夜ふかし閑談

夜更けの無駄話。おもにミステリー中心に小説、漫画、ドラマ、映画などの紹介・感想をお届けします

『奇子』(あやこ) ネタバレ・解説 子供に読ませてはダメ!?手塚治虫のタブーだらけの代表作

こんばんは、紫栞です。
今回は手塚治虫奇子をご紹介。

奇子 手塚治虫文庫全集(1)


あらすじ
昭和二十四年。天下仁朗は戦争から復員し、久しぶりに四百年続く大地主の旧家・天下家に帰ってきた。天下家には仁朗が戦争に行っている五年の間に「奇子」という四歳になる妹が出来ていたが、この奇子は仁朗の母・“ゐば”が産んだ子ではなく、兄嫁の“すえ”と父・作右衛門との間の子だという。長男の市朗が天下家の遺産を相続することと引き換えに嫁を差し出すことを作右衛門に要求されてのことらしい。
これらの事実を平然と話す一族の面々に仁朗は「うちは異常な家だ」と憤るが、仁朗自身は戦時下の最中でGHQの秘密工作員に成り下がっていた。
そして或る日、仁朗は上からの命令で共産主義者の男の殺害事件に関与し、その後血のついたシャツを洗っているところを女中で知的障害のある“お涼”と奇子に目撃されてしまう。
仁朗は口封じの為にお涼を殺害するが、弟・伺朗の告発によって仁朗の事件への関与が一族の前で白日の下にさらされる。しかし、家名が汚れることを恐れた兄・市朗は仁朗を逃がし、目撃者の奇子を警察の追求から遠ざけるために偽の死亡届を出し土蔵の地下に幽閉してしまう。
村人の記憶から消し去られ、外界から遮断された暗闇の中で奇子は人間ばなれした清潔さをもって美しい女へと成長してゆくが・・・・・・。

 

 

 

 

 

 


「冬の時代」代表作
奇子』は1972年から1973年まで「ビックコミック」に連載された作品。
私はその時代を体験していないので、その当時世間でどんな風に扱われていたのかは実際のところは分りませんが、1968年から1973年は手塚治虫が作家として窮地に立たされていた「冬の時代」らしいです。
劇画の台頭やらでそれまでの「健全ないい子ちゃん漫画」へのアンチ感情が蔓延したりしたらしく、それによって手塚漫画(主に「アトム」など)がやり玉に挙げられて人気が低迷。手塚治虫自身の精神状態が反映されたのか、はたまた「健全ないい子ちゃん漫画」という世間の声への反発と当てつけもあったのか、60年代後半から70年代前半は青年向けの暗くって陰惨な作品を多く描いています。巷でよく言われる「黒手塚作品」ってやつですね。

映画化もされた『MW』

 

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MW -ムウ-

MW -ムウ-

 

 

『人間昆虫記』

 

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などがよく上げられているでしょうか。どろろもこの時期に書かれたものですね。『どろろ』は少年誌での連載でしたが・・・。

 

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私個人は手塚治虫の後期の作品ばかり読んでいるせいか、「健全ないい子ちゃん漫画」などという言葉はまったくピンとこないんですけどね。初期の少年向けの代表作も知っている限り悲劇で始まり悲劇で終わる作品が多い印象が強いので、私の中では「容赦なく悲劇を描く作家」ってイメージです。キャラクターに対してドSだなぁっていう(^^;)この描きっぷりが物語作家としての凄味で天分なんだと思うんですけども。


作者の暗い精神状態が反映されているのではとは言いますが、暗いからといって駄作だという訳ではなく、作品としては非常に奥深くって今となっては評価が高い傑作なども多く誕生しています。
奇子もその一つで手塚治虫の“裏”代表作ともいうべき作品。子供に読ませてはいけない手塚漫画の筆頭って印象・・・・・・を私は長年勝手にもっていました。

とにかく淫猥なイメージが強くって、興味がありつつも「まだ読むべき本じゃない」とか学生時代から思い続けていた訳ですが、もういい加減オトナなので(^^;)満を持してこの度やっと読みました。


今現在入手しやすいのは角川文庫版の上下巻、

 

 

講談社から刊行されている手塚治虫漫画全集の上下巻と電子書籍

 

 

そして、復刻ドットコムから刊行の《オリジナル版》上下巻ですね。

 

 

 

《オリジナル版》なんですが、実は奇子』は単行本で刊行の際にラストを雑誌掲載時の内容から変更して書き換えられているらしいので(手塚治虫はよく書き直しをした作家で有名ですね)、この《オリジナル版》では雑誌掲載時の、単行本には未収録だった幻の別エンディング7ページが初収録されています。他にも連載時を再現し、カラー絵や全話扉絵もすべて収録されているということでお値段がお高い。
しかし、作者本人が書いた別エンディングがあるとか言われるとファンは見過ごせないですよね・・・。最終稿こそを真実作者が決定した結末と捉えるべきだとは思いますが。もっとお手頃価格のバージョンも出してくれれば良いのに・・・・・・。

 

 

 

 

地方旧家と戦後
読んでみての率直な感想としては「こりゃホント、子供に読ませちゃ駄目だわ」だったんですけども。

終始陰惨な話で、手塚作品でお馴染みのギャクなども今作には一切無いので手塚治虫の少年向け漫画しか読んだことない人はやっぱりかなり驚くと思います。

 

作品雰囲気は簡単に言うと横溝正史松本清張を混ぜた感じ
戦後の日本を舞台に、横溝正史作品のような地方旧家の因習、倒錯的な性や人間関係と、

 

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時勢や史実の事件を盛込んで松本清張作品のような社会派ミステリも展開されるといったストーリー。

 

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なんというか、文学的な印象を受けますね。小説で書いても面白いんじゃないかとか思ったりします。問題作だなんだと言われていますが、小説だったらこれくらいの内容は別に問題にならないですよね。


地方旧家・天下家は主人公の仁郎が序盤で言う通りに「異常な家」で、おぞましくて気持ち悪い人間関係が蔓延している中で、“村”という閉鎖空間ならではの裁量、殺人、近親相姦、知的障害者への虐待、幽閉、差別用語のオンパレードなどなど、タブーがこれでもかと出て来ますが、これがまったく荒唐無稽に見えない。嫌気がさすくらいにリアリティがあります。「ああ、当時の村ではこういう事、普通にあったんだろうな」っていう。
また、村民や天下家一族が強い訛りで交わす会話内容が何とも言えず生々しいんですよねぇ(^_^;)描写力が良くも悪くも凄い。

 

 

 

 

 


下山事件民進党
戦後の裏日本史ということで1949年に起きた国鉄総裁死亡事件・「下山事件が題材として使われています。作中では“霜川事件”と名称が変えられていますが、事件の詳細などはほぼ史実通りに描かれていますね。
下山事件」は未解決で終わっていて、色々な説が今なお飛び交っている事件なんですが『奇子』ではGHQの謀殺として描かれており、秘密工作員をしている仁郎が事件に関わってしまう流れ。
下山事件」は松本清張も1960年に連作ノンフィクションとして『日本の黒い霧』で取り上げています。

 

やっぱり『奇子』を描くにあたって横溝正史松本清張の作品を参考にしたんじゃないかなぁって気が。

 


他、作中では共産主義政党として民進党という架空の政党が出て来ます。時を経て、本当にこの名前の政党が日本で誕生したというのはまったくの偶然だとしても何か皮肉めいたものを感じてしまいますね。

 

上記の点などから『奇子』は昭和のこの時代だからこそのお話になっているのですが、只今九部玖凛さんによって現代リメイク版『亜夜子』が「テヅコミ」にて連載中で、今月6月には1巻も発売されました。

 

 

 

このお話をどうやって現代設定に・・・・・・・?かなり興味深いですね。

また、エロくてタブー目白押しだったり、史実の事件を扱っているせいか、有名作であるものの今まで映像化などはされてこなかった『奇子』ですが、2019年7月より初舞台化が決定されました。
このスキャンダラスな作品をどう舞台で表現するのか・・・・・・こちらもかなり興味深いですね。

 

 

 

 

 

 

 以下ネタバレ~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

因果
奇子がどんな娘なのか。それは端的に言うなら「究極の箱入り娘」
23年間、土蔵の地下に幽閉され、自由を奪われて外界から完全に隔離された結果、世間一般での常識や教養を持ち合わせるすべもなく、損傷も疲弊も汚点もない、人形じみた肉体を持った純粋培養の女。
奇子』というタイトルではありますが、物語りは大半が仁朗の視点で進んでいます。奇子は特別なにか行動する訳でもなく、ただ閉じ込められているだけ。最初のうちは地下から出たがっていたものの、幽閉生活が長くなると外の世界を怖がって出るのを拒むようになり、下巻で天下家から逃れて仁郎の屋敷に身を寄せてからは何かあると自ら箱に入って閉じこもってしまうという文字通りの「箱入り娘」に。

 

奇子自身は何もしていないのに、奇子の存在によって周りが勝手に右往左往しているという図式がこの物語りの格で、特に男どもは皆が皆己の“欲”によって身を滅ぼし、道を外していくんですけども、その様々な“欲”・“因果”の中心には奇子がいる。

 

女性としては読んでいると「男はホント、しょうがねぇなぁ」っていう、もうそれにつきる感じなんですよ。この物語りでは奇子を始め、女は別段悪いとされるような事はしていないんですよね。男の都合で振り回され、奪われているだけ。これが当時の現実なんでしょうけど。奇子や“すえ”はもちろんですが、お涼なんて本当に気の毒ですよ。何にもしていないのに仁朗に脅されて不名誉な偽証されて挙げ句殺されて。

 

個人的に、すべての元凶である父・作右衛門や長男・市朗よりも罪深く感じてしまうのは三男の伺朗ですね。

途中までは幼いながらも一族の中で唯一正論をズバズバ言う読者の代弁者みたいな人物で、奇子の母である“すえ”に次いで数少ない奇子の味方の一人だったのですが、兄弟でありながら奇子と関係を持ってしまってからは「なにやってんだコイツ」状態。正論的なことを相変わらず口にしますが、奇子に手を出して以降はどんなセリフも「アンタに言われてもね」ですね。最初に読者の代弁者だったぶん、何だか裏切られた気分になってしまいます。

奇子は無知で、男だの女だの自体がよくわかっておらず、貞操観念が薄いというより“そもそも無い”という娘。差し入れられた本を読んで“恋”に憧れ、唯一接触する機会のある男性である伺朗に誘いをかける訳ですが、いくら誘われたとはいえ、何もわかっていない妹を相手に肉体関係をもってしまうというのは外道だと思う。

