夜ふかし閑談

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伊坂幸太郎『ゴールデンスランバー』 今読みたい!ケネディ暗殺事件がモチーフの小説~

こんばんは、紫栞です。
今、ケネディ暗殺事件の機密文書公開で色々と取り沙汰されていますね。真相がどの程度明らかにされるのか気になるところではありますが、今回はこの流れにあやかって(?)一冊の小説をご紹介したいと思います。
伊坂幸太郎さんのゴールデンスランバーです。

 

ゴールデンスランバー (新潮文庫)

 

第5回本屋大賞、第21回山本周五郎賞受賞作。2010年に実写映画化もされた伊坂さんの代表作の一つですね。

 

ゴールデンスランバー [DVD]

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あらすじ
「おまえ、オズワルドにされるぞ」
仙台市では金田首相の凱旋パレードが盛大に行われていた。テレビ中継も入っているパレードの最中、教科書倉庫ビルの上空から降下してきたラジコンが金田首相の乗るオープンカーに接近、爆発した。首相が暗殺されたのだ。

犯人として浮上したのは元宅配業の青柳雅春。数年前に仕事中偶然、暴漢からアイドルの凛香を助けたことでメディアに取り沙汰され、地元では顔を知らない人はいない、ちょっとした有名人だった。
当の本人である青柳雅春は首相暗殺の数分前、数年ぶりに大学時代の友人・森田森吾に呼び出されていた。森田はいつになく真剣な顔で「金田はパレード中に暗殺される」「おまえは陥れられる」「とりあえず、逃げろ、いいから」と告げる。
何が何だかわからず混乱する青柳だったが、直後に首相は暗殺され、首相暗殺の犯人として青柳は大々的に報道され始める。
巨大な陰謀によって首相暗殺の濡れ衣をきせられた青柳は、暴力も辞さぬ警察などの追手から必死に逃げる――!

 

 

 

 

 


構成
この小説は五部構成です。
第一部「事件の始まり」は首相のパレード中継を蕎麦屋で見ている樋口晴子(青柳の大学時代の元カノ)の視点。
第二部「事件の視聴者」で暗殺後の報道を見ている、とある病院の大部屋の人々が描かれ、
第三部「事件から二十年後」でノンフィクションライターによる調査書の提示、
第四部「事件」で当事者である青柳の逃走劇が描かれます。
第五部「事件から三ヶ月後」はお話のエピローグですね。

この構成が面白いですね~。第四部の「事件」がお話の大半を占めていますが、その前の一~三部までの間にすでに沢山の伏線が張られているので要注意。

 

 

 

 

ケネディ暗殺事件
巻末の謝辞にて
『この本における暗殺事件は、言うまでもなく、ジョン・F・ケネディの暗殺事件を重ね合わせています。第三部で描かれる事件の内容、背景については、参考文献を下敷きに作り上げたもので、首相公選制が存在する、現実の日本とは異なる日本を描いています』

と、書かれている通り第三部「事件から二十年後」の内容はケネディ暗殺事件についての数々の陰謀説と類似・・・て、ゆーか、ほぼほぼ同じですね。暗殺事件自体を日本に置き換えてのお話なので、最初読み始めたときはアメリカのケネディ暗殺は無かったという世界での話なのかと思ったのですが、第四部の序盤で普通に「ケネディ暗殺が~」「オズワルドが~」と話題に出しているのでそういう事では無いのだな、と(笑)

上記のあらすじにあるだけでも“パレード”“教科書倉庫ビル”“首相暗殺”ですから少しでも知識のある人なら「ケネディ暗殺が下敷きのお話なんだな」と気がつくと思います。
私は実録事件の追及番組とかテレビでよく観ていたので、ケネディ暗殺事件もテレビ特集で繰り返し観たことがあり、だいたいの、ぼん~やりとした全体像は把握しているって感じでした。なので、第三部「事件から二十年後」の調査書内容はケネディの暗殺事件との符合点やどのように日本版に置き換えているのかを探すのが面白かったです。

この小説で参考文献にされたのは

 

ケネディを殺した副大統領 その血と金と権力

 

 

 

JFK暗殺―40年目の衝撃の証言

 

 

 

この二冊が主に暗殺事件の陰謀説に対しての参考・引用に使われているようです。

 

