夜ふかし閑談

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奥田英朗『純平、考え直せ』あらすじ・感想

こんばんは、紫栞です。
今回は奥田英朗さんの純平、考え直せを御紹介。

純平、考え直せ (光文社文庫)

9月22日から公開される映画の原作本ですね。

 

あらすじ
坂本純平、21歳。歌舞伎町の早田組という組に所属の下っ端やくざ。ハンサムで気がよく、男相手には喧嘩っ早いが女には弱い。歌舞伎町を歩くと三十メートルごとに声がかかるちょっとした人気者だ。
そんな純平はある日、親分に対立する組の幹部の命を獲ってこいと命じられる。“これで男になれる。本物のやくざになれる”と気負い立ち「やります」と即答した純平は、親分から数十万円を渡され、決行までの三日間、自由な時間を与えられる。
決行し、捕まればしばらく娑婆とはお別れとなる。悔いなく過ごそうと気ままに楽しむ純平だったが、何故か行く先々で人にかまわれ、あてにされ、さらには行きずりの女にこれから自分が“鉄砲玉”になることをふと告白してしまったことから、ネット上には純平にたいして数々の無責任な意見が飛び交い・・・。
三日間の儚い“青春”。その末に純平が選ぶ選択は――?

 

 

 

 

 


青春小説
巧みな人物描写と、一気読みするしかない文章で読者をグイグイ引っ張ってくれる奥田英朗作品。犯罪が絡んだスリリングなお話や

 

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多視点で展開するお話なども多いですが、

 

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純平、考え直せ』はひたすら純平の一視点でお話が展開します。やくざの下っ端が対立する組の命を獲るよう命じられる、いわゆる“鉄砲玉”を扱った作品で犯罪絡みではありますが、このお話では描かれているのは犯罪部分ではなく、一人の若者の青春。雰囲気も全体的にコミカルで所々クスッと出来る箇所もある青春娯楽小説になっております。

 

 


映画との違い
映画のキャストは純平役が野村周平さんで、上記のあらすじにある“行きずりの女”・加奈役が柳ゆり菜さん。
映画の公式サイトには他のキャストも出ているのですが、どの人がどの役なのか分からないので割愛。


さて、公式サイトによるとあらすじに

ふたりの青春、あと三日!?

とか

孤独と不安を慰め合ううちに、ふたりは惹かれ合っていく・・・。

とか書かれているんですが。


コレが、原作よんだ人間からすると・・・え?何の話ですか???
ってなもんでして(^^;)


もうなんか、原作が違うんじゃないかとか思うぐらいなんですけども。

映画の公式サイトですとラブストーリー路線で、ポスターとかも完全に恋愛が主体の雰囲気のつくりなんですが、原作では加奈はホント、行きずりの女って役割での人物で、お話の中での重要度は純平以外の他登場人物達と大差ないです。歌舞伎町の様々な人達の中の一人ですね。


映画は加奈を相手役にして純平と加奈、ふたりのラブストーリーに作りかえているみたいですね。加奈役の柳ゆり菜さんはグラビアで有名な方なんだそうで、激しいラブシーンなども映画の見所となるようです。

 

原作を読んだ身としては、気になるのは作中に登場するジイサン・西尾圭三郎なのですが、映画のキャストも見た限り、そういった年齢の方がいないので、何だか登場しなさそうですね。原作では良い味が出ているジイサンで、出番も多めだし、作品の中での重要度も加奈より高いって思うのですが。ジイサンのくだりを丸々カットして加奈とのやり取りをお話の中心にしているんですかね・・・(-_-)
なんにせよ原作とは別物と考えた方が良さそうです。

 

2014年に舞台作品にもなっているみたいですね↓

 

 

 

 

 

 

以下ネタバレ~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


バカしか出て来ない
この小説なのですが、堅気の人生を歩んでいる人から見れば軒並みバカしか出て来ません。

「男になれる」だの言って人殺しを即答でOKして、認めてもらえているだの舞い上がる純平はもちろんですが、「若いうちだけだから」「退屈だから」と不用心に無茶な遊び方をするOL の加奈、「ぼくは定年退職とともに、グレルことに決めたんだ」とか言う元大学教授の西尾のジイサン、鉄砲玉をするというのを聞いて心から純平を尊敬するテキ屋の信也・・・そして、ネット上で無責任に盛り上がる人々。

 

バカばかりなんですけど、しかし、皆どこか憎めないような人物なんですよね。純平の短絡的ですぐに調子に乗るところとか、兄貴の真似してかっこつけようとしたりとか、人に頼られると大口たたいて面倒ごとを引き受けちゃったりとか、読んでいて「バカだなぁ」と思うんですけど、何だか微笑ましい。
ネット上の人々の無責任な盛り上がりも、完全に突き放しているものではないです。面白がって悪戯に冷やかしたり、暴言を吐いたりする中でも、縁もゆかりもない赤の他人のために真剣に説得しようとしたり、心配する人もいる。「純平、考え直せ」と言ってくる。
幼少の時点で自分の人生を諦め、期待していなかった純平も
案外世界はいいところかもしれない
と、考え直したくなる訳です。

 

 

 

考え直してくれない
21歳の純平はずっと不良で、地元にいたときはひたすら喧嘩、新宿に来てからは丁稚のように組の部屋住みで、若者らしい遊びとはとんと縁がない生活をしてきた。決行までの三日間、やくざになってから始めて組から自由になり、今までいかに自分が狭い世界で生きてきたのかを実感します。


西尾のジイサンの話を聞いて、自分がただの猪突猛進の兵隊であること、殺し殺されのような状況下でも、すぐに開き直ったりすることが出来るのは若くってなにも知らず、価値があることもわかっていないからだと痛感もします。


三日間で今までにない出来事や人に遭遇し、純平の中で価値観も変化したかな?と思うのですが、やはりバカなので、鉄砲玉をやることを考え直してくれません。


色々な人から「考え直せ」と言われても、組仲間から尊敬する兄貴は純平をただ利用しようとしているだけだと聞かされても、考え直しません。


兄貴に電話して、明るくやさしい声をかけられただけでもう満足して“自分の信じることが真実だ”と娑婆とおさらばする決意をかためてしまいます。バカなので。


結局、どんな体験をしても純平が決意を鈍らせることはないままに最後、対立する組の幹部に拳銃を発砲するところで物語は終わっています。発砲して、その後どうなったのかはわからずじまい。
この小説では犯罪部分は重要ではなく、ただただ一途な純平という若者の三日間の青春を切り取った作品なんだとこのラストも物語っていますね。

 

読者的には純平が最後に決行してしまうのは残念な気持ちもありますが、読んでいるなかで純平の人となりを知ってくると、鉄砲玉を投げ出してどっかに逃げるという選択はまずしないのだろうなぁとわかってくるので、この結末も「やっぱりそうですよね」といった感じでストンと受け入れられます。

 

映画はストーリーを大幅に変えているみたいなので、結末もまったく違うものになっているかもしれないですね。原作ですと、加奈は何回か止めるものの、最後には説得をあきらめてただ無事を祈るのみになっていますが。
後、やっぱり西尾のジイサンがいないってことなら映画観た人には是非とも原作小説読んでジイサンを知って欲しいです。ホント、ナイスなジイサンなので(笑)知らないままじゃ勿体ない。

原作を読んでから映画を観ても、逆でも、どちらも十分に楽しめると思いますので、気になった方は是非。

 

純平、考え直せ (光文社文庫)

純平、考え直せ (光文社文庫)

 

 

ではではまた~