 

「人間のクズだ 人でなしめ!!」
「そん通りよ――おれはなー天下の汚物をぜんぶひっかぶったごみ箱がおれだというだことがある」

 

開き直ればいいってもんじゃないんだよ!ですが(-_-)


伺朗は過去の天下家について調べた際、天下家がいかに血縁関係のメチャクチャな家柄かというのを知って絶望というか諦めをして「俺一人だけ聖人でいるのは馬鹿馬鹿しい」と思ってしまったというのが背景にはあるようです。
血族結婚を繰り返すとサディストなど精神疾患者が出やすいという話があります。「血の伯爵夫人」

 

エリザベート・バートリ―血の伯爵夫人

エリザベート・バートリ―血の伯爵夫人

 

 

の異名で知られるエリザベート・バートリーを排出したバートリー家は、財産や権力を保つ為に外部の人間が入るのを嫌って血族結婚の繰り返しをしていたんだとか。日本でも名家や地方によっては同じような理由で近親間での婚姻が当たり前のように行われていた時代があったようです。
奇子』を書くにあたり、これらの歴史的背景も念頭にあったんじゃないかと思いますね。

 

 

 

 

ラスト
後味が悪いラストで有名な『奇子』。

手塚治虫自身はもっと長く書くつもりでいたらしいのですが、“大人の事情”で予定より早く連載を終了することとなり、終盤は確かに急ぎ足で収束に向かわしている感が見受けられます。


ラストは天下一族が一堂に会し、伺朗の暴走によって(ホントになにやってんだコイツ)皆が穴ぐらに閉じ込められるという展開。
終盤が急ぎ足なせいかやけくそな結末という風に感じるかもですが、読んでいて一番面白いのは、この穴ぐらに閉じ込められて皆が本音をぶっちゃけて言い争いをする場面です。ある意味一番スカッとする場面なんじゃないかと。

 

暗闇の中で皆が恐慌状態に陥るも、奇子は高笑いをし始めます。

 

「――奇子の笑っているわけがわかりますよ 奇子は復讐しているんだ 二十年もの閉ざされた恐怖を・・・・・・いまのみんなが味わってるんで」
奇子には満足なんだ」
「それで笑うんですよ」

 

意図せず復讐を果たすこととなる奇子と、仁郎がGHQの謀殺事件に関わったことで始まった物語りが、23年経って報復を受けるように身に降りかかってくるという因果応報。
大人の事情で打ち切りになった本作ですが、この物語りにはこの結末が最も相応しく、この結末以外あり得ないのではないかと思います。

 

最後は穴ぐらから奇子のみが生きて救出されるもその後行方知れずに。天下家で一人残された母・ゐばが村を見下ろしている場面で終わっています。


一見悪いことはしていない志子や一族と無関係の下田刑事の倅までもが死んでいるなかで、このゐばだけは天下家の因縁から難を逃れているのは不思議な気もしますが、良くも悪くも貞女の鏡で存在感は薄いものの、ゐばだけは欲に振り回されず、伺朗のように天下家に愛想を尽かして開き直ることもなく、妻として母として努めていた、実は最も強い人物なんじゃないかと。
皆ゐばを蔑ろにしているようでいて、遺言状を預けたり、奇子への送金を託したりしているので、家族の中で唯一誰からも信頼されていたのは読み返してみるとよく解ります。
手塚作品は比較的どのお話も母親が良さげに描かれているような気がする・・・。往々にして男性作家はそういう傾向が強いですけどね。基本マザコンというか・・・。

 

復刻ドットコムの《オリジナル版》に収録されている雑誌掲載時のラストは単行本とほぼ同じものの、生存者が増えているらしいので読み比べてみたいものですね。

 

 

 

しかし、単行本で奇子以外死ぬ風に書き直したということは、やっぱりその方が話しとして纏まりが良いと思ったからなんですかねぇ・・・。

 


行方知れずになっている奇子ですが、手塚治虫としては続編の構想があったようです。書かれないままに亡くなってしまったのでどんな形で続きを描こうとしていたのか想像するしかありませんが、男に道を踏み外させる運命の女・ファム・ファタールものみたいなのを書くつもりだったんじゃないかなぁ~とか思うんですけど・・・どうでしょう。先生が亡くなってしまったことが悔やまれますね。

 

夢や希望があるお話ではないですが、読めばきっと漫画家・手塚治虫の底知れぬ凄さを改めて思い知る作品だと思いますので、大人ならば是非是非読みましょう。

 

 

 


ではではまた~

 

 

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ダイナー 小説・ネタバレ 。映画、漫画・・・最狂エンタメの原作本!

こんばんは、紫栞です。
今回は平山夢明さんの『ダイナー』をご紹介。

ダイナー (ポプラ文庫)

第十三回大藪春彦賞、第二十八回日本冒険小説協会賞、第五十九回日本推理作家協会賞受賞作。
2019年7月5日公開予定の映画の原作本ですね。

 

 

あらすじ
「ここは殺し屋専用の定食屋(ダイナー)だ。おまえの客はすべて人を殺している。おまえは人を殺した人間から注文を取り、人を殺した人間に料理を提供し、人を殺した人間にコーヒーを注ぎ、つまり人を殺した人間をくつろがせる。気難しい奴が多い。極端な話、皿の置き方ひとつで消されることもあるだろう」
オオバカナコは三十万欲しさにほんの出来心から闇サイトのバイトに手を出すが、雇い主がしくじったことで一緒に捕らえられ、酷い拷問にあったあげくに定食屋(ダイナー)「キャンティーン」に使い捨てのウェイトレスとして売られてしまう。
キャンティーン」はプロの殺し屋専用の完全会員制のダイナー。天才シェフで元殺し屋のボンベロが作る極上の料理を目当てに、殺し屋たちはつかの間の憩いを求めて店に訪れる。
“王”として支配的に振る舞うボンベロや、客である殺し屋たちにいつ消されるともわからない戦々恐々の日々の中、カナコは殺し屋たちの複雑怪奇な人間模様に触れ、翻弄されていくのだが・・・・・・。
奈落で繰り広げられる狂気と暴力。そして、料理と男と女の物語り。

 

 

 

 

 

脳が刺激されっぱなしの最狂エンターテインメント!
作者の平山夢明さんは作家以外にも色々されている方。京極夏彦ファンの私としては「京極さんと仲が良い方」という認識が先にきます。一緒にラジオ番組やっていますし、京極さんの著作『嘘実妖怪百物語』にも実名で登場していますね。

 

 

あとはとにかく、グロ作家さんという印象です。
この『ダイナー』が平山さんの現状一番の代表作で知名度も高いですが、他に代表作の筆頭として必ず出て来る『独白するユニバーサル横メルカトル』

 

独白するユニバーサル横メルカトル (光文社文庫)

独白するユニバーサル横メルカトル (光文社文庫)

 

 

という短編集を前に読んだのですが、ま~とにかくグロい!全編、凄まじい暴力と拷問のオンパレード。あまりの描写にいっそファンタジックな気分になってしまうほどです。物語りは面白くて完成度も高いので良い短編集には違いないのですが、個人的に拷問描写が苦手な私は『ダイナー』が名作だよと聞いて気になりつつも何年もなんとなく手が出せない状態でした。今年映画化されるとなってやっと読んでみた次第です。

 

読んでみたらですね、今まで読んでいなかったのを後悔するくらいに面白かったです。流石にこの作品だけで賞を三つも取っているだけあると納得の小説でした。


最初っから最後まで一時も安心出来ない出来事の連続で気が抜けずに一気読み。圧倒的な「暴力」と「狂気」で終始「いつ消されるかわからない」といった恐怖で脳がシビれる状態が延々続きますが、「暴力」と「狂気」に彩られる中で別のものが見え隠れしてきて終盤に炸裂。そのまま最高のラストへと誘われます。

 

“ダイナー”というのはアメリカのレストランで主にハンバーガーなどを出すお店のこと。なので、作中ボンベロが作る料理もハンバーガーが主なんですが、コレが凄く美味しそうに豪華に描写されています。読んでいるとハンバーガー食べたくなってしまう(^^;)それで本の表紙もハンバーガー。他の料理もめちゃくちゃ美味しそうです。
散々の暴力描写の後にひたすら美味しそうな料理。
もう訳がわからない混沌の渦ですが、独自の世界観にドンドン引き込まれていきます。

 

小説のジャンルとしてはノワールになるんだそうな。確かに舞台は地獄そのものなのでノワールとなるのかもしれないですが、でも感覚としては規格外の刺激的すぎるエンタメ小説という感じ。
とにかくエンターテインメントに特化した作品で、ずっとごちそうを食べているかのような贅沢な作品になっています。

 

私は文庫で読んだのですが、今作は文庫化にあたり結構な書き直しがあるようです。特に第六章には大幅な変化があるのだとか。なので、今から読むなら文庫がオススメですね。単行本で読んだ人も文庫とどう違いがあるか確かめてみると良いんじゃないかと思います。

 

ダイナー (ポプラ文庫)

ダイナー (ポプラ文庫)

 

 

 

 

 

映画
7月5日公開の映画は監督が蜷川実花さん。蜷川実花さんが監督をするからには極彩色で毒々しい映像美が期待できますね。既にして、公式サイトにも流石に美しい写真が並んでいます。ストーリーはもちろん映像でも胸焼けするほど脳を刺激してくれそうですな(^o^)。

 

キャストは以下の通り
ボンベロ藤原竜也
オオバカナコ玉城ティナ
スキン窪田正孝
キッド本郷奏多
ブロ武田真治
カウボーイ斎藤工
ディーディー佐藤江梨子
ブタ男金子ノブアキ
マテバ小栗旬
マリア土屋アンナ
無礼図(ブレイズ)真矢ミキ
コフィ奥田瑛二


主演が藤原竜也さんとなっており、蜷川さんは男性の主役で映画を撮るのはコレが初なんだとか(言われてみれば、ずっと女性が主役の映画ですね)。原作は全編カナコ視点で描かれているのでカナコが主役という印象の方が強いんですけどね。

 

キャストですが、登場人物の名前や特徴や素性も色々変更されています。原作に登場するのはボンベロカナコを中心として、ディーディー、カウボーイ、スキン、キッド、無礼図(ブレイズ)、コフィ、マテバですが、マテバは作中では既に死亡している人物として語られていているのみですし、無礼図(ブレイズ)はキャストが真矢ミキさんになっていますが、原作では男性です。

