夜ふかし閑談

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『ブレイズメス』『 スリジエセンター』ネタバレ あらすじ感想 ブラックペアンその後の物語

こんばんは、紫栞です。
今回は海堂尊さんの【バブル三部作】の内の二つ『ブレイズメス 1990』スリジエセンター 1991』をご紹介。

 

スリジエセンター1991 (講談社文庫)

 

 

続編
【バブル三部作】は『ブラックペアン 1988』から始まるシリーズで「ブラックペアンシリーズ」とも言われているというのはこちらの記事でも書きましたが↓

 

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やはり出版社での呼称である“ブラックペアンシリーズ”よりは作者の海堂さんのいう“バブル三部作”のほうがこのシリーズにはしっくりきます。


三作品すべて読んでみると、第一作目の『ブラックペアン 1988』と後の二作は大半の登場人物達が引き継ぎにはなりますがお話の主軸はまったく別物ですので、三部作といいつつ『ブラックペアン 1988』は別個で考えるべき小説で、『ブレイズメス 1990』と『スリジエセンター 1991』は二つあわせて一つの小説だという感じ。『ブレイズメス 1990』は『ブラックペアン1988』の“続編”じゃないけど、『スリジエセンター 1991』は『ブレイズメス 1991』の“続編”だよ~と。
なので、「“ブラックペアン”のシリーズではないよなぁ」というのが正直なところ。ブラックペアン(黒い外科用止血鉗子)にまつわる話は一作目の段階で完全に終わっていて、二作目三作目には関係ありませんしね(^^;)


でも、登場人物達の人間関係や病院内の状況などは一作目を読んでいないとわからないところが多いので、飛ばさすに一作目から三作目まで順番に読まないとダメだとは思います。

 

 

渡海
一作目を読んだ人やドラマを観ている人は渡海先生が二作目三作目に出て来るのか気になるところではあると思いますが、ハッキリ言って『ブレイズメス 1990』と『スリジエセンター 1991』には渡海先生はまったく出て来ません。まぁ一作目での終わり方が終わり方ですしね。
渡海先生は『ブラックペアン1988』のみの登場人物で、海堂尊作品の他シリーズなどにも今後出す予定は作者にはないかと思います。魅力的なキャラクターなので一作限りなのは勿体ないと感じてしまいますし、渡海先生がその後どうなったのかは読者的には大いに気になるんですけどね~。

 

※6月25日追記。すいません。その後調べてみたらモルフェウスの領域

 

 

 

に思い出の中の人物として、短編集『ガンコロリン』

 

 

 

 収録の「緑剥樹の下で」にその後の物語が描かれているらしいです。調べが浅かったですね・・・申し訳ない。

 

 


『ブレイズメス 1990』

 

 

あらすじ
1990年4月。国際学会に出席する垣谷のお供として、フランスのニースに降り立った世良だが、実は佐伯教授から国際学会に演者として招聘されている心臓外科医・天城雪彦に手紙を届けるメッセンジャーとしての役割を仰せつかっていた。しかし、天城は国際学会をドタキャンしてしまい、発表後に手紙を渡せば任務完了だとタカをくくっていた世良の当ては外れてしまう。
佐伯教授に「ミッションを達成するまでは日本に戻ってはならん」と言われていた世良は、グラン・カジノでようやく天城を探し出し、佐伯教授からの手紙を渡す。手紙の内容は天城を“東城大学医学部付属病院付帯施設、桜宮心臓外科センターのセンター長に推挙する”といったものだった。しかし、天城は手術をうける条件として患者に賭けをさせ、財産の半分を取り上げるような、日本の医療界ではとても容認出来ない方法をとる医師だった。
天城も最初、この依頼を受ける気は無いと言うが、天城の手技に魅せられた世良は天城とのギャンブルの末に説得に成功。天城に帰国を決意させる。
佐伯教授に天城の世話役を任命された世良は、天城と共に「スリジエ・ハートセンター」への設立に乗り出すが、やはり天城の存在は東城大学医学部付属病院の医師達には受け入れられるものではなく、激しく対立していく。
設立への大きな足掛かりとして、自らが確立した術式である“ダイレクト・アナストモーシス" を東京国際学会での公開手術で披露することを宣言する天城だったが、公開手術には様々な壁が立ちはだかっていた。
はたして日本初の公開手術の結果は――?

 

 

 

 

 

 

 

この表紙、前作の『ブラックペアン1988』とかなり似通っていますよねっ!実は私、『ブラックペアン』と間違えて買ったのですよ・・・。それで一作しか読むつもりなかったのに三部作すべて読むことに。まぁ面白かったので結果オーライですけど。私のような粗忽者はそうそういないでしょうが、買うときは一応ご注意を。

 


天城雪彦
前作『ブラックペアン1988』から2年後の世界が描かれています。

前作同様お話は大半が世良視点での語りですが、渡海に変わって今作からはモンテカルロのエトワール(星)”という称号を持つ手術が抜群に上手い天才外科医・天城雪彦がお話の中心となり、世良と二人で「スリジエ・ハートセンター」の設立に挑みます。スリジエはフランス語で“桜”という意味です。


