夜ふかし閑談

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三島由紀夫『命売ります』あらすじ・感想 ドラマとの違いなど

こんばんは、紫栞です。
今回は三島由紀夫命売りますを紹介したいと思います。

命売ります (ちくま文庫)

BS JAPANで放送中の連続ドラマ「命売ります」の原作本ですね。

 

 

あらすじ

目を覚ましたら病院だった。どうやら自殺に失敗したらしい。

羽仁男はトウキョウ・アドという会社に勤めるコピイ・ライター。それなりに才能もみとめられ、会社から相当の月給をもらって満足している、精励なまじめな社員だった。別に失恋した訳でもなく、金にもさしあたり困っていない。
いつも夕食をするスナックで夕刊を読んでいるあいだに、急に死にたくなったのだった。ピクニックへでも行こうというような感覚だった。
それから、終電車国電の中で大量の睡眠薬を呑んだのだが・・・・・・。

自殺をしそこなった羽仁男の前には、カラッポな、自由な世界がひらけた。
トウキョウ・アドには辞表を出し、退職金を沢山もらって、新聞の求職欄に次ぎのような広告を出した。

命売ります。お好きな目的にお使い下さい。当方、二十七歳男子。秘密は一切守り、決して迷惑はおかけしません」

命を売り出した羽仁男のもとに、次々と訪れる奇妙な依頼人達。やがて事態は予期せぬ方向に。危険な目にあううちに、ふいに羽仁男は“ある念”におそわれて――。

 

 

 

三島由紀夫のエンタメ小説
命売りますとは何ともインパクトの強いタイトルですが、哲学や思想的な部分を全面に出して書かれている訳ではなく、ユーモラスで娯楽要素の強いエンターテインメント小説になっております。
私は三島由紀夫作品を読むのはこの本が初です。三島作品には勝手に純文学や政治的思想の強いイメージを持っていたのですが、このようなエンタメ小説も書いていると知って面白そうだと思い、読んでみました。(人によっては「初めて読むべき三島作品はコレじゃない」って意見もあるかも^^;)


命売ります』は1968年刊行の小説。年代的なこともあって、ちょっと読みにくいかもとか懸念していたんですが、読んでみると全然そんなことは無く。文章もストーリーも現代でも十分楽しめるものです。
最近、2015年に突如人気が出て2016年にベストセラーになるといった現象が起こった事も、この作品の現代に通用する面白さを証明していますね。今年連ドラマ化されるくらいですし。


1968年当時、『週間プレイボーイ』に連載されていたという事で、男性が喜びろうな要素が多いです。ポンポンと都合の良い美女が出てきたり、ハードボイルド調だったり。

 

 

 

命を買いに来る依頼人
依頼人と依頼内容は以下の通り。


老人。50歳年下の若妻・るり子が秘密組織のボスの愛人になってしまったので、羽仁男にるり子の間男になってもらい、現場を目撃されて二人そろってボスに殺されて欲しい。

図書館の女司書。得体の知れない外国人に、呑めば自殺したくなる薬の製法が載っている稀覯本を高額で売ったが、羽仁男にその薬の実験台になってもらい、再びその外国人から金を貰おうと考える。

井上薫という学生の少年。吸血鬼である母親の愛人となって、毎晩母親に血を吸わせてやって欲しい。

B国と対立するA国大使のスパイ。B国大使館に潜入して毒の塗られた人参ステックの中から暗号解読に必要な人参を見つけてもらいたい。

元大地主の娘で未婚の三十女・玲子。玲子は妄想による思い込みから、自分は将来発狂すると信じきっており、薬物に溺れる自堕落な生活をおくっていた。羽仁男に自分と恋人になって心中してくれと言い出す。

 

 

と、まぁこんな具合に一癖も二癖もあるような依頼が持ち込まれる訳ですが。
最初の二つまでは“死を恐れぬ男”としてある意味勇ましかった羽仁男ですが、三つ目の依頼・吸血鬼のお母さんに~の辺りから何だか調子が狂ってくる。依頼内容もスパイだの暗号解読だの、きな臭いことに・・・。後半は予測が出来ないストーリー展開となっていきます。

 

 


ドラマとの違い
1968年の小説ですが、ドラマは現代が舞台なので設定は現代風に直されています。長編小説とはいえ、300ページに満たないお話で、連ドラとしてそのままやるにはボリューム不足ですから、お話は膨らましてありますね。まだ二話目まで観ただけですが、各依頼人達の背景や描写が深くなっている感じです。


官能ドラマ風味の仕立てになっているらしいので、毎回女優さんがゲストで登場して、色っぽいシーンを演じてくれるパターンなのでしょうか。


今のところ、主要キャストは主役の山田羽仁男(中村蒼)、喫茶店のマスター・京子(YOU)、その喫茶店の常連客・宮本(田口浩正)の三人のみですかね。井上薫(前田旺志郎)少年も今後レギュラー入りするのかな?


