夜ふかし閑談

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『魍魎の匣』 原作 あらすじ・映画・アニメ・・・諸々まとめ

こんばんは、紫栞です。
二〇一八年一発目の記事は、京極夏彦さんの【百鬼夜行シリーズ】

 

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二作目の魍魎の匣を紹介したいと思います。

文庫版 魍魎の匣 (講談社文庫)

第49回日本推理作家協会賞受賞作。


年末年始とみごとに風邪を引いてしまい、記事の更新が停滞してしまっていたのですが(^^;)仕事以外の時間は寝床にいるしか無い、しかし、何だか寝付けない!で、『魍魎の匣』文庫版を丸々読み返していた訳なんですが「あぁ、やっぱり面白いよね~。ずっと読んでいたいっ!」みたいな状態に陥って、奇しくも今年の正月は『魍魎の匣』に憑かれていた私。せっかく面白さを再認識したので、この作品について少しまとめようかと。

 

 


あらすじ
匣の中には綺麗な娘がぴつたり入つてゐた。

日本人形のやうな顔だ。勿論善く出來た人形に違ひない。人形の胸から上だけが匣に入つてゐるのだろう。
何ともあどけない顔なので、つい微笑んでしまつた。

それを見ると匣の娘も
につこり笑つて、
「ほう、」
と云つた。
ああ、生きてゐる。

何だか酷く男が羨ましくなつてしまつた。

 

昭和二十七年八月、武蔵野小金井駅で十四歳の少女・柚木加菜子がホームから転落して重傷を負う。現場に居合わせた木場は転落時に加菜子と一緒にいた同級生・楠木頼子に事情を尋ねるが、放心状態の為かいっこうに埒が明かない。そんな中、木場の前に加菜子の姉・陽子が現れる。陽子は木場が熱烈なファンである引退した元女優の美波絹子だった。重態の加菜子は巨大な“箱”のような奇怪な建造物[美馬坂近代医学研究所]へ運ばれるが――。
一方、関口はカストリ雑誌編集者の鳥口とともに「荒川連続バラバラ殺人」の現場取材をしていた。バラバラの四肢は箱詰めにされており、さらに事件には「穢れ封じ御筥様」という霊能団体が関係しているらしく――。

箱を祀る霊能力者、箱詰めにされた少女達の四肢、巨大な箱型の建物「美馬坂近代医学研究所」――これら“箱”と加菜子転落事件、バラバラ殺人事件にはどのような繋がり・関係があるのか。果たして事件関係者に憑いてしまった“魍魎”は落とせるのか――?

 

「今日――物語に終わりを告げるために、ある陰気な男がここに来ることになっているのです」

「今日は、魍魎退治に伺いました」

 

 

 

 

 

 


シリーズ代表作
『魍魎の箱』はシリーズ二作目にして最大の代表作、シリーズ最高傑作との声も多いです。この作品ばっかり推されている意見を目の当たりにすると「魍魎だけじゃないよっ。他の作品も面白いわよっ」とか変な反発心(?)が芽生えたりしますが・・・(^^;)しかし、私も思い返してみると決定的にこのシリーズにはまったのは『魍魎の箱』からだったかなって気がします。ので、やっぱり大好きな作品ですね。
シリーズ第一作目で京極さんのデビュー作でもある姑獲鳥の夏はミステリー界に波紋をもたらした衝撃作ですが、

 

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この二作目の『魍魎の箱』は、前作とはまた違う衝撃・度肝を抜かすストーリーと真相で、これぞ“超絶”。一作目の『姑獲鳥の夏』の段階では読者には半信半疑だったシリーズの世界観が明確になり、各キャラクター性も強まって読者を一気に惹きつけた作品です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


メディアミックス
魍魎の匣』は代表作なだけあって舞台、映画、テレビアニメ、漫画と四種の媒体で表現されています。

大前提として原作小説は絶対読んで下さい!ですが。

 

 

●映画

 

 

二〇〇七年公開。
二〇〇五年に公開された姑獲鳥の夏から主要キャストはほぼ引き継ぎ。

 

 

関口役のみ、前作の永瀬正敏さんが御病気の為降板で椎名桔平さんに交代しています。(個人的には原作の関口に近いのは永瀬さんの方だと思う)
キャスト以外の監督やスタッフは総入れ替えですね。まぁ実相寺監督が亡くなってしまったのでしょうがないんですけど・・・。
で、この映画、どうかというと、これがまったくダメダメである。

