夜ふかし閑談

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秘密―トップ・シークレット2巻「露口絹子事件」あらすじ・解説

こんばんは、紫栞です。
前回に引き続き、今回は清水玲子さんの『秘密―トップ・シークレット』

 

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2巻に入っている「鎌倉一家惨殺事件(露口絹子事件)」についてご紹介。

 

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あらすじ
妻、次女、義母を殺害、その後遺体を損壊した殺人犯・露口浩一の死刑は、事件の残虐性の高さなどの理由で発生からわずか三年というスピードで執行された。
青木は「特捜」で罪状と事実に間違いがないか確認する作業を命じられる。事件当時の露口浩一の脳映像を確認する青木だったが、そこに映し出されたのは行方不明の、浩一に殺されたとされていた長女・絹子が家族の遺体を前に凶器を持って血塗れで佇む姿だった。
三人を殺害した真犯人は絹子であり、浩一は娘を庇う為に遺体の損壊・偽装工作・嘘の供述をしたのだ。
後日、行方知れずだった露口絹子が交番で保護される。しかし、執行された刑は覆らないことから、「鎌倉一家惨殺事件」において絹子は無罪放免となる。
やり切れない思いを抱きつつも、青木は「特捜」の作業を続けるのだが――。

 

 

 


2巻には二つの事件が収録されていて、前半に「天地奈々子誘拐事件」

 

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後半にこの「鎌倉一家惨殺事件(露口絹子事件)」が入っています
「露口絹子事件」はシリーズの中でも随一のお話で、ミステリー的にも非情に完成度が高いです。事件捜査の過程でのキャラクターの内面描写も痛切に描かれています。

2016年公開の実写映画では

 

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この「露口絹子事件」と「貝沼事件」↓ 

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がベースになっていました。二つの事件が混ざっていたのですが・・・まぁ混ぜるようなものじゃないですよ普通に考えればわかると思いますが・・・混ぜるなキケン。

 

 

 

 

 

以下ネタバレ~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

仕事への葛藤
青木は父親が他界、葬儀を済ましてきたばかりで「特捜」の仕事を命じられます。青木の家族が出て来るのはこのお話が初ですね。
青木の母親は青木の「第九」での仕事をあまり快く思っていない。ハッキリと口に出す訳ではないですが、態度に透けて見えてしまうのですね。

葬儀の席で「お父さんの脳みそとって見たりしないわよね?」と長女に聞かせたり、親戚に息子の仕事内容を隠していたり、あげくに「お父さん・・・・・・あんたの仕事好かんかったと」と口に出してしまう始末。※お父さんは生前、青木に「おまえの仕事は立派な仕事だ」と言っていました。
このように、青木の母親はMRI捜査への世間一般の感覚を体現している存在ですね。


で、30年連れ添っていた母親も書いていた事すら知らなかった“父親の日記”を青木に託していく。「私は見たくない」「あんたの好きに処分していいから」と言って・・・。なんって悩ましいブツを持ち込んで来るんだ、こんな時に!って感じなんですが(^_^;)

 

青木は「特捜」で露口浩一の脳を見る訳ですが、浩一は娘の絹子が複数の男と情事を重ねる姿を日々盗み見ており、“犯行の動機につながる”とのことで捜査上、青木は浩一が見ていた絹子の情事を全て見なくてはいけないのですね。

母親の呟きを聞かされた後の青木にとってはこれ、かなり辛い仕事ですよ。絹子の「私より 今あんたのやっている事の方がずっと恥ずかしい事よ ゲス野郎」のセリフが痛いほど突き刺さるのです・・・ツライ。

結局“父親の日記”を読まずに焼却処分することにした青木ですが、が・・・あ~・・・もう、ここのシーンがですね、なんともはや・・・で(T_T)個人的には一番と言っていいほど感慨深いシーンです。必読!

 

 

 

 


絹子
この事件を印象強くしているのは、なんと言っても“絹子”でしょう。美少女の殺人犯ってだけで、もうある種の魅力があるのですが“絹子”という古めかしい名前もまた印象的。美少女に絡んだ淫猥な人間関係・事件内容や和服を着ている人物がいたりなど、どこか日本の古典ミステリーを連想させます。本当は近未来SFミステリーなんですけどね。ここら辺のさじ加減が『秘密』シリーズの特色だと思います。

実写映画だと、絹子の犯行動機が改変されていますが(改変・・・というか、意味わかんなくなっていますが^^;)

原作では、絹子は幼少期に父親の浩一に襲われかけたことがきっかけで男を憎むようになり、自分と関係を持った男達を次々と殺していったというものですね。
浩一は全ての元凶は自分だと絹子の犯行を偽装しつつも、死ぬまぎわまで“絹子を殺さなかったこと”を後悔していたのです。

 

 

 

 

盲目の少年
捜査の最中、絹子と道で会うと少し会話をするような間柄だった「平井学」という少年が交通事故で死亡します。平井少年が何か見ているかもしれない!とMRI捜査への強力を申し出にいくのですが、実は平井少年は全盲。絹子もそれを承知で“ある場所”に案内していた訳ですが・・・。まぁ、ガガーン!って感じですよ。


もう事件を追うのは諦めるしかない・・・!

と、なったところで道路の死体があったところの痕跡を見て、平井少年の飼い犬で盲導犬の役割を果たしていたZIPの脳を見ることを思いつく(ZIPも平井少年と一緒に死んでいました)

で、事件は急転直下解決に。

読んでいて「あ、そうかそうか」と納得の驚きをさせてくれる解明方法ですね。素晴らしいです。

 

 

 

最後
お話の最後はZIPの脳映像―やさしさと愛情にあふれた世界―を見ながら、
“本当に世界がこんなに美しいのなら、一冊だけ燃やさずに残した父の日記もいつか読めるかもしれない”
と青木が思うところで終わります。

 

構成の巧さはもちろんですが、「鎌倉一家惨殺事件(露口絹子事件)」は青木の仕事への葛藤が全面に描かれており、その後もこの葛藤はシリーズ内で付きまといますので、その点においてもこのお話は重要だと言えると思います。
ファンはとにかく必読!また、この事件単体で読んでも十分面白いお話ですので、映画観て「ようわけわからんかったわ~」てな人にもオススメ。映画はとにかくダメダメでしたからね・・・是非是非、原作読んで下さい!

 

 

 

ではではまた~