夜ふかし閑談

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ダイナー 小説・ネタバレ 。映画、漫画・・・最狂エンタメの原作本!

こんばんは、紫栞です。
今回は平山夢明さんの『ダイナー』をご紹介。

ダイナー (ポプラ文庫)

第十三回大藪春彦賞、第二十八回日本冒険小説協会賞、第五十九回日本推理作家協会賞受賞作。
2019年7月5日公開予定の映画の原作本ですね。

 

 

あらすじ
「ここは殺し屋専用の定食屋(ダイナー)だ。おまえの客はすべて人を殺している。おまえは人を殺した人間から注文を取り、人を殺した人間に料理を提供し、人を殺した人間にコーヒーを注ぎ、つまり人を殺した人間をくつろがせる。気難しい奴が多い。極端な話、皿の置き方ひとつで消されることもあるだろう」
オオバカナコは三十万欲しさにほんの出来心から闇サイトのバイトに手を出すが、雇い主がしくじったことで一緒に捕らえられ、酷い拷問にあったあげくに定食屋(ダイナー)「キャンティーン」に使い捨てのウェイトレスとして売られてしまう。
キャンティーン」はプロの殺し屋専用の完全会員制のダイナー。天才シェフで元殺し屋のボンベロが作る極上の料理を目当てに、殺し屋たちはつかの間の憩いを求めて店に訪れる。
“王”として支配的に振る舞うボンベロや、客である殺し屋たちにいつ消されるともわからない戦々恐々の日々の中、カナコは殺し屋たちの複雑怪奇な人間模様に触れ、翻弄されていくのだが・・・・・・。
奈落で繰り広げられる狂気と暴力。そして、料理と男と女の物語り。

 

 

 

 

 

脳が刺激されっぱなしの最狂エンターテインメント!
作者の平山夢明さんは作家以外にも色々されている方。京極夏彦ファンの私としては「京極さんと仲が良い方」という認識が先にきます。一緒にラジオ番組やっていますし、京極さんの著作『嘘実妖怪百物語』にも実名で登場していますね。

 

 

あとはとにかく、グロ作家さんという印象です。
この『ダイナー』が平山さんの現状一番の代表作で知名度も高いですが、他に代表作の筆頭として必ず出て来る『独白するユニバーサル横メルカトル』

 

独白するユニバーサル横メルカトル (光文社文庫)

独白するユニバーサル横メルカトル (光文社文庫)

 

 

という短編集を前に読んだのですが、ま~とにかくグロい!全編、凄まじい暴力と拷問のオンパレード。あまりの描写にいっそファンタジックな気分になってしまうほどです。物語りは面白くて完成度も高いので良い短編集には違いないのですが、個人的に拷問描写が苦手な私は『ダイナー』が名作だよと聞いて気になりつつも何年もなんとなく手が出せない状態でした。今年映画化されるとなってやっと読んでみた次第です。

 

読んでみたらですね、今まで読んでいなかったのを後悔するくらいに面白かったです。流石にこの作品だけで賞を三つも取っているだけあると納得の小説でした。


最初っから最後まで一時も安心出来ない出来事の連続で気が抜けずに一気読み。圧倒的な「暴力」と「狂気」で終始「いつ消されるかわからない」といった恐怖で脳がシビれる状態が延々続きますが、「暴力」と「狂気」に彩られる中で別のものが見え隠れしてきて終盤に炸裂。そのまま最高のラストへと誘われます。

 

“ダイナー”というのはアメリカのレストランで主にハンバーガーなどを出すお店のこと。なので、作中ボンベロが作る料理もハンバーガーが主なんですが、コレが凄く美味しそうに豪華に描写されています。読んでいるとハンバーガー食べたくなってしまう(^^;)それで本の表紙もハンバーガー。他の料理もめちゃくちゃ美味しそうです。
散々の暴力描写の後にひたすら美味しそうな料理。
もう訳がわからない混沌の渦ですが、独自の世界観にドンドン引き込まれていきます。

 

