夜ふかし閑談

夜更けの無駄話。おもにミステリー中心に小説、漫画、ドラマ、映画などの紹介・感想をお届けします

ガリレオシリーズ 9冊一挙に紹介! 順番、ドラマ・映画との違い諸々まとめ

こんばんは、紫栞です。

今回は東野圭吾さんの小説シリーズガリレオシリーズ】をまとめてご紹介。

探偵ガリレオ (文春文庫)

 

概要

ガリレオシリーズ】は帝都大理工学部物理学科助教授(准教授)の湯川学が探偵役を務める推理小説のシリーズ。

パターンとしては、警視庁捜査一課の草薙俊平が奇怪な事件に直面したときに湯川の元に相談しに訪ねて・・・と、いう、よくある刑事のブレーンもの。湯川と草薙は大学時代の同級生で友人。因みに、“ガリレオ”という名称は学生時代の湯川につけられた綽名から。警察への貢献が相次ぐと今度は警察内でも「ガリレオ先生」と呼ばれていたりします。

 

作者の東野圭吾さんは大阪府立大学電気工学科卒の元エンジニアさん。そんな前歴からか、科学・物理学を題材にしたミステリーを書きたいという思いからうまれたのがこのシリーズで、長編はともかく短編は科学的専門知識がないと謎が解けないものが殆どです。

なので、ま、読んでいてもまず解けないんですけども。通常推理小説というのはフェアに情報を提示して読者が謎解きを出来るように書かれるものですが、このシリーズは(特に短編は)推理小説の謎解きと物理学の面白知識、二つの要素の匙加減を楽しむミステリですね。

 

 

ドラマとの違い

東野圭吾さん自体が売れ売れの作家さんであるものの、この【ガリレオシリーズ】は2007年にフジテレビでドラマ化されたことで一気に世間での認知度が上がったシリーズだと思います。

ガリレオ Blu-ray BOX

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  • 発売日: 2013/04/24
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 ドラマでは湯川学を福山雅治さんが演じており、相方の刑事は草薙俊平から女刑事の内海薫に変更されて柴咲コウさんが演じていました。おそらく女性を相方にしてドラマを華やかにしようという目論みでの変更なのだと思います。原作は男性二人で交わされる友人間のやり取りが割と楽しいのですがね。オヤジ二人じゃダメですか・・・。ま、ドラマの湯川と内海のやり取りも面白かったですけど。

 

じゃあ草薙はドラマではどんな扱いになっているのかというと、湯川の協力の下解決した数々の功績が認められて本庁に栄転。内海に湯川を紹介するという役回りをし、その後は原作と比べると極端に出番は少ないものの、ドラマシリーズや映画で時偶登場しています。演じているのは北村一輝さん。

 

原作の湯川はドラマのような容姿端麗・スポーツ万能、女子大生にキャーキャー言われるような大人気の先生ではなく(有栖川さんの【火村シリーズ】がドラマ化された際、モテモテの准教授という原作の設定が変更されたのは『ガリレオ』で先にやられてしまったせいだと勝手に思っている・・・)、いきなり方程式を書き始めたり決めポーズしたり決めゼリフを言うこともないし、草薙もあんなエキゾチックな顔立ちの女性に受けが良い刑事ではない。ドラマ版では女性刑事を相方にするという変更以外にも色々な点が華やかになっています。

 

原作でもシリーズ途中から女刑事で草薙の部下として「内海薫」が登場して重要な役割を担っています。まるでドラマオリジナルキャラクターであるかのような「内海薫」ですが、ドラマ化されるより少し前に原作に先に登場しています。細かな設定はドラマとは異なるのですが、容姿などは何となく役者さんによせている。

 

このドラマシリーズはヒットして、スペシャルドラマや映画、連続ドラマの第二シリーズも制作されたのですが、第二シリーズからは大人の事情なのか相方がまた別の女刑事・岸谷美砂(吉高由里子)に変わっています(やっぱりオヤジ二人じゃダメなようだ)

今度は内海が異動になって湯川の後任を岸谷に~と、いう流れ。湯川担当をいちいち設けるのは警察機構としてどうなんだって感じですが。内海とは違い、岸谷美砂は今のところ原作には登場していません。

 

 

 

 

 

 

では原作小説を刊行順にご紹介。

 

 

 

 

 

探偵ガリレオ 

探偵ガリレオ (文春文庫)

探偵ガリレオ (文春文庫)

 

短編集。

  • 燃える(もえる)
  • 転写る(うつる)
  • 壊死る(くさる)
  • 爆ぜる(はぜる)
  • 離脱る(ぬける)

の、五編収録。

 

シリーズの名称そのままのタイトルの短編集。ガリレオシリーズの短編はこの第1弾の短編集以降も一貫して3文字の当て字タイトルがつけられています。私はこの当て字タイトルが「次はどうくるか」というのも読んでいる上での楽しみの一つになっていました。話の内容ともちゃんとマッチしていてセンスの良さが光っているなぁと感じる。

 

 

 

『予知夢』

予知夢 (文春文庫)

予知夢 (文春文庫)

 

 短編集。

  • 夢想る(ゆめみる)
  • 霊視る(みえる)
  • 騒霊ぐ(さわぐ)
  • 絞殺る(しめる)
  • 予知る(しる)

の、五編収録。

 

連続ドラマの第1シーズンで映像化されたのはこの短編集までになります。ドラマだと最終回で東京が大爆発だなんだと劇的な展開をしていましたが、原作ですとここまでの短編は草薙がオカルトチックな事件に直面して湯川に相談するというパターンがほぼほぼですね。

 

 

容疑者Xの献身

容疑者Xの献身 (文春文庫)

容疑者Xの献身 (文春文庫)

 

 長編。第134回直木賞受賞作。

 直木賞受賞作だからということもありますが、シリーズの中でというか全東野圭吾作品の中でも一番有名なのではないかというのがこの長編小説。

あまりにも有名で刊行当初は様々のミステリランキングで上位となり、評価されまくった作品で反響が大きいぶんその評価に物申す人も割といたりしますが(それだけ多くの人に読まれているってことなんですけどね)、なんやかんや言ってもやっぱり作者の代表作で傑作に数えられるべき作品だと思います。東野圭吾作品を読みあさっている人は「有名だから」とあまのじゃく気取って「あえて避けて通る~(^^)」とかせずに、とりあえず読んでおけよと思う。

読者の虚を突くトリックが素晴らしく、終盤で湯川がトリック解明のときにいった一言ですべてが解ったときは読んでいて興奮しました。それと同時に“献身”でこんな事までしてしまった容疑者に哀しさや残念な気持ちが押し寄せて切なくなってしまったんですけど・・・。

前2作の短編集とはだいぶ雰囲気が異なり、主役も湯川や草薙というよりは“容疑者たち”の方といった感じ。

2008年にドラマと同じキャスト・スタッフで映画化されることとなり、その情報を聞いた当初は「ドラマのあのコミカルさと『容疑者Xの献身』は絶対相容れないだろうけどどうするんだろう?」と思ったものですが、同じキャスト・スタッフであるものの、劇場版はドラマとは一味違う重厚感がある映像で確り原作の雰囲気に合わせていたので安心した記憶が。

容疑者Xの献身

容疑者Xの献身

  • 発売日: 2014/02/19
  • メディア: Prime Video
 

 映画も良作ですのでオススメ。

 

 

 

ガリレオの苦悩』

ガリレオの苦悩 (文春文庫)

ガリレオの苦悩 (文春文庫)

 

 短編集。

  • 落下る(おちる)
  • 操縦る(あやつる)
  • 密室る(とじる)
  • 指標す(しめす)
  • 攪乱す(みだす)

の、五編収録。

 

この短編集から新米の女刑事・内海薫が登場。原作の内海は基本的に捜査の際は草薙

とコンビを組んでいます。なので内海が居るからお役ごめんになる訳ではなく、ちゃんと草薙も今まで通り登場しています。ま、最初の短編集二冊の頃にくらべるとやっぱり登場シーンは減っていますし、湯川に相談しにいく役割が内海になってしまっていますが。草薙はこの本で巡査部長から警部補になっています。

  

ドラマではこの本の収録作から連続ドラマの第2シーズンになります。

ガリレオ II [DVD-BOX]

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  • 発売日: 2013/09/25
  • メディア: DVD
 

 原作ではこの短編集から内海が活躍するのに、ドラマでは真逆にここで去ってしまうので奇妙な感じ。ドラマスペシャルで内海が主役の「ガリレオXX」も放送されました。 

 

「落下る」「操縦る」の2編はドラマスペシャル「ガリレオΦ」で湯川と草薙の大学時代の話として変更されつつでしたね。

ガリレオφ [DVD]

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  • 発売日: 2009/02/27
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 大学時代の湯川は三浦春馬さんが演じていました。

 

 

 

『聖女の救済』 

聖女の救済 (文春文庫)

聖女の救済 (文春文庫)

  • 作者:東野 圭吾
  • 発売日: 2012/04/10
  • メディア: ペーパーバック
 

 長編。

女性が容疑者の事件なのですが、「草薙が容疑者に恋…しちゃって・・・る?」な感じになっちゃって、内海が湯川に相談するってなお話で割りと草薙が危ういことに。親友の危機!ってことで湯川が捜査協力することとなります。この長編らへんから湯川と内海が気安い関係になっている…と、いうか、内海がより気軽に湯川に相談持ち込む感じになっているかなと。仲が良くなっている。

トリックに関しては結構早い段階で解っちゃうかなぁと思います。女を甘く見ると痛い目にあうよ。

連続ドラマ第2シーズンの最終話はこのお話が使われています。ドラマですと草薙が不在なので、話の筋はかなり変更されていますけどね。容疑者の女性は天海祐希さんが演じていました。

