夜ふかし閑談

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桜庭一樹『少女七竈(ななかまど)と七人の可哀想な大人』 解説・感想

こんばんは、紫栞です。

今回は桜庭一樹さんの『少女七竈(ななかまど)と七人の可哀想な大人』をご紹介。

少女七竈と七人の可愛そうな大人

 

 

桜庭一樹さんも私はとても好きな作家さんでして、小説として出されている書籍は全て買って読んでいます(エッセイなどは読んでない)。新刊が出るとすぐに飛びついて買う作家さんの一人ですね。

桜庭さんの代表作というと直木賞受賞作品で映画化もされた『私の男』や、アニメ化されたGOSICKシリーズ』などが挙げることが多いと思うんですが、桜庭一樹入門書としては『私の男』は初心者には濃厚すぎるし、『GOSICKシリーズ』はファンとして伝えたい桜庭さん“らしさ”とは違う・・・!(面白いんだけれども) で、一発目に読むのに良いのが『少女七竈と七人の可哀想な大人』かなぁ~と。

サクサクッと読めるし、桜庭文学を率直に味わうことが出来る(と、思う・・・)。かくいう私がこの本をきっかけに桜庭さんにハマったのでね・・・。友達に貰った本でした。ありがとう友よ。

 

あらすじ

とくにとがった部分のない平凡な女、川村優奈は二十五歳のときのある朝とつぜんに“辻斬りのように”男遊びをしたいと思い立つ。狂乱のように一ヶ月ほどの間に七人の男性と関係をもつ優奈。そして誰の子かもわからぬ子供を出産する。その子は七竈と名付けられ、異形のごとき美しい娘に成長するのだが―――。

 

『わたし、川村七竈十七歳はたいへん遺憾ながら、美しく生まれてしまった』

小説の第一話はこの一節から始まります。凡人にとっては「キレイならいいじゃねーか」と言いたくなりますが、この主人公にとっては“美しいこと”は忌むべきことであり、憤りを感じる事なのです。それは“いんらん”な母のせいであり、思い知らされたくない“あること”の証明になってしまっているからなんですが・・・。

『わたしは母のいんらんのせいで非常に肩身のせまい少女時代を余儀なくされている』

これも一話冒頭の文章の一部。この小説の舞台は北海道の田舎町です。田舎の閉鎖空間では異常に美しいこと、“いんらん”な母がいることは苦行を強いられる要因となる。主人公の七竈はじろじろ眺めまわしてくる男達などに怒りを感じ、“男たちなど滅びてしまえ”と思いながら日々を過ごしている訳なんですね。

とはいえ、やはり七竈が一番に憎んでいるのはいんらんな母なんですが(そりゃそうよね・・・)。

この小説は幼馴染みの雪風とのせつない恋物語であることは勿論なんですが、母と娘の“ゆるす”ゆるさない“のお話でもあります。

作中のいんらんな母・優奈なんですが、出産してから何をして過ごしているのかというと旅人をしているんですね。

ほぼ家に帰らず、行きずりに男を引っかけたりして放浪している。そう旅人。ふざけてんのかっ!て感じですが。まぁ実際ふざけているんでしょうが。七竈は祖父と二人、古びた一軒家でいつ帰ってくるとも知れない母を待っているのです。

 

ここで六話での会話一部抜粋。

“「おかあさん、わたしを愛してますか」

「おかしなことを聞くね。こどもを愛してない親なんて、いないさ」

ただ、いまそれどころじゃないだけよ、と続けて、つぶやく。

「わたしのことをいちばんに考えてください。わたしが大人になるまでは。ずぅっと、おかあさんを待っていたのです」

「知っているわ。待たれているから、旅ができたのよ。遠くにいても安心したわ。わたしを愛して、待っているものがいることに」

「それは、母の心持ちでは」”

ない。

んですよね。この母親は娘を愛し、心のよりどころにはしているんですが“いちばん”にすることは出来ないんです。いつまでも“女”のままで、母親という生き物になろうとしない。そして娘の方は、憎いと思いながらも“おかあさん”を求めている。

しかし、優奈はこの後「おかあさん、なんて夢幻さ」と七竈に言い放ちます。

七竈はいつか母をゆるせる日が来るんだろうかと思い悩みます。そして七話の終盤、芸能プロダクション部長の梅木に、大人になっても母親のことが気になるかと聞きます。梅木の返答は

『女の人生ってのはね、母をゆるす、ゆるさないの長い旅なのさ。ある瞬間は、ゆるせる気がする。ある瞬間は、まだまだゆるせない気がする。おとなの女たちは、だいたい、そうさ』

これを聞いた七竈は

『あぁ、なんてこと』

と、返すのです。

けっきょく答えのでることでは無く、“母親”ってのは良くも悪くも一生つきまとうモノだという・・・。まさに“あぁ、なんてこと”ですね。呪いのような。

 

上記の抜粋部分からもわかると思うんですが、桜庭作品の魅力は印象的な言葉選びにあります。頭にこびりついて離れないセリフの数々。

ちなみに、私はこの作中に出てくる“ゆるしたいと思ったときに、ゆるしているのでは”ってのが何か自分の中の視界が開けた(?)一文で忘れられません。犬視点の語り部分なんですが。

 

お話の内容からするとドロドロした話かと思われそうですが、主人公の七竈がなんとも風変わりな娘で、会話の雰囲気が独特なのでちゃんと大人の“少女”小説として読ましてくれます。個人的には後輩の緒方みすずと七竈の会話が好きです。「後輩」と呼び掛けるのがなんとも妙。

この小説は各話、語り手が変わって進んでいきます(犬視点の話、良いぞ!)。語り手が変わっていく中で“七人の可哀想な大人”たちがチラホラと。主に“いんらん”に振り回された人達なんですがね。ま、優奈がいんらんになったのにも“とある思い”がきっかけなんですが。

主人公の七竈って普通つけない名前にもちゃんと意味があります(桜庭作品は主人公の名前が変なのがデフォですけどね)。

あとはもちろん、七竈と雪風との残酷でせつない関係が見所。ここら辺は読んでみてのお楽しみで(^_-)

 

桜庭さんの本は結構人によって好き嫌いハッキリ分かれるかなぁ~と思うので、桜庭作品未読の人は手始めにこの本読んで自分に合ってるかどうか試してみるのはどうでしょうか?

 

 

ではではまた~

 

少女七竈と七人の可愛そうな大人 (角川文庫)

少女七竈と七人の可愛そうな大人 (角川文庫)