夜ふかし閑談

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三浦しをん『光』あらすじ・感想

こんばんは、紫栞です。
三浦しをんさんの『光』が映画化されたと聞いて読んでみました。なので感想を少し。

光 (集英社文庫)

あらすじ
島で暮らす中学生の信之は、同級生の美しい少女・美花と付き合っている。娯楽の無い島で美花とのことばかりを楽しみに過ごす毎日。幼馴染みの輔はそんな信之になにかとまとわりついてくる。信之は卑屈でずうずうしい輔が疎ましくてならなかった。
或る日、大災害が島を襲い、信之と美花と輔、そして数人の大人だけを残して皆死んでしまう。
島での最後の夜、ある現場を目撃した信之は、美花を守るために罪を犯す。
その罪は暴かれぬままに二十年の歳月が過ぎ去り、信之は美花と離れ、妻子とともに平穏に暮らしていた。
そんな信之の前に「あんたがしたことを、俺は知ってる」と輔が現れ――。

 

 


三浦しをんさんの長編小説はコミカルなものが多いですが

 

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この『光』はシリアス全開でクスッと笑えるような箇所は一つもありません。三浦しをんさんの“お仕事小説”を中心に読んでいる人には意外に思われる作品かもしれないですが、短編だと

『天国旅行』

 

天国旅行(新潮文庫)

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『きみはポラリス

 

きみはポラリス (新潮文庫)

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など、シリアスなお話が多かったりするので別に異色作という訳ではないですかね。「こういう長編も書けますよね。わかっていました」って感じ(笑)

 


映画との違い
映画は11月25日から公開されていて、順次各地を回っていくみたいです(私の住んでいる地区には来ないっぽい・・・)
監督の大森立嗣さんはまほろ駅前~』シリーズを手掛けている監督さんですね。

 

まほろ駅前多田便利軒
 

 

映画『光』のキャストは
信之井浦新
瑛太
美花長谷川京子
南海子橋本マナミ

※南海子というのは信之の奥さんです。


小説を読む前にこのキャスト欄を見たので、頭の中で役者さんのイメージを持って読み進めました。個人的には大きな違和感は無かったです。先に小説の方を読んでいたらまた違っただろうなとは思うんですが。
実際に映画を観た訳ではないですが、ちょろっと調べたところによると、概ね原作の通りに作られているようです。
映画の公式サイトを見る限りで発見できる違いは、20年前が25年前になっているところと、大災害が島を襲うのが信之が罪を犯した後だというところですね。
うーむ。確かにこの方が罪が覆われた感“罪”と災害とは無関係だ感は強まりますかね。

 

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暴力
この小説は「日常に潜む暴力」がテーマなんだそうな。
作中で“圧倒的に理不尽な暴力”として描かれているのは島を襲う津波です。津波と言われると、どうしても東日本大震災を連想してしまいますが、この小説が書かれたのは2006年で震災の五年前なので、この小説に影響しているという事は無いです。しかし、津波に襲われた後の島の描写は痛切で容赦ないので、人によっては注意が必要かもしれません。
他に、幼少期から輔が父親に暴力を振るわれている事。信之の娘が“ある暴力”を受けたこと。美花が受けた暴力。そして、美花を守るために信之が暴力に暴力で返した事・・・などなど。様々な“暴力”がお話の中に登場します。
災害で“圧倒的に理不尽な暴力”を目の当たりにした信之、輔、美花の三人は、死も不幸もただの出来事だと嫌と言うほど知っている。その思いが三者三様に生き方に影を落してはいますが、このお話ではあくまで軸として扱われているのは、人々・日常にある暴力の方ですね。誰もが持ち合わせている暴力性が描かれていて、そこには過去の災害は関係ない。

 


語り手
お話は信之、輔、南海子の三人の語り手が代わる代わるして構成されています。普通なら美花の視点が入るだろと思われるのに、美花視点は一切なし。代わりに信之の妻・南海子の視点が入ります。

島にも災害にも関係ない第三者の視点が入るのがこの小説の特徴かなと思います。客観的には、信之や輔はどのように見えているのかと、日常的に南海子に潜んでいる暴力と。
個人的には美花の視点、読みたかったですけどね~。美花の視点が無いので、このお話はミステリアスな部分を残しつつ終わります。まぁ、その方が印象深いお話になるって事なのかな(^^;)

 

 

以下ネタバレ~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

不幸
読んでいて一番やり切れない思いを抱いたのは、信之、輔、美花、南海子の好意が交わらないところですね。やっぱり片思いは辛いなぁ・・・と。

輔は信之に幼少期の思いそのままに、愛憎を抱いている。
信之は輔が嫌いで、美花に対して信仰めいた好意を抱いていて、自分は美花にとって特別な存在だと思っている。
美花は“あの夜”から求められてもなにも感じない、信之も他の大勢の男とおんなじだと思っている。
南海子は夫を愛しているが、夫が自分や娘を“愛そうとしている”だけだと気付いている。

思いが全然交差しませんね!辛い。

美花のために人殺しまでした信之ですが、そのような行為は美花にとってただ迷惑なだけだった。美花はいわゆる魔性の女風に描かれていますが、美花自身は信之を利用した自覚もないんですよね。信之のことは“美花のため”などと言って勝手に余計なことをし、見返りを求めてくる脅迫男にしか思えない。魔性の女の抱える悲劇性だと思うんですけど。
信之は結局“美花のため”にここまでする事が出来ると自己陶酔しているだけで、本当は自身の暴力性を否定したい一心でさらに暴力を重ねる。

終盤で信之は輔を愛せればよかったと思います。しかし、それは無理な相談で、輔を嫌いだという思いはどうしても変わらない。
『不幸というなら、これのこと。
求めたものに求められず、求めてもいないものに求められる。よくある、だけどときとして取り返しのつかない、不幸だ。』

 


最後
実は、私個人としてはこういう終わり方あんまり好きじゃないんですが・・・(^^;)罪を犯したヤツが日常に戻ってきて、でもどこかしら壊れているような気がする~みたいな。


この『光』の登場人物達はろくでなしばっかですが、完全な悪人な訳じゃなく、皆どこかしら共感してしまうところがあります。特に輔はなんだか愛しい。ろくでなしなんですけどね~。

明確な答えはない小説ですが、読んだら色々考えを巡らせて自己解釈してみるといいと思います。

 

光 (集英社文庫)

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『 きみはポラリスに収録されている「私たちがしたこと」も、十代のときに付き合っていた男女が罪を犯してしまうお話で『光』と設定が似通った部分があります。あわせて読むのがオススメです。

 

きみはポラリス (新潮文庫)

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ではではまた~

 

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