夜ふかし閑談

夜更けの無駄話。おもにミステリー中心に小説、漫画、ドラマ、映画などの紹介・感想をお届けします

三浦しをん『星間商事株式会社社史編纂室』 あらすじ・感想

こんばんは、紫栞です。 今回は三浦しをんさんの『星間商事株式会社社史編纂室』(ほしましょうじかぶしきがいしゃしゃしへんさんしつ)をご紹介。

星間商事株式会社社史編纂室

 

題名だけではどんな話か見当もつかないと思いますが・・・。この表紙からもね・・・。

 

あらすじ

川田幸代。29歳。独身。彼氏はいる(一応)。腐女子(自称したことはない)。社史編纂室勤務。

もちろん自身が腐女子であることは会社では公にしていなかった幸代だが、ある日会社のコピー機コミケ用の小説原稿をコピーしていたところ(おい)、社史編纂室課長の本間に原稿を見られてしまう。本間課長の勘違いでその場は上手くしのぐことが出来たと思った幸代だったが、翌朝社史編纂室に出社した本間課長は皆の前で

「川田くん。きみ、腐女子というやつだな」

と、身も蓋もない問いかけをぶちかます。慌てふためき、ついにはヤケをおこす幸代だったが、本間課長は続けてさらに驚きの発言をする

「社史編纂室でも、同人誌を作ろう!」

はたしてその真意とは?混乱の中、幸代達社史編纂室のメンバーは社の秘められた過去に挑むことに!?さらにはサークル仲間との危機、彼氏との関係など色々と難題が!? 恋は?友情は?社史は?そしてコミケは?どうなる?どうする?川田幸代――!

 

 

 

 

 

って、ことで。あらすじを見て分かるかと思いますが、この本はかなりのコメディですね~。出だしから大分ぶっ飛んでいるんですが・・・。電話でサークル仲間の実咲に「ばれたけど、昔ながらの文芸同人誌だと思われたらしくて、ことなきを得た」って言った翌朝に課長のこのセリフですからね。ことなきを得てねーよ、ぜんぜん(笑)っていう。 職場でこんな暴露されたら私なら出社拒否しますね。幸代はメンタルが強いなぁ。後半なんて自分が書いたBL小説、職場の同僚に目の前で読まれて笑われてるし。

 

“社史編纂室の皆”といっても、メンバーは遅刻常習犯の本間課長、いつも無駄にやる気と元気にあふれている“みっこちゃん”、ヤリ〇ンで日々セクハラ発言を連発する矢田、誰も見たことが無く名前すらよくわからない「幽霊部長」と呼ばれる室長・・・と、いった4人(幽霊部長はほぼ出てこないので実質3人ですが)。この個性豊かな登場人物達のやり取りが読者を楽しませてくれます。特に本間課長はかなり笑わせてくれますね。

 

三浦しをんは“お仕事小説”が有名ですが、この『星間商事株式会社社史編纂室』は通常の“お仕事小説”とは違っていまして、描かれているのは“趣味との両立”ですね。趣味と仕事。趣味と友情。趣味と恋愛。

趣味を持つことは人生を豊かにしてくれる~~なんて、生易しいモノではなく!もはや幸代にとっては同人誌作りは趣味ではなく人生そのものなのです。なので、あくまで同人誌作りを中心にお話が展開されます。

 

この小説では何でもないことのように腐女子文化・BL文化が扱われていますが(作中、幸代の趣味を全否定するような人も出てきません)、この本が出された2008年頃は「腐女子」「BL」などの単語は人によっては嫌悪感を抱くので、あまり表だっては言わない風潮だったように思います。少し前に『でも、結婚したいっ!~BL漫画家のこじらせ婚活記~』たるドラマやってましたが、

 

 

題名に“BL”が入ってるドラマを民法で夜の10時から主演栗山千明で放送なんて、一昔前は考えられなかったことですからねぇ~なんだか時代を感じました。ドラマは面白かったですけどね。

これらの用語や実態が一般化していくことの善し悪しは簡単には判断しかねますよね。差別意識の薄らぎだともとれますけど、お話の中で幸代も言っていますが「そっとしておいてほしい」という意見の人もいるでしょうし。

『星間商事株式会社社史編纂室』には作中作で幸代の書いた小説が出てくるんですが、これが割と本格(?)BL小説なので(過激なシーンは無いよ!)まぁ注意が必要だと思われます。組み合わせが若者と定年間際のおじさんでコアというかなんというかだし・・・(笑)

 

 

 

 

私はオタク系の友人が多くて、なかには同人誌作ってる友達もいるのでサークル活動の実態とか、即売会の雰囲気とか聞いて知ってて、行ったことも無いくせに何故か馴染みがある気になっているような人種でして(知識だけ増えてくってヤツや・・・)。なのでこの小説で出てくるコミケの雰囲気やサークル内でのもめ事は「あぁ、知ってる知ってる」って感じで読んでて楽しかったです。特にサークル内でのもめ事はよく友達に愚痴られたり、相談されたりしていた内容と似た箇所などもあって凄いリアリティあるなぁとか思いました(あくまで勝手になんですけどね^_^;)

女性、29歳、サークル活動だとねぇ。続けるには色々問題出てくるんだろうなとは思います。幸代と実咲間のクッション役で英里子(オタク活動と主婦業を両立させている女子)がいてくれて良いなぁと。やっぱりこういう集まりには冷静な人が必要ですよね。

あとは幸代と彼氏の洋平との関係ですね。この彼氏、旅人なんです。旅人の彼氏ってのはオタク活動をするには適度な距離が保てて良いが、結婚とか将来のことを考えると・・・・・・なんですよ(^_^;)「これでいいのか?」ですね。“29歳女”は悩みのつきない生き物だ・・・。

 

“社の秘められた過去に挑む!”というミステリー要素もあり、色々楽しめる小説なんですが、人によっては「もっとマニアックな部分を掘り下げて欲しかった」とか、「ミステリー部分が物足りない」とか、「オタク世界が未知の領域で話しに入っていけない」とかあるかなぁ~と思います。

なので、この本読んで一番楽しめるのは私のような、ある程度のオタク知識は持ち合わせているが、実際にはホントの体験はしていないようなハンパな人間なのかも。

 

当てはまるようならあなたも是非。

 

 

ではではまた~