こんばんは、紫栞です。
今回は有栖川有栖さんの2大人気シリーズのうちの一つ【学生アリスシリーズ】(江神二郎シリーズ)の概要と読む順番をお届け。
※2大人気シリーズのうちのもう一つは【作家アリスシリーズ】(火村英生シリーズ)ですね。↓
学生アリスシリーズ(江神二郎シリーズ)とは
本格推理小説のシリーズ。ミステリ作家志望の大学生・有栖川有栖(作者と区別するため、以下“アリス”と表記します)が語り手を、アリスが所属している英都大学推理小説研究会の部長・江神二郎が探偵役をつとめ、英都大学推理小説研究会メンバーが直面する事件の謎に挑んでいく姿が描かれる。
1988年~1990年ぐらいまでがお話の舞台。主要メンバー達は皆大学生で作中で時間が経過していきます。
ミステリのシリーズですが、青春小説としての側面も強く、読んでいると学生時代を思い出して懐かしくなる人もいるのではないかと思いますね。特に昭和の終わりかけの頃に学生だった世代にはドンピシャかと。
長編はいずれもクローズド・サークルが主のガチガチの本格推理小説。長編には解決編の前に必ず“読者への挑戦”が差し込まれています。
短編は番外編って感じで「日常の謎」がテーマになっていますね。
EMC
アリス達が所属している英都大学推理小説研究会ですが、“Eitouniv.Mystery.Club”の略称として「EMC」と小説内 では表記されることが度々です。
メンバーは
●江神二郎(部長)
●有栖川有栖(通称:アリス)
●望月周平(通称:モチ)
●織田光次郎(通称:信長)
●有馬麻里亜(通称:マリア)
の、計五人。
アリスとマリアは同学年、モチさんと信長さんは二人より一学年上。江神さんは四回生になってからワザと留年を繰り返しているので初登場時は26歳。
マリアは唯一の女子で『孤島パズル』からの途中参加。アリスとマリアの二人は青春っぽく少し甘酸っぱい雰囲気を作品に漂わせ(でもホント、ハッキリしないというかびっみょーな感じですが)、モチさんと信長さんの先輩コンビはコミカルなやり取りで場を和ませてくれます。江神さんは・・・・・・カッコイイです(笑)
順番
では刊行順に作品をご紹介。
『月光ゲーム』
有栖川さんの初めての単独の著作で長編デビュー作。
火山の噴火でキャンプ場に取り残された学生グループ間で連続殺人が発生するストーリー。“火山の噴火”という予測がつかない事態のなかで殺人事件が起きるのがなんだか新鮮。作中、月について語り合うシーンが印象的。登場人物がかなり多いので読むのにちょっと一苦労します。
漫画もある。漫画だと人物がわかりやすいかも↓
『孤島パズル』
英都大学推理小説研究会(EMC)のメンバー・有馬麻里亜の祖父の別荘がある孤島で連続殺人が起こる。
お宝が眠っていると思われる孤島に台風接近、無線機が壊され、連絡船も三日間は来ない・・・と、かなりのベタ設定で「これぞ本格推理小説だ」といった作品。今作からマリアも登場し、ここから本格的にシリーズ独自の展開に進んで行きます。
こちらも漫画がある。全3巻。『月光ゲーム』と同じ漫画家さんによるコミカライズです。↓
『双頭の悪魔』
大雨で陸の孤島と化した芸術家ばかりが集まっている村と、その隣村とで二手に分かれてしまったEMCのメンバー達。やがて時を同じくしてそれぞれの場所で殺人事件が発生する。
2箇所で起こる事件が平行して描かれているので、語り手はアリスとマリアとで交互になっています。有栖川さんの代表作の一つでシリーズ最高傑作との呼び声も高いです。前2作よりページ数が多く、ほぼ倍の長さ。“読者への挑戦”も三回出て来て大作感が伝わってきます。芸術家ばっかり出て来るということで事件関係者も個性的な人物が多いです。特に「志度晶」は作家アリスシリーズの探偵役・火村先生のモデルとなっているので必見!
