こんばんは、紫栞です。
今回は伊坂幸太郎さんの『アイネクライネナハトムジーク』をご紹介。
2019年公開予定の映画の原作本ですね。
特殊なきっかけ
『アイネクライネナハトムジーク』は恋愛がテーマの連作短編集。
伊坂さんで恋愛小説というのは珍しいですが、こちらは執筆のきっかけがミュージシャンの斉藤和義さんから「恋愛をテーマにしたアルバムを作るので、『出会い』にあたる曲の歌詞を書いてくれないか」と依頼が来たことによるらしいです。
伊坂さんは斉藤和義さんの大ファンだと公言しており、システムエンジニアを辞めて小説一本でやっていこうと思ったきっかけになったのは斉藤和義さんの曲を聴いたからなんだとか。※こちらの本で語られています↓
こう言った話が斉藤和義さんの耳に入りこのような依頼がきた訳ですね。
しかし伊坂さん、いわゆる「恋愛もの」にあまり興味がないらしく(読者としても今までの作品から感じ取れる)悩んだものの、大ファンであるから一緒に仕事が出来るチャンスを逃したくなくて「作詞は出来ないから小説で」とお返事をして、必死で自分でも楽しめる『出会い』の話を考えたんだとか。
そうして出来たのが本の一つ目の短編「アイネクライネ」で、結果、この短編の文章を使う形で斉藤和義さんは『ベリーベリーストロング~アイネクライネ』なる曲を制作。2007年3月リリースのアルバム「紅盤」に収録されました。
- アーティスト: 斉藤和義,BONNIE PINK,阿久悠,辻村豪文,浜田省吾,一倉宏,森雪之丞,松本隆,ジョン・レノン,伊坂幸太郎,桑田佳祐
- 出版社/メーカー: ビクターエンタテインメント
- 発売日: 2007/03/21
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この曲、私もちょっと聴いてみたんですが、かなり小説の内容とリンクしたものになっています。本と一緒に楽しむべき一曲ですね。
『ベリーベリーストロング~アイネクライネ』がシングルカットされることになり、シングルの初回限定版の付録用に書かれたものが本の二つ目の「ライトヘビー」。
君は僕のなにを好きになったんだろう/ベリーベリーストロング~アイネクライネ~(初回限定盤)(DVD付)
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「ライトヘビー」では“斉藤さん”たる謎の人物が登場。百円を差し出すとその人の悩みにあった曲のフレーズをパソコンで流してくれるということで、作中で斉藤和義さんの曲の引用が数カ所出て来ます。斉藤和義さんのファンにはたまらないお話ですね。
目次
●アイネクライネ
●ライトヘビー
●ドクメンタ
●ルックスライク
●メイクアップ
●ナハトムジーク
本のタイトルの『アイネクライネナハトムジーク』はモーツァルトの楽曲名で、非常に有名な曲。タイトルは知らずとも、曲を聴けば誰もが分かる曲ですね。
意味はドイツ語でアイネ(ある)・クライネ(小さな)・ナハトムジーク(夜の曲)。「ある小さな夜の曲」。小夜曲とも翻訳されています。
上記で「恋愛がテーマ」と書きましたが、実際読んでみると“恋愛”というよりは人と人との“出会い”がテーマの連作短編集といった感じです。後半の3話などは恋愛色はかなり薄いですしね。
各話、描かれているのはとてもささやかな日常なんですが、その細やかな日常の中に奇跡のような“出会い”があり、そして繋がっていく。アイネクライネ(ある小さな)出来事で始まる物語はナハトムジーク(夜の曲)として集約される。
いつもの伊坂幸太郎作品のように泥棒・強盗・殺し屋・超能力・殺人鬼といった犯罪に絡んだものや奇抜な設定なども出て来ませんが、
一つ一つの事柄、人物が綺麗に繋がっていく連作短編の作り方は堂に入ったもので“いつもの伊坂幸太郎作品”だといった印象。
「新鮮でありつつも紛れもなく伊坂作品」といった感じでしょうか。伊坂幸太郎作品の持ち味でもある軽快でしゃれっ気のあるセリフの応酬も通常通り愉しめます。
映画
2019年秋公開予定で映画化が決まっています。オール仙台ロケなんだそうな。原作も仙台が舞台。作者の伊坂さんは現在仙台市在住なので、舞台として描くことが多いようです。
キャスト
佐藤-三浦春馬
本間紗季-多部未華子
藤間(佐藤の先輩)-原田泰造
織田一真(佐藤の友人)―矢本悠馬
織田由美(一真の妻)-森絵梨佳