前作の渡海先生も魅力的なキャラクターでしたが、この天城先生も尊大な態度にフランス語混じりのキザな言い回しなど、人によって好みが分かれるかなといった人物ですが、世良同様、振り回されているうちにどんどんと引き込まれていつの間にか好印象を抱いてしまう魅力的なキャラクターです。
世良のことをジュノ(青二才)と呼び、軽快な会話をしたり、ハーレーや外車に乗って連れ回したりするのも読んでいて楽しいところですね。

 


モンテカルロ・ルール
あらすじにも書きましたが、天城はモンテカルロでは患者にカジノで全財産の半分を賭けさせ、賭けに勝って金が二倍になった患者からは治療費として半分を治療費として納めてもらって手術し、負けた患者には治療を諦めて貰うという方法をとっていました。

 

これはただ単に大金が欲しいというのではなく、患者に全財産の半分を差し出す覚悟があるか・手術を乗り切る運があるか。の、二つを見極める為に設けている天城なりの安全保障システム。

頂いた財産の半分は個人としては一切受け取らず、グラン・カジノで基金として運用しているので直接天城の懐に入ってくる訳ではないのですが(グラン・カジノからは破格の待遇を受けますけどね)、まぁ表面的には「とんだ守銭奴医師だ」という風に受け取られる。特にバブル時代の日本では経済的余裕があったがために医師は収益を度外視しての治療・患者が支払いを踏み倒しても事務長に少し怒られればそれですむといった状況下にあったので、天城のように患者から大金と引き替えに手術を受ける医師は批判の対象となる。

 

 


革命
日本にはカジノが無いので患者にルーレットをさせる訳にはいかないけれど、天城は自身のルールを変える気はないと新たなシステムを構築。

日本でも患者から財産の半分を頂戴すると強気な発言を繰り返すのですが、やっぱり周りの医師達はとやかく言って反対してきて・・・・・・で、ここら辺の激しいバトルが話の主軸になっています。

この医療費に対する考え方はバブル時代ならではのもので、この時代設定じゃないと描けない物語ですね。お話を通して作者が伝えたいメッセージもこの“医療費問題”が大きいのだと思います。
今では高度な技術に高い報酬を要求するのは当たり前だ、との考えが一般的になっていますが、この時代には“高い報酬を求める医師は悪だ”なんて意見がまかり通っていたのですね。

 

「医師が医療に専念しろということが、なぜ日本の未来を冥くするんですか」

問いかけた高階講師に、天城は冷たく言い放つ。

「甘やかされたぼんぼんが、いつまでも父親の庇護の下で同じ生活ができる、と思い込んでいるのと同じだから、さ。高階先生の言葉は、医療が潤沢な資金で下支えているから言える、金持ちの意見だ。真実は、腕があってもカネがなければ命は救えない。だから医療は独自の経済原則を確立しておかないと、社会の流れが変わった時、干からびてしまう」

 

天城がおこなおうとしているのはただ心臓外科センターを設立しようというのではなく、日本の医療界に「革命」を起こそうというものなんですね。

『ブレイズメス1990』では東京国際会議場での公開手術終了までが描かれており、お話としては中途半端なところで終わっています。その後、「革命」がどうなったのかは『スリジエセンター 1991』にそのまま引き継ぎです↓

 


スリジエセンター 1991』

 

 

あらすじ
1992年春。世良はモンテカルロのオテル・エルミタージュの一室で、無為の時間に漂っていた。目の前の扉が開き、驚いて目を見開いた天城が、いつものように、ジュノ、と呼びかけてくれるのを待ち続けながら――。

1991年4月。天城は「スリジエ・ハートセンター」の設立資金捻出のため、桜宮市の基幹産業「ウエスギ・モーターズ」の創業者である上杉会長の公開手術を計画するが、東城大学医学部付属病院内では佐伯教授と、佐伯教授が招聘した天城への対抗勢力たちが様々な思惑を巡らしていた。そんな中、世良は天城の直属から高階講師の研究室へと戻されてしまい・・・。
天城と世良の二人は「スリジエ・ハートセンター」“さくら並木”を完成させることが出来るのか。天才医師・天城雪彦が灯す“革命”の松明の火――

 


文庫
単行本が刊行されたのは2012年ですが、文庫は最近になって刊行されました。ドラマの効果が強いのかと思われますが。文庫版巻末解説を『ブラックペアン』ドラマで世良役を演じている竹内涼真さんが書いていますしね。加筆修正もあるので今から読む人は文庫版が良いかと思います。私も文庫版で読みました。

 


院内政治
【バブル三部作】完結編の『スリジエセンター 1991』は前2作でも描かれてきた院内政治が最高に加熱しています。状況は天城(と佐伯教授)VS高階の様相がハッキリとしてきます。
前作までは比較的読者にとって好印象な存在だった高階講師ですが、今作ではヒール役的側面が強いですね。
言い分としてはどちらも頷ける部分と頷けない部分とあって、どっちが善い悪いもないなぁと思うのですが、読者としては世良にどっぷり感情移入してしまうので、どうしても天城派になってしまう(^^;)あと、一作目の『ブラックペアン1988』でのこともあり、佐伯教授が負ける姿を見たくないというのもありますが。

