夜ふかし閑談

夜更けの無駄話。おもにミステリー中心に小説、漫画、ドラマ、映画などの紹介・感想をお届けします

御子柴礼司シリーズ 4作品まとめて紹介!あらすじ・順番・他作品との繋がりなど~

こんばんは、紫栞です。
 今回は中山七里さんの【御子柴礼司シリーズ】(みこしばれいじシリーズ)4作品をまとめてご紹介。

贖罪の奏鳴曲 御子柴礼司 (講談社文庫)

 

御子柴礼司シリーズとは
すこぶる優秀だが、被告に多額の報酬を要求する悪辣弁護士・御子柴礼司を主人公としたリーガル・サスペンスのシリーズ。
法廷での弁舌で愉しませてくれるのは勿論ですが、推理小説的な仕掛けもあり、終盤にはいつも驚きの真相が用意されているのが特徴。

このシリーズの最も大きな特徴は、主人公の御子柴礼司(旧姓・園部信一郎)が14歳の時に女児殺害事件の犯人で〈死体配達人〉と呼ばれて世間を騒がせ、少年院に入ったことがあるという異例の過去を持っている点。
少年院での経験や出来事を経て自らの罪に向き合う人生を歩むことを決意。名前を変えて弁護士となり、独自の贖罪の道を歩んでいる次第。
※御子柴の犯した罪や少年院での出来事の詳細についてはこちら↓

 

www.yofukasikanndann.pink

 

“人殺しの経歴を持つ悪辣弁護士”という肩書きから、概要を読んで心根の腐った悪人を描くシリーズなのかと勘違いするかもですが、シリーズのテーマはあくまで「贖罪」。なので、御子柴の人間的な葛藤がいずれの作品でも主軸として描かれています。

 

 

 

 

 


順番と各作品の特徴
【御子柴礼司シリーズ】は表紙などにシリーズの番号などは書かれていないので、うっかりすると順番を間違えてしまうってな事態になってしまうこともあるかも知れません。一応それぞれ独立したお話になっているので、どこから読んでも愉しめる作りになってはいますが、個人的にはこのシリーズは順番通りに読むのが大事だと思います。作品ごとに状況も御子柴の心情も変化していくので。成長(?)を見守るというか。あと単純に、次作に前作の事の成り行きが書いてあったりするのでネタバレをくらってしまうというのもある(^^;)。

 

 

そんな訳で、順番にご紹介~

 

 


●『贖罪の奏鳴曲』(しょくざいのソナタ)

 

 

初っ端から御子柴が死体を捨てているところが描かれるという衝撃的なシーンから始まる今作。
保険金殺人事件を巡る法廷劇と、死体遺棄事件を調べる刑事の捜査と、並行してお話が進んでいきます。途中の第三章では御子柴の少年院時代のことが章を丸々使って描かれています。
今作で登場する刑事は中山七里作品ではお馴染み、埼玉県警捜査一課の古手川・渡瀬コンビ。比較的出番が多く、重要な役割もしていますので、このコンビを目当てに読んでもファンは楽しめると思います。※作品どうしの密接な繋がりや事件全体の詳細などは、やはりこちらの記事を御参照下さい↓

 

www.yofukasikanndann.pink

 

ラストは中山七里作品らしいどんでん返しが炸裂していますが、人工呼吸器をウンヌンの前に起こった事故を警察関係者が誰も気に留めなかったのには読んでいて違和感がありましたね。
シリーズが続いている事実から一目瞭然なのでもう書いちゃいますが、今作の最後で御子柴は刺されて生死を彷徨います。

 

 


●『追憶の夜想曲』(ついおくのノクターン)

 

 

死の淵から生還したものの、前作で死体遺棄をしていた御子柴。「弁護士はどうなる!?」って感じなんですが、これが弁護士会の大物の働きかけによって事なきを得ており、問題なく弁護士を続けています。「そんなことで良いのか」と言いたくなるけども・・・まぁ流して読みましょう(^^;)。


病院を退院してすぐに、御子柴は主婦の夫殺しの弁護を他の弁護士から奪い取って事件に取り組みます。主婦の夫殺しの真相もさることながら、御子柴が何故、金にならないこの事件の弁護に執着するのかが謎。どちらも最後には驚きの真相が明かされるので必見です。

中山七里さんの別シリーズ【岬洋介シリーズ】の岬洋介の父親・岬恭平が法廷で対決する検事として登場しています。現在没交渉である息子の話もチョロッと作中でしていますね。

夫殺しの真相は、なんとも悲惨で気持ち悪い(本当に気持ち悪い)真相なんですが、被告人の幼い娘・次女の倫子の存在が作品全体に癒やしをもたらしています。御子柴と倫子のやり取りがどこか微笑ましくて良いですね。(「この人、昔五歳の女児殺したんだよなぁ・・・」という事実が読んでいると頭をよぎりますが・・・)

 

 

 

●『恩讐の鎮魂歌』(おんしゅうのレクイエム)

 

 

前作で〈死体配達人〉だった過去が明るみになってしまった御子柴。依頼人が激減し、虎ノ門にあった事務所も移転。嫌がらせを受けたり非難されたりの日々の最中、今度は御子柴の少年院時代の教官だった稲見が、老人ホームで介護士を殺害した容疑で逮捕される事件が発生。恩師のため、御子柴は前作以上に強引な方法で他の弁護士から弁護をもぎ取ります。

第一作『贖罪の奏鳴曲』での御子柴の回想内で大きな存在感を放っていた稲見教官。「え?あの稲見教官が?」と、一作目を読んだ読者なら誰でも興味をそそられるあらすじですね。
稲見教官は御子柴に「贖罪」を教えた大恩人。今の御子柴があるのは稲見さんのおかげで、御子柴としては何としても自分が弁護して救わなくてはと意気込む訳です。いつもは冷静沈着な御子柴ですが、恩師の弁護とあって気負うあまりにいつもの冷静さを欠いてしまう部分もあったりと、だいぶ人間的な(?)御子柴が見られます。
勝訴のため必死になる御子柴と、潔く罪を受け入れたい稲見さんとの行き違いがやるせない。

今作は御子柴にとっては苦々しい結末となっています。突飛な弁論は面白いし、納得の出来るものなんですが、でもこの結末はしょうがないかなぁと思います。だって稲見さん頑固なんだもの。“隠された悪意”についても、この程度なら唯のお遊びの領域で、とっちめるような事でもないって思いますし。


シリーズ的には御子柴の成長譚として大きな転換期になっている作品だと感じます。
埼玉の事件ということで、渡瀬がほんの少し登場しています。

 

 


●『悪徳の輪舞曲』(あくとくのロンド)

 

御子柴としては思い通りの結末にならなかったものの、前作での法廷での弁論で注目され、少しずつ仕事量が増えてきた御子柴法律事務所。ある日、御子柴の妹・が30年ぶりに御子柴の前に現われ、弁護を依頼する。それは、旦那殺しの容疑で逮捕された母・郁美の弁護だった。

御子柴の家族は、十四歳で御子柴が逮捕されて1年後に父親が自殺。母と妹は夜逃げ同然に逃げ出し、行方知れずとなっていました。今作の旦那殺しの“旦那”は、母・郁美の再婚相手ですね。


前三作でも「家族のことはどうとも思っていない」と言い続けていた御子柴。早々に自殺してしまった父、一回しか面会に来なかった母に対し、思う事はなにもない。犯行前だって“家族”を実感することはなかったと妹の梓に対し、他人のように冷淡に振る舞う御子柴ですが、兄に恨みつらみを抱いている妹に罵倒されての売り言葉に買い言葉、さらに稲見元教官に諭されてで依頼を受けることに。(前作の出来事から稲見さんに定期的に会うようになっているようでなにより。このまま二度と会わないって感じかとか思ってたんで・・・)

それにしても、妹の梓や母親の郁美に投げつける御子柴の主張はあまりにも身勝手が過ぎると思いますね。

御子柴の育った家・家族は特に責められるようなことはしていないんですよ。暴力を振るっていた訳でも、育児放棄されていた訳でもなくって、普通なんですよね。犯行前の御子柴に危険行動があったなんてこともないし、これで「怪物を怪物のまま育てた家庭が悪い」「どんな目にあっても家族なんだから自業自得」と世間に言われ続けるのはあまりに理不尽。こんなことになったのはすべて御子柴のせいなのに、「その苦しみに自分は関係ない」なんて・・・え?どの口が言ってる?ってなものです。

今まで母親のことは避けるように語ってこなかったこのシリーズですが、今作を読むと、御子柴が意外と母親が面会に一度しか来なかったことや、少年院退院後もほっとかれていたことを根に持っていたのがヒシヒシと伝わってくる。あんなに家族を無視していたのはある種の強がりなんだなぁ~と。
御子柴のこの家族に対しての強がりの傲慢さは、終盤に明かされる事実によって完膚なきまでに打ちのめされる結果に。


稲見さんの事件に続き、またも御子柴の想いを揺るがす事件ですね。
個人的に、散々な目に遭ってきたものの、梓と郁美は親子として今も良好な関係を築いているのに安心しました。今作で知らされた事実は御子柴にとって絶対に悪いものではないと思うので、今後の変化にまた期待です。

 


以上、2019年現在で4作品の刊行。

 

※2020年11月にシリーズ五作目『復讐の協奏曲』が刊行されました!五作目ではなんと、洋子さんが殺人容疑で逮捕されちまうらしい!なんだって!?詳しくはこちら↓

 

www.yofukasikanndann.pink

 

※2023年3月に6作目が出ました。詳しくはこちら↓

 

www.yofukasikanndann.pink

 

 

 

 

 

 

 


どんどん読みましょう
実は私、当初は『連続殺人鬼カエル男』との繋がり、

 

www.yofukasikanndann.pink

 

『連続殺人鬼カエル男ふたたび』で登場した御子柴

 

www.yofukasikanndann.pink

 

