糾弾するなんて、何様だ!ほんとに!!

 

と、思う訳です。

 

 

とはいえ、娘の方も納得できる行動ばっかりとっている訳でもないんですけど。それにしても、やっぱり友人の視点は穿って見過ぎだと感じます。どの言動も悪く捉えていて、最初っから全否定する気しか無いように見える。まぁ、学生時代に腹いせで好きな人横取りした奴に優しくしようとは思わないかもですが。

 

他にも、“極端に酷い目に遭っている人しか声を上げてはいけない、軽度の人が大勢声を上げると本当に酷い目にあっている人が埋もれてしまうから”と、いった意見も「線引きはどうするのか」と疑問。犯罪レベルじゃないと駄目ってこと?結局比較論?
あと、最後の子供を産めば分かるといった意見も、女は子供を産まないと成熟しないと言われているようで、独身には気分が悪いです。

と、まぁグチグチと思ってしまったのですが。
今作ではどのお話も母親が深く関わっています(「ベストフレンド」はちょっと違うかもですが)。父親は完全に無視状態で、描かれるのは母娘。女性作家さんは母親と娘の関係を描く人が多いですね。それだけ影響が強いってことなんでしょうけど。

 

 

 

 

 

 


母と娘
どんな親が“毒親”なのかはハッキリ断言できるものではありません。全ての子供が親を憎むからです。コレはもうどんなに恵まれている人でもそうで、頻度の問題。親が違えば別の人生が、もっと違った人間になれたかも、なれたハズと夢想したことがない人なんていないと思います。親の場合も同様で、どんな出来た親だって、子供を疎ましく思う瞬間というのは必ずある。

尊敬や感謝、愛情を抱きつつ、負の感情も抱く。家族とは、人とは、そういうもの。だから結局折り合いを付けていくしかない。

 

個人的な意見としては、自己主張が思うように出来ない家庭環境というのはやはり健全な状態ではないと思います。聖母のように愛情を持って育てていたと、いくら周りに思われていたとしても、受け取り側である当人に伝わっていなければ、愛情を注いだ事にはならない。
伝わることが大事で、極端な話、伝わっているなら大抵は大丈夫。


「ポイズンドーター」「ホーリーマザー」の娘・弓香と母・佳香の間違いというのは伝える事を放棄したことだと思います。弓香は先に母親に訴えるべきことを「毒親」として世間に公表したこと。それにたいし、佳香は娘に反論することをせずに死を選んだこと。たとえ糾弾するような形になったとしても、それによって断絶する結果になったとしても、相手にぶつけるべき。
母娘だけでなく、どんな対人関係でも相手に伝える努力は必要だと思います。
まぁ職場などはともかく、家でくらいは言いたいことを言いたいものですよね(^_^;)


ともかく色々考えさせられる短編集です。自分ならどう思うか、是非読んでお確かめください。

 

 

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ではではまた~

『絡新婦の理』(じょろうぐものことわり) ネタバレ・考察

こんばんは、紫栞です。
今回は京極夏彦さんの『絡新婦の理』(じょろうぐものことわり)をご紹介。

文庫版 絡新婦の理 (講談社文庫)


あらすじ

「あなたが――蜘蛛だったのですね」
低い、落ち着いた声だった。
一面の桜である。
満開の桜の只中である。

昭和二十七年五月二日、信濃町で矢能妙子という娘が平野祐吉という男に殺害される事件が発生。平野が捕まらないまま、十月に新たに二人目の犠牲者として川野弓栄、そして年の暮れには山本純子という三人目の犠牲者が出た。被害者達はいずれも両目が潰されており、平野祐吉は『目潰し魔』と呼ばれ世間を騒がせることになる。
翌年、東京警視庁の木場修太郎は『目潰し魔』によるものと思われる四人目の犠牲者が出た事件の捜査にあたる。しかし、事件を追ううちに捜査線上に木場の友人である川島新造の名が浮かぶ。本人に問い質そうと川島の元を訪れた木場だったが、川島は「女に、蜘蛛に訊け」と言い残してその場から逃走してしまう。

聖ベルナール女学院の生徒・呉美由紀と渡辺小夜子は“ある理由”から学院内の噂話を探り、悪魔「蜘蛛」とそれを崇拝する「蜘蛛の僕」の存在を知る。小夜子は勢いにまかせ「蜘蛛」に自身の“願い”を叫んでしまう。その後、美由紀と小夜子は「蜘蛛の僕」の一員だった麻田夕子と接触するが、夕子が二人に語った「蜘蛛」と「蜘蛛の僕」についての内容は信じがたいものだった。しかし、夕子の話を裏付けるように殺人が起こり――。

