夜ふかし閑談

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マリアビートル あらすじ・ネタバレ解説 王子の最後は?

こんばんは、紫栞です。
このあいだ伊坂幸太郎さんの“殺し屋シリーズ”まとめの記事で↓

 

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 シリーズ2作目の『マリアビートル』を少し紹介しました。この記事ではネタバレ無しで紹介した訳ですが、記事書いている最中『マリアビートル』はネタバレありでの、もっと突っ込んだ紹介記事も書きたいなぁ~との思いに駆られたので、今回はがっつりとネタバレして『マリアビートル』1作を掘り下げてご紹介。

 

マリアビートル (角川文庫)

 

あらすじ
元殺し屋でアルコール依存症「木村」は幼い息子に重傷を負わせた狡猾な中学生「王子」に復讐するため、東京発盛岡行きの東北新幹線〈はやて〉に乗り込む。しかし、これは「王子」が用意した罠だった。
「木村」はスタンガンで気絶させられ、気がついたときには縛られて座席に座らされていた。「王子」は自分の言うことを聞かなかったり、危害をくわえたりすれば、病院にいる「木村」の息子が死ぬ手筈になっていると言う。電話をかけて『仕事をして下さい』と「王子」が言ったら病院の近くに待機している人物が呼吸器を止める。また、携帯電話が鳴って十回コール以内に「王子」が出ない場合も同様だ、と。

同じ新幹線には取り返した人質と身代金を護送する二人組の殺し屋「蜜柑」檸檬。二人は車中で人質を何者かに殺され、身代金の入ったトランクも紛失してしまう。
その身代金強奪を指示されたツキの無い殺し屋「七尾」は、奪った身代金を手に上野駅で新幹線を降りるはずだったのだが、「七尾」の“ツキの無さ”は「七尾」を新幹線から簡単には降ろしてくれなかった。

殺し屋ばかりを乗せた新幹線は北を目指して疾走する。
東京から盛岡間、2時間30分の【殺し屋狂想曲】の幕が開く――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


シリーズ第一弾グラスホッパー

 

 

での寺原親子が死んだ事件から六・七年経っている設定です。寺原亡き後、裏社会では今度は“峰岸”という人物が幅を利かせています。

「蜜柑」と「檸檬」が護送していたのはこの峰岸の息子でして。目を離したすきに殺害されて身代金も奪われてで二人の立場は“まずい”“やばい”という訳です。

「王子」と「木村」の攻防戦に「蜜柑」「檸檬」の最悪の状況を打開しようとする思案・行動、さらに「七尾」に次々と訪れる不運が複雑に絡み合い、お話は狡猾な中学生・「王子」対【殺し屋達】の様相を呈していきます。

 

 

※なんと、今作は『ブレット・トレイン』というタイトルで2022年にハリウッドで映画化されました!詳しくはこちら↓

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以下ネタバレ~
※ネタバレなしの紹介はこちらの記事でどうぞ

 

 

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グラスホッパー』とのつながり
「王子」は大人達を翻弄する一環で、いつも「どうして人を殺してはいけないんですか?」と聞いています。呆れながらも満足な回答が出来ない大人達を見て心の中で蔑み・楽しんでいるのですが(ヤなガキですね~!)まぁこの質問を「木村」「檸檬」「蜜柑」にもしていくんですけど、どれも「王子」の得意の態度を崩すものではない。
この質問に対し、終盤で「王子」の態度に揺らぎを与える回答をするのが前作『グラスホッパー』での主人公「鈴木」です。亡くなった奥さんの両親に会う為に新幹線に乗っていたのですね。
「鈴木」は「王子」を翻弄する返答を繰り返し、