 

原作通りの設定っぽいのは冒頭の闇サイトのバイトの雇い主であるディーディーカウボーイ、殺し屋のスキンキッド、ボンベロの現在の雇い主のコフィかなぁと。

 

他の、ブロー、ブタ男、マリアは映画オリジナルキャラクターですね。

 

女性の殺し屋でボンベロの元弟子の「炎媚」とボンベロの顔見知りで恩人の殺し屋「オヅ」が映画には不在のようです。原作ではボンベロの人となりを表す上でかなり重要で外せない人物なんですけどねぇ。

 

予告映像を観た感じでも原作からはだいぶ変更されたストーリーになっているようですので、原作小説とは別物で楽しむ映画となりそうですね。

 

個人的に、一番驚きなのがカウボーイを斎藤工さんが演じることですね。カウボーイって、冒頭でバカみたいなセリフばっかり連発してすぐに(ホントにすぐに)拷問にあって死んじゃうキャラクターなんですが・・・・映画もそのまますぐ退場なんだろうか・・・(^^;)

 

※観ました!詳しくはこちら↓

 

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漫画
『ダイナー』は漫画化もされています。

 

DINER ダイナー 1 (ヤングジャンプコミックスDIGITAL)

DINER ダイナー 1 (ヤングジャンプコミックスDIGITAL)

 

 

漫画版は河合孝典さんの作画によるもの。週刊ヤングジャンプで2017年36・37合併号にて連載開始、2019年2号まで連載されていましたが、その後WEBコミックサイトとなりのヤングジャンプに移籍して今も連載中。2019年6月現在でコミックスが6巻まで刊行されており、2019年7月4日に新刊の7巻が発売されます。


映画の公開が7月5日なので、それに合わせての刊行なんですかね。

 

平山さんの『ダイナー』が原作ではありますが、漫画版の方では小説だと死んでしまった人物が生きていたり、小説以上に色々な特性を持った殺し屋が出て来たりなど独自の展開をしているようです。
映画もそうですが、小説の「殺し屋専用の定食屋」という設定が奇抜で面白いので色々話を膨らませやすいのかもしれないですね。

 

 

 

 

 

 

以下ネタバレ~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


オオバカナコ
この小説は終始、本作のヒロインであるカナコの一人称で描かれています。

“オオバカナコ”とカタカナ表記のみなんですが、この名前、そのまんま「大莫迦な子」と読めて、カナコ自身も幼少の時からこの名前を散々にからかわれてきて嫌っており、名前を変えたい一心で過去に安易に結婚したことも。


この小説の冒頭、カナコはリゾートホテル旅行に憧れて三十万欲しさに携帯闇サイトのバイトに手を出します。これだけでもう名前の通り「安易で愚かな女性だな」ですよね。旅行費の為に明らかに犯罪性のあるバイトに手を出すなんて。
案の定というかなんというか、結果的に「キャンティーン」という地獄に落ちてくる訳ですが、地獄に落ちてもなお、カナコは莫迦な行動をとり続けます。ボンベロに掃除が終わった後の便器を舐めろと言われ、従わなければ殺される状況下でそれを拒否。一億円以上する最高級の酒「歌姫(ディーバ)」(※ディーバ・ウォッカと言って実在するお酒です)を人質に取ってボンベロに軽はずみに殺されることを回避しようとします。

 

カナコは至って平凡な女性です。恐ろしい場面では普通に怖がり、身体だって震えます。怖い怖いと心中恐れているのに、裏腹に大胆で怖い物知らずな行動をする。
ようするに莫迦なんですね。


開き直ったのかなんなのか、雇い主で恐怖の対象であるはずのボンベロに敬語は使わずにタメ口で会話していますし、店に訪れる殺し屋に対しても当たり前のように口答えしたりします。
このように、ただ怖がって「きゃーきゃー」言うだけではなく、莫迦で妙な具合に逞しいカナコというヒロインはこの作品の魅力の一つになっています。

「厄介ごとは嫌いだ。おまえはややこしい」

と言っていたボンベロも、“大莫迦な子”・カナコに今までのウェイトレスに対してとは違う感情を持っていきます。

 

 

 


ボンベロ
元殺し屋の天才シェフ・ボンベロは序盤では威圧的で得体の知れぬ人間味のない人物といった印象ですが、相棒のブルドック・菊千代が登場するあたりから人間味が垣間見え始め、炎媚やオヅの登場で優しさや切なさが滲み出てきて物語り後半はすっかり魅力的な人物に感じられてきます。


カナコに対しても最初は「歌姫(ディーバ)」を人質に取られたとあって、隙あらば殺してでも酒のありかを突き止めようと狙ってくる、店の客同様にカナコの命を獲るかもしれない怖い人物ですが、カナコが菊千代の命を救ったことで「生かしておく」と決めてからは店の客や組織から全力で守ってくれるようになります。美味しいものも食べさせてくれるし。
カナコも怖がっていたはずが〈どこか別の場所でボンベロとレストランができたら良いのに・・・・・・〉と頭に浮かぶまでになります。※思った瞬間にショックをうけていましたけど。

 

「客に殺されるのは仕方がない」と言いながらもかなり骨を折って、自らも怪我を負ってまで助けてくれますが、終盤、「キャンティーン」の現オーナー・コフィの組織への裏切りにより店は閉鎖、ボンベロは今までの組織への忠誠を評価されて殺されずに追放処分となりますが、カナコは組織の手によって殺処分されることに。

「俺にはもう何もできん。何もなくなってしまった」

と、もはやここまでか・・・とカナコはボンベロに別れと感謝の言葉を最後に「キャンティーン」から去ろうとしますが・・・カナコの「ありがとう」にブチ切れたボンベロはカナコを引きずり込んで店に籠城。組織と真っ向対決することとなります。

 

ボンベロは「キャンティーン」の発案者で前オーナーのデルモニコと殺し屋仲間だったオズに命を救われた過去がありました。

 

「戻ってくるなんて思いもよらなかった。あの瞬間、最も狂っていたのはオズだった。百人が百人、俺を見捨てる状況だった。もちろん俺だってそうしただろう。ところが奴は帰ってきた。もちろん、奴だけの意思でなかったことがあとでわかったが・・・・・・」
「誰かに言われたのね」
「違う。おまえの言っている意味が命令や指図といったものであるとするならば、答えはノーだ。奴はデルモニコに電話を掛け〈感じた〉のだと説明したよ」
「感じた?」
「ああ。そうすべきだと・・・・・・デルモニコから、自分もそうすべきだと〈感じた〉のだと、奴はよく言っていた」

 

カナコにしても誰がどう見ても見捨てるしかない状況で、助けようとするのは気が狂っているとしか思えません。カナコの「ありがとう」を聞いた瞬間、ボンベロもオズと同じようにそうするべきだと〈感じ〉、ただ「生かしておきたい」という想いのままに組織に背いて店を舞台に銃撃戦を繰り広げることに。

ボンベロがこの選択をする瞬間というのがもう最高です。読んでいてテンションが爆上げに(^o^)

 

料理
殺し屋専用のダイナー「キャンティーン」はデルモニコのアイディアによるもの。自殺したり自滅してしまう殺し屋たちをなるべく生かしておこうというのが目的で、自分と同じ職業、境遇の者と触れ合い、絶品の料理でつかの間の休息を与えようというもの。


ただ食事することが自滅防止になるのかといった感じですが、たかが料理、されど料理。ボンベロのスフレを喰うことが生きがいだったスキンがそうだったように、「また喰いたい」と思うことで生き延びる気にさせることが出来る。料理にはそういう力があるんですね。

 

カナコとボンベロの間に具体的にあるのは「料理」のみ。
終盤、店に籠城し銃弾が飛び交う中でボンベロはカナコに「料理をしろ」と命じます。
それでカナコ、本当に作り始めるんですよね。こんな状況で料理を作るという、あまりにも斬新な場面が展開される訳ですが、このシュールさとどんな状況下でも料理ですべてを伝えるというのがこの作品ならではで“かくあるべし”だと感じさせられます。


カナコが作った料理の名は「Bombero’s Back(ボンベロの背中)」。ボンベロは「悪くない」と頷いて「が・・・・・・次はもっと旨く焼け」と言います。そして最後の最後、排気口にカナコを押し込み、口座と暗証番号を渡して「店でも開け。必ず喰いに行く」「面白かったぜ!オオバカナコ」と告げて菊千代と共に安否不明に。

 

エピローグではカナコは「Chimp piss(チンパンジーの小便)」というボンベロがきっと気づくはずの名前の店を開いています。
キャンティーン」の焼け跡からボンベロと菊千代らしき遺体が見付かっていないことから生存を確信、ボンベロの「必ず喰いに行く」という言葉を信じて、ブルドッグを連れた男が店に訪れるのを待ち続けているところで物語りは終了します。
つくづく料理ばかりが介在している二人ですね。

 

 

 

 

続編
現在、今作の続編として『ダイナーⅡ』ポプラ社のウェブサイト「WEB asta」にて連載中です。今作『ダイナー』は2009年刊行の作品。十年経ってのまさかの続編ですね。


『ダイナーⅡ』は2018年5月から連載されていて、映画公開に合わせて書籍刊行されるんじゃないかなぁと思うのですが、著者の平山さんは刊行の際に書き直しすることが多いみたいですので、すぐには出ないかもしれないですね。ウェブで読めるのですが、私は書籍化まで楽しみにとっておこうと思います。やっぱり紙で読むのが好き・・・(^^;)

続編、非常に嬉しいです。あの後どうなったのか気になるところ。ボンベロと菊千代がカナコの店に現われる姿を望むばかりなんですが・・・果たしてどうなっているのでしょう?とにかく、発売されたら絶対読みます!

 

 


ではではまた~

 

ダイナー (ポプラ文庫)

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DINER ダイナー 1 (ヤングジャンプコミックスDIGITAL)

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『今昔百鬼拾遺 河童』あらすじ・感想 多々良センセイも登場のシリーズ第二弾!