房総に釣りに来ていた伊佐間一成は呉仁吉老人と意気投合。蒐集品を売りたいという仁吉に鑑定のため今川雅澄を紹介し、仁吉宅に訪れた近在の旧家・織作家の使用人である出門耕作から「ついでに織作家の大黒柱であった雄之介の遺品の精算をして貰いたい」と請われて翌朝、伊佐間と今川は連れだって「蜘蛛の巣屋敷」と渾名される織作の屋敷へ赴く。そこで事件が発生。二人は目撃者となり、織作家の事件に巻き込まれることに。
伊佐間の意思により今川は「織作家の呪いを解いて欲しい」と、陰陽師である中禅寺秋彦に正式に憑き物落としの依頼をする。依頼を引き受けた中禅寺は事件の舞台である聖ベルナール女学院、そして織作家へと向かうのだが――。

数々の事件は八方に張り巡らされた蜘蛛の巣となって関係者達を搦め捕り、眩惑する。巣の中心に陣取る「蜘蛛」とは果たして何者なのか?その目的とは?

女は、静かに、毅然として云った。

「それが――絡新婦の理ですもの」

 

 

 

 

もっとも華やかな作品

『絡新婦の理』は百鬼夜行シリーズ】(京極堂シリーズ)の五作目。

 

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お坊さんばかりで、男性ばかり、山奥のお寺が舞台で必然的に女っ気と耽美さが薄かった前作鉄鼠の檻

 

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とはうって変わって、今作『絡新婦の理』は“女性”が大きなテーマで、女学院と女系一族である織作家が舞台。キリスト教における女性と悪魔、売買春、フェミニズムなどなどが絡む事件。そして、これでもかと登場する絶世の美女達・・・。艶っぽく、怪しく、耽美全開!で、シリーズの中ではもっとも華やかな印象を受ける作品だと思います。私は【百鬼夜行シリーズ】は基本全作好きですが、この『絡新婦の理』は特に好きな作品の一つです。

 

 

 

 


女郎蜘蛛・絡新婦
タイトルにある“絡新婦”ですが、“じょろうぐも”なら通常は“女郎蜘蛛”と書くはずで、“絡新婦”でそう読ませるのは納得がいかないですよね。漢字変換でだってこんな字での変換候補は出て来ません。
何故この表記なのかというと、このシリーズでは毎度お馴染み、鳥山石燕の『画図百鬼夜行』に目次には“女郎くも”と書いてあるものの、目次の対項目での記載は“絡新婦”に“じょらうくも”と、振り仮名が振ってあるため。作中での中禅寺の説明によると、
「斑蜘蛛、一名女郎蜘蛛は中国名を絡新婦(ロスインプウ)と云うと『和漢三才図会』に記されている。それを書いた石燕は三才図会を善く引いたからね」
とのこと。
作中ではこの後に女郎蜘蛛は元が巫女だったが、神性を失って娼婦に、そして妖怪へと転落していったものだと中禅寺は語ります。
社会・歴史における女性のありさま「女性から神性を搾取することで成り立った近代男性社会」を先読みするような妖怪で、今回の事件ではこれらの歴史的背景が事件に深く関係しています。
織作家が機織で財をなした家だという設定も、蜘蛛が糸を紡ぐところからくる暗示ですね。ちなみに“機を織る”という行為も近代男性社会での女性のありかたの面で重要な側面を持っています。

 

 

 

読みやすい?
この『絡新婦の理』、蜘蛛の巣ミステリなだけに事件構造の複雑さも登場人物の多さもシリーズの中ではトップクラス級で、もちろんページ数だって通常通りの千ページ越え。さぞ読むのには時間がかかるんでしょう?と、思うところですが、「前四作に比べると凄く読みやすい」という感想を抱くシリーズファンは結構います。


それは何故か・・・
たぶん・・・
関口が、いないから・・・


(^^;)


いや、登場はしているのですが、今作ではエピローグ部分のみで関口は事件に直接関係していません。これは第一作から続けて読んできたシリーズファンにとっては結構な衝撃なんですよね。【百鬼夜行シリーズ】は主の語り手は関口が務めるのが“おきまり”なんだと、ファンはそれまで思い込んでいたので。前四作では三分の一は関口が語り手でしたからね。
エピローグでも鳥口に
「関口先生、今回は何だって出番がないんですよ」
とか言われちゃっています。
これ、もうホント、読者の気持ちそのまんまなセリフなんですが(笑)