 

 

 

真夏の方程式

真夏の方程式 (文春文庫)

真夏の方程式 (文春文庫)

  • 作者:東野 圭吾
  • 発売日: 2013/05/10
  • メディア: ペーパーバック
 

 長編。

湯川と少年がペットボトルロケットを飛ばすために奮闘するシーンが書きたかったという本作。

そのため、殺人事件がどうのこうのよりも湯川と少年との一夏の交流が主になっている長編ですね。子供嫌いで子供と接すると蕁麻疹が出るほどだった湯川ですが、この少年相手には最初っから普通に接しています。一瞬「作者、設定忘れちゃったのかな?」と疑ってしまうところですけど、子供でも論理的なら大丈夫なのだということらしい。『容疑者Xの献身』に続きこちらも2013年に映画化されていますが、映画の方ではちゃんと湯川が蕁麻疹出ないのを不思議がるシーンがあります。

真夏の方程式

真夏の方程式

  • 発売日: 2014/02/19
  • メディア: Prime Video
 

 作者の意図の通り、やはり湯川と少年が交流している場面が読んでいて面白いです。少年が湯川のことを「博士」と呼んで慕っているのが微笑ましい。

事件の方は、個人的にこの形の決着のつけかたが好きではなくってモヤモヤしてしまいました。

 

 

 

 

『虚像の道化師』(単行本版)

虚像の道化師 ガリレオ 7

虚像の道化師 ガリレオ 7

  • 作者:東野 圭吾
  • 発売日: 2012/08/10
  • メディア: ペーパーバック
 

 短編集。

  • 幻惑す(まどわす)
  • 心聴る(きこえる)
  • 偽装う(よそおう)
  • 演技る(えんじる)

の、四編収録。

 

(文庫版)

虚像の道化師 (文春文庫)

虚像の道化師 (文春文庫)

  • 作者:東野 圭吾
  • 発売日: 2015/03/10
  • メディア: 文庫
 

 短編集。

  • 幻惑す(まどわす)
  • 透視す(みとおす)
  • 心聴る(きこえる)
  • 曲球る(まがる)
  • 念波る(おくる)
  • 偽装う(よそおう)
  • 演技る(えんじる)

の、七編収録。

 

 

『禁断の魔術』(単行本版)

禁断の魔術 ガリレオ8

禁断の魔術 ガリレオ8

  • 作者:東野 圭吾
  • 発売日: 2012/10/15
  • メディア: ペーパーバック
 

 短編集。

  • 透視す(みとおす)
  • 曲球る(まがる)
  • 念波る(おくる)
  • 猛射つ(うつ)

の、四編収録。

 

(文庫版)

禁断の魔術 (文春文庫)

禁断の魔術 (文春文庫)

  • 作者:東野 圭吾
  • 発売日: 2015/06/10
  • メディア: 文庫
 

 長編。(単行本収録の短編「猛射つ(うつ)」を加筆して長編にしたもの)

 

『虚像の道化師』と『禁断の魔術』は元々1冊にまとめるつもりが話数の多さで2冊にわけたという事情があり、単行本はほぼ同時期に刊行されました。

 

私はどちらも発売されてすぐに単行本で購入したので今まで知らなかったのですが、文庫オリジナルで単行本の最後に収録されていた短編「猛射つ(うつ)」を改稿して長編作品『禁断の魔術』として改めて刊行。単行本に収録されていた他の「透視す(みとおす)」「曲球る(まがる)」「念波る(おくる)」の短編三編は『虚像の道化師』の文庫版にまとめて収録されています。

確かに「猛射つ(うつ)」は読んだ当初「短編なのもったいないなぁ」とか思ったものでしたが、まさか長編に書き直して文庫オリジナルとして出すとは・・・「ああ、そういう事しちゃいますか・・・」って感じ。

ともかく、今買うなら『虚像の道化師』も『禁断の魔術』も文庫版の方が良いということですのでそのように(^_^;)。

単行本刊行よりも先に連続ドラマの第2シリーズで映像化された短編もあります。ここまではほとんど映像化されている状態ですね。

 

 

 

『沈黙のパレード』

沈黙のパレード

沈黙のパレード

  • 作者:東野 圭吾
  • 発売日: 2018/10/11
  • メディア: 単行本
 

 長編。

久し振りに刊行された長編。それというのも、作者の東野圭吾さんが前作『虚像の道化師』と『禁断の魔術』が刊行された際のインタビューにてこれでシリーズ打ち止め的な発言をされていたので、完結したというような雰囲気が流れていたんですよね。『禁断の魔術』は湯川がニューヨークに行くところで終わっていますし。

 

私も一読者としてもう【ガリレオシリーズ】は書く気ないのかなぁ~と思っていたところに長編発売だったので驚きました。ネタ的な問題で短編は打ち止めであるものの、長編は続けていくってことなのですかね。

本作で湯川は准教授から教授となりニューヨークから日本に四年ぶりに帰還。草薙も警部・係長に出世していますが、内海とコンビを組んで捜査するところは相変わらずですね。シリーズ当初三十代半ばだった湯川と草薙も四十代となり、職場での立場も変化して登場人物たちの成長が感じられる1冊になっています。二人とも独身なのは相変わらずですけど。

※詳しくはこちら↓

 

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※『沈黙のパレード』は2022年に映画公開が決定しました。

 

 

 

以上、2020年現在で9冊刊行。

上記したように短編はオカルト的謎を科学知識で解明するもので、長編はいつもの東野圭吾作品の特徴である驚きの展開と人間味溢れるお話になっている印象。

 

 

※2021年9月にシリーズ10冊目の長編が出ました!詳しくはこちら↓

 

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後、単発作品ではありますが『むかし僕が死んだ家』という【ガリレオシリーズ】が刊行されるよりも前に書かれた長編も非常に密接な繋がりがあるので、シリーズを読む前でも後でもいいので読んで欲しいなぁと思います。

 

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“原作”として

シリーズ当初の解説でも書かれていたことですが、もともと作者が湯川のモデルだとしていたのは俳優の佐野史郎さんでした。映画『夢見るように眠りたい』

 

夢みるように眠りたい [VHS]

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  • 発売日: 1994/03/02
  • メディア: VHS
 

 

佐野史郎さんが演じていた探偵役が印象に残っていたのでイメージして書いたということらしい。シリーズ第1弾の短編集『探偵ガリレオ』の文庫版では巻末に佐野史郎さんによる解説が収録されています。

 

なので、当初は湯川の容姿に関して眼鏡のぱっつん前髪だという記述があったりしたのですが、ドラマ化されたことで作者も引きずられてしまったのか、ドラマ視聴者に合わせようということなのか、いつのまにやら原作の湯川の容姿が端正な顔立ちの足長男にすりかわっていたり、内海とのやり取りや他の部分でもドラマ化されたことでの影響がみられます。

ドラマ視聴者としてはその方が違和感なく原作小説として入り込めるのだろうし、ドラマでの映像イメージを損なうことなく楽しめるのでしょうが、個人的にはドラマ化されようと原作は原作として元々の設定や世界観を崩すことなく続けて欲しいと思っちゃうのですよね。作者自身が別物と示して欲しいというか。

私はドラマの第1シーズン視聴途中にこの小説シリーズを読み初めたのですが、もしドラマより小説を先に読んでいる状態で愛読者になっていたらドラマに合わせて原作が変更されるのにはかなりの抵抗があっただろうと思います。 

 

とは言え、小説での設定や展開は損なわれずに確りと面白いのでそんなに気にすることでもないかも知れません。

ガリレオシリーズ】の短編はともかく長編は今後も続くと思いますので、読者としてやはり楽しみにしています。   

 

 

 

 

ではではまた~

 

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『金田一37歳の事件簿』7巻 ネタバレ 玲香ちゃん登場!で、色々考察

こんばんは、紫栞です。
今回は金田一37歳の事件簿』7巻の感想・気になる点などをまとめたいと思います。

金田一37歳の事件簿(7) (イブニングコミックス)

この表紙絵のシチュエーションはなんだ!?って感じですが、作中での一コマです。前巻同様、今巻も特装版などはない通常版のみでの販売。

 

7巻は前巻から続いての「函館異人館ホテル新たなる殺人」が5話と新章の「騒霊館殺人事件」を2話収録。みなさんお待ちかねの”あの女性”も登場で必見の巻となっておりますよ~。

 

 

 

 

 


以下ガッツリとネタバレ~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


では先ず箱館異人館ホテル新たなる殺人」から。※詳しいあらすじなどはこちら↓

 

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前巻が解決編の途中までいっていたので、今巻では犯人の指摘と動機面。そして“あの女性”の現状と高遠さんサイドの不穏な動き・・・等々。色々と興味深い代物になっています。

 

事件の犯人なのですが、前にこのブログで予想したのが的中して岡倉さんでしたね。ま、拳銃のすり替えとか衣装の変更の件とか、状況はわかりやすく岡倉さんが犯人だと指し示していたのでこの犯人当てはそう難しいものでもない。
赤座殺害トリックですが、緞帳の裏側から本物の銃で狙い撃ちしたというかなりシンプルなものでしたね。もっと機械仕掛け的なものなのかなぁ~とか深読みしてしまっていた(^_^;)。だってあの距離で心臓を一発で撃ち抜くとか難しいかなって・・・。海外で何度も試射・訓練をしたんだろうってフォローがありましたけどね。計画犯罪への情熱が凄い。いつものことですけど。

今の科学捜査なら袖についた火薬を調べればモデルガンのものか本物の拳銃のものかわかるはずだと作中で言っていますが、科学捜査の云々を持ち出すなら、弾丸の入射角の違いでトリックだと早々にわかるのでは?と、いう気もする。

 

 

 

 


高遠さん案件
この「函館異人館ホテル新たなる殺人」、実は高遠さんが関わっていた事件だったらしく、今回の犯人・岡倉純は2巻でごちゃごちゃ言っていた

 

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「十二神」の中の一人でアポロンと名付けられていた人物だったことが判明。

 

「歌島リゾート殺人事件」の犯人・麻生早苗“アルテミス”と名付けられている結婚詐欺師で私利私欲のために犯行を繰り返す人物でしたが、岡倉純は婚約者の無念を晴らすための100%怨恨での犯行だったので「十二神」の中の一人だというのは何だか意外。一番の標的たちを殺害させた後に立派な芸術犯罪者にでも育てるつもりだったのかな?