の詳細が知りたくって第一作の『贖罪の奏鳴曲』を読んだ次第で、シリーズ全部を読むつもりはなかったのですが、困ったことに面白く、読めば読むほど先が気になって全部読んでしまった(^_^;)。

どの作品も一気読みでしたね。非常に読みやすいんですよ。スピード感があるといいますか。その分、どの作品もラストはもうちょっとページ使って余韻を存分に書いて欲しいなぁ~なんて思いもしますが。衝撃の事実を知らされてすぐに幕なので、次作はどうなるのかが気になっちゃうんですよね。ここら辺も作者の計算なんでしょうか・・・。

 

【御子柴シリーズ】は元々、『贖罪の奏鳴曲』の一作で終了の単発ものの予定だったそうです。続きを読みたいという要望が多くってシリーズ化されることになったのだそうで、一作目で御子柴の生死を不明なままにしといて良かったと作者談。(ホントはハッキリと死なせちゃうつもりだったらしい)
シリーズ化を想定しないで書かれたとは思えないほどに見事に繋がっていて感服ですね。殺さないでいてくれてホントに良かった(^^;)。

 

シリーズを通して描かれているのは、やはり30年前の女児殺害に対しての「贖罪」だと思います。被害者遺族、少年院での恩師、自身の家族と、次々と直接的な試練ととれる事件に見舞われている御子柴。今後はどんな事件に直面していくのか、どう御子柴が変化していくのかが気になるところ。

 

どんな状況になっても御子柴の事務所を辞めない事務員の日下部洋子と、二作目の『恩讐の夜想曲』に登場以来、作品の最後にいつも登場してくれる倫子なども今後どのような働きをするのか気になるところ。どちらもこのシリーズの中ではオアシス的存在なので今後ももれなく登場して欲しいのですが・・・。

 

上記の4作品、すべて2019年12月開始の連続ドラマ『悪魔の弁護士・御子柴礼司~贖罪の奏鳴曲~』で映像化で、キャストは御子柴が要潤さん、洋子がベッキーさんとのこと。個人的に洋子のキャストが意外。ドラマではどんな風になっているのかにも注目ですね。

 

ドラマと次作、楽しみに待ちたいと思います!

 


ではではまた~

 

 

 

www.yofukasikanndann.pink

 

『陰摩羅鬼の瑕』(おんもらきのきず) ネタバレ・解説

こんばんは、紫栞です。
今回は京極夏彦さんの陰摩羅鬼の瑕』(おんもらきのきず)をご紹介。

文庫版 陰摩羅鬼の瑕 (講談社文庫)

 

あらすじ
「おお!そこに人殺しが居る!」
関係者一同が集う場面に突如躍り出た探偵・榎木津礼二郎は、事件が起こる前に威勢良く犯人を指摘した――。

昭和二八年七月。旅先で熱を出し、一時的に視力を失った榎木津に付き添って長野の白樺湖畔に聳える洋館・元華族の由良邸に赴いた小説家・関口巽
鳥の剥製にまみれ「鳥の城」と呼ばれるこの館では、当主・由良昂允と婚約者・奥貫薫子の結婚式が行われようとしていた。これは昂允にとって五度目の婚儀であり、彼は初婚以来四度、婚姻直後に花嫁の命が奪われる悲劇に見舞われていた。
二十三年前に。
十九年前に。
十五年前に。
八年前に。
いずれも婚儀の翌朝、夫婦の寝室で花嫁は死体となって発見されたという。
さらなる悲劇を防ぐため、昂允は探偵の榎木津に警護を依頼。昂允はかねてから関口の小説の熱心な読者であり、榎木津と共に関口も歓迎した。関口は昂允やその婚約者の薫子と接する中で五度目の悲劇はなんとしても防がねばと奮闘するが・・・。

一方、過去三度にわたり由良邸の花嫁殺人事件を担当した元刑事・伊庭銀四郎は、刑事・木場修太郎から由良邸での五度目の婚儀の話を訊き、思いつきから退職直前に担当した事件で知り合った古書肆・中禅寺秋彦の元を訪れる。「鳥の城」にまつわる記憶に長年悩まされていたことを自覚した伊庭は、中禅寺に由良邸の呪いの“憑物落とし”を依頼。共に長野へと旅立つ。

五度目の悲劇を防ぐことは出来るのか?そして、嫁いだ花嫁の命が次々と奪われる、“その”訳とは?

「貴方にとって生きて居ることと云うのはどのような意味を持つのです――」

 

 

 

 

 

 

 


シンプルな作品
陰摩羅鬼の瑕』(おんもらきのきず)は百鬼夜行シリーズ】(京極堂シリーズ)の八作目。

 

www.yofukasikanndann.pink

 

前作『塗仏の宴 宴の始末』がシリーズ第一期締めの大作って感じで、

 

www.yofukasikanndann.pink

 

この大作終了後はシリーズの派生作品が次々と刊行されるなどしていたので、その間は本筋のこのシリーズは少しのお休みをしていました。

前作から五年ぶりの久し振りの長編として書かれたのが今作ですね。(『鵺の碑』がいまだに刊行されない今日を思うと、“五年ぶり”なんてかわいいもんですけどね・・・ホント)
このシリーズは冊を増す毎に事件が多重構造の複雑なものになっていっているという印象で『塗仏の宴』はその最たるモノだったのですが、第二期に突入(と、いうことで良いのかよく分かりませんが)の一発目は果たしてどんな作品を持ってくるんだ!?というと、これが今までにないくらいシンプル。シリーズ史上一番シンプルで判りやすい、言ってしまえば最も単純なお話となっています。

 

今作はシリーズ第一作姑獲鳥の夏での事件から一年が経過、舞台はふたたびの夏で、“館もの”。追うのは一つの事件。主な語り手は関口。鳥の妖怪。・・・と、いった具合に、読んでいるとシリーズ第一作の『姑獲鳥の夏』がおのずと連想されるようなお話。
進むに連れて主要メンバーが増えていっていた【百鬼夜行シリーズ】ですが、今作で登場する主要メンバーは中禅寺、榎木津、関口、木場という第一作から登場しているお馴染みの四人のみで、この点もまた第一作に立ち返っているような、原点回帰している印象を受けます。

 

www.yofukasikanndann.pink

 

関口の語りが大半を占めるのも久し振りで懐かしいと感じるところですね。

 

 

 

 


躁鬱コンビ(榎木津&関口)
シリーズファンとしては裏表紙に書いてある「あらすじ」だけでえらく引き込まれるところであろうと思います。私はそうでした。


目の見えない榎木津!それに付き添う関口!盲目の躁病者に病み上がりの鬱病患者!この躁鬱コンビ、混乱必至!なんて厄介そうな(そして愉快そうな)、取り合わせなんだ!読まずにはいられないわっ!!

 

と、なる訳ですよ。


薔薇十字探偵社』の益田は別件の調査中で向かうことが出来ず、例によって例のごとく、最初は中禅寺など方々に頼んだものの先約があると断られ、関口におはちが回ってきたという顛末。なんだか鉄鼠の檻

 

www.yofukasikanndann.pink

 

での鳥口と同じ思想だなぁと思うのですが。(榎木津を完全に扱えるのは中禅寺なんだけど、ダメなら関口を差し向けて、“いじめ抜かれててもらう”ことで周りへの被害を最小にしようみたいな)下僕は思想が似るもんなんですかね。
後々事態を確認した中禅寺も、あの取り合わせじゃ「混乱することは必定である」と云っています。

関口は前作『塗仏の宴』にて、冤罪で牢屋に入れられて刑事に罵倒されるという酷い目にあってからまだ間もないということで、鬱、大爆発。「そうだった、関口ってこうだった」と、久方ぶりの鬱々語り(鬱病が悪化しているぶん、パワーアップしている)に果てしない既視感であります(^^;)。


普段は鬱病だからといって特別気を遣わないんだけど、病み上がりということで中禅寺も榎木津も関口のことを気遣っているのが今作では見受けられます。
榎木津は珍しく「どうも危険だから先に帰るか関口」とちゃんと名前で呼んでいる場面がありますし(マジなところでは綽名呼びしない榎さん)、中禅寺が由良邸に赴いてきたのも由良邸の事件に感化されているであろう関口の精神状態をおもんばかってという部分があります。

 

熱を出して一時的に視力を失っている榎木津ですが(榎木津って悪寒も逃げそうな性格してるのに結構風邪引くよね・・・)、常態の詳細としては通常の視力は失っているものの、もう一方の視力、“異能の視力”は失っていません。
榎木津の異能については中禅寺の仮説によれば「他人の記憶が視える」というもの。頭の上にスライドで映したみたいに映像が視えるということなのですが、今回はこの各人の記憶映像のみが視える常態ですね。

 

それは重なった過去が現在として視えると云うことになるのだろうか。しかも――その過去を所有しているのが果たして誰なのか、榎木津には判らないと云うことになる。
目撃した主体となる人物には、自分自身の姿に関する視覚的記憶はないのである。誰であれ自分の姿だけは視ることは出来ないからだ。
榎木津には――。
殺された花嫁達の姿だけが視えたのか。

 

殺害場面の記憶が視えるものの、誰がその記憶の持ち主か判らないので「おお、そこに人殺しが居る!」と宣言されても犯人特定に至らないという訳です。逆に云えば、今作は榎木津が通常の視力を失っていなければ瞬時に終わっていたお話だということですね。

目が見えなくって榎木津はどうかというと、これがまったく変わらない。いつも通りの“神たる振る舞い”で、困惑も悲壮感も皆無。メイドと仲良くなって世話を焼かせたりなどしている始末で、いつもながら関口や周囲の人々を唖然とさせています。
しかしまぁ、関口に手を引かれながら走る榎木津という、今作でしかお目にかかれない場面があったりするので必見です。
事件経過に怒って「面白くねぇ」と汚い言葉を云う榎さんもレアなので是非。

 

 

 

 

 

 