こんばんは、紫栞です。
今回は京極夏彦さんの『今昔百鬼拾遺 河童』をご紹介。

今昔百鬼拾遺 河童 (角川文庫)

あらすじ
昭和二十九年、夏。東京では浅草を中心にして男ばかりを狙う覗き魔が横行しており、“昭和の出歯亀”などと呼ばれて世間を賑わせていた。
そんな中、薔薇十字探偵社に模造宝石に関した依頼が舞い込み、調査が手詰まりになった探偵助手の益田龍一は「奇譚月報」の記者・中禅寺敦子から知恵を拝借しようと相談を持ち掛ける。話を聞くうち、依頼された模造宝石事件と殺人の疑いがある二件の奇妙な水死事件との間に関連性が浮上。事実確認をしようとした矢先に第三の水死事件が発生し、敦子が事件現場に駆け付けると、そこには遺体の第一発見者として女学生の呉美由紀と妖怪研究者・多々良勝五郎がそろっていた。
複雑に蛇行する夷隅川水系で発見される珍妙な水死体。果たして薔薇十字探偵社に持ち込まれた依頼、そして“昭和の出歯亀”との繋がりは?
敦子は美由紀、多々良、益田らと共に怪事件の謎に迫るが――。

 

 

 

 

 

 

 

 


第二弾
百鬼夜行シリーズ】

 

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最新スピンオフ『今昔百鬼拾遺』( こんじゃくひゃっきしゅうい)、3社横断3ヶ月連続刊行企画の第二弾。第一作の講談社タイガから刊行の「鬼」に続き、今回は角川文庫から刊行の「河童」です。

 


※第一作「鬼」についてと3社横断3ヶ月連続刊行企画の概要や詳細についてはこちら↓

 

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※2020年8月追記。

三社横断企画のはずですが、結局講談社から三作をまとめて一冊にしたものが『今昔百鬼拾遺 月』として刊行されました↓

 

 

色々と「どういうことだ?」って感じですが・・・レンガ本で読みたいならこちらをどうぞ。

 

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前作と同様、敦子と美由紀ちゃんを中心にお話が構成されていますが、前作では敦子視点の語りのみでしたが、今作は美由紀ちゃん視点と敦子視点で語りが交互になっています。敦子と美由紀ちゃんは前作での事件以来、月に一二度会う“年の離れた友達”といった間柄になっているようです。なんだか微笑ましい・・・。


ページ数は前作の「鬼」より100ページ程多く360ページぐらい。通常、360ページあれば立派な長編小説。しかし、レンガ本に毒されているシリーズファンとしては、やっぱり短編読んでいる気分ですね。「もっと長くてもいいのよ」とか思ってしまう。カドブンのインタビュー記事によると、著者の京極さんとしても短編書いている感覚のようです(^^;)ですよね・・・。

表紙写真と口絵のモデルは今田美桜さん。前作同様、今巻もお面に隠れて顔は出ていません。本当に最後まで顔出ししないのだろうか・・・。

 

冒頭に美由紀ちゃんと学友達との会話があるのですが、「~ですわ」「~なのじゃなくって?」といったお嬢様口調で(美由紀ちゃんは普通の口調)河童だのお尻だの肛門だのの話をしているのが凄くシュールで可笑しいです。
水死事件自体も“お尻を丸出しにして川を流れている遺体”ってことで作中でとにかく「尻」「尻」連呼して「下品で申し訳ない」と何度も言っています。
「河童」は【百鬼夜行シリーズ】の本編でも派生作品でも度々妖怪の蘊蓄話の中で出て来るのでシリーズファンとしては馴染み深いですが(ま、「鬼」も「天狗」もそうなんですけど)、今作は直球で「河童」にフューチャーしているお話ということで「河童」が持ち合わせている下品さが話題の前面に出ているので、前作よりもコミカルな印象ですね。コミカルなのは今回のゲストキャラによるところも大きいかもですが。

 

 

 


登場人物
今回は上記のあらすじにもあるように、薔薇十字探偵社の益田龍一と【百鬼夜行シリーズ】のスピンオフ『今昔続百鬼』

 

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の主役で本編にも時偶出て来る多々良勝五郎センセイ、『格新婦の理』

 

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で登場した磯部刑事などが登場しています。作中に「津畑は態度が余りにも悪いので内勤の庶務になった」と出て来ますが、この「津畑」は「津畠」の表記ミスだと思われるんですけども・・・どうなんでしょう。

 

『今昔百鬼拾遺』は美由紀ちゃんが中心人物の一人なので『格新婦の理』関連の事柄や人物がどうしても多くなりますね。

 


益田と多々良センセイがいることによってコミカル要素が強くなっているように感じる。益田は『格新婦の理』以来ホント出番が多いですよねぇ。役割的に扱いやすいのかな。どんどんお調子者に拍車がかかっているような。(薔薇十字探偵社に居るせいか?)
今作では改めて女性ウケの悪さが浮き彫りになっています。団子屋の女将には怒られるし、美由紀ちゃんには迷惑がられるし、敦子も扱いが酷くなっていくし。

「敦子さん、最近僕に風当たりが強い気がしますがね」

なんてセリフも出て来ます(笑)。

 

あと、多々良センセイがいるってことで必然的に妖怪蘊蓄が多く出て来ますね。榎木津ほどではないにしろ、多々良センセイも超個性的で周りが扱いに困る人物なんですが、刑事さんや他の編集者が辟易する中、敦子が見事に操縦(?)していてなにか感心。さすが京極堂の妹。

 

また、角川の企画としてTwitter上で行われた『虚談』刊行記念「『虚談』のカバー写真は誰だキャンペーン」

 

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のクイズ正解者十五名の氏名が作中に盛込まれているんだそうな。『今昔百鬼拾遺』は企画まみれの刊行ですね~。

 

 

 

 

新情報
前作は昭和29年の春先のお話で、今作は夏で前作から数ヶ月経っている設定。3月の段階で中禅寺秋彦榎木津礼二郎栃木で遭遇した事件に関わっている最中だとされていましたが、今作では中禅寺秋彦はまだ担ぎ出されていないものの、東北の方で事件が発生してこじれているらしいです。


“栃木の事件”がおそらく長らく刊行が待ち望まれている【百鬼夜行シリーズ】の長編『鵼の碑』だと思われるのですが、ここにきてまた新情報ですね!これは既に『鵼の碑』以降の長編の構想が出来上がっているということでしょうか!?(京極さんのことだからもっと先までの構想もあるかもですが)ワクワクですね(^o^)

 

“栃木の事件”について、益田と敦子の会話では

「栃木の事件は、兄貴も最初からいたでしょう?」
「ありゃ事件なのかどうなのか、最後まで判らなかったんですよ。何がどうなってんだか、何回聞いたって今でも解りません」
「榎木津さんの説明だからでしょう?」

と、あります。


榎木津の説明じゃ解らんだろうなぁというのはその通りなんでしょうが、わかりやすい事件や犯人がいて云々という話では無さそうですね。
あと、この会話から察するに、鳥口や敦子同様、益田も“栃木の事件”には不参加のようですね。栃木に居なかっただけで東京での場面には登場するのかもですが。うーん。どんなメンツでの事件となっているのでしょう。なんにせよ、もういい加減読みたい。

 

 

 

 

 

 

 

 


戦後
事件内容としては宝石奪取事件での人間関係が結構複雑。“昭和の出歯亀”の目的や犯人は割とすぐ見当が付きましたが、仕掛け部分は説明されると簡単なんですけども、私は思い至りませんでした。


今作は戦後の混乱期の事情が事件に深く関わっています。このシリーズの時代設定ならではですね。出自での差別、戦争責任での皇室への国民の感じ方などが事件に強く関係しています。

年号が変わったばかりのこのタイミングで皇室をお話で扱うのは凄くタイムリーな感じ。戦争責任に関しては難しい問題ですよね。作中では「どの考えが正しい・間違っている」といった決めつけや押し付けはされていません。私的に、思想の押し付けをしないところが京極作品の好きなところです。作家さんによってはホント押しつけがましく書く人いますからね・・・(^^;)

あと、史実の第五福竜丸事件」について途中少し触れられています。原子力災害については今読むとどうしても震災の事を考えてしまいますね。

 

今作も最後に美由紀ちゃんがキレてます。カドブンの著者インタビューによると、『今昔百鬼拾遺』は敦子が理論を述べて美由紀ちゃんが最後にキレるのがお約束らしいです。ラストで美由紀ちゃんが指摘している事柄には色々救われる思いがあって良かったですね。
思想や信仰が最後の最後で取っ払われて、正直な思いが勝つ。

ジワジワとクルものがあります。


しかし、この真相なら、お母さんの事についてもうちょっと詳しい記載が欲しかったなって気もしますが。やっぱり「もっと長くてもいいのよ」ですね(^^;)

“宝物の行方”については最後の敦子の言葉で上手い具合にオチがついていて綺麗です。

 

 


次作!
次作「天狗」は2019年6月26日、新潮文庫からの刊行となります。

 

 

 

なんと、「天狗」には篠村美弥子嬢がご登場されるのだとか。『百器徒然袋 雨』「鳴釜」に登場し、あまりの格好良さで全てをかっさらっていった、あの篠村美弥子さんですよっ!

 

 

 

 

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楽しみすぎる(>_<)


次作も読むっきゃありませんね。

 

※読みました!詳しくはこちら↓

 

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ではではまた~

 

 

 

 

 

 

 

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『海のある奈良に死す』ネタバレ・感想 今となっては映像化不可能?な長編。

こんばんは、紫栞です。
今回は有栖川有栖さんの『海のある奈良に死す』をご紹介。

海のある奈良に死す (角川文庫)

あらすじ
「行ってくる。『海のある奈良』へ」
推理作家である有栖川有栖は、半年がかりで書き上げた長編小説の刊行を前に神田神保町にある出版社・珀友社にやって来た。応接室に通され、出来上がったばかりの新作の見本を心待ちにしていると、その間に同業者の人気作家・赤星楽が大きなバックを肩に掛けた姿で有栖のいる応接室に現われる。赤星はこれから人魚がからんだ題材の書き下ろし小説の取材旅行に行くという。行き先を尋ねる有栖に、赤星は「行ってくる。『海のある奈良』へ」と思わせぶりに言い残して応接室を後にした。
翌日、福井県若狭湾で赤星楽が他殺体として発見される。赤星と最後に話した関係者として警察に聴取を受けた有栖は、赤星の創作ノートが見付からないことなどから事件に疑問を感じ、友人の犯罪学者・火村英生と共に調査を開始するが――。

 

 

 

 

映像化不可能?「海奈良」
『海のある奈良』は1995年に刊行された【作家アリスシリーズ】の長編三作目。

 

