夜ふかし閑談

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『極北クレイマー』『極北ラプソディ』まとめ 世良、速水・・・その後の物語

こんばんは、紫栞です。
今回は海堂尊さんの【極北編】『極北クレイマー』『極北ラプソディ』の2冊をまとめて御紹介。

ブラックペアンから始まる【バブル三部作】に続くシリーズで、【バブル三部作】で主な語り手を担っていた世良雅司のその後が出てくるシリーズとなります。『スリジエセンター 1991』から18年ほど後のお話ですね。


極北クレイマー

新装版 極北クレイマー (朝日文庫)

 

あらすじ
北海道・極北市。人口十万、地方産業に乏しく、観光誘致に失敗したこの市では「このままでは極北市は財政破綻するかも」と冗談のように囁かれていた。
極北市には“赤字五ツ星”があって、極北市民病院はそのうちの1つに数えられている。今中良夫は非常勤外科医として極北市民病院にやって来た。不十分な設備、院長と事務長との対立、不衛生な病室、ずさんなカルテ管理・・・。この病院では医療は崩壊していた。
唯一の救いは市民や病院内からも人徳があり、必死で地域医療に貢献している産科医師の三枝久弘だか、三枝医師には以前手術中に妊婦が死亡した件で医療事故の疑いがもたれていて――。
今中の地道な努力や、派遣としてやってきた皮膚科医・姫宮香織のもたらした“嵐”などによって病院は少しずつ変わっていくが、野心をもった医療ジャーナリスト・西園寺さやかの水面下での暗躍により、事態は思わぬ展開に。病院閉鎖の危機がおとずれる――。

 

 

 

 


文庫
大前提の話ですが、【極北編】は『極北クレイマー』が先、『極北ラプソディ』が後です。1とか2とかついていないので、順番を間違えないように注意が必要ですね。(【バブル三部作】は年号がタイトルについていたので分かりやすかったんですが)
「クレイマー」と「ラプソディ」で結構作品雰囲気が違うので単体でも楽しめる・・・・・・ような気もするようなしないような~・・・ですけども(笑)
「クレイマー」は次作の「ラプソディ」への長い序章って印象もありますので、順番通りに読まないと駄目かなぁと個人的には思います。
私は2冊とも単行本で読んだのですが、「クレイマー」は文庫版だと上下巻分冊で刊行されているものと、

 

極北クレイマー 上 (朝日文庫)

極北クレイマー 上 (朝日文庫)

 

 

『新装版 極北クレイマー』と題した1冊で収録されているものとあるようです。

 

新装版 極北クレイマー (朝日文庫)

新装版 極北クレイマー (朝日文庫)

 

 

紛らわしいですね・・・(^^;) “新装版”となっているし、1冊ですむし、今から買って読むなら『新装版 極北クレイマー』が良いのだと思います。※「ラプソディ」の方は分冊での刊行はされていないみたいです。

 


三枝久弘の事件
この【極北編】は地域医療問題がテーマ。終始、地方病院のとんでもない実態が描かれています。かなり劣悪な病院だと感じますが、田舎に住んでいる身としては、ド田舎だと病院もこういった状況に陥るだろうなぁというのは想像に難くないです。都会の常識は田舎では通用しないんですよね。ホント。
「クレイマー」の方では産婦人科医の医療事故疑惑“三枝久弘の事件”が序盤から匂わせで後半からは主で展開します。“三枝久弘の事件”は海堂さんの別作品ジーン・ワルツ

 

ジーン・ワルツ (新潮文庫)

ジーン・ワルツ (新潮文庫)

 

 

イノセント・ゲリラの祝祭

 

 

の作中で間接的に触れられているらしいです(私は未読ですが)。

この“三枝久弘の事件”ですが、福井県立大野病院産科医逮捕事件(大野病院事件)」という実際の事件がモデルになっているのだとか。少し調べたのですが、手術内容などは違いますが、事件の顛末などはかなりそのままですね。日本の医療界に多大な影響を与えた事件だったようです。
他の科と違って、患者やその家族が希望に満ちた予測しかしていないから、産科では訴訟件数が他の科より多いっていうのを他所で聞いたことがあります。それを聞いたときも「なるほどなぁ」と思ったのですが、この本を読んでさらに強く思いましたね。病気になって病院に行くのと、お産で病院行くのとでは気持ち的に真逆ですもんね。この事件のせいで訴訟を恐れて産科医師を希望する学生が減ったなんてことも言われていたりするんだそうな。
『極北クレイマー』ではだいぶ三枝医師に対して肯定的な書き方になっていますね。