他作品との繋がり
今作では別口のアンソロジー集に書かれた作品が二つ組み込まれています。
『死の本』

 

 

に収録されている「獨弔」(どくちょう)。
こちらは関口巽が書いた短編小説”として書かれたもの。女の死体を相手に男が喋っているというもので、なるほど関口らしい奇っ怪な幻想小説となっています。
今作では伯爵(由良昂允)が関口の小説のファンで、この短編小説について質問する場面があります。この「獨弔」なんですが、凄く良いです。作中で伯爵も特に気に入って何度も読んでいると云っているのですが、私自身も伯爵と同じく何度も読み返しています。「分かる。この短編良いよね伯爵」と、勝手に読みながら胸中で投げかけていました(^_^;)。個人的にはこの「獨弔」が収録されているだけで今作を買う価値があると思うほどです。

 

もう一つは金田一耕助に捧ぐ九つの狂想曲』

 

 

に掲載された「無題」
なんと、関口が“あの”、横溝正史と対面して会話をするといった内容。

初読の時はアンソロジー集に先行掲載されていたことを知らなかったので、いきなり横溝正史が登場したのにビックリしました。鬱病爆発中の関口も著名人との対面にさすがに興奮しております。最初は唐突なように感じますが、読み進めていくとこの関口と横溝先生との会話が作中で様々に作用していることに気が付く仕組み。
今作『陰摩羅鬼の瑕』は“婚儀の未明に花嫁が殺害される”という事件。この事件内容はミステリ好きなら金田一耕助シリーズの第一作『本陣殺人事件』

 

 

をまず連想すると思うのですが、まさにその作者自体が登場するというのが何とも意表を突いていて面白い。

 


他、作品の繋がりとしては、今作で語り手の一人として登場する元刑事の伊庭銀四郎は多々良センセイが主役のスピンオフ『今昔続百鬼-雲』に収録されている「古庫裏婆」に出て来る刑事さんです。

 

www.yofukasikanndann.pink

 

 

即身仏絡みの事件で、伊庭さんは定年前最後の事件として捜査にあたっています。このお話には中禅寺も登場して(良いところをかっさらって)いるので、伊庭さんは中禅寺とこの事件の際に知り合ったという訳です。時系列でいうと、「古倉裏婆」の事件は今作から二年ほど前の出来事ですね。
あと、今作でチラッと出て来る刑事の大鷹篤志は、次作の邪魅の雫でも登場しています。

由良邸ですが、『絡新婦の理』

 

www.yofukasikanndann.pink

 

の織作邸と同じベルナールという建築家によるものという設定です。


そして、別シリーズである後巷説百物語に収録されている

 

www.yofukasikanndann.pink

 

 

「五位の光」「風の神」には華族である由良家が登場しています。実は「五位の光」の方は『狂骨の夢』とも繋がりがあるので、読むとよりシリーズの深みを味わうことが出来ます。

 

www.yofukasikanndann.pink

 

 

 

 

 

 

以下ネタバレ~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


犯人・真相
超絶ミステリなだけに、いつもは真相の説明を要約して云おうにも簡単にまとめることは難しい、複雑な真相だらけの【百鬼夜行シリーズ】ですが、上記したように、この『陰摩羅鬼の疵』は真相の説明はこれ以上ないくらい簡単に済ますことが出来ます。

 

「死体」という概念がない伯爵(由良昂允)が、婚姻とは妻を「剥製」のような常態にして家に入れることなのだと思いこんで婚儀の度に殺害していた。

 

簡単と云いつつ、これだけだと分からないでしょうが(^^;)。
そもそも、この連続花嫁殺人事件は夫である伯爵以外に犯行が可能な人間がいないことは状況が物語っています。新婚初夜の寝室で、一晩ずっと隣に居た花嫁が朝になったら殺害されているんですからね。伯爵が犯人に決まっているんですよ。


じゃあ何で今まで四回とも逮捕されずにすんでいたのかというと、伯爵の態度が犯人としては絶対的にあり得ないようなものだったから。嘆き悲しむ姿に嘘はなさそうだし、自分が疑われるのが確実な状況下での殺害は犯人心理としておかしいし、そもそも娶ったばかりの妻を殺害する動機がない。

作中には伯爵の語り部分もあり、捉えようによっては、今作は叙述トリックもの」と受け取ることも出来るのですが、読んでいると「伯爵が犯人なんだ」というのは読者には丸わかりなんですよね。だから読者を驚かすトリックという訳ではないのですよ。序章の部分からして伯爵が“思い違い”をしていることが示されているので、最初っから犯人をばらしているような書き方ですね。

「は、伯爵は――死の概念が――多分、一般とは異なって居られるのです」

と、伯爵との会話の中で関口が気付いたように、伯爵が「死」をどのように一般とは異なる形で考えているのか、そして、どのようなことがあれば“そのような思い違い”が発生するのかを突き止めるのが、ミステリとして今作が意図するところだと思います。

起こっていることは分かるのに、どうして“そうなるのか”が解らないというのは、同じく叙述要素がある狂骨の夢に通じるものがありますね。

 

www.yofukasikanndann.pink

 

 

 


死とは
伯爵の“死の概念”が具体的にどのように一般と異なって居るのかというと、「物体として存在しているものは生きている」というもの。

 

伯爵にとっては、
生きていることは存在することなのだ。
そして存在しなくなることが死ぬことなのだ。
伯爵にとっての殺人とはつまり、人間をこの世界から消滅させてしまうことであり、そうでなければ人間の形を失わせてしまうことなのである。人間の形をして此の世に存在している以上、伯爵にとってその人は生きて居るのだ。
生命のあるなしは――。
関係ないのである。存在するモノは総て生きて居るのだ。

 

なので、伯爵には「死体」という概念がない。
なんでまた伯爵はそのような概念を持ったのか。それは伯爵が生まれてから殆ど「由良邸」から出ない、外界からは閉ざされた世界で生活していたこと、そして、幼少の頃、伯爵は“母親の剥製”と共に過ごしていたという特殊環境に置かれていたためです。


父親である由良行房は、学者として失脚してしまったことで精神的に追い込まれ、病死した妻の死体を、館に住み込ませていた剥製職人に命じて“妻の剥製”を造らせた。伯爵は“その剥製の母”と二歳から五歳までの三年間共に過ごしていた。


世間一般にはどう考えても狂った生活なのですが、その生活が“日常”だった伯爵はそれが“普通”だと考え、嫁入り・妻になることとは、動かぬ、喋らぬ常態になること、外界では「死体」と云われるものになることだと認識してしまうのです。
由良邸は至る処鳥の剥製だらけの館。伯爵は死体に囲まれてずっと生きてきた訳で。個人的に剥製が苦手なので、読んで想像するだけでゾッとしていましたけど(^^;)。

 

それにしても、伯爵は五十代。今までの人生で気が付く場面はあったろうと思ってしまうところですが、作中でも述べられているように「死ぬとはどう云うことですか」と尋ねられても確実なことは語れない。「生命活動が停止すること」と云いたいところですが、じゃあ「生命とは何か」と問われても誰も答えられない。知らないから。
結局、「死とは死だ」としか云いようがない。語りようがない、あやふやなモノなんだけれども、生き物には絶対的なモノが「死」。語ることで解らせようというのは実は無理難題なんですね。世間に触れていく中で解っていくしかない。だからこそ伯爵の世界と外界はいつまでもズレてそのままになってしまった。

 

 

 

 


作中で「そんな馬鹿なことがあるのかと思いましてね」と中禅寺も云っているように、今作の事件は判ってしまえば簡単なことで、起きていたことはメチャクチャ単純。しかし、あまりにもあんまりな、哀しい事件です。
どの花嫁に対しても誠実な愛情を抱いていた伯爵。しかし、悪意も殺している認識もまったくなくないままに殺害を繰り返してしまった。

 

あまりにも悲しいじゃないか。
悪意など、何処にもなくって。
悪人など一人も居なくても。
それでもこんな悲しいことは起きるのだ。

 

すべてを知らされた伯爵の心中を思うと、本当にあんまりな事実ですよね。五十年生きてきて今更知らされて、すでに取り返しのつかないことになっていて・・・。到底受け入れられることじゃないでしょうし、普通なら気が狂っているところでしょう。だから今回の憑物落としはこれまでになく残酷で厳しいもの。

 

「傷は――致命傷でない限り、手当てをすれば治るだろう。そして傷の手当ては人にも出来るさ。でも手当てをしたって、それで傷が治る訳じゃない。本当に傷を治すのは傷を受けた当人だ。当人の肉体だ。傷は自分で塞がるものなんだ。手当てと云うのは傷を治す手助けに過ぎないし、時に傷を受けた時よりも痛いものだよ。治るか治らないか、それは当人次第だ。そこは他人が手出し出来ない処なのだよ。」

 

伯爵の論旨の瑕は、伯爵が自分で治すしかないと迫る訳です。
「伯爵はどうなってしまうんだ!?」と思うところですが、伯爵は常々「納得の出来る整合性のある解答が得られば、それが自分の築き上げてきた総てを否定する結論であっても受け入れる」というのをモットーにしてきたので、中禅寺の整合性のある説明を聞いてすべてを受け入れます。

なんとも聡明で立派な人だなぁと思いますね。もし自分が同じ状況に立たされたら、とてもこんなに冷静ではいられないよなぁ・・・(-_-)。
最終的に、伯爵は過失致死で送検されます。過失・・・致死かぁ・・・ううん、なるほど。

 


そんな具合に、一言で云えば「人間剥製話」な今作。シンプルなだけに語りがたい難しさがあるのが『陰摩羅鬼の瑕』という作品ですね。


シリーズとしてはやはり躁鬱コンビを楽しむ感じでしょうか。木場がお馴染みメンバーと絡んでくれないのがチト残念ですけどね。
伊庭さんの亡くなった奥さんへの想いなども読んでいて味わい深いです。個人的に執事の山形さんに感情移入してしまって、途中気の毒だなぁと感じる場面などもあったのですが、メイドの栗林さんと一緒に小さな宿屋を建てて伯爵の帰りを待つとのことで良かったなぁと。


