夜ふかし閑談

夜更けの無駄話。おもにミステリー中心に小説、漫画、ドラマ、映画などの紹介・感想をお届けします

金田一少年の事件簿 ドラマ 四代目まで一挙まとめて紹介!

こんばんは、紫栞です。
今回は金田一少年の事件簿の歴代ドラマを一挙に紹介したいと思います。


私は【金田一少年の事件簿】の原作漫画は全巻所持して読破している長年のファンですが、実写ドラマの方もリアルタイムですべて観ていました。そもそも金田一少年の事件簿ファンになった切っ掛けがドラマだったので、原作漫画同様の思い入れで放送されれば見続けていたのです。

 

金田一少年の事件簿】は、1995年に実写ドラマ化されて以来、数年おきにキャストやスタッフを変えながら放送されてきました。すべて日本テレビで制作・放送で、連続ドラマの枠もすべて同じ、土曜日の21時枠。ジャニーズ事務所所属タレントさんが多く主演をしている番組枠。いわゆる、“ジャニーズ枠”と呼ばれる番組枠ですね。
なので、【金田一少年の事件簿】のドラマもジャニーズ事務所所属タレントさんが代替わりでそれぞれ演じられてきました。
今回は、主演俳優さん別に紹介していきたいと思います。

 

 

 

 

初代・堂本剛
メインキャスト
金田一一堂本剛
七瀬美雪ともさかりえ
剣持勇古尾谷雅人

 

初代の堂本剛さん版はスペシャルドラマが2本、連続ドラマが2シーズン、映画が1本制作されました。映画版まで制作されていると、作品としていくところまでいったという印象を受けますね。この初代がヒットしたからこそ代替わりしながら制作され続けているのでしょうが。
ケイゾク』『トリック』などで有名な演出家・堤幸彦さんの出世作で、“男女コンビの掛け合いが楽しい完結型ミステリ”という、堤幸彦監督の定番型は今作から始まったといっていいでしょう。録画して繰り返し観るほど大好きで、ドラマやミステリ、原作漫画など、私にとっては色々と今の趣味に繋がる切っ掛けの作品です。


多くの人に受け入れられた作品ですが、原作を忠実に再現しているといったものではなく、ドラマオリジナル要素が多いものでした。実写化ものだと原作の再現度が作品評価の目安の一つとなっていたりしますが、今作は原作の再現というより、“コミカルさを盛込みつつのホラーテイストミステリ”という堤幸彦監督の演出と、【金田一少年の事件簿】が上手い具合に噛み合ってヒットした作品なのだろうなと思います。

 


スペシャルドラマ(1995年4月)
●学園七不思議殺人事件 

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 記念すべき一作目。当時は高校生が謎解きをするドラマというのは新鮮だったのです。しかも金田一耕助の孫だというし。
放課後の魔術師」の扮装が恐すぎてトラウマ回として有名。私も観てしばらくは頭から離れなくって夜が恐かった(^_^;)。子供だったし。

犯人が原作とは変えられていて、ラストも異なります。
このドラマの最後に続編を希望するかどうかの視聴者投票が行われ、結果として連ドラ化されました。

 

 

●連続ドラマ 第1シーズン 全8話(1995年7月~9月) 

第一話 異人館村殺人事件
第二話 悲恋湖伝説殺人事件
第三話 オペラ座館殺人事件
第四話 秘宝島殺人事件
第五話 首吊り学園殺人事件
第六話 首無し村殺人事件(※原作では飛騨からくり屋敷殺人事件)
第七話 蝋人形城殺人事件(前編)
第八話 蝋人形城殺人事件(後編)

 

一話目の「異人館村殺人事件」は大人の事情で欠番扱いになっているため、VHSは生産途中から、DVDでは最初から「異人館村殺人事件」が抜けていますので、今となっては一話目を視聴するのは困難です。※“大人の事情”について、詳しくはこちら↓

 

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最終の「蝋人形城殺人事件」以外はすべて1時間で完結させていたのは今考えると驚きですね。原作漫画を知った後だとクローズド・サークルの連続殺人ものをよく1時間にまとめていたもんだなと。視聴者としては一週で一つの事件が終わってくれるのは有り難かったですけど。次週に続く!だと、やっぱりテンションが下がりますから。
「首吊り学園殺人事件」の深町君役で窪塚洋介さんが出演しています。

 


スペシャルドラマ(1995年12月)
●雪夜叉伝説殺人事件 

金田一少年の事件簿 雪夜叉伝説殺人事件 [DVD]

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  • 発売日: 2002/01/23
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 速水玲香(中山エミリ)と明智健吾(池内万作)という原作シリーズでの主要人物が、このスペシャルドラマで初お目見え。連続ドラマの「蝋人形城殺人事件」では明智さんの役割を剣持警部に丸々変更されていたので(※以後もそんな感じで明智さんの出番は大幅に削られています)。

しかし、ドラマ版の明智警視は噛ませ犬というか、おまぬけさん役として出てくる脇役で、原作ほどの存在感はまるでないです。原作でも「雪夜叉伝説殺人事件」の時はそんな感じでしたけどね。明智さん人気が出るのは原作でも結構時間がかかった。


終盤に次クール放送だった連続ドラマ銀狼怪奇ファイルの主役・不破耕助(堂本光一)が登場して金田一(堂本剛)と友達として会話するという、なんともサービスなシーンが存在します。

 


●連続ドラマ 第2シーズン 全9話(1996年7月~9月) 

金田一少年の事件簿 悪魔組曲殺人事件 [DVD]

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  • 発売日: 2002/02/21
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第一話 悪魔組曲殺人事件
第二話 タロット山荘殺人事件(前編)
第三話 タロット山荘殺人事件(後編)
第四話 金田一少年の殺人
第五話 怪盗紳士の殺人(前編)
第六話 怪盗紳士の殺人(後編)
第七話 異人館ホテル殺人事件
第八話 墓場島殺人事件(前編)
第九話 墓場島殺人事件(後編)

 

一話目の「悪魔組曲殺人事件」は原作漫画になくって「ドラマオリジナルか?」と勘違いする人もいるかもしれないですが、CDブックのお話が原作として使われています。 

 CDブックの事件をドラマ化するのは意外だと思った記憶が(この時はもうすっかり原作漫画のファンにもなっていた)
原作のストックの関係か、第1シーズンとは違って一つの事件に二週使う率が上がっていますね。その分、第1シーズンより丁寧に事件が描かれていました。

しかし、原作での人気作「金田一少年の殺人」を一週で終わらしたのには驚き。「異人館ホテル殺人事件」は主演の堂本剛さんのスケジュールの関係だとかで、はじめちゃんが入院。代わりに美雪が探偵役をするというレアな展開でした。ドラマは原作よりもコンビものの印象が強かったので、二人揃っていないのは個人的には不満でしたね(^_^;)。

金田一少年の殺人」に都築瑞穂役で鈴木杏さんが出演しています。

 

 

 


劇場版(1997年12月)
●上海魚人伝説殺人事件

 ドラマシリーズ完結編として制作された劇場版。思いの外爽やかな終わり方をする。
「上海魚人伝説殺人事件」は原作者の天樹征丸さんがこの劇場版用にノベルスで書き下ろしたもので、漫画化はされていません。詳しくはこちら↓

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 劇場版らしく(?)上海での海外ロケをしていて、街中を走り回るシーンがあったりなど、いつもよりアクティブなはじめちゃんが観られる。
ヤン・レイリー役で水川あさみさんが出演しています。実は今作が女優デビュー作。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


二代目・松本潤
メインキャスト
金田一一松本潤
七瀬美雪鈴木杏
剣持勇内藤剛志

 

キャスト・スタッフが一新されての二代目・松本潤さん版。スペシャルドラマ1本、連続ドラマシリーズが1本制作されました。
高校生が主役のシリーズだからキャストが一新されるのはしょうがないにしても、演出も堤幸彦監督から離れてしまったのは観る前からショックでした。この時は堤幸彦監督作品にもどっぷりハマっていたので・・・。


初代とは違う、“新しい金田一少年の事件簿”を作ろうという意気込みが感じられる作品で、近代的というか・・・スタイリッシュ?な、ドラマシリーズでした。初代にあったようなコミカルさやホラーテイストはほぼ無し。はじめちゃんがクールな人物像に変更されているのがやっぱり一番違和感がありますかね。クールなのに「じっちゃんの名にかけて!」って決めゼリフを言うのがどうしてもチグハグ。美雪は初代や原作での、“しっかり者の優等生お姉さん”な人物から、少し幼い感じになっています。ま、金田一がクールになっているからね・・・。
剣持警部は歴代ドラマシリーズの中で一番原作に忠実に再現されていますね。私は初代の古尾谷雅人さんの剣持警部が大好きですけど。亡くなられたと知ったときはショックでしたね・・・。


金田一少年の事件簿】はブレザーの制服イメージが強いのですが、今作では学ランにセーラー服の写真がポスターなどに使われていて、ここら辺も“変えてやろう”感がありありと。と、いっても、遠出する際も制服を着ていることが多かった初代とは違い、松本潤さん版は制服のシーンがほとんどなかったので制服イメージ自体が薄かったのですけどね。


スペシャルドラマ(2001年3月)
●魔術列車殺人事件 

金田一少年の事件簿 魔術列車殺人事件 [DVD]

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  • 発売日: 2001/09/21
  • メディア: DVD
 

 原作漫画の中で個人的に一番大好きな「魔術列車殺人事件」。初っ端にこの事件をやるということは高遠遙一(藤井尚之)さんを連ドラでも絡ませるのね!って、ことなんですが、残念ながら原作ファンとしては受け入れがたい実写化でした。私の思い入れが強すぎるせいなのでしょうが(^_^;)。
最後にドラマオリジナルで高遠さんと金田一が面会するシーンがあるのですが、これが本当に蛇足。観終わった後に一人で怒っていました・・・。

 


●連続ドラマ 第3シーズン 全九話(2001年7月~9月)

金田一少年の事件簿 VOL.1 [DVD]

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  • 発売日: 2001/12/21
  • メディア: DVD
 

第一話 幽霊客船殺人事件(前編)
第二話 幽霊客船殺人事件(後編)
第三話 仏蘭西銀貨殺人事件
第四話 黒死蝶殺人事件(前編)
第五話 黒死蝶殺人事件(後編)
第六話 速水玲香誘拐殺人事件
第七話 魔犬の森の殺人
第八話 露西亜人形殺人事件(前編)
第九話 露西亜人形殺人事件(後編)

 

一話・二話の「幽霊客船殺人事件」は漫画ではなくノベルス二作目が原作に使われています。

事件のラインナップを見ると、旅行先での事件ばっかりで学校関連のものが一つもない。どうりで制服着ているイメージが皆無なはずですね。
今作では玲香ちゃんの役を酒井若菜さんが演じています。金田一と美雪の小学校時代の同級生という、「仏蘭西銀貨殺人事件」のますみちゃんと同じような設定に変更されていて、原作のように美雪とバチバチしたりはしない。


露西亜人形殺人事件」で高遠さんが再登場しているのですが、ワイルドで妙にイケイケな容貌という謎のイメチェンをしているのが意味不明だった。ほんとうに謎。
「黒死蝶殺人事件」の斑目揚羽役(※原作では女性)で成宮寛貴さんが、「魔犬の森の殺人」の二ノ宮朋子役で綾瀬はるかさんが出演しています。

 

 

 

 

 

 

三代目・亀梨和也
メインキャスト
金田一一亀梨和也
七瀬美雪上野樹里
剣持勇加藤雅也

 

スペシャルドラマ(2005年9月)
●吸血鬼伝説殺人事件

 

亀梨和也さん版はスペシャルドラマ1本のみ。DVD化などもされていなくって、もはや幻の作品ですね。なかったことにされている・・・のか?