かなり大胆にストーリーが改変されていて原作の良い部分が全て無い。長い話なので映画の二時間で全て表現するのは難しいのはわかりますが、もうちょっとやりようがあるだろう・・・と。「折角のシリーズ最大の代表作がこんな事になっちまって」とファン的には唯々悲しく残念なかぎりです。観終わった後の呆然感と沸き上がる怒りといったら・・・もう、ね(笑)
前作の『姑獲鳥の夏』もそんなに評価が高い映画ではありませんが、コレに比べれば大分マシだし原作に忠実です(忠実なのが良いって訳じゃないですけどね)。実相寺監督が『魍魎の匣』撮っていたらどうだったかな~とか今でも時々考えます。

 

 

●テレビアニメ

 

 

二〇〇八年、日本テレビ系。
キャラクター原案がCLAMPだけあってキャラクターが皆美麗。関口も綺麗です。綺麗な関くん(笑)
全体的にお耽美な雰囲気に。作者の京極さんも「宝塚みたい」と雑誌インタビューで言っていましたね~。
“黒衣の男”で京極さんが少し声の出演をされています。いっそ京極さん本人が京極堂の声やれば一番ファンからの文句出ないのでは・・・?とか思う(笑)
全十二話。

これが、前半はやけにダラダラと展開していたくせに後半で巻きが入るという訳のわからなさ。原作での解決編の素晴らしい場面演出とセリフ回しが台無し・・・前半はやたら丁寧にやっていたのに何故だ・・・。あと、絵柄がお耽美なせいか原作のコミカルなシーンが薄らぐのが残念。
とはいえ、実写映画の方と比べれば大分マシですけどね。ちょこちょこ観るより一気に観た方が良いと思います。

 

 

●漫画

※お馴染み、志水アキさん作画による漫画もあります。

 

 

結局、原作のお話を手っ取り早く知りたいならこの漫画読むのが一番良いのかな・・・。(ファンとしては勿論原作小説を読んで欲しいですけどね)
全五冊。

 

 

●舞台

2019年6月に舞台化されました。

 

個人的に、今までの『魍魎の匣』の映像化作品のなかではこの舞台がダントツで良いと思います。

詳細はこちら↓

 

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実は一九九九年に「劇団てぃんか~べる」によっても舞台化されているのですが、こちらは今では観ることは叶いませんね。

 

 

 

 


百鬼夜行シリーズ”の確立

 

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京極夏彦作品がことごとく映像化に恵まれないのは、ファン的には比較的毎度の事で半ばあきらめの境地ですが。だって、原作の時点であまりに完成していますからね。あのページ数なので、相当の省略能力がないと破綻してしまうというのもある。


魍魎の匣』はシリーズファンには特に思い入れが強い作品なので色々文句をつけたくなってしまうところ。


この作品に思い入れが強くなる要因としては事件の面白さもさることながら、シリーズの基礎パターンがこの作品から確立されたというのが大きいとも思います。

 

第一作の『姑獲鳥の夏』は比較的(当社比)シンプルな構成で、読み終わった後は「これをシリーズでどう続けるんだ?」とか思いますが(関口とか、姑獲鳥のみの登場キャラクターかなぁとか読後思ったの私だけじゃないハズ。魍魎に普通に登場して何だか驚きだった)、姑獲鳥の夏』で示された“規格外”でインパクトが強いストーリー要素を引き継ぎつつ、数々の事件が各視点で平行して語られ、絡み合い、最後に全てが解き明かされる百鬼夜行シリーズお馴染みのパターンが『魍魎の匣』で確立されています。

 

 

 

 

見所の“退治”シーン

魍魎の匣』には「御筥様退治」「魍魎退治」の二つの退治シーン、“似非霊能者との対決”“科学者との対決”が描かれています。


まさに対決。憑き物落とし。


このシリーズならではの、唯々のミステリーでは味わえない言語によって相手をやり込める、まるでアクション小説を読んでいるかのようなゾクゾク感と娯楽感が、シリーズの中でも屈指の出来で傑作です。

終盤の、通常のミステリーでは真相解明部分にあたる「魍魎退治」は勿論ですが、その前にある「御筥様退治」もかなりの見所。中禅寺(京極堂)のペテン師っぷりにニヤリとさせられます。中禅寺、榎木津、関口の連係プレーが見られるのも良い。※関口はオロオロしているだけですけどね(お約束)

 

 

 


キャラクター性の強化

前作の『姑獲鳥の夏』は関口視点で語られる部分が大半で、関口本人が大いに関わる事件だったので全体的に鬱々した印象が強いですが、この作品からはコミカルなシーンも多く見られるようになり、キャラクターの個性も高まって、シリーズの面白味が一気に上がっています。