終盤にはスピンオフの『百器徒然袋-雨』の第二話「瓶長」の事件が調査中である記述(益田の亀探しですね)があります。

 

 

www.yofukasikanndann.pink

 

 

陰摩羅鬼の瑕』からスピンオフや別シリーズを交え、京極ワールドがグンと広がっているので、やはりシリーズの転換期になっている作品であることは間違いないと云えるかと。
第二期開幕、是非ご堪能下さい。

 

 

 

 

ではではまた~

 

 

 

www.yofukasikanndann.pink

 

『贖罪の奏鳴曲(ソナタ)』弁護士・御子柴礼司 モデル・他作品との繋がり解説~

こんばんは、紫栞です。
今回は中山七里さんの『贖罪の奏鳴曲(ソナタ)』をご紹介。

贖罪の奏鳴曲 (講談社文庫)

あらすじ
御子柴礼司はどんな罪状で起訴されようが、必ず執行猶予を勝ち取るかわりに、被告に多額の報酬を要求することでウラの筋では有名な悪辣弁護士。
かつての名前は『園部信一郎』。二十六年前、十四歳のときに幼女バラバラ殺人を犯し、〈死体配達人〉と呼ばれて世間で恐れられた殺人犯だった。逮捕され、少年院に収監された後に名前を変えて弁護士となったのだ。
そして四十歳となった現在、御子柴はまた一つの遺体を遺棄しようとしていた――。

入間川の堤防で三十代前半だと思われる男性の死体が発見される。判明した死体の身元は加賀谷竜次。強請屋として有名なフリーライターだった。埼玉県警捜査一課の渡瀬と古手川は、加賀谷が最近何かと騒がれている東條家の三億円保険金殺人について調べていたこと、その過程で事件の担当弁護士・御子柴礼司が、四半世紀前に起きた猟奇殺人事件の加害者少年〈死体配達人〉であったという事実を知ったらしいことを突き止める。
脅迫してきた加賀谷を御子柴が殺害したのではないかと捜査を進める渡瀬と古手川だったが、御子柴には犯行時刻に鉄壁のアリバイがあった。

弁護士として三億円保険金殺人事件を追う御子柴と、その御子柴を追う渡瀬と古手川。二転三転する二つの事件の真相とは?

 

 

 

 

 

 

 


異色の前歴を持つ弁護士
『贖罪の奏鳴曲(ソナタ)』は中山七里さん初のリーガル・サスペンス小説で、【御子柴礼司シリーズ】の第一作目。

 

www.yofukasikanndann.pink

 

上記のあらすじを読むと、アリバイ崩しがメインの推理小説だと思われるでしょうが、実際は弁護士・御子柴による法廷劇が中心のリーガルもの。


冒頭から遺体を遺棄している御子柴の視点が描かれて驚き、その御子柴が弁護士であることに驚き、さらに少年時代に猟奇殺人の前歴があることに驚き・・・で、のっけから驚きの連続なんですが、死体遺棄をしていた経緯は一旦展開的に保留され、三億円保険金殺人の法廷論争がメインとして話は進んでいきます。法廷戦術や事件の供述調書、見取り図や証人尋問など、細部にわたって詳しく書かれていると感じました。この法廷劇だけで充分に読みごたえがあります。

しかし、「それだけで終わらないのが中山七里作品だよ」といった具合に、法廷劇だけでは終わらずに、ミステリとして驚きのどんでん返しな真相が待ち構えています。真相が何度もひっくり返るので、「え?え?」と息つく暇も無く驚き続ける感じですね。最終ページまで気が抜けません(^^;)。

リーガル・サスペンス、ミステリの要素に加えて、大きく扱われているのは少年法の是非と主人公の過去、殺人罪に向き合う“想い”です。


今作は四章から成る構成ですが、第三章「償いの資格」では章の全てを使って御子柴の少年院時代の出来事が描かれています。保険金殺人やフリーライター殺人の事件と直接関係が無いながらも非常に引き込まれる内容で、物語りの中盤の章に持ってきていることからも、今作はこの第三章を書くことが著者の主たる目的なのではないかと。それは『贖罪の奏鳴曲』というタイトルにも表れていますね。

 

 

 

 


モデル
弁護士としての腕は一流であるものの、そのスキルと引き替えに依頼人には法外な報酬を要求するヤクザな商売をする一方で、一文の得にもならない国選の事件を引き受けたりもする、まるで“弁護士会ブラック・ジャック”のような御子柴ですが(ホント、『ブラック・ジャック』がエンタメ界に与えた影響は大きいなぁ・・・)、その設定以上にこの主人公が特異なのは、少年時代に殺人を犯して逮捕された過去があるという点です。

 

主人公の御子柴が少年時代に犯した殺害事件というのは、近所に住んでいた五歳の女児を殺害後バラバラにし、生首を郵便ポストの上に、右脚を幼稚園の玄関に、左脚を神社の賽銭箱の上に・・・と、一日に遺体一パースずつ人目に付きやすい場所に遺棄するというもので、逮捕後に語った殺害動機は「とにかく人を殺してみたかった。相手は誰でも良かった」
なんとも愉快犯じみていて、猟奇性が高い事件でした。

 

犯行内容や十四歳男児の凶行であること、世間での事件の扱われ方などから、一九九七年に起きた『神戸連続児童殺傷事件』、いわゆる酒鬼薔薇聖斗事件”を連想する人が多いと思います。非常にセンセーショナルな事件でしたし、この本の参考文献にも『少年A 矯正2500日全記録』

 

 

とあるので、著者も『神戸連続児童殺傷事件』を意識して設定に盛込んだことは間違いなさそうですが、この事件と同様に著者が意識したと思われる事件が一九六九年に起きた『高校生首切り殺人事件』(サレジオ高校首切り殺人事件)
男子高校生がいじめに耐えかねて同級生を殺害した事件で、少年犯罪であることや殺害後に首を切断しているなどの類似から『神戸連続児童殺傷事件』と対比して語られることも多い事件ですが(動機や状況は全く異なるので本来は対比して語るようなものではないと思いますが)、この事件の犯人は少年院出所後に名前を変えて司法試験に合格、弁護士となって事務所も持っていたといいます。二〇〇六年に出版された奥村修司さんのルポルタージュ「心にナイフをしのばせて」

 

 

 で話題になり、ネットに実名や顔写真が出回ったことによって結局廃業してしまったようです。意見が一方に偏っているため、この本自体も批判の対象になったようですが。

 

猟奇殺人を犯した人物が弁護士に。一般的に受け入れがたいことではありますが、少年犯罪は前科がつかないので実力さえあれば弁護士にだってなれるということなんですね。御子柴礼司の設定は明らかにこの事件加害者の実例を受けてのものだと思われます。

 


ドラマ
『贖罪の奏鳴曲』は二〇一五年にWOWOWでテレビドラマ化されています。

 

連続ドラマW 贖罪の奏鳴曲 DVD BOX
 

 全四話で、主演の御子柴礼司役は三上博史さん。
中山七里作品初のテレビドラマ化作品。概ね原作通りのストーリー展開のようですが、犯人像などは結構変更があってラストの決着の付き方も原作とは違いがあるようです。

 

そして今年、二〇一九年一二月にフジテレビ系「オトナの土ドラ」枠にて『悪魔の弁護士 御子柴礼司~贖罪の奏鳴曲』というタイトルで連続ドラマ放送が決定しています。(長いタイトルですね・・・)
こちらの御子柴役は要潤さん。

タイトルに“贖罪の奏鳴曲”とありますが、このドラマでは概在の【御子柴礼司シリーズ】四作、『贖罪の奏鳴曲』『追憶の夜想曲』『恩讐の鎮魂歌』『悪徳の輪舞曲』を全て映像化するようです。一つの事件を二話ぐらい使ってといった感じでしょうか。
キャストに古手川と渡瀬の名前がないので、ひょっとしたらこのドラマでは登場しないのかもしれません。この一作目の『贖罪の奏鳴曲』は終盤かなり渡瀬が良いところかっさらっているんですけどね・・・。

 

 

 


「カエル男」との繋がり
今作は同著者による『連続殺人鬼カエル男』とお話上、密接な繋がりがあります。

 

www.yofukasikanndann.pink

 

古手川・渡瀬コンビは著者の他作品でも度々登場するコンビなのですが、『贖罪の奏鳴曲』は古手川が埼玉県警に配属されて一年が過ぎた頃のお話で、時系列としては『連続殺人鬼カエル男』事件の割とすぐ後頃。作中に『連続殺人鬼カエル男』での出来事を示す記述が多数出て来ます。

そして、『贖罪の奏鳴曲』第三章「償いの資格」では『連続殺人鬼カエル男』に登場した有働さゆりが旧姓の「島津さゆり」として登場しています。御子柴と同時期に少年院に収監されており、院生が一同に会しての合唱会で島津さゆりのピアノ独奏ベートーヴェンピアノソナタ〈熱情〉」を聴いたことで御子柴は欠落していた感性が目覚め、気持ちが変化していくという訳で、重要な役割を担っています。


この少年院でのことがあって、『連続殺人鬼カエル男』の続編『連続殺人鬼カエル男ふたたび』では御子柴はさゆりの担当弁護士として古手川と渡瀬に再度接触しています。

 

www.yofukasikanndann.pink

 

『連続殺人鬼カエル男』→『贖罪の奏鳴曲』→『連続殺人鬼カエル男ふたたび』と読んでいけば各繋がりを愉しめるファンサービスな作りになっていると。
ただし、順番を間違えるとネタバレをくらうので注意が必要ではあります。私自身も『連続殺人鬼カエル男ふたたび』の方を先に読んだ(この作品に御子柴が出て来たからこそ『贖罪の奏鳴曲』を読もうと思ったのですが)ので、『贖罪の奏鳴曲』での御子柴の処遇については最初からネタバレをくらっての常態ではありました。それでも面白く読めましたけどね。