青柳と森田は大学時代、サークル仲間とケネディ暗殺で犯人に仕立て上げられたオズワルド(公式にはオズワルドの単独犯だと今でもされていますが)について議論したことがあり、森田はこの大学時代の思い出の中にあった知識から、青柳が今まさに陥れられようとされている事に気づき、忠告をして「逃げろ」と言うのです。
森田のこの“有り難い忠告”がないとお話の全体が始まらないので、出番は少ないですが森田の役回りは重要で、かつ印象的です。タイトルのゴールデンスランバーについての話も森田が話しますしね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


他者に助けてもらいながらの逃走劇
第四部「事件」で青柳は必死に逃げ回る訳ですが、孤独に逃走しながらも大学時代のサークル仲間や元カノ、元同僚やひょんな事から知り合った人々などに助けられながら追手の追求を躱していきます。
“善良な一般市民が、或る日突然暗殺事件の犯人に仕立て上げられる”という、これ以上無いほど不条理状況を描いている作品ですが、人とのささやかな絆・繋がり・信頼などがお話の随所に描かれているので、さほどの悲壮感も感じず、どこか“あたたかな気持ち”にさせてくれる作品です。

読みながら「青柳、人徳が相当あるのだなぁ~」とかしみじみと思っちゃいましたけど(笑)やっぱり日頃の行いが大事なのね。


とはいえ監視社会・マスコミによる情報操作などの描写は読んでいて恐ろしくなりますけどね(^^;)
青柳の協力者の中に連続刺殺犯のキルオ(三浦)が出て来るのも面白いところですね。こういう少し外した感じというか、意外性をついた協力者の出し方はいかにも“伊坂作品ちっく”だなぁと。

 

 

 

 

ビートルズ
タイトルのゴールデンスランバービートルズの十一番目のアルバムアビイ・ロードに収録されている曲「ゴールデン・スランバー」から取られています。

 

アビイ・ロード

アビイ・ロード

 

 

 「アビイ・ロード」はビートルズが最後に録ったアルバムで、すでに分裂状態だったバンドをポール・マッカートニーがどうにか取りまとめたのだとか。アルバムの後半八曲はそれぞれ別々に録音された曲を、ポール・マッカートニーがつなげ、壮大なメドレーに仕上げているとのこと。


作中、青柳を追い詰める警察庁佐々木一太郎は顔立ちがポール・マッカートニーに似ているという設定です。これを踏まえると、お話のヒール役である佐々木が図らずも、今はバラバラになってしまったかつての青柳の仲間達を繋ぎ逢わせる役割を担っているように感じさせます。

「ゴールデン・スランバー」は直訳すると“黄金のまどろみ”ですが、上記のことを踏まえると、このタイトルにも意味や比喩が込められているのでしょう。これはお話の結末を読んだ後に是非考えてみてください。


ビートルズの事についてはこの他にも作中の所々で出て来るので、ビートルズファンは読むと楽しめると思います。

 

 

 

 

最後に
第三部「事件から二十年後」の最後には“青柳雅春が、首相殺害の犯人であると信じている者は、今や一人もいないだろう”と書かれています。
実際のケネディ暗殺事件でもオズワルドの単独犯だと信じているアメリカ国民はほぼいないみたいです。前に某海外ドラマを観ていたとき、ドラマの登場人物が「オズワルドが犯人だと信じているヤツはいないだろ?」と皮肉交じりに定説のように言っているシーンがありました。まぁ不自然な点が多すぎますからねぇ。もはや“陰謀は隠されていない”と信じる方が無理な状態ではありますが。


この『ゴールデンスランバー』では暗殺事件の黒幕の正体は最後までハッキリ明かされないのですが、副首相の海老原克男がおそらく黒幕なのだろうと匂わせています。ケネディ大統領時、副大統領だったリンドン・ジョンソンにあたる人物ですね。上記の参考文献などからそうなったのだと思いますが、実際のケネディ暗殺事件は様々な陰謀説が現在も次々と出てきていますから「これこそが真相だ!」とは断言出来ない状態ですね。機密文書が全面公開されても、当時の関係者はほとんど亡くなっているので“本当の真相”なんて、いつまで経ってもわからないのだと思います。(“可能性が高い”って事実は出て来るかも知れないですけどね)

 

ケネディ暗殺事件でのオズワルドは移送途中にジャック・ルビーという男に銃殺されてしまいますが、こちらの青柳雅春はどうなるか――読んでお楽しみ下さい。

 

 

 

映画も良作で評価が高いのでオススメ

 

 

※スティーブン・キングもケネディ暗殺事件をモチーフにした小説を書いているようです↓ 

 

 

 

ではではまた~

 

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