 

※2022年6月追記。新しいドラマが放送された影響か、ディスク化されました!↓

 

 


またキャスト・スタッフを一新。お話はボンベイタイプいすぎだろ」と散々言われる「吸血鬼伝説殺人事件」です。

 前シリーズよりもさらに初代や原作とは別物の【金田一少年の事件簿】を作ろうというのはわかりますが、金田一はじっちゃんの事を嫌っているし、美雪はスポーティなサバサバ系女子になっているし、剣持警部はイケオジになっているし・・・もはや高校生が謎解きをするというだけの別作品になっている。

違いすぎているため逆に怒りは湧いてきませんが、視聴者としては「迷走してるな~」という感想を抱いてしまいますね。
続編を希望するメッセージが書かれた扇子を剣持警部が仰いでいるところで終わっていますが、制作陣の問題か、原作との兼ね合いの問題か、単純に視聴者に受け入れられなかったためか、続編が制作されることはありませんでした。

 

 

 


四代目・山田涼介版
メインキャスト
金田一一山田涼介
七瀬美雪川口春奈
剣持勇山口智充

 

山田涼介さん版はスペシャルドラマが2本。連続ドラマが1本制作されました。
前作品たちから、悪戯に変更して奇をてらっても駄目だというのを学んだのか、キャスト・スタッフは一新されているものの、初代の制服やBGMを使っていたりと、原点回帰しています。山田涼介さん版の演出を担当している木村ひさし監督は、初代の演出をしていた堤幸彦監督の作品に助監督として多く参加していて、演出の雰囲気も似通っているところがあるのですよね。
金田一や美雪の設定も原作とほぼ同じ。序盤の方では原作の金田一の髪型を微妙に再現していたのが微笑ましい。


今作は他のシリーズより剣持警部の出番が少なめで、登場するのは連ドラ版から。佐木竜二(有岡大貴)始め、ミス研メンバーの出番が多めで青春モノ感が強いですかね。高遠さん(成宮寛貴)は最初のスペシャルドラマからシリーズ全体に関わっています。

 


スペシャルドラマ(2013年1月)
●香港九龍財宝殺人事件

金田一少年の事件簿 香港九龍財宝殺人事件 [DVD]
 

 日本テレビ開局60周年記念作品として制作され、海外ロケや海外俳優さんが出演したりと豪華なスペシャルドラマ。が、外国人俳優さんの台詞はまさかの声優さんによる日本語吹き替えになっていて笑ってしまう(^^;)。最初に観たときは衝撃でしたね。


初っ端に高遠さんが少し登場しているのですが、「どうした!?」って感じの奇怪な登場と扮装だった。メイントリックもちょっと笑ってしまうようなものでしたね。

 


スペシャルドラマ(2014年1月)
●獄門塾殺人事件

金田一少年の事件簿 獄門塾殺人事件 [DVD]

金田一少年の事件簿 獄門塾殺人事件 [DVD]

  • 発売日: 2014/03/26
  • メディア: DVD
 

 一発目のスペシャルドラマの後に連ドラをやるのかと思いきや、何の音沙汰もなく丸一年経ってまたスペシャルドラマ。原作では日本が舞台のお話なのですが、このドラマでは何故か舞台がマレーシアの密林の中になっていて、登場人物も一部外国人に変更されています。本当に謎の変更。
「香港九龍財宝殺人事件」に登場した李(リー)刑事(ウー・ズン)が再登場。また日本語吹き替えである。吹き替えをしていた声優さんが浪川大輔さんから東地宏樹さんに代わっています。

 


●連続ドラマ 第4シーズン 全九話(2014年7月~9月) 

第一話 銀幕の殺人鬼
第二話 ゲームの館殺人事件
第三話 鬼火島殺人事件(前編)
第四話 鬼火島殺人事件(後編)
第五話 金田一少年の決死行(前編)
第六話 金田一少年の決死行(後編)
第七話 雪影村殺人事件
第八話 薔薇十字館殺人事件(前編)
第九話 薔薇十字館殺人事件(後編)

 

この連続ドラマは金田一少年の事件簿N (neo )』のタイトルでの放送でした。
原点回帰な作品ですが、初代の時にはいなかった高遠さんが関わってくるので、そこら辺は大きく違う。

原作や二代目・松本潤さん版では「魔術列車殺人事件」で高遠さんが犯人として出て来て、金田一に真相究明されて一旦逮捕されたものの脱獄、その後犯罪コーディネーターとなる・・・ってな流れですが、今作では高遠さんが最初から犯罪コーディネーターで、金田一の事が気になってちょっかい出してくるという設定なので、原作ほど因縁のライバル感はないです。最後の「薔薇十字館殺人事件」では共闘していますしね。

個人的には松本潤さん版の高遠さんより今作の成宮寛貴さん演じる高遠さんの方が好きです。
原作の後半での事件が多いなか、かなり前の作品であるノベルス版の「鬼火島殺人事件」が入っているのが驚き。体力重視なトリックを実写で観ることができたのには感謝をするべきなのかもしれない。

 

 

 


以上、2020年現在四代目まで。

 

 

 

 

 

 

 

 


五代目は・・・?
四代目まで紹介してきた訳ですが、今後五代目のドラマが作られることは果たしてあるのでしょうか。


漫画【金田一少年の事件簿】は【金田一37歳の事件簿】に引き継がれる形で完結しているので、「少年」の方はもうドラマ化はないかなぁ~という気はします。

 

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「少年」の方も実写化していない事件はまだ数がありますので、やろうと思えば出来るんですけども。
でもやっぱり、今現在連載・話題になっているのは「37歳」の方なので、今実写化するとなったらこっちなのでは。
初代から20年以上経っていますし、最初の頃の事件をリメイクするとかもアリなんじゃないかとは思いますけどね。現に金田一耕助ものとかは同じ事件を役者やスタッフを変えて何度も放映していますし。

 

※2022年4月から五代目新作ドラマ放送が決定しました!詳しくはこちら↓

 

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もし【金田一37歳の事件簿】を実写化するなら、やっぱり初代の堂本剛さんに演じて欲しいなぁと思ってしまうところ。年齢もピッタリだし。しかし、「37歳」はまだ美雪が登場していないし、もうちょっと話が進んでからでないと駄目ですかね。やっぱり初代キャストでやるなら堂本剛ともさかりえコンビで事件追っているのが観たいし・・・。剣持警部や明智さんの問題もある。正直、明智さんは代えてくれたほうが・・・と、思う(^_^;)。

 

原作では人気があって主要人物のうちの一人である明智さんですが、ドラマでは初代のスペシャルドラマなどにちょろっと出た程度で、その後のドラマシリーズでは存在ごと省かれています。人気があるぶんキャスティングしづらいのか、出したら主役を食ってしまうからなのか・・・もし今後ドラマ化があるなら実写版の明智さんにも期待したいところですね。

 


ファンとして、どんな五代目ドラマになろうとも見届けたい所存です。夢を見ながら待つ!

 

 

 

 

ではではまた~

犬養隼人シリーズ 4作まとめて紹介!あらすじ・概要・映画など~

 

こんばんは、紫栞です。
今回は中山七里さんの【刑事犬養隼人シリーズ】をまとめたいと思います。

切り裂きジャックの告白 刑事犬養隼人 (角川文庫)

犬養隼人シリーズとは
犬養隼人は警視庁捜査一課の刑事として、中山七里さんの作品に度々登場する人物。各シリーズで世界観を同じくしている中山七里作品ではお馴染みの脇役刑事さんでして、【刑事 犬養隼人シリーズ】はその犬養隼人が主役として活躍しているシリーズです。
昨年から中山七里作品をちょこちょこ読んできたのですが、

 

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今度は【刑事犬養隼人シリーズ】の四作目「ドクター・デスの遺産」が映画化されると知ったので、このシリーズをまとめて読んでみた次第です。

 

犬養隼人がどんな人物かというと、野郎の嘘を見抜くのが得意な警視庁内では検挙率一・二を争う刑事。
端正なルックスの持ち主で、刑事になる前は俳優養成所に通っており、その頃に表情筋の動きや無意識下の仕草などで嘘を見抜く技術を習得。しかし、なまじルックスが良いおかげで若いころから女性に困ったことがなく、向こうから次々に寄ってくるので今まで相手女性の気持ちを汲むこともなくここまできてしまったためか、現在30代半ばでバツ2の独身。男ぶりはいいものの、女心にはとんと不得手な〈無駄に男前な犬養〉という称号を警察内で与えられている。


と、なんだか同性にとっても異性にとっても腹立たしいような人物設定ではありますが(^_^;)。クールで優秀な刑事ですので、上司や同僚には信頼されています。

 

最初の奥さんとの間に病気療養中の一人娘がおり、月に一度は必ず娘のいる病院に見舞いにいくことを己に課しています。なので、長編では毎回お見舞いに行くシーンが挿入されています。娘は犬養に対していつも冷ややかな態度ですが、このシーンでいつも事件への士気を高めたり発想のヒントを得たりするといった流れ。

長編ではダークヒーローというか、有名な悪役の名称を綽名とする犯人と対峙するのを決まりとしているようで、社会問題をテーマとして扱う推理小説。中山七里作品なので、もちろん終盤にはどんでん返しあり。社会問題を扱いつつ、ラストはどんでん返しで読者をアッと言わせるのは中山七里作品でよく見られる特徴ですね。

