夜ふかし閑談

夜更けの無駄話。おもにミステリー中心に小説、漫画、ドラマ、映画などの紹介・感想をお届けします

『GOTH』映画・漫画・番外編のアレコレまとめ

こんばんは、紫栞です。

前回の記事で乙一さんの『GOTH』という小説作品について紹介したのですが、

 

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今回は『GOTH』を原作とする漫画・映画と、番外編『GOTHモリノヨル』についてのアレコレについてまとめて紹介したいと思います。

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では順番に紹介していくのですが、第一に言っておきたいのは、漫画版も映画も番外編も、本編の原作小説を読んでからにして欲しいということ。

原作は叙述トリックもののミステリ小説なので、“小説の状態”がやはり一番愉しめるものとなっています。映像ものを先に見てしまうと、原作のせっかくの仕掛けが半減してしまい、初読での驚きが永遠に味わえないものとなってしまうのですよ。

 

なので、これから紹介するものは原作小説を読み終えた状態で愉しんで欲しいと一読者として切に願うところであります。是非原作小説を先に・・・!

 

 

 

 

漫画

2003年刊行。コミックス全1巻。

大岩ケンヂさんによるコミカライズ作品で、リストカット事件」「暗黒系」「土」「記憶」の四話収録。

リストカット事件」「暗黒系」「土」の3話は比較的原作に忠実に漫画化されていますが、最終話にあたる「記憶」だけ前後編になっていて、原作の最終話である「声」の要素がミックスされたオリジナルストーリーになっています。

 

原作小説は全6編(※番外編を除く)ですが、「犬」だけが完全に漫画化されていないってことですね。ま、「犬」は内容が内容なので、漫画化は難しいのか(^_^;)。

 

この本は大岩ケンヂさんの初単行本作品で、この本が刊行された少し後に代表作のNHKにようこそ!を刊行しています。

コミックスに寄せたあとがきで乙一さんが「GOTHのコミカライズをしたことが汚点になるのではないか」と危惧されていますが、もちろんそんなことはない。乙一さんの原作もこのコミカライズも素晴らしいです。

 

キャラクター造形だけでなく、全体の作画雰囲気が原作小説の世界ピッタリに表現されていて、基本シリアスなところにクラスメイトとのやり取りやト書きのコミカルさが入るのがより乙一作品らしさが出ていて良い。主役の二人も原作よりは人間味があるキャラクター像になっていますね。あと、原作よりも少しエロくなっています。

 

私はこの漫画版だと「土」の描き方が凄く好きですね。「リストカット事件」は原作を読んだ時のゾッとする感じが半減されていて少し残念。原作と順番を変えて、「リストカット事件」を最初に持ってくるのは良いチョイスだと思いますけど。

乙一さんのユーモア溢れるあとがきもイチ押しポイントです。

 

 

映画

2008年12月公開。「僕」本郷奏多さん、森野夜高梨臨さんが演じています。

 

 

2005年から数年間、乙一作品が続けざまに映画化される流れがあったのですが、この映画もその只中での作品ですね。

私はこの映画化が決まる一~二年前に乙一にドはまりしまして、その時点で発表されている乙一作品は全部読み終わっている状態でした。『GOTH』は本の仕掛け的に映像化は無理だろうと思って期待していなかったので映画化と聞いてちょっと驚いた記憶。

 

そんな訳で『GOTH』を映画化するならなんてそれまで考えもしなかったのですが、「僕」役の本郷奏多さんに関しては監督も言っていたと思いますが、はまり役云々の前に、決定前から当時は他に適任が浮かばないといった感じだった。今だって浮かばないですけど。

なので、キャスト発表を聞いた時は「ですよね~」という納得が強かったですね。いざ映画を観てみたら、予想以上に怪しげで危険な色気全開だった。

 

でも今原作読み返してみると、雰囲気はともかく髪型以外の容姿の特徴は森野の方にすべて当てはまるなという気がしますね。ま、性別が違うんですけど。

 

高梨臨さんはこの映画がスクリーンデビュー作。後にテレビでよく観るようになったのですが、映画の時とはイメージが違っていてテレビ観ていても最初はなかなか気が付けなかった。『GOTH』では温度のない陶器みたいな美少女といった印象になっています。

 

二人とも大岩ケンヂさんの漫画版からそのまま抜け出してきたみたいで見た目の再現度が高いので、漫画版を読んだ後だと妙に感心するだろうと思いますね。

 

ストーリーは原作の「暗黒系」と「記憶」がミックスされたものに「リストカット事件」の要素が少し付け加えられているといったもの。

 

上手い具合にまとめられてはいるのですが、ストーリーを混ぜたためかホラーともミステリとも言い難いあやふやなものになっているなぁと。グロテスクさも控えめなので、ホラー・ミステリとして愉しませてくれる原作とは別物ですね。

漫画版読んだ後だと、「土」もやって欲しかったなぁ~と。フェンス越しに犯人と対峙する場面、映画で見てみたかった。個人的に、一話ずつ区切られたオムニバス形式でも良かったのではとも思う。

 

あと、この映画ではストーリー的に関係無いのだから、主人公の名前はぼかして欲しかったですね。これから原作小説読もうって人に不親切だというか、配慮が足りないでしょう。

 

画にだいぶこだわりが窺える作品で、役者も映像も美術も美しいので、ホラー・ミステリといったエンタメ作品というよりは、絵画的というか、芸術性を愉しむ作品なのかなと思います。主役二人が原作よりクールな人物像になっているのも、美しさに特化するためかと。

 

しかし、アパート暮らしなのに森野のあの作り込まれた部屋にはちょっと笑ってしまいますけどね(^_^;)。あと、この犯人はアーティストだ云々の映画オリジナルの台詞は、あまりにも陳腐なので「僕」に言わせない方が良かったと思う。なんかゲンナリする。

 

原作ファンだけでなく、役者のファンも絶対に観るべき作品ですので是非。

 

 

それはそうと、実は『GOTH』はアメリカでも映画化企画が2007年に持ち上がったらしいのですが、その後今日に至るまで音沙汰なしです。

ま、アメリカの方はとりあえずつばを付けておくといいますか、権利だけさっさと手に入れたものの企画が頓挫するということがざらにあるようなので・・・。ある日いきなりアメリカ版やるよ!ってなこともなきにしもあらず。一応。

 

 

 

 

 

番外編『GOTHモリノヨル』

 

 

こちら、2008年の映画との連動企画で発売された本。

 

中身は乙一による6年ぶりの『GOTH』新作「GOTH番外編 森野は記念写真を撮りに行くの巻」が前半に80ページほど収録。本の後半は森野夜役を演じた高梨臨さんの写真集となっています。

 

80ページとはいえ、字が大きいので30分あれば読み終えてしまえる短さなんですけど。実はこれ、作者の乙一さんは“写真集の巻末のオマケ”のつもりで書いたものだったようです。乙一さんとしては映画に出演した高梨臨さんを被写体とした“森野夜の写真集”にそえる文章を寄稿したつもりが、いざ本が出来上がってみたら自分の小説の方がメイン扱いになっている仕上がりだったので、「話が違うじゃないか」となったらしい。

 

で、写真の方はというと、これがお世辞にも良い写真とはいえない。これで1600円+税というお値段だったことで当時だいぶ批判的な声があったようです。

“被写体の森野夜を殺人犯が撮っている”というコンセプトのため、わざと素人が撮ったような不出来な仕上がりの写真にしているとのことですが、そんなの説明されなきゃ分かりませんしね。同時収録されている話の内容に完全に合わせた写真という訳でもないし、購入者が文句を言いたくなるのも分かる。

 