 

 

 

 

 

 

 

贖罪
今作のテーマはやはり“贖罪”。

多くの人々は面白半分で猟奇殺人を犯した人間などは「化け物だ」という風に捉え、いつまでも危険因子で本質的更生など不可能な存在だと考える向きが強いと思います。まして未成年だったという理由だけで刑事罰を受けず、前科も残らず、名前を変えて司法に携わる仕事についているなど、事件に直接関係が無い人間でも聞かされれば憤りを感じるところですよね。


御子柴も少年院に入ってばかりのころはおよそ罪の意識もない“欠落した”少年でした。なるほど「化け物」な少年で、斜に構え、態度だけ取り繕って少年院での生活をやり過ごそうとしているのがアリアリと見て取れる。およそ本質的更生とは無縁そうな腹立たしいガキです。
ところが、この少年院で島津さゆりのピアノや教官の稲見、同じ院生の雷也次郎と出会い、接していく中で変化が生じてきます。そして院内で起こった事件、自身がしでかしてしまった事によって自らの罪を心から悔いるようになります。雷也と次郎の顛末は本当に悲痛ですね・・・。雷也の母親、いくらなんでも骨ぐらいは引き取れよと思うのですが・・・。

 

悔いたところでどうすることも出来ないのだと絶望する御子柴に、担当教官である稲見は

「後悔なんかするな。悔いたところで過去は修復できない。謝罪もするな。いくら謝っても失われた命が戻る訳じゃない。その代わり、犯した罪の埋め合わせをしろ」

「お前は既に他人の人生を奪っている。だから他人のために生きてこそ埋め合わせになる」

と言います。
ホント、周りに確りと物事を教えてくれる大人がいるいないで人生が変わってしまうものだなぁと深々と思うところですが。稲見のこの言葉と雷也の語っていた将来の夢を受け、御子柴は弁護士を目指す。


御子柴が依頼人に法外な報酬を要求するのは自分が殺した女児の家族や怪我を負わせてしまった稲見などに毎月多額の金を送っているためという事情も終盤で明らかに。
物語りの最後、御子柴が儲からない国選の仕事を引き受けたり、今回の事件で自分の身を危うくしてまで母子を救おうとしたのは何故なんでしょうと疑問を口にした古手川に、渡瀬は「きっと自分が救われたかったんだろう」と答えます。

 

死ぬまで他人のための人生を歩こと。救われたいと願いながら、救われずに苦しんで罪を忘れずに生きていくこと。でも、そんな苦しみも結局は自分の為の行いであること。


もとより人殺しは償えるようなものではないですよね。刑務所に何年入ろうと、多額の金を渡そうと、いくら善行をしようと、償いにはならない。ならないけども続ける。死ぬまで罪と向き合って、生き続けることから逃げないのが、罪人が最大限できうることなのかなぁと。だから御子柴に安楽の日々は今後も訪れない訳で。

 

『贖罪の奏鳴曲』は元々単発ものとして書いていたらしく、シリーズ化は見据えてなかったとのこと。しかし、これだけ盛りに盛った設定をしょわされている主人公ですから、この一作で御子柴を描ききるのは無理というものです。単純に一作で終わらせるには勿体ない主人公ですし、シリーズ化されたのは当然といえる。
直接殺害した訳ではないものの、死体遺棄した事実はどうなるんだとか、御子柴の幼少期とか、母親と妹とか、気になることが山ほどありますので、【御子柴礼司シリーズ】続けて読んでいきたいと思います。

※読みました!シリーズすべてのまとめはこちら↓

 

www.yofukasikanndann.pink

 

 


ではではまた~

 

 

 

 

 

 

 

 

www.yofukasikanndann.pink

 

 

www.yofukasikanndann.pink

 

 

『金田一37歳の事件簿』5巻 ネタバレ・感想 華道家事件決着。そして“あの”ホテル再び・・・!

こんばんは、紫栞です。
今回は金田一37歳の事件簿』5巻をご紹介。

金田一37歳の事件簿(5) (イブニングKC)

 

2019年10月23日に発売された今巻。通常版と特装版ありで、特装版の方は「激レアポストカードブック」付き。

 

 

今までの文房具グッズや扇子やら箱だのと比べると、比較的“普通”な特典という気が。

ポストカードブックの中身はポストカード全28枚とステッカー一枚といった仕様。“激レア”とついていますが、ポストカードの絵柄は金田一少年の事件簿の頃のコミックスの表紙絵などのようです。私が買ったのは通常版なので詳しくは分からないのですが、書き下ろしイラストは一枚あるかないかですかね。37歳の方のイラストを目当てに買うと後悔するのではと思うので注意が必要でしょうか。

通常版のお値段は693円。特装版は1540円。

通常版の方が表紙のバックが緑っぽく、特装版は青みがかっています。

 


5巻は前巻からの「京都美人華道家殺人事件」が7話と、「函館異人館ホテル新たなる殺人」(!)1話を収録。「京都美人華道家殺人事件」の完結がメインの巻ですね。

 

 

 

 

 

以下ネタバレ~(犯人の名前も書いているのでご注意下さい)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

●「京都美人華道家殺人事件」
この事件のあらすじ、他諸々の詳細はこちらの記事の通りなんですが↓

 

www.yofukasikanndann.pink

 

リベンジポルノ画像の双子の入れ替わりや、犯人に関してはこの記事に憶測で書いていたことがほぼ当たっていましたね。

死ぬ前に雁流が言っていた「サイコ」は逆さ富士の“西湖”のことで、後ろに置かれていた花瓶の模様のことを言っていたというのは気が付かなかったですね~。咳をしていたことばかりに気を取られて、花瓶の模様にはまったく注目出来てなかった(^^;)。咳をするため後ろを向いたということが重要な点なのね。


悔し紛れという訳じゃないですけど、正面向いてから「サイコやないか?」って言うの、ちょっと不自然じゃない?ま、後ろ向いたまま発言したらあからさますぎて漫画的にダメなんでしょうけど。
しかし、人が普通に出入りしていた部屋の花瓶の中に生首がずっと入っていたとは考えるだに恐ろしい・・・。「魔術列車殺人事件」のときの団長の首を思い出しますね。

 

 

足跡無き殺人のメイントリックは「そんなものがあるんだ~」と。便利ですね。文明の利器!コリャ知らないと当てられないや。見事なトリックですが、人一人背負って狭い足場を歩いていくのは大変だろうなぁ・・・

桜子を殺したのが薫子で、薫子と雁流を殺したのが黒樹という真相なんですが、黒樹さんは薫子殺害に関しては十分に正当防衛なんだから(なんせ、相手が鬼の形相で鉈振り回して襲いかかってきた訳だし)、わざわざ雁流を殺害してまで隠そうとしなくてもよかったのでは。黒樹さんは根が良心的なぶん、雁流を殺してしまったのが悔やまれますね。

薫子は薫子で、擦り付けるために桜子を殺害する前に、リベンジポルノの脅迫者の殺害を考えるのが普通じゃないか?とチト疑問。黒樹も薫子も無我夢中で冷静に考えて行動出来なかったってことなのかな。薫子の方は手の込んだ計画殺人なのでなんともはやですが。ま、それだけ病んでいたと・・・。

 


戻ってきた
この京都編、良かったですね。個人的には37歳になってからの事件の中では今のところ一番好きです(まだ3つの事件しかやっていませんけどね)。


「歌島リゾート殺人事件」「タワマンマダム殺人事件」

 

www.yofukasikanndann.pink

 

www.yofukasikanndann.pink

 

では事件や犯行に直接関わる部分がコミカルでお軽い感じで、新鮮で気楽に読めるものの、従来の【金田一少年の事件簿】ファンとしては“殺人行為”をするに至る背景に“重さ”がないのはやっぱりどうかなと思っていたので。動機面は重々しく描くのがこの本格推理漫画の持ち味ですからね。そこを変えられるのは抵抗がある。


今作は事件に対しては確りシリアスに描かれていてぶち壊すようなギャグもなく、本来のシリーズ雰囲気に戻っている印象でした。犯人の黒樹さんや被害者の桜子さんの詳細や事情が悲しくて切なくって「これぞこの漫画シリーズの醍醐味だな」と。

金田一も本来の調子を取り戻してきている様子で、推理や犯人を追い詰める場面などに従来のキレが。

 

 

他に・・・

山科刑事、金田一のこと何か調べてくれるかなぁ~と期待していたのですが、さほど目立った動きはしてくれないまま終わっていましたね(^^;)。

お話の都合上なのでしょうが、何もしないにしても会社の上司と部下が出張中にラブホテルに泊まるのは私個人の感覚では絶対NG です。結果的に泊まることにはならなくってホントに良かった安心した(-_-)。

しかし、この事もあって、まりんちゃんへの印象がちょっと変わっちゃったなぁ。思っていた以上にしたたかな女なのかもしれません。
やはり、美雪に早く登場して欲しいと願うばかりです。ずっと言っていますけど。いつまで言い続ければいいのだろう・・・。

 

 

 

 

 


●「函館異人館ホテル新たなる殺人」

異人館ホテル!ふたたび!!