 


では、シリーズを刊行順にご紹介。

 

 

 

 

 

 


●「切り裂きジャックの告白」 

  長編。
臓器をすべてくり抜かれた死体が発見される事件が続けざまに発生。犯人は「ジャック」と名乗ってテレビ局に犯行声明文を送りつけてくる。“切り裂きジャック”の模倣、愉快犯の無差別殺人かとみられたが、捜査していく中で被害者達はいずれも近年に臓器移植をうけた患者達であることが判明。犯人「ジャック」も世間に向けて驚きの告白をして――

と、いったお話。

連続殺人犯として世界一有名な通称「切り裂きジャック」。今作は1888年切り裂きジャックが死体に施した損壊、“臓器を切り取る”という箇所を使い、現在の臓器移植問題が絡んだ事件を描いているのが秀逸な点。最初、猟奇性に気を取られるが実は・・・といったものですね。

読者が特に猟奇的な犯行に関心が囚われてしまう理由の一つとしては、同作者による『連続殺人事件カエル男事件』が念頭にあるからというのもあると思います。

 

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 事件の概要が似ていますし、『連続殺人事件カエル男事件』の主役・古手川が警視庁に出向中で犬養とコンビを組んで相棒として登場しているのもまたダメ押し。時系列としては、今作は『連続殺人事件カエル男』事件の後となります。なので、古手川の成長も少し拝める後日談として読むことも出来ますね。古手川の無数にある傷跡を見て、「歴戦の勇者」なんじゃないかと犬養が勘ぐるのが可笑しい。そう、古手川は不死身だから・・・。

 

臓器移植云々なお話であり、事件が起こったことによって世間で臓器移植に対しての議論が巻き起こる・・・と、いう中山七里作品お馴染みの展開をする訳ですが、これも毎度のことながら、世論がこんな極端な移植反対意見に傾くのかという疑問が。
しかし、臓器移植を受けた後も免疫抑制剤の投与を続けなければいけないとか、品行方正な生活をしていないと批判の対象になるなど、改めて気付かされる部分も多かったです。移植手術すればすぐ元気になって治療も終了するのだと思いがちですが、それは間違いなのだなぁと。
ミステリとしては予想通りの犯人と見せかけてどんでん返しがあり、最後の最後まで楽しませてくれます。「どんでん返しの帝王」とあって、中山七里作品だといつも「このままでは終わらないんでしょ?」と期待してしまうのですが、その読者の期待に今作も応えてくれています。
しかし、「息子はまだ生きている」と提供した臓器に固執する母親がでてくるのですが、この母親の心情と最終的に判明する真相とが合致しなくて不自然さが残りました。この母親なら“ジャック”のやった事が許せなくって怒り狂うと思うのですけどねぇ・・・。

 

 

 

●「七色の毒」 

 短編集。
一 赤い水
二 黒いハト
三 白い原稿
四 青い魚
五 緑園の主
六 黄色いリボン
七 紫の供花
と、タイトルの通り、それぞれ色の違う毒が描かれる七編収録。


私は中山七里さんの短編集を読むのはこの本が初だったのですが、40ページほどの短編でもキチンとすべてに驚きの真相・どんでん返しがあるのにはしました。毒っ気の強い悪意が見え隠れする、個人的に非常に好みの短編集です。
ミステリの仕掛けは勿論ですが、収録されている七編はどれも実際に世間を一時騒がした事柄が盛込まれていて、読んでいると当時のニュース・マスコミ報道などの記憶が蘇ってきますね。「白い原稿」に至ってはあまりにも“まんま”で何だか笑ってしまいます。かなり攻めてるなぁと。心配になるほどです。やっぱり作家としては“あの人”の小説家デビューの仕方は思うところがおありなのでしょうね(^_^;)。

私が特に好きなのは「黄色いリボン」。子供の視点での語りでSFチックで幻想的な話が展開されるも、最後に明かされる真相は超現実的な毒。他の短編も長編もそうですが、中山七里作品は色々な要素を欲張りに盛込みつつも、最終的にはしっかりどんでん返しミステリとして話しをまとめているのには感服しますね。短編だと特にこの部分の作者の技量を感じることが出来ます。

 

 

 


●「ハーメルンの誘拐魔」

 長編。
記憶障害を患っている15歳の女の子が、母親と一緒に外出中に忽然と姿を消した。現場には生徒手帳と「ハーメルンの笛吹き男」の絵葉書が。その後も少女が誘拐される事件が連続して発生。誘拐された少女たちは皆、子宮頸がんワクチンに関わる子たちだった。そんな中、「ハーメルンの笛吹き男」から、製薬会社と産婦人科協会に70億円の身代金を要求する手紙が届き・・・な、お話。

子宮頸がんワクチン被害問題がテーマ。一時報道番組などで取り沙汰されていたことは覚えがあるのですが、記憶障害の病状まで起こるとは知らなかったな~と、思いながら読んでいたのです。
が、読後に少し調べたところ、子宮頸がんワクチン被害に関してはまだ全容が明らかにされているとは言い難く、まったく別の意見や派生問題などもあって、作品で「これが真相だ」というように扱うのは危険というか、アンタッチャブルなテーマのようです。なので、『ハーメルンの誘拐魔』は今後も映像化は避けられるのではないかとか言われていますね。
今作を読むと「製薬会社や産婦人科協会許すまじ!」という気になってしまいますが、書いてあることを丸呑みに信じるべきではないのかもしれません。医療問題はやっぱり難しいですね。

 

個人的にはワクチン被害問題への意見よりも、推理小説としてアンフェアな部分が気になってしまってモヤモヤしました。冒頭に被害者の母親視点で誘拐されたときの心境が描かれているのですが、この時の母親の心境が、最後に明かされる事件の真相と辻褄が合わないのですよね。事柄だけではなく、心境面での辻褄も合わせてくれないと駄目だろうと。うーん、ミステリならこういった部分はキッチリさせるのが前提だと思うので、これはいただけないですね。
身代金受け渡しの際の犯人との攻防など、今までにない犬養が見られるのは面白いのですが、最後のどんでん返しを読んでもスッキリしなかったのが残念です。やはり答え合わせは徹底的に。

 


●「ドクター・デスの遺産」

 長編。

警視庁の通信指令センターに少年から通報が。自宅で病気療養中だった父親が、“悪い医者”に殺されたというのだ。最初は子供の悪戯による通報かと思われたが、犬養たちが調べてみると、かかりつけ医ではない医者が確かに訪れていたこと、遺体に治療とは別の薬物が注射されていたこと、さらに、少年の母親が「ドクター・デス」と名乗る“安楽死を20万で請け負う”黒い医者と接触していたことが判明。「ドクター・デス」は自身のサイトで「今までに何例も安楽死を手掛けている」と書いていた。犬養たちはサイトを足掛かりに「ドクター・デス」を追うが・・・な、お話。

今度は安楽死がテーマ。また難しい問題を・・・てな感じですね(^_^;)。「ドクター・デス」って名称、私は知らなかったのですが、積極的安楽死を推奨したジャック・ケヴォーキンという病理学者がその異名で呼ばれていたらしいです。
安楽死を推奨する医者というは、日本だと手塚治虫の漫画作品『ブラック・ジャック』に登場するキャラクター「ドクター・キリコ」が有名ですね。ドクター・キリコ事件」とかありましたし。作中でキリコの話もしてくれるかと期待したのですが、残念ながらしてくれませんでした。しかし、作中のサイト〈ドクター・デスの往診室〉というのは「ドクター・キリコ事件」をモデルにしたのかもしれません。

今作はミステリ的仕掛けというよりも、事が判明してからの終盤の展開が見物ですかね。安楽死は様々な意見があり、明確な正解など見いだせるはずもないものですので、当然色々と考えさせられます。300ページちょっとの話で安楽死の様々な側面がすべて描けるはずもないので、そこら辺はやっぱり物足りなさというか、別意見が言いたい気分になってくる。文庫版では宮下洋一さんの解説が別の側面での問題を指摘していて、補われたようでスッキリしました。

 

 

 

以上、2020年4月現在で4作刊行。

※2020年5月29日にシリーズ5作目となる「カインの傲慢」が刊行されました!

 

カインの傲慢 (角川書店単行本)

カインの傲慢 (角川書店単行本)

 

 

 

 

 

 


医療×ミステリ
シリーズの主要人物は犬養の他に、上司の麻生と三作目『ハーメルンの誘拐魔』からコンビを組んでいる(第一作にも脇で出ている)女刑事・高千穂明日香、そして犬養の娘・沙耶香
沙耶香が肝機能障害で透析治療を受けているという設定のためか、【刑事犬養隼人シリーズ】の長編はすべて医療絡みのものが続いています。主人公の犬養自身は警視庁捜査一課刑事という設定なので、医療物で無理に統一することはないのではないかと思うのですが、今後も医療問題提起が続くのでしょうか。

規格外の弁護士【御子柴礼司シリーズ】

 

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 などと違って、犬養は法律厳守側の刑事なので、その視点での問題提起はどうしても体制批判的になりがちですね。一方的な批判というのは、どんなに正しく思える主張でも読んでいると疲れるもの。真逆の意見というのも一応作中で触れられてはいるのですが、病気の娘がいる犬養視点ですと、どうしても病人側の意見が強めになってしまいますね。
医療とミステリの掛け合わせ作品は海堂さんなどが有名。

 

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医療問題を扱っているとあってネタが被っている部分もあるのですが、医療の部分に関してはやはり医者である海堂尊さんの描き方の方がリアリティを感じます。

 

短編集の『七色の毒』が凄く面白いし、医療問題以外の【刑事犬養隼人シリーズ】長編も読んでみたいなぁ~と思うのですが・・・どうなのでしょう。

 

犬養の娘・沙耶香ですが、シリーズ第一作『切り裂きジャックの告白』では取り付く島もないほど犬養に冷ややかな態度をとっていたものの、シリーズを追うごとに態度が軟化してきています。

『ドクター・デスの遺産』では犬養の前でBL本の説明をしていてビックリした(^^;)。

犬養は妻子ある身でありながら女作って家を出て行った男ですからね(しかも、その女ともすぐ別れた)、娘としては嫌って当然で、病室に通われても気分が悪くなるってなもんですよ。それを普通に会話してくれるようになっているのだから、沙耶香ちゃんは相当いい子ですよね。個人的にはもっと痛い目に遭わせろと思うのですけど。浮気男許すまじ。