小説のジャンルとしてはノワールになるんだそうな。確かに舞台は地獄そのものなのでノワールとなるのかもしれないですが、でも感覚としては規格外の刺激的すぎるエンタメ小説という感じ。
とにかくエンターテインメントに特化した作品で、ずっとごちそうを食べているかのような贅沢な作品になっています。

 

私は文庫で読んだのですが、今作は文庫化にあたり結構な書き直しがあるようです。特に第六章には大幅な変化があるのだとか。なので、今から読むなら文庫がオススメですね。単行本で読んだ人も文庫とどう違いがあるか確かめてみると良いんじゃないかと思います。

 

ダイナー (ポプラ文庫)

ダイナー (ポプラ文庫)

 

 

 

 

 

映画
7月5日公開の映画は監督が蜷川実花さん。蜷川実花さんが監督をするからには極彩色で毒々しい映像美が期待できますね。既にして、公式サイトにも流石に美しい写真が並んでいます。ストーリーはもちろん映像でも胸焼けするほど脳を刺激してくれそうですな(^o^)。

 

キャストは以下の通り
ボンベロ藤原竜也
オオバカナコ玉城ティナ
スキン窪田正孝
キッド本郷奏多
ブロ武田真治
カウボーイ斎藤工
ディーディー佐藤江梨子
ブタ男金子ノブアキ
マテバ小栗旬
マリア土屋アンナ
無礼図(ブレイズ)真矢ミキ
コフィ奥田瑛二


主演が藤原竜也さんとなっており、蜷川さんは男性の主役で映画を撮るのはコレが初なんだとか(言われてみれば、ずっと女性が主役の映画ですね)。原作は全編カナコ視点で描かれているのでカナコが主役という印象の方が強いんですけどね。

 

キャストですが、登場人物の名前や特徴や素性も色々変更されています。原作に登場するのはボンベロカナコを中心として、ディーディー、カウボーイ、スキン、キッド、無礼図(ブレイズ)、コフィ、マテバですが、マテバは作中では既に死亡している人物として語られていているのみですし、無礼図(ブレイズ)はキャストが真矢ミキさんになっていますが、原作では男性です。

 

原作通りの設定っぽいのは冒頭の闇サイトのバイトの雇い主であるディーディーカウボーイ、殺し屋のスキンキッド、ボンベロの現在の雇い主のコフィかなぁと。

 

他の、ブロー、ブタ男、マリアは映画オリジナルキャラクターですね。

 

女性の殺し屋でボンベロの元弟子の「炎媚」とボンベロの顔見知りで恩人の殺し屋「オヅ」が映画には不在のようです。原作ではボンベロの人となりを表す上でかなり重要で外せない人物なんですけどねぇ。

 

予告映像を観た感じでも原作からはだいぶ変更されたストーリーになっているようですので、原作小説とは別物で楽しむ映画となりそうですね。

 

個人的に、一番驚きなのがカウボーイを斎藤工さんが演じることですね。カウボーイって、冒頭でバカみたいなセリフばっかり連発してすぐに(ホントにすぐに)拷問にあって死んじゃうキャラクターなんですが・・・・映画もそのまますぐ退場なんだろうか・・・(^^;)

 

※観ました!詳しくはこちら↓

 

www.yofukasikanndann.pink

 

 


漫画
『ダイナー』は漫画化もされています。

 

DINER ダイナー 1 (ヤングジャンプコミックスDIGITAL)

DINER ダイナー 1 (ヤングジャンプコミックスDIGITAL)

 

 

漫画版は河合孝典さんの作画によるもの。週刊ヤングジャンプで2017年36・37合併号にて連載開始、2019年2号まで連載されていましたが、その後WEBコミックサイトとなりのヤングジャンプに移籍して今も連載中。2019年6月現在でコミックスが6巻まで刊行されており、2019年7月4日に新刊の7巻が発売されます。


映画の公開が7月5日なので、それに合わせての刊行なんですかね。

 

平山さんの『ダイナー』が原作ではありますが、漫画版の方では小説だと死んでしまった人物が生きていたり、小説以上に色々な特性を持った殺し屋が出て来たりなど独自の展開をしているようです。
映画もそうですが、小説の「殺し屋専用の定食屋」という設定が奇抜で面白いので色々話を膨らませやすいのかもしれないですね。

