こんばんは、紫栞です。
今回は雫井脩介さんの『検察側の罪人』をご紹介。
8月24日公開予定の映画「検察側の罪人」の原作本ですね。
あらすじ
東京地検の検事・最上毅。彼には「根津女子中学生殺害事件」という、犯人が捕まらないままに時効をむかえてしまった忘れられない事件があった。被害者の女子中学生は最上が大学時代に親しくしていた寮の管理人夫婦の娘だったのだ。
事件から23年が経った2012年4月、大田区浦田で「老夫婦刺殺事件」が発生する。検事として捜査に立ち会った最上は、容疑者リストの中に“松倉重生”の名前を見付けて驚愕する。松倉は「根津女子中学生殺害事件」当時、最有力容疑者として名前が挙がっていた男だった。
最上は今度こそ松倉に法の裁きを受けさせようと決意するが、松倉は時効が成立した「根津女子中学生殺害事件」の犯行は認めたものの、「老夫婦刺殺事件」に関しては一貫して犯行を否認し続ける。やがて捜査線上には別の容疑者も浮上してくるが、最上は松倉犯人説にこだわり続け、捜査方針を変えようとはしなかった。
最上の指導のもと、「老夫婦刺殺事件」を担当することになった新人検事・沖野啓一郎は尊敬する最上検事の期待に応えようと、最上に言われるまま激しい尋問で松倉を締め上げるが、頑として口を割らない松倉の様子や事件現場状況などから、松倉が犯人だとはどうしても思えなくなり、最上が指示する強引な捜査方針に疑問を抱くようになる。
そんな中、新たな証拠が発見され、松倉は逮捕されるのだが――。
検察小説
『犯人に告ぐ』『クローズド・ノート』『火の粉』『ビター・ブラッド』などなど、著作が数多く映像化されていて大変人気のある作家である雫井脩介さんですが、私は今作が初めて読んだ雫井作品です。映画の予告編を観て気になったので読んでみました。
作品一覧を見てみてもわかる通り、雫井さんは多くのジャンルを手がけていらっしゃいますが、今作はとにかく“検事”のことが描かれている“検察小説”。
「時効」がテーマの一つで、2010年に改正刑事訴訟法が執行されて死刑に相当する殺人罪の公訴時効が廃止されたが、執行前に時効を迎えていた事件は改正前の期間が適用されるため、犯行を行った時期によっては罪科に処されるに済む人間がでてしまうという現実や、検事一人の裁量で事件の流れを決める事が出来てしまう司法制度の問題点などが描かれています。
率直な感想
私にとって初めての雫井作品だった訳ですが、非常に面白かったです。
上下巻で分冊になっている文庫版で読んだのですが、上巻の終盤(つまり物語の中盤)で予想外の展開に驚き、下巻に入ってからは最上と沖野の対立・・・と、いうか、沖野がどのように真相にたどり着くのかが気になって一気読みでした。主要二人はもちろんですが、他の登場人物達の“善くも悪くも人間くさいやり取り”も読んでいて面白かったです。
そして、読み終わってまず思った事は、「映画はどの程度まで原作にそったストーリーにするのかなぁ」と。原作通りだとキャスト的には結構な問題作で、今までにない新鮮な(?)作品になるのではってな気が・・・。
映画
映画の監督は『クライマーズ・ハイ』『日本の一番長い夏』などの原田眞人さん。
現在わかっているキャストは以下の通り
最上毅-木村拓哉
沖野啓一郎-二宮和也
橘沙穂-吉高由里子
丹野-平岳大
弓岡-大倉孝二
小田島-八嶋智人
高島-矢島健一
諏訪部利成-松重豊
白川雄馬-山崎努
調べると他の役者さんの名前も出ているのですが、どの役をやるのかがまだ明記されていないので・・・。
原作での重要人物である「松倉」が何故かキャスト欄に明記されてないのが疑問。映画の予告映像を観るぶんには酒匂芳さんが松倉を演じてるってことで間違い無いとは思うのですが・・・。この予告映像を観た感じでは、松倉は原作以上に腹が立つ人物像になっていそうですね(^^;)
木村拓哉さんと二宮和也さんが共演することで話題になっている今作。原作は最上と沖野の対決が大きな見所なので、映画ではどのように対決シーンが仕上がっているのか気になるところですね。容姿は二人とも原作から大きく外れているってこともないと思います。特に沖野は原作では“童顔で30代の年相応には見られない”という設定ですしね。
個人的には商売人弁護士・白川雄馬を山崎努さんが演じるというのが意外でした。白川と山崎さんだと風格の雰囲気(?)が別物だって気がするのですが・・・。松倉もそうですが、人物像はそれぞれ原作とは多少変えているのかも知れないですね。
以下ガッツリとネタバレ~
人殺し