 

相棒の高千穂明日香は何故か犬養を嫌っていて、嫌っている理由はまだ明かされずじまいです。ま、妻子ある身でありながら女作って家を出て行った男という事情を知れば、女は皆嫌うかもですが。

しかし、嫌っている割にはことある毎に犬養を巻き込もうとしたりするなど単純に嫌っているということでもなさそうな気配も。今のところ、訳もなく犬養を嫌って捜査で足を引っぱる相棒状態で、やたらとムカムカする存在なのですが・・・今後に期待ですね。

 

 

 

映画・ドラマ
シリーズの最新作である『ドクター・デスの遺産』は2020年映画公開予定です。キャストは犬養隼人綾野剛さん、高千穂明日香北川景子さん。

 

犬養隼人シリーズは2015年と2016年にテレビ朝日スペシャルドラマで2作放送されています。このドラマでは犬養隼人を沢村一樹さんが演じていました。映像化されたのは切り裂きジャックの告白』と短編集『七色の毒』に収録されている「白い原稿」

私はこのドラマを観られていないのですが、沢村一樹さんの方が原作の犬養のイメージには近いですね。原作では犬養は30代半ばの設定なので、年齢はちょっと合わないですが。
原作ですと犬養と明日香はもっと年齢差があるイメージ。なので、映画では色々設定を変更されてになるかもしれませんね。

 

 

 

映画化で気になった方などは是非。

 

 


ではではまた~

 

 

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『罪の声』ネタバレ・感想「グリコ・森永事件」をモチーフにした”まるで真実”な小説!

こんばんは、紫栞です。
今回は塩田武士さんの長編小説『罪の声』をご紹介。

罪の声 (講談社文庫)


2020年公開の映画『罪の声』と、現在【イブニング】にて連載されている漫画『罪の声 昭和最大の未解決事件』の原作小説ですね。

 

あらすじ
2015年夏。京都で紳士服のテーラーを営む曽根俊也は、自宅で母から頼まれた探し物をしている最中に、亡き父のものらしき黒革のノートと古いカセットテープを発見する。ぎっしりと英字が書かれたノートには“ギンガ”“萬堂”という日本語表記が紛れていた。
そして、再生したカセットテープには、三十一年前に日本を震撼させた未解決事件「ギン萬事件」に使われた、男児が読み上げる脅迫音声が。その声は幼い頃の自分の声とまったく同じものだった。

一方、大日新聞大阪本社の文化部記者である阿久津英士は、年末掲載予定の昭和・平成の未解決事件の特集で「ギン萬事件」をやることになった社会部の取材班に、応援要員として加わることに。強引に借り出され、最初のうちはこの仕事に気乗りがしなかった阿久津だったが、取材をするうちに「ギン萬事件」の謎に取り憑かれ、没頭していく。

罪に怯えながらも叔父とともに父の交友関係を探っていく曽根と、記者として事件を追う阿久津。やがて、二人は互いの存在を知るが――。

 

 

 

 

 

 

 

 

グリコ・森永事件
『罪の声』は第7回山田風太郎賞を受賞し、さらに、週刊文春ミステリーベスト10」第1位、第14回本屋大賞第3位にも選ばれた話題作。本屋さんで平積みにされているのを見かけたことがある人も多いことと思います。
このカバー装画がなんとも印象的で記憶に残りますよね。

 

罪の声 (講談社文庫)

罪の声 (講談社文庫)

 

 この絵は2005年シェル美術賞入選作品である中村弥さんの「幼い記憶」という作品で、単行本、文庫本ともにこの絵が装画として使われています。

装画のために描かれたものではないので、この絵が小説の内容をモロに表しているということではないのですが、小説内容と上手く合致し、それでいて「これはどんな本だろう?」と興味を惹く得体の知れなさがあって、良いなぁと。選んだ人のセンスが光りますね。

 

 

今作は昭和59年から昭和60年までの間におこなわれた一連の企業脅迫事件「グリコ・森永事件」をモチーフにしたサスペンス小説。


「グリコ・森永事件」は「三億円事件」と並んで昭和最大の未解決事件として有名ですが、結構複雑な事件なので、「三億円事件」ほど詳細を密に知っている人は少ないかなと思います。現に私がそうだったんですけど(^_^;)。青酸入りの菓子をばら撒いたのと、“キツネ目の男”の似顔絵が不気味だなぁというぐらいですかね。

 

作者の塩田さんは兵庫県出身で元神戸新聞社の記者という経歴の持ち主。「グリコ・森永事件」は阪神を舞台に展開された事件なので、関西出身である塩田さんにとっては幼少から記憶に刻まれているものだったのではないかと。

大学時代から「グリコ・森永事件」をモチーフにした小説を書きたいという想いがあったようですが、筆力が高まるまで書かずに熟考していたとのこと。2010年に作家デビューしてから、2012年に神戸新聞社を退社、2016年に満を持して書かれた小説です。

そんな訳で、作者の気合いと熱意が十分に感じられる作品となっています。

作品はフィクションであり、企業名や名称などは変更されていますが、作中で描かれている「ギン萬事件」は史実の「グリコ・森永事件」をほぼそのままに、脅迫文・脅迫電話の内容、事件の発生日時、場所まで忠実に再現するのに努めたとのこと。
作者の徹底した取材により、非常にリアリティのある作品となっていて、まるでルポルタージュを読んでいるような感覚に陥ります。元新聞記者さんとあって、新聞社での描写や記者が事件を追う過程も抜群ですね。

 

 

 


映画・漫画
映画は監督が土井裕秦さんで、キャストはテーラーを営む曽根俊也星野源さんが、新聞記者の阿久津英士小栗旬さんが演じることが発表されているのみで他キャストはまだ不明です。
公開も2020年となっているだけで、何月何日なのかも不明ですね。今年の映画界は色々と先の見えない事態に直面しているので、2020年より公開が後になることもあり得るかもしれません。せっかく制作される映画ですから、安心して劇場で楽しめる状態で公開して欲しいものですが・・・。

 


須本壮一さんによる漫画『罪の声 昭和最大の未解決事件』は現在【イブニング】にて連載中で、コミックスは3巻まで刊行されています。

 須本壮一さんは今までに拉致問題を扱った『めぐみ』や、百田尚樹さんの小説『永遠の0』『海賊とよばれた男などの小説のコミカライズを多数手掛けている作家さんのようですね。

 

 

 

 

 

 

以下、ネタバレ~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


犯人
「グリコ・森永事件」(作中では「ギン萬事件」)は企業社長の誘拐から始まり、大手食品会社が次々と脅迫され、実際に毒入りの食品がばら撒かれたりした事件。

菓子製品がビニール包装されるようになったのはこの事件が切っ掛けで、「流通食品への毒物の混入等の防止等に関する特別措置法」通称「グリコ・森永法」が制定されるなど、社会に与えた影響も大きなものでした。


犯人グループは「かい人21面相」(作中では「くら魔天狗」)と名乗って企業への脅迫状とは別に、警察を挑発するような関西弁の挑戦状をマスコミや新聞社宛に送りつけ、現金受け渡しの際には犯人と警察での息詰まる攻防があったりと、サスペンス映画顔負けの劇場型犯罪だったこと、犯人グループが「終息宣言」をした後は一切の活動をやめて闇に消え、誰も逮捕されないままに未解決のまま終わってしまったのが、30年以上経った現在でも語り継がれる理由だと思います。

 

何回も企業に大金を渡すように脅迫した犯人たちでしたが、指定した場所に現われずにすっぽかしてばかりで、結局公には一度も現金を受け取ることがなかったとされています(企業側が警察に黙って裏で取引していたのではとも言われていますが)。


「これだけ世間を騒がしてるくせに何のつもりなのか」といった感じですが、『罪の声』では犯人グループの真の目的は企業を脅迫することで株価を操り、現金を得ることだったというものになっています。

犯人グループは9名で、それぞれに能力を活かしての構成でしたが、グループ内で意見の対立がおき、二つの派閥に別れてしまった。一枚岩ではなくなってしまったがために、後半は妙な犯行になってしまったと。

 

この計画の立案者が曽根俊也の伯父・達雄だったという真相に、俊也も阿久津もそれぞれに到達。達雄に会いにイギリスへと向かった阿久津は、そこで本人から犯行の詳細を聞きますが、昭和最大の未解決事件の内情はとても滑稽で陳腐なものでした。阿久津はやりきれない気持ちになります。

この小説で描かれる真相はフィクションであるものの、実際の犯人グループが起した行動のチグハグさと、作中の犯人グループ間での内輪揉めはよく合致していて、実際の「グリコ・森永事件」も犯人たちは本当にこのような事態に陥っていたのではないかと読んでいると思わせてくれます。
犯人たち、それぞれの行動が作り物感のない生々しいものだといいますか・・・。このリアリティは相当の綿密な取材と資料との照らし合わせがなければうまれないものでしょうね。脱帽です。


「キツネ目の男」に関しては「どんな男かよく知らない」と、謎が残るのもまた不気味さが残って良いですねぇ。

 

 

 


子供を巻き込んだ事件
「グリコ・森永事件」では被害企業との接触に三人の子供の声が入った録音テープが使用されていました。作者の塩田さんは「子供を巻き込んだ事件なんだ」という強い想いから今作を執筆されたとのことです。

 

今作は七章から成る物語りですが、六章の段階で犯人たちメンバーの特定、犯行目的や当時犯人グループの間で何が起こっていたかなど、事件の真相究明は殆どが済んでしまいます。「まだ最後の七章が残っているけど大丈夫?」と、読者として余計な心配をしてしまうのですが、それはもちろん杞憂に終わる。

 

この小説は、父・伯父の交友関係を辿ることで事件を追っていく曽根俊也と、記者として僅かな手掛かりから事件を追う阿久津英士の語りが交互になって展開されていきます。事件を追う中で自分の他に事件を追っている者の存在に気が付き、六章の序盤で阿久津が曽根のテーラーを訪れて二人は初めて対峙し、阿久津は俊也に「あなたの伯父さんに会ってきます」といってイギリスに向かい、曽根達雄から事件の真相を聞くことに成功する。

七章では阿久津が俊也に「一緒に人捜しをしませんか?」と、話を持ち掛けます。捜すのは犯行に使われたテープの声の主。俊也とは別に事件に巻き込まれた子供。
この二人の子供は、曽根達雄を計画に誘った犯人グループのそもそものリーダーで、元警察官・生島秀樹の子供、姉のと弟の聡一郎でした。

