夜ふかし閑談

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水の中の犬 あらすじ・感想 映画化『アウト&アウト』の前日譚

こんばんは、紫栞です。
木内一裕さんの『水の中の犬』を読んだので感想を少し。

 

水の中の犬 (講談社文庫)


あらすじ
「あなたは、どうなることを望んでいますか?」
「あの男が死ぬことです」
探偵の元にやってきた一人の女性。彼女の望みは一人の男が「死ぬこと」。
交際相手の弟に軟禁の末暴行され、兄貴に知られたくなければ俺の女になれと脅迫とつきまといを受けていたのだ。
たしかに彼女の問題はその弟が死ななければ解決しないように思われた。辛い話を聞いてしまった者の責任として、探偵はこの解決しようのない依頼を引き受けるが、探っていった先に待ち構えていたのは底の見えない暴力と悪意だった。
それらは連鎖していき、やがて探偵自身の封印された記憶を解き放つ――。

 

 

 

 

 

ハードボイルド
『水の中の犬』は木内一裕さんの小説第2作目で前回当ブログでもまとめた『アウト&アウト』から続く元ヤクザの探偵・矢能が活躍するシリーズの前段に当たる作品です。読まなくても後続の作品は十分楽しめますが、読むと矢能や栞の事情がよくわかるし、シリーズへの愛着もより深くなるので読むべし。

※矢能シリーズ(仮)の順番などに関して、詳しくはこちら↓

 

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この『水の中の犬』は矢能が主役の『アウト&アウト』などのエンタメ色が強い作品雰囲気とはだいぶ異なり、ハードボイルド一直線でノワール小説ばりに暗くて重い内容ですが、コレはコレで別の面白さがある魅力的な作品です。

シリーズ3作目の『バードドッグ』の文庫版解説を読んで知ったのですが、この作品には前身となる著者の「きうちかずひろ」さんが撮った映画『鉄と鉛』があり、今作はこの映画の小説版ということらしいです。

  

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「探偵」を渡瀬さんが演じているというのが納得。凄くピッタリだと思う。 

 

お話は
第一話 取るに足りない事件
第二話 死ぬ迄にやっておくべき二つの事
第三話 ヨハネスからの手紙
の、三話構成になっています。

お話は全て繋がっていて、描かれるのは“最悪の連鎖”。三話ともミステリアスな女性が探偵事務所に依頼に来るというハードボイルドの定番みたいな出だしで、情報屋、ヤクザ、麻薬常習者・・・と、これまた定番な人物や事柄が出て来る。
各話、終盤で明かされる真相は悪意と暴力に塗れていて、どれも読後の後味は良いものではありません。
ですが、ただ不愉快で虚しくさせるだけのお話かというとそんなことは無く、それだけではない“何か”が残る作品です。

 


探偵
主人公は元警察官で探偵の「私」。最後まで名前は明かされず、周りにも「探偵」としか呼ばれません。

今作ではこの探偵の「私」自体が一番の謎として描かれています。


口調は丁寧で思慮深く冷静、普通の倫理観も持ち合わせていて真人間そうに見えるのに、いきなりスイッチが入ったように思考はそっちのけでドンドンと行動的すぎる行動をとっていき、読者の気持ちが追いつかないままに早く展開するので「どうして」「なんで」と困惑します。
依頼に対しても「他人の為に何故そこまでするのか」と周りに理解されないほどの行動をし、その都度大怪我を負っているのですが、読んでいてもこの「探偵」はお人好しといったタイプじゃなさそうだし、正義感に駆られてとっている行動とも思えないので、ここもまたチグハグな印象をうける。

 

「お前はすぐに当事者になっちまう。いつだって自分の事件にしちまうんだ」

「お前は不運にもちょくちょく暴力沙汰に巻き込まれちまうって思ってんだろ?これは探偵って職業にゃ付き物だとか何とか言ってよ・・・・・・だけどそうじゃねぇ。いつだってお前が暴力を誘ってるんだ」

上記は二つとも情報屋のセリフ。


探偵である「私」は依頼人のためではなく、無意識のうちに自ら望んで危ない目に遭っている。実は自分のために行動しているんですね。

これらの「私」の謎は三話目のヨハネスからの手紙』で明らかになります。読者としては「ああ、そうだったのか」と、ストンと腑に落ちました。
が、自分の危なっかしい行為の理由がわかって落ち着くかと思いきや、「私」は理由がハッキリとしたことで行動をさらに加速させていきます。そして逃れようのない哀しい結末へと向かってしまうのです。

 

 

 

 

 

 

 

矢能
矢能が登場するのは二話目の『死ぬ迄にやっておくべき二つの事』からで、探偵を監視していたはずが行動を共にするうちにすっかり探偵の協力者になってしまう“なんか良いヤツ”で、二話の終盤には
「お前がくたばったら・・・・・・後は俺に任せろ」
とまで言ってくれる。
探偵は“後を託せる人間がいることは素晴らしいことだ”と嬉しく思い、三話目では命を狙われている小学生の「栞」を矢能に預けています。ほんの数日のつもりが~・・・で、続編の『アウト&アウト』に繋がる訳なんですけども。
エピローグで矢能は「私」のことを
「あいつは俺が知っている中でも最高の男だ」
と言い、新たに探偵事務所の主となる。

悲惨な出来事ばかりで哀しく辛い物語ですが、矢能が後を引き継いだこと、探偵が助けた「栞」が矢能と共に探偵事務所で日々を過ごしていること。“その日々を描いた続編があること”がこの物語の最大の救いになっています。
なので『水の中の犬』を読んだ後に『アウト&アウト』を読むと感慨もひとしおですね(^^)

 

 


最初に読むべき
私はこの小説の存在を知らず、続編の『アウト&アウト』を先に読んでしまったので、今作を読む前からある程度の結末は知っている状態でして。結末を知っていても面白く読めたは読めたのですが、やっぱり最初に『水の中の犬』を読んでいればもっと物語を純粋にハラハラしながら楽しめたろうし、感じ方も違ったろうな~と。


シリーズ番号などが表紙に明記されていないので、私のようにシリーズの途中から読んでしまう人、結構いるのではないかと思います。後から読むのももちろん良いですが、気が付いた人は是非飛ばさずに『アウト&アウト』の前にこの作品を読んで欲しいです。シリーズのことは抜きに、単体の作品として十分面白いですので是非是非。

 

水の中の犬 (講談社文庫)

水の中の犬 (講談社文庫)

 

 

 

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ではではまた~