私は当時、「6年ぶりのGOTHの新作」ってので舞い上がって値段なんて気にせずに即買ったんですけど。

書き下ろし小説の内容に満足したのでもの凄い不満を覚えたりはしなかったのですが、写真に関しては「何がしたいのかはなんとなく分かるけど、なんか中途半端だな~」と思いましたね。肝心の森野が死体のフリをしている写真がなく、ストーリーも見えてこない連写写真で意味不明なんですよね。なにやら変態的だなぁというのがつたわるだけ。

 

個人的に、森野だけで「僕」の写真がないのがガッカリだった。コンセプト的にしょうがないのでしょうけど。そんなコンセプト買った時は知らんし。これなら映画の場面写真を載せてくれた方がずっと嬉しかったですね。

 

2013年にこの本の小説部分のみを抜粋した文庫本が発売されたのですが、

 

 

この文庫版のあとがきで乙一さんはこのことで色々とがっかりしたり考えさせられたりして、諸々トラウマになって『GOTH』の続編を書かない理由にもなっていると書かれています。

ひょっとしたら続編が刊行される可能性があったということにまず読者としては驚き。これを知らされると「なんと罪深い本・・・!」ってなりますね。

 

文庫版あとがきでは乙一さんの『GOTHモリノヨル』への愚痴なんだか持ち上げているんだかな意見が細かく書かれていて、小説も微妙に加筆修正されているのでファンは必見です。

加筆修正されていると最近知って電子書籍で文庫版を買って読み比べてみたんですけど、個人的に私は最初の写真集版の文章の方が好きですね。気になる人は是非両方手に入れて読み比べてみて欲しいです。

 

 

しかし、GOTHの続編・・・・・・!なんとかトラウマを克服して書いてくれないものでしょうかねぇ・・・無理かも知れないですけど、微かな望みを抱いてしまうところ。お願いできないもんでしょうか(>_<)。

 

 

漫画、映画、番外編諸々。GOTHファンは是非。

 

 

 

 

ではではまた~

 

 

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『GOTH』乙一 小説 あらすじ・解説 悪趣味な二人の暗黒系青春ミステリ

こんばんは、紫栞です。

今回は乙一さんの『GOTH』(ゴス)をご紹介。

GOTH【3冊 合本版】 『夜の章』『僕の章』『番外篇』 (角川文庫)

 

GOTHとは

『GOTH』(ゴス)は乙一さんの連作短編小説集。ライトノベル雑誌に掲載されていた連作短編でしたが、ライトノベルとしてではなく一般小説として発売された珍しい作品で、第三回本格ミステリ大賞受賞作。コミカライズと映画化もされている人気作で、乙一さんの代表的連作短編集です。

※漫画版と映画について、詳しくはこちら↓

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昔、乙一作品は残酷系の“黒乙一と爽やか切ない系の“白乙一などとファンの間でジャンル分けされたものでしたが、『GOTH』は“黒乙一”至高の代表作ですね。

 

内容は、異常な事件や殺人犯、悲惨で悲痛で不条理な死、人間の残酷な面など、忌まわしく嫌悪されるものに対して暗い魅力を感じる悪趣味な高校生男女コンビ「僕」と「森野夜」が、町で起こる猟奇的な事件に次々と巻き込まれていくといったもの。

基本的に、ヒロインの森野が毎度猟奇殺人犯に狙われて、探偵役の「僕」がひそかに助けるといった流れ。

 

ゴス文化については一概にはどういうものか言い表すのが難しく、作者の乙一さんも深く考えずにタイトル付けたら各方面からツッコまれて、配慮が足りなかったとあとがきで詫びていますが、この本では“ゴス”は“暗黒よりなもの”というざっくばらんな意味で使われているだけで、ゴスファッションなどはまったく関係ありません。

 

元々「暗黒系」という短編を単発もののつもりで書いたところ、担当編集者さんが登場人物の高校生コンビを気に入ったので連作ものになったとのこと。こういう話を聞くと、名作誕生の裏には担当編集者さんの力量があるのだなぁと思いますね

 

執筆当時、乙一さんは23歳。衝撃の16歳で小説化デビューした乙一さんですが、

 

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出版界でのライトノベルの地位の低さを痛感されることが度々あったらしく、ライトノベルの読者に本格ミステリの面白さを知ってもらおうという想いもあって『GOTH』を書いたとのこと。それで通常は賞とは無縁だとされるライトノベル本格ミステリ大賞とっちゃったんですから凄いんですけど・・・。

 

そのため、『GOTH』は本格ミステリの要素、叙述トリックなどが随所に仕込まれている連作短編となっています。仕掛けの素晴らしさだけでなく、連作ものならではの登場人物たちの微妙な関係性なども絶妙で、私も乙一作品のなかで一番好きな作品です。

 

 

 

 

 

読む順番

2002年にGOTH リストカット事件(「暗黒系」、「リストカット事件」、「犬」、「記憶」、「土」、「声」収録)というタイトルで単行本が刊行され、

 

 

 

後の文庫化の際に『GOTH 夜の章』(「暗黒系」、「犬」、「記憶」収録)『GOTH 僕の章』(「リストカット事件」、「土」、「声」収録)と二冊に分けて刊行されました。

 

 

 

 

リストカット事件」の位置が変えられている訳ですが、ここで注意すべきなのは必ず『夜の章』を読んだ後に『僕の章』を読むこと。順番を間違えると台無しになってしまう仕掛けがあるので、くれぐれも注意です。

※同様に、絶対に原作小説よりも先に映画と漫画版を見ないで下さい!原作の驚きと感動が台無しになります。

 

十年以上前に私が買ったのは文庫版でしたが、全編合わせて300ページちょっとしかないのに何故わざわざ分冊にしたのか謎。しかも単行本と文庫版では収録順も異なっていて、本に番号も振られていないため、読者を混乱させる。

 

さらに、2008年に公開された映画との連動企画で書かれた番外編の存在もあって、こちらは最初写真集こみの単行本『GOTHモリノヨル』というタイトルで刊行された後に、

 

 

小説部分のみを抜粋したうっすい文庫本がシリーズの三冊目として刊行されるなど、

 

 

なんだか何重にもややこしいことに・・・。

 

しかしながら、このややこしさを解消させる【3冊合本版】が2016年に刊行されたようですので、

 

 

今回は【3冊合本版】に収録されている順番で各話簡単にご紹介。(※この合本版には『GOTHモリノヨル』の写真は収録されていません)

 

 

各話・あらすじ

 

「暗黒系 Goth」

森野夜は一冊の手帳を拾う。その手帳には攫った女性を殺害し、山奥で切り刻む過程が書かれていた。最近騒がれている連続猟奇殺人犯の手帳なのではないかと考えた森野夜は、手帳に記されているまだ発見されていない被害者の死体を探しに行こうと「僕」を誘う。

 

リストカット事件 Wrist cut」

「僕」がまだ森野と一度も言葉を交わしたことのなかった高校二年の五月末のこと。森野はセクハラまがいのことをしようとした教師を撃退し、学内でちょっとした有名人になった。実は、この出来事には春先から続いていた連続手首切断事件が関係していた。「僕」は今でも、森野の白い手首を見る度にひそかにその事件を思い出す・・・。

 

「犬 Dog」

町で飼い犬の連続誘拐事件が発生。事件に興味を持った「僕」は、一人調査を開始する。

 

「記憶 Twins」

不眠症になった森野は、安眠のための紐を買うのに付き合ってくれと「僕」を誘う。森野は度々不眠症になることがあり、その度に首に紐を巻き付け、死体になった自分を想像して目を閉じると眠れるのだという。買いに行った先で、森野は「僕」にずっと以前に首吊り自殺で死んだ双子の妹・夕のことを打ち明ける。

 

「土 Grave」

人を生きたまま箱に閉じこめ、地面に埋めたいという考えに取り憑かれた男・佐伯は、近所の親しかった男児・コウスケを生き埋めにし、殺害した。三年が経ち、また同様の行為をしたくなった佐伯は道で見かけた少女を拉致し、箱の中に入れて庭に埋める。少女が持っていた学生証には森野夜と書かれていた。