最初は松倉が「老夫婦刺殺事件」の犯人だと心から信じ、今度こそ法の裁きを受けさせようと純粋に奮闘していた最上ですが、松倉の犯行として辻褄が合わない不都合な飲食店のレシートを家宅捜索で発見、そのレシートを捜査陣に見つからないように破棄したところから道をふみはずし、松倉の部屋から持ち出したものを殺人現場に放置して証拠品を捏造しようとしたりするなど、完全な犯罪行為をしてしまう最上。もはや「老夫婦刺殺事件」の犯人を特定することから“松倉を「老夫婦刺殺事件」の犯人にすること”にしか考えが及ばなくなっていきます。
違法行為や無理な指示で何とかして松倉を逮捕しようとする最上ですが、新たな容疑者・弓岡嗣郎が捜査線上に挙がり、弓岡が犯人だと認めざるおえない状況に陥ると、さらに驚くべき行動にでる。なんと、弓岡を自らの手で計画的に殺害してしまうのです。
友人である丹野の自殺に啓示を受けた気になった最上は
やってもいない罪をかぶせることにこそ――それも己の罪過を上回る今回の事件のような罪をかぶせることにこそ――断罪を逃れた松倉に下される天誅として、大きな意味が出てくるのではないか。
それこそが自分にしかできないことで、
二人もの命を奪った凶悪犯だ。
松倉を裁くためだからといって、この男を逃がしていいわけはない。
罰せられるべき男なのだ。
との考えから弓岡を殺し、弓岡が所持していた「老夫婦刺殺事件」の凶器を松倉の部屋から持ってきた新聞紙に包んで証拠品を捏造。逮捕見送りになる寸前だった松倉を一転して逮捕させることに成功する。
しかし、この発見された凶器の不自然さによって警察の捜査への疑惑が決定的になった沖野は、検事を辞めることを決意。冤罪を晴らそうと松倉の弁護士に接触して検察側、つまり、最上と対決することとなる。
私、読んでいてですね、最上が人殺しまでしてしまうのには驚きました。レシートを破棄した段階で「あーやっちゃったー」って感じだったのですが、まさか計画殺人までしでかすとは・・・。文庫だと最上が犯行をおこなったところで上巻が終了するので、読者としては間髪入れずに下巻へ急げ~!です。
正義?
この小説では一応、最上にも沖野にも感情移入出来るように書いている雰囲気なんですが、私個人としては最上には全然感情移入出来ない・・・と、いうか、終始最上に対してはムカムカしながら読んでしまいましたね。
松倉も弓岡もどうしようもないくらい腹立たしい人物なので気持ちはわからないでもないですけど、やっぱり“法律”という圧倒的な力を使える立場の人間が、個人的感情で無罪の人間を陥れようとするのは理不尽で容認出来ないですね。しかも最上は「正義」をおこなっているつもりでいるってのがまた(-_-)
最後に最上の犯行を暴いた沖野は“最上はずっと検事だったのだ”みたいな事いいますが、正直言って、人殺しが「正義」とか偉そうに何言ってるんだ、人を殺した時点で検事どころか他にも色々と失格だよ。と、思う。
なので、終盤にはこう、最上にビシッと「なんてバカなことをしたんだ」と言ってくれる人がいるだろうと思って読み進めていたのですが、皆何故か逮捕された最上に同情的で「なんで?」って感じでした。特に、沖野が面会の時に言ってくれるかと期待していたのに「最上さんの力になりたいんです」とか言い出したのには肩透かしで非常に残念。沖野は最後“自分がやったことは「正義」だったのか”と悩みますが、別に悩む必要ないと思う。
個人的には法律は正義の為にあるというより、社会秩序のためにあるって思っているので、終盤のまとめ方とかにはちょっとモヤモヤしてしまいました。非常に面白い小説には違いないんですけどね。
あと、諏訪部の麻雀のくだりって何のためにあったのかわからないんですが・・・私の読解力が足りないんですかね。私は麻雀に無知な人間なので読んでてちょっと“アレ”だった(^^;)
しかし、原作通りなら木村拓哉さんは冤罪をつくろうとする人殺し検事の役を演じるってことですよねぇ・・・出演作全部観ている訳ではないので断言は出来ませんけど、今までにない役柄で斬新なような。代表作のドラマが検事でヒーローなのに・・・
この映画では真逆だと。う~ん(^_^;)
まぁ、色々と気になるところではありますが、原作は「正義」の考え方で意見がわかれる人もいるでしょうが、作者の雫井さんが意識しているという「読者がずっとページをめくりたくなるストーリー」ってのは、まさにその通りという小説なので、読んでいて夢中になれるには必至です。
ちょっとでも気になった方は是非是非、読んでみては如何でしょうか。
ではではまた~