 

 

 

 

 

 

以下ネタバレ~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


オオバカナコ
この小説は終始、本作のヒロインであるカナコの一人称で描かれています。

“オオバカナコ”とカタカナ表記のみなんですが、この名前、そのまんま「大莫迦な子」と読めて、カナコ自身も幼少の時からこの名前を散々にからかわれてきて嫌っており、名前を変えたい一心で過去に安易に結婚したことも。


この小説の冒頭、カナコはリゾートホテル旅行に憧れて三十万欲しさに携帯闇サイトのバイトに手を出します。これだけでもう名前の通り「安易で愚かな女性だな」ですよね。旅行費の為に明らかに犯罪性のあるバイトに手を出すなんて。
案の定というかなんというか、結果的に「キャンティーン」という地獄に落ちてくる訳ですが、地獄に落ちてもなお、カナコは莫迦な行動をとり続けます。ボンベロに掃除が終わった後の便器を舐めろと言われ、従わなければ殺される状況下でそれを拒否。一億円以上する最高級の酒「歌姫(ディーバ)」(※ディーバ・ウォッカと言って実在するお酒です)を人質に取ってボンベロに軽はずみに殺されることを回避しようとします。

 

カナコは至って平凡な女性です。恐ろしい場面では普通に怖がり、身体だって震えます。怖い怖いと心中恐れているのに、裏腹に大胆で怖い物知らずな行動をする。
ようするに莫迦なんですね。


開き直ったのかなんなのか、雇い主で恐怖の対象であるはずのボンベロに敬語は使わずにタメ口で会話していますし、店に訪れる殺し屋に対しても当たり前のように口答えしたりします。
このように、ただ怖がって「きゃーきゃー」言うだけではなく、莫迦で妙な具合に逞しいカナコというヒロインはこの作品の魅力の一つになっています。

「厄介ごとは嫌いだ。おまえはややこしい」

と言っていたボンベロも、“大莫迦な子”・カナコに今までのウェイトレスに対してとは違う感情を持っていきます。

 

 

 


ボンベロ
元殺し屋の天才シェフ・ボンベロは序盤では威圧的で得体の知れぬ人間味のない人物といった印象ですが、相棒のブルドック・菊千代が登場するあたりから人間味が垣間見え始め、炎媚やオヅの登場で優しさや切なさが滲み出てきて物語り後半はすっかり魅力的な人物に感じられてきます。


カナコに対しても最初は「歌姫(ディーバ)」を人質に取られたとあって、隙あらば殺してでも酒のありかを突き止めようと狙ってくる、店の客同様にカナコの命を獲るかもしれない怖い人物ですが、カナコが菊千代の命を救ったことで「生かしておく」と決めてからは店の客や組織から全力で守ってくれるようになります。美味しいものも食べさせてくれるし。
カナコも怖がっていたはずが〈どこか別の場所でボンベロとレストランができたら良いのに・・・・・・〉と頭に浮かぶまでになります。※思った瞬間にショックをうけていましたけど。

 

「客に殺されるのは仕方がない」と言いながらもかなり骨を折って、自らも怪我を負ってまで助けてくれますが、終盤、「キャンティーン」の現オーナー・コフィの組織への裏切りにより店は閉鎖、ボンベロは今までの組織への忠誠を評価されて殺されずに追放処分となりますが、カナコは組織の手によって殺処分されることに。

「俺にはもう何もできん。何もなくなってしまった」

と、もはやここまでか・・・とカナコはボンベロに別れと感謝の言葉を最後に「キャンティーン」から去ろうとしますが・・・カナコの「ありがとう」にブチ切れたボンベロはカナコを引きずり込んで店に籠城。組織と真っ向対決することとなります。

 

ボンベロは「キャンティーン」の発案者で前オーナーのデルモニコと殺し屋仲間だったオズに命を救われた過去がありました。

 