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タイトルが長いのでファンの間では「海奈良」とか略されていたりします(シリーズものだとどのタイトルも略して話しがちですけどね)。
“海のある奈良”というセリフから事件をたどっていく今作。お恥ずかしいことに浅学でして、私まったく知らなかったのですが、“海のある奈良”というと一般的に福井県の小浜を指してそう言うらしいです。数年前にアメリカ大統領と同じ名前だといって注目されたあそこですね。
「小浜っていうところは京都とのつながりも深くって、国宝や重要文化財がごろごろしているんだ。ただならぬ土地なんだぜ」
とのこと。
それで作中、アリスも火村も赤星が言った「海のある奈良」は小浜なんじゃないかってことで福岡県まで調査の足を伸ばします。別の場所もちょこちょこ行きますので、シリーズの中では舞台がよく異動するお話ですね。
あと、赤星楽の書こうとしていた新作のタイトルが「人魚の牙」で、小浜に伝わる八百比丘尼の話を連想させるような、びっくりするほど若々しい穴吹奈美子の登場など、全体に“人魚”が絡んでくるお話にもなっています。人魚の肉を食べると不老長寿になるという“アレ”ですね。↓

 

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2019年5月7日に『臨床犯罪学者 火村英生の推理』のHuluでのドラマ続編放送決定が発表されました。(5月7日はアリスと火村の出会った日ということで、この日に発表だったんだそうな。粋な計らい)

 

臨床犯罪学者 火村英生の推理(DVD-BOX)

臨床犯罪学者 火村英生の推理(DVD-BOX)

 

 


今作『海のある奈良に死す』は前回のドラマシリーズでは映像化されていないのですが、おそらく今後放送される続編ドラマでもまず映像化はしないだろうことが予想されます。

それというのも、「海奈良」に関しては今現在となっては映像化できないトリックや事情があるんですよね~(^^;)ですので、今作は小説で楽しむしかない作品ですが、シリーズ的に結構重要な事柄が盛込まれた長編作品ですので、シリーズファンなら抜かせない作品です。ちゃんと読みましょうね。

 

 

 

海のある奈良に死す (双葉文庫)

海のある奈良に死す (双葉文庫)

 

 

 

朝井小夜子
今作『海のある奈良に死す』は皆大好き朝井小夜子先生の初登場回です。

朝井先生は三十六歳(初登場当初)独身、京都在住のミステリ作家でアリスにとっては“たまに会う気のいい先輩”。姉御肌で気っぷがよく、読者ウケも良い(はず)なキャラクター。今回の事件の被害者・赤星楽の元交際相手として事件に関わってきます。


周りに火村のことを吹聴するくせに「じゃあ紹介してくれ」と相手に言われると途端に難色を示す。そんな面倒くさい友人感情を持ち合わせているアリスですが、朝井先生には事件に関係していることもあってか今作で火村と飲みの席を設けて紹介しています。第二章の最後で朝井先生とアリスがしている「火村の女嫌い」についての話が興味深い。火村の女嫌いの方便、「女性の創り出すものに感動しないから」というのは朝井先生同様、女性としては「うへ」って感じなので、ホントの理由を隠すための嘘であって欲しいもんです。

「火村先生はやっぱり女性恐怖症なんやない?それは目眩ましの煙幕やわ、きっと。もしマジで言うてるんやったら、とんでもない勘違いをしてる。矛盾と混乱の二人三脚やね。どう大ボケなんか、親友の口からきちんと教えてあげなさいよ」
私は「大ボケって・・・・・・・?」と訊き返す。
「教えてあげなさいって。男たちが命を削りながら創った芸術の多くが伝えようとしていることは何か?ああ、情けない。それはね――女は素晴らしいっていう、実につまらない錯覚よ」

しかし、このシーンの前にある火村の「女子大生に言い寄られた際のかわし方」はかわし慣れ・あしらい慣れている感が凄くってモテ男なのを痛感する。アリスに「もてるなぁ。センセ」と言われて「ああ。親衛隊がうるさくって講義が聴き取れない、と男子学生からクレームが出て困ってる」と返答。アリスはこの発言をヨタだと決めつけていますが、後の作品の『朱色の研究』での朱美ちゃんの証言によると、この発言はあながちヨタではなかったということが明らかになります。

 

 


朝井先生は京都在住ということで、以後、別のお話でもアリスと火村と朝井先生の三人で居酒屋で飲んでいるシーンが度々登場するようになります。短編集での登場が多いですかね↓

 

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今作の被害者・赤星楽は短編集『英国庭園の謎』に収録されている「三つの日付」にて名前が再登場しています。赤星が少し関係している事件。

 

 

 

 

 

 


観光
久しぶりに読み返してみると、第三章の「小浜ミステリーツアー」が本当に唯の観光で驚き。事件に小浜が関係してるかも~という理由で、誰にも何も頼まれてないのに火村とアリスの二人が自発的に小浜まで足を運びます。一章丸々アリスが予習してきた小浜知識をガイドブックに火村の運転でドライブしながら各地を巡る、何だか二時間サスペンスドラマみたいな流れ。
アリスの蘊蓄量が結構ありまして、火村に「それだけぺらぺらしゃべれりゃ、観光協会でアルバイトができるな」とか言われちゃっています。アリスの「ちゃんと聞いてた?」や、地の文の“私のガイドは充分、友人を楽しませているようだ。よしよし、もう少しサービスしてやろう。”など、「頑張って予習してきた感」がかわいいです。


あまりにも二人のやり取りが楽しそうなので、若干不謹慎さを感じてしまうほどですね。コイツら、殺人事件を口実に観光を楽しんでいるだけなんじゃ・・・みたいな(^^;)ま、半分は観光気分なのは事実なのでしょう。婆ちゃんも「せっかく行くんやから、小浜の観光もしてきよし」と言って出発前にお弁当作って渡そうとしているくらいですからね。学生旅行のような扱い。しかもこの小浜探索、真相にまったく関係していないですからね・・・。

 

 

 

 


以下、ちょっとしたネタバレ~

 

 

 

 

 

 

 


悪夢
上記のように楽しそうな二人ですが、今作ではショックなやり取りもあります。それが、アリスの担当編集者の片桐が事件捜査のために一苦労してくれるといったときに発せられた火村からのこの言葉

「友達が多くて結構だ。犯罪だけが友の孤独な俺とは反対に」

そして、続く地の文がこちら

濡れた髪の先から雫を落としながら冷蔵庫を開け、彼は――私の最も近しい友は――缶ビールを呷った。

何気なく言ったセリフなんでしょうけどね、酷いですよねぇ、これ。アリスに言うのが酷い。こんなに親しくしていて「親友だ」と自負しているアリスに向かって。言う?そんなこと?

私はアリスにどっぷりと感情移入して読んでしまう読者なので、当初読んだときはかなりショックを受けました。自分が友達に言われた気分。
「火村先生、酷い!」と言いたくなりますが。冷静になってみると、コレより前のシーンで「友だち甲斐があるねぇ」と言っているし、そもそもこの事件自体、火村のフィールドワークじゃなくってアリスに相談を持ち掛けられたから遠出までして調べている訳なんで・・・・・・やっぱり非常に良いお友達なんですよ、火村先生は。まぁ、ホントに口が滑っただけなんだろうな。と、大目に見てあげましょう。と、思う・・・(^^;)

 

このやり取りの後、シリーズ的に重要な火村の「悪夢を見て悲鳴あげて起きる現象」が描かれています。火村が繰り返し見ているこの悪夢については『朱色の研究』で夢の詳細が明らかにされますので、今作を読んでから『朱色の研究』を読みましょう。

※漫画もある↓

 

 

 

 

 

 


以下、トリックに関して大いにネタバレ~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


サブリミナル
上記で今作は今ではもう映像化は出来ないと書きましたが、その理由が今作のメイントリックにはサブリミナル効果が使われているという点です。
サブリミナルとは人間の潜在意識に訴えるもので、広告で用いられたのが有名なんですが、その方法というのが、画面上に知覚不可能な速さ・微量のメッセージを繰り返し出して、視聴者が無意識のうちに商品を買うように仕向けようというもの。

1950年代にアメリカ、ニュージャージーの映画館で行われたとされるサブリミナル広告の実地で、コカ・コーラとポップコーンの売り上げが爆上げして、効き目がありすぎる為に禁止措置がとられたという逸話が特に有名で、今作『海のある奈良に死す』の作中でもこの事例が語られていますが、なんと、このニュージャージーでの実験結果、近年では非常に疑わしいとされ、実際には実験自体がなかったのではないかという意見まであるらしいのです。


私はサブリミナルをトリックに用いた作品は今作以外の別の作家さんのものも読んだことがあるのですが、必ずサブリミナルの説明のときにはこのニュージャージーの映画館での実験が実例としてあげられていたので、この実験自体が嘘の可能性が高いというのは知ったとき驚きでした。
そもそも、読者的には「サブリミナルって、結局催眠術とかと同じ感じで、トリックに使われるのは釈然としないなぁ」なんて思っていたのに、大元の根拠が嘘かもしれないなんて・・・えらく騙された気分。これは読者だけでなく、実験を信じて書いた作家さん達もでしょうけど。

 

サブリミナル効果をまったく否定することは出来ないが、科学的根拠はハッキリとしないというのが今の実情らしいので、90年代ぐらいまでのミステリ作品だと目新しさもあってか野心的にトリックに使われているものが散見していますが、2000年代になると、もう使われなくなったように思います。本格推理小説ですとね、種明かしで形状記憶合金とサブリミナル出て来たら萎えるなんてよく言われたもんですが・・・(^_^;)

 

今作ではビデオテープ(VHS)にサブリミナル映像を仕込み、毒入りウィスキーを飲ませるというトリックが使われています。
サブリミナルもそうですが、VHSももはや皆が忘れかけている存在ですからね。ここら辺も映像化出来ないだろう所以です。ホラー映画をダビングだ、テープのツメを折るなどと出て来るので、何となく『リング』を連想してしまいます。

 

リング

リング

 

 

ダビングとかツメ折りとか、懐かしいなぁ。十代の子わからんでしょうけど。しかし、貞子も今やSNS時代に突入していますからねぇ・・・まさに呪いが時代を超えている(^^;)

 

 

 

 

失われた小説の探求
サブリミナルはさておき、他のロジックは見事で終盤の謎解きも感慨深さが漂っていて良いです。穴吹奈美子の見た目が若すぎることが盲点になっているところと、エピローグで火村に赤星楽の小説のキャラクターが憑依しているように描かれているのがまた良し。