俊也はあまりに幼い頃のことで、自分の声が録音されて犯行に使われたことはまったく覚えておらず、自分が事件に関わったなどとは知らずに今までの人生を歩んできましたが、生島家の二人の子供はその時、中学生と小学生。父が事件の犯人であることも、自分たちが何をさせられたのかも分かっていました。

犯人グループの諍いで父である秀樹と姉の望は殺害されてしまい、残された母・千代子と聡一郎もこの事件に翻弄され続ける辛い人生を強いられました。

 

犯行の殆どが明かされた後に、俊也と阿久津は二人で聡一郎を捜す。その過程で事件が生んだ悲劇、もう一人の“子供の声の主”の人生を追う。


この七章こそ作者が今作で書きたかったことなのでしょう。いわば、六章までは前振り。しかし、七章で描かれる聡一郎の人生が読者の胸に痛切に響いてくるのは、六章までの圧倒的な取材によって現実と創作が曖昧になるほどのリアリティがあるからこそ。
読んでいて「いつになったら俊也と阿久津は出会うのだろう」と読みながら思っていたのですが、最終章で二人に聡一郎を追わせるとは・・・。「なるほど、そうきたか」とまたも脱帽ですね。

 

 

母親
七章の最後には意外な事実が明かされます。俊也が発見した黒革のノートとカセットテープは母・真由美が隠し持っていたもので、俊也の声を録音したのは伯父ではなく母だったのです。母も「ギン萬事件」に加担した一人だったのですね。
何というか、気を抜いていたところでの母の告白だったので驚きました(^_^;)。確かに、母に言われて実家で探し物をしていたらノートとテープを見つけたんだった、そうだった。
自分の寿命が短いことを悟って、息子が見つけるように誘導したと・・・。

学生運動でのことなどがあって「警察へ一矢報いたかった」『奮い立った』ってことですが、自分の子供の声を犯行に使うなんてぞっとしますよね。

 

事件が、自分の子ども同様、他の子どもたち、延いては社会全体をも巻き込んだことに、二十八歳の母はどれだけの想像力を持って対峙していたのだろうか。

 

軽はずみな行為によって、多数の人々の人生を狂わせることになる。犯罪とはやはり許されるものではないのだと知らしめる物語りですね。


エピローグで俊也と阿久津の二人は、聡一郎と生き別れになっていた母・千代子とを再会させることに成功。「ギン萬事件」があったことで出会った二人は、再び違う道を歩んでいきます。
やっと終わったという充足感と、少しの寂しさが残る結末。読みごたえ満載の1冊でした。


映画、漫画で気になった方、「グリコ・森永事件」に興味がある方は是非。

 

罪の声 (講談社文庫)

罪の声 (講談社文庫)

 

 

 

 


ではではまた~

 

 

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『虚構推理』アニメ・漫画の原作小説 概刊3冊まとめて紹介!全てが嘘の屁理屈合戦小説

こんばんは、紫栞です。
今回は城平京さんの『虚構推理』(小説版)をまとめて紹介したいと思います。

虚構推理 (講談社タイガ)

 

2020年1月から放送されていた連続アニメの原作小説。著者の城平京さんは『スパイラル~推理の絆~』を始めとした漫画原作で有名な作家さん。

 

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この『虚構推理』も片瀬茶紫さんによる漫画版があり、アニメも漫画版を基盤にしたものですが、

 

 

シリーズ1作目の長編『虚構推理 鋼人七瀬』は2011年に講談社ノベルスから刊行されたもので、漫画原作として書かれたものではありませんでした。その後、2015年に「少年マガジンR」でコミカライズされ、『虚構推理 鋼人七瀬』のコミカライズが終了した後も城平さんがシリーズものとして続編を執筆、片瀬さんがコミカライズするという形でシリーズが続いています。なので、小説版と漫画版が並行して存在する作品なんですね。
もはや漫画版の方が一般的知名度のあるシリーズなのかな?と、思われるのですが、城平京さんの小説が久し振りに読みたいなぁというのと、漫画版に比べて小説版は冊数が少ないというのもあって(^_^;)、小説版をまとめて読んでみました。

 

 


“虚構推理”とは
十一歳の頃に神隠しにあい、右眼と左足を奪われ一眼一足となって、あやかし達のあらゆる相談事を引き受ける、人とあやかしの間をつなぐ巫女「知恵の神」となった岩永琴子と、死とひきかえに未来を予言する妖怪「件(くだん)」と、人魚の肉を祖母に食べさせられたことによって不死の身体と「未来決定能力」をもつことになってしまった桜川九郎の二人が、あやかし達から相談された厄介事を人間社会でも受け入れられる虚構を構築して解決、あやかし・人の世との秩序を守る物語り。

 

簡単にいうと、100パーセント怪異によって起こった事件があったとして、「犯人は妖怪だよ」と説明したところで誰も受け入れてくれないから、なんとか“ありえそうな仮説”でねじ伏せて納得してもらおうというもの。


つまり、すべて嘘。


真相を究明するのではなく、事実でないことを事実であるかのように組み立てるのに、どんな虚構の推理をひねり出してくるのかを楽しむ物語り。著者の城平さん曰く、この特殊な設定は雨月物語「蛇性の婬」という一編から着想を得たものだそうです。

 

蛇性の婬  雷峰怪蹟

蛇性の婬  雷峰怪蹟

 

 シリーズ一作目の『虚構推理 鋼人七瀬』は第12回ミステリ大賞受賞作ですが、「真の解答は予め判った上で、嘘を前提とした解決を提示するのは果たしてミステリといえるのか?」と、論争になったようです。

謎を解明するのが推理ですからね。解決を“でっち上げる”のは推理とは言えないのでは・・・?と、確かに引っかかるところではある。


この特殊設定でどう知略をめぐらすかを楽しむ本として、ミステリかどうかといったカテゴリーなどには囚われずに読むべきシリーズだと思います。

 

シリーズ一作目の『鋼人七瀬』は最初の刊行が講談社ノベルス

 

虚構推理 鋼人七瀬 (講談社ノベルス)

虚構推理 鋼人七瀬 (講談社ノベルス)

  • 作者:城平 京
  • 発売日: 2011/05/10
  • メディア: 新書
 

 その次に講談社文庫版、

 

虚構推理 (講談社文庫)

虚構推理 (講談社文庫)

  • 作者:城平 京
  • 発売日: 2015/12/15
  • メディア: 文庫
 

 

そのまた次に講談社タイガから刊行。

 

虚構推理 (講談社タイガ)

虚構推理 (講談社タイガ)

  • 作者:城平 京
  • 発売日: 2019/01/23
  • メディア: 文庫
 

 

漫画版同様に片瀬茶紫さんが表紙イラストを担当していて、シリーズ続編の他2冊はノベルスや単行本などは出さずに、最初から講談社タイガでの刊行となっています。講談社タイガで刊行されるシリーズに移行した形ですね。

 

では、1冊ずつご紹介。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


『虚構推理 鋼人七瀬』 

虚構推理 (講談社タイガ)

虚構推理 (講談社タイガ)

 

  第12回ミステリ大賞受賞作。
非業の死をとげたアイドル・七瀬かりん。彼女の亡霊が、アイドルだった頃の衣装を身につけ、鉄骨を振り回して夜な夜な人を襲うという都市伝説「鋼人七瀬」が起した事件を、合理的な虚構を提示して謎を解決。“想像力の怪物”として力を持つ「鋼人七瀬」の存在を無効化しようとするお話。

 

登場人物の設定、都市伝説の元になったアイドルの詳細と、色々と説明が必要な為とは思われますが、ミステリ的ネタがたいしたものではない割には文量が結構あって、読んでいてどうしても「長いな」と感じてしまう。事がさほど起こらずに説明にページが割かれているのも単調に感じてしまう理由ですかね。
文庫で400ページ、ノベルスの漫画でも1巻~6巻がこのお話に使われているみたいです。某本格推理漫画でも一つの事件に使うのはせいぜい2冊なので、かなり長いという気が。アニメは全12話でしたが、この話をメインとして話数のほとんどが使われていました。長編本格推理は元々、連続ドラマやアニメには向かないと言われていますし、被害者がバンバン出るとかでないとストーリーで視聴者をずっと惹きつけるのは難しいですよね。

解決編でずっとネットの掲示板に書き込みをするという点はストーリー同様に斬新ではありますが、やっぱりネット上のみでの論説には若干の退屈さが否めない。どうオチをつけるかは、解決編を読んでいる途中で察しがつきました。


個人的には、「寺田さんが気の毒だなぁ」という思いがずっとつきまとったまま読み終わってしまったなぁと。主要人物たちも寺田さんに対する反応が淡泊で「冷たくない?」とモヤモヤする・・・(-_-)。
解決案を数個提示するというのは、スパイラルの小説版二作目『鋼鉄番長の密室』 

 を連想させるものがありますね。

 

 

 

 


『虚構推理短編集 岩永琴子の出現』

 

 

こちらは短編集。
第一話 ヌシの大蛇は聞いていた
第二話 うなぎ屋の幸運日
第三話 電撃のピノッキオ、あるいは星に願いを
第四話 ギロチン三四郎
第五話 幻の自販機
の、五話収録。

第一話~第四話は漫画化されていて、コミックスの七~九巻に収録されています。

「ヌシの大蛇は聞いていた」はアニメの導入として2話目で使われていましたね。小説でも漫画での「ヌシの大蛇は聞いていた」は『鋼人七瀬』の後に発表された作品です。


「ヌシの大蛇は聞いていた」と「幻の自販機」以外の話は“虚構推理している”とは言い難いもので、「これじゃあ、ただの妖怪探偵でしかないのではないか」と。“虚構推理”として、コンセプトは徹底して貫いて欲しいと個人的には思いますね。


この中では「幻の自販機」が一番このシリーズらしさがあって良いかなと思うのですが、解決案の加害者への名誉毀損感が強くて「う~ん・・・」な気持ちが残るラストでした。なにかスッキリしない。
でも、バラエティに富んだラインナップの短編がそろっているので、アニメはこの短編の話も数話使ってやったほうが面白かったのではないか・・・と、お節介な事を思ったりする・・・。

 

 


『虚構推理 スリーピング・マーダー』

 「二十三年前に妖狐と取引して妻を殺してもらった」と、大富豪の老人から告白された岩永琴子。老人は岩永に親族に自身が妻殺害の犯人だと認めさせてほしいと依頼するが、妖狐の力を借りた老人には完璧なアリバイがあった。妖狐の存在を伏せたまま、岩永はいかにして富豪一族に嘘の解答へ導くのか?と、いったお話。

