夜ふかし閑談

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『探偵が早すぎる』原作 ネタバレ・感想 ドラマとの違いなど~

こんばんは、紫栞です。
今回は井上真偽さんの『探偵が早すぎる』をご紹介。

探偵が早すぎる (上) (講談社タイガ)

探偵が早すぎる (下) (講談社タイガ)

2018年の7月から日本テレビ系で放送予定の連続ドラマの原作本ですね。

 

あらすじ
「私はそのトリックを、まだ仕掛けてさえいないんだぞ・・・・・・」
父の死により五兆円もの莫大な遺産を一人で相続することになった女子高生の一華(いちか)。その遺産を狙い、一族たちは彼女を事故に見せかけ殺害しようと試みてくる。命を狙われ、外の人間も信用できなくなった一華にとって、唯一信頼できる味方は使用人の橋田のみ。その橋田は一華の現状を打開するため、知り合いの“探偵”を雇った。その探偵とは、“事件が起こる前にトリックと犯人を看破し、事件を未然に防いでしまう究極の探偵。

一華を事故死に見せかけようと完全犯罪のトリックを仕掛けてくる複数の刺客たち。探偵は事件を“すべて起こさせずに”一華の命を守り抜くことができるのか――?

 

 

 

 


トリック百花繚乱。
井上真偽さんの本を読むのは初なのですが、ドラマ化されるのと設定が面白そうだったので読んでみました。
講談社タイガからの刊行で上下巻2冊です。講談社タイガだと最初から文庫での刊行なので買いやすくって良いですね。1冊300ページくらいで上下巻あわせて600ページほど。


お話は各章で区切られていて、登場人物達は皆個性豊か。コミカルにテンポ良く進むし、出てくるトリックも奇抜なものばかりで楽しませてくれるので、最後まで面白く読めました。
重要な箇所は太字になっているなどの配慮もあって読みやすいです。なんか親切(笑)

上巻では三つの殺害未遂事件が描かれ、下巻のほうでは一華の父の四十九日の法要での一日の出来事が描かれています。上巻が小手調べ、下巻が“いざ本戦”って感じですね。
下巻のトリックの応酬はもう息つく暇もありません。まさにトリック百花繚乱。そしてそのトリックをことごとく潰していく探偵の凄まじさと忙しさ(笑)必見です(^^)

 

 

確かに早すぎる
ミステリ小説のジャンルとしては“倒叙モノ”に分類されるつくりになっていますね。一華の視点がところどころで入りつつ、犯人たちの頭の中の犯罪計画が犯人視点で描かれる。

・・・と、言ってもすべての犯行は実行前に阻止されてしまうし、上巻はともかく、下巻はあまりにも犯行予備軍の人たちが多く、仕掛けられているトリックも次から次に出てくるので、「ミステリで倒叙モノ」というよりは、“仕掛けられた罠をすべて見抜き、ゴールまで無事たどり着くことができるのか”といったサバイバル・ゲーム的要素が強いので、倒叙ミステリの印象は薄いです。
しかし、改めて考えてみると倒叙ミステリ以外の何物でも無いんですけどね。やっぱり、「犯人に事件を起こさせてもくれない」ってところが大きいですかね。斬新な設定だ・・・。

このお話なんですが、単に犯行を阻止するだけでなく、犯行を計画した人物には「犯行計画をどの点から見抜いたか」「計画内容のどこが悪かったか」を当人に語って屈辱を与え、ご丁寧に『トリック返し』と称してきっちりと仕返しもして、犯人を完膚なきまでに叩きのめします。
ここら辺が読んでいて痛快なのですが、犯人始点なので読んでいると登場する数々の犯人の方々がもういっそ不憫というか、可哀想にもなってきますね(^^;)

 


ドラマとの違い
ドラマのキャストは以下の通り
千曲川滝藤賢一
十川一華広瀬アリス
大陀羅朱鳥(あけどり)-片平なぎさ
橋田政子水野美紀
城之内翼佐藤貫太
山崎未夏南乃彩希
阿部律音水野麻里奈
大陀羅麻百合結城モエ
十川純華新山千春
大陀羅壬流古(ミルコ)-桐山漣
大陀羅亜謄蛇(あとうだ)-神保悟志

 

凄くゴテゴテしい名前が並んでいますが(笑)

公式サイトに掲載されている順に書きましたが、原作を読んだ身としては何でこの順番で登場人物が並んでいるのか少し疑問。

原作では一華は高校生の設定なのですが、ドラマでは大学生ってことで主要人物の千曲川と橋田も年齢が上がっていますね。原作では二人とも年齢不詳で実年齢は明かされていないのですが、20代ぐらいってなっています。


原作から一番遠い容姿をしているのは千曲川光を演じる滝藤賢一さんですね。原作ですと千曲川さんは、
髪は肩まである茶髪で整った顔立ち。目は細くて若干色白。体格は華奢だが肩幅はある。
と、いう。一見すると男か女かわからない容姿をしていて、実際セクシャリティ
性別は男。心は女。しかして性的指向は同性愛。
てな複雑な設定なのですが、キャストが滝藤さんなのでここら辺の設定はガラッと変えるのかなと思います。そのままやったらやったで面白そうな気もしますが・・・(^^;)

