こんばんは、紫栞です。
今回は有栖川有栖さんの『幻坂』(まぼろしざか)をご紹介。
こちらは大阪の天王寺区にある【天王寺七坂】を舞台にした短編集。有栖川さんは世間一般には本格推理小説のイメージが強いですが、この本は怪談集です。
第5回大阪ほんま本大賞受賞作。なんとも大阪愛に溢れた物語集なので納得の受賞。
目次
●清水坂
●愛染坂
●源聖寺坂
●口縄坂
●真言坂
●天神坂
●逢坂
●枯野
●夕陽庵
の9編。
後ろの二編は坂にちなんだお話では無く、時代物の短編怪談。でも舞台は大阪です。
私はこの本読むまで【天王寺七坂】ってまったく知らなかったのですが、本の最初の説明によると
『七坂の界隈は寺町を形成して、四天王寺をはじめ多くの神社仏閣が連なる〈最も古い大阪〉であり、古代から現代に至るまでこの都市の記憶を抱く。』
のだそう。地図も載っていて親切(笑)
怪談にはピッタリの舞台ですね。坂の名前がどれも魅力的。狭いエリアに集中しているみたいなので、機会があったら散策してみたいなぁ。読むと凄くそう思わせる短編集なんですよね。大阪観光に一役買っているんじゃ・・・と、思う。各話の題字のページに坂の写真が載っているのも親切で、行きたくなる気持ちに拍車をかけてくれます。どれも素敵な写真ですよ~。表紙絵も内容を的確に表したもので良い。作った人達の思いが詰まった“一冊の作品”ですね。
あとがきで有栖川さん自身も書かれていますが、怪談集といってもゾッとするようなお話が入っている訳ではなく(「口縄坂」はちょっとゾッとするかな)全然怖くないです。9編全てに『幽霊』が絡んでいるので怪談なのですが。
七坂や周辺の歴史を織り交ぜつつ、無常観・せつなさ・寂しさが漂うお話が並んでいます。この“せつない”余韻が残る読後感は本格ミステリーのシリーズもふくめた有栖川作品全般にいえる特徴ですね。(私の好きなところです!)
私は「愛染坂」「真言坂」「逢坂」が好きです。三つとも男女間の機微に触れるお話。
「口縄坂」は少し官能的なお話ですね。入っているお話の中では一番怪談っぽいです。主人公の女子高生の猫好きっぷりが可笑しい。凄い情熱だ。作者の猫好きを知ってるので笑ってしまう(^o^)
「清水坂」はノスタルジックで本書の最初を飾るのにふさわしいお話ですね。
「源聖寺坂」と「天神坂」の二編には心霊現象専門の探偵・濱地健三郎が出てきます。今年、この探偵を主役にした単行本が発売されました↓
文庫も出ました↓
詳しくはコチラ↓
幻坂の二編でお役御免のつもりでいたところ、読者からのお声でシリーズものの主役に昇格!
「源聖寺坂」は探偵が出て来るだけあってミステリー色が強いです。本書の中ではチト浮いてる。
「天神坂」は幽霊が食事するってのが新鮮でした。
私の住んでいる場所は坂とは無縁な所でして「こんなに雰囲気・歴史ある坂がいっぱい。羨ましいなぁ」とか思ってしまいます。実際には上り下りが大変だとかあるんでしょうけど・・・(^_^;)
幻想的な気分に浸りたい人にオススメ。今の季節は夜に窓を開けて読んだりすると良いと思います。虫の音を聴きながら~みたいな。外の音がうるさいところはダメですけどね・・・
ではではまた~