前作ではほんの脇役だった木場にスポットが当てられ、青木の存在感が増し、「うへえ」で今後のシリーズでも大活躍なカストリ雑誌編集者の鳥口守彦が登場するのもさることながら、突出すべきはやっぱり榎木津ですかね。


前作では「ちょっと変わった人かな」ぐらいの印象だったのが、この作品から「まったく奇天烈だな」レベルに、飛躍的に昇格!作中での榎木津のセリフ「何てイカレているんだろう。普通じゃないね」が何だかウケる(笑)『魍魎の匣』には、シリーズ内では貴重な榎木津視点の語りがあるので必見。榎木津視点の語りはコレと百鬼夜行―陽』収録の「目競」のみですね。

※詳しくはこちら↓

 

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関口の不憫感と、中禅寺の悪魔的な話術も磨きがかかっています。

 

 

 


他に
この作品はとにかく匣、筥、箱でハコまみれ。各部分で語られ、現れる“ハコ”がお話を印象的にしています。この“ハコ”要素、京極さんの他作品でもよく表現に出て来ます。京極さんはハコ好き・・・?


あと、頼子が加菜子に抱いている複雑な心理は、あの年齢の頃の女子間では結構陥りやすい心理だなぁと思います。勿論大小がありますけどね。特定の友人を偶像視してしまうのって、成人すると勝手に幻想を押しつけてなんだか失礼だったなぁとか気づきますが、十代の頃(特に女子は)相手も普通の人間だって事を無視して突っ走りがち。歯止めがないと、このお話のように取り返しのつかない事態になってしまうので要注意ですね。


お話の合間に入る久保竣公『匣の中の娘』という作中作は怪奇小説じみてモヤモヤとした不安な雰囲気を作品全体にもたらしていますが(特に冒頭部分の“ぴつたり”とか“ほう”とか)、これが唯々の雰囲気作りではなく、真相にモロに関係していることが明かされるシーンは驚愕。冒頭を読んだ段階ではまったく予想出来ないですからね~。あぁ、凄い・・・!
私は終盤の久保の語り部分が妙に好きです。何度も読み返しちゃいますね。

 

 

 

 

 


以下ネタバレ注意~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この作品で個人的に思想に影響をもたらした部分は
“科学者が幸福を語る時は、科学者の貌をしていてはならない”
“肉体の衰えが、精神の衰えに繋がるのは当たり前”
“意識は脳だけで造り出されるものじゃない。人間は人間全部で人間なんだ”
“脳が人間の本体だなんて考えは、魂が人間の中に入っていると云うのと変わりのない馬鹿馬鹿しい考え方だ”
などなどの部分ですね~。


世間一般では、どうも脳味噌第一主義みたいなのに囚われがちですよね。そりゃ大事な器官に違いはないんだけど、だからって脳だけ取り出したって駄目なんだと。脳に人間の本質や全てが詰まっているなんて唯々の妄想。肉体と精神は切り離して考えるものではないのね~と。当たり前の事なんだけど、改めて指摘されると目から鱗の思い。うへえ。

そして余韻溢れる最後の
「〇〇は、今も幸せなんだろうか」
「それはそうだろうよ。幸せになることは簡単なことなんだ」
京極堂が遠くを見た。
「人を辞めてしまえばいいのさ」
で、冒頭の
“何だか酷く男が羨ましくなってしまった”
の、一文に繋がる終わり方が綺麗。


彼岸に行き着いてしまわなければ得られないモノがある。おかしくなっちゃえば楽なんだろうけど・・・。複雑な思いを抱えつつも、関口同様、何だか羨ましいって気もしてしまいますね。

 

 

 


とにかく読んで欲しい

この『魍魎の匣』は代表作なのもそうですが、シリーズの今後に関係してくる“戦時下での研究実験”が出て来るので、シリーズ内ではやはり重要な位置を占める必読の作品です。
また、シリーズを知らない人でも十分に楽しめる作品であることも間違いありません。この作品だけ百鬼夜行シリーズから単独でアニメ化されているのもそれを証明していると思います。
麻薬的作用のある、中毒性の高い作品なので「ずっと読んでいたい」と思ってしまったが最後、【百鬼夜行シリーズ】に取り憑かれてしまうのは必至でしょう。


長大な作品で本自体がまさに箱のようですが、臆せずに蓋を開けてみて下さい(^o^)

 

魍魎の匣(1)【電子百鬼夜行】

魍魎の匣(1)【電子百鬼夜行】

 

 

 

ではではまた~

 

 

 

 

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