 

なんで今作では不在なんだというと、まぁ単純にこの物語には不要だからなのですが(こういったとこ、京極さんはシビアですからね)。

で、じゃあ誰が語り手を務めているのかというと、主に木場と伊佐間屋と今作のゲスト(?)・女学生の呉美由紀です。
この美由紀ちゃんなんですが、酷い状況に追い込まれても女学生ながらに奮闘し、聡明さと啖呵を切る豪胆さもありと、なかなか気骨のある女の子で、読んでいて非情に好感が持てます。個人的にまたシリーズに登場させて欲しい人物の一人なんですがどうでしょう?(笑)。

※登場してくれました!詳しくはこちら↓

 

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木場は行動派で、伊佐間屋は飄々とした人物。主な語り手三人が皆割とサバサバした語り口なので、いつも迷っていて頼りなく、湿度が高い(?)語り口の関口とはかなり異なる。
しかしまぁ、この関口の客観的になりきれない、ある種陰気な語りがシリーズの持ち味の一つになっているという意見もあり、「関口の語りじゃないから読みにくい」という真逆の声もあります。
私は木場も伊佐間屋もゲストの呉美由紀も個人的に好きなキャラクターなので、単純にこの三人の語りは読んでいて面白かったし嬉しかったです。特に木場は前作の『鉄鼠の檻』では不在でしたから、序盤で語り手として登場したのは嬉しかったですね。

もちろん関口の語りが嫌いな訳ではないですよ(^^;)関口のあの語りだからこそ醸し出される雰囲気というのは【百鬼夜行シリーズ】の基盤みたいなとこありますからね。関口の語りを存分に味わいたい方は姑獲鳥の夏をどうぞ↓

 

 

 

 



 

 

登場人物・繋がり
関口は最後にチラッとですが、『絡新婦の理』は【百鬼夜行シリーズ】のレギュラーメンバー総出演のお話です。
シリーズ的に大きな出来事の一つが、前作『鉄鼠の檻』では刑事だった益田龍一が榎木津に弟子入り志願して『薔薇十字探偵社』の一員になるところです。
榎木津の破天荒な性質に憧れてってことなんですが。榎木津に弟子入りしようとして刑事辞めるとはなんと愚かな…と、最初読んだときは驚いたものです(^_^;)
榎木津にも弟子入り志願を聞いた後の第一声で「オロカ」と言われています。以後、彼は「バカオロカ」という綽名で呼ばれ続ける訳ですが。
益田は探偵社の一員になってからは予想以上に活躍するというか、シリーズ内での出番が多いキャラクターとなります。榎木津があの調子なので、依頼人の話を聞いたり調べたりする“通常の探偵的役割”がそのまんま益田に振られるんですね。益田が一員になったことで『薔薇十字探偵社』の登場も増えたような気がします。榎木津はともかく、和寅は益田が来てくれたことで職場環境が改善されたんじゃないかと思います。話し相手兼味方ができて良かったね!って感じ(^.^)最初は益田のせいで辞めさせられそうになっていたけども・・・。
織作家のメイドで奈美木セツという娘が出て来ます。脇役にしてはキャラが濃すぎる愉快な女の子で印象的。憑き物落としの前に織作家を去って行くのですが、スピンオフシリーズの『百器徒然袋』の「五徳猫」で再登場し、

 

 

 

百鬼夜行-陽』の「蛇帯」では榎木津の兄が経営している榎木津ホテルで働いています。

 

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「蛇帯」は次作長編予定『鵺の碑』(ファンがいいかげん待ちくたびれている幻の次作ですが^^;)に関係してくる短編。『鵺の碑』は榎木津ホテルが舞台の一つになるらしいので、この奈美木セツも登場することが予想されます。楽しみですね!(いつになるのかは分かりませんが・・・)


前作の鉄鼠の檻以外にも、姑獲鳥の夏

 

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魍魎の匣

 

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狂骨の夢

 

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に登場した人物や事件での出来事が今作では関係しています。
オールキャスト総出演に加え、今までの全ての事件も関係してくるということで、発売当初は“百鬼夜行シリーズの集大成”なんて風に捉えられたりもしたそうな。そんな思いは次作でひっくり返されるんですけどね・・・・・・。