 

いずれにせよ、書かれることがなかった赤星の最後の小説を復元しようとした私たちの挑戦こそが、そのまま事件の真相を暴くことになったわけだ。失われた小説を探求する現実の私たち自身が、小説の中の登場人物としてもがいていたのだ。

 

この作中の文にもあるように、この『海のある奈良に死す』は事件捜査というよりは、“作者が死んでしまったことで失われた小説を探求する旅”という印象が強いです。なので、他のミステリには無いせつなさとロマンがあるように思います。
シリーズとしても重要ですし、一定以上の年代にとってはVHSあるあるでノスタルジー(?)にも浸れる作品になっているので(^_^)是非是非。

 

海のある奈良に死す (角川文庫)

海のある奈良に死す (角川文庫)

 

 

 

 


ではではまた~

 

 

 

『東京二十三区女』続編!”あの女は誰?”感想・考察

こんばんは、紫栞です。
今回は長江俊和さんの東京二十三区女 あの女は誰?』の感想と考察を少し。

東京二十三区女 あの女は誰? (幻冬舎文庫)

WOWOWで連続ドラマ化され、このブログでも紹介した東京二十三区女』の続編でシリーズ第2弾ですね。

第1作について、詳しくはこちら↓

 

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璃子と先輩のその後
今作は新元号始まりの日・5月1日に刊行されました。長江さんが続編を執筆中だということは知っていましたが、こんなに早く書籍化されるとは思っていなかったので少し驚きです。WOWOWのドラマは5月17日に最終話を迎えましたね。最終話はシリーズ第1弾の小説の最後に収録されているものと同じく「品川区の女」で、璃々子が東京の“いわくつき”の地ばかり巡っている理由と、先輩・島野仁の正体が明かされて終了。理由はわかったものの、結局“いわくつき”の地巡りの目的が達成できたのかどうか宙ぶらりんな状態での終了でした。
今作『東京二十三区女 あの女は誰?』ではこのシリーズ第1弾小説の、ドラマの続きである瑠璃子と島野先輩のその後が描かれています。なので、この本は絶対に第1作目を読んでから、またはドラマを観終わってから読むように注意して下さい。

今作は最初から電子書籍と文庫での刊行ですね。

 

 


目次
●豊島区の女
墨田区の女
葛飾区の女
千代田区の女

前作は5編収録でしたが、今作は4編収録。

今作も璃々子が“いわくつき”の地を巡っていく中で東京の怪異に遭遇していく連作短編形式ですが、最後の「千代田区の女」で前作以上の衝撃の展開をしていますので必見。

 

「豊島区の女」はドラマの第3話で放送されたエピソードと同様のもの。ドラマの公式サイトを見たときから「原作にないお話だなぁ」と気になっていたのですが、やっぱり続編で書かれていたものだったんですね。
江戸時代の文献に残されている『池袋の女』がモチーフになっているお話。『池袋の女』という俗信はまったく知らなかったのですが、まさに土地と怪異が強く結びついた俗信で、このシリーズで描くにはぴったりのものだという気がします。「やっぱり女は恐ろしいね」という結末で、怪異とはまた別の恐ろしさがあるお話ですが、語り手である阿久根一郎はこれはこれで幸せだったんじゃないかとも思ってしまいますね。サンシャイン60にまつわる都市伝説のお話が興味深かったです。


墨田区の女」はミステリ的仕掛けが施されたお話。私、まんまと騙されてしまいました(^^;)逆だろうと思っていたらそれがまた逆だったっていう・・・。前作に収録されている「港区の女」と似通った事情が隠されたお話ですね。
“本所七不思議”玉の井バラバラ殺人事件”など聞き覚えのある単語や事件が出て来ます。歌川国芳の浮世絵に描かれたスカイツリーの都市伝説はスカイツリーが建てられたばかりの頃に確かに話題になっていたなぁ~とちょっと懐かしくなりました。
このお話はホラー色が薄く、読後感も穏やかですね。


葛飾区の女」は母親を亡くしたばかりの大家族の元に死んだはずの母親が幽霊となって家に帰ってくるお話。葛飾区は映画や漫画の舞台となっている下町のイメージが強いですよね。このお話も下町っぽいアットホームな雰囲気が漂っています。せつない結末で、これもホラー色は薄い。願いを叶える“立石様”の奇跡物語りって感じですね。子供達の名前が今風なので騙されてしまいますが、前作に収録されている板橋区の女」江東区の女」と同様の仕掛けがある。
“首なしライダー”の都市伝説が出て来ますが、私の世代だと“首なしライダー”ですぐに連想するのは銀狼怪奇ファイルですね。

 

 

※ちなみに、『銀狼怪奇ファイル』がDVD化されない要因の一つには“首なしライダー”が関係しているらしいです。

 


最後に収録されているのは千代田区の女」。やはり最後は東京の中央に位置する千代田区がこの『東京二十三区女』にはふさわしい。そして、祟り・都市伝説界隈の大物で大ボス(?)、日本三大怨霊の1人で、千年を超えて今もなお恐れられる平将門首塚が登場します。「東京の怪異」を扱うならば、やっぱり「将門の首塚はやりますよねって感じ。
はたして島野先輩が研究し、璃々子が探し求めている“東京最大の禁忌”とはこの「将門の首塚」なのか?物語りは思わぬ展開をしていきます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

以下ネタバレ~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

原田璃々子
前作『東京二十三区女』での最終話「品川区の女」で明かされたことは、島野先輩は幽霊で霊感の強い璃々子に取り憑いており、璃々子は先輩が死んだ理由は生前先輩が研究していた東京のどこかに隠された禁忌の封印を解いてしまったためなのではないかと考え、先輩の死の原因を解明し、安らかに成仏してもらおうと東京の“いわくつき”の地を巡っている――・・・
と、いう事情でした。

 

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しかし、今作『東京二十三区女 あの女は誰?』の最終話千代田区の女」で語られる事柄は前作で明かされた真相がすべて覆される“別の真相”です。


千代田区の女」での語り手は幽霊とされている島野仁。千代田区を彷徨っていたところに霊媒師だという女が「転落死事件の真相を調べている」と言ってちょっかいを出してくるという展開です。

お話を読み進めると、霊媒師の女が調べている転落死事件の死亡者はフリーライターの原田璃々子だということが明らかになります。

本当の原田璃々子は死亡しており、この原田璃々子は島野先輩の恋人でした。今まで作中で璃々子として登場していた女は、本来の原田璃々子を突き落として殺害した人物。

 

「きっとあなたの後輩は、璃々子さんになりたかったのね。だから、彼女の存在を亡きものにしようと思った。璃々子さんを突き落とした後、あなたの後輩は“原田璃々子”のペンネームで、記事を書き始めた。そしてまるで取り憑かれたように、東京二十三区の曰く付きの場所や心霊スポットを巡り始めた。自分が殺した原田璃々子さんと同じように」

 

“原田璃々子”に成りすましている後輩を目にし、島野仁は疑いの目を向けるようになった。島野先輩は恋人の死の真相を探ろうと、原田璃々子に成りすましている後輩の前に度々現われるようになった。自分が“原田璃々子”だと思い込んでいる後輩は、妄想の中でストーリーを作り上げ、島野先輩が東京の禁忌に触れて取り殺されたと思うようになった――・・・
と、いうのが、今作で明らかになる真相です。

 

これによると、原田璃々子は原田璃々子ではなく、幽霊だと思っていた島野先輩も実はちゃんと生きた人間なのだということで、前作で明らかになったと思われていた事情は、すべて事実とは異なる後輩の妄想だったという結論になります。
前作を最後まで読んで、やっと明らかにされたと思っていた真相がすべて否定される形ですね。

 

 

 

 


生きているのか死んでいるのか
しかしながら、これはあくまで“島野先輩からの視点”での話です。
霊媒師の女と島野先輩の会話には色々と腑に落ちない点があり、含みを持たせている部分もあるので、後輩の一視点からの話同様、島野先輩の一視点もまたすべて鵜呑みにするのは間違いなのではないかという気がするのです。

島野先輩は最後に、「後輩が何故“原田璃々子”を殺して成りすましたのか、何故自分のことを怪異に触れて死んだなどと妄想のストーリーを作ったのかが解らない」と言っています。

葛飾区の女」で、“原田璃々子”に成りすましていた後輩は


「どうしても、突き止めなければならないんです。私の大切な人を殺めた、東京の闇の正体を・・・・・・」


と言っています。


この発言から、後輩は島野先輩に好意を抱いていたのではないかと思われます。“原田璃々子”になりたかった理由というのは、彼女が島野先輩の恋人だったからなのではないかと。

そして島野先輩ですが、やはり死んでいるのではないかと思います。
霊媒師の女は作中で「あなたは生きている。間違いないわ。私が証明してあげる」と言っていますが、最後には「あなたは何者なんですか」と訊かれて「嘘つきの霊媒師」だと答えていて、島野先輩が生きていると言ったのは嘘だったのでは?と、読み取れる返答になっています。

 

コーポで民俗学の講師である男性の死体が見付かったのは前作「品川区の女」での警官の証言から間違いのない事実なはずですし、今作葛飾区の女」の語り手・桃も、璃々子(本当は後輩)が島野先輩と一緒だったはずの場面で“女性一人の姿”しか目撃していません。居酒屋に入って何も注文しないのも実在している人間としては不自然ですし、それにやっぱり毎回の登場の仕方が可笑しいし・・・・・・・
総合すると、やっぱり島野先輩は死んでいる!と、思う・・・(^^;)

 

後輩は嫉妬と羨望から“原田璃々子”を殺害したものの、想いを寄せていた島野先輩は“原田璃々子”の後を追うように死んでしまい、そして霊となって自分に取り憑いた。この最悪の結末を迎えた事実から逃れるため、「東京の怪異」を持ち出した妄想のストーリーを作った。

こう考えると色々と辻褄が合うと思うのですが・・・どうでしょう。

 

 

後輩と島野先輩が最終的にどうなったのか、今作でもハッキリと結末がつかずじまいですが、このシリーズはやっぱり今作で終了でしょうかね?続けようがないですしねぇ・・・ひょっとしたらまた驚きの展開をするかもわからないですが。そしたらまたすぐ読みたいと思います!

