こんばんは、紫栞です。
今回は清水玲子さんの『秘密-トップ・シークレット』
3巻に収録の「土屋雅紀殺人事件/チャッピー連続殺人事件」をご紹介。
あらすじ
2061年8月。有名私立大生の土屋雅紀の他殺体が白泉公園で発見される。遺体は左手左足が粉々に粉砕され、全身の皮を剥がれたうえ首を落された凄惨な状態のものだった。
「第九」でMRI捜査されることとなり、被害者の脳映像を確認したところ、犯人は「チャッピー」という動物公園のキャラクターの着ぐるみ姿で犯行に及んでいた。さらに、被害者は生前に「5年前の死神がおまえをむかえにいく」「5年前に一体何を見た?」などの脅迫めいた手紙やメールを受け取っており、MRIで5年前の映像も確認したところ、被害者が2056年8月に進学塾の合宿中に殺人事件を目撃していたことが判明。その犯人も「チャッピー」の着ぐるみ姿で凶行に及んでおり、少なくとも4人以上の子供を殺害していた。
しかし、このような事件が報告された事実はない。土屋を含め事件を目撃したのは6人の学生。彼等は何故事件を通報しなかったのか?
土屋の葬儀後、目撃者である他5人は皆行方不明となる。
その目撃者のうちの4人、片岡・石崎・境・竹内は、同じく目撃者の1人の西澤に呼び出され、悪天候のなか山奥の廃墟に集められていた。そこで4人は冷蔵庫から西澤の皮剥遺体を発見する。この状況は5年前の事件と類似していた。山を降りようとする4人だが、車が何者かの手によって破壊されていて――。
サスペンス
3巻は「土屋雅紀殺人事件/チャッピー連続殺人事件」と短編読み切りの「不思議な秘密」、清水玲子先生による“脳”解説(?)「現実の秘密」が収録されています。シリーズの中でもページ数が多くって、280ページほどある大ボリューム。このシリーズはコミックスにする際はページ数関係なく事件を丸々収録してくれるところが良いですね。
「チャッピー連続殺人事件」は「第九」の事件捜査の過程と片岡ら閉じ込められた4人の様子が並行して描かれる物語構成になっています。薪さんら「第九」の捜査で5年前の事件の詳細が明らかになっていく過程も勿論面白いですが、片岡たち4人がクローズド・サークルちっくに閉じ込められ、得体の知れない犯人に怯えながら精神的に追い詰められて戦々兢々としていく描写が凄く面白いです。シリーズの中でもサスペンス色が強い事件ですね。
着ぐるみ姿の犯人や過去に罪のある者達が悪天候で交通手段が断たれ、閉じ込められたところに事件が起こるなど、舞台設定はミステリの王道そのものですが(近未来SF漫画だってこと忘れるくらいにね・・・)、後半の真相部分はこのシリーズならではの“秘密”にどっぷりとまつわるもので「ベタだけど特徴的」な感じ。美人でミステリアスな犯人も出て来て、個人的にも特に好きな作品です。
以下ネタバレ~
自己保身
5年前、片岡たち6人の学生が事件を通報しなかったのは、合宿最終日でハメを外し、夜遊びをしてドラッグ、アルコール、タバコ等を大量摂取していたから。バレれば受験はダメになるという自己保身のため。
今回、片岡たち4人を閉じ込めた犯人は5年前の被害者の子供の一人である篠崎佳人。5年前の加害者である大倉正が自分に抱いている愛情を利用して今回の犯罪計画を実行しています。
片岡たちは逃げる途中で「たすけて」という子供を聞いたにも関わらず、子供たちよりも受験を控えた自分たちの将来の方が大事で見殺しにした。結果、片岡たちが去った後に佳人は被害を受け、一緒に捕まっていた佳人の妹・香里は殺された。「あのとき通報してくれていれば・・・」と、佳人は片岡たちに復讐をする訳です。
片岡たちは直接殺害に関わった訳ではない。しかし、自己保身のために子供を見殺しにして、その後はバレないことに安堵し、“あの夜のこと”を忘れて何事もなかったように有名大学に通っている。これは当事者からしてみれば実際に手を下した犯人と同等、ひょっとしたらそれ以上に罪深く思えるんじゃないかと思いますね。「助かるかも」という希望を抱いたぶん、切り捨てられたショックは大きいでしょうし、無関係を装って忘れようとしている行為はとても許せることじゃないでしょう。
女・男
黒幕の佳人ですが、「チャッピー」の着ぐるみの仕事をしているときは男性として働いていますが、5年ぶりに母親に電話する場面や片岡の妹に接触するときなどは女性として、亡くなった妹の香里として振る舞っています。終盤までずっと男なのか女なのかわからないままお話が進んでいきまして、読み手としては「なんで性別があやふやな描写なのか」と疑問を抱くのですが、最後にはこれらの疑問がすべて繋がる結末・“秘密”が用意されています。佳人の声が高いのも伏線になっていますね。
佳人がこのような事件を起こしたのは、復讐は勿論ですが自分が5年前に“されたこと”の秘密を知る者をすべて葬り去ることも目的。
せっかく生きのびて逃げられたのに、一番に帰りたい両親のもとに帰れないというのはあまりにも辛すぎますね。最後、両親に知られる前に死のうとする佳人に嘘をついて必死で止める青木との場面が何とも印象的。薪さんがその嘘にのって佳人の自尊心を守る為に証拠を改ざんするのもまた感慨深いです。
しかし、作中で佳人の髪の毛が短くなったり長くなったりしていたのは何故なんでしょうか?かつらなのかな?
あと、絵柄の問題なんでしょうけど、佳人と薪さんの顔が似ていますよね!(1巻のマシュー・ハーヴェイにも似ていましたけどね・・・^^;)
青木の「もしかしてオレ今両手に花?」が可笑しいです。公園の名前とかゴリラのところとか小ネタが多いですね。
ラスト
物語の最後は事件のその後の経過が箇条書きで綴られています。
佳人の処分は「医療少年院送致」に決定しますが、両親とも嫌がらせをうけて引っ越しを余儀なくされたり、被害者の大学生たちの親が損害賠償請求をしたりと、やり切れない顛末が箇条書きで淡泊に書かれているところがもの凄いリアリティを感じさせますね。簡単に割り切れるものではないというか。佳人の側からの視点で描かれているから肯定的にみてしまいますけど、大学生の親族からすれば復讐の仕方が苛烈過ぎると感じるだろうし、これだけの罪を犯した犯人が「医療少年院送致」では納得いかないし許せないと思うのは当然ですよね。
世間では事件は忘れ去られるが、当事者達の間ではいつまでも恨み辛みが繰り返される。どこまでもやり切れないですね。
おまけ
この「チャッピー連続殺人事件」の後に収録されている読み切り「不思議な秘密」は心霊現象を扱っているお話で完全に「耳袋」的怪談話で怖いです。夜に薄暗い建物の中でMRI映像を見るってよくよく考えるとめっちゃ怖い状況ですね(^^;)短いお話ですが“よく出来た話”で作者の技量を感じます。最後に2巻の天地のことが少し出て来ますね。
作者のページ(?)な「現実の秘密」も面白いですので必見。作者のページは毎巻あればいいのになぁ~。「秘密」はこの巻以降はこういったものが収録されていないので残念です。清水先生のお話ユーモアもあって面白いんですけどねぇ。
3巻収録のお話はシリーズ全体の伏線に絡むようなものではないですが、単純に物語りとして、サスペンスとして面白いので気になった方は是非是非。
ではではまた~