 

六章から成る長編ですが、各章で事件とオチがあるので連作短編小説ともとらえることができる本になっています。
岩永の高校時代の話が導入に使われていて、生い立ちの詳細や学校生活をどの様に過していたかなど知る事ができ、第二章では九郎の従妹・桜川六花の『鋼人七瀬』事件後の生活の様子や内面なども垣間見えるのでシリーズファンには色々と嬉しいところがありますね。
個人的に、既刊の3冊の中ではこの『スリーピング・マーダー』が一番好きです。ミステリ的仕掛けは割と定番のもので物珍しさはないのですが、話の展開と決着のつけ方が「知恵の神」として、岩永琴子がどういう立ち位置で向き合っているのかが補強されています。ただの妖怪お悩み相談係ではないのが改めてよく分かるストーリーですね。


それにしても、富豪一族の人達が自分たちのことは棚に上げて批判的態度をとるのは読んでいて何だかムカつきましたね。
この作品に限らず、皆初対面の女子である岩永に対して失礼だと思う。小娘が多少気障りなことを言っても、いい大人なんだから大人な対応をしろと。『鋼人七瀬』では初対面で沙希さんが顔面を殴っていたし(警官でそれは問題だと思う)、短編集では寝ている岩永を見て「可憐だけど不吉で、不穏で、死の予兆をまとっているように見えるからスケッチさせてくれ」だの、横にいる九郎に頼んだりだとか。いいだけ失礼ですよ。「思っても言うな」と、言いたい・・・(-_-)。

 

 

以上、既刊3冊。

 

※続刊はこちら↓

 

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「虚構」で有るが故に
このシリーズは謎解きというよりも、いかに納得してもらうかという部分に主軸が置かれているもので、いわば、「嘘を楽しむ」といった趣向の読み物。


なので、虚構の推理を組み立てる上で、どうしても被害者や加害者にありもしない悪意があったかのように語らなければいけない状況が余儀なくされるのですが、これがやはり読んでいると少し引っかかってしまう点ではあります。読者は被害者がただ怪異にあってしまっただけだという事実を知っているので、本来は何もしていない人達に不当な言いがかりをつけている、名誉毀損しているという思いが拭えず、若干の不快感が残ってしまうのですね。

 

あと、怪異を扱っているぶん、線引きの曖昧さも気になります。
怪異を持ち出せば“何でもあり”といった状態になる危険性があるもので、ファンタジーとしてはそれも良いですが、ミステリには「怪異はここまでは出来るが、ここからは出来ない」みたいな明確なルールがないとなぁと思います。“都合良いところで妖怪パワー持ち出してきてる”と、やはり読んでいて思うところがチラホラリ。

個人的に、怪異側はこちらの世界に物理的干渉が出来るのに、普通の人間は触れることも出来ないというのが納得いかない・・・(^_^;)非存在は幻覚をみせて脅かすくらいがせいぜい・・・と、していないとなぁ。

こっちは触れないのに、向こうは撲殺出来ちゃうとかズルイよ。作中でも「なんという理不尽」といっていましたけど。

 

 

 


発展途上
難癖のような意見ばかり書いてしまいましたが、このシリーズはまだまだ発展途上なのだと思います。


設定が盛りに盛られている割には活躍しない桜川九郎とか、九郎の従妹でシリーズ全体の黒幕っぽい桜川六花もおそらくこれからどんどんと行動していくのではないかと。今のところ岩永琴子の印象ばかりが強いことになっていますけどね。

 

シリーズの主要人物である二人、岩永琴子と桜川九郎は恋人同士ということで、お話にラブコメ要素もあるのですが、すでに恋人同士なところからスタートなので、ラブコメとしてウキウキもワクワクも出来ないのが現在の実情。
九郎先輩の岩永への態度や扱いはてんで恋人へのソレじゃない。気遣っている素振りなどはあるし、庇ったりするシーンもあるのですが、恋愛感情とはかけ離れてみえる。利害関係が一致しているから一緒にいるといったような雰囲気。それでいて、恋人としてやることはやっているというのだから、意味がわからん。
作品は一貫して岩永の奇抜さが際立つように描いているのですが、個人的には九郎先輩の方が珍妙な心理の持ち主で、ある意味失礼で気持ち悪い人物のように感じる。

 

と、また難癖のようなことを書いていますが、ラブコメに関してもまだまだ発展途上なのだと思います。


通常は恋人同士ではなく事件に向き合う上でのパートナー止まりの設定にしそうなところを、「いくところまでいっている恋人同士」と態々設定しているのには作者の意図があってのことでしょうし、今後の展開でこの設定がいきてくるのではなかろうかと。九郎先輩の心理も謎解きの一つとして、徐々に明かされて今現在の印象はひっくり返されるかも知れません。

 

これからの期待値が高いシリーズですので、アニメなどで気になった方は是非。

 

[まとめ買い] 虚構推理
 

 

 

 

 

ではではまた~

『犯人たちの事件簿』8巻 感想 グランドフィナーレ感だが・・・?

こんばんは、紫栞です。
今回は金田一少年の事件簿外伝 犯人たちの事件簿』8巻を読んだので感想をひとしきり。

金田一少年の事件簿外伝 犯人たちの事件簿(8) (講談社コミックス)

金田一37歳の事件簿』6巻と同じく、こちらも買うのがいつもより遅くなってしまって悔しいところですが。

 

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今巻の表紙はCaseシリーズ最終巻の10巻のパロディ。

金田一少年の事件簿 (Case7〔下〕) (少年マガジンコミックス)

 

表紙が本編最終刊のパロディなので、この外伝もとうとう終わりか!?と、いう感じがプンプンしていますが、さてどうでしょう。(6巻もそうでしたけどね)

 

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8巻は「天草財宝殺人事件」「怪奇サーカスの殺人」「雪影村殺人事件」「金田一少年の決死行」の4つの事件収録。今巻は著者の船津さんの巻末書き下ろし漫画はなしでした。

 

 

 

 

 


●「天草財宝殺人事件」 

金田一少年の事件簿File(22) (講談社漫画文庫)

金田一少年の事件簿File(22) (講談社漫画文庫)

 

 犯人:和田守男

「天草財宝殺人事件」は、個人的にCaseシリーズの中で一番好きな作品で何度も読んだので懐かしさもひとしお。メイントリックが簡単だけど盲点を突いていて良い(と、思っている・・・)。
“天草に通う続けで子供たちに「白髪鬼」の噂話を流し続ける”と、いうのは私も当時本編読みながら「地味にめっちゃ大変だし、そんなことを吹聴してまわるおじさんって、そっちの方が子供たち怖がるんじゃ」と、疑問だった。包帯ぐるぐる巻きの顔で一回ホテルにチェックインするより労働がかなりありますよね。


一応、娘の手術費用の為ということではあるものの、和田さんの目的は完全にお金ってだけで、被害者はまったく落ち度がない人達なので、『悲恋湖伝説殺人事件』の遠野同様に酷い。 

 なので、和田さんは「ワテは鬼になる・・!!」と頑張っています。が、鬼になりきれないばかりに推理の鬼の金田一に敗北する。“解決編の詰めが完璧”というのが凄い納得。それもあってこの本編好きだった。テレビつけるタイミングが良すぎるのは神がかりすぎていると思いましたけどね・・・(^_^;)

 

 


●「怪奇サーカスの殺人」

 犯人:小椋乃絵留・小椋顕人

子供の姉弟が犯人の事件・・・だったね。て、感じ(^^;)。

この作品、自分の中で印象が薄くってあんまり深く考えてなかったのですが、14歳と12歳が逃走犯の男たちを計画的に殺すってだいぶ衝撃ですね。しかも計画を立てたのは12歳の弟の方。完全にヤバいガキだ。姉の乃絵留ちゃんが怖がるのも当たり前というもの。「私の弟がこんなにサイコキラーな訳がない」
14歳の少女の着替えを覗こうとする金田一は確かに、マジに一度裁かれた方がいい。
最後の、インタビューのタイミングが面白かったですね。

 

 


●「雪影村殺人事件」 

金田一少年の事件簿File(23) (講談社漫画文庫)

金田一少年の事件簿File(23) (講談社漫画文庫)

 

 犯人:島津匠

こちらの事件は一話のみ。

「雪影村殺人事件」は読者人気が高い作品なんですけど、ノスタルジックでやるせない雰囲気が魅力のものなので、『犯人たちの事件簿』といえどもギャグでやりにくいとは思います。
島津は野球が駄目になってから推理小説を書いていたとかで、その時に思いついたトリックを使ったということなのですが、天から二物を与えられているようで与えられてない島津は、天から見放されているように、自らが呼び寄せた金田一によって謎を解かれてしまう。
毎回のインタビューがアッサリしていて、「天・・やっぱりそっけない!!」と島津が叫んで終わるのが笑えます。

 

 

 

 

 

 


●「金田一少年の決死行」 

 犯人:周龍道(チャン ロンタオ)

とうとうCaseシリーズ最後の事件「金田一少年の決死行」ですね。

本編を読んでいた時は思いつかなかったのですが、龍道って確かに「体は子供 頭脳は大人」。22歳で成人しているしね。


高遠さんプロデュースの事件なのですけども、こうやって犯人視点で読んでみるとバカみたいなトリックばかりだったなぁ・・・と。

エレベーターで鏡使って一人を二人に見せるとか、明智さんを金田一が刺したように見せかける「リアルタイム合成トリック」とかね・・・。
「正直 寝ぼけた金田一がこちらに都合の良い動きをしてくれるのかは心配だが・・それを伝えると怒られそうなのでやめておこう」「あの・・・・これ・・・・難しすぎないか」発言が可笑しかった。イリュージョンすぎますよね、色々と。

 

 

 

 


グランドフィナーレ?
金田一少年の決死行」5話目は本編のCaseシリーズグランドフィナーレのパロディ。細かい部分で絵柄やセリフをパロっているので是非本編と見比べて欲しいです。こんなところまでパロってくれるとは・・・良作なスピンオフ漫画だなぁ。

 

で、このパロディで散々最終回感を出した後、まだ続くとインタビューの天の声が。続くんかい。

Caseシリーズで終わるという話だったが、編集部の方からあと単行本2冊やってほしいと頼まれたとのこと。めちゃめちゃ具体的な裏を教えてくれる・・

 

しかしながら、この漫画のコンセプトは「懐かしのあの事件を振り返る」。あんまりやってしまうと、そもそも本編事件が読者にとって懐かしくなくなるので、2008年の「血溜之間殺人事件」で区切るとのことです。

 

 

ま、近年のをやってもなぁ・・・と、なるからそこら辺で区切るのがギリギリでしょうね(^_^;)

 

第9巻は5月15日、最終刊となる第10巻は7月17日発売予定とのことで、2冊とも発売日が決定しています。
本当のグランドフィナーレまであと2冊!楽しみに待ちます!!