『数ある禁止事項の中からその質問をするのは、過激なテーマを持ち出して大人を困らせようとしているんじゃないか』

と質問をした「王子」の幼児性を指摘し、

『殺人を許したら、国家が困る。所有権が保護しなくては経済は成り立たない。そこに倫理は関係ない』

と結論を言います。

ようは“法律で決まっていて、その法律は社会を立ち回らせる為にある”ってことですね。哲学者ぶって馬鹿馬鹿しい質問をするなよ、ガキだなぁ。みたいな。
私もね、読みながらずっとそう思っていたので「鈴木」がズバリ言ってくれたときはスカッとしました(^_^)
この「鈴木」の一撃で圧倒的優位に立っていた“つもり”の「王子」の余裕は揺らぎ始めます。

 

他に新幹線の中には『グラスホッパー』で寺原を殺害した殺し屋スズメバチも乗り合わせています。前作同様、内面描写は一切無いままの登場ですね。

そして新幹線の外では〈押し屋〉の「槿」が暗躍。「王子」がいう“病院の近くに待機している人物”を殺害。結果的に窮地を救ってくれます。

ちなみに、「スズメバチ」と「槿」はシリーズ3作目の『AX(アックス)』にも登場しています。(※「蜜柑」と「檸檬」も出ています)

 

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 シリーズ三作品、すべてに登場しているのは「スズメバチ」と「槿」ですね。

 

 

 

 

 

 


子供と高齢者の対決
「王子」と必死に攻防戦を繰り広げていた「木村」ですが、お話の途中で退場してしまいます。え~~!木村おじさんが「王子」に勝つところが見たかった・・・と、いうか、それがこのお話のオチじゃないの~!?と、読者としては驚き・失望してしまうのですが・・・お話の後半で新幹線に60過ぎの老夫婦が乗り込んできます。この老夫婦は「木村」の両親で、息子は知らなかった事なのですが・・・実はその昔、業界でその名をとどろかせた超やり手の伝説の殺し屋だったのだっ!!な、なんだって~!?と言いたくなりますが、そうなんだそうです(笑)


そんなこんなで、「王子」との戦いは「木村」の両親に引き継がれます。
仲介業者の「繁」、〈押し屋〉の「槿」の暗躍により孫の無事が確認され、形成は一気に逆転。高齢者である「木村」の父・木村茂は「王子」に銃を突きつけながら
「いいことを教えてやるよ」と語り始めます。


「六十年、死なずにこうやって生きてきたことはな、すげぇことなんだよ。分かるか?おまえはたかだか十四年か十五年だろうが。あと五十年、生きていられる自信があるか?口では何とでも言えるがな、実際に、五十年、病気にも事故にも事件にもやられずにな、生き延びられるかどうかはやってみないと分からねえんだ。いいか、おまえは自分が万能の、ラッキーボーイだと信じているのかもしれねえが、おまえができないことを教えてやろうか」

 

「この後、五十年生きることだ。残念だが、おまえよりも俺たちのほうが長生きをする。おまえが馬鹿にしている俺たちのほうが、おまえより未来を見られる。皮肉だろ」

 

「大人を馬鹿にするなよ」

 

大人を見下している生意気なガキを、高齢者が完膚なきまでにたたきのめす。
これがあらかじめ用意されていた「王子」の倒し方なのですね~(^_^)最高に気分爽快です。

新幹線が終着駅に着くと同時に「王子」は撃たれて動きを封じられ、木村老夫婦に運び出されます。新幹線の中ですぐに殺さないのは「おまえに反省の機会をやるためだ」とのこと。

その後どうなったかが具体的にお話の中で書かれていないので「王子」の最後が疑問視されていたりしますが、ここは木村老夫婦の手で殺されたと考えて間違いないと思います。上記のセリフもそうですが、最後に「王子」が得意のカヨワイ中学生の泣き顔演技をしたさいに、木村茂は噴き出しながら
「俺は年寄りだからな、目はぼやけるし、耳は遠いし、おまえの演技もよく分かんねえんだよ。とにかくだ、おまえは、俺たちの孫に手を出した。残念だったな。諦めろ。反省したら、少しは楽に死なせてやる。人生は厳しいもんだ」
と言っているので、生かしておくつもりは毛頭無いのだと思われ。
仙台湾で身元不明の小さな死体が発見されているとのことなので・・・おそらく、たぶん、それが・・・・・・。