 

「声 Voice」

郊外にある病院の廃墟で北沢博子という女性が惨殺される猟奇事件が発生した。事件から七週間後、被害者・北沢博子の妹である夏海は、学生服を着た少年からテープを渡される。そのテープには殺される直前の姉が夏海へ残したメッセージが録音されていた。テープの続きがどうしても聞きたい夏海は、警察に通報すべきだと思いつつも事件の犯人だと名乗る少年の指示に従う・・・。

 

番外編 森野は記念写真を撮りに行くの巻

死体の撮影をするため、女性の殺害を繰り返していた「私」は、七年前に最初の殺人を犯した山に再び訪れる。事件によって有名な心霊スポットとなったかつての犯行現場には、制服姿の少女の先客がいた。森野夜と名乗ったその少女は、犯行現場で記念写真を撮るためにここを訪れたのだという。「私」は森野を殺害し、被写体にしようと考えるが・・・。

 

 

以上、番外編も入れると全部で7編。

 

 

個人的には、やはり単行本の表題にもなっているリストカット事件」が一番好き。最初にある一文を読んだ時の、ゾッとすると同時にインモラルな恋愛を感じさせられたのがいまだに忘れられない読書体験として残っているし、この感覚は『GOTH』という物語集全体を表しているものだと思う。

「土」で「僕」が犯人を追い詰めていく過程も好きだし、「声」はこの連作短編の最後に相応しい仕掛けの物語ですね。

話を順に読み進めていくと、「僕」の狂気がドンドンと増していくように読める。なので、最終話の「声」で、「コイツ・・・とうとうやっちまったのか」と読者に思わせるのですが・・・あらためて考えてみると、狂気が増しているなんてことはなくて、最初っからフルにヤバイヤツなんじゃないのかって気がする。

 

短いですが、シリーズファン的に番外編は絶対に外せない代物で、「読むっきゃない!」な内容。メイン二人の関係性もそうですが、ちょっとした小ネタも効いていてファン心がくすぐられます。

 

 

 

 

 

以下、若干のネタバレ~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

怪物と少女

読んでいると雰囲気に飲まれてさほど気にならない(と、私は思っている)のですが、この連作短編集は設定にだいぶ無理がある。

一つの町にシリアルキラーがこんなに何人もいてたまるかって感じだし、悪趣味で自ら首を突っ込んでいくアホ二人ではあるものの、森野はあんまりにも殺人犯の引きが良すぎるし、都合良く事件に巻き込まれすぎ。

 

文庫版『GOTH 夜の章』のあとがきで、作者の乙一さんはダークファンタジーを目指していたと書かれています。

 

(略)『GOTH』に登場する犯人たちは、人間ではなく妖怪だと考えて下さい。それと対決する主人公の少年も、敵と同等の力を持った妖怪です。もう一人の主人公の少女は、強い霊感があるせいで妖怪が近寄ってくるという特異体質の女の子です。異世界を彷彿とさせる設定やアイテムや用語を使用していないので、現実を舞台にした小説だと思われがちですが、作者の心の中ではおとぎ話のようなものでした。

 

(略)怪物と怪物の頂上決戦。妖怪大激突。そして恋愛要素あり。といった脳天気な小説が『GOTH』です。

 

大石ケンジさんによる漫画版で原作者としてよせたあとがきでは、森野は“毎回、なぜかクッパにさらわれるピーチ姫”との暴露もされています。この当時は、乙一さんユーモア溢れるあとがき書いてくれていたんですよねぇ・・・。

 

 

主人公の「僕」はこの本の探偵役ですが、推理力だけで真相を解き明かしているのではない。犯人側、怪物・妖怪側への同調・共感があるからこそ思考の先読みが出来る訳で。毎度見事にどの犯人よりも上手を行っているということは、作中一番の危険人物で、怪物で、ラスボスは「僕」なんですね。

 

似通った趣味ではあるものの、森野は生い立ちもあって“ぶっている”、思春期特有の“装い”の延長に過ぎないが、「僕」はモノホンといいますか、別次元の非人間なんです。

 

そんな「僕」が、森野のことをひそかに他の殺人者たちから守り続けているのは一見すると謎です。およそ人間らしい感情を「僕」は持っていませんからね。森野の前ではお調子者の演技をしなくていいし、貴重な存在だからってだけとは思えない。

 

「声」の終盤、「僕」は北沢夏海に「森野さんに愛情を抱いているから?」と問われて、

 

愛情ではありません。これは執着というのですよ、先輩・・・・・・。

 

と、心の中でつぶやいていますが、愛情ってのは、結局のところ相手に執着している状態に他ならない。

だから、「僕」は否定しているけれども、実は普通に好き・・・というか、怪物なりに愛情を抱いているということなのだろうと思う。

最初のお話である「暗黒系」から考えると、最終話の「声」番外編では明らかに森野への執着心が増していますし、守ろうという意識も強くなっていますからね。

でももし他の殺人犯に森野を殺されてもどうこうしてやろうって気はないってところが「う~ん」なんですけども。

 

森野も「僕」のこと好きなんだけど、相容れない存在であることに気づいていて苦しんでいるといったところ。

 

普通の人間の少女が、怪物に恋をしてしまった。怪物と少女の恋。まさにファンタジーですね。

 

やるせなくって厄介で面倒くさい二人の関係性であります。ミステリの仕掛け以上に、そこが凄く魅力的な作品。

暗黒系青春ミステリ小説。まだ読んでいない方は是非。

 

 

 

 

 

 

ではではまた~

 

 

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『残穢』実話!?厄介なホラー あらすじ・解説 夏のオススメ本~⑦

こんばんは、紫栞です。

久しぶりに、今回は夏のオススメ本で小野不由美さんの残穢』(ざんえ)をご紹介。

残穢(ざんえ) (新潮文庫)

 

あらすじ

二〇〇一年末、作家を生業とする「私」の元に届いた一通の手紙。それがすべての端緒だった。

ホラー小説のシリーズを持っていた「私」は、かつてあとがきで読者に実体験の怖い話を募集しており、およそ二十年が経ったいまでも時折、読者からの実話怪談の手紙が来る。この手紙もそんな読者からのものだった。

 

手紙の主は三十代の女性・久保さん(仮名)。編集プロダクションでライターとして勤務している彼女は、首都近郊にある賃貸マンションに引っ越したばかりなのだが、その部屋では何かが畳の表面を擦るような音がし、得体の知れない気配がするという。

「私」は過去にこの話と似た怪談話が違う読者から寄せられていたことに気が付き、手紙の住所を確認してみると、久保さんからの手紙とまったく同じ所番地が書かれていた。それぞれ、同じマンションの別の部屋で起こった怪異だったのだ。

久保さんと連絡を取り合い、マンション住人に聞いてもらったところ、このマンションでは何故か人が居着かない部屋があるのだという。

個々の部屋の問題ではなく、マンション全体、土地自体に関係する“何か”なのではないかと久保さんと二人で土地の歴史を調べてみると、次々と因縁が浮かび上がっては怪異と結びついていった。

果たして、これは〈穢れ〉の感染なのか?