ペラペラ喋ったあげくに毒殺された麻生早苗とは違い、岡倉純は高遠さんのことに関しては一切喋らずに死刑判決をおとなしく待つという選択をしています。長らく昏睡状態だった婚約者も死んでしまったし、救いのない終わり方をしていますね。

 

それに加え、この事件のラストでは事件関係者の一人・刈谷ユダが“ヘラ”と名乗る人物からボックスフラワーに入れられた多額の現金を贈られるシーンがあります。どうやら事件の詳細を教えた礼金らしく、刈谷さんは何のためにそんなことを要求されたのか分かっていない様子。“ヘラ”からは電話で「気になさらない方がよろしいと思います あなた自身のためにも」と忠告されていてヤバい匂いがプンプンする。今後刈谷さんになにもなきゃいいが。

 

“ヘラ”というのはオリンポス十二神の一人でゼウスの妻とされる女神。

高遠さんは自身が立ち上げた犯罪組織(?)「十二神」で“ゼウス”として振る舞っていたらしいので、“ヘラ”と名乗る人物は高遠さんの右腕で組織のナンバーツー的存在なことが予想される。檻の中にいる高遠さんの意を汲んで外で諸々の行動をしているってことでしょうかね。
今巻では電話のみだったのでまだ男性なのか女性なのかも判りませんが、まさか高遠さんの奥さんということもあり得るの、か・・・?なかなか想像出来ませんが、なんせ20年経過しているしそんなこともあるかも知れない。

 

それにしても、「十二神」の中の二人が「歌島」「異人館ホテル」と金田一にとって因縁深い場所で殺人事件を起したのは単なる偶然なのでしょうか?自身がプロデュースした犯罪計画に金田一を巻き込もうとするのはかつての高遠さんの癖でしたが、それが今でも健在だとしたら金田一が勤めている音羽ブラックPR社」がかなり怪しいことになるんですけどねぇ・・・。いずれも会社からの命令で出向いていった結果だったし。う~ん。どうなのでしょう?

 

 

 

 

 

 

 

 

速水玲香37歳
事件や高遠さんも気になるところですが、今巻はなんといってもかつてのアイドル・速水玲香の現状が明らかになるというというところが読者の一番気になるところだと思います。玲香ちゃんは“空白の20年”、「金田一が謎を解きたくない理由」に大いに関係しているのではと読者間で噂されていた人物なので大注目なんですね。

 

前巻の巻末で37歳になった玲香ちゃんが登場することが予告されていた通り、今巻では金田一と玲香ちゃんが対面しているシーンがありまして、コミックスの表紙絵は作中で金田一と玲香ちゃんが久し振りの再会に乾杯しているシーンを切り取ったもの。

「函館異人館ホテル新たなる殺人」の最初の方、観劇中に金田一が何かに気が付く描写がありましたが、あれは実は客席にいた玲香ちゃんに気が付いて声をかけようとした様子だったらしいです。直後に事件が起きてそれどころじゃなくなったと。事件とは関係のない描写だったのね・・・。関係あるのかと思ってアレコレ考えてしまった(^_^;)。

 

37歳の玲香ちゃんですが、容姿は多少髪型が大人っぽくなっている・・・かな?玲香ちゃんはシリーズの中で登場するたびに容姿が変化しているというか、造形が定まっていないキャラクターだったので(峰不二子的)さほどピンとこないというのもある。とりあえずお綺麗なままです。

 

判明した事実としては、金田一と玲香ちゃんが会うのは10年以上ぶり。玲香ちゃんは現在芸能界の仕事はしておらず、フラワーショップを経営していて東京在住ではない。もうじき高校を卒業する息子がいる・・・など。

 

37歳で高校を卒業する息子がいるということは十代の時に産んだ子ということになる。この時点でなかなかの驚きですが、やはり玲香ちゃんは「金田一が謎を解きたくない理由」となった事件にガッツリと関わっていることが今巻で決定事項となったことですね。

 

「息子さんのお父さんは・・・まだ・・・?」「ええそうね・・・」「・・・・・・・・・・・・・・・・ごめん」「なんで金田一くんがごめんなの?そんなの変でしょ」

 

と、いったやり取りから、どうやら息子の父親に“何か”があった事件らしい。金田一が謎を解いたことでその人がどうにかなってしまったのかな?「まだ・・・?」というのは罪を犯して刑務所に入ってまだ出て来ないとか、昏睡状態でまだ目が覚めないとか、そんな感じでしょうか。
その事件が起こったのはやっぱり妊娠中とか出産直後とかなのか。だとしたら金田一が謎解きから離れて生きてくのを決めたのも十代の頃で【金田一少年の事件簿】の時点から2・3年後とかか?

う~ん。まだまだ詳細は明らかになっていないので想像するしかないですが・・・。ますます気になりますねぇ。

 

玲香ちゃんですが、金田一に再会する際にボックスフラワーをプレゼントとして渡しています。“ヘラ”が刈谷さんに送った現金もボックスフラワーに入れられたものだったんですが・・・この符合には何かあるのかどうなのか。不穏・・・。

 

いまだに『金田一37歳の事件簿』で姿を現さない七瀬美雪ですが、玲香ちゃんが金田一にあっけらかんとした様子で「七瀬さんは今何してるの?」と聞いていることから、美雪は金田一が謎を解きたくなくなった切っ掛けとなった玲香ちゃん絡みの事件には直接の関係はなさそうですね。

じゃあ何で登場させないんだよ・・・!と、読者としては恨み節を吐きたくなりますが。いつまでこの生殺し状態は続くのだ・・・。

 

 

 

 

「騒霊館殺人事件」
7巻では二話のみ収録されている「騒霊館殺人事件」。

まだ二話だけで事件も起きていないので何とも言えませんが、ポルターガイストがテーマの事件で、まだ橋は落ちてないけど恐らくクローズド・サークルものです。コミックスの帯には“シリーズ最高傑作始動!!”と、書かれているのですが・・・そんなことを謳っちゃって大丈夫なのか(^_^;)?

 

雰囲気が『蝋人形城殺人事件』に似ている。

 

 

蝋燭がひとりでについていって「ポ・・・ポルターガイスト・・・!?」ってなっているところで終わっています。蝋燭を順番にともしてくれるって、なんだかロマンチックなポルターガイストですね。


俳優の松重豊さんにそっくりな人物が事件関係者として登場しています。ヨーロッパ輸入業をしていて、名前は仲根沢児郎。明らかに孤独のグルメ井之頭五郎のパロディですね。

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この人が犯人だったら驚くし面白いんですけど。おそらくそれはない。

 

※8巻出ました!詳しくはこちら↓

 

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正直、“空白の20年”や玲香ちゃん登場に気を取られまくって今現在の事件への印象が薄くなってしまった7巻ですが、2巻以来の物語り全体が大きく動く展開でドキドキものでした。今後もますます【金田一37歳の事件簿】から目が離せませんね!

 

 

 

 

 

ではではまた~

『犯人たちの事件簿』9巻 感想 本当の完結まで、あと1冊!!

こんばんは、紫栞です。
今回は金田一少年の事件簿外伝 犯人たちの事件簿』9巻をご紹介。

金田一少年の事件簿外伝 犯人たちの事件簿(9) (週刊少年マガジンコミックス)

 

今巻はKCコミック『金田一少年の事件簿 吸血鬼伝説殺人事件』のパロディ表紙。

金田一少年の事件簿 吸血鬼伝説殺人事件 (講談社コミックス)

本家のこの頃のはじめちゃんは顔が幼い。これは『探偵学園Q』の連載を経ての絵柄の影響であると思われる。因みに、「吸血鬼伝説殺人事件」は当時『探偵学園Q』との連動企画連載だった。

 

 

前巻でFILEシリーズとCaseシリーズの事件をやりつくし(「異人館村殺人事件」だけは大人の事情でやっていませんが)

 

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グランドフィナーレするかと思わせてしなかったこのスピンオフ漫画。

 

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最終章に突入という訳で、不定期連載期の事件に突入。※事件の順番や連載の変動にについて、詳しくはこちら↓

 

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今巻は「吸血鬼伝説殺人事件」「オペラ座館・第三の殺人」「雪霊伝説殺人事件」の3つの事件と巻末に「お正月だよ犯人集合」と作者・船津紳平さんの実録四コマ漫画2本を収録。

 

 

 

 

 

●「吸血鬼伝説殺人事件」

金田一少年の事件簿 File(27) (講談社漫画文庫)

金田一少年の事件簿 File(27) (講談社漫画文庫)

 

 犯人湊青子
Caseシリーズ完結から期間が空いての久しぶりの作品だった「吸血鬼伝説殺人事件」。非常に珍しい血液型のはずのボンベイタイプが事件関係者のなかにいすぎなので有名な事件なのですが、このスピンオフではこの部分には触れていなくってちょっと意外。

