こんばんは、紫栞です。
今回は今年の6月に発売された桜庭一樹さんの最新刊『じごくゆきっ』をご紹介。
『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』の後日談をふくむ全7編の短編集です。
実は私、この単行本が出されていた事実を二ヶ月ほど知らないまま過ごしていたのですっ!不覚!
集英社からの文芸書籍の刊行って見逃しがちなんですよね~そうなのって私だけかしら?(集英社からの漫画はすぐにわかるんですけどね)
桜庭さんは集英社から本出すのは『ばらばら死体の夜』以来ですね。
収録作品
●暴君
●ビザール
●A
●じごくゆきっ
●ゴッドレス
●脂肪遊戯
最初と最後の『暴君』と『脂肪遊戯』の2編が『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』の後日談ですね。
これ、読んで大抵の人が引っかかる事だと思うんですが・・・どこら辺が後日談なんだ?と。
それというのもこの2編を読んでも『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』のキャラクターが登場したり、『砂糖菓子~』での事件についての言及が話の中にあったりするわけでも無く、唯一共通してでてくるモノは“ピンク色をした霧”のみなので(これも『暴君』の方にしか出てきませんけどね)「後日談?続編か!?」と思って読むとかなりの肩透かし感があるかと。
『じごくゆきっ』の公式サイトに載っている桜庭さんの著者エッセイに
“『砂糖菓子~』と同じ世界を舞台にして”と書いてある事から察すると・・・
『砂糖菓子~』で描かれた“子供が戦う世界”――なぎさが最後の方で語っていた
「十三歳でここにいて周りには同じようなへっぽこ武器でぽこぽこへんなものを撃ちながら戦っている兵士たちがほかにもいて」
つまり“へっぽこ武器で戦っている他の兵士(子供)達にスポットを当てたお話”ということなんだと思います。
『暴君』と『脂肪遊戯』の中で「~のだが、それはまたべつの話だ」のフレーズが数回出て来るので同じ世界感でまだ数作書くつもりだったようですが、今のところ2編で打ち止め状態みたいです。この2編に出て来る紗沙羅はかなり良い味だしてるキャラクターなので「“べつの話”読みたいな~」と思ってしまいます。書いてくれないかな~。
『ビザール』『ロボトミー』『ゴッドレス』の3編は共通して脳障害が扱われているなぁと思ったら、著者エッセイによると“脳と視覚のあいだに起こるイレギュラーな病”をテーマに書かれたものらしいです。 ちなみに、題名の“ビザール”“ロボトミー”“ゴッドレス”はいずれも作中人物のSNS上で使っている名前として出てきます。
『ロボトミー』って題名を見たときは「え?昔の手術話?」とか思ってしまいましたが、全然違う(^_^;)
『ビザール』の主人公みたいに無理に個性をつけようとする心理ってのはよくわかるし、私の学生時代にも周りにそういう子いたな~と。
『ゴッドレス』は終盤の香さんとニノの会話、ニノが必死に言いたいことを言おうとして 何度もつっかえってしまうところ、読んでいて胸が苦しかったです。
『A』 はSFもの。 “アイドル”に“アイコンの神”が宿っていて・・・の未来話。出だしのアイドルの概念が完全に忘れ去られた時代ってのが面白かったです。
表題作の『じごくゆきっ』は先生と生徒(女同士)での駆け落ち話。
「金城さん。センセといっしょに・・・・・・」「じごくゆきっ」
7編全て桜庭さんらしさに溢れていて素晴らしかったです。
特に好きなモノを挙げるなら『ロボトミー』と『脂肪遊戯』でしょうか。『脂肪遊戯』は電話のシーンが面白かったです。
うーん・・・でも7編ともやっぱり同じぐらい良かったですね!
桜庭さんの小説は単純なハッピーエンドを迎えるものが少なく、この短編集も全話「あぁ、もう幸せ!ハッピー」といったものとはほど遠いです。ラストはどれも“痛み”を伴い、絶望が漂っている。
単行本の題名が『じごくゆきっ』なのはこの7編全てを読み終わると凄くシックリでピッタリだなぁと思います。漢字じゃなくってひらがなで、小さい“っ”が付いているところもまた桜庭さんっぽいですね。メルヘンチックな字体だが、書いてあるのは“地獄”ですよ~みたいな。
桜庭一樹ファンはもちろんですが、今まで桜庭作品を読んだことがない人にもオススメしたい1冊です。
さぁ、あなたもいっしょに・・・・・・じごくゆきっ
ではではまた~