 

 

 

美しき蜘蛛の巣ミステリ
『絡新婦の理』はシステムのお話。なのでトリックらしいトリックもないんですけど。

一つの事件をたどっていくと、いつの間にか最初の地点に戻り横糸を一周する。しかし、事件を追っていた過程で発見された事実によって交差する糸・縦糸をたどると次のステージの別の事件へ。横糸を一周し、縦糸をたどってまた別の事件を一周・・・と、いった蜘蛛の巣構造。なので、この蜘蛛の巣を張った真犯人を作中では「蜘蛛」と呼ぶのです。「蜘蛛」は巣の中心にいる。糸を辿り続けて、行着く先は「蜘蛛」。そして、「蜘蛛」に辿り着くと待っているのは冒頭のあの台詞・・・・・・。

 

今作の突出した点は「あなたが――蜘蛛だったのですね」という台詞から始まる冒頭部分。この冒頭部分ではすでに事件は収束しており、黒衣の男(中禅寺)は「蜘蛛」である真犯人と対峙しています。この最初の数ページで真犯人は女であること、この女性がどのような体系の仕掛けを用いて事件を発生させたのかが早くも明かされます。
この衝撃的な書き出しがオープニングで、その後は事件の経過が順を追って描かれ、最後まで読むと「あなたが――蜘蛛だったのですね」の冒頭に戻ることになる。と、いう円環構造にもなっています。まるで読者までもが蜘蛛の巣に捕らえられて抜け出せなくなるような物語構成。そこもまた美しい点ですね。

それにしても今作の冒頭部分は圧巻の美しさです。【百鬼夜行シリーズ】の数ある名場面の一つなのは間違い無いと思いますので必見。

 

 

 

憑き物落とし
前作『鉄鼠の檻』はお話の都合上、このシリーズでは謎解き部分にあたる憑き物落としの場面にあまりページが割かれていないのですが(もちろん当社比です)、

 

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今作は憑き物落とし“中禅寺が着替えてから”が長いです。全体の4分の1を占めていますね。
何故かというと、聖ベルナール女学院での憑き物落とし後に新たな局面が現われ、次のステージとして今度は織作家での憑き物落としをするといった二段構えになっているからなんですが。私はこのシリーズを読む際は「中禅寺が着替えたら、そこからは一気読みする」というふうに決めているのですが(一番面白いとこだから)、『絡新婦の理』は長くってですねぇ~~初読の時は朝方まで読んでしまって、睡眠時間二時間のフラフラ状態で職場に行ったという馬鹿馬鹿しい思い出があります(^^;)
とはいえ、憑き物落としの場面がなんといっても好きなので、単純にいつもより長くって嬉しかったです。
今作では特に、憑き物落としでの中禅寺の登場シーンが凄くカッコいいですね。美由紀ちゃんという少女視点だからというのがあるかも知れないですが、シリーズの中で一番カッコいい登場シーンなんじゃないかと思いますね。“ただ者じゃない感”が凄まじいです。読んでいて盛り上がります(笑)とにかくイチオシ!ポイントですね。

 

 

 

 

 

 

 

以下ネタバレ~(犯人の名前も書いているので注意)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


ジェンダー
登場人物の一人、織作葵は女性権利向上運動の活動をしているという設定。葵の他に美江という葵に影響されて同じ運動をしている女性も出て来ます。
女性権利向上論者達の主張はごもっともな面もあるのですが、何とも物言いが高圧的なところがあり、女性としても読んでいると閉口してくるというか、息が詰まってくるところ。

美江のことを話すと増岡は、
「ああ私はね、彼女達の理屈は判るが、あの臓躁的(ヒステリック)な態度が厭だな。何とかならぬものかと思うね」
と云った。
中禅寺は空かさず、
「馬鹿なことを云うな増岡さん。彼女達をそうさせているのは、我我男じゃないか」
と、云った。増岡は勿怪顔になる。
「君は――女性崇拝者(フェミニスト)なのか?」
「勿論僕は女権拡張論者(フェミニスト)ですよ」