そのぶんと言うかなんと言うか、血を抜いて体重を軽くするメイントリックについてだいぶ触れられていましたね。体重がグラム単位で要になるトリックなんて無理がありすぎるのよ。体重なんて食べたものとかで変化するじゃんね。あと、ロングヘアでも5センチ髪切られたら気づくって。初対面で血を大量に抜かれて髪切られてって、美雪ホント災難(^^;)。


剣持警部と美雪に気をとられていて前半では金田一無視状態でさほど恐怖を感じないまま終わっているのが新鮮。「ジッチャンジッチャン・・・・うるせーんだよ!!」と、言っていますが、青子さんの前でそんなにジッチャン発言はしていない。
バスタオル云々は私たちもそこツッコんじゃうんだと本家読んだとき思った。二時間ドラマ暗黙の了解ルールが通報しない世界なのね・・・。シビア。

 

 


●「オペラ座館・第三の殺人」

金田一少年の事件簿 File(28) (講談社漫画文庫)

金田一少年の事件簿 File(28) (講談社漫画文庫)

 

 犯人湖月レオナ
オペラ座ふたたび(※ノベルス版の事件があいだにあるのでホントはみたびですけど)

 

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 ということで、地縛霊みたいになった有森が友情(?)出演。数々の演技派犯人たちが登場してきたこの『犯人たちの事件簿』。レオナさんはモノホンの女優さんということで犯人の役作りが徹底されている。臨機応変さも役作りの賜物ですかね。しかし、演じることに夢中で金田一にさほど注意を払っていなかったら足をすくわれる結果に。やはりアドリブには限界がある…。
「仮面をつける必要があるのか」は確かに本家で解決編を読んでいたときに違和感があった記憶が。誰も見ていないのに何故かぶる。役作りでやっているということでカバーされていてなんだか感心した(笑)。


有森の亡霊とシンクロして「いるのかよ!!刑事いるのかよ!!」「やることが・・やることが多い・・・・」「やったあポンコツだぁ~っ!」などの懐かしのフレーズがまたみられてうれしかったです。本家を読んだときもチラッと思いましたが、この事件の犯人は本当にやることも多いし、計画も常に皆の行動をみて決めてと頭も使い続けなくっちゃいけなくって忙しそう・・・。

 

 

 

 

●「雪霊伝説殺人事件」

金田一少年の事件簿 File(30) (講談社漫画文庫)

金田一少年の事件簿 File(30) (講談社漫画文庫)

 

 犯人黒沼繁樹
スケキヨのような仮面をかぶっている人物が犯人の「雪夜叉伝説殺人事件」。

資産家の氷垣氏が「金はいくらでもだすから復讐したまえ」と言うのも驚きだが(どう考えても止めるべきところ)、激しい憎悪を隠すために薄笑いの仮面をつけて弁護士をしていた黒沼さんにはもっと驚き。「仮面を付けたまま平然とファミレスにも入れる・・これが心が死んでいるってことなのか・・?今の私なら・・殺れる!!」といったように、心が凍っていないと到底出来ないようなグロいメイントリックが印象深いこの事件。「はっきり言って放送事故・・!モザイクかけなきゃやっていられないレベル・・!」ということでモザイクかかっています。


他、特徴は「一人二役」と「二人一役」が絡み合っている複雑構造ですね。黒沼さんのターゲットである堂崎一志がドアの前で一生懸命二人に見せかけるためにお芝居しているのが可笑しい。絶対練習しなきゃ出来ない。黒沼さんも金のためにここまでやるかと関心していましたね。
殺人現場名物「〇〇の仕業だおじさん」は確かに『金田一少年の事件簿』でよく見るヤツ。横溝正史作品だと老婆が多いイメージですが、金田一少年だとおじさんがこの役割をやらされている率が高いな言われてみれば。

 

 

 

 

 

 

最後に収録されている「お正月だよ犯人集合」ですが、二ページ漫画で集合しているのは有森とかほるさんと的場先生。このスピンオフ漫画1巻で出て来た犯人たちですね。

 

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 最初の頃だからというのもありますが、何だかんだでこの三人が『犯人たちの事件簿』の代表(?)犯人っぽい。
一ページ余ったからという四コマ漫画ですが、マガジン編集長のお話が興味深かったです。周マガで「金田一少年の殺人」をやった時は人気のある事件だからかな~と思っていたのですが、編集長の希望だったんですねぇ。編集長は本家の「煩悩シアター」にも登場しているとのことで探してしまった・・・(^_^;)。

 

 

 

次!
さて、このスピンオフ漫画も次の10巻で本当の完結。2020年7月17日発売予定で、収録事件は「黒魔術殺人事件」「血溜之間殺人事件」「不動高校学園祭殺人事件」「獄門塾殺人事件」の四つ。「最終刊は内容盛り沢山の予定です!」と作者の船津さんも予告されているので、楽しみに待ちたいと思います!

 

※出ました!完結編10巻の感想・詳細はこちら↓

 

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ではではまた~

 

 

 

 

 

 

『生ける屍の死』あらすじ・ネタバレ感想 特殊設定ものの名作~

こんばんは、紫栞です。
今回は山口雅也さんの『生ける屍の死』をご紹介。

 

生ける屍の死(上) (光文社文庫)

 

あらすじ 
1990年代末、アメリカ各地では不可解な死者の蘇り事件が頻発していた。
ニューイングランドの片田舎・トゥームズヴィルでバーリイコーン一族が経営している大規模な霊園「スマイル霊園」。三ヶ月ほど前、ボストンでカレッジに入学する準備を進めていたグリン(フランシス)は、長患いが悪化した祖父スマイリーに財産分与の為にこの「スマイル霊園」に呼び寄せられる。


祖父スマイリーが死にかけているなか、「スマイル霊園」でパンク青年のグリンは一族に馴染めず、スマイリーの息子ジョンの愛人イザベラの連れ子であるチェシャ(サーガ)とパンク同士ということもあって意気投合し、二人で遊び歩く毎日を過していた。
ある日、一族のお茶会で毒を口にしてしまったらしきグリンは自室でひっそりと死んでしまうが、甦り現象によって“生ける屍”となって目覚める。
グリンは自分が毒を飲むことになってしまったのはスマイリーの遺産相続を巡っての殺人計画の煽りを食ったのではと考え、周囲に死者であることを隠して自分の死の真相を突き止めることを決意。身体にエンバーミングを施し、独自に調査を開始する。


しかし、その後も「スマイル霊園」では事件が発生して人が死に、そして甦った。死者が次々に蘇る状況下で、なぜ犯人は殺人を犯すのか?
肉体が崩壊するまでに謎を解くべく、グリンは“生ける屍”として「生ける屍の死」の謎を追う――。

 

 

 

 

 

 

 

 

ランキング常連の名作
『生ける屍の死』は1989年に東京創元社の日本人作家書き下ろし長編探偵小説シリーズ鮎川哲也と十三の謎》の十一巻目として刊行されたもので、山口雅也さんのデビュー作。いまだに数々の推理小説ランキングで上位に食い込み続ける日本推理小説界の超有名作です。
単行本の後に1996年に創元社から文庫版が刊行。 

 

 

 2018年には全面改稿されて光文社文庫から上下巻で刊行されています。

 

 

 

 

 

創元推理文庫も単行本から全面改稿されているのですけども。

私は創元推理文庫で読んだのですが、二度も改稿されているとなると新たな改稿版も改稿前の単行本版もどう違うのか気になってきますね。


ことある毎にミステリのオススメページで紹介されているので読んでおこうと買ったものの、創元推理文庫版で650ページほどと結構な厚さがあったことと(創元だと字も小さいしね・・・)アメリカが舞台なので登場人物はほぼ西洋人ということで、登場人物のカタカナで覚えにくい名前が一覧に30以上並んでいる、家系図・見取り図がある等々・・・色々と威圧感があり読み始めることが出来ず、ずっと放置していました(^_^;)。

 

この度やっと読み終わる事が出来たので、こうやって紹介している訳ですが、ビビっていた割にはというか、思っていたよりも読みやすかったです。登場人物はやはり途中名前と人物が分からなくなって一覧を何度も見返したりしましたが、揶揄や皮肉が効いたいかにもアメリカ的な会話(アメリカ人がどんな会話しているのかリアルに接したことはないですが・・・)は軽快だし、死や葬儀に関しての逸話やウンチクが随所に散りばめられていて興味深く読みすすめることが出来ました。

 

 

 

 

特殊設定もの・ゾンビ探偵
上記のあらすじからも判る通り、今作は“死者の甦り現象”が前提となった世界で推理が展開される「特殊状況設定もの」。

既存の枠組みから逸脱しているこの手のミステリは、界隈が飽和状態になっている昨今ではさほど珍しいものではなくなっていますが、

 

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今作が刊行された30年前はかなり斬新に受け取られて「ナンセンスだ」と感じる人もまだまだいたのではないかと。

 


しかし、ただ奇をてらっているだけではないことは今作を読めばすぐに分かります。謎を解き明かしていくプロセスは間違いなく王道のそれで、きっちりと伝統的な推理小説を踏襲しつつ、この特殊設定だからこその仕掛けは大きな驚きと納得を読者にもたらしてくれます。

 

「特殊状況設定もの」は特殊設定の厳密なルールがしっかりと読者に提示されることが大前提で重要なところ。今作の特殊設定は“死人が甦る”という現象。
死人が甦るとはいえ、ゾンビ映画などから連想されるような意思を持たずに人に襲いかかるようなゾンビではなく、意思や思考能力は生前と変わらないまま屍の肉体が動いている状態。所謂、「魂」というものが遺体から出ずに留まり続けている状態ですかね。
腐敗も止まる訳ではなく肉体は通常通りに崩壊していくので、結局甦った「死者」にも“身体が保てるまで”という期限があります。

