こんばんは、紫栞です。
今回は秋吉理香子さんの『絶対正義』をご紹介。
2019年2月から東海テレビ・フジテレビ系で放送予定の連続テレビドラマの原作小説です。
あらすじ
「正義こそ、この世で一番大切なものよ」
4人の女たちに届いた一通の招待状。紫色の上品な封筒に、リンドウの花のエンボス加工を施した紙、リンドウの図柄の切手。差出人は高規範子。5年前に殺したはずのあの女――。
高校に入学して間もない頃、和樹・由美子・理穂・麗香の4人は自分たちの仲良しグループに範子を招き入れた。範子は礼儀正しく、一つのルール違反も犯さず、また他者に対しても決してルール違反を許さない。いつでも罪を指摘し、正義を愛していた。
範子はすごい。えらい。誇りだ。
高校時代、範子の「正義」に和樹たち4人は窮地を助けられてきた。
だが、同窓会をきっかけに社会人になってから再開し、また5人で集まるようになると、範子の正義は和樹たち4人に牙をむき始める。それは高校時代から4人の間にそれぞれあった範子への違和感。範子の正義は強烈で異常だった。間違えを一つも許さず、罪をあら探しし、人の揚げ足ばかり取って偉そうに指摘する・・・――あんな女、ほんとはずっと大っ嫌いだった。
範子の「絶対正義」に4人は追い詰められ、殺害し、遺体を隠した。範子は確かに死んでいた。5年経った今、なぜ死んだはずの範子から招待状が届くのか?範子殺害後、順風満帆に過ごしていた4人に混乱と恐怖が襲う――。
イヤミス
『絶対正義』は2016年に単行本が刊行。ドラマ化をうけてか、今年1月に文庫版が発売されたので、
ドラマ化と秋吉理香子さんの作品だということで気になって読んでみました。
作者の秋吉理香子さんは映画化もされた『暗黒女子』の原作者として有名ですかね。『暗黒女子』については以前にこのブログでも本を紹介しましたが↓
読んだ後に嫌な気分になるミステリ「イヤミス」のジャンルで有名な秋吉理香子さん。
今回も嫌な気分になりつつも読み進めることを辞められない面白さで一気読みでした。
『暗黒女子』同様、この『絶対正義』もド直球のイヤミスです。各章、視点が一人一人順番に描かれる構成や、女友達間での人間関係を描いている点、周りを振り回す強烈な人物が話しの中心になって展開する流れなども同様ですが、『暗黒女子』はお嬢様学校という、ある意味閉鎖空間での特殊な空間や雰囲気を楽しむのに対し、この『絶対正義』では学生生活を経て社会人となってからの女性たちの生活がそれぞれ描かれているので、読者に「私もこんな人と関わってしまったら・・・」と、リアリティのある、思わず想像してしまう恐怖を感じさせるお話になっています。
あと、『暗黒女子』は突き抜けすぎていてもはや嫌とか通り越して爽快感があるラストでしたが、『絶対正義』のラストはひたすら後味が悪いです。ほんと嫌です。イヤミス(-_-)
ドラマ
ドラマは東海テレビ制作の「オトナの土ドラ」枠での放送です。この枠は通常のドラマ1クールである3ヶ月ではなく、2ヶ月間での放送らしいですね。原作は280ページほどで長編としてはそこまでのボリュームはないので、それくらいの放送期間が丁度良いのかもしれません。
キャスト
高規範子-山口紗弥加
西山由美子-美村里江
理穂 ウイリアムズ-片瀬那奈
今村和樹-桜井ユキ
西森麗香-田中みな実
公式サイトによると、主演の山口紗弥加さんは前クール『ブラックスキャンダル』に続いて2作目の主演作となっていますね。原作ですと範子は心情描写が一切無い人物ですので、主演となるとドラマでは範子がどのように描かれるのか気になるところ。各話、他キャストの一人一人と順番に対峙していくんでしょうかね?バチバチの女優対決に期待です。
田中みな実さんは今作が初女優デビュー。麗香は芸歴の長い中堅の演技派女優という設定なんですが・・・デビュー作がこの設定の役なんて何だか過酷ですね。こちらも気になるところです。
以下ネタバレ~
正義