上記は中禅寺と弁護士の増岡との会話。意味合いが擦れ違っているんですけども。


“小説の登場人物の意見がイコール作者の意見ではない”というのは作者の京極さんは何度もインタビューなどで仰っていることですが、私は作者の京極さん自身もフェミニストなのではないかと思います。作品全体的にそういった雰囲気が漂っているんですよね。
よく、京極作品は女性が乱暴されたという設定が多く、女性にはシビアな内容だと言われたりします。確かに過去の出来事として男に襲われたというのは頻繁に出て来ます。今作でも出て来ますし。これは時代設定が大きいのかなとも思うんですけど(現在の時代設定だとそういった事柄は余りない)。でも、京極作品の場合は本当にシビアに扱われているのは女性に狼藉を働いた男性側の方です。なんせ、そういった行為をした男は9割方死なせていますから。容赦なし。
何というか、“もっとも愚かしい人間”として描かれているのではないかと。狼藉者とまでいかないスケベも必ず痛い目にあうのが常なので、男性の方が読んでいてキツいんじゃないかと思いますね。男性作家さんでこういう風に描く人は珍しいです。女性読者が多いのもそういった部分が少なからず影響しているんじゃ。女性としては読んでいると気持ちいいですもん(笑)

今作ではさらに突っ込んで、性差について大いに語られています。テーマの一つですね。

「人間は誰しも男性性と女性性の両方を持ち合わせているのです」

ものごとは「男だから」「女だから」と簡単に分けられるものではない。考え方や行動を性別で区分することは出来ないはずで、女性的な部分が強い男性もいれば、男性的な部分が強い女性もおり、ようはバランスの問題。どっちが良いも悪いもない。

性差などと云うものは文化的社会的に決定されたひとつの局面でしかない

お話の終盤、葵は自身が半陰陽だと明かし、そのことがあったからこそ婦人運動に走ったのだと述懐しています。
伊佐間はその葵を見て、

気高い。半陰陽ではない。両性具有だと、伊佐間は思った。
どちらでもないのではなく、どちらでもある――。
なる程人とは本来こう云うものなのだ。人は本来、男でも女でもあるのだろう。それは決定されているものではなく、己で決めるものなのかもしれない。

ようは、“自分は自分だ”ってことですね。

 

 

 

 


作者には勝てない

 

「(略)敵は――事件の作者だ。君たちは登場人物だ。登場人物が作者を糾弾することは出来ないぞ」

 

「真犯人は、種を蒔き、畑を耕し、水を遣りはするものの、何が生るか、誰が刈り取るかまでは関知しないのですよ。それが敵の遣り方なのです。踊り子は興行主を知らずに舞い、役者は演目を知らずに演ずる。小説の登場人物の殆どはその小説の題名を知り得ない――僕等は踊り子であり役者であり、登場人物なのです」

 

上記は榎木津と中禅寺の作中での台詞。
まるでメタ発言をしているかのような発言内容ですよね。あくまで今作での犯人についてを語っているのでずが、この事件の真犯人「蜘蛛」は、もはやこの小説の作者・京極夏彦その人であり、登場人物達は京極夏彦と対峙しているように見えるように意図的に描かれています。

中禅寺も榎木津も「作品は作者のもの」だと解っており、自分たちが何をしても駒の一つにしかならぬ事を知っています。つまり、最初から負けが見えている闘いなんですね。

「――僕は寧ろ――ここにその真犯人の計画の完遂を早めに来たようなものだと、そう認識しています」

「蜘蛛」の目的は“家を崩壊させること”。中禅寺の憑き物落としによって家は解体され、崩壊する。

憑物が落ちれば家は滅ぶ。
それが、この世の理(ことわり)である。

 

 


茜・動機
『絡新婦の理』はシリーズの中でも死者が多い作品。十五人も亡くなっており、憑き物落としの最中には四人命を落しています。
「蜘蛛」の正体は貞淑で、自己主張をせず、唯唯諾諾と亭主に従っていた次女の茜ですが、何故ここまでの事を仕掛けたのかの動機は明確には解りません。ラストの中禅寺と茜の会話

「本田と云う人は――あなたに――」
「あまり聞きたい名ではありません」

 

志摩子さんと云う女性は、実に律儀な女性だったようです。最後の最後まで、あなたと八千代さんの名前を、誰にも、決して云わなかったそうだ」
「――あの人は――潔い人だった」
「信じてはいなかったのですか?」
「信じません」

 

