夜ふかし閑談

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『AX(アックス)』あらすじ・感想 殺し屋シリーズ最新作!

こんばんは、紫栞です。
今回は伊坂幸太郎さんの“殺し屋シリーズ”最新作『AX(アックス)』を紹介したいと思います。

AX アックス (角川書店単行本)

あらすじ
「業界内で兜と言ったら、一目置かれている。一目どころか二目も。それがこんな恐妻家だと知ったら、がっかりするやつもいるだろうな」
表向きは所帯持ちの文房具メーカーの営業マン、裏では超一流の殺し屋の「兜」は家では妻に頭が上がらない恐妻家。常に妻の機嫌を気にかけ、ビクビクしながら日々を過ごしている。高校生の一人息子・克巳も呆れるほどだ
――家族は「兜」の物騒な仕事のことはまったく知らない。
「兜」は克巳が生まれた頃から“物騒な仕事”を辞めたいと考えていた。五年前から仲介業者の「医師」に再三にわたり訴えているのだが、「引退するには、お金が必要です」と言われるばかり。しかたなく「仕事を辞めるために、その仕事で金を稼ぐ」といった不本意な状況を続けていたのだが――。

 

 

 

 

 

 

グラスホッパー』『マリアビートル』に次ぐシリーズ第3弾ですね。
前2作品のまとめはこちら↓

 

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前2作は長編でしたが『AX(アックス)』は全5編の連作短編です。と、いっても短編どうしに密接に繋がりがあり、各短編での事柄がラストで綺麗に集約されていくので5編で一本の長編ともいえるかもしれません。


入っている5編は
●AX
●BEE
●Crayon
●EXIT
●FINE


前半の3編が雑誌掲載されたもので、後半の2編は書き下ろし。長編だと多視点の一人称でお話が構成されていましたが、この本は全編にわたり主な語り手は「兜」です。

 

表題作の『AX(アックス)』とは“斧”のこと。お話では「蟷螂の斧」って言葉の意味で使われています。“蟷螂”はカマキリのこと。

“弱いにもかかわらず、必死に立ち向かう姿”を「蟷螂の斧」という。“はかない抵抗”の意味合いが強い言葉ですが、「兜」はこれに対し「カマキリの斧を甘く見てるなよ」と言います。本の1話目のタイトルですが、この部分が終盤にも活きてきます。


「AX」「BEE」「Crayon」“殺し屋シリーズ”で短編やるとこんな感じになるのね~と。
短編もやっぱり分類不能で展開の予想が出来ないですね。「兜」の恐妻家な部分など、コメディ・日常的な語り口の中で突如として非情な・非現実的な“殺し”の場面が現れ、事態が一変する様相は読んでいて「え?え?」の連続でした。
「BEE」は結末がクスッと笑ってしまうようなオチですけど。こういう話好きです(笑)読み終わった後〈初出〉の項を見てみたら『ほっこりミステリー』と書かれていて納得。

 

本の冒頭部分で前作での登場人物檸檬「蜜柑」が出てきて嬉しかったです。終盤には「槿」「情報屋の桃」も登場。他の殺し屋達の名前や前作での事件のことなど、会話の中で出てきたりしてシリーズ通しで読んでいる読者にとっては楽しい限りです。

 

「EXIT」「FINE」の書き下ろし2編でストーリーは一気に動きます。いきなりすぎて、その1行を読んだ時しばし呆然としてしまいました(^_^;)

しかし、この結末の為に前の3編は書かれていたのだなぁと読み終わった後実感しましたね。前半の3編があるからこそラストの切なさや感動がひとしおなのですよね・・・(T_T)

 

主人公の「兜」は非情に人間味溢れるキャラクターです。“殺し屋シリーズ”のキャラクター達は皆、思わず好感を持ってしまうようなキャラクターばかりですが、この本では1冊丸々「兜」の心情が描かれているので前2作以上に殺し屋に感情移入してしまいました。


主に“家族との日常”が多く描かれているのが親しみを覚えてしまう要因かと。


妻に対しての「兜」の恐怖心や気遣いは息子の克巳も言っていましたが、ちょっと“いきすぎ”ですね。まぁ理由があるのですが。その時の気分で言動が大いに左右されるってのは世の母親達の大半がそうだと思う。(少なくとも私の母はそうです)その面ではこの奥さんの描写は凄くリアリティがありましたねぇ。笑っちゃうくらい(私の母がそうだからそう感じるだけなのかもしれませんが)いや、でも、これくらい家で自己主張出来ないと妻としては窮屈ですよね。貞淑なばかりが良いとは思えない!(※個人的な意見です)


息子の克巳が良い子で感動します。家の中に味方がいて良かったね!って、感じで(笑)やっぱり息子は男親に肩入れするもんなんですかねー。それとも「兜」があまりにも妻の機嫌を損ねないように日々努力を重ねているから感心しているのかな(^_^;)

 

 

この本は一人の夫、そして一人の父親と〈家族〉のお話です。前2作の雰囲気とはだいぶ異なりますが、読み終わると切なくてあたたかい感動を与えてくれる1冊です。読んで後悔はないですよ~!

 

 

 

 

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ではではまた~