「戻ってくるなんて思いもよらなかった。あの瞬間、最も狂っていたのはオズだった。百人が百人、俺を見捨てる状況だった。もちろん俺だってそうしただろう。ところが奴は帰ってきた。もちろん、奴だけの意思でなかったことがあとでわかったが・・・・・・」
「誰かに言われたのね」
「違う。おまえの言っている意味が命令や指図といったものであるとするならば、答えはノーだ。奴はデルモニコに電話を掛け〈感じた〉のだと説明したよ」
「感じた?」
「ああ。そうすべきだと・・・・・・デルモニコから、自分もそうすべきだと〈感じた〉のだと、奴はよく言っていた」

 

カナコにしても誰がどう見ても見捨てるしかない状況で、助けようとするのは気が狂っているとしか思えません。カナコの「ありがとう」を聞いた瞬間、ボンベロもオズと同じようにそうするべきだと〈感じ〉、ただ「生かしておきたい」という想いのままに組織に背いて店を舞台に銃撃戦を繰り広げることに。

ボンベロがこの選択をする瞬間というのがもう最高です。読んでいてテンションが爆上げに(^o^)

 

料理
殺し屋専用のダイナー「キャンティーン」はデルモニコのアイディアによるもの。自殺したり自滅してしまう殺し屋たちをなるべく生かしておこうというのが目的で、自分と同じ職業、境遇の者と触れ合い、絶品の料理でつかの間の休息を与えようというもの。


ただ食事することが自滅防止になるのかといった感じですが、たかが料理、されど料理。ボンベロのスフレを喰うことが生きがいだったスキンがそうだったように、「また喰いたい」と思うことで生き延びる気にさせることが出来る。料理にはそういう力があるんですね。

 

カナコとボンベロの間に具体的にあるのは「料理」のみ。
終盤、店に籠城し銃弾が飛び交う中でボンベロはカナコに「料理をしろ」と命じます。
それでカナコ、本当に作り始めるんですよね。こんな状況で料理を作るという、あまりにも斬新な場面が展開される訳ですが、このシュールさとどんな状況下でも料理ですべてを伝えるというのがこの作品ならではで“かくあるべし”だと感じさせられます。


カナコが作った料理の名は「Bombero’s Back(ボンベロの背中)」。ボンベロは「悪くない」と頷いて「が・・・・・・次はもっと旨く焼け」と言います。そして最後の最後、排気口にカナコを押し込み、口座と暗証番号を渡して「店でも開け。必ず喰いに行く」「面白かったぜ!オオバカナコ」と告げて菊千代と共に安否不明に。

 

エピローグではカナコは「Chimp piss(チンパンジーの小便)」というボンベロがきっと気づくはずの名前の店を開いています。
キャンティーン」の焼け跡からボンベロと菊千代らしき遺体が見付かっていないことから生存を確信、ボンベロの「必ず喰いに行く」という言葉を信じて、ブルドッグを連れた男が店に訪れるのを待ち続けているところで物語りは終了します。
つくづく料理ばかりが介在している二人ですね。

 

 

 

 

続編
現在、今作の続編として『ダイナーⅡ』ポプラ社のウェブサイト「WEB asta」にて連載中です。今作『ダイナー』は2009年刊行の作品。十年経ってのまさかの続編ですね。


『ダイナーⅡ』は2018年5月から連載されていて、映画公開に合わせて書籍刊行されるんじゃないかなぁと思うのですが、著者の平山さんは刊行の際に書き直しすることが多いみたいですので、すぐには出ないかもしれないですね。ウェブで読めるのですが、私は書籍化まで楽しみにとっておこうと思います。やっぱり紙で読むのが好き・・・(^^;)

続編、非常に嬉しいです。あの後どうなったのか気になるところ。ボンベロと菊千代がカナコの店に現われる姿を望むばかりなんですが・・・果たしてどうなっているのでしょう?とにかく、発売されたら絶対読みます!

 

 


ではではまた~

 

ダイナー (ポプラ文庫)

ダイナー (ポプラ文庫)

 

 

 

ダイナー (ポプラ文庫)

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DINER ダイナー 1 (ヤングジャンプコミックスDIGITAL)

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