こんばんは、紫栞です。
今回は小説家の米澤穂信さんについてご紹介。
作風・特徴
殺人事件を扱っている作品は少ないですが、しっかりとした理責めの推理小説を書かれています。学生が主役の「日常の謎」モノが多く、ノンシリーズの『ボトルネック』までは青春・思春期とミステリの組み合わせで作品を出されていました。近年は別テーマのお話やシリーズも展開するようになりましたね。
「日常の謎」を扱ったシリーズ以外の作品は結構後味の悪いお話が多いです。秘められた悪意が暴かれる、知らない方が良かった事を知ってしまうといった結末が大半ですかね。しかし、不快感はさほど無く、読んでいてこの後味の悪さが癖になります。文章が端正なのと仕掛けの巧みさに感心してしまうからでしょうか・・・。
青春ミステリとはいっても青春の綺麗で爽やか・希望に溢れた部分にスポットをあてるのではなくって、思春期に陥る不安や葛藤・生きづらさが描かれています。代表的シリーズの〈古典部シリーズ〉も“ほろ苦さ”がウリ(?)ですからね。
私は米澤さんの青春ミステリ以外の作品も大好きです。ターゲット層が上の世代の作品も良作揃いですので、どんどん書いてほしい(もちろん青春モノのシリーズも書いてほしいですが)
男性的な欲を匂わせない主人公が多いです。実は私、読み始めた頃、名前と文章の雰囲気から若手の女性作家さんなのだと思い込んでいたんですよね(笑)後にテレビで音声と顔写真を観てびっくりした(^_^;)
作品一覧
古典部シリーズ
米澤さんの代表的シリーズ。アニメ化され、映画化も。青春ミステリで「日常の謎」モノですね。
『氷菓』(連作短編)第五回角川小説大賞(ヤングミステリー&ホラー部門)奨励賞受賞作。
『愚者のエンドロール』(長編)
『クドリャフカの順番』(長編)
『遠まわりする雛』(短編集)
『二人の距離の概算』(長編)
『いまさら翼といわれても』(短編集)
小市民シリーズ
こちらも青春ミステリの「日常の謎」モノ。“小市民”を目指す、恋愛関係にも依存関係にもない互恵関係にある高校生男女が主役。『冬期限定~』で完結するはずですが、2009年以降刊行されていません。いつでるのか・・・。
※追記
2020年に「巴里マカロンの謎」という短編集が発売されました。どうやら『冬期限定~』の完結作の前に春期~秋期の間にあった様々な出来事を短編集として数冊刊行する予定のようです。
『春期限定いちごタルト事件』(短編)
『夏期限定トロピカルパフェ事件』(連作短編)
夏期限定トロピカルパフェ事件 小市民シリーズ (創元推理文庫)
- 作者: 米澤穂信
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2013/10/18
- メディア: Kindle版
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『秋期限定栗きんとん事件』(長編)
※三作目は上下巻にわかれています。
「巴里マカロンの謎」(短編)
ベルーフ(大刀洗万智)シリーズ
『さよなら妖精』に登場する大刀洗万智を探偵役に据えたシリーズ。『さよなら妖精』のときは高校生で、ベルーフシリーズでは新聞記者を経てフリージャーナリストになった大刀洗が描かれます。“ベルーフ”っていうのは〈天職〉の意味で名称に使用しているんだとか。シリーズとはいってもお話は独立しているのでバラバラに読んでも大丈夫です。
『王とサーカス』(長編)
『真実の10メートル手前』(短編集)
S&Rシリーズ
シリーズ化を想定して書かれたとのこと。確かに内容やキャラクターはシリーズ化を念頭において書いたんだなと思わせるものですが、2005年に一作刊行されて以降何の音沙汰も無いです。はたして続きはでるのか・・・。
『犬はどこだ』(長編)
『本と鍵の季節』(シリーズ名不明)
2019年に刊行された図書委員の男子高校生二人による謎解き連作短編。シリーズ化されるようです。
シリーズ外作品
『さよなら妖精』(長編)
上記の理由から〈ベルーフシリーズ〉を読む前に是非こちらを。この小説、元々は〈古典部シリーズ〉三作目・完結編として予定されていたものらしいのですが、様々な事情でレーベルを変えて東京創元から刊行されることに。結果的に読者層が広がり、〈古典部シリーズ〉も続くことになりで、読者的には万々歳ですね。一応「日常の謎」ものではありますが「戦争」が関わってくるので結末の重さはシリーズ作品とはだいぶ異なります。
『ボトルネック』(長編)
もう青春の痛さ・苦さ大爆発の長編。読後の絶望感は凄まじいです。パラレルワールドが舞台のお話で主人公の心情が深く描かれています。ミステリ色は薄めですかね。
『インシテミル』(長編)
アガサ・クリスティの『そして誰もいなくなった』へのオマージュ的作品で「クローズド・サークル」をとことん追求しています。米澤さんの作品の中では今のところ一番王道の本格推理小説ですね。2010年に実写映画化されていますが、何故「インシテミル」の題名なのか疑問なくらい小説とは内容が違います。“原作”というよりは“原案”って感じですね。
『儚い羊たちの祝宴』(連作短編)
お嬢様達が集う読書サークル「バベルの会」をめぐる邪悪な五つの事件が収められたられた短編集。どす黒くって耽美な暗黒ミステリ。出て来るお嬢様達が無慈悲すぎてなんだか人間離れしています。
『追想五断章』(長編)
五つの「結末のない物語(リドルストーリー)」を作中に埋め込んだ本格ミステリ。お話の作りが精巧で感嘆します。
『リカーシブル』(長編)
「子供」という立場の苦さ・辛さが重くのしかかる青春ミステリ。地方都市ミステリでもあり、町全体の妙な雰囲気や伝説に町に引っ越してきた血の繋がらない姉と弟が迫ります。二人のやり取りがそこはかとなく楽しくってそこが救い。
『折れた竜骨』(長編)
第64回日本推理作家協会賞受賞作。魔術や呪いが横行するファンタジーな世界で「推理」の力によって犯人を導き出すことが出来るのか?ってなお話。「ファンタジーだ~」と思って新鮮な気分で読んでいたら、終盤は骨太な謎解きミステリになっていて「こんなものまで書けてしまうのですか・・・!」と色々と驚きを与えてくれます。
『満願』(短編集)
第27回山本周五郎賞受賞作。これぞ至極の短編集。どのお話も完成度が高いです。後味の悪い読後感も冴え渡っていますね。読んで損はない一冊。
『Iの悲劇』(長編)
限界集落に人を呼ぶ戻す「Iターンプロジェクト」でやって来た移住者たちとの間で起こる様々な謎を、市役所職員が追っていく物語。
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「黒牢城」(長編)
異色の戦国時代ミステリ。信長を裏切った荒木村重と、軍師の黒田官兵衛が物語の主になっており、史実を用いた巧みなミステリ小説となっています。
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進化
米澤さんは2001年から活動されていますが、量産型の作家さんではないので作品数はさほど多くないですね。短編が多いので単行本にまとまるまで時間がかかるというのもありますが。個人的には〈小市民シリーズ〉の完結編はいい加減出してほしいな~とか思いますね・・・。
量産型じゃないぶん、作品一つ一つの完成度は高いです。青春ミステリの枠組みを外してからは色々な種類のミステリを書かれていますが、ドンドン進化していってるなぁ~と本が出る度感じさせてくれる作家さんですね。
今後もますますのご発展をお祈り申し上げます!
ではではまた~