調べを進めるうち、「私」も久保さんもこの土地の〈穢れ〉の渦に巻き込まれていき――・・・。

 

 

 

 

 

 

実話(風)怪談

残穢』は2012年に刊行された長編ホラー小説で、山田周五郎賞受賞作

ホラー小説で検索すると必ず表示されるような有名作で、映画化もされています。夏なので、有名ホラー読みたいぞ!と、なってこの度読んでみました。

 

小説作品ですが、ドキュメンタリー風味に書かれている作品で、作中の「私」が長期にわたって手紙をくれた読者と共に怪異、土地の因縁を、時代を遡って調べていく過程がルポルタージュ的に描かれています。

「私」は作中では氏名が明かされていないのですが、作家としての経歴、大学時代の逸話、同じく作家である夫の存在など、作者の小野不由美さん自身が「私」なんだと連想出来るようになっていて、本の冒頭で触れられている“ホラー小説のシリーズ”とは1989年から始まった【悪霊シリーズ】全7巻のこと。今は改題されてゴーストハントシリーズ】として新訂版で出されているのですが、

 

 

 

改題前の【悪霊シリーズ】だった頃の本のあとがきで読者の怪談話を募集していたのだそうです。

 

その他、平山夢明さんや福澤徹三さんなど、実在の作家がそのままの名前で登場しています。平山さんは京極夏彦さんの『虚実妖怪百物語』でも登場人物として描かれていたのですが、

 

京極作品の方ではもっと癖のある砕けた人物として描かれていたため、この作品の平山さんはだいぶおとなしいというか、凄く真人間っぽくてギャップを感じる。小野さんの前ではこういった振る舞いだということなのでしょうか。

 

また、この本と同時期に読者から寄せられた怪談体験を元に書かれた挙編怪談をまとめた本『鬼談百景』が刊行されています。

 

 

残穢』の文庫版に収録されている中島晶也さんの解説によると、

 

『鬼談百景』に収められている怪談の数は、書名に反して全九十九話。『残穢』はもちろんそれ一冊でも独立して読める小説ではあるが、『鬼談百景』の作者自身の体験を綴った長編版にして、「現実に怪を呼ぶ」と百物語では禁忌とされる百話目としても読めるように書かれている。

 

とのこと。

版元は違うものの、“対をなす姉妹編”となっているのですね。

面白い仕掛けだとは思いますが、正直、まとめて読みたいとは個人的に思えないですね。怖いんで。百話目として完成させたくないですもん。

 

ドキュメンタリーを装いつつの小説作品とはいうものの、この作品は全部が創作だとは信じがたいものとなっています。

土地の因縁がどんどんと繋がっていくのはミステリ的で、怪奇現象にしては“ハマりすぎてる”と思えて「なるほど創作か」なのですが、細かな部分、ちょっとした不気味さや判別不能な些細な事柄があまりにもリアリティがある。モデルにしているものがないとこんな文章は到底書けないだろうと。

だから、何割かは実話だと思うのですよ・・・。作者の小野不由美さんはどこまでが創作かを明かしていないので確かめようもないのですが・・・このわからなさ具合がもう怖いですね。

 

ルポ風の淡々とした文章で、幽霊や化け物に襲われる鬼気迫るようなハラハラドキドキホラーではないため、「怖すぎる」という前評判を聞いて読んでみた私は最初「なんだ、怖くないじゃん」となったのですが、後からジワジワと怖い。よくよく考えるとかなり怖い。厄介なホラー小説となっています。

 

 

 

 

 

映画

2016年に『残穢-住んではいけない部屋-』というタイトルで実写映画化されています。主演は竹内結子さん。

読むのは比較的平気だが、ホラーを映像で観るのはビビって躊躇するタイプの私ですが、アマゾンプライムの見放題にこの作品が入っていたので怖いけれども観ました。

 

 

この映画、検索すると「ディレクター失踪」だの「具合悪い」だの「呪われる」だのと、物騒なワードがわんさか出て来るのですが・・・ま、こういった噂があったほうがホラー映画は箔がつくものなのか。怖いので深追いはしませんけども。

 

作家の名前をそのまま出す訳にはいかないのか、登場人物名が微妙に変更されているのが何やらおかしい。小野不由美さんの夫である綾辻行人さんにあたる役である直人(滝藤賢一)や、平山夢明さんにあたる役の平岡芳明(佐々木蔵之介)がちゃんと御本人っぽい服装しているのもフフッってなりますね。

久保さん(橋本愛)と福澤徹三さんにあたる役の三澤徹夫(坂口健太郎)は原作の年齢よりも若く設定されています。

 

過去の因縁話や、イタズラ電話の「今何時ですか」など、映像や音声がつくとやはりより怖くなる。ラストのビデオに映り込んでいる赤ん坊や、奥山家の絵などはビビって直視出来なかった(^_^;)。結構素敵な絵っぽかったので、怖さでちゃんと見られなかったのは残念。自分の度胸のせいですけど。

 

途中まではほぼ原作通りの展開なのですが、最後が変えられていましたね。

原作は劇的な出来事が起きないままなところがリアリティがあって怖く、そこが他のホラー作品とは違う点で持ち味となっているのですが、映画はラストにホラーシーンが追加されていて、それが蛇足だったなと。あれで普通のホラー作品と同じになってしまったというか、せっかくのドキュメンタリー感が薄れてしまった印象。

 

しかし、やっぱりよくあるドッキリ驚かす系のホラーとは違うので、ホラー映画が苦手な人でも観やすい作品になっているかと思います。ま、観た後に後悔はするかもしれませんが。

 

 

 

 

 

 

残留する穢れ

「穢れ」とは、死・疫病など、忌まわしく、不浄で、共同体に異常をもたらすもの、避けるべきだと信じられている観念のこと。

 

この小説は、怨みを伴う死が「穢れ」となって新たな死を引き起こし、その死がまた「穢れ」となって感染していくという、途方もない「穢れ」の感染拡大の、元は何なのかと時代を遡って追っていくドキュメンタリー・ホラー(風味)。

 

前に『呪術廻戦』のアニメを観ていたら当然の用語のように「残穢」と登場人物が語っているシーンがあったのですが、残穢』と書いて“ざんえ”と読ませるのは小野不由美さんによる造語で、仏教用語などのように普遍的に使われているものではありません。

ザックリとした解釈ではありますが、“残り続ける穢れ”という意味で『残穢』なのだと思います。

 

忌まわしい土地の記憶など時代を遡ればどの場所でもあるはずで、人が死んでいない場所など何処にもないはず。「十年前にここで死んだ・・・」と言われれば怖いですが、「江戸時代に・・・」などと言われると、「え?そんなに昔」となって恐怖も薄れるものです。

が、この本ではその恐怖の薄れを許してくれない。むしろどんどんと「穢れ」が上塗りされていって、より恐ろしく、強い「穢れ」としてひたすら残留していく、時代を遡ることで恐怖が増していく厄介な代物となっています。

とんでもないパワーを持った幽霊やら怪物が襲ってくるというものではなく、古くから根ざし続けているもののため、一過性の恐怖で治まってくれないのですね。読者の今後の日常に支障を来す恐怖感なのです。

 

極めつけが、“聞いても伝えても祟る”などと、読者をどん底にたたき落とすような恐ろしいことを言い出してくる。読ませといて。

山本周五郎賞の選考委員の一人、唯川恵さんも「実は今、この本を手元に置いておくことすら怖い。どうしたらいいものか悩んでいる」と、仰っている通り、もはやこの本自体が「穢れ」に“なってしまう”のですね。

 

 

そんな訳で、いつもとは一味違ったホラー小説を読みたい人にはオススメの一冊です。この小説を読んで一番恐怖することが出来るのは引っ越しを控えている人ですね。読めば引っ越しが怖くなること間違いなしですから。

 

この夏、是非読んでみてはどうでしょうか。

 

 

 

 

 

 

ではではまた~

 

 

 

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『扉は閉ざされたまま』犯人・伏見と碓氷優佳の頭脳戦!倒叙モノの有名作 あらすじ・感想

こんばんは、紫栞です。

今回は石持浅海さんの『扉は閉ざされたまま』をご紹介。

扉は閉ざされたまま (祥伝社文庫)

 