 

 


以下ネタバレ~。ご注意下さい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


先に刊行されている【田口・白鳥シリーズ】や、海堂さんの別シリーズでは【バブル三部作】から数十年後の東城大学医学部付属病院が描かれている訳で、そこでは佐伯教授、天城、世良のいずれも東城大学には残っておらず、天城が設立しようとしている「スリジエ・ハートセンター」も存在しないので、海堂さんの“桜宮サーガ”を少しでも読んだことのある読者には、佐伯教授の医療改革や天城の「スリジエ・ハートセンター」設立が失敗に終わってしまう未来がもうわかってしまっている訳です。


そう。ですので私も、世良に感情移入すればするほど気が重くなってページをめくる手が止まってしまい、読み切るのに何日もかかってしまいました。結果がわかっていてもハラハラしてしまう面白い作品ですけどね。


高階の勝利が目に見えているので天城派としてはより高階が憎らしく、「この腹黒ヤロー」とかついつい思ってしまう(-_-)
でも、それは私が天城・佐伯派だからそう感じてしまうだけかと最初のうちは思っていたのですが、高階が天城の足を引っ張る為に手術が思い通りにいかないように画策する行為は『ブラックペアン1988』の頃の“患者の命が第一優先だ”という考えから逸脱してしまっていて「高階、どうしちゃったの」って感じでショックと怒りが。

 

「世良君は、天城先生が目指した、カネがすべての医療施設を作りたいのか」

「俺はただ、天城先生のさくら並木を見てみたかった。それだけです」

「天城先生の発想は今の日本では受け入れられない」

世良は高階をにらむ。世良の視線が、高階の身体に突き刺さる。

「その言い方は卑怯です。今の日本が受け入れられないのではなく、高階先生が天城先生を受け入れることができなかっただけじゃないですか」

 

“カネがすべての医療など間違っているに決まっている”と、自身の行為を日本の医療界の為だのなんだのと正当化し、手段を選ばずに天城を追い落とした高階ですが、その実は「ただおまえが気にくわなかっただけだろう」と。

この高階の欺瞞は読者としても読みながら感じ取っていたので、最後に下っ端の世良が講師であり今や佐伯教授という巨星を撃つことに成功した高階にキッパリと言い放つシーンは悲痛さはありますが、どこか爽快です。「よくぞ言った!」とスッキリしますね。

 

 

 

ラスト

「私は日本では愛されなかった。ささいなことに反発され、刃を向けられ、足を引っ張られる。患者を治すために、力を発揮できる環境を整えようとしただけなのに関係ない連中が罵り、誹り、私を引きずり下ろそうとする。私はそんな母国に愛想が尽きてしまったんだ」

と、世良に言い残して天城は日本を去ってモンテカルロに帰ってしまいます。


他の誰よりも医療に対し真摯な天城だが、考えも技術もあまりにも高みに昇りつめすぎてしまっているがために、周りに阻害され、くだらない院内政治によってつまはじきにされてしまう。天城が疲れてしまうのもわかります。そもそも天城先生に“院内政治”は似合いませんからね。
確かに天城先生のような自由奔放な天才には、日本よりもモンテカルロのほうがずっと似合っているのでしょうが、天城雪彦という天才医師にすっかりと魅了されてしまった世良は諦めきれず、モンテカルロに手紙を出し続けます。そして、熱意によって天城に“スリジエ”の再チャレンジを決意させることに成功。喜び勇んでモンテカルロまで天城を迎えに行くのですが、

が、が、、、、
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・

 

 

 

 


わたくし、結末を読んで大変なショックを受けてしまいました。


いやぁ、前の文面で何となくソレっぽい空気を匂わせているなぁとは少し感じたのですが、一番あって欲しくないことなので「そんなハズないよね」と頭の中で否定していたのですよ、そしたら・・・・・・
もう、私も世良同様、ショックショックですよ(T_T)

 

世良の天城への思いにくわえ、天城の方も世良に大いに信頼を寄せていたのだということがわかる事実が終盤ではどんどんと提示され、切なさ・哀しさに拍車がかかります。
読者としては二人でまた「革命」に挑む姿、天城が世良にジュノ(青二才)と呼びかける姿が見られないことがただただ残念でなりません。

 

この辛く哀しい体験の後、世良がどうなったのかは海堂さんの別シリーズ

極北クレイマー』

 

 

『極北ラプソディ』

 

 

 に続いています。(刊行は極北~の2冊の方が先)

詳しくはこちら↓

 

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また、今作では“ジャネラル・ルージュ(血まみれ将軍)”こと速水晃一がお話に結構絡んできます。

 

 

 

“伝説の始まり”に触れられているので、ファンは必見。

 

海堂尊作品は奥が深いですね~。天城の精神はどのように引き継がれているのか、気になるところです。

 


ではではまた~

 

 

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ブレイズメス1990 (講談社文庫)

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スリジエセンター1991 (講談社文庫)

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