などのやり取りから、本田は学生だった頃の茜に小夜子と同じように暴行をしたから、八千代と志摩子はかつての売春仲間だったから、そして、“織作家“は茜をもっとも縛っているものだから、標的になったのだと推察することが出来ます(あくまで推察ですが)。
茜がこの計画を練り上げたのは、「あらゆる制度の呪縛から解き放たれ、個を貫き、己の居場所を獲得する」ため。全ての呪縛から解放されるために、己を縛っている要因を持っている物を全て、人ごと排除しようという計画。
とはいえ、おそらく娼婦になるきっかけを与えたと思われる本田や、自分を縛り続ける“織作家”を標的にするのはまだ解りますが、八千代や志摩子まで殺害する必要はないと思えるし、他にも直接関係ない人も巻き込んで、最終的に十五人も死なせるのはいくらなんでもやり過ぎですよね。


この計画はそもそも、実行するからには半端は許されない計画。なので、妥協はせずに非道にするに決意したのと、多くの部分は他人任せでの計画なので、思いもよらず上手くいきすぎるシステムを創造主の茜も止めることが出来なかった、または引くに引けなくなったというのが正直なところなのかな?と。作者の云う「キャラクターの一人歩き」に近い感覚というか。

 

茜がもっとも排除したかったのは、全ての元凶となった本田と、三女の葵なのではないかと思います。一時娼婦として活動し、家に戻って貞淑な妻として振る舞っていた茜にとっては、婦人活動のリーダーとして胸を張って生きていた葵の存在は、自身を卑屈にさせる大きな要因だったのではないかと。
茜は次作の『塗仏の宴 宴の支度』の一作で語り手として登場しますが、その中でも葵に対しての記述が何度もあります。

事件から時間が経ち、茜がどのような心境になっているのかも描かれているので、『絡新婦の理』を読んだなら次作の『塗仏の宴 宴の支度』

 

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も読まなきゃ駄目ですね。終われません。しかもあんな展開になりますしねぇ・・・・。

 

 

 

 

あと、茜の父親ですが、これは状況や記述から鑑みるに、呉仁吉なのではないかと。美由紀が難を逃れたのも仁吉の孫だからじゃないかなんて意見もあったりしますね。しかし、これ程無慈悲な計画を練った茜が“父親だから”という理由で標的から外すのも何だか納得がいかないような気も・・・・・・。

小夜子の妊娠もあやふやなままでしたが、これは想像妊娠だったとしか思いようがないですね。検視で妊娠の事実が出て来ないというならそう考えるしかない訳ですが・・・。他はあえて真相をぼかしているにしても、コレに関しては作中で確りとした記述がないのはひたすら奇妙です。

 

 

と、まぁ色々と書きましたが、あくまで個人的な推測ですので悪しからず。
次作でのどえらい展開から、『絡新婦の理』は長すぎる序章ともとることが出来ます。ファンなら絶対に読まなくてはいけない作品ですし、京極作品の醍醐味が詰まった作品で読みやすさもあるので、初めての人にもオススメです。是非是非。

 

 

 ※漫画もあります↓

 

 

ではではまた~

 

 

メゾン・ド・ポリス 原作小説 あらすじ・感想 シリーズ2作をまとめて紹介

こんばんは、紫栞です。
今回は加藤実秋さんの『メゾン・ド・ポリス』のシリーズ2作をまとめてご紹介。

2019年1月11日からTBS系で放送予定の連続ドラマの原作本ですね。

 

第1作目
『メゾン・ド・ポリス 退職刑事のシェアハウス』

メゾン・ド・ポリス 退職刑事のシェアハウス (角川文庫)

あらすじ
牧野ひよりは警視庁柳町北署の刑事課に配属されて三ヶ月の新米刑事。努力を重ねて晴れて憧れの刑事になり意気込むものの、任される仕事はお茶汲み、コピー取り、資料作りなどの雑用ばかり。
そんなある日、動画配信サイトに人が焼かれる様子を映した映像が投稿されるという事件が発生。事件は四年前に発生した『デスダンス事件』の模倣犯によるものと思われた。ひよりは課長に四年前に『デスダンス事件』を担当していた元刑事の夏目惣一郎に話しを訊いて来いと指示される。渡された住所の場所に行ってみると、そこは退職した警察官専用のシェアハウス「メゾン・ド・ポリス」だった。夏目はこのシェアハウスで雑用係をしていたのだ。
夏目に四年前の事件を訊きに来たものの、警察を辞めた自分にはもう関係ないと協力を拒む夏目。すると、事件の話を訊かせろとシェアハウスのおじさん四人に迫られて――。

