夜ふかし閑談

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『ダイイング・アイ』原作小説のあらすじ・ネタバレ

こんばんは、紫栞です。
今回は東野圭吾さんの『ダイイング・アイ』をご紹介。

ダイイング・アイ (光文社文庫 ひ 6-11)

2019年3月からWOWOWで放送予定の連続ドラマの原作小説です。

 

あらすじ
許さない、恨み抜いてやる、たとえ肉体が滅びても――。
雨村慎介は「茗荷」という店で働くバーテンダー。ある日、仕事帰りに何者かに頭を殴打されて重傷を負ってしまう。二日後に病院で目を覚ますが、頭に損傷を負ったせいか“ある記憶”の一部が欠落してしまっていることに気付く。“ある記憶”とは1年半前に自らが運転する車で死亡事故を起こしたことだった。慎介は現在執行猶予中の身だったのだ。
慎介を襲った人物はその事故の被害者・岸中美菜絵の夫でマネキン制作会社勤務の岸中玲二だったことが判明。だが警察がつきとめたとき、岸中玲二はすでに自宅で服毒自殺をしていた。
退院し、事故について断片的には思い出せたものの、肝心の事故を起こした瞬間の記憶はどうしても思い出せない慎介。
自分は何故、事故のことだけ忘れてしまったのか――。
周りに事故についての詳細を聞くうち、自分の運転や行動に疑問を感じた慎介は事故のことについて独自に調べ始める。
そんな中、慎介の前に喪服姿の妖しい魅力に満ちた謎の女が現われ、慎介は次第にこの女に溺れていくが、女の顔は岸中玲二が妻に似せて作ったマネキンに瓜二つだった。
果たしてこの女は何者で、何が目的で慎介に近づいてきたのか?そして、事故の真相は?

 

 

 

 

 


東野圭吾のホラー小説
大人気作家なだけあって作品の映像化数が凄まじい東野圭吾作品。最近は書けば遅かれ早かれ全て映像化されるのではないかといった勢いですよね(^^;)。
この『ダイイング・アイ』は2007年刊行で十年以上前の作品。ドラマの公式サイトの東野さんのコメントによると「『ダイイング・アイ』は扱っている題材からして、まずそういう話(映像化の話)は来ないだろうと予想しておりました」とのこと。ドラマ化と、この東野さんのコメントが気になったので読んでみた次第です。


今作なんですが、ネットで調べると「ハードサスペンス」と説明されています。ハードな、サスペンス・・・かぁ・・・といった感じですが、読み終わっての率直な感想としては「ホラー小説」ですね。
謎が明かされていく過程は一般的な東野圭吾ミステリとして十分楽しませてくれますが、お話の根本はホラーそのもの。結末も途中の場面も色々と怖いです。東野圭吾作品でこういったものは読んだことがなかったので新鮮でしたね。
登場人物達が悪人ばかりというのも東野圭吾作品では珍しいなと思いました(全著作を読んでいる訳ではないのでハッキリとは言えませんが)。前にこのブログで紹介した乾くるみさんの『リピート』と同じように、

 

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『ダイイング・アイ』では人間の欲深さ、浅ましさなどを描くのが主題なんだと思います。

 


ドラマ

 

 


3月からの連続ドラマWでのキャストは以下の通り

雨村慎介三浦春馬
岸中美菜絵/瑠璃子高橋メアリージュン
村上成美松本まりか
岸中玲二柿澤勇人
岡部義幸小野塚勇人
木内春彦淵上泰史
小塚洋平木村祐一
小野千都子堀内敬子
江島光一生瀬勝久

 

最初に映像化を知ったときは映画なのかと勘違いしましたが、こちらはWOWOWでの全6話編成の連続ドラマ。原作は400ページちょっとのボリュームなので6話編成は丁度良いのではないかと思います。


主人公の雨村慎介は原作では感傷的だったりドライだったり悪人な部分もあったりと、結構一筋縄ではいかない人物ですので、三浦春馬さんがどんな風に演じるのか見物ですね。バーテンダー姿も楽しみです(^^)
原作にはアイリッシュクリーム」を始めとして数々のカクテルが出て来ますので、カクテル好きな人には観ていて愉しめるんじゃないかと思います。

 

主演はもちろんですが、原作を読んだ人間ならまず気になるのは「瑠璃子役」は誰がするのかですね。これは高橋メアリージュンさんが岸中美菜絵との一人二役で演じられるそうです。瑠璃子は原作だと妖艶で大胆なシーンが多いのでドラマではどの様に描かれるのか気になるところですね。
映像としては大量のマネキンをどの様に映すのかも見所なんじゃないかと。妖しげで魅惑的な映像に期待です。

 

 

 

 


以下がっつりとネタバレ~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


“ダイイング・アイ” 意味
タイトルの「ダイイング・アイ」というのはミステリによく出て来る「ダイイング・メッセージ」から採ったものだと思います。
通常の「ダイイング・メッセージ」とは死亡した被害者が死の間際に残すメッセージのこと。
この『ダイイング・アイ』ではプロローグで車の死亡事故の被害者・岸中美菜絵視点で美奈子が事故に遭い、死ぬまでの瞬間が描かれています。美菜絵は車にぶつけられて飛ばされた後、壁と車に挟まれるのですが、今死ぬといったまさにその瞬間、恨みのこもった目で車の運転手を睨みつけます。