喫茶店の二人はドラマオリジナル。なんか、良い味出していますね(笑)


第二話が吸血鬼お母さんのお話で、原作の女司書さんのお話が飛ばされていたのですが・・・(原作でも、女司書さんのお話は結末が唐突過ぎて読んでて疑問でしたが)。今後やるのか、飛ばしたままなのか微妙なところ。第三話は「天使過ぎる女医の医療ミスで死んでくれ」という依頼内容らしく、コレは原作には無いエピソードなので、ドラマの完全オリジナルですね。
原作で後半のストーリー展開に大いに関係してくる胡散臭い秘密組織ACS(アジア・コンフィデンシャル・サーヴィス)の話題もドラマでは出て来ないので、ドラマは結構オリジナル色が強くなるかも知れません。


美輪明宏さんのナレーションや人間椅子によるオープニングなどが印象強くて良い感じ。低予算ながらもこだわりのあるドラマ作りをする傾向があるテレ東系(注:個人的なイメージです)なので、オリジナル要素が入ってもドラマとしてちゃんと良作にしてくれるのではないかと思います。

 

※ドラマ全体を観終わっての感想はこちら↓

 

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以下ネタバレ~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

お話は前半、死を恐れぬ男・羽仁男の、言うなれば“究極の世捨て人”としての強みが描かれています。生き物にとっての最大級の恐怖、“死の恐怖”を克服している(ようにみえる)羽仁男に対し、依頼人達は畏怖の念を抱く訳です。
しかし、お話が進むにつれて羽仁男の心境は変わっていき、終盤はハッキリと“死の恐怖”を感じるようになる。


そもそも、羽仁男が最初に自殺を決意したきっかけは、夕刊を読もうとしたら活字がみんなゴキブリに見えたからという、解るような解らないような理由が発端。勿論、背景には判で捺したような怠惰な日常への嫌気があるのですが。仕事の能力が高く、女に困る事も無い、世間的には順風満帆な羽仁男だからこそ、日常がつまらないものに思えてしまう。贅沢な話ですけどね。
平凡な日常の中では自分の命を軽んじる事が出来た羽仁男ですが、秘密組織に追われるような非日常の中では強く死を恐怖する。

 

以下は最後の羽仁男と警察官との会話


「あなたは人間はみんな住所を持ち、家庭を持ち、妻子を持ち、職業を持たなければいけないと言うんですか」


「俺が言うんじゃない。世間が言うのさ」


「そうでない人間は人間の屑ですか」


「ああ、屑だろうな。一人ぼっちでヘンな妄想を起こして、警察へ駆け込んで、被害を訴える。そんな男はめずらしくないさ。君一人だと思ったら大まちがいだよ」


「そうですか。そんなら立派な犯罪者扱いをして下さい。僕は不道徳な商売をしていたんです。命を売っていたんですよ」


「はあ、命をね。そりゃ御苦労なこった。しかし命を売るのは君の勝手だよ。別に刑法で禁じてはいないからね。犯人になるのは、命を買って悪用しようとした人間のほうだ。命を売る奴は、犯人なんかじゃない。ただの人間の屑だ。それだけだよ」

 

 

結局、羽仁男は退屈な日常に一過性のヒステリーを起こして「命売ります」と言って、アウトローな気分に浸っていただけ。最後には愚かなことをしていたと思い知らされるのでした。


原作はこのような部分で終わっていて、秘密組織だのとの決着や、羽仁男がこの後どうなったのかは書かれずじまいですが、ドラマではどのような結末になるのか気になるところですね。原作の雰囲気を損なわない最終回を期待したいです。

 

ドラマ観て気になった人にも是非読んで欲しい本ですね。

 

命売ります (ちくま文庫)

命売ります (ちくま文庫)

 

 

 

 

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 ではではまた~