老眼、腰痛、高血圧。しかし、捜査の腕は超一流のおじさん達に導かれ、首を突っ込まれて事件を追っていくひより。やがて、夏目が刑事を辞めたきっかけとなった事件と、失踪したひよりの父の謎の繋がりが明らかになり――。

 

 

 

 

異色で“今どき”な連作ミステリ
作者の加藤実秋さんは一般的にドラマ・舞台化もされた『インディゴの夜』などが有名だと思います。

 

インディゴの夜 (集英社文庫)

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インディゴの夜DVD-BOX 1

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私は原作を読んでいないものの、『インディゴの夜』のドラマは当時観ていたので、今回『メゾン・ド・ポリス』がドラマ化されると知り、興味があって読んでみました。

 

こちらのお話、退職した元警察官のおじさん達にご教授されながら、新米女性刑事が事件を解決していき、刑事としても人としても成長していくハートフルでコメディな連作短編ミステリ。
第1作『メゾン・ド・ポリス 退職刑事のシェアハウス』が2018年1月に発売、第2作『メゾン・ド・ポリス2 退職刑事とエリート警視』は2018年10月に発売。そして2019年1月には連続ドラマ化・・・と、続編が出るのもドラマ化が決定するのも早いシリーズ作品ですね。
小説はどちらも最初から文庫での刊行で、1作目は5話、2作目は4話収録。1話の長さはどれも70~90ページほどでコミカルなやり取りも多く、読みやすい作品なので普段小説を読まない人にもオススメです。

 

近年はメディア展開されるものの作品内容が対象年齢の高いものが格段に増えていますよね。数年前まではドラマ・映画の主役といったら十代か二十代、俳優も女優も二十代が終われば「旬は過ぎた」「主演をする年齢じゃない」などと言われていたものですが、今やテレビドラマの主演は四十代五十代の俳優女優務めているものが半数を占めています。
国民の平均年齢が上がっていることや、現役バリバリで元気な高齢者が増えたこと、ライフスタイルの多様化などが要因なのかなぁと思いますが、『メゾン・ド・ポリス』は退職した平均年齢六十代のおじさん達が活躍する新米刑事視点のお話。昨今の流れの最たるもので、ある意味、これ以上ないほど“今どき”なミステリシリーズなのです。

 

 

登場人物
この小説はシェアハウスの住人達の個性や役割分担が確りしているところが何とも魅力的な作品。シェアハウスに居るのは五人のおじさん達で以下の通り。

●夏目惣一郎
元警視庁捜査一課の刑事。取り調べをしていた事件関係者が自殺してしまった事をきっかけに警察を辞めるも、いまだにその事件の謎を追う。今は『メゾン・ド・ポリス』で高平の補佐として使用人をしている。52歳。ぶっきらぼうだが渋めのイケメン。

●高平厚彦
元警務課事務員。『メゾン・ド・ポリス』の管理人を務めていて家事全般を担当している。住み込みではなく家からの通い。家では女性に囲まれて生活しているので挙動がおばちゃん臭い。いつもバラエティ豊かなアームカバーを着けている。60過ぎ。

●迫田保
元所轄の刑事。現場主義で行動派の熱血漢で、捜査への意気込みはシェアハウスのメンバーの中でも強い。仕事に打ち込みすぎたせいか、退職と同時に奥さんに離婚を切り出されて『メゾン・ド・ポリス』に。いつも扇子を持っていて如何にも「たたき上げのデカ」風味。60代半ば。

●藤堂雅人
科学捜査研究所勤務の研究者。結婚離婚を三回繰り返して今は独り身。どんな状況でもいつも白衣を着るのがポリシー。女性が大好きでキザな言動が目立ち、毎回ひよりに胸中でドン引かれている。60過ぎ。

●伊達有嗣
警察庁のお偉いさん。『メゾン・ド・ポリス』の管理人兼オーナーで大変な資産家で大地主。白髪頭でいつも凝ったニットを着ており、好々爺な雰囲気を醸し出しているが、今でも警察にはそれなりの力があり、伊達が電話するだけで事件捜査への参加が許可される。最年長。


このような愉快で優秀なおじさん達に新米刑事・牧野ひよりが振り回されつつ、いつしか奇妙な絆が芽生えていく~・・・と、いったストーリー展開になっております。

 

 

 

ドラマ
上記を踏まえてドラマのキャストをみてみると・・・

 

キャスト
牧野ひより高畑充希
夏目惣一郎西島秀俊
高平厚彦小日向文世
迫田保角野卓造
藤堂雅人野口五郎
伊達有嗣近藤正臣

 