 

主人公のグリンは物語の途中で「死者」となり、ゾンビとなって事件の謎を追うというゾンビ探偵。
途中で死んでしまうのも驚きですが、ゾンビが探偵するのも驚きですね。被害者の幽霊がイタコ体質刑事と共に事件を追うようなものはありますが、

 

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BORDER Blu-ray BOX

BORDER Blu-ray BOX

  • 発売日: 2014/09/26
  • メディア: Blu-ray
 

 

被害者自身がゾンビとなって探偵役をするのは前代未聞かと。
グリンは腐敗を遅らせるため身体にエンバーミングを施し、血の通っていない青ざめた顔をパンクメイクで、混濁した目をサングラスで隠しつつ、冷たい身体を悟られぬように人との直接接触を避け、体内で腐敗する恐れがあるので食事もとらない・・・等々、生者として振る舞うために偽装し、行動に気を付けながらという大変さ。加えて、「もう死んでいるのだ」という絶望は常にあり、意識がしっかりしたまま身体が朽ちるのを体感させられる。私が知る限り、今まで読んできたなかで一番過酷な身の上の探偵役ですね。 


特に、想いを寄せているチェシャがグリンとの先の未来を無邪気に言ってくるのがなんとも辛い。グリンとチェシャがお互いに好意をもちつつもまだ恋人未満な関係だったのがかえって切なさに拍車をかける感じ。  
スマイル霊園顧問で死学者のハース博士だけがグリンが死者であることを知っている存在で相談にのってくれたり一緒に推理したりしてくれます。ハース博士がいないとこのお話は酷しいところがあると思いますね。こんな辛い状況におかれているグリンですが、相談相手になってくれるハース博士がいてくれて本当に良かった(^_^;)。

 

 

 

 

 

以下、ガッツリとネタバレ~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

トリック
今作のミステリとしての仕掛けの要は「死者」が死んだタイミングと誰が「死者」か。
そして、死者が甦る状況の中で殺人が行われる理由、ホワイダニット(なぜ犯行に至ったのか)ですね。

 

グリンが毒で死んだ後に、スマイリーが死亡。スマイリーの息子であるジョンが殺され、甦って逃走するというのが物語の一連の流れ。※実際はもっと複雑に生者と死者が入り乱れてカオスな状態になっていますが。

 

真相を簡単に説明すると、実はジョンはスマイリーよりも先に犯人に殺されており、スマイリーからの遺産を自分の子を宿しているイザベラに残そうと考えた。遺産相続権を得るには自分がスマイリーよりも後に死んだと皆に思わせねばならないので、死亡推定時刻を誤認させるために自分の他殺事件を自作自演した後に姿を消した。

 

ジョンを殺したのはスマイリーの後妻であるモニカ。モニカは誰よりも先に突然死しており、「死者」となった後で甦ってジョンを殺害。甦ったジョンはモニカがしでかしたことを盾にスマイリーに自分に遺産を相続させるように詰め寄り、遺言状の書き換えを辞めさせ、モニカのことを説得させて「生者」を装わせた。その後死期が近づいているはずだが中々死ねないスマイリーは自分の死は自分で決定しようと決意して自殺(が、人知れず甦って隠れていましたが)。ジョンは自分の他殺事件を偽装する。

 

グリンが毒死してしまったのは単なる事故で、砂糖壺に誤って砒素が混入してしまったため。

お茶会で砂糖を使ったのはグリンとジョンとモニカの三人なのに、自分は死んで他の二人は何ともない事実からグリンはジョンとモニカはお茶会よりも前に死んでいて、自分と同じように生者のふりをしていたのではないかと推理を巡らし解明に至る。
生ける屍になったからこそ辿り着けた真相という訳ですね。


で、ホワイダニット“何故モニカは犯行に至ったのか”ですが、モニカはスマイリーを元妻から略奪した罪悪感と、息子を亡くし、その遺体が火葬されてしまったことによって気が触れてしまい、高齢で認知症の病状もあってと正常な行動や思想が出来る状態ではありませんでした。
熱心なカトリック信者であったモニカはキリスト教「終末に神は再臨したキリストと共に最後の審判を行なう。その時、生者のみならず死者たちも甦り、裁きを受ける。甦った死者たちのうち、罪なき者は永遠の生命を得、最後まで神に反逆する者は再びの死、第二の死・魂の死をむかえる」という復活信仰にしがみつくように。


そんな中、アメリカ各地で死者の甦り現象が発生。自身も“生ける屍”として甦ったモニカは、今こそ審判の時なのだと霊園で火葬を推進しようとするジョンを殺害。

 

「(略)彼女はいったんジョンを死者の状態に置いて、彼の罪の深さがどれくらいのものか、神の裁きに委ねようとしたんだ。つまり、火葬を唱えたジョンの罪が赦されるなら、彼は復活して永遠の生命を得、生者と変わらぬ振る舞いをするだろう。逆に、彼の罪が赦されなければ、彼は再び聖書でいう第二の死――魂の死の屈辱にまみれることになる・・・・・・」

 

と、モニカなりのこのような理論で犯行に至ったと。これが、死者が次々に蘇るおかしな状況の中でわざわざ殺人を犯す理由なのです。

 

「火葬を唱えることがそんなに罪深いのか?」と、日本人の感覚では思ってしまいますが、復活信仰を妄信しているモニカにとっては遺体を火葬することは復活を妨げる許しがたい行為だということらしい。アメリカの片田舎が舞台というのもこういった宗教観がお話の重要な要素になっているからなのですね。だから、登場人物名でつまずいてもめげずに読みましょう。

 

 

 

 

メメント・モリ(死を想え)
「死者の甦り」に意味を見出し、このようなことをしでかしたモニカ。「この気まぐれな甦り物語に意味はあったのか?」と、謎解きを終えて、やりきれぬ想いでスマイル霊園を飛び出したグリンは考えます。そしてグリンは、「死者の甦り」はただの現象だと結論づける。通常の生や死にだって完璧な意味やら誰かの意思やらを見出すことはできないからと。
結局、世の中で起こることは現象でしかなく、個々が捉えたいように捉えているに過ぎない。「死」がまとわりついた生い立ちから常に「死」を想ってきたグリンは、“生ける屍”となって事件を追った数日間を経て自身のメメント・モリに結論をつけ、一緒に車で飛び出したチェシャにそれを告げる。

 

読者としてもわかっていたことではあるけれど、物語の最後は切なくて哀しいものとなっています。しかしそれだけではなく、感慨深いハッピーなエンドでもある。

南を目指していたはずのピンクの霊柩車が、最後の一行で”北を目指して”となっているところは物語の冒頭に戻る“繰り返し”を暗示しているようでもあり、作り込まれたストーリーに感服します。
名作だと言われ続けているのも納得の作品でした。気になった方は是非。

 


ではではまた~

 

 

 

 

 

 

秘密-トップ・シークレット6巻「コンビニ店員惨殺事件」ネタバレ・あらすじ

こんばんは、紫栞です。
今回は清水玲子さんの『秘密-トップ・シークレット』

 

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6巻収録の「コンビニ店員惨殺事件」をご紹介。あと「特別編」も。

 

新装版 秘密 THE TOP SECRET 6 (花とゆめCOMICS)

 

あらすじ
2059年8月。コンビニエンスストア店員の小島郁子が同僚である山崎正、神内忍に突如包丁で襲いかかり殺害。さらに逃げ出した同じくコンビニエンスストア店員の佐藤佳代子を路上まで追いかけて公衆の面前で刺殺し、その際に巻き添えとなって重傷を負った通行人一人も病院で二日後に死亡するという事件が発生。
小島郁子は犯行後に自宅で自殺。郁子の同居人である父親は認知症のため証言をすることは困難を極めた。通行人を含む4人を惨殺するという女性犯罪では稀な事件であり、動機と原因を究明するべく小島郁子と被害者たちの脳は科学捜査研究所「第九」研究室で『MRI』にかけられることとなり、室長の薪と新たに「第九」に配属された岡部・曽我・小池らは捜査に当たる。
被害者の山崎正は大学で介護や医療に関心があり、何度か好意で小島郁子の父親の介護を手伝っていた。山崎と交際していた佐藤佳代子はそのことが面白くなく、幾度も小島郁子を詰問していた様子が確認されたこと、郁子には虚言癖があったなどの事実から、当初事件は郁子の山崎への横恋慕が叶わぬゆえの犯行だと推測された。だが、『MRI捜査』を進めるうちに犯人・小島郁子の意外な事実が明らかとなり――。

 

 

 

 

 

 

 


薄いけど重い
この「コンビニ店員殺害事件」は青木が「第九」に配属される少し前の事件。時系列としては「貝沼事件」捜査中に薪さんが正当防衛で鈴木を撃ち殺してしまってから数日後、壊滅状態になった「第九」に岡部さん、曽我、小池の3人が配属されたばかりの頃の事件。

青木は登場せず、視点は主に岡部さんで描かれているのでスプンオフというか、ちょっとした過去編てな感じのお話ですね。そのためページ数は他の巻に比べると少なく、本の厚さもシリーズのなかでもっとも薄いです。が、厚さは薄くとも中身は激重いので侮っちゃダメ。私は貸した友達皆に「重すぎて辛い」と言われた苦笑ものの思い出があります(^_^;)。

 

