夜ふかし閑談

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乙一『夏と花火と私の死体』  あらすじ・感想 夏のオススメ本①~

こんばんは、紫栞です。

最近、暑い日が続いていますねぇ。嫌気がさすほど夏を実感する日々です。しかし、せっかくなら夏を楽しもうということで、夏にオススメの書籍をシリーズでご紹介していきたいと思います。

第一弾は乙一『夏と花火と私の死体』

 

夏と花火と私の死体 (集英社文庫)

 

 

乙一のデビュー作ですね。「ジャンプ小説・ノンフィクション大賞」の第六回大賞受賞作です。

乙一、当時十七歳での受賞(執筆したのは十六歳のとき)でした。まさに鮮烈なデビューというヤツです。十六歳男子なんてガキでバカなイメージしかありませんからね・・・審査員の先生方も驚きだったと思うわ。

 

あらすじ

九歳の夏休み、『わたし』は殺された。同級生で仲良しの弥生ちゃんの手によって。弥生ちゃんと弥生ちゃんのお兄さんである健くんの二人は『わたし』の死体を隠すことにする。死体を何処に隠せば良いのか?弥生ちゃん、健くん、そして死体である『わたし』の四日間の冒険――。

 

 

この小説最大の特徴は、なんといっても死体である五月『わたし』がお話の主人公で語り手である点です。死体の一人称・・・斬新ですね。

この『わたし』なんですが、弥生ちゃんのお兄さんが好きで、木登りの最中にそのことを弥生ちゃんに伝えたら突き落とされて殺されてしまうんですよ。なんともあっけなく。なんでかというと、弥生ちゃんも実の兄である健くんのことが好きで・・・てな訳でして。『わたし』には何の非もない理由でいきなり背後から突き落とされるんです。別に言い争いもしてないのに。

こんな風に殺されて、しかも仲良しだった弥生ちゃんと好きだった健くんが『わたし』の死を悲しみもせずにただ隠すことに疾苦八苦している様を見たら、いかに九歳といえど怒りや憎しみが湧いてどうしようもなくなりそうなものですが、この『わたし』は実に淡々と自分の死体を隠そうとする二人を描写していきます。

それが空恐ろしいところで作品の持ち味になっているんですが、思うにこの死体の一人称は“五月であって五月でない”のでしょう。文庫版解説を書いている小野不由美の文にもありましたが、五月の亡霊の視点ではなく、記述上の『神』視点なんですね。

しかし、死体が裸の足が茣蓙からはみ出しているのに恥ずかしさを覚えたりするのは言い様もなく変で不気味(^_^;)

 

私は読んでいて一番怖くて薄気味悪かったのは『健くん』ですね。五月たちとは二歳違いなんですが、五月の死体を見ても全然取り乱さずに穏やかに笑って妹をなだめているし、死体を隠す攻防もどこか楽しんでいる節が見受けられるし・・・弥生ちゃんが凄くまともに思えてきてしまう(実際殺したのは弥生ちゃんだし、五月を殺した事実より自分自身の将来の心配ばっかしてるんで、読んでて反感を持つんですけどね・・・この子もまた別の意味で恐ろしくて愚かだなぁ)。

 

幼い兄弟の“死体隠し”を次々に訪れる危機や大人達の追求を躱していく場面などで読者をハラハラさせたり、無垢への恐怖を感じさせるのが主のお話かと思いきや、ラストでは乙一的読者を驚かせる仕掛けが施されています。

構成が上手くって無駄がないお話の作り方はデビュー作の時点ですでに確立されていますね。

 

一応ホラー小説に分類されていますが、ミステリー要素も強い作品だと思います。怪奇現象が起こったり、幽霊や化け物が出てきたり、スプラッタ的なグロテクス描写があるわけでもないのですが、ジワジワと怖い。言うなれば“低血圧ホラー”ですかね。日本のホラーは大体この“低血圧ホラー”だと思います(私が勝手にそう命名して言っているだけなんですけど)湿度高い系というか・・・(何を言っているのか分かりづらいと思いますが、ニュアンスでボンヤリ感じて下さい)

まぁ、読んだら夜眠れなくなるような怖さではないのでホラー得意じゃない人でも全然いけると思います。

 

この文庫に同時収録されている『優子』も面白いです。こちらもホラーですね。二作まとめて夏に読むのにオススメです。

夏の夜長にどうでしょう・・・?

 

 

 

ではではまた~

 

夏と花火と私の死体 (集英社文庫)

夏と花火と私の死体 (集英社文庫)