こんばんは、紫栞です。
今回は桜庭一樹さんの小説『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』をご紹介。
桜庭さんは元々少年少女向けの娯楽小説・ライトノベル作家で、この『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』も最初はライトノベルレーベルの富士見ミステリー文庫からの刊行でした。こちら↓
※ 角川文庫版読んでからこの表紙見るとびっくりする(笑)挿絵も入っているみたいです。
その後高い評価を受けて評判になり、数年後に富士見書房から単行本が発売され、
こちら↓
砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない―A Lollypop or A Bullet
- 作者: 桜庭一樹
- 出版社/メーカー: 富士見書房
- 発売日: 2007/03
- メディア: 単行本
- 購入: 2人 クリック: 100回
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角川文庫でも刊行されました。
こちら↓
砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない A Lollypop or A Bullet (角川文庫)
- 作者: 桜庭一樹
- 出版社/メーカー: 角川グループパブリッシング
- 発売日: 2009/02/25
- メディア: 文庫
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ライトノベル作品から一般文芸で刊行し直された希有な作品ですね。 この本で桜庭さんは一般文芸界から注目を集め、大人向け・一般文芸の作品を書くようになり、2008年には『私の男』で直木賞を受賞するまでに至りました。
桜庭さんの作家生活において大きな転機となった作品ですね。
私個人としても、桜庭さんは少年少女向けの娯楽小説だけを書かせるには余りにも勿体ない作家さんだと思います。
あらすじ
【新聞記事より抜粋】
十月四日早朝、鳥取県境港市、蜷山の中腹で少女のバラバラ遺体が発見された。身元は市内に住む中学二年生、海野藻屑さん(一三)と判明した。藻屑さんは前日の夜から行方がわからなくなっていた。発見したのは同じ中学に通う友人、A子さん(一三)で、警察では犯人、犯行動機を調べるとともに、A子さんが遺体発見場所である蜷山に行った理由についても詳しく聞いている・・・・・・。
九月のはじめ、あたしのクラスに自分のことを“人魚”だと言い張る謎めいた美少女・海野藻屑が転校してきた。
そしていまは、十月四日の早朝。兄とあたしは、必死に山を登っていた。見つけたくない「あるもの」を見つけてしまうために――。
このお話は最初のページに【新聞記事より抜粋】が載っていまして、“あたし”とその兄・友彦が山に登りながらこれまでの出来事を回想していく構成です。新聞記事のA子さんが語り手である“あたし”(山田なぎさ)ですね。
冒頭ですでに悲劇的な結末が提示されている、ミステリー的な形式が取られています。しかし、このお話は謎解きがメインではありません。世界と“子供”との戦いが描かれた痛切な青春小説です。
砂糖菓子の弾丸とは
主人公の山田なぎさは“子供”という境遇に絶望しているリアリストで、直接的で実体のある力「実弾」を早く手にしたいと考えている。ここでの「実弾」とは主に〈お金・社会進出・働くこと〉などの意ですね。 その「実弾」主義のなぎさに対して何かと絡んでくる転校生の藻屑。藻屑は荒唐無稽な嘘ばかりつく、なぎさの兄・友彦が言うには空想的弾丸――“砂糖菓子の弾丸”をのべつまくなし撃っている少女。
なぎさは「実弾」にならないよけいなことには関わらない、一生そんなものは見ずに生きていくと心に固く誓っていたが“砂糖菓子の弾丸”である嘘つきで残酷、美しい藻屑に徐々に惹きつけられ、親しくなっていく。
海野藻屑に“はまって”しまうのですね。
「好きって絶望だよね」
作中の藻屑のセリフです。
このお話のテーマの一つに「虐待」があります。藻屑は父親から暴力を振るわれていて、体中痣だらけ。しかしその痣を“汚染”と言い張り、父親の事を庇いながら砂糖菓子の弾丸を撃ちつづける。
お父さんのことが、好きだから。
藻屑はこの生い立ちのせいか、愛情表現と暴力行為を混同させているところがあり、残酷なことも平気でやってのけてしまう非常に危うい存在として描かれています。
ただの酷い話では無く、愛情が見え隠れしているからこそ、この物語はどうしようもなく悲痛なのです。
一方のなぎさは子供ながらに必死にとれる行動をとり、藻屑の父に対しても面と向かって「藻屑を殴らないで!」と言います。しかし、どうにもならない。
『大人になって自由になったら。だけど十三歳ではどこにもいけない。』
それでも終盤、なぎさは藻屑と一緒に逃げようとします。まったく計画性の無い、拙くて幼稚なものでしたけど。
『そのままあたしはそこに立って、藻屑と一緒に行くはずのどこか遠いところを夢見ていた。そこは、ともかく、ここじゃないのだ。あたしも藻屑も自由になるのだ。』
しかし――・・・
この後に待ち構えている絶望。その後のなぎさの行動・・・もう、読んでいてもの凄く痛切なのです(T_T)
なぎさの必死の訴えを大人達が相手にせず、兄と「あるもの」を早朝に見つけに行くことになるくだりにも“子供の無力さ”を感じてやり切れない気持ちになります。
『今日もニュースでは繰り返し、子供が殺されている。どうやら世の中にはそう珍しくないことらしい、とあたしは気づく。生き残った子だけが、大人になる。』
うさぎ問題
『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』はショッキングな場面が多い作品ですが、その中でもよく話題に上るのが“うさぎ事件”の犯人はだれか。
まぁ二択なんですが・・・私としてはこの事は深く追求する必要は無いというか・・・無理に究明するのは蛇足にしかならないんじゃないかと思います。作中のなぎさは藻屑だという思いの方が強いんじゃないかな~とは思いますが。
最後に。
私はこの小説「とにかくスゴイ。どえらい作品だ」と心の底から思っているのですが・・・思いすぎているせいかなんなのか、この凄みを上手く言葉で書き表すことが出来ません・・・(^_^;)
“うさぎ事件”同様、この小説『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』には長々とした解説や疑問点への追求は無用な蛇足にしかならず、興醒めなだけなのかも知れません。それほどにこの小説自体に“力”があるのだと思います。
“よくはわからないが、何故かいつまでも心に残り続ける”そんな小説。
人によって好き嫌いがハッキリと別れる作品だとは思いますが、一読の価値大ありです!読んでみておくれ・・・!!
この小説の後日談をふくむ短編集がでました。詳しくはこちら↓
漫画も出ているようです↓
- 作者: 桜庭一樹,杉基イクラ
- 出版社/メーカー: KADOKAWA(富士見書房)
- 発売日: 2008/03/08
- メディア: コミック
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ではではまた~