お話は岡部さんが「第九」に配属されて、薪さんと初対面するところから始まるのですが、この時の岡部さんは『MRI捜査』なんて「のぞき見と同じじゃないか」と否定的な意見を持っていて、初対面の薪さんにも嫌悪感剥き出し。青木が知る“薪さんの一番の側近”的姿からは想像も出来ないものでした。

この2人にもそれなりのドラマがあったということで、薪さんと岡部さんの馴れ初め話が描かれているのはファン必見ですね。岡部さん回に外れなしです。

 

 

 

 

動機の解明
今作の事件は小島郁子という女性が包丁で4人を惨殺したのは疑いようのない事実であり、犯人も被害者もみんな死んでしまっているので一見するとわざわざMRIで脳見る必要があるのか?と、いう気がするのですけども。
しかし、みんな死んでしまっているからこそ「虚言癖のある中年女が若い男に入れあげて恋人もろとも惨殺した」という“検察側”にあたる一方的な見解だけでなく、“弁護側”にあたる犯人側“郁子の脳”を見ないと事件の「客観性」が得られないってな訳で。つまり、動機を解明することに絞られたお話になっています。

 

 

 

 

 

 


以下ネタバレ~

 

 

 

 

 

 

 

 

 


幻覚
犯人の小島郁子は40歳で化粧っ気のない顔にシミ・シワが目立ち、体型は小太り。それでいて恰好は年齢に似合わぬ少女趣味。作中の文面では“少女趣味な服”となっていますが絵をみるとこれは明らかにピンク〇ウスですね。どんな恰好をしようと個人の自由だし、現に高齢でも肥満体型でもピン〇ハウスが好きで着ている人は訳で他人がとやかく言う筋合いはないのですが、妄想のようなことも口にする郁子は端から見ると“イタイタしい人”と捉えられていた。


MRIで郁子の脳を見てわかったのは、郁子が「自分が美女に見える幻覚」をみていたこと。

郁子は数年前に母が他界、その後父親が認知症となり介護のため地元に戻ることになった郁子は東京での服飾メーカーでの勤めを辞め、結婚間近だったものの破談に。頑張ってきた仕事と家庭を持つことが一度に奪われ、認知症の父親に文句を言われながらの汚物まみれの毎日でこの先明るい展望もない。

ストレスをため込み、精神的に追い詰められ自殺未遂を繰り返すものの、父親を残して死ぬことも出来ない郁子は「美しい幻想の世界」を造り出し逃避することでこの生活に耐えていたのですね。

 

「現実」や「真実」はもう彼女にとって意味がない


そしてこの頃は多分 彼女にとって一番幸せな日々だった

 

「幻覚」は郁子が“死なずにいるため”に必要不可欠なものだったのです。

 

 

 

 

 

余計なお世話
そんな郁子に職場の同僚たちはにバカにしたり陰口を言ったりしていましたが、ただ1人、山崎正だけは郁子に常に親切で医療や看護等に興味があったこともあり、気にかけて介護の手伝いをしたりと他の誰よりも郁子の事を、将来を心配していました。


そして山崎は「幻想の世界」に住んでいる郁子を「治してやろう」と思い、心療内科医から手に入れた幻覚・妄想の症状を抑える安定剤を飲ませ「現実をちゃんと見て!!」「空想の世界に逃げてばかりじゃダメだ!!」「この先もあなたが何年も働いてお父さんを助けていくんでしょ?」「あなたがしっかりしてお父さんを支えてあげないで」「この先一体どうするんですか」と郁子にとっては耳を塞ぎたい、耐えがたいことを言いつのる訳です。

 

郁子じゃなくとも、40歳でお先真っ暗なときに20歳の大学生にこんなこと言われたら死にたくもなるって感じですが。

 

「幻覚」を薬で抑えられたあげく、こんな絶望的な現実ばかり言われ続けて、「この先はいらない」「こんな現実ならもういらない」と郁子は凶行に走ってしまったというのが事の真相。山崎が郁子に渡した安定剤は試薬段階の強い成分も入っていたらしく攻撃性が増してしまったというのもあるのだとか。

 

 

山崎正は真実”いい人”なのだろうし、郁子にしたことも100%の善意なのでしょうが・・・個人的には読んでいると郁子にばかり同情してしまいますね。


お話の導入部分で郁子が「誰にも迷惑はかけてなかったのに・・・ちゃんとしてきたのに・・・」と言っているように、郁子は「幻覚」をみつつもコンビニの仕事も父親の介護もしっかりこなして社会に適応していました。“空想の世界に逃げちゃだめだ”というが、そもそも目を覚まさなくてはいけないのか。郁子と“趣味が日々の息抜きになっている人”との間にどれほどの差があるというのか。
すべきことはしてキチンとして生活出来ているのだし、山崎がやったことは要らぬお節介、余計なお世話と捉えてしまいますよね。
山崎が何もしなかったにしても郁子の「幻覚」はどこかで限界がくるのかもなぁという気もしますが。いずれにせよ、治してやろうとするならするで、もっとちゃんとした治療の段階を踏んでいかないとダメですよね。素人が薬渡して説教して~・・・なんて、やっぱり浅はかですよ。

 

 

と、郁子への同情ばっかりになりそうなところを「気の毒なのは何の関係もないのに殺された3人だ」と薪さんがしっかり言及しているところがこの漫画だなぁと思う。確かにそりゃそうだ。


MRI捜査』されなければ「虚言癖のある中年女が若い男に入れあげて恋人もろとも惨殺した事件」として片付けられていたということで、状況証拠や物証では絶対にわからない真実をMRIだと明らかに出来ると改めて示される事件ですね。

 

 

 

 


特別編
巻末に「2008 特別編」という短編が収録されています。
こちらは青木が主役で、2年前に鈴木の脳を見たことで※1巻参照↓

 

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青木が自身の気持ちが鈴木の脳映像に感化されてしまっているのではないかと思い悩むお話。捜査員の精神を破壊しまくった貝沼の脳を、鈴木の脳を通して見た割にはかなり平気そうで「たくましいな青木」って感じだったのですが(ラリってたけどね※1巻参照)、やっぱり思わぬ形で弊害が生じている。発端は鈴木の元婚約者である三好先生と付き合い始めたからですね。

それだけでなく、この特別編は実は思わぬ形でシリーズの伏線になっているので読み飛ばし注意です。

 

 


そんな訳で、薄いけれどもいつものように重厚な物語りが描かれているので是非。

 

ではではまた~

 

 

 

 

 

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『濱地健三郎の幽たる事件簿』7編の感想・あらすじ シリーズ第2弾!

こんばんは、紫栞です。
今回は有栖川有栖さんの『濱地健三郎の幽たる事件簿』(はまじけんざぶろうのかくれたるじけんぼ)をご紹介。

濱地健三郎の幽【かくれ】たる事件簿


幽霊を視る能力があり、心霊現象を専門に扱う探偵・濱地健三郎とその助手・志摩ユリエが様々な怪異に相対していく連作短編集で、2017年に刊行された『濱地健三郎の霊(くしび)なる事件簿』

 

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 に続くシリーズ第二作。今作は“幽たる”“かくれたる”と読ませるタイトルになっています。


単行本の装丁は前作とはチト違う感じに。文庫版の方のデザインの系統であるような気がするので、

 

 

今後はこんな感じで統一されるのかもしれませんね。前作の単行本の装丁も個人的には好きですけど。文庫や今作の装丁の方が作品雰囲気にはあっている気はします。

 

濱地健三郎は三十歳にも五十歳にもみえる年齢不詳のミステリアスダンディで、幽霊を視る能力や祓う能力の他に鋭い推理力のある探偵さん。霊媒師ではなく“探偵”なのがこのシリーズの特徴ですね。
志摩ユリエは絵が得意ということでボスや依頼人が霊視したモノをスケッチするという助手としての働きをしているのですが、シリーズ一作目からボスの仕事に同行するうちに能力が開花。今作ではもう、ボスほどではないにしても完全に“視える人”になっています。

 

 

 

 

 

 

前作同様、今作も七編収録


目次
●ホームに佇む
●姉は何処
●饒舌な依頼人
●浴槽の花婿
●お家がだんだん遠くなる
●ミステリー研究会の幽霊
●それは叫ぶ

 


一作目の「ホームに佇む」以外は怪談専門誌『幽』(2019年からは妖怪マガジン『怪』と合併して『怪と幽』という雑誌名になっています)に掲載されたもの。
「ホームに佇む」は『小説BOC』に寄稿されたもので、「山手線の駅を舞台にした特集を組むから、好きな駅を選んで書いてくれ」という依頼を受けて書かれたもので、他の作品より短めの20ページ少々。有栖川さんは鉄道ファンということもあり、電車関係の小説執筆をよく依頼される作家さんですね。


出張の度に東海道新幹線を利用するサラリーマンが、新幹線が有楽町駅を通過する際に、有楽町駅ホームに赤い野球帽の少年の幽霊を新幹線の窓から毎回必ず目撃。そのうち、少年の幽霊はサラリーマンに何か訴えかけるような眼差しを向けてくるようになり、悩んだ末にサラリーマンは濱地健三郎の新宿の事務所を訪れる--。


少年がホームに佇んでいる理由におかしみがあるお話で、短編としては「なるほど」というネタなのですが、最後の“幽霊に物品を渡せる”というのが個人的に少し納得出来ない。ま、心霊現象には現実の常識は通用しないのだと言われればそれまでなのですが・・・(^_^;)。

 


「姉は何処(いずこ)」は郊外の実家に住んでいた姉がある日突然行方知れずになり、只一人の肉親である弟が実家に戻って姉を毎夜捜索するなかで、同じ場所、同じ時間に毎日姉の幽霊が現われている事に気が付く。話しかけても応えてくれず、いつも同じところで姿を消してしまう姉の幽霊。弟は一刻も早く姉を見つけてやりたいと濱地健三郎に依頼する――。
てなお話。