織田美緒(娘)-恒松祐里
美奈子(由美の同級生)-貫地谷しほり
板橋香澄-MEGUMI
亜希子(美緒の友人)-八木優希
久留米和人(美緒、美奈子の同級生)-萩原利久
久留米マリ子(和人の母親)-濱田マリ
小野学-成田瑛基
斉藤さん-こだまたいち
あと、仙台出身ということでサンドイッチマンの二人が出演予定ですが、何の役かは明かされていません。
久留米和人は小説ですと「ルックスライク」の主役なのですが、母親の下の名前は作中では出て来ません。
最初、映画化の発表では「三浦春馬主役!」と、ドーンと紹介されていたのですが、原作は各話主役が異なる短編集で、どの主役が中心になっているとかもないので「え?主役ってどの主役?」と困惑しましたが、やっぱり一つ目の短編の主役・佐藤だったようです。
映画の前情報などから考えると原作より佐藤の出番が多くなるか、中心人物として配置するのかな?と思います。確かに、原作そのままだと中心人物がいないので映画として纏めづらいんじゃないかとかお節介なことも考えてしまいますので(^^;)そういった作り替えがされるなら納得。
本間紗季とかも、原作では本当にチョイ役なので、多部未華子さんが演じるならもうちょっと登場シーンが多くなるんじゃないかと予想。
派手派手しさのない原作なので、映画ではどのように味付けがされるのか気になるところですね。斉藤和義さんの曲は映画で使われるのでしょうか?使うべきでしょう!って思いますけど・・・。
以下若干のネタバレ~
頭を使う“繋がり”小説
上記で書いたように、この小説は登場人物達が繋がっていくのが読んでいて愉しいのですが・・・何というか、あまりに巧妙に絡み合って繋がっているので、読み進めていくにつれ人物相関図を解明していくのに躍起になってしまい、特に最後の「ナハトムジーク」では時系列も現在と過去を行ったり来たりでこんがらがってしまいで、ちょっと読んでいると疲れてしまう・・・と、いうのが正直なところ(^^;)
気分的には、もはやミステリを読んでいる感覚。通常の恋愛小説では使わない部分の頭を使いますよ、ええ。
読み返しても最後まで分からないのが「ドクメンタ」の主役で佐藤の職場の先輩・藤間の奥さんの旧姓ですね。
あと、「メイクアップ」に登場した詐欺師かもしれない男、辻井なのか津川なのか、はたまたどちらも偽名なのか。ひょっとしてこの詐欺師疑惑の男も作中の他人物なのかとか。この「メイクアップ」は“一勝一敗”の結果もどうなったのか気になっちゃいます。
思わせぶりだし、他が見事に繋がっていく物語なので、こういったあぶれた部分が引っかかってしまいますが・・・う~ん、でもまぁ改めて考えてみると、別に全部が全部繋がる必要はないですよね。そんな決まりないというか、そもそもミステリ小説じゃなくって恋愛小説だし(笑)。
特に伊坂幸太郎作品の読者はミステリ脳で読んでしまう癖というか、教育(?)がされているので・・・まぁ陥りやすい罠ですかね。もっと深読みせずにフラットに読むべき小説なのかもしれません。
とはいえ、気になるもんは気になるもんで。ネットで調べていて驚いたのですが「ルックスライク」に登場する久留米和人、織田美緒の同級生「水沼」が“斉藤さん”なのではないかという意見があるみたいですね。“バンド活動していて長身”などの部分が斉藤和義さんをモデルにしているんじゃないかと。作中の“斉藤さん”も斉藤和義さんをモデルにしているから、イコールで繋がるんではないかってことですね。
これは初読では私は思いもしなかったので「おお!」となりました。確証はないですが、それはそれで面白いですよね。映画でどんなことになっているのかまた気になります。
恋愛小説でみられる濃密さ・生々しさなどは薄く(恋愛小説はそこがあってこそだという意見もあるでしょうが)、ミステリ的な面白さにも溢れた小説なので、普段恋愛小説を読まない人にもオススメです(実際私がそう^^;)。読後の爽やかさが確約出来る素敵な小説ですので映画化などで気になった方は是非是非。
ベリー ベリー ストロング ?アイネクライネ?(シングルバージョン)
- アーティスト: 斉藤和義
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- 発売日: 2013/03/19
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ではではまた~