あらすじ

大学時代、軽音学部内で酒好きのたちが集まっていたサークルでも特に仲の良い集団だった別名『アル中分科会』。この度、メンバーの一人の発案により、ペンションで卒業後初めての同窓会をすることになった。

伏見亮輔はこの機会を利用し、後輩の新山を殺害する計画を立て、実行に移す。

客室で殺害し、事故を装う偽装をして扉を閉ざし、密室殺人を完成させた。

 

室内で新山が死んでいる事を知らない同窓会メンバーたちは、最初のうちは移動でつかれて熟睡してしまっているだけだろうと放っていたが、いつまで経っても部屋から出て来ず、呼び掛けにも応じない様子に不審を抱き始める。

 

伏見の狙いは朝になるまで密室の扉を開けさせないこと。

閉ざされた扉の前で途方に暮れるメンバーたちを巧みに誘導する伏見だったが、『アル中分科会』メンバーの姉と共に同窓会に参加していた碓氷優佳は、わずかな情報から事件性を感じ取り、扉を開けることを強く主張して――。

 

 

 

 

 

 

倒叙モノ

『扉は閉ざされたまま』は2005年に刊行された石持浅海さんの長編小説で【碓氷優佳シリーズ】の第一作目。

上記したあらすじからも解ると思いますが、ミステリではあるものの、最初から犯人が分かっている状態から始まる『刑事コロンボ』『古畑任三郎』形式の、“倒叙ミステリ”ものとなっています。

 

この『扉は閉ざされたまま』は倒叙モノではかなり有名な作品でして、ミステリランキングやオススメサイトにも良く載っていたので他の本と一緒に数年前に購入したのですが、読まないまま数年間ほったらかしていました。この度やっと読んでみた次第です。

 

私が読んだのは文庫版で、この文庫版には「終章」の後に「前夜」が収録されているのですが、この「前夜」は文庫版刊行の際に加筆されたものらしいです。先に刊行されていた単行本には収録されていないので、要注意ですね。今買うならやはり文庫でしょう。

 

 

2008年には碓氷優佳役を黒木メイサさん、伏見亮輔役を中村俊介さんでWOWOWの「ドラマW」で単発ドラマ化されています。

 

 

この時、二夜連続でこの本の続編である『君の望む死に方』

 

 

 

 

 

の単発ドラマも放送されているのですが、こちらでは碓氷優佳役を松下奈緒さんが演じていてキャストが違います。二夜連続放送なのに何でキャスト変えたんですかね?謎・・・。

 

 

 

 

 

二人の頭脳戦

この小説、もの凄いトリックやら驚きは特にないんですよね。密室の仕掛けも、被害者をどのように誘導したのかも最初の段階ですべて明かしてしまっています。

じゃあ読みどころは何処なのかというと、伏見と優佳の頭脳戦。物語の語り手は一貫して伏見ですが、犯人の伏見の視点で恐ろしいほど頭が切れる美女・碓氷優佳が事件に迫る様子がスリリングに描かれる、犯人と探偵役、二人の頭脳戦に重点が置かれた作品。これぞ“倒叙モノ”といったシンプルなド直球の作品になっています。

 

犯行内容が読者にすべて明かされた状態からスタートしていますが、「動機」「伏見が扉を閉ざしたままにしておきたい理由」が分からないままお話が展開されていく。読者はこの二つの謎を追うべく読み進めていくと。ホワイダニットで読者を引っ張っていく訳で、これもまた倒叙モノのド直球ですね。

 

面白いのは、死体が確認されない、事件発生の有無も分からないままに推理小説としてロジックが展開されていくところ。タイトルの通りに“扉は閉ざされたまま”で物語は進み、犯人と探偵役の攻防に決着がつき、最後に密室が開けられたところで終わるという構成になっています。

 

碓氷優佳は完全に推測だけで事件の発生を確信し、殺人であることとその犯人を断定する。

事件そのものが確認されていない状態なのにすべてを完結させるとは、碓氷優佳は恐ろしい女性ですね。

探偵役であるものの、碓氷優佳はある意味冷たい、通常の倫理観から少し外れた人物として描かれていまして、この設定がラストで効いてきています。

 

 

 

 

動機

最後に明かされる“動機”ですが、これがちょっと釈然としないというか・・・もう少し粘って説得して欲しい!

見切りを付けるのが早すぎるというか。だって、絶対あの被害者そこまで“アレ”に対して頑なな信念なんて持っていなかったろうと思う。“遊び”をやめさせることは出来なくとも、“アレ”を捨てさせることは出来たはずですよ。と、いうか、“遊び”に関しても然るべき手段を使えば社会的に貶めることが十分出来たのではって気が・・・。

殺すくせに被害者に妙な情けをかけている(つもりでいる)のも何だか気に食わない。じゃあ何で殺す決断するんだよ。

 

文庫版の加筆部分である「前夜」は伏見の動機について補強するものなのでしょうが、これを読んでも伏見に共感は出来ないですね。勝手な正義感で突っ走っている人物だなーと。被害者ももちろん最低ではあるのですけどね。

 

 

 

 

“その後”が気になる

この物語の終わり方ですが、個人的には好きな終わり方ではない・・・ですけども、非常に続きが気になる終わり方になっています。単発作品だっていうならそれで納得するのですが、続編があるよってなると、その後どうなったのか知りたい・・・。碓氷優佳は一風変わったタイプの探偵役ですので、後に続くシリーズ作品も型にはまらない独特なものになっているのではと思います。

 

何はともあれ、倒叙モノの魅力がたっぷり詰まった作品ですので、気になった方は是非。

 

 

 

ではではまた~

『金田一少年の事件簿』ドラマ 5代目・道枝駿佑版 まとめ

こんばんは、紫栞です。

今回は、連続ドラマの五代目『金田一少年の事件簿道枝駿佑について、簡単にまとめて紹介。

 

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五代目、令和版『金田一少年の事件簿』の連続ドラマがこの間無事最終回を迎えました。前に実写ドラマ一代目~四代目までをまとめた記事を書いたので、

 

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五代目もまとめようかと思います。

 

 

五代目・道枝駿佑

メインキャスト

金田一一道枝駿佑

七瀬美雪上白石萌歌

剣持勇沢村一樹

 

四代目・山田涼介版ですとミス研の活動がお話の中心って感じで、原作とは違うドラマオリジナル要素強めにミス研メンバーがコミカルに描かれていたのですが、今回の五代目・道枝駿佑版では原作での撮影要員・佐木竜太(岩崎大昇)がメインキャストとして活躍していました。もはや四人のドラマって感じだったので、公式のポスターにも出してあげれば良かったのではと思う。

原作とは違い、小説が書けたり金田一GPSつけたりストーキングしたりと、「お前、何者だ!」状態で非常にキャラが立っていました。これで「異人館ホテル殺人事件」なんてやられたら泣いちゃうなぁだったので、やらなくて本当に良かったなぁと。

 

役者さんがお忙しかったのか、美雪の出番が少なめ。だからなのか、金田一と佐木とのやり取りの方が多くって美雪とのラブコメ感が薄かったなと。はじめちゃんが美雪のこと好きな印象が薄いんですよねぇ。

剣持警部は原作よりも穏やかで少し抜けているところがある人物像になっていましたかね。

 

 

●連続ドラマ 全十話(2022年4月~7月)

第一話 学園七不思議殺人事件

第二話 聖恋島殺人事件(前編)

第三話 聖恋島殺人事件(後編)

第四話 白蛇蔵殺人事件

第五話 トイレの花子さん殺人事件 ※原作では「亡霊学校殺人事件」

第六話 金田一少年の殺人(前編)

第七話 金田一少年の殺人(後編)

第八話 首狩り武者殺人事件 ※原作では「飛騨からくり屋敷殺人事件」

第九話 オペラ座館 ファントムの殺人(前編) ※原作では「オペラ座館・第三の殺人」

第十話 オペラ座館 ファントムの殺人(後編)