この本に収録されている7編のなかでは一番探偵小説的要素があるお話で、心霊現象を扱っているものの、推理して、犯人に罠を仕掛けて・・・と、いつもの有栖川有栖的本格推理小説短編らしさに溢れている作品。慣れているぶん、ファン的には有栖川さんの短編だとこういう展開を期待してしまうところですね。しかし、あくまで怪談話として怪談専門誌『幽』に掲載された作品ですので、油断していると最後でゾッとさせられます。ユリエちゃんに一抹の不安を感じる・・・。

 

 


「饒舌な依頼人は濱地健三郎の事務所にやってきた依頼人がやたらと饒舌に一人でお喋りするという、言ってしまえばそれだけのお話。


怪談話に違いはないのですが、コミカルさがあってクスッと笑えるような“オチ”がついています。そのオチや話に作中でユリエちゃんが駄目だしするのがさらに可笑しい。霊視能力があるとこんな事にも遭遇するよ~っていう濱地探偵日常の一コマってな感じのお話で、濱地先生は流石になれた対応をしています。本の中盤でこのようなお話が入っているのはバランスが良くて短編集の愉しさの一つだと思います。

 

 


「浴槽の花婿」は資産家の男性が浴室で死亡。事件か?事故か?被害者の弟は結婚したばかりだった兄の妻が犯人だと捜査一課刑事である赤波江に訴えるが、その弟には兄の幽霊が恨めしそうな顔で“憑いて”いた。犯人は若い妻か?金に困っていた弟か?
な、お話。


ミステリーとしては「どっちが犯人か」という、フーダニットの二択版。容疑者の一人に被害者の幽霊が憑いているという状況をとっかかりに話しが展開されるのが心霊探偵ならでは。
被害者の幽霊が恨めしそうな顔で憑いているのなら、憑かれているヤツが犯人だろうと単純に思うところですが、もちろんそこには捻りがある。結末は恐くも哀しく憐れで、その後がどうなったか気になります。
シリーズ一冊目でも登場した濱地先生と交流のある刑事・赤波江さんと(赤波江さんはこの本では登場するのは今作のみ)、ユリエちゃんが交際している大学時代の漫画研究会後輩・進藤叡二君が登場。

タイトルの「浴槽の花婿」は100年以上前にあった保険金目当ての連続殺人事件に牧逸馬がつけた名「浴槽の花嫁」からとられています。 

浴槽の花嫁 (現代教養文庫)

浴槽の花嫁 (現代教養文庫)

 

 三人の新妻を浴槽での戯れに足を引っぱって溺死させ、入浴中の事故死を装って保険金をせしめていたという事件。そんなに認知度は高くない名称だとは思いますが、私は偶々別の小説作品で紹介されていたのを読んだことがあったので元ネタにすぐ気づくことが出来、なんだか嬉しかった。

 

 


「お家がだんだん遠くなる」は、毎夜寝る度に幽体離脱して(魂が?)どこかに連れて行かれそうになる女性が助けを求めて濱地健三郎の元に訪れるお話。
幽体離脱がテーマで、このシリーズでは珍しくタイムリミットがある切迫したお話。濱地先生とユリエちゃん、おまけで進藤君も駆けずり回って捜査しています。このお話は本当に怪談でミステリー要素は薄いですかね。終わり方が苦々しい。
こちらのタイトルは童謡の『あの町この町』の歌詞の一節から。


童謡 あの町この町 平井英子 野口雨情作詞・中山晋平作曲

この童謡、私は知らなかったですね。世代によるのかな?それとも地域?作中では濱地先生もユリエちゃんも、皆が知っている童謡として紹介されていましたが。

 

 


「ミステリー研究会の幽霊」は、高校のミステリー研究会の部室で前々から起こっていた超常現象が新しい部員を一人迎え入れてからエスカレートして・・・と、いうお話。


このミステリー研究会は推理小説ではなく超常現象を研究する会とのことで、紛らわしい(^_^;)。
学園ものでお話の大半は高校生の視点で語られるので、終盤でやっと濱地健三郎シリーズなんだと分かる仕組み。物理学の先生が顧問で、噂を聞きつけ心霊探偵の濱地健三郎に依頼するのですが、作中でも言及されていますが物理学教師なのにかなり柔軟な考えで驚き。普通は生徒の話を疑うだろうし、“心霊探偵”なんて胡乱なものに頼ろうなんて考えもしないと思う。ネタとしては学園ものホラーでよく出てくるものですね。恩田陸さんの『六番目の小夜子』とか、

 

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綾辻行人さんの『Another』とか。

 

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この手のお話はオカルト好きだとやはりワクワクする。学園ホラーは独特の雰囲気が良いですよね。

 

 


「それは叫ぶ」は夜道で得体の知れないモノに触れられてから発作的な自殺衝動に襲われるようになってしまった男性のお話。


このお話は完全に怪談で、犯人だの隠された真相といったミステリー要素は皆無ですね。今作ではなんと、濱地先生は拝み屋からの紹介で事に介入することになった設定。商売敵かと思いきや、濱地先生は拝み屋界隈でも一目置かれる存在なんだそうな。この拝み屋は凄腕なんだそうですが、拝み屋にも視えなかった“アレ”をユリエちゃんは視ることが出来ていて、あらためて能力の開花が凄まじいのだということが分かる。
意味も理由もない悪意に突如襲われる理不尽さというのは、通り魔事件も模してのもの。許しがたく、ただただ恐ろしい怪異が描かれています。

 

 

 

 

 

 

 

 

幽と解
怪談専門誌に掲載されている作品ですので「怪談」を前提に書かれているのですが、このシリーズのコンセプトは怪談とミステリー「両者の境界線において新鮮な面白さを探すこと」。なので、心霊現象を前提としたなかで謎解きが展開されるのが主で、シリーズ第一冊目『濱地健三郎の霊(くしび)なる事件簿』の方では犯罪を扱っているものが多く、捜査一課の刑事さんも度々登場していた訳ですが、模索中だということもあって全体的にぎこちなさが少しありました。
今作の『濱地健三郎の幽(かくれ)たる事件簿』では心霊現象と謎解きを融合させるという形式に囚われずに自由度が増し、バラエティに富んでいて、短編集として読んでいて面白かったです。

ミステリー要素よりも怪談に重きが置かれている話が多かったですが、無理に謎解きを絡ませようとするよりこの方が良いのではないかと個人的には思いました。推理小説作家で有名な有栖川さんですが、怪談話も十分に上手い作家さんですからね。

 

 

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心配 

やはり、気になるのは助手の志摩ユリエ。

上記したように濱地先生の仕事に同行するうちに霊視能力が向上していっているのですが、ユリエちゃんはその事を嬉しく思っている気持ちの方が強いみたいなんですよね。もっともっと先生のお仕事の役に立ちたいというのと、“未知の世界があるのを知って、自分が広がったみたいに思ってる”と。それを聞いて交際相手の進藤君は「広がらなくてもいいでしょう」と、ごもっともなことを言っている訳ですが(^^;)。


確かに心霊世界なんて広がる必要はないし、助手をするなかで何度も恐い目に遭っているのに、好奇心ばかりが勝って喜んでいるユリエちゃんは実はかなり危うい状態なのではないかと感じる。せっかくの進藤君の注意も「やきもちかな?」と心中で軽く済ましてしまっていますし、読者としてもこのまま濱地さんの助手やってて大丈夫なのかと心配になってしまうところです。


しかし、能力はユリエちゃん自身が潜在的に持っていたものだし、視えるようになってしまった以上、対処を心得ているプロフェッショナルの濱地さんの元にいるのが一番安全だという結論がこの本に最後に収録されている「それは叫ぶ」で示されていて「なるほどな」という感じ。

 

 

いずれにせよ、シリーズはまだまだ続きそうなので今後も楽しみです。前のブログでも書きましたが、このシリーズで長編も読んでみたいなぁ~ともやっぱり思いますね。勝手に期待しときます(^^)。

 

※第3弾出ました!詳しくはこちら↓

 

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ではではまた~

 

 

 

 

 

 

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『太陽は動かない』映画 原作小説2作 まとめて紹介!