はい。ピッタリなキャスティングですね~(^_^)。


原作があるものがドラマ化される際はどうしても原作のイメージと違うキャストになってしまったりするものですが、今作は非常に原作を尊重した配役になっていると思います。ドラマへの期待が高まりますね。

他にひよりが通っているバー「ISE MOON」の店主・瀬川草介(竜星涼)や先輩刑事の原田(木村了)、新木(戸田晶宏)などの名前は公式サイトにありますが、バーの常連客でひより恋のライバルであるナナの名前がありませんね。

ナナちゃんは女子力が高い見た目なのに酔っぱらうと方言になるという楽しい人物。ドラマに登場しないとなるとちょっと残念なんですが・・・どうなのでしょう?

 

 

 

 


第2作
『メゾン・ド・ポリス2 退職刑事とエリート警視』

メゾン・ド・ポリス2 退職刑事とエリート警視 (角川文庫)

登場人物達もストーリーもそのまま引き継ぎの続編。今作の最初のお話で藤堂さんの二番目の元奥さん・杉岡沙耶が登場します。杉岡さんは四十過ぎのはずだが、まったくそうは見えないモデル体型の美魔女風(?)美人の鑑識課員。ひよりのいる柳町北署に赴任してきて、以後、何かと捜査に協力してくれることに。ドラマでは西田尚美さんが演じられるそうな。
ひょっとしたらドラマではナナちゃんの役割は杉岡さんに振られるのかもしれないですね。ひよりの相談役ではっぱをかける役割。

 

サブタイトルにあるエリート警視とは間宮朝人のこと。夏目さんの現役時代の後輩で今は警視。前作にも地味に登場していますが、今作では適役としてひよりにプレッシャーをかけてきます。

第1作のラストでは夏目さんが追っていた事件の大部分や事件関係者の自殺の真相が明らかになるものの、この事件を理由に失踪したと思われるひよりの父は依然出て来ずじまい。そして、事件の大元に警察組織が関わっていた可能性が浮上して・・・・・・と、いったところで終了していました。
第2作では事件を掘り返されたくない警察組織が間宮を使ってひよりに夏目さんをスパイするよう命じ、さらに父かららしき謎の地図が載ったメールが送られてきたり云々。はたしてひよりはどう行動する!?ってなストーリーが展開されます。

 

 

 

 

 


以下ネタバレ~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


続編
2作目ラストで晴れて夏目さんが追っていた事件は完全に解明され、ひよりの父も無事帰還します。見方によってはこの2作目で綺麗に終わっている状態。
なので、今後シリーズの続編が刊行されるのかどうか気になるところ。別にシェアハウスやひよりの現状は変わらずに終わっているので、いくらでも続けられるとは思うのですが・・・。

続編があるとしたら、個人的に最も気になるのは恋愛部分です。
誰と誰のかというと、ひよりと夏目さん。
ひよりは店主の草介さん目当てにバーに通っているのですが、同じく草介さんを狙っているナナちゃんは会ったこともないのに夏目さんをひよりに薦めてくるんですね。

 

ライバルを減らすための作戦なのは明らかなのだが、焚きつけられるとついシミュレーションしてしまう。これまで一緒に解決した事件で優秀な刑事だったことはわかっているし、見た目もおじさんにしてはカッコいい方だと思う。でも、惣一郎の歳はひよりの二倍。その事実を確認する度に、膨らみかけた胸がしゅんとしぼむのだ。

 

そう、ひよりは26歳。夏目さんは52歳。二人の歳は倍違うのです。
ひよりはなんやかんや夏目さんのことを意識しているのは明らかなのですが(夏目さんの心情はあんまり出て来ない)、この年齢差のせいでいつも思いとどまってしまうんですよねぇ。
うーん・・・どうなのでしょう?確かに、簡単に恋愛対象となる年齢差ではないのでしょうが・・・(^^;)でも決してあり得ないといったものでもない。
2作目の最後では夏目さんに頭ポンポンされて胸がときめいていたひより。小説の続編を望むのはもちろんですが、ドラマでは必ず、絶対に、この頭ポンポンを原作同様に再現して欲しいものです。

 

とりあえず、ドラマも続編も楽しみに待ちたいと思います(^o^)
ドラマで原作が気になった方は是非。

 

※続編出ました!詳しくはこちら↓

 

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ではではまた~