一番気になるのは“城之内翼”ですね。原作にはいない人物なのでドラマオリジナル。「一華が恋心を抱く大学の同級生」らしいです。原作には恋愛要素が皆無なんですけどね。こういうオリジナルの追加はドラマで良くある傾向だって気がしますね~。


あと、“十川純華”って誰だ?って最初思ったのですが、これは一華のお母さんですね。原作だと既に亡くなっていて、“お母さん”と出てくるだけで実名は出て来ないです。わざわざキャストがつくということは、ドラマではお母さんにまつわるお話が展開されるのかも知れないですね。

原作だと一華の命を狙ってくる一族たちはもっといまして、特に気になるのは沙霧(さぎり)と尼子(あまご)の二人。今のところキャスト一覧に名前がないですが、後半で登場する・・・と、思いたい。この二人は原作では(色々と)とんでもない美女で、尼子の方はアルビノという設定なのでキャストが大変気になりますね。

あと、千曲川さんの『トリック返し』なのですが、かなり過激なものもあるのでドラマではどうするのかも気になるところです。

 

 

 

以下ネタバレ~

 

 

 

 

 

 

 

 


実はこの『探偵が早すぎる』、お話の主軸は一華と使用人の橋田との信頼感でして、“探偵”の千曲川さんは作品の中心人物という訳ではありません(そう見せかけている感じはあるんですけどね)。

千曲川さんが登場するのは、計画が失敗に終わって混乱している犯人の前に現われるというのがほとんどで、水面下で動いている為、主人公の一華に直接対面するのも上巻の最後でやっとですし、下巻の方でも一華と千曲川さんとのやり取りはほとんどありません。千曲川さんは謎解きの時のみ登場する“解答者”みたいなもので、人物の掘り下げなどもほぼ無し。単に男か女かもよくわからない得体の知れない人物といった感じですね。

 

それとは対照的に多いのが一華と橋田、二人のやり取り。一華はツンデレな(?)橋田のことが大好きで、五兆円という莫大な財産を手放さない理由の中には、自分が一文無しになったら使用人の橋田は自分から離れてしまうのではないかとの恐れが含まれています。

千曲川さんの“探偵”としての“技”は『目には目を』で知られるハンムラビ法典から生まれた『タリオ』という遠い昔から受け継がれてきた技術で
“考え無しに罪を犯そうとする愚か者に、その被害者の立場を疑似体験させ、その身に猛省を促す――”
と、いったもの。(いきなり何だか“アレ”な事言い始めたなって感じですが:笑)実は橋田もこの『タリオ』で、千曲川さんの師匠なのだという事が最後に明かされます。

終盤、追い込まれて千曲川さんはトリと探偵役を橋田に譲る(奪われる)展開に。千曲川探偵はいわばミスリードで、やっぱり大元というか本命は橋田のほうなのだと示される形ですね。


一華と橋田の会話からお話が始まり、最後も二人の会話で締めになっているので、この小説は一華と橋田の二人を描きたい物語なんだなぁ~と。
この『探偵が早すぎる』、検索すると検索候補に「百合」と出てくるんですが(^^;)そう出て来ちゃうのも二人の関係性が主で描かれているからなのだと思います。確かに一華は橋田への想いの寄せかたが乙女チックだなぁという箇所が多々ありましたからね・・・・・・。

ドラマではキャストのトップに千曲川光がきているので、原作とは別で千曲川さん中心のお話になっていそうな雰囲気がしますね。それだと全くの別物として楽しむって事になりそうな予感。どうなるんでしょう・・・。

 

続編
この小説、綺麗に終わっているような気もしますが、一方では一華たちの目的だった「殺人未遂の証拠を掴んで裁判に持ち込み、民法八九一条の相続人の欠格事由で一族たちを相続人から永久排除する」の、裁判がまだこれからという状態で、ラスボス的ポジションの大陀羅亜謄蛇と朱鳥は子供達に競わせただけで直接の手出しをしていないので裁判でも言い逃れ出来てしまいそうな気がして「これで本当に終わっているのか?」との疑念が若干残ります。


もし続編が刊行されるなら絶対に読みたいと思うのですが・・・どうでしょう。同じ講談社タイガ『今からあなたを脅迫します』

 

www.yofukasikanndann.pink

 

みたいに、ドラマ放送中に新刊刊行されたりしないかなぁ~。

個人的に続編希望です(^^)

 

コミカルなミステリが好きな人にはオススメ。ドラマで気になった人も是非読んでみては如何でしょうか。

 

探偵が早すぎる (上) (講談社タイガ)

探偵が早すぎる (上) (講談社タイガ)

 

 

 

探偵が早すぎる (下) (講談社タイガ)

探偵が早すぎる (下) (講談社タイガ)

 

 

ではではまた~