 


姫宮香織
お話に唐突に出て来て唐突に退場する姫宮先生。まさに“嵐がすぎていった”って感じで、読んでいて「ポカン」だったのですが。何だったんだみたいな(笑)【田口・白鳥シリーズ】の白鳥さんの部下なので読者サービス的な感覚なのですかね?(白鳥さんは登場しそうな空気を出しつつも結局登場せずじまいでしたが)しかし、知らない人には散々強烈な印象を突き付けといて脈絡も無く途中退場とはどういうことだと混乱すると思います。最後までいて欲しい・・・。


他にも今作で登場するやたら意味深な医療ジャーナリスト・西園寺さやかは、別作品螺鈿迷宮』に関係している人らしいです。

 

新装版 螺鈿迷宮 (角川文庫)

新装版 螺鈿迷宮 (角川文庫)

 

 


そして最後の最後に『ブラックペアン』世良雅志・・・・・・。もう作品の繋がりだらけでこんがらがってきますね(^^;)


ドラマ観ていた人は渡海が出て来るのか気になると思いますけど、【極北編】では一切登場しません。渡海先生のその後が描かれている作品については詳しくはこちら↓

 

www.yofukasikanndann.pink

 

クレイマー

 

「メディアはいつもそうだ。白か黒かの二者択一。そんなあなたたちが世の中をクレイマーだらけにしているのに、まだ気がつかないのか。日本人は今や一億二千万、総クレイマーだ。自分以外の人間を責め立てて生きている。だからここは地獄だ。みんな医療に寄りかかるが、医療のために何かしようなどと考える市民はいない。医療に助けてもらうことだけが当然だと信じて疑わない。何と傲慢で貧しい社会であることか」

 

終盤の世良のセリフですが。

まぁこういった問題提起をしたいお話なんでしょうけど、小説として纏まっているかというと正直微妙です。最後まで読んでも色々と半端な印象を受けるんですよね。で、次作を読んで『極北クレイマー』は1冊丸々序章だったんだなぁ~と思う訳ですが。ですので、「クレイマー」を読んだら速やかに「ラプソディ」へ↓

 

 

 

 

極北ラプソディ

極北ラプソディ (朝日文庫)

 

あらすじ
財政再建団体に指定された極北市。極北市民病院では大半の職員が病院を出て行ってしまい、医師として一人残った今中と、赤字を立て直すために院長に就任した病院再建請負人・世良雅志との二人体制で病院をまわす日々。病院としての健全運営など到底不可能な状態にまで追い込まれていた。
世良が新院長に就任して半年。世良は人員削減、薬剤費抑制、救急患者受け入れ拒否の三つの方針を断行。病院には入院患者がいなくなり、外来患者の数も極端に減ってしまった。仕方の無いことだと思いつつも、信頼と活気が病院から失われてしまったように感じ、今中は世良の改革に戸惑いを抱く。
そんな中、とある事件が発生。極北市民病院は再び世論の非難に晒され、病院は絶体絶命の危機に。しかし、世良はこの状況下で今中にドクターヘリが配備されている雪見市・極北救命救急センターへの出向を命じる。そこは“将軍”速水晃一が仕切る過酷な医療現場で――。

 

世良
「クレイマー」の終盤で“救世主”として華々しく登場した世良。「ラプソディ」では前作同様に主な語り手である今中と一緒に病院再建・・・している・・・のか・・・?(笑)


とにかく人員不足で病院として出来る事は「クレイマー」の頃よりさらに少なくなっているので、病院再建がウンヌンというような立て直しストーリーの雰囲気からは何だか遠い・・・。市長相手に色々と奮闘とかはするんですけどね。
さて、【極北編】に登場する世良ですが、【バブル三部作】の“ジュノ(青二才)”と呼ばれていた頃からは想像出来ないほど人柄が変わっています。