ここでまた「歌島」同様の“ふたたびネタ”が。目次見たとき思わず変な声でた(笑)


「歌島リゾート殺人事件」の方はオペラ座館が既にないということもあって、さほど過去の事件との関連性などはなかったのですが、今作はどうなるのでしょうか。この巻には1話しか収録されていないのでまだどんな事件が起こるのかも分かりませんが。
金田一少年の事件簿】の異人館ホテル殺人事件」

 

 

は“赤髭のサンタクロース”という怪人名で、佐木が殺されたり、麻薬が絡んでいたりといった事件だったんですけどね。

前の事件との繋がりとかがあった方が長年の読者としては楽しめるんだけどな~とか思ったり。また劇団が絡んでくる事件ではあるようですが。「函館ウォーズ」という、なんともキラキラした演劇のようです。現代の風を感じる・・・。

 


いつきさん
この1話目で【金田一少年の事件簿】での主要人物の一人、フリーライターいつき陽介が登場しました。

現在52歳。フリーライターを現役で続けているようで、他の皆様と同じく容姿もさほど変わっていませんが、金田一少年の殺人」の事件の際に引き取って養子にしたみずほちゃんがもう30歳で結婚して子供がいるとのことで、改めて20年という月日の重大さにショックを受ける。
あのみずほちゃんが30歳子持ち・・・20年経っているのだから当たり前なんだけど、サラッと言われているぶん衝撃がある(^_^;)。


いつきさんは劇団の取材をしに来ているので、金田一やまりんちゃんと一緒に事件に関わってくるのが予想されますが・・・。その過程で金田一の20年の間にあった“何か”の新情報出してくれますかねぇ・・・。次でもう6巻目ですし、そろっと過去の事情が明かされてきても良さそうなモノだと思うのですけども。

 


驚異的!

今巻には新キャラで警視庁捜査一課・警視の幸村真之介(27)が登場しています。


この人、登場して早々に明智さんに「驚異的連続殺人犯――!それが“金田一一”の正体なのだとしたら・・・!!」と大真面目な顔で大胆な仮説を口にしています。なんでも、こんなに事件に遭遇するのは偶然じゃなく、20年間の沈黙を破って殺人鬼が復活したのだから正体を暴かねばと。

明智さん、聞いている途中で耐えられなくなってお腹抱えて笑っていましたけど(^^;)。


「これは果たして偶然なんでしょうか?」と言われても、それが本格推理モノの主人公が背負わされる“死神体質”なのだから、残念ながら偶然ですとしか言いようが無い。

しかし、それにしても壮大な仮説ですよね。仮説通りなら驚異的過ぎる殺人犯ですよ。でもまぁ、野放しにしたら「今後犠牲者は増える一方です!」というのはある意味正解ではある。

 

幸村さんは若きイケメンエリート刑事とのことですが、上記の発言から考えるに次巻でもトンチンカンな振る舞いをしそうな予感。ホントに金田一に対して殺人犯の疑いを持って接するつもりなのかな?
想像するとちょっと楽しそうではありますね(^_^)。


そんな訳で、次巻も楽しみに待ちたいと思います!

※出ました~詳しくはこちら↓

 

www.yofukasikanndann.pink

 


ではではまた~

 

金田一37歳の事件簿(5) (イブニングKC)

金田一37歳の事件簿(5) (イブニングKC)

 

 

『犯人たちの事件簿』7巻 感想 Caseシリーズ突入~

こんばんは、紫栞です。
今回は金田一少年の事件簿シリーズのスピンオフ漫画金田一少年の事件簿外伝 犯人たちの事件簿(7)』をご紹介。

金田一少年の事件簿外伝 犯人たちの事件簿(7) (講談社コミックス)

今回はKCコミックの【金田一少年の事件簿】Caseシリーズの第1巻(全体で数えるなら28冊目)の表紙パロディ。

金田一少年の事件簿 (Case1) (講談社コミックス―Shonen magazine comics (2551巻))

この『犯人たちの事件簿』も前巻でFILEシリーズが終わり、

 

www.yofukasikanndann.pink

 

この7巻からはCaseシリーズに突入です。

コミックスのデザインも本家に合わせてリニューアルですね。デザインがリニューアルされても、やっていることは同じ。今までと何ら変わらずの殺人事件漫画が繰り広げられています。ま、それは本家も同じですが。


本家では、FILEシリーズのときは1つの事件が次の巻をまたぐことがしばしばだったのですが、Caseシリーズでは読んでいてキリが良いように一冊、または二冊きっちりに終わるようになっています。なので、コミックの表紙と背表紙に事件名が大きく書かれているデザインでした。ページの制限があることが事件の詳細を描く上で困難で窮屈だと作者サイドの方で思うところがあったらしく、〈20周年シリーズ〉金田一少年の事件簿R〉の方ではFILEシリーズと同じく事件が巻をまたぐ仕様に戻っています。

※【金田一少年の事件簿】の各シリーズの詳細について、詳しくはこちら↓

 

www.yofukasikanndann.pink

 

 

www.yofukasikanndann.pink

 

この『犯人たちの事件簿』7巻では、「摩犬の森の殺人」「露西亜人形殺人事件」「銀幕の殺人鬼」の3つの事件と、巻末に作者の船津紳平さんの実録漫画「新 外伝煩悩シアター」の四コマ3本収録。デザインの関係上、表紙に「摩犬の森の殺人 他」と書かれていますね。他にも本家のコミックスをパロディした“遊び”が細部にありますので、比べると楽しいです。

この表紙絵、一瞬「後ろの茶髪は誰?」と、思ってしまったのですが、千家ですね。千家は本家ではカラーイラストがなく、アニメだと黒髪でオデコのほくろもなくなっている(それだと見た目的に原作とはほぼ別人じゃんね)ため、原作のトーン髪のイメージを重視して茶髪になっているようです。どちらにしろ、カラーだと別人のようですね。

 


●ケース1「摩犬の森の殺人」(本家では20件目)

 

 犯人:千家貴司

KCコミックではCaseシリーズから巻数の表記を変えていますが、講談社文庫版ではfileで統一されています。本家ではCaseシリーズの1巻ですが、【金田一少年の事件簿】の全体では20件目の事件。ややこしいですよね、ホント・・・(^^;)。

「首吊り学園殺人事件」のときから金田一の友人として登場していた千家が犯人だったことで有名な事件。当時・・・と、いうか、今もこの犯人については色々と言われてしまいますね・・・。
犯人もさることながら、犬をフル活用したトリックというのが斬新でした。実現性は別として。この漫画での千家も犬の躾とエサ代に苦労しています。まぁそうですよね・・・あれだけの犬の数だから・・・。


この事件では本家でも導入部分の悪のりが過ぎていました。美雪、キノコでラリって家に火つけているし。普通に重罪もの。それにしても、当時本家読んだときも思いましたが、キノコ混入がなくとも元々千家は八尾の別荘を燃やす予定だったというのは、あまりにも酷い計画ですよね。目的が単に研究所の医学生たちと自然に合流するためってだけだし・・・。八尾が可哀想すぎる。
最後の犬たちの行動は確かにおかしい。本家だと感動的なシーンなので思わず流されてしまうのですがね・・・。
「と・・とりあえず金田一の横で仲間感出しとくか・・・・」に凄く笑いました。

 

 

 

 

 

 

 

 

●ケース2露西亜人形殺人事件」(本家では24件目)

 

 犯人:桐江想子

高遠さんが犯人側の人間ではなく、事件に巻き込まれる第三者として登場する作品。

最終的に金田一と高遠さんとで協力して犯人を追い詰めるのですが、二人が仕掛ける罠が二重三重と手が込んでいて、犯人の桐江想子としては戦々恐々だろうな、そりゃ。と、思う・・・。金田一に加えて高遠さんじゃ、分が悪すぎますよね。窓開けっ放しにして人形を濡らしてしまったのと、幽月さんを殺してしまったのが想子さんの最大のミス。でも、行き当たりばったりの犯行にしては、この二人相手によくやったよ・・・と、言いたい・・・。


作中に出て来る、牛乳の膜で睡眠薬入りの砂糖を包むというアイディア?トリック?もなにかと話題でしたね、当時。「そんなに上手く出来るのか!?」と実験してみた読者は結構な数いると思われます。私の家は低脂肪乳しかなかったんで実験出来なかった・・・(^_^;)。

この漫画で想子さんが言っているように、かなりトリッキーな発想なんですが、金田一は腹の立つドヤ顔で難無く実証してみせています。恐ろしい・・・。痴漢から助けるために神明先生にブランデーの瓶を頭めがけて落す金田一は暴力的。本家では軽い描写でしたが、下手すりゃ死んでる。恐ろしい・・・。

 

 

 

 


●ケース3「銀幕の殺人鬼」(本家では21件目)

 

  犯人:遊佐チエミ

これ以上ないくらいに典型的な物理トリックが用いられる事件。

この漫画で遊佐チエミが「自分で考えておいて何だけど・・・・できるか!このトリック!!」と言っているように、普通は人を殺そうってときにこんなトリック考えないし使わない。でも本格推理モノなので、1%でも実行できる可能性があるならあえて奇抜なトリックを使う。夜の学校で何度も練習したというのは本家でも記されていまして、大変な努力だなぁと思った。


被害者が殺される前に説明的な独り言をベラベラ言うのもミステリの“お約束”ですね。
黒河さんみたいにオカルトチックで思わせぶりな発言をする痛々しいキャラクターが登場するのも、ミステリの定番。こうやって考えてみると、この事件は「これでもか!」というくらいにベタベタな本格推理モノだったんですね(比較的、いつもそうかもしれませんが)。しかし、美人だから雰囲気に呑まれるけど、いま読むと黒河さんみたいな先輩がいたら後輩としては確かに恥ずかしいだろうなぁと思う・・・。


あと最後のコップの水の色が変わるヤツね・・・。私も本家読んだとき、何でワザワザ血を連想させる色にするんだよと思った。ホント、犯人いじめなホラーショーですよね。

 

 

 

と、いった感じで、Caseシリーズに突入しても今までと同様にとても面白おかしく、懐かしく楽しい7巻でした。
※本家とセットで楽しみたい方はこちら↓

 

 

次巻、8巻は2020年春頃発売予定で、「天草財宝伝説殺人事件」「怪奇サーカスの殺人」「金田一少年の決死行」が予告ページを見た感じでは収録予定かと。たぶん「雪影村殺人事件」も入ると思うのですが。それだと次巻でCaseシリーズは完結ですね。

 

※出ました!詳細はこちら↓

 

www.yofukasikanndann.pink

 


ここまでくると全ての犯人たちの苦労を見たいような気になるというもの。このスピンオフ漫画にはまだまだ頑張って欲しいです(^o^)。

 

 


ではではまた~

 

www.yofukasikanndann.pink

 

 

 

 

『バードドッグ』あらすじ・感想 極道探偵による推理はいかに?