この作品だけ映像化されています。20年以上前の作品で、江神二郎役が香川照之さんだという衝撃(笑)「犯人は誰だ?」と「犯人はお前だ」で2作にわかれている。紛らわしい・・・
『女王国の城』
第八回本格ミステリ大賞受賞作。
大学に姿を見せない江神部長を案じて、部長が向かったと思しき新興宗教団体の総本部へ乗り込んだEMCのメンバー達。部長の安否は確認出来たものの、殺人事件に直面して団体に囚われの身となってしまい・・・。
今のところシリーズ最長の作品で文庫版だと上下巻にわかれています。宗教団体というのが〈人類協会〉というUFOがウンヌンという団体で意外性があって面白いです。今作ではEMCメンバーが勢ぞろいしているので皆の掛け合いもいっぱいあって楽しい。
『江神二郎の洞察』
シリーズ初の短編集。9話収録。
昭和から平成への転換期を背景に、アリスの大学入学からマリアのEMC入部までの1年での出来事が時系列順に並べて描かれています。有栖川さんの記念すべき短編デビュー作「やけた線路の上の死体」が収録されており、作者の足掛け27年の成果が収められている至極の1冊。私も大好きな1冊です。
バリバリの本格ミステリの長編とは違い、日常のささやかな謎を扱っている短編集。私は特に「開かずの間の怪」と「除夜を歩く」がお気に入り。
現在ここまで。長編4冊、短編集1冊。すべて創元社からの刊行ですね。
新作・完結
【学生アリスシリーズ】は作者の有栖川さんが「長編5冊、短編集2冊で終わらせる」と明言されています。つまり、後は長編・短編集が1冊ずつ刊行されたらシリーズは完結。
しかし、『女王国の城』刊行から既に10年の時が経っていますが最終作となる新作長編・短編集が刊行される気配は今のところまったくありません。『双頭の悪魔』から『女王国の城』までの間も刊行されるまでに15年あいていたりするので、まぁ気長に待ちましょう!ですかね(^^;)
次回作で完結と聞かされると、ファンとしては出て欲しいような、出て欲しくないような微妙な気持ちになりますが、江神さんの亡き母の予言「お前は三十歳を迎えずに、父親より先に死ぬ。多分、学生のまま」の結末や、江神さんの過去、四回生になってからワザと留年を繰り返している事情など、気になる色々が最終作では明かされるでしょうから、読まない訳にはいきません。発売されたらとにかく全力で読もうと思います!
作家アリスとの違い
同作家による別シリーズ【作家アリスシリーズ】(火村シリーズ)↓
とはお互いにパラレルな世界関係になっており、【学生アリスシリーズ】内の有栖川有栖が【作家アリスシリーズ】を執筆。【作家アリスシリーズ】内の有栖川有栖が【学生アリスシリーズ】を執筆しているという設定です。
違いとしては、【作家アリスシリーズ】の主役二人は永遠の34歳で(最初は32歳からのスタートですけどね) 社会人の独身男性という設定なのでだいぶ自由度が高く、作者である有栖川さんも「ずっと使えるように設定してある」と言われている通り、限りなく続けられるシリーズなのに対して、【学生アリスシリーズ】では主要人物達は皆学生の身分だし、1988年~と時代設定も定められ、長編はクローズド・サークルもので“読者への挑戦”が必ず入るなど、制約が多いシリーズになります。
【作家アリスシリーズ】は自由度の高い設定でバラエティに富んだお話とコンビの関係性を楽しみ、【学生アリスシリーズ】では制限があるなかでの本格ミステリの醍醐味、青春とノスタルジーを味わうといった感じでしょうか。
また、探偵役と語り手の関係も同い年で友人の火村とアリスは遠慮ない掛け合いを繰り広げ、距離も近いですが、江神さんとアリスは先輩・後輩という間柄なので多少距離はあります。尊敬する先輩って感じですね。かわりにモチさんと信長さんが漫才をしてくれます(笑)
大学の准教授で30代の火村先生より、学生で20代の江神さんの方が落ち着いていて老成しているイメージです。アリスは学生シリーズの方は“学生”ということでより純粋で青臭さがありますが、30代設定の作家シリーズの方が抜けててかわいらしい印象が強い(^_^;)
最後に
【学生アリスシリーズ】は正統派本格推理小説で作者の有栖川さんのミステリへの思いが凝縮されたシリーズです。
比較的ミステリ作品の中では大作に入るボリュームの長編が主で事件設定もコテコテなので、ミステリをあまり読まない人は最初難色を示すかも知れませんが、本格ミステリならではの洗練されたロジックにくわえて、青春小説としての側面やキャラクターの面白さがあるのでミステリ初心者でも楽しく読めるシリーズだと思います。勿論、本格ミステリ好きにもオススメ。
是非是非、如何でしょうか。
ではではまた~