 

「昔、僕の故郷に、さくらの樹を植えようとした人がいた。そして僕はその樹の下で一生、花守をしていくんだと信じていた」

「そのさくらの樹は、花開くことはなかった。さくらを名前に冠する街なのに、皮肉なものだ。あれほど、さくらという言葉が似合わない街を、僕は他に知らない」

 

上記のこのセリフは【バブル三部作】の最終作『スリジエセンター 1991』を読むと詳細が分かるものです。
やはり天城先生との事は世良の人生に大きな影を落したのだなぁと今作を読むと痛感しますね。天城先生に心酔していたぶん、絶望も深かったようです。
病院再建請負人として改革を強行している世良だが・・・・・・で、後半は世良が色々と吹っ切れるまでの再生物語(?)が描かれます。後半、お話自体が病院再建じゃなくって世良の再生が主みたいになっている謎(^^;)

 

 

以下若干のネタバレ~(直接的には書いていません)

 

 

 

 

世良・花房・速水
中盤で救命救急センターに出向した今中の視点をとおして救命救急、ドクターヘリの詳細などが描かれています。救命救急はドラマなどで多く扱われる題材なので、結構知っている知識も出て来ますが(特に、ドクターヘリに関してはこの間まで『コード・ブルー』盛んに再放送したりしていましたしね)、現役医師作家さんですのでより突っ込んだ内容になっているかなと思います。


しかし、ジェネラル・ルージュこと速水晃一の操縦士への要求はもう「ホント無茶苦茶過ぎるな、コレ」って思っちゃいましたけど。コレで報告しないで丸く収まるとか、都合が良すぎてチョット・・・・・・でしたが、そこら辺は確りけじめが付く結末になったので「やっぱりそうよね」と。操縦士さんへの残念な気持ちはありつつも、なんだか安心しました。

 

ところで【田口・白鳥シリーズ】や【バブル三部作】にも登場する花房ですが・・・・・・ちょっと感情の変化が突飛でついていけないのですが・・・あんなに速水よりだったのに一体何故・・・これも海堂さんの他作品を読めばわかるんですかねぇ。まぁ、この三角関係(?)は今作で決着がついたという事なんでしょうか。しかし、釈然としないなぁ・・・・・・(^_^;)


結末
病院再建がまだ途中なんじゃ・・・ってところで終わるので、さらなる続編があるのか?と思ってしまいますが、作者の海堂さんは【極北編】はこれで終了だと明言されているみたいです。


う~ん。なんだかこの【極北編】、他シリーズとの穴埋めとか繋がりとかの為の作品って感じで、単体で楽しめるものではないかなぁと思いますね。ファンは繋がり見付けて余白埋まってく過程を楽しめるけど、ご新規さんにはちょっと・・・。意味が分からないところが多いかと(私は「ブラックペアン」からの流れでそのまま読んだクチですけど)。両作品とも主人公にあたる今中の存在感が薄いですし、特に「ラプソディ」の方は世良と速水が書きたかったんですねって印象が強いです。ミステリ的な面白味も別に無いですしね。
しかしまぁ、海堂さんの“桜宮サーガ”を追っている人は飛ばしていけないシリーズだとは思います。


この【極北編】、『極北ラプソディ』の題名でNHKにて2013年に実写ドラマ化されています。

 

 

 私は未視聴ですが、公式であらすじを見る限りではかなりオリジナル要素が強めの作品みたいですので、こちらは別作品として楽しめるようになっているのではと思います。地域医療問題を描いた小説なので、いかにもNHKで原作に選びそうな・・・って気がしますね。


まぁ色々釈然としないなぁとは思ってしまいますが(^_^;)
“ジェネラル・ルージュ”の速水や、“ジュノ”だった世良のその後が知りたい方は是非。


ではではまた~

 

 

新装版 極北クレイマー (朝日文庫)

新装版 極北クレイマー (朝日文庫)

 

 

 

極北ラプソディ (朝日文庫)

極北ラプソディ (朝日文庫)

 

 

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