こんばんは、紫栞です。
今回は木内一裕さんの『バードドッグ』をご紹介。

バードドッグ (講談社文庫)

 

あらすじ
元ヤクザの探偵・矢能政男は或る日、日本最大の暴力団「菱口組」の直参組長の中でも唯一都内に本部事務所を構えている実力者、燦宮会会長・二木善治朗によって電話での呼び出しを受ける。なんでも、燦宮会理事長になるはずだった佐村組組長が一昨日の晩から連絡が取れなくなったという。状況から考えて殺されているとしか思われぬが、燦宮会内部の者による仕業かもしれず、警察に届ける訳にもいかず、他にヤクザ者探しを引き受けてくれる探偵社も思いつかないといって矢能に捜索を依頼してきた。
一度は断ったものの、後日探偵事務所に現われた織本美華子から、失踪した妹を捜索して欲しいと依頼される。妹・早川美咲は主婦でありながら佐村と交際していたらしく、佐村の失踪と同時期に行方知れずになっているという。
織本美華子の依頼を受けることにした矢能は、佐村組の依頼と協力を得ながら佐村と早川美咲の周辺を調べるが、調べれば調べるほど、二人が交際していたとは思えぬ事実ばかりが出て来る。
妹は姉に嘘をついたのか?何故そんな嘘を?交際が嘘ならば、二人はどうして同時期に失踪したのか?そして、佐村を殺しただろう犯人は、誰なのか?
矢能は燦宮会理事の浅木、秦、間下、冨野の四人のうちの誰かの仕業だとあたりをつけるが――。
物騒な世界で繰り広げられる、物騒な探偵による、物騒な推理が開始される。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヤクザだらけの推理劇
『バードドッグ』は『水の中の犬』『アウト&アウト』に続く【矢能シリーズ】(探偵シリーズ)の第3弾。
『水の中の犬』は元刑事の「探偵」の物語りがガチガチのハードボイルドでシリアスに描かれるシリーズ前日譚。

 

www.yofukasikanndann.pink

 

『アウト&アウト』は前作で登場した矢能が主人公となり、物騒なドタバタを物騒に丸く収める、ハードボイルドでありながらコミカル色もある痛快エンタメ作品。

 

www.yofukasikanndann.pink

 

今作、『バードドッグ』は、エンタメはエンタメでもミステリ・推理に主軸が置かれた作品。ミステリの分類としてはフーダニットにあたる(と、思う)のですが、そこはやはり【矢能シリーズ】ですので、ミステリといっても一筋縄のものではありません。被害者がヤクザなら、容疑者もヤクザ、探偵も元ヤクザという、ヤクザだらけのミステリエンタメ作品となっております。

 

 


物騒だけどコミカル
前二作以上にヤクザだらけであるものの、今作には前二作のようなハードボイルドな暴力描写はありません。おっかないセリフの応酬はこれでもかとあるんですが、登場するヤクザ達はみんな何処かしら“おかしみ”があって、読んでいるとこのおっかない応酬が楽しくなってきます。

特に佐村組若頭の外崎は、ヤクザとしてやり手なのにやたらと素直な性格をしていて可笑しい。死体を見てゲイゲイ吐きまくっていたりだとか、死体を見るのは嫌だといって逃げまくる下っ端だとか、馬鹿にされて怒り狂ったあと、褒められて分かりやすく喜んだりする理事など、ヤクザであってもどの人物も人間味があって良いです。全体的に、前作よりコミカルさが増した感じですね。

 

今作の舞台は前作『アウト&アウト』から3ヶ月後。矢能の養子となった栞ちゃんは小学三年生になっており、矢能に対しては相変わらずの古女房っぷりを発揮。敬語での小言に加え、おつまみを用意したりグラスを冷やしたりと良妻っぷりもパワーアップしています。時間の経過とともに事件の疵が癒えてきたのか、前作よりも明るくなり、大人びている中に子供らしさが垣間見え、より可愛さに拍車もかかっています。栞ちゃんに接する大人(物騒な人含む)が皆メロメロになっているのは流石。


矢能は矢能で、前作よりもさらに栞ちゃんへの溺愛っぷりに拍車がかかっています。溺愛していることに本人が無自覚なのがまた可笑しい。辞めたとはいえヤクザ者全開な厳つい男が、小学三年生の女の子に頭が上がらない図というのはこれ以上ないくらい微笑ましいですね。

 

 

 

 

“おねえさん”と対面
前作に登場した情報屋やヤクザの工藤ちゃん、匿ってくれるお婆さんや、小悪党警官の次三郎、マル暴のマンボウ顔とキツネ顔の刑事二人組など、今作でもちゃんと登場しています。ですが、いずれも今作ではサラリとした出番ですね。

次三郎が急ぎで大金を欲しがっている理由とかも明かされずじまいでしたし。ま、金に困っているのが常態だから気に留める程のことではないという事なのかもですが。少なくとも矢能は完全無視して事情を訊こうともしていません。

 

今作で注目なのはシリーズ1作目『水の中の犬』で登場していた“美容師のおねえさん”と矢能が対面しているところですね。


このおねえさんは前の「探偵」の髪を最後に切った人で、2作目の『アウト&アウト』では矢能に引き取られた栞に対し、なにかとよくしてくれる人物として説明はあったのですが、ちゃんとした登場はしていませんでした。今作では栞ちゃんに勧められて、矢能がこのおねえさんに髪を切ってもらう場面があります。
二人でかつての「探偵」について話しているのが、1作目を読んだ身としては色々と“クル”ものが。「お友だちだったんですか?」と訊かれて、矢能が「探偵」のことを「そうだな、ああ、友だちだった」と答えるのが感慨深いです。

 

おねえさんの手によって“かっこいい”髪型になった矢能、その後、ヤクザ者も例外なく、会う人会う人に髪を褒められ、一々調子が狂うといって元に戻してもらおうとまでするのですが(結局、おねえさんに「栞ちゃんが喜ぶのだから我慢しろ」とたしなめられて諦めるんですが)、小説だとどんな髪型なのだか分からないので、「どんだけ似合っている髪型なんだ?」と、読んでいて興味津々でした(^^;)。

 

矢能の印象についておねえさんに訊いた栞ちゃん。矢能になんと言っていたか聞きたいですか?と振るも、「フフフ・・・・・・」と笑って「アレはヤバいよ、って言っていました」「栞ちゃんにはまだわからないだろうけど、アレはヤバいって」と謎の発言をしますが、褒めると抵抗するタイプだから矢能には秘密にしてとおねえさんと約束したとかで、何がヤバいのか教えてくれません。今作では最後まで分らないまま終わっています。続編で明かされるんですかね?今から読むのが楽しみです。たぶん“溺愛っぷり”のことだとは思うのですが・・・。

 

あと、情報屋が「シオリンのためを思うんなら早いとこ嫁をもらえ」と言っているのが気になりますね。これも続編でなんかしらの動きがあるの・・・か?

 

 

 

ヤクザなミステリ
推理物となってはいるものの、「矢能は推理しているのか?」といわれると、正直、推理している印象は薄いです。

推理というより、ヤクザ世界での立ち回り方が上手いといった感じですかね。矢能自身は真相自体には重きを置いてない、推理小説における探偵役にあるまじき態度。でも、矢能の立ち回りによって、結果的に罰当たり者が確りと落とし前をつけさせられるという風に、事態は丸く収められます。個人的には現在70過ぎの二木の叔父貴が20年ほど前に犯したという罪の内容にドン引きだったので、叔父貴にもなんかしら罰が当たっても良かったのになぁとは思いますが(-_-)。


最終的に犯人が二人に絞られ、どっちなんですかと外崎に訊かれて矢能が「どっちにしようかな」と答えるのが、読んでいて恐ろしくも“ニヤリ”としてしまうのはこの作品ならでは。
前作『アウト&アウト』は濡れ衣を晴らそうと行動するうちに政治家の陰謀にまで行着いてしまう派手派手しいものだったので、今作はそれに比べると事件内容自体はある意味地味に感じるのですが、物騒でありながらも状況に応じての痛快な立ち回りは前作同様でシリーズの持ち味になっていると思います。


全体的にコミカルではありますが、ヤクザの世界だからこその動機や、妹が姉に嘘を言った理由などは非常に痛切で苦々しい思いに駆られます。個人的には姉が最後に矢能に言った言葉に嘘はないと信じたいですね。


『水の中の犬』『アウト&アウト』、そして今作『バードドッグ』

どれも作品ごとにまったく違う良さがありつつも、シリーズとしての愉しみもあっていずれの作品も面白く読むことが出来ました。私はもう、すっかりこのシリーズのファンです。続編の『ドッグレース』も絶対に読みたいと思います!

 ※読みました!詳細はこちら↓

 

www.yofukasikanndann.pink

 

ではではまた~

 

 

バードドッグ (講談社文庫)

バードドッグ (講談社文庫)

 

 

 

www.yofukasikanndann.pink

 

 

www.yofukasikanndann.pink

 

Cocco 本のまとめ 絵本・エッセイ・小説・・・一挙に紹介!