 


幸運と不運の対決
「王子」は自らの幸運への信頼が強い。何故かというと、今までどんなに非道な悪事を重ねても幸運によって守られてきたから。実際にお話の途中、新幹線の車中でも「王子」の狡猾さに気づいた「檸檬」・「蜜柑」それぞれに「王子」は窮地に追い込まれますが、思いがけない幸運のおかげで「王子」はその度助かります。悪人が幸運に守られる――。この状況がまた、読者が怒り・憤りを感じるところなのですが・・・。好きキャラが死んで嫌なキャラが生き延びるところもね・・・。
その一方、いつでもツキの無い殺し屋「七尾」は今回も信じられないような不運続きでいつまで経っても新幹線を降りることが出来ずにいる。


お話の後半で幸運の「王子」と不運の「七尾」が対面。

「王子」は「七尾」に対し
『これほど運に恵まれず、自分に自信のない男であれば、自由意志を奪い、誘導することは容易だろう』
と考える。


ところがどっこい、「七尾」の不運はそんじょそこらのラッキーボーイにどうこう出来るようなレベルのものではなかったのだった!


「王子」は自分に拳銃を突きつけている木村老夫婦を撃とうとしている「七尾」に気づき、自分の幸運に心中ほくそ笑むが、そこで信じがたい不運が「七尾」を襲い、「王子」と木村老夫婦を置き去りにして走り去ってしまう。
「王子」の頭は混乱します。
『理解を超えている。憤りを覚えると同時に、畏怖もあった。自分の幸運を、得体の知れない不運の怪物がかぶりつき、食い散らかしていく恐怖だ。』


「王子」の幸運に「七尾」の不運が勝った瞬間ですね。
これが木村老夫婦にやり込められる前の強力な一撃となります。自分が万能のラッキーボーイだと信じていた「王子」の世界は、自分に自信のない男・「七尾」の不運によって崩されるのです。

 

 

 


『マリアビートル』意味
てんとう虫は英語でレディバグ、レディビートルと呼ばれていて、そのレディとはマリア様のことなのだとか。


“マリア様の七つの悲しみを背負って飛んでいく。だから、てんとう虫は、レディビートルと呼ばれる。”


「七尾」は業界では天道虫と呼ばれています。そして、「七尾」こと天道虫に仕事の指示をだすのは真莉亜という女性。


以下、「真莉亜」と「七尾」の会話


ナナホシテントウムシの星の数みたいじゃない」
「だからと言って、俺のせいじゃない」
「あのさ、君はたぶん、みんなの不幸を背負って、肩代わりしているんじゃないの」
「だからついていないのか」
「そうじゃなかったら、あんなについていないわけないよ。君はみんなの役に立っているのかも」

 

「七尾」は今までにも数々のトラブルに巻き込まれ、その度に不本意ながらも活躍して、結果的に人を助けたりしているとお話の序盤で明かされています。そういう星の下に生まれたってことなんですかね~。


一見すると頼りない感じですが、やるときはやる(殺る)男である「七尾」。好きです(^_^)シリーズ三作目の『AX(アックス)』では逸話として出てきただけでしたけど、シリーズが続くなら今後登場させて欲しいなぁ。
「蜜柑」と「檸檬」も好きです。なので、死んじゃうのはショックでしたが(おかげで「王子」への怒りが増しましたね・・・)お話のラスト、意外な形で“復活”するのには少し愉快な気分になりました。

 

 

グラスホッパー』を読んだら『マリアビートル』そして『AX(アックス)』是非順番に読んで楽しんで下さい(^_^)

 

 

※2023年9月にシリーズ4作目の『777 トリプルセブン』が発売されました!ふたたび七尾が活躍する物語ですよ~詳しくはこちら↓

 

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ではではまた~

 

 

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