ではではまた~

 

 

 

『金田一37歳の事件簿』6巻 ネタバレ感想 再びの異人館ホテル!そして、”あの”女性が・・・

こんばんは、紫栞です。
今回は金田一37歳の事件簿』6巻を読んだので、あらすじや感想をひとしきり。

金田一37歳の事件簿(6) (イブニングKC)

 

3月にはもう発売されていたのですが、諸事情で色々とあって発売に気が付くのが遅くなってしまいました。新刊は発売されたらすぐに読むように毎回心がけていたので、4月も数日経ってからになってしまったのが自分的には凄く悔しい(-_-)。

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金田一37歳の事件簿』は1巻からずっと通常版と、なんやかやとオマケのつく特装版の2パターンで刊行されてきていたのですが、この6巻は通常版のみで特装版はなし。
特装版があるのだろうと思いこんで本屋で探してしまいました。今回は買うのが遅くなったし、「特装版は店頭分もう売れちゃったのかなぁ~」と(^_^;)。

 

そのかわりなのかどうかは分かりませんが、6巻ではアサヒの酎ハイ「STRONGまるごと搾りレモン」とのコラボ企画が実地されています。コミックスに付いている帯に書かれている応募番号を専用サイトに入力すると抽選で「STRONGまるごと搾りレモン」24本セットが50名に当たるらしいです。
酎ハイとのコラボって青年誌ならではですね~。流石37歳。

 

 

 

 

6巻は5巻から引き続き

 

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「函館異人館ホテル新たなる殺人」が1冊丸々しめています。

 

あらすじ
20年前に“赤髭のサンタクロース”事件のあった「函館異人館ホテル」。舞台イベントの仕事で因縁深くもふたたび「異人館ホテル」に訪れることになってしまった金田一一とその部下、葉山まりん。
トラブルがあったものの、箱館戦争をベースに制作された演劇『箱館ウォーズ』の公演前イベントを無事に乗り切れたと思った矢先、その後の舞台本番で出演者が舞台上で射殺されるという事件が発生。何者かが舞台で使うモデルガンを本物の銃にすり替えたことによる犯行とみられるが、警察が舞台関係者を聴取するも容疑者は絞り込めない。そしてまた新たな事件が――。
これは函館で箱館戦争を題材にした舞台をお祓いもせずにやると怪我人や死人が出るという亡霊「碧血鬼」の祟りなのか。それとも――。

金田一は部下の葉山まりん、仕事でこの場に居合わせた記者のいつき陽介、後輩である佐木竜次らと共に事件の真相に迫る。

 

 

 

 

 

 

 


異人館ホテル
異人館ホテル、ふたたび!な、今作の事件ですが、オペラ座館のときのように殺害方法や怪人名は同一のものではないので、“ふたたび”感は薄いです。

 

異人館ホテル殺人事件」は赤髭のサンタクロースという麻薬の密売人が絡む事件で、佐木(兄)が殺されてしまったりというものでしたが、

 

 

「函館異人館ホテル新たなる殺人」はアイドルグループ間のいざこざがメインで、「碧血鬼」なる箱館戦争の亡霊が怪人名になっています。

箱館戦争を題材にした舞台をお祓いもせずにやると怪我人や死人が~って、まんま四谷怪談なんですが、今回は犯人も別に脅迫状などで「碧血鬼」と名乗っていないし、そんな扮装をして犯行をしている訳でも見立てをするでもなく、単に金田一やいつきさんでそう綽名をつけて呼んでいるだけなので「う~ん」って感じ。怪人名出すほど事件自体がおどろおどろしくないので浮いているような気が。
幸村刑事にも「はっ!ずいぶん古臭い探偵小説みたいなネーミングですね」とか言われてしまっている。確かに客観的に考えれば「何かってに妙な綽名つけてんだ」だよなぁ・・・。

 

とはいえ、観客を前にした舞台上で殺人が起こるという点は共通しています。それと箱館を題材にした事件をやりたいというので「函館異人館ホテル新たなる殺人」なのでしょうかね。麻薬どうこうは今回の事件では関係なさそうですが・・・どうなのでしょう?


前巻では「函館異人館ホテル新たなる殺人」は1話目のみの収録で、いつきさんが登場していたのですが、今巻ではさらに佐木竜次も登場しています。佐木は1巻にも少し登場していたんですけどね。今回は映像会社の仕事で異人館ホテルに来ていて~という流れで本格的に(?)登場。

佐木にとって、異人館ホテルは兄が殺された場所なんですが、「もう20年も前のことだ」とまったく気にしていない様子。
佐木がいるということは映像記録要員ってことで。真相解明に100パーセント映像記録が関わってくる事件なんだなぁ~と、登場した瞬間思うのは金田一少年シリーズのファンあるある。


いつきさんや佐木と映像を観ながら推理を巡らしていくのもシリーズファンにとってはお馴染みで嬉しいところですね。

 

前巻で珍妙な推理を明智さんに披露していた幸村真之介刑事。今巻ではあの珍妙な推理を金田一本人に披露しています。

アホすぎてこの刑事に任せるのが不安になったのと(そうだよね・・・)、ジッチャンを「過去の人」という風に言われたのにカチンときて(“過去の人”ではあると思うが)、警察の捜査に協力することを申し出ています。

普通、このような申し出を受ける刑事はいないだろうところですが、挑発されて了承、捜査情報も教えると約束してしまう幸村刑事。やっぱりバカなんだなぁ・・・。

 

 

 

 

以下ネタバレ~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 犯人は・・・?

「函館異人館ホテル新たなる殺人」は今巻では完結していません。
終盤でもう事件関係者一同を集めての「“碧血鬼”はこの舞台の上にいます!!」を、やっているので(これ、皆「セキケツキってなんぞ」状態だと思うのですが・・・)、後3・4話で終わるのかなと。1つの事件を2冊以上またがないで欲しいなぁと、正直なとこ思いますね。

 

今作の謎の提示は
●舞台小道具のモデルガンのすり替えと舞台上での確実な殺害方法
●4メートル上に吊り上げられた状態で手首を切ったと思われる状況を他殺でどう成したか
の、2つ。

 

2つのうち1つ、自殺に見せかけた吊り上げ遺体のトリックは今巻でもう解明されています。
舞台の奈落を使ってのトリックでしたね。奈落は舞台上トリックでは定番のものなのでやはりなぁといった感じ。

「セリの外にも少し地を飛ばしてやれば出来上がり」と小さい文字で書かれていますが、それ、地味に大変なのではないかという気がする。鑑識が詳しく調べれば分かりそうですね。ま、詳しく調べないように自殺に見せかけているのですが。

 

残っている謎はモデルガンのすり替えですね。

すり替えたタイミングが問題になるのでしょうが、モデルガンだと思って演技していた水島に、被害者の心臓を確実に撃ちぬくというのは難しいだろうと作中でも触れられているので、おそらく被害者は水島が向けた銃で殺された訳ではないのだろうと思われます。少なくとも最初の被害者の綾野木ルカは。


本当の殺害方法についてのヒントは、“幕の合わせ目が火薬臭い”という部分ですね。う~ん。どんなトリックなんでしょうか。機械トリックにしろ、舞台上で犯人が行動しての方法だと思うのですが・・・。綾野木ルカの遺体発見が30分も遅くなったというのもトリックの要なのかな?皆気が付くのが遅くで読んでいてビックリした(^_^;)。

 

“アリバイ検証が根底からひっくり返る”と、金田一が作中で言っているので、モデルガンのすり替えは事が起こった後だったのでは。

そうなると直後に水島から銃を奪って本物の銃だと証明してみせた岡倉純が怪しいかなぁ。公演直前まで不在だった岡倉には、水島の舞台衣装の変更を知るタイミングがなかったのでは・・・と、いうか、そもそもイタズラの呼び出しで完璧なアリバイがあるというのが如何にも怪しい。

 

後、金田一が綾野木ルカの倒れる場面の前に席を立った理由がまだ解らずじまいですね。小道具が光ったとかかな?「異人館ホテル殺人事件」もそれが解明のヒントになっていたし。
覆面脚本家の三多村匠も、何らかの形で事件に関係しているだろうと思いますね。動機面に絡んでくるのかな?

 

 

 

“あの”女性!
次巻、7巻は2020年7月発売予定と巻末告知ページがあるのですが、こちらのページで次巻では“37歳の速水玲香”が登場すると予告されています。


玲香ちゃんは美雪に次いで現状が明かされずファンの間で近状が危惧されていた人物なので、次巻には大注目ですね。予告ページの絵を見る限り、五体満足ではありそうです。
20年前人気絶頂のアイドルだった玲香ちゃん。時を経てどの様になっているのか、金田一が「謎を解きたくない」理由に関わっているのか、気になるところですね。(今巻を読んだところ、いつきさんは金田一になった”何か”はまったく知らないようです)

 


そんなこんなで7巻、楽しみに待ちたいと思います!