こんばんは、紫栞です。
今回はCoccoの書籍について、まとめてご紹介。

南の島の星の砂


Coccoは主にシンガーソングライターとして世間的には認知されているとは思いますが、実は本も結構な数を出していまして、エッセイ・絵本・小説と作家活動は多岐にわたっています。
私個人は元々歌手としてのCoccoのファンで、流れるように絵本やエッセイ集にも手を出した次第。音楽の素晴らしさは勿論ですが、Coccoは文章も凄く上手いんですよね。楽曲の歌詞からうかがい知れることではあるのですが、言葉選びのセンスが良いです。謎に包まれたCoccoの過去や私生活が垣間見られたり、文章の内容によっては特定の楽曲の丁寧な解釈が書かれていたりもするので、ファンは必見。個人的には歌手のCoccoを知らない人にもオススメできる作品ばかりです。でもやっぱりその後、歌も是非聴いてくれと言っちゃいそうではありますが・・・(^^;)。

 

 

 

エッセイ集
●『想い事。』

想い事。 (幻冬舎文庫)

想い事。 (幻冬舎文庫)

 

 2007年 毎日新聞社(単行本)

2006年4月から2007年3月までの一年間、毎日新聞で毎月1回連載されていたものを著者・Coccoが撮り下ろした沖縄の写真と共にまとめられた一冊。連載終了時に読者から「きっと本にして下さい」といったお便りが殺到したことよって生まれた本なんだそうな。当たり前ですが、新聞連載は新聞をとっていないと読むことは難しいので、ファンとしては「本にしてくれてありがとう」と感謝の気持ちを抱きます。
このエッセイでは、ジュゴン普天間基地、平和の礎、ひめゆりの塔・・・などなど、Coccoの沖縄への想いが主軸に綴られています。
文章と写真に加え、文章に添ったイラストやCoccoが15歳の時に描いた自画像や書き留めた詩が掲載されていたりと盛り沢山で、色々愉しめる一冊です。
2011年に幻冬舎から文庫版が刊行されています。

 

 


●『こっこさんの台所』

 

こっこさんの台所

こっこさんの台所

 

 2009年 幻冬舎

タイトルに“台所”とある通り、こちらは食を通じて日々を語るエッセイ集。帯に俳優の妻夫木聡さんのコメントが載っているのが結構な驚き。
刊行時には発売を記念してこの本から生まれた楽曲4曲が配信され、後にCDで発売されました。

 

こっこさんの台所CD

こっこさんの台所CD

 

 

この本は季節に添ったものになっていて、楽曲も春夏秋冬それぞれの季節をイメージした4曲となっています。
この本ではエッセイに加えて、Coccoによるお料理レシピが載っています。料理を習ったり資格を持っている訳ではないが、作るのが好きで周りにも好評なので、調子に乗せられて本にしてみたとのこと。レシピは全体的に乾物と野菜がメインの、彩りが綺麗でヘルシーそうなメニュー。料理の写真はもちろん、この頃のCoccoはイギリスと沖縄と東京を行ったり来たりする生活だったので、各場所の写真や食文化、風土の違いなども書かれています。
ファンの間では周知の事実ですが、Coccoは長年摂食障害を患っています。この本を制作中は病状が酷く、殆ど食べない生活をしていたようです。食べるためじゃなく、“食べてもらう”ためのみで料理を作っている状態だったんですね。本の担当者さんは病状改善になればという想いもあってこの本に取り組んでいたようですが、結果は芳しくなかったようです。詳しくはこちらのpapyrusのインタビューで語られていますが↓

 

papyrus (パピルス) 2009年 10月号 [雑誌]

papyrus (パピルス) 2009年 10月号 [雑誌]

 

 

このインタビューを読むと『こっこさんの台所』の捉え方が大きく変わりますね。

 

 


●『コトコノコ』

 

コトコノコ

コトコノコ

 

 


2012年 幻冬舎

こちらはCocco初主演映画KOTOKOを受けてのエッセイ集。

 

KOTOKO 【Blu-ray】

KOTOKO 【Blu-ray】

 

 

映画のワンシーンや製作風景の写真などと共に、映画の内容を想起させるCocco自身の体験や思考が書かれています。一部、写真に衝撃的なものがあったりしますが、映画のワンシーンが衝撃的なのであって、実際の場面ではないので御安心(?)下さい。
映画の『KOTOKO』自体が、監督の塚本晋也Coccoから聞いた実体験を元に製作したものなので、このエッセイは今までにないほど突っ込んだ内容になっています。“母親になる”ことによる葛藤や苦悩が痛切に描かれていますね。文章量は前二作ほど多くないのですが、題材が題材だけに、より突き刺さるものがあります。個人的にお気に入りな一冊。映画を観たなら、是非このエッセイも読んで欲しいと思います。
作中に映画の中で歌っていた曲の歌詞が載っていますが、いまだにどの曲もCDに収録されてないですね・・・。

 


●『東京ドリーム』

東京ドリーム

東京ドリーム

 

 


2013年 ミシマ社

ミシマ社創業7周年記念企画として刊行されたエッセイ集。タイトルからも判る通り、今作は東京での暮らしや想いが綴られています。この頃、Coccoは東京在住だったのさ。
刊行にあわせて同タイトルの楽曲が配信でリリースされました。後にミニアルバム『パ・ド・ブレ』に収録されています。

 

パ・ド・ブレ

パ・ド・ブレ

 

 

他のエッセイ集とは違い、こちらはカラー写真などもなく、ほぼ文章で36の断章形式。沖縄タイムスに連載されていた文章が6つ掲載されていますが、他は書き下ろしですね。
沖縄県出身であることに強い意識を持っているCocco。それ故、沖縄について多く語ってきていた印象ですが、今作では東京への想いがクローズアップされているのが少し新鮮。これを読んで、そういえば、Coccoは今までの文章でも東京を悪く言っていたことなかったなぁと気づきました。震災のことなどにも触れられています。『コトコノコ』から息子さんのことを書くことも多くなったなぁという印象。

 

 


フォトブック


『大丈夫であるように-Cocco終わらない旅-』

 

大丈夫であるように ―Cocco 終らない旅―

大丈夫であるように ―Cocco 終らない旅―

 

 2008年 ポプラ社

2008年12月に公開されたドキュメンタリー映画のフォトブック。

フォトブックなだけあって、とにかく写真が良いです。個人的に、この『きらきら』の頃のCoccoの髪型が可愛くって好き。本の最後の方に監督の是枝裕和さんの文章とCoccoの詩が載っています。どちらも直筆の形で、監督の字が凄く綺麗でビビる(笑)。フォトブックなので文量は少ないのですが、Coccoの詩も抜群に良いです。手書き文だと伝わり方がまた違いますね。
『コトコノコ』と同等にお気に入りでオススメな一冊。何度も見返してしまいます。こちらも出来れば映画とセットで。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


小説


『ポロメリア』

 

ポロメリア

ポロメリア

 

 


2010年 幻冬舎

ついに出た(?)な、書き下ろし長編小説。一応架空の物語りとなっていますが、私小説ととらえてほぼ間違いないかと。中学一年になったばかりの「私」の特別な一週間が描かれています。詳しくはこちら↓

  

www.yofukasikanndann.pink

 

 

 

絵本
絵本は三冊刊行されていて、どの作品もタイトルが「南の島の~」から始まっていて、人魚が登場する点も同じなので、シリーズものだと考えて良いのだと思います。
絵は三冊とも、紙にクレヨンを何度も重ね塗りした後に、上から先のとがったものでひっかいて削って描く「スクラッチ技法」が用いられたもの。アルバムラプンツェルのジャケットもこの技法で描かれたものですね。

 

ラプンツェル

ラプンツェル

 

 

手間がかかり、手がとんでもなく汚れる技法ですが、この技法ならではの色彩が美しいです。

 

●『南の島の星の砂』

 

南の島の星の砂

南の島の星の砂

 

 2002年 河出書房新社

Coccoは2001年に一度活動中止しているのですが、この絵本はその活動中止期間に描かれたもの。絵本がというか、本を出したの自体がこの作品が初です。
活動中止直前のシングル『焼け野が原』を彷彿とさせるような内容。文章には英語の対訳が載っています。

 

 

●『南の島の恋の歌』

 

南の島の恋の歌

南の島の恋の歌

 

 2004年 河出書房新社

こちらもまだ本格的な活動再開には至っていなかった頃の作品。しかし、購入者限定で新作CDが購入出来るという企画付きのものでした。絵本の中に入っている特別応募用紙に記入して送ると「ガーネット」「セレクトブルー」の2曲入りCDが購入出来る仕組み。

絵本ももちろん良いのですが、CDに強く惹かれて購入した記憶が。活動中止中でファンとして餓えていたので・・・(^_^;)。
「ガーネット」の歌詞の一部が絵本の一節に使われています。1作目にくらべると、色調が明るくなっているのと、絵の技術の向上がみられる。こちらも文章には英語の対訳つき。

 


●『みなみのしまのはなのいろ』

 

みなみのしまのはなのいろ

みなみのしまのはなのいろ

 

 2019年 径書房

2019年9月に出た15年ぶりの新作絵本。出版社が変わったせいか、子供が読みやすいようにするためか、前二作と違い、タイトルも中身もすべて平仮名表記で英語の対訳もついていません。
10月に発売されたアルバム『スターシャンク』の1曲目「花爛」がそのままといった内容。

※『スターシャンク』めっちゃ良いアルバムなんで聴いてくれ・・・・・・!

 

 

受ける印象は絵本と曲でだいぶ違いますけどね。
絵の色彩に関しては1作目に立ち戻るように黒が主体になっています。

 

 

 

写真集 

『8.15OKINAWA Cocco

 

8.15 OKINAWA Cocco

8.15 OKINAWA Cocco

 

 2006年 NHK出版

Cocco沖縄ゴミゼロ大作戦ワンマンライブスペシャル2006」でのステージ上のCoccoを撮影した写真集。こちらはホントにカラー写真のみで文章とかは無いですね。結構大判の本で重さもあります。

 

 

 


と、まぁ、以上が今現在刊行されている“Coccoの本”ですね。

 


私は普段は好きな歌手だからといって楽曲以外の作品にまで手を出したりはあまりしないのですが、Coccoは別格。書籍も映画も演劇も出れば買うし、読むし、観るし・・・です。

Coccoに至ってはもう、何かしら活動してくれるだけで嬉しいんですよね(^^;)。生涯ファンとして活動を追っていく所存なので、今後また発売されたら常時更新したいと思います。

 

ではではまた~