高規律子は名前の真ん中の二文字が表すように、みんなの「規範」である人物。頭が良く、服装や髪型は地味、礼儀正しく、規則違反は絶対に犯さない。学生時代は親たちにとっての「理想の子供」、社会人になってからは「尊い人」。
しかし、関わるうちに分かってくるのは、範子の「正義」はどう見ても行き過ぎで、もはやクレーマーのようなものだということ。人間味は欠片も無く、友情も愛情も到底持っているとは思えず、融通は一切利かず、ただただ法律違反者を断罪することに耽っている依存者で異常者。
和樹たち4人は学生時代から範子の異常なほどの「正義」に息苦しさを感じつつも、範子の「正義」の主張に度々助けられて恩を感じ、周りも範子の「正義」を賞賛するので、「間違い無く正しい範子を疎ましく思う私は愚かしい」と思ってしまい、負の感情を周りに吐露することが出来ない。範子を批判すれば自分が批判される。どんなに異常で常識外れなことをしていても、範子の行いは規則・法律の上では「正義」だからです。
正しければ、どんなことをしても良い。
正しければ、全てが許される。
正しいことは、万能なのだ。
よく、「こんな世の中では真面目に規則を守って生活していても馬鹿馬鹿しい目に遭うだけだ」といった意見を抱いたり、実際に開き直って傍若無人に振る舞ったりする人もいますが、何かあって公の場に立たされたとき、やはり圧倒的に強いのは正しい行いをしていた方。
範子は善意から「正義」を遂行しているわけではない。目的は人を糾弾し、断罪して快感を得ること。“それ”には法律が、「正義」が、都合が良い。それだけのこと。
範子は法律が「絶対の正義」と位置づけて一連の行動をしていますが、法律が絶対の正義だなんて、現実的には強引すぎる意見です。結局は人が作ったものだから“絶対”なんてある訳ないし、目安ってだけであやふやなもの。と、いうか、「絶対」なんて断言出来るものなどこの世の中では無いに等しい。だからまぁ、あやふやな中で折り合いを付けて生活しているのが社会生活の現実。
フリーライターの和樹は本を完成させるために懸命にはたらいている。
主婦の由美子は働かない夫に苦しめられつつも子供を守ろうと奮闘している。
起業家の理穂は不妊治療で思い悩んでいる。
女優の麗香はワケアリの恋人との関係を周りに迷惑がかからぬように気を配りながらひっそりと続けている。
4人とも苦悩しつつも善良に生きようと頑張っている無害な人間ですが、範子は無害な人間にも容赦ない。あやふやを許さず、「絶対の正義」を狂気のように押し付ける。追い詰められた4人は善良に生きようとしていたにも関わらず、「正義」の押し付けによって最大の過ちを犯すことになってしまう。
まさに行き逢ってしまった不幸。ホラーの定石。
以下さらにネタバレ~
ラスト
招待状を4人に送ったのは範子の娘・律子。ドライブレコーダーの映像を観て4人が犯人だということを知り、「思い出の会」で大勢の人間の前で映像を晒して公開処刑してやろうとワザと思わせぶりな招待状を送って罠を仕掛けたというのが真相。
ですがこの娘、4人を憎んでいたわけではなく、むしろ大いに感謝しています。「母を殺してくれてありがとう」と。範子はあのような「正義」しかみていない人間。友人である4人があんなに苦しめられていたのなら、一緒に生活している娘の苦痛は想像するに堅くないところ。排除したがり、日々母に対して死に繋がる小さな罠を仕掛けていたのです(※いわゆるプロバビリティーの犯罪)。結果的に4人が都合良く殺してくれた訳ですが。
こんなことをしたのは母親の復讐の為ではない。では何のためなのか
――4人を断罪したいという欲求が抑えられなくなったから。
つまり、母親と同じように人を断罪する快感を得てしまったんですね。範子は死んでも、娘である律子が母と同じ所業を繰り返していく。実は範子も母が存命中は躾の厳しさに反発していたが、母が事故死した後にあんな様になったらしく・・・。
もしかしたら・・・・・・母も律子と同じように、罪を犯さない方法で祖母を排除したのではないか?そしてそのことをきっかけに正義に目覚めたのではないだろうか?