 

 

 

 

 

 

初実写化のエピソードが「聖恋島殺人事件」「白蛇蔵殺人事件」「亡霊学校殺人事件」「オペラ座館・第三の殺人」で、初代・堂本剛版のリメイクが「学園七不思議殺人事件」「金田一少年の殺人」「飛騨からくり屋敷殺人事件」(※堂本剛版では「首なし村殺人事件」というタイトルだった)。

全十話中四話をリメイクに使ったという訳ですね。

 

個人的に、新作で良かったのは短編の「亡霊学校殺人事件」。連続殺人の長編もののイメージが強い『金田一少年の事件簿』ですが、原作では短編も結構本数がありましてなかなかに名作揃いですので、実写でやってくれたのは嬉しかった。

初代も割とそうでしたけど、連続殺人の長編を1時間で描こうとすると、どうしても展開があまりに早くなって雑さが目立ってしまうので、1時間のドラマでやるには短編が丁度良いなぁと。

 

リメイクの「飛騨からくり屋敷殺人事件」も動機面の描き方が省略されていて犯人が唯々非道な感じになってしまっていましたしね。原作だと“血の恐ろしさ”がお話の要になっていて読み応えがあるので、読んだことない方は是非・・・!

 

 

 

 

原作の「亡霊学校殺人事件」はホラーなオチがついていたのですが、ドラマだと無くなっていたのが残念でしたね。私はあの終わり方が好きだったのですが。ドラマが掲げているキャッチコピーの“日本謹製 本格ミステリー×ホラー”にピッタリだと思うのですけど。

 

 

と、いうか、全話もっと怖くして欲しかったですね。放送前に見たこのキャッチコピーでホラーへの期待値が上がってしまっていたので、いざ放送を観たら「全然怖くないな」となってしまった。私は『金田一少年の事件簿』だと怖くてドロドロとネットリしている横溝正史風味のがやはり好き・・・!

 

一週で終わらせたお話はともかくとして、二週使った「聖恋島殺人事件」「金田一少年の殺人」「オペラ座館・第三の殺人」はせっかく尺があるのだから、原作の“丁寧な部分”をもっとちゃんとなぞれたのではと思ってしまう出来でしたかね。

 

リメイクで注目だったのは「金田一少年の殺人」で、初代では被害者の人数減らしたり逃走劇を大幅カットしたりで一週で済ましていたのですが(この事件を一週で済ましたなんて、今考えると凄い)、今回のドラマでは二週使って原作に近い流れでやってくれました。原作のポケベルでのメッセージどうするんだと心配していたのですが、まさかの炙り出しで盛大に笑ってしまった。より原始的になっとる・・・!

 

剣持警部は最終回まではじめちゃんが金田一耕助の孫だと知らなかったというのも斬新でしたね~。今回のドラマでは二話目にもう一緒に旅行に行くなど、はじめちゃんと剣持警部が仲良くなるのが早すぎてビビった。知り合って間もない高校生三人の旅費を持ってくれる警部の太っ腹ぷりも驚き。

 

金田一少年の殺人」で鍵をかける工程が無くなっており、「飛騨からくり屋敷殺人事件」では鍵の手渡しではなくなっているなど、トリックの難易度(?)が原作より易しくなっておりました。ツッコまれないように考慮したってことでしょうか。どうせやるなら突き抜けて欲しい気もしますが。これが令和版ということなのか。

 

 

 

 

続編希望

と、ま、色々と思うところはあり、ファンとして納得のいく出来だったというと嘘にはなるのですが、友達と何やかんや文句を言い合いながらも毎週楽しく拝見しておりました。

 

うだうだ言っていても、リメイクをやられて最終回が近づいてくると「アレもやっていない、コレもやっていない」となって、「全十話じゃ少ないよ~!」と寂しい気分に。

 

なので、続編希望です!

 

次やるならやっぱり「魔術列車殺人事件」をリメイクして高遠さんを出して欲しいですね。個人的に、二代目・松本潤版でやった「魔術列車殺人事件」の出来に納得していないので、やり直して欲しい願望が強すぎる・・・(^^;)。

短編だけでなく、小説版の方も実写化すると良いと思うのですが・・・どうでしょうか。

 

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連ドラじゃなく単発のドラマスペシャルとかでも良いので続いて欲しいですね~。もちろん、37歳の事件簿のドラマ化も期待し続けておりますよ。

 

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嬉しいニュースをお待ちしております。

 

ではではまた~

 

 

 

『十角館の殺人』小説 ”新本格”衝撃の一行!ネタバレ・解説

こんばんは、紫栞です。

今回は綾辻行人さんの十角館の殺人をご紹介。

十角館の殺人〈新装改訂版〉 「館」シリーズ (講談社文庫)

 

あらすじ

一九八五年九月二十日未明、S半島J崎沖、角島(つのじま)で建築家の中村青司の邸宅、通称青屋敷が全焼。焼け跡から中村青司と妻、住み込みの使用人夫婦の計四人が死体で発見されるという、凄絶な“謎の四重殺人事件”が起こった。

 

半年後の一九八六年三月二六日、猟師の間で青司の幽霊が出ると噂される曰く付きのこの島に、大学ミステリ研究会の七人が訪れる。

彼らの目当ては全焼した青屋敷跡と、中村青司が設計した奇妙な十角形の館「十角館」で一週間の合宿をすること。

 

一方、本土では元ミステリ研究会メンバーだった江南孝明のアパートに「お前たちが殺した千織は、私の娘だった」という怪文書が送られてきていた。差出人は死んだはずの中村青司。

中村千織はミステリ研究会の新年会で事故死した女生徒の名だった。気になった江南は千織の唯一の肉親で青司の弟である中村紅次郎の元を訪れ、そこで紅次郎の大学時代の後輩であるという島田潔と出会う。

意気投合した江南と島田は一緒に事件を探ろうと奔走。ミステリ研究会メンバーの守須恭一も巻き込み、青屋敷の四重殺人について推理を展開する。

 

やがて、角島の十角館でミステリ研究会メンバーが次々と殺害される事件が発生して――・・・。

 

 

 

 

 

 

新本格”の伝説的作品

十角館の殺人』は1987年に刊行された長編小説で綾辻行人さんのデビュー作。

綾辻さんの代表的シリーズである館シリーズ

 

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の第一作目で、1980年代後半から1990年代前半にかけて起こった新本格ムーブメント”の契機となった作品で、近年のミステリ界の流行(?)である叙述ものやどんでん返しものの先駆的作品でもあり、とにかく日本ミステリ界を語る上では外せない、35年以上経った今でも国内ミステリランキングで上位に選ばれる超高評価で絶大な人気を誇る伝説的作品。

 

館シリーズ】は前に当ブログでまとめ記事を書いたんですけど、今回はこの伝説的作品である『十角館の殺人』にのみスポットを当てて紹介したいと思います。

 

 

 

 

 

新装改訂版

1987年に初刊で講談社ノベルス、1991年に講談社文庫版が刊行されていたのですが、2007年に講談社文庫版を全面改訂した「新装改訂版」が刊行されています。

 

デビュー作、しかも初刊から二十年経ってからの全面改訂ってことで、「まさかかなり違いがある代物になっているのか?」と危惧するところではありますが、新装改訂版のあとがきにて、綾辻さんは

“旧版よりもだいぶきれいで読みやすい、なおかつ別物感のないテクストになったはずである。今後、今回のような改訂を行なう機会もそうそうないだろうから、本書をもって『十角館の殺人』の決定版とするつもりでいる。”

と、書かれているので、今読むなら決定版で入手しやすい「新装改訂版」ですかね。

 

 