こんばんは、紫栞です。
今回は吉田修一さんの『太陽は動かない』『森は知っている』の二作品の紹介と感想を少し。

太陽は動かない (幻冬舎文庫)

 

鷹野一彦シリーズ
『太陽は動かない』『森は知っている』は産業スパイの鷹野一彦を主役とした【鷹野一彦シリーズ】のうちの二作。シリーズは2020年5月現在3冊刊行されていて、一作目が『太陽は動かない』、二作目が『森は知っている』、三作目が『ウォーターゲーム』

 

今年『太陽は動かない』のタイトルで映画公開予定(※延期されていましたが、2021年3月5日に公開決定しました)なのですが、原作として使われているのが『太陽は動かない』と『森は知っている』の二作らしいので、まずこの二作を読んでみました。

『怒り』『悪人』など重厚な人間ドラマを描くことで有名な吉田修一さんですが、

 

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このシリーズは産業スパイが主役ということで、超直球でド派手な“スパイ大作戦”が展開されるというTHE・エンタメな作品になっています。吉田さんのファンの人ほど新鮮なシリーズになっているようですね。

 


心臓に爆弾!
かつてNHKで計画されていたアジアの情報を日本で集めてネットワークを作り、各世界のニュース局も合わせて24時間のワールドニュースを放送しようという、『GNN構造』
スキャンダルにより頓挫してしまったが、この計画のために使われるべき金がプールされて作られたのが、主役の鷹野や部下で相棒の田岡が所属している「AN 通信」で、表向きネットでアジアの情報を発信する小さな通信会社ですが、実体は機密情報を高値で売ることを目的とする諜報活動をしている組織。
アジア各国から集めた情報を大衆のために使うことから、一部の者たちのために使うことにシフトチェンジされたという設定なのですね。(※NHKはもう関係していない組織とされている)

 

で、この「AN 通信」なんですが、諜報員をどうやって調達しているのかというと、主に親から虐待などを受けている子供を秘密裏に引き取り、徹底的に訓練して諜報員に育て上げるというもの。
そうして「AN 通信」の諜報員になった者には情報の持ち出しを防ぐために心臓に爆弾が埋め込まれる。毎日決まった時間に上司に報告を入れないと遠隔操作でボンっ!とされてしまう訳。


スパイ活動をしているなかで毎日定時連絡入れなくちゃいけないのですよ。仕事内容的に規則正しい生活が出来るハズもないですし、取り込み中で連絡が出来ないような状況下はもちろんですが、単に寝過ごしちゃっただけでも駄目なんでしょうからかなりキツい。
危険なミッションをこなすことの他に、定時連絡をしないと死んでしまうという危機と、自身の命を常に他者の思うままにされている諜報員たちの心情が物語りに緊迫感とドラマを与えています。

 

 

 

 

 


では順番にご紹介。

 

 

 

 

 

 

●『太陽は動かない』

 

太陽は動かない

太陽は動かない

 

次世代エネルギー開発の利権争いを巡ってのゴタゴタが描かれる作品。


鷹野と部下の田岡コンビが中心として展開されますが、他にも鷹野の商売敵で昔からライバル関係にあるハンサムスパイのデイビット・キム、謎のゴージャス美女のAYAKO、色々と複雑な事情がありそうな鷹野の上司・風間など、スパイものではお馴染みで“いかにも”なキャラクターたちが登場しています。

 

スタジアムが爆破され、ヘリが落され、船が沈められて、田岡は捕まって拷問されるし、鷹野も捕まって拷問されるし・・・もう、スパイもので起こりそうな事柄すべてが詰め込みました!な、ストーリー。

読みながら「損害額が・・・」とか要らん心配をしてしまう(^_^;)。映画化されるのですが、原作通りにするなら相当制作費かかるだろうなぁと思う。今まで「映像化不可能!」とか言われていたらしいですが(この謳い文句は結構何にでも付けられていたりしますが・・・)、予算のせいでそう言われていたのですかね。

 

情報戦のやり取りが割とややこしく、完全には理解出来なくって部分的にフワッと読んでしまったのですが(^^;)。派手な展開をしてくれるのと、各登場人物たちにその都度感情移入出来るので面白く読めます。
こういった産業スパイものだと裏切りや人材の切り捨てが当たり前の殺伐とした世界が描かれがちですが、今作は出て来る人物たちがスパイだったり政治家だったりするものの、弱さがあったり、最終的に良心を棄てきれないような人間味溢れる人物が多く、巻き込まれて拉致された発明家や船員さんたちまで良心的。本来ならもっと悪意にまみれそうな場面なのですけどね。読むと「人間、棄てたもんじゃないな」と。

 

メインの鷹野と田岡もお互いが危機に瀕していると全力で助けようとしていて、これもスパイらしからぬ良さが。上司の風間さんもね。
デイビット・キムやAYAKOは時と場合によって敵にも味方にもなるという、スパイものの醍醐味的なキャラクターで楽しませてくれます。終盤のところとか「デイビット~!」って叫びたくなる箇所が。この二人はシリーズで今後も出続けてくれるのを希望。

 

エピローグの「大草原」で乗馬している様子が平和的でほっこりする。死にいつも晒されている鷹野や田岡にも気を抜くことが出来る時間があることにホッとしますね。

 

 

 

 

●『森は知っている』 

森は知っている (幻冬舎文庫)

森は知っている (幻冬舎文庫)

 

こちらは鷹野が17歳の時のお話。鷹野は虐待していた親の元から離れた後、風間さんの家で家政婦さんに面倒を見てもらいながら過していたのですが、数年前から南蘭島という南の島で普通の高校生活をおくる一方で、諜報機関の訓練を受けているという設定。


ある日、同じく「AN 通信」諜報員として訓練を受けていた親友・柳が鷹野に手紙を残して失踪。逃亡なのか、裏切りなのか、柳の行方を案じながらも鷹野は訓練の最終テストとなる初仕事に挑むが――。
な、お話。

 

収容所みたいな施設での訓練かと思いきや、自然豊かな南の島で普通の高校生をしつつという、「最後に人並みの青春もさせてやる」みたいな訓練生活。
友達とワチャワチャ騒いだり、転校生の女の子・詩織との淡い恋が繰り広げられる裏で、スパイ教育を受けているというギャップが読んでいてやるせない。どんなに楽しい青春を過していても、18歳になって待ち受けているのは心臓に爆弾を埋め込まれてのスパイ活動ですからね。他同級生と同じように卒業後の進路を夢見たり出来ないし、恋をしても組織とは無関係の一般人との将来なんて考えられないし、若き鷹野の心境を思うと悲しくて切ないです(-_-)。


個人的に、この詩織ちゃんと鷹野の何気ないやり取りや恋模様の淡さ具合が好ましかったですね。生々しいところまでいかない匙加減が良い。お互いに“なんてことはないけど大切な思い出”になるのだろうな~と。

 

デイビット・キムとの初対面や、風間さんが足を失った理由なども知る事が出来て、前作を読んでいる読者には嬉しいです。こちらを先に読んでから『太陽は動かない』を読んでも良いと思います。「鷹野・・・立派になって・・・!」って感じになるかな。
風間さんも、家政婦の富美子さんも、鷹野のことを非常に思いやっていて感動します。過酷な環境下に置かれている鷹野ですが、身近にこういう人がいてくれているということに救われますね。
デイビットは昔っから鷹野とこんな感じだったのかと、読んでいるとなにやら愉快な気分になる。
柳やその弟の寛太は今後シリーズで触れられることはあるのですかね?気になるところです。

 

一作目の『太陽は動かない』や三作目の『ウォーターゲーム』から考えると番外編的位置付けのお話なんでしょうが、本編とはまた違った面白さがあってグイグイ読ませてくれます。田岡が登場しないのは少し寂しいですけどね。

 

 

 

 

 

 

 

映画・ドラマ
映画は2020年5月公開予定でしたが、感染症の騒動により公開延期となっています。

キャスト
鷹野一彦藤原竜也
田岡亮一竹内涼真
風間武佐藤浩市
デイビット・キムピョン・ヨハン
AYAKOハン・ヒョジュ
柳勇次加藤清史郎
菊池詩織南沙良

 

タイトルは『太陽は動かない』ですが、柳や詩織ちゃんがキャストに組み込まれているので、回想という形で『森は知っている』の内容も映画で描かれるのかなぁと思います。

鷹野の同僚で田岡の指導をした「AN 通信」エージェントとして原作には登場しない山下竜二(市川隼人)たる人物がいることと、原作では重要人物の一人だった青木優の名前が映画紹介に書かれていないので結構オリジナル要素が入るストーリーなのかも知れないですね。


映画と連動しての企画だったWOWOWドラマ『太陽は動かない-THE ECLPSE-』は予定通りに放送開始されています。全6話。

 

ドラマ版は原作者・吉田修一さん原案によるオリジナルストーリーになっているようです。無料配信されている一話目を観たのですが、鷹野と田岡が組まされることになっての初事件になっていました。原作ではこの二人の初対面は描かれていないので、原作ファンにとっても興味深いお話ですね。

 

 

 

 

 

 

 

一日を生きる
設定からして、鷹野たちが所属する「AN 通信」は非人道的組織に違いはないのですが、作中では「AN 通信」の本部に対しての批判だとか怒りだとかは描かれていません。“本部”自体が存在感を持っていない作品なのですよね。いまのところ・・・と、いうだけかも知れませんが。


心臓に爆弾が埋め込まれているという特殊設定を使ってこのシリーズが描きたいのは「一日を生きる」ということだと思います。

 

「生きるのが苦しいんなら、いつ死んだっていい!でも考えてくれ!今日死のうが、明日死のうがそう変りはないだろ!だったら、一日だけでいい・・・・・・、ただ一日だけ生きてみろ!そしてその日を生きられたなら、また一日だけ試してみるんだ。お前が恐くて仕方ないものからは、お前は一生逃げられない。でも一日だけなら、たったの一日だけなら、お前にだって耐えられる。お前はこれまでだって、それに耐えてきたんだ。一日だ。たった一日でいいから生きてみろ!(略)」

 

作中で風間さんが幼い頃の鷹野に言う台詞なのですが、まるで今生きるのが辛いと苦しんでいる人すべてへのメッセージのように思えますね。

 

「AN 通信」では35歳まで任務を無事遂行できれば爆弾を外されて自由の身となり、望みを何でも一つかなえてもらえるという約束があります。信憑性は定かでなく、そんな約束が果たされるのを夢見るのは馬鹿馬鹿しいとされていますが、シリーズの最後に鷹野がどうなるのか見届けたいものです。


とりあえず、私は三作目の『ウォーターゲーム』を読まないとですが(^_^;)。

 ※読みました!詳しくはこちら↓

 

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ではではまた~

 

 

太陽は動かない

太陽は動かない

 

 

 

森は知っている (幻冬舎文庫)

森は知っている (幻冬舎文庫)

 

 

 

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