 

 

 

ではではまた~

映画原作「泣くな赤鬼」収録の短編集 重松清『せんせい』紹介

こんばんは、紫栞です。
今回は重松清さんの『せんせい』をご紹介。

せんせい。 (新潮文庫)

2019年6月14日公開予定の「泣くな赤鬼」収録の短編集ですね。


先生と生徒。六つの物語り
著者の重松清さんは今では世間的には『とんび』とかが連続ドラマ化されたこともあって有名でしょうか。

 

とんび (角川文庫)

とんび (角川文庫)

 

 

 

とんび DVD-BOX

とんび DVD-BOX

 

 

他にも映像化されているものは何作品もありますけどね。個人的には『疾走』での読書体験が忘れられないのですが。

 

 

疾走【上下 合本版】 (角川文庫)

疾走【上下 合本版】 (角川文庫)

 

 


今作『せんせい』のタイトルは文庫版の方のタイトルで、単行本版『気をつけ、礼。』を改題したものです。

 

気をつけ、礼。

気をつけ、礼。

 

 

単行本版のタイトルは今作の最後に収録されている「気をつけ、礼。」をそのまま表題作としているものですね。文庫化にあたり、

「いささか緊張を強いるオフィシャルな号令ではなく、もっと大らかな呼ぶかけのほうが、文庫にはふさわしいような気がした」

とのことです。

読んでみると、確かにこの本全体を表す最も簡単で率直な単語は「せんせい」だという気がします。漢字じゃなく平仮名で“せんせい”なのがしっくりくる。

重松さんは長編でも短編でも「家族」「親」「子供」「学校」などを題材として書かれているものが殆どという作家さんです。誰もが経験してきたような経験や状況を巧みな心情描写をもって描く作家さん。と、いう勝手なイメージを私は持っているんですが。


この『せんせい』は、ザ・重松清の短編集!といった重松清作品の王道を行く短編集ですね。全話、重松さんが今まで執拗なほどに描いてきた「教師と生徒」のお話となっています。どのお話も明確な解決などは示されずに終わるのですが、読み終わるとほんのりと前進した気持ちになれる。そんな短編集です。

 

 

 

 

 

 

 

 

目次
●白髪のニール
●ドロップは神さまの涙
マティスのビンタ
●にんじん
●泣くな赤鬼
●気をつけ、礼。

 

重松さんの作品は著者自身の体験や思い入れが反映されているものが多いです。短編集だと収録作品のどれか一つには“ギター”“ロック”というワードが登場するのが常なのですが、今作も最初に収録されている「白髪のニール」ではニール・ヤングの曲を弾けるようになりたいと生徒にギターを教えてくれと頼む先生というのが描かれています。

重松さんの本を読むのは久しぶりだったのですが、初っ端にギター話が出て来て「ああ、やっぱり」と可笑しくなってしまいました。ロックは若いときしか歌えないなどよくどこぞで言われたりしますが、それに真っ向から反論するお話。

 

 

「ドロップは神さまの涙」保健室登校の生徒と保険医の先生のお話。保健室登校か・・・毎年何人かは学年にいたなぁと、読みながら学生時代のこと思い出したりしました。学校って本当に息苦しいところなんで、避難場所は必要だと苦々しい気持ちになりつつも、ほんのりと希望や救いが漂う結末。この、わかりやすい解決をしない「いじめ」の扱い方が重松清作品だと痛感。別作品ですけど、『ナイフ』とか読んでいると辛い。

 

ナイフ (新潮文庫)

ナイフ (新潮文庫)

 

 

 

マティスのビンタ」は授業そっちのけで絵描きになる夢を追い掛ける美術教師のお話。

私も中学のとき生徒に頓着しないで授業中も自分の作品描いている美術教師って実際にいたので、これもまた当時を思い出しながら読みました。「教師は生活の為に仕方なくやってて、本当はずっと絵を描いてたいんだ」というのを隠す気も無いっていう。ま、保護者としては教師のこういう態度は気に障るでしょうけど、生徒としては構われないだけ楽って感じでほっとくもんです。ちょっと寂しさはありますけどね。選択授業の先生は往々にしてそんな感じだった気もする。
このお話はいつまでも夢を追い続ける先生に痛々しさと苛立ちを感じてしまう生徒の視点が描かれます。この年代特有の苛立ちで青春だなぁと。

 

 

「にんじん」は一人の生徒のことを理由も無く嫌ってしまう先生のお話。

今作の中では個人的にこのお話が一番印象深いです。何とも理不尽な話で生徒としてはたまったものではないですが、子供ばかり大人数を一人でまとめるとなるとこういった選り好みは大なり小なりしちゃうんだろうなとは思います。いますよねぇ、生徒の好き嫌いがハッキリしている先生(-_-)。あからさまなのはもう論外ですが(私の小学校時代にそういう先生がいて、もう地獄でした・・・)、表面的には出していないつもりでも、生徒は感じ取りますからね。しかも、このお話で嫌われちゃう生徒は特に問題は起さず、地味で目立たない子。こういう子にとっては(私もそうでしたが)学校生活自体が悪意を向けられないように過ごす、静かな戦場なのだから、先生に目を付けられるのは勘弁して欲しいもんだと切に願います。

 

 

「泣くな赤鬼」は余命半年の元生徒と再会した長年高校野球部の監督をしている教師とのお話。

元生徒の方は野球部を途中で退部し、高校も辞めてしまったという設定。厳しくすることでしか教え子に向き合えなかった“赤鬼先生”が死にゆく元生徒と向き合うことで「教師として、もっと何かしてやれたんじゃないか」と当時を振り返っていくといったストーリー。
映画化されますが、お話自体は50ページほどしかない短編なのでストーリーはとてもシンプル。なので、映画では色々とお話を膨らませるんだと思います。脚本や監督の演出の手腕が問われる映画になるかと。50ページしかないにも関わらず、存分に涙腺を刺激してくるお話です。
遠くまで旅をして、いつか、こっちを振り向いてくれ。
という一節が教師という職業の辛さと喜びを痛いほど伝えてきます。

 

 

最後に収録されている「気をつけ、礼。」は著者の重松さん自身の体験を元に描かれているのだと思われるもの。最後に収録されているだけあって、この本全体をまとめ上げているように感じられる一編。田舎あるあるや時代も感じるお話ですね。

今作に収録されている六つのお話には、共通してけっして聖人君子ではない人間くさい先生たちが描かれています。お手本にはほど遠く、ときに罪深い教師たちと対峙する生徒。普遍的な罪深さと、それに対しての穏やかな許しが示される物語り。
「こんな先生いたなぁ」と思い出しながら、あの時にあった“怒り”、そして時を経て今ある“許し”を感じながら読ませてくれる短編集ですので、気になった「あのころ生徒だった人」は是非是非。

 

せんせい。 (新潮文庫)

せんせい。 (新潮文庫)

 

 

 

ではではまた~

『仮面同窓会』 原作小説のネタバレ 読んだことを後悔する?衝撃のラスト!

こんばんは、紫栞です。
今回は雫井脩介さんの『仮面同窓会』をご紹介。

仮面同窓会 (幻冬舎文庫)

2019年6月1日から放送予定の連続ドラマの原作本です。

 

あらすじ
新谷洋輔はシステムキッチンメーカーの営業マン。営業成績のことで課長に小言を言われる毎日で二十六歳にして将来に希望も持てず、今の自分に何の期待もできない現状に鬱屈した思いを抱いていた。
最近になって偶然に再会し、ストーカーからピンチを救ったことで親しくなった高校時代の憧れの同級生・竹中美郷に誘われ、気が進まないながらも高校の同窓会に参加することに。
洋輔は高校時代、幼馴染みの皆川希一・大見和康・片岡八真人らと四人で連み、素行不良の季一に引きずられる形でいつも生活指導担当の体育教師・樫村貞茂に教育とは名ばかりの体罰を受けていた。同窓会に参加したことで季一らと久しぶりに再会。さらに樫村とも遭遇するが、自身が過去に痛めつけた生徒の顔も忘れ、意気揚々と老後生活を過ごしている様子の樫村の姿を目の当たりにし、洋輔は苛立ちを覚える。そこに季一・和康・八真人の三人から樫村への仕返しの計画を持ち掛けられた。拉致して懲らしめてスッキリしようという、イタズラ半分の計画だった。
最初は尻込みした洋輔だったが、今の自分の卑屈さは高校時代の樫村から受けた仕打ちのせいだと日頃から思い至りがちだった洋輔は「これを切っ掛けにして過去を精算し、新たな人生を切り開こう」と計画に参加することを決意する。四人はこの計画を「仮面同窓会」と称し、入念に計画の準備を進めていった。
そして決行当日、計画通りに樫村を拉致して痛めつけ、倉庫に置き去りにして立ち去る四人。なんとか無事終わったと思った洋輔だったが、翌日、樫村は何故か別の場所で溺死体となって発見された。
俺達の中の誰かが現場に戻り、樫村を殺したのか?
不信感が募り、互いに疑心暗鬼に陥っていく四人。明らかになっていく“秘密”に翻弄された末、待っていたのは驚愕の真相だった――。

 

 

 

 

 

 

疑心暗鬼サスペンス
私は雫井脩介さんの小説を読むのは検察側の罪人に続き二作目です。

 

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検察側の罪人』が非常に面白く読めたので、また別作品が映像化されると知って読んだ次第です。
雫井さんは色々なジャンルを書かれているとは知っていたのですが、今作『仮面同窓会』は『検察側の罪人』とはまったく毛色が違うもので「こんなジャンルも書かれるのか」と意外でした。
『仮面同窓会』は一つの事件によって友人であるはずの者たちが互いに不信感を募らせて“友情”のメッキが剥がれていく疑心暗鬼サスペンスでミステリ。読後感的には“イヤミス”の部類というかそれに近い印象ですね。
信じていた世界は壊れ、誰も、何も信じられなくなった挙げ句の衝撃の結末と、作中にあるいくつもの仕掛けで読者を色々と唖然とさせるミステリ小説となっています。

 

仮面同窓会 (幻冬舎文庫)

仮面同窓会 (幻冬舎文庫)

 

 

 

 

仮面同窓会 (幻冬舎文庫)

仮面同窓会 (幻冬舎文庫)

 

 

 

 

 

 

ドラマ
ドラマは東海テレビ・フジテレビ系での製作。「オトナの土ドラ」枠で6月1日より放送予定です。「オトナの土ドラ」枠といえば、前に同じく雫井作品の『火の粉』をやった枠ですね。

 

火の粉 DVD-BOX

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火の粉 (幻冬舎文庫)

火の粉 (幻冬舎文庫)

 

 