私は新装改訂版でしか読んでいないのですけど、気になる人は読み比べるのも一興かなと思います。“別物感のないよう”とはいいますが、なんせ全面改訂ですからねぇ・・・。

 

2019年には清原紘さんによる美麗な作画で漫画版が『月刊アフタヌーン』にて連載開始されまして、最近完結したので、今はこの漫画版で知ったという人も多いかも知れません。

 

 

漫画版は、ストーリーは概ね原作通りであるものの、江南くんが女性になっているなど変更点が多々あり。

そもそも、『十角館の殺人』は映像化が難しい作品なので、漫画版が連載されると聞いた当初「えぇ!?“アレ”はどうするんだ?」と驚いた原作の読者は私だけではないはず。(超人気作なので映画化の話などもあったが、結局頓挫したとの噂もあり)

漫画だからこその表現方法でこの点をカバーしているので必見です。

 

 

 

 

 

登場人物

原作ファンが漫画版を読むメリットとして、登場人物の把握がしやすいという点があります。ま、一部原作とは容姿の違うキャラクターもいるのですが。

 

この作品は、島サイドでアガサ・クリスティの『そして誰もいなくなった』を思わせるような連続殺人でミス研メンバーが一人ずつ命を落していき、本土サイドでは江南孝明と島田潔の二人(所々で守須恭一も)が半年前の青屋敷の事件の真相を探るという、島と本土で物事が同時進行で描かれる構成となっているのですが、島サイドのミス研メンバーがそれぞれ海外の有名ミステリ作家にちなんだニックネームで呼ばれているため、人物を把握するのが少し面倒なんですよね。カタカナ名覚えられないあるある。

 

自分用も兼ねて、島サイドにいるミス研メンバーを簡単にまとめますと・・・

 

●エラリイ

法学部の三回生で、ミス研の会誌『死人島』の現編集長。ひょろりと背の高い、色白の好青年で金縁の華奢な伊達眼鏡をかけている。「知的」をモットーにしており、冷静な性格。メンバーの中心的人物。

 

●ポウ

医学部四回生。男性。大柄で硬そうな髪、顔の下半分は濃い髭に覆われている。オルツィとは幼馴染み。優秀な医学生で、作中では主に検死要員。

 

●カー

法学部の三回生。一年浪人しているのでエラリイより一つ年上。男性。中肉中背だが、首の短さと猫背のせいで実際よりも短軀に見える。何かと突っかかってくる性格(特にエラリイに)。前にアガサとオルツィに言い寄ってフラれている。

 

●ルルウ

文学部二回生。会誌『死人島』の次期編集長。小柄で童顔、銀縁の丸眼鏡をかけている男性。

 

●アガサ

薬学部三回生。性格は男性的だが、ソフトソバージュのロングヘアをした美人で、自信に満ちた華やかな女性。

 

オルツ

文学部二回生。小柄で太めの体格の女性で、アガサとは対照的に、野暮ったくいつも臆病そうな目をしている。趣味でかなり達者な日本画を描く。ポウとは幼馴染み。

 

●ヴァン

理学部三回生。二重瞼でやせ型の男性。伯父が不動産業を営んでおり、角島を購入したのでそのツテで十角館での合宿が実現した。他のミス研メンバーより一足先に島を訪れて招待の準備をしていたが、体調を崩し気味。

 

 

 

と、ま、簡単に紹介するとこんな感じなのですが。ちなみに、本土サイドの江南孝明はミス研会員だったときは「ドイル」というニックネームでした。

 

 

大学の学年のことを「回生」というのは主に関西圏の大学のみなのですが、この作品は九州の大学なのに「回生」で表記されています。

何故なのかというと、生まれも育ちも大学も京都である作者の綾辻さんが、大学の学年は全国どこでも「回生」なのだと書いた当初思い込んでいたから。刊行直後には『虚無への供物』などの作者である中井英夫さんに「何回生とか云っているのが気に喰わない」という感想をいただいたなんてこともあったらしいですが、新装改訂版でもあえてそのまま「回生」になっています。

 

 

 

 

 

 

以下ネタバレ注意!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

衝撃の一行

この小説の素晴らしいところは、なんと言っても“ある一行”、“ある人物が言う一言”で事件の真相が読者に一瞬で解るようになっているところ。ページをめくった時にこの一行を読んだ際の驚きというのが、いつまで経っても忘れられない読書体験となるのですよ。ミステリだからこその感動を与えてくれるのです。

 

角島ではミス研メンバーが一人、また一人と殺されていき、最終的にエラリイとヴァンが残る。エラリイは半年前に死んだとされる中村青司が実はまだ生きていて、潜伏しながら自分たちを襲っていたのだと推理し、ヴァンと共に地下の隠し部屋へ行くのですが、そこで白骨遺体を発見。

そこで場面が変わり、十角館が火の手を上げる。

そして、次の章で本土に「十角館に行っていたメンバーが全員死亡した」というニュースが守須と江南の元に伝えられ、警察は遺体の状況から、松浦純也(エラリイの本名)が皆を殺した後に焼身自殺したのではないかと推測する。

 

ここで読者としては「え?どういうことだ?」と煙に巻かれたような気分に陥るのですが、本土サイドの方での島田潔と江南孝明の追求により、この時点で半年前の青屋敷事件で中村青司は確実に死んでいるのだということが明らかにされているので、エラリイとヴァンが最後に地下で見つけた白骨遺体は行方不明となっていた庭師のものだということがおのずと解る。なので、「やはり犯人はミス研メンバーの中に・・・てか、ヴァンはどうなった?」と読者が思考したところで衝撃の一言が。

ミス研でのニックネームを聞かれた守須恭一が、ヴァン・ダインです」と答えるのです。

 

ミス研メンバー6人を殺した犯人はヴァンこと守須恭一。

彼は島と本土をゴムボートで行き来しながら犯行を重ねていた。ミス研メンバーが寝静まってから島を抜け出し、皆が起きてくる前に島に戻ることで部屋から出ていないようにミス研メンバーには思い込ませ、本土の江南孝明には「合宿を断って本土に残っているのだ」と思わせることでアリバイを確保する。

守須は最初からメンバーの皆殺しを目的としていたので、このような規格外な計画を立てることが出来たという訳です。

 

 

島と本土で同時進行させる構成にはこのような意図があったのかと感心するばかりですし、振り返ってみるといくつもの伏線、ヴァンが犯人以外考えられない状況じゃないかってことに気が付かされて「綺麗に欺されちゃったな」なのですが、個人的に特に上手いなぁと思うのが、元ミステリ研究会メンバーの江南孝明が「ドイル」のニックネームで呼ばれていたという設定なところですね。

 

江南は本来の読みが“かわみなみ”なのですが、“こなん”とも読める。なので、ミステリ好きの島田潔も江南の名前を聞いて「コナンくん」とコナン・ドイルを連想しての渾名で呼ぶのですが、島田さんのこの思考をそのまま“ミス研で「ドイル」と呼ばれていたのも名前からの連想なんだ”と読者が勝手に思い込んでしまうのですね。なので、守須もミス研でのニックネームは同じく名前からの連想でモーリス・ルブランなのかと早合点してしまう。

 

しかし、実際にはミス研でのニックネームは卒業する先輩からそれぞれ受け継ぐものなので、本名からの連想だという考えは的外れなことなのですよ。このミスリードが本当に上手いなぁと。

 

清原紘さん作画による漫画版では、ヴァンの髪型を変えることで守須と同一人物だと気が付かせないようにしています。漫画表現における“髪型マジック”をフル活用って感じですね。

 

 

とにかく考えぬかれた作品である『十角館の殺人』には、プロトタイプである『追悼の島』という、第29回江戸川乱歩賞に応募して落選した原稿があるらしいのですが、この原稿は十二国記シリーズ】屍鬼で有名な作家の小野不由美さんとの共同作業によって完成したもので、メイントリックの発案者も小野さんなのだとか。