美菜絵の目は、真っ直ぐに前に向けられていた。彼女の身体を押し潰した車を運転している人間の顔に、だった。
許さない、恨み抜いてやる、たとえ肉体が滅びても――。

身体が潰されて骨が折れ、内臓が次々破裂する様子や、走馬灯のように美菜絵が今までの自分の人生、まだまだ続くはずだった夫との幸福な日常に想いをめぐらせる部分など、これらの描写が相まってこのシーンは読者に強烈な印象を与えています。
今作のタイトル「ダイイング・アイ」とは、この美菜絵の“死に際の恨みのこもった眼光”のこと。美菜絵は眼光によってこの世に恨みを残して逝き、眼光を向けられたことで、この“恨み”を受け継いだ“ある人物“が事件を引き起こしていくのがこのお話。

 

 


事故
今作では「交通事故による加害者側の責任意識の低さ」が題材になっています。
美菜絵が死んだ交通事故の加害者は二人で、慎介と木内春彦。最初に美菜絵にぶつかったのは慎介が運転していた車で、その車に進路妨害をされた結果、ハンドルをきりそこねて美菜絵を押し潰したのは木内が運転していた車。
しかし、実際に車を運転していたのは慎介が勤めていた店のオーナーの江島光一と、木内の婚約者で社長令嬢である上原ミドリ
慎介は三千万円と引き替えに、木内は飲酒をしていた婚約者を庇って身代わりを引き受けたというのが事件の真相。慎介が事故を起こした瞬間のことを思い出せなかったのは、実際に車を運転していたのが自分じゃなかったからなんですね。

 

お金や立場があるとはいえ、慎介も木内も何故簡単に身代わりを引き受けたのかというと、実刑が下らないだろうことがわかっていたから。

人が一人死んでいても、交通事故によって加害者側に下される罪状は軽いもの。加害者が二人いるというのも両者に「直接被害者を死亡させたのはあちらだ」「事故原因を作ったのは向こうだ」と、いった具合に罪悪感は薄まってしまう。加害者の一人である江島は「一年間に交通事故で死んでいる人数は約一万人。サイコロの目みたいなもので、たまたま悪い目が出てしまったというだけ。運が悪かっただけ。こっちだって被害者だ」という風に思っています。

年間一万人の交通事故死者がいるということは、それに近い数の加害者も存在するはずだ。彼等はたぶん以外に軽い量刑にほっとしながらも、ただひたすら自分に起きた災いを忘れようとしているのだろう。そして加害者が忘れることで、被害者は二重に傷つけられる。

忘れることなど出来ない被害者側としては、加害者側のこういった態度はあまりにも無責任に見えるはず。被害者側と加害者側での認識の落差が激しいのが交通事故の問題点で悲痛なところなんですね。

 

 

 

 

モヤモヤ・考察
「瑠璃子」の正体は手術で美菜絵の顔に似せた上原ミドリ。直接美菜絵を押し潰した車を運転していたミドリは、死に際の美菜絵に睨みつけられたことで気が触れてしまい、自分自身が被害者の美菜絵であるかのように振る舞い(または眼光によって美菜絵の想いが乗り移って本当に美菜絵自身になっていたのか)、慎介に近づいてきたのも“美菜絵として”慎介に復讐するため・・・・・・らしい。
お話の要となる部分なんですが、コレが何というか~・・・どうもよくわからない(^^;)

 

璃子(ミドリ)は慎介に思わせ振りに接触。その度に積極的に性行為を求め、慎介をマンションに監禁までしますが、何故か殺そうとはしない。妊娠することが目的だと受け取れる言動がありますが、それに続く言葉は「やめさせたいなら私を殺して」というもので、殺させてミドリが味わった苦しみを同じ加害者の一人である慎介に追体験させるのが目的なのかな?とは思うんですけど、妊娠しようとした動機はよくわからないですね。必要ないとも感じますし。
終盤で瑠璃子(ミドリ)は本当の加害者の一人は慎介ではなく江島だと知って、江島に自分を殺させる訳ですが、江島には
「そうして今度こそ忘れないで。あなたがわたしを殺したということを。あなたが殺した女の顔を、女の目を」
と言い放ち、江島は逮捕後に「女の目がいつも自分を見ている」と怯えて発作的に両目を自分で潰して失明。
“忘れることは許さない”というのが、瑠璃子が考えていた殺す以上の復讐なんですよね、やっぱり。妊娠しようとしたのはより忘れられなくする為の後押しというか嫌がらせだったのでしょうか。

 

そもそも、瑠璃子が見つめるだけで相手の身体が動かなくなったり、行動を誘導されたりするのにはカラクリがなく、ただ摩訶不思議な力だというのはミステリだと思って読んでいた読者としては拍子抜けでモヤモヤしてしまいます。「催眠術みたいなもの」と出て来ますが、催眠術にかかる状況も作らないで、見つめるだけで身体が動かなくなるというのは催眠術ではなくって、もはやただの魔法ですよね。推理小説として読んでいたのにそれはちょっと・・・。
まぁ拍子抜けしてしまうのは東野圭吾作品だからミステリ的カラクリにより期待しちゃうというのもあると思いますが。「ホラーならホラーと言っておいてよ」と言いたくはなりましたね。


他にも慎介の彼女である成美の行動は突拍子もなくって解せないですね。あんなに健気に慎介に尽くしているように描かれてしたのに金を持ち逃げ、あげく欲が出て江島にさらにせびりに行くとは・・・。失踪した後は作中に登場しないまま「殺されたんだろう」という憶測で終わりだし、色々と残念です。
刑事の小塚さんが知らない間に殺されてしまっていたのもショックでした。事件自体には直接関係なくって、作中では唯一の善人だくらいの人だったのに・・・(-_-)

 

 


最後に
色々とモヤモヤはしますが、ホラー小説なんだと思えばこのモヤモヤ感も納得出来るものだと思います。
謎を紐解いていく過程やスリリングな展開は文句なしで面白く、ぐいぐい読ませてくれる一気読み必須の本なので、気になった方は是非是非。

 

 

 


ではではまた~

 

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