このブログでも紹介した『絶対正義』をやった枠でもありますし、

 

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イヤミス”をやりがちな枠の印象があるような。

 

キャスト
新谷洋輔溝端淳平
竹中美郷瀧本美織
皆川希一野岳
大見和康木村了
片岡八真人廣瀬智紀
樫村貞茂渡辺裕之
美郷のストーカー長井大
上原加奈子雛形あきこ

 

年齢など細かな設定は色々変更されていますが、一番大きく違う点は雛形あきこさんが演じられる「上原加奈子」ですね。原作には登場しないドラマオリジナルキャラクターで「金遣いが荒い上に男性関係も自由奔放な美人教師」らしいです。いかにも波乱がありそうですね。
公式サイトの相関図によると、樫村貞茂(渡辺裕之)と不倫関係で皆川希一(野岳)と男女の仲らしい。やっぱり波乱がありそう(^^;)この設定ごとドラマオリジナルですね。小説では樫村も希一も今現在の男女関係のいざこざとかは別に描写されていません。樫村なんてすぐ殺されちゃいますからね。

原作だと洋輔の三人称視点がお話の大半を占めていて、他登場人物たちの事情とかは最後の最後にやっと解るといった構成なのですが、公式サイトの相関図を見る限りドラマでは各登場人物の掘り下げがされるんじゃないかと予想出来ます。原作ではサラッとしか描かれていない大見和康(木村了)も設定が追加されそうですね。

あと、原作では方言で殆どの人物がやり取りしているのですが、ドラマではどうなるのかも少し気になりますね。

 

 

 

 

 

以下、ガッツリとネタバレ~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

叙述ミステリ
叙述ミステリというのは「叙述ものだ」と言うこと自体がネタバレになるもんですが、

 

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今作『仮面同窓会』は叙述トリックが仕掛けられたお話になっています。


主人公の洋輔なんですが、序盤でいきなり姿の見えない「兄」と会話し始めるんですよね。あまりにも唐突で「何事だ」って感じになるんですが、読み進めていくと洋輔は小学校六年の時に兄を一人事故で亡くしているという事実が出て来て「ははぁ。洋輔は多重人格で“兄”の人格と会話しているのかぁ」と、思わせるように書かれています。
で、物語りの構成は洋輔の三人称視点でのパートの合間に“兄”と洋輔が会話するパート、さらに「俺」の一人称視点のパートが差し込まれるという形で進んでいきます。「俺」の一人称視点は洋輔の“兄”、つまり洋輔の別人格での視点のように描かれています。イコールで洋輔が別人格に切り替わっている間に樫村を殺害したのではないかという疑念を読者は持ち始める・・・。

 

が、もちろんこれがそのまんま真相な訳はないです。物語りの早い段階でこんな妖しい書き方をするからには、必ずそこに仕掛けがあってしかるべきでして。

 

実は実在していないかのように書かれていた“兄”は実在します。事故で死んだのは二番目の兄で、作中会話していたのは一番目の兄の方。なんと、洋輔の部屋の押し入れで長年引き籠もり生活をしていて、押し入れの中からマイクを使って洋輔と会話をしていたというオチ。


作中で兄が二人いるというのは事実として書かれていますので、もう一人の兄の方かというのは読んでいて結構思い至る人も多いんじゃないかと思います。私も察しがついていましたし。まさか押し入れ生活しながらマイクを通して会話しているとは思いませんでしたが。

この兄、正体が明かされる前は挑発的な発言が主でミステリアスな雰囲気を醸し出していたのですが、いざふすまが開けられて姿が露わになると、一転してハズレた発言ばかりするギャグテイストなキャラクターとなります。終盤は「兄えもん」とか呼ばれちゃってるし。しかし、作中は地獄そのものみたいな状況下なので、困惑するというか不気味・・・ブラックジョークのつもりなのか何なのか・・・著者が何を意図しているのか分からない(^_^;)とりあえず変です。

兄は洋輔の部屋から一歩も出てはいなかった。では事件を起したと思しき「俺」の一人称パートの「俺」とは誰なのか?叙述トリックが一つ明らかにされた後、さらなる謎が噴出します。

 

 

 

 

犯人
「俺」が誰なのか。それは美郷のストーカーである“謎の男”というのが正解。このストーカー男、何故か度々洋輔の前に現われて馴れ馴れしく話しかけてきていた妖しすぎる男。当然、犯人です。謎の妖しすぎる男が犯人なんですよ?そのまんまですよね。妖しすぎて逆に疑っていなかったのに犯人。虚を突かれるとはまさにこのこと。


で、このストーカー男、もちろん美郷と共謀しています。
首謀者は美郷で、洋輔に接触してきたのは洋輔と周辺の友人達、季一・和康・八真人の様子を探るためでした。目的は高校時代の友人・日比野真理に暴行を働いて自殺に追いやった人物の殺害。
ストーカー男は中学の時に父親と浮気相手を串刺しにしたということで「串刺しジョージ」と渾名付きで噂されていた張本人で“ヤバい奴”。真理の実の兄・日比野譲司。美郷の復讐計画に手を貸します。


美郷は洋輔とデートしている最中もわざわざ相手の気を悪くさせることを言ったり、ストーカー男と連絡を取り合っていることを洋輔に咎められたら逆ギレしたり・・・挙動がかなり不可解でした。もう美郷も洋輔の別人格の一人なんじゃないかとか思うくらいです。洋輔が疑われている状態を楽しんでいるような言動ばっかでしたからね。美郷が「ふーん」と言う度に読者としては神経に障って、もう謎すぎる女だったのですが、これもそのまま犯人。

 

スリードと見せかけてミスリードじゃない。ミステリ好きでひねって考える人ほど驚く感じですね。

 


酷すぎる
終盤で明かされる各人物たちの事情はどれもおぞましくって酷すぎるものです。胸が悪くなること請け合いですね。


事件が起きたことで疑心暗鬼になり、友情に亀裂が走るといった流れのようでいて、もはやそんないいものでもない。洋輔・季一・和康・八真人の四人の間には元々“友情”自体が無いのです

 

季一や和康は洋輔に「俺達三人にはお前とはない“鉄の結束”がある」とぬかします。
“鉄の結束”とは、六年前に日比野真理を三人で暴行したこと。さらに、その六年前に八真人が洋輔の二番目の兄・雅之を殺害した瞬間を季一が目撃したことで、季一は八真人の支配者となっていたこと。
犯罪行為によって自分たちは通常よりも強い結束が出来ているのだと。樫村を拉致する「仮面同窓会」計画も改めて自分たちの結束を確認するためで、今回は洋輔も巻き込んでやろうと誘い、計画したと季一は言います。


しかし、一緒に犯罪行為をすることで生まれるのは“友情”なんかではない。そこに生まれるのは我が身可愛さの自己保身と互いに弱みを握り合い、脅迫し合う損得勘定と打算。


それを“鉄の結束”などと酔いしれながら発言するのだから読んでいると唯々気持ち悪いです。真理への暴行もそうですが、八真人が洋輔の二番目の兄・雅之を殺害した理由も女性のスカートの中身の盗撮を知られたからで、殺される直前、雅之が八真人にさせようとしたことも猥雑だし、樫村は真理から季一らに暴行されたことを相談したら「俺にもやらせろ」だし。

 

もう色々とホント気持ち悪いしおぞましいし虫酸が走ります。女性としては特に(-_-)

 


主人公の洋輔は季一らのこれらの行為は知らなくって、まさにただ巻き込まれただけの人物なんですが、過去を暴力で精算しようとしたのがもう間違いだったのだということでしょう。八真人もそうですが。

 

つまずかずに生きていくのは不可能と言っていい。しかし、一つつまずくと、洋輔のような弱い人間は、つまらない傷を心に負い、なかなか癒えてくれない。前を歩こうとしても、それを引きずったままになる。歩くのを放棄するなら、真理のようにこの世から去るか、兄のように押し入れの住人となるしかない。
傷を治すため、つまずいたものに無理にけりをつけようとすると、往々にして大怪我をする。そうしていつの間にか、満身創痍になってしまう。

 

友人だと思っていた三人は知らないところでおぞましい行為をし、親友だと思っていた八真人は兄を殺害した罪悪感から友好的に接していただけだった。
実質、洋輔は三人と連んではいても“友人”ではなかった。三人にとっては何も知らずに“友人ぶっている”道化のようなものだったのだと知らされます。終盤、洋輔の信じていた世界は粉々になります。


あまりに憐れに思える洋輔ですが、しかし、洋輔にしてもあまり同情心とかは湧いてこないんですよね。友人、特に八真人は親友だと言っている割には随分と簡単に疑って一人で不信感募らせて見当違いな推論を他人に披露して・・・八真人に対して「親友」という言葉を何度も使うのが空々しくってイライラしました。相手のこと端から信じようともしてないくせに。流されまくっていて何もちゃんと見ようとしていない人物だと感じます。

 

真理のための復讐だと言っている美郷もしかり。終盤化けの皮が剥がれてからの美郷はどう見ても殺人を楽しんでいるようにしか見えなくって友情などそっちのけなんじゃないかという気がする。(ドラマ、原作通りにやるんだとしたら美郷役の瀧本美織さんの演技に必見です。豹変してかなり怖いことになる)譲司もしかり。

 

つまり、この物語りに“友情”は無い。共感できない、とち狂っていて気持ち悪い人物しか登場しない小説ですね。
タイトルに「仮面」とついているだけに、人間の裏の顔を描くのが主題の物語りなんだと思います。

 

 

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衝撃の!ラスト
私が読んだ幻冬舎文庫版には裏の説明書きに「衝撃のラストに二度騙される」とあります。
確かに衝撃ではあります。酷すぎて。
最後の数ページは「このまま終わったらどうしようもないぞ」ってな展開で「まだ何かあるんでしょ?」と身構えながら読んでいたのですが・・・・・・・何もないまま終わってしまいました。「えぇえ!ここで終わり!?」という、そういう意味で衝撃のラスト。

 

内容も黒すぎるし、叙述による仕掛けも無理矢理感があるので、人によっては読んだ事自体を後悔する小説かなと思いますが、先が気になってドンドン読ませる力というのがある小説ではありますので、イヤミス系統が好きな方は是非。

 

仮面同窓会 (幻冬舎文庫)

仮面同窓会 (幻冬舎文庫)

 

 

 

 

仮面同窓会 (幻冬舎文庫)

仮面同窓会 (幻冬舎文庫)

 

 

ではではまた~

 

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