綾辻行人さんと小野不由美さんは1986年に学生結婚しているのですよ。結婚した後に夫婦そろって売れっ子作家になるって凄いですよねぇ・・・。

 

 

 

 

知的な遊び

推理小説としての驚きと感動は申し分ない傑作ですが、急性アルコール中毒で亡くなった恋人の復讐で6人を殺害するという動機や、冷静に考えると大変過ぎるトリック、真相を見抜いた様子ではあるものの、島田さんが探偵役として活躍せずに犯人が“運命の審判”に従って白状しようと決意するラストにはちょっと物申したい気にはなる。島田さんが何を言おうが、黙っていれば完全犯罪が成立する状態でしたからね。

 

ま、しかし、ここは序盤でエラリイが言うように

「僕にとって推理小説とは、あくまでも知的な遊びの一つなんだ。小説という形式を使った読者対名探偵の、あるいは読者対作者の、刺激的な論理の遊び。それ以上でも以下でもない」

って、ことで。

 

十角館の殺人』が発端となり、中村青司が建てた館で事件が発生し、島田さんが主に探偵役として真相解明していく【館シリーズ】が展開されます。江南くんも後のシリーズに登場していますし、『十角館の殺人』を読んだ後は、是非シリーズを続けて読んでいって欲しいと思います。

 

 

 

 

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ではではまた~

 

 

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『金田一37歳の事件簿』13巻 ネタバレ・感想 まさかの犯人は〇!?「殺人二十面相」完結

こんばんは、紫栞です。

今回は金田一37歳の事件簿』13巻の感想を少し。

金田一37歳の事件簿(13) (イブニングコミックス)

 

連続ドラマに、金田一少年の事件簿30th』で本編漫画復活、

 

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スピンオフ漫画の『犯人たちの事件簿』も復活と、

 

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ただいま少年の金田一が忙しく動き回っておりますが、37歳の方も働いていますよ。

 

 

 

 

13巻は11巻から続いていた「殺人二十面相」の続きで完結までが収録されています。事件のあらすじなど、詳しくはこちら↓

 

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以下ネタバレ~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

亜良木豪

「ジッチャンの名にかけて・・・!」からスタート。つまり、事件現場調べ直しからスタート(ジッチャンの名にかけて!と、言った後は大抵現場検証してシンキングタイムに入るのが毎度のパターン)の今巻。

 

開始からもう天才アーティストで空間プロデューサーの亜良木豪が「殺人二十面相」の正体で、今生き残っている関係者の中にいるんだと断言するはじめちゃん。乱歩展自体がこの殺人のために設計されたものだろうことは間違いないってことでその結論に。

 

殺人のために建物をおっ建てる(ま、これは展示ですけど)とは島田荘司作品ばりの大掛かりさですが・・・

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ま、今更か。

お金出すのは会社側ですしね。しかも客入り前の内覧会で事件起されるなんて、企画会社のドワンゴにしてみたらとても迷惑な話だなぁ。

 

人形の仕掛けであわや殺されかけるはじめちゃん。描写に割とドキッとしますが、ファンは皆ご存じのように、はじめちゃんはしぶといので大丈夫。

で、そこから唐突に十数年前に起きた「カルト教団“パノラマ王国”集団殺人事件」の教祖の息子・御堂力也という人物の名が赤峰さんの口から出て来て、亜良木豪は御堂力也の可能性が高いということに。最初、「パノラマ王国って何その名称」って思ったのですけど、乱歩の『パノラマ島綺譚』からとっているのですね。

 

 

 

そしてそのままの流れで「謎がすべて解けちまいましたよ!」で、スピーディーに解決編に突入。

 

遺体出現の謎密室の謎の二つですが、前回の記事で概ね予想していた通りのトリックでしたね。特に密室トリックは前回予想した忍者そのままのトリックだった。ま、あそこまでヒントを出されていたら一目瞭然か。

一件目の事件のトリックも布張っていたってことで、応用したトリックですね。シワが出ないように布張るの、たいへんそー。

 

犯人は億野さんか魚森さんだろうと予想していたんですけど、億野さんの方でした。

やはり誘導している感じが怪しかったものなぁ。魚森さんの「5人一緒だった」発言は億野さんが蔵に入っていく姿を見ていなかったのはおかしいってことだったんですね。単純なんですが、声の方に気をとられて気が付かなかった。悔しい。

 

トリックも犯人も予想していたのが半分当たった感じですが、しかして、まさか億野さんが男だとは思いませんでしたよ。あらためて見直してみると背が高いし、体型を誤魔化すような服着ているのですけども。

女装している犯人っていうと、『秘宝島殺人事件』思い出す。

 

 

今回の最初の被害者である葉狩京士朗には“トイレで便座をうっかり上げたままにした”ところを見られたために男だとバレたってのは完全にネタですね。

 

 

 

 

 

 

御堂力也

カリスマ美容師、パーソナルトレーナーインテリアデザイナー、アーティストと、有り余る才能で成功しかけては素性がバレて名前と顔、性別も自在に使い分けて逃げ回っていたという、乱歩作品そのままな設定の億野さん(御堂力也)。作中で「そんな昔の探偵小説と一緒にしないでよ!」と、言っていますが。まさにって感じ。

 

変装する人物というのは少年時代のシリーズから怪盗紳士(そういや、37歳の方には出てくれないのかな~)、高遠さんと描かれてきた訳ですが、御堂力也はその都度整形して顔変えてるってことで、より微妙なファンタジックさ加減。

現実には、整形で元の顔を完全に消し去るのは相当大変だし、他人の顔そっくりにするのも無理なので、充分ファンタジーではあるんですけど。この漫画シリーズは整形が偉大な世界軸なのよ。

 

美容師だった頃撮りためた顧客の髪型写真の中から地味で目立たない女性の顔(億野冴月の顔)を選んで海外で整形。正体を隠し、天才アーティスト・亜良木豪として成功した矢先、1億3千万分の1の偶然(どんな不運だ)億野冴月と出会ってしまい、取り込んで事務所を手伝わせていたものの、結局バレて弾みで殺害。

こうなったら何人殺すも一緒だってことで、恨んでいる人たちを一挙にまとめて始末しようと今回の計画を実行したとのこと。

 

御堂力也は逃げ回りながらも母や兄弟たちのような殺人者、同類にはなるまいと生い立ちに抗ってきたのだが、結局は弾みで人殺しとなってしまった。今回の計画は半ばやけくその心理状態でのものだったことが窺える。やけくそにしては、手が掛かりまくっていますけどね。

 

怪盗紳士や高遠さんのように余裕のある人物ではなく、周りの嫉妬や悪意に振り回されて犯罪者になってしまった少し気の毒な人物として描かれています。金田一「最後はその人本人の考え方だ」と言っていて、私も同意見ですけど。

その都度その都度の選択が間違っていたのだと思いますよ。一番のしくじりは実在する人物の顔そっくりに整形したことでしょうか。顔のモデルを設定せず、地味顔の男性にした方が楽だし良かったんでは。

 

 

御堂力也ですが、捕まりません。怪人二十面相さながらの大立ち回りでトンズラしちまいました。

最後は殺し損ねていた赤峰さんをハロウィーンの雑踏の中で刺殺して終わり。手の込んだ計画をした挙げ句のこの殺し方は、雑で本格ミステリファンとしてはいただけませんが。だったら皆そういう風に殺害すればよかったじゃんね。

 

37歳の事件簿の方も高遠さんのように“逃走する犯人”をやりたいのですかね。十二神だの玲香ちゃんの事件などでもう割とお腹いっぱいなんですけど・・・。

 

 

少年だけでなく、37歳の方も忘れずに注目していきたいと思います!

 

 

ではではまた~

 

 

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