 

※出ました!詳細はこちら↓

 

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ではではまた~

 

金田一37歳の事件簿(6) (イブニングKC)

金田一37歳の事件簿(6) (イブニングKC)

 

 

『啄木鳥探偵處』(きつつきたんていどころ)アニメ、原作小説 あらすじ・登場人物まとめ

こんばんは、紫栞です。
今回は伊井圭さんの『啄木鳥探偵處』(きつつきたんていどころ)をご紹介。

啄木鳥探偵處 (創元推理文庫)

 

虚実が入り混じった明治探偵譚
今作は1999年に刊行された本です。作者の伊井圭さんはこの本の第一話「高塔奇譚」で受賞して1996年にデビュー。2014年に亡くなられているので作品数は多くないのですが、今作をはじめ、時代ミステリを得意としていた作家さん。
2020年4月より、この本を原作としてアニメが開始されるそうで、PV映像を偶々目にして面白そうだったので読んでみました。

『啄木鳥探偵處』は明治四十年代の浅草が舞台。歌人で有名な石川啄木を探偵役に、啄木の親友でアイヌ語研究の国文学者の金田一京助(横溝正史金田一耕助命名に名前を拝借したのでも有名ですね)を助手役とした全五編の連作短編の探偵小説です。

 

概要としては、家族を養うために副業として探偵業を始めた石川啄木が、親友の金田一京助を強引に助手として調査に付き合わせて依頼される事件の真相を解明していくというもの。

東京生活時代の石川啄木が困窮に喘いでいたのは本当だし、親友のために金田一京助が生活面やお金をその度に援助していたのも本当ですが、もちろん副業で探偵業をしていたなどという事実はありません。史実と実在の人物を使っての、虚実が入り混じった明治探偵譚となっております。

 

 

 

 

 

 

 

 


各話、あらすじ・紹介
目次
●第一話「高塔奇譚」
明治四十二年九月の中旬。日本一の高塔、浅草十二階として名をはせる凌雲閣に、夜な夜な幽霊が現われる謎を解いてくれと依頼された石川啄木は、幽霊騒動を報じる新聞記事を手に金田一京助の元に訪れた。啄木に強引に誘われた京助が一緒に夜の凌雲閣へと赴くと、噂の通りに塔の十階部分に幽霊を目撃する。啄木に頼まれ、京助は探偵業の助手をすることとなるが――。

 

「高塔奇譚」は第三回創元推理短編賞受賞作。この短編が賞を受賞したことが後押しとなり、『啄木鳥探偵處』としてシリーズ化されたということのようです。トリックが云々というよりも、犯人が幽霊騒ぎを起した理由や、伏線の回収が素晴らしい作品。せつなくてやり切れない真相が胸を打ちます。

 


●第二話「忍冬」(すいかずら)
明治四十三年師走。千羽座の人気役者・橘屋乙次郎が死体となって発見される。喉笛を食い破られたような無残な死体の傍らには、浅草奥山の傀儡館にある評判の活人形「金銀花」の頭が口の部分にべったりと血を付けた状態で転がっていた。乙次郎は生前、この「金銀花」に懸想しているかのごとく熱心に傀儡館に通っていたらしく、巷では“人間と人形の奇怪な心中か”と囃されるが――。

 

ラクリ人形が命を宿したかのごとく囃される事件というのは、いかにもレトロなオカルトチックという感じでこのシリーズに合っている・・・と、いうか“有って欲しい”という代物。短い中で展開が色々と動くので一気に読めます。

 

 

●第三話「鳥人
明治四十四年の二月はじめ。空中飛行で人気を博している幸楽座の奇術師・榊樹神の元に「鳥人よ飛べ、分身が待つ黄泉の国まで飛ぶがいい」という脅迫ととれるような文が届く。榊のことが心配になった座長の山根は啄木に探偵を依頼するが、依頼を受けたすぐ後に榊樹神は電線に首を引っかけた死体となって発見される。これは奇術の練習中の事故死なのか?それとも――。

 

この本の中ではもっともページ数のある作品で、トリックなどはいかにもな機械トリックで珍しいものではなのですが、この物語りに影を落しているのが明治四十三年に起こった「大逆事件」。社会主義者たちが天皇の暗殺を企てたとして逮捕され、十二名の死刑執行がなされたという事件ですが、今では社会主義者たちを弾圧したかった当局のでっちあげだったという説が有力とされているもの。石川啄木社会主義に惹かれており、この事件には大きなショックを受けたようです。これらの事実を踏まえて読むとより感慨深くなる作品ですね。

 


●第四話「逢魔が時
明治四十四年四月。緑町の商店の商い仲間で作った「無尽の会」の会員の家から子供がかどわかされ、二、三日で戻されるという奇妙な連続誘拐事件が多発していたなか、同じく「無尽の会」の会員である成田屋の子供・市松がかどわかされる事件が発生。他の家と同様に二、三日で市松も帰らされるだろうと思っていた成田屋の主人・成田嘉平であったが、二ヶ月ちかくが過ぎても市松は帰されなかった。嘉平は啄木に探偵を依頼。具合の悪い啄木にかわり誘拐事件の調査をする京助だったが、成田屋に脅迫状が届き――。

京助が割と頑張って探偵をしているお話。最後に啄木がする謎解きもさることながら、途中の身代金強奪の活劇なども見物。成田屋を狙う前準備で犯人は四件のかどわかしをするのですが、もう物心が付いている子供をかどわかすってかなり大変なんじゃないかという気がする(^_^;)。

 


●第五話「魔窟の女」
明治四十一年春。啄木の口車に乗ってしまい、一緒に浅草私娼窟の銘酒屋「華ノ屋」でお女郎買いをしようということになった啄木と京助。場になれぬ京助は“おたき”という娼婦を買ったものの、事も起さずに早々に部屋を出、一人帰路についたのだが、そこで官憲から先ほどの娼婦“おたき”が死亡したと聞かされる。“おたき”がとった最後の客だと疑いをかけられ困惑する京助だったが、官憲が現場にあったノートだと差し出してきたのは啄木のローマ字日記だった。翌朝、店から帰ってきた啄木を京助は問い詰めるも、啄木の激しい罵りに、二人は互いが犯人だろうという怒鳴りながらの議論になってしまう。よもや友情もこれまでかという状況下、謎の少年が現われ――。

こちらは第二回創元推理短編賞の最終選考に残った「浅草情思」を加筆修正したもの。

“第二回”とあるので、第三回で受賞した「高塔奇譚」よりもオリジナルが書かれたのはこちらが先なんですかね?どのように加筆されたのかは不明ですが、この本の最後を飾るのに相応しい作品になっています。
「高塔奇譚」より少し時間を遡り、啄木が探偵業を始める切っ掛け・・・に、なったかもしれない事件が語られていて、このお話では謎解きをするのは啄木ではなく“謎の少年”です。
この作中での啄木はかなりの罵詈雑言を京助に吐いていて、「なんで?」と疑問なのですが、真相を知ると啄木の態度には大いに納得出来るし、思わぬ伏線にも唯々感服。
事件の仕掛けとは別に、最後の明かされる“ある”真相が本格推理小説ファンをニヤリとさせるものになっています。

 

 


以上、全五話。
皆簡単に自害するし、糞野郎も多いし、女性がことごとく酷い目に遭っていたりしていますが、それが明治という時代だったのかなぁと。当時の浅草の風景描写なども読んでいて面白いです。


アニメ・登場人物
アニメは2020年4月よりTOKYO MX、BSフジ、CSファミリー劇場ほかで放送・配信予定。
史実や実在の人物を使っての作品とはいえ、原作小説では登場する主要人物は石川啄木(浅沼晋太郞)と金田一京助(櫻井孝宏)のみで、他共通して登場するのは二人の妻たちぐらいなのですが、アニメでは主要人物がだいぶ増やされているようです。このアニメで追加されている人物たちが非常に興味深い。皆実在する文学界の著名人たちなんですね。

 

野村胡堂(津田健次郎)
銭形平次 捕物控』著者。金田一京助とは中学時代の同級生で、啄木の先輩。

●平井太朗(小野賢章)
後の江戸川乱歩。今作では小説家を目指す文学少年として登場。

吉井勇(斉藤壮馬)
後に「ゴンドラの唄」の作詞で有名になる歌人

萩原朔太郎(梅原裕一郎)
後に「近代詩の父」と呼ばれる詩人。

若山牧水(古川慎)
早稲田大学学生で歌人として活躍。

芥川龍之介(林幸矢)
後の有名文豪。今作では“孤高の天才高校生”として登場する(らしい)。


他、森鴎外夏目漱石も登場するらしいです。野村胡堂吉井勇などは実際に啄木や京助と交友があったとされている人物たち。他、有名文豪たちなどもお話に盛込み、アニメでは原作小説よりさらに史実や文学好きが愉しめるつくりに作り替えられているようです。

 

 

 

 

以下若干のネタバレ~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

啄木の病
石川啄木は明治四十五年に肺結核により二十六歳の若さで此の世を去っています。この本で描かれているのは明治四十一年から四十四年。すでに病状がかなり進んでいる状態で、咳き込んだり、入院している描写もあります。
しかし、具合の悪い啄木が描かれるものの、啄木の見栄っ張りで酒好きの女好き、たかり魔で嘘吐きで、人をくったような颯爽とした態度を崩さず、それでいて周りを魅了する“人たらし”な啄木が軽快に描かれているため、作品全体にはそこまでの悲壮感はないです。

最後はどの様に締めるのか気になりながら読んでいたのですが、最終話の「魔窟の女」の冒頭部分で初めて、この本は啄木の死去から十年あまりが経過した大正十一年から、京助が親友との探偵譚を回想して書いていたものなのだということが明らかにされます。

最後に啄木が探偵として活躍しない、“探偵業を始める切っ掛けになったかもしれない事件”を持ち出してくるのが粋だなぁと思いました。「二銭銅貨」を出してくるのもまた粋ですね。

全話に渡って描かれてた、京助の啄木への想いが仕掛けの一部として作用しているのも凄い。
「淫靡倒錯とは無縁の、いわば啄木は男としての、僕の最大なる憧れだったのだ」
と、いうことらしいですが、京助の啄木への陶酔っぷりは親友という枠をこえていましたからね。奥さんとしては啄木に頼まれるまま仕事手伝いし、お金を渡す主人には苛立ちもするだろうと。作中の奥さんは啄木が家にくる度、また金の無心かと嫌な顔をしています。

実際の石川啄木金田一家へのたかりっぷりは異様なほどだったらしく、金田一京助の息子である金田一春彦も子供心に驚いて呆れていたといいます。それでも金田一京助は啄木が死ぬまで援助し続けたというのだから、現実の金田一京助もこの本で描かれているのと同じくらいに、石川啄木に魅了されていたのかなぁと思えてきますね。

 

各話、話の終わりには石川啄木が記した短歌が事件を象徴するように出てきますが、本が始まる最初には啄木の歌集『一握りの砂』より

何かひとつ不思議を示し
人なみのおどろくひまに
消えむと思ふ

という短歌が示されているのが、この本を読み終わってみるとなんとも感慨深く胸を打ちます。
読む前は「何で石川啄木を探偵役にするのだろう」と疑問でしたが、史実を踏まえての物語構成はお見事で愉しめました。

 

アニメで気になった方は是非。

 

ではではまた~

 

啄木鳥探偵處 (創元推理文庫)

啄木鳥探偵處 (創元推理文庫)

 

 

 

一握の砂・悲しき玩具―石川啄木歌集―

一握の砂・悲しき玩具―石川啄木歌集―