だとしたら母も、いつか娘に排除される可能性を考えていたかもしれない。しかし、その方法が法を犯すものでさえなければ、わたしに葬り去られても良いと思っていたのでは――
人間というものは正義によって誰かを断罪すると、脳の快楽をつかさどる部位が活性化し、麻薬を摂取した時と似たような快感を得られるらしい。母の場合、その傾向が通常の何倍も強かったのではないか。そしてそれが、きっと律子にも受け継がれているのだ。
律子は断罪に目覚め、次の獲物を探して舌なめずりしているシーンでお話は終わっています。家系で受け継がれていく、連鎖ラスト。個人的にはこういった「世に放たれっぱなしです」ラストは好きではないのですが、こういった終わり方もまたホラーの定石ですね。
不自然
恐ろしくも面白く読めた今作ですが、読んでいると所々不自然さは感じます。
範子ですが、これ、ワザワザ4人に自分を殺すようにプレッシャーをかけているようにしか思えませんね。しかも脅迫じみた行いをするのも4人同時期で、そんな中で4人と一緒に車に乗って山に行く・・・。今日この日に皆で私を殺してくれと言わんばかりで、行動のしかたがあまりに馬鹿すぎるような(^^;)
人間らしい感情が欠落していたから、4人の自分への嫌悪感がわからなかったんですかね?それとも破滅願望でもあったんでしょうか。娘を覚醒させる為なんていったらファンタジック過ぎますしねぇ・・・。
範子が六法全書丸暗記しているわりには専業主婦なのも疑問。法律家にでもなりゃいいのに。まぁこんなに融通が利かない人間には無理か。でもそれだと、こんなでよく家庭生活が出来たなとも思いますね。結末を読む前から「こんなで旦那や娘、まともでいられるのかい?」と疑問でした。娘はラストでやっぱり苦痛を感じていたことが明かされていますが、夫はどう思っていたのか・・・分からずじまいです。
そもそも、こんな融通が利かない人間が女友達の輪に溶け込み続けていること、周りに受け入れられていることも不自然だと思います。実際はどんな人間も毒を吐きたいものだし、いくら正しいとはいえ、一々法律を持ち出してベラベラ言い出すような面倒な人、皆距離をおいて疎外するのが自然かと。
個人的に一番ドン引きしたのは、範子が理穂に卵子提供を持ち出すところですね。なんでこの行為が「正義」なのかというと、「アメリカでは卵子や精子の提供、代理母出産が広く認められていて法も整備されている。つまり、子供を持つ権利が法的に認められている。であれば、不妊である理穂は夫の権利を侵害している」と、いうのが言い分・・・・・・。
飛躍しすぎだし、もはや正義とか関係なくただのお前の持論じゃないかって感じですが(^_^;)
しかし、嫌いな女と亭主の子供を自分がお腹を痛めて産む・・・・・・考えただけでゾッとしますね。一番のホラーでした。
そんなこんなで、ミステリというよりはホラーを読んでいる感覚でした。(ハッキリ言って、娘が招待状の送り主なのは予想がつきますからね・・・)一気読み必須の作品ですので、ホラー映画を観る要領で夜長に読んでゾッとしてみてはどうでしょう。ドラマで気になった人も是非是非。
ではではまた~