夜ふかし閑談

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『こうして誰もいなくなった』有栖川有栖作品を知れる14編!

こんばんは、紫栞です。
今回は有栖川有栖さんの『こうして誰もいなくなった』をご紹介。

こうして誰もいなくなった

 

祝!30周年
こちらは今月の6日に刊行された有栖川さんの小説本。装丁がかわいくってミステリアスで絵本みたいな雰囲気。裏表紙もカバー下もかわいいです。
比較的シリーズもので有名な有栖川さんですが、

 

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今作はノンシリーズものの中短編をまとめた作品集。あとがきに「デビューほぼ三十周年の時期に〈有栖川小説の見本市〉が開けました」と、ある通り、ファンタジー、ホラー、本格ミステリと、見本市さながらに多種多様な物語が収録されている作品集です。


目次
●館の一夜
●線路の国のアリス
●名探偵Q氏のオフ
●まぶしい名前
●妖術師
●怪獣の夢
●劇的な幕切れ
●出口を探して
●未来人F
●盗まれた恋文
●本と謎の日々
●謎のアナウンス
●矢
●こうして誰もいなくなった

の、計14編収録。


収録作品数が多いですが、本の総ページ数は380ページ程で大ボリュームという訳でもないです。一番ページ数が多いのが表題作の「こうして誰もいなくなった」で、これだけでもう130ページは使っています。次に長いのが「線路の国のアリス」で50ページ程。他12編はどれもかなり短い短編で、4ページや2ページしかない掌編もあります。

それというのも、ラジオ番組の朗読用に書いたものやテーマが与えられて書いたもの、枚数の制限無く書いたものなどなど、かなり無作為に(と、いうかこれまで本にならずに溜まっていた短編をかき集めた感)収録されていますのでこの作品数に。でも、有栖川さんのノンシリーズの作品集というのはどれもこれ位の数は収録されているものが多いですね。

 

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ジュリエットの悲鳴 (角川文庫)

ジュリエットの悲鳴 (角川文庫)

 

 

本当に色々なお仕事を受けている作家さんですな。

 


かなり実験的なお話も含まれていますので、「なんだこれ?」といった内容のものもあります。疑問に思ったら巻末に収録されている有栖川さんの「あとがき」で各編の来歴が読めますので、あとがきと照らし合わせて読むのが良いかと。


「名探偵Q氏のオフ」「出口を探して」「矢」とかは、その「なんだこれ?」な短編でしたね。あとがき読むと「なるほど」と、なります。「名探偵Q氏のオフ」は終わりの“きゅう攻め”の文章がなんとも凄かったです(^o^)

 

「線路の国のアリス」は『不思議の国のアリス』のパロディで、アリスという小さい女の子が電車に乗って訳のわからない冒険をするお話。

出て来る電車ネタがマニアックすぎるのと、アリスが異様に大人びた発言をするのが読んでいて可笑しくって楽しい。
ファンタジーですが、ところどころで絶妙なギャグが入っていたり、どうしようもないようなオタク知識満載なのが有栖川さんらしい一編。

 

「未来人F」は、江戸川乱歩の少年探偵団シリーズのパロディ・パスティーシュを集めたアンソロジー『みんなの少年探偵団2』

 

 

に寄稿されたもので明智小五郎や小林君、怪人二十面相も登場して、いかにも乱歩の児童書風味でお話が進むものの、終盤ではかなり“メタ”な事を言い始めるのが意外な展開でした。普通のパロディとは違った趣が隠されたお話ですね。

 

「本と謎の日々」大崎梢リクエスト!本屋さんのアンソロジー

 

本屋さんのアンソロジー (光文社文庫)

本屋さんのアンソロジー (光文社文庫)

 

 

に収録されているもので、元書店員で現在は小説家の大崎梢さんからのご指名を受けて書かれた短編。
大崎梢さんは『プリティが多すぎる』の作者さん。↓

 

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書店員さんの日常ミステリですね。どのネタも“あるある”で無理のない(?)もので、納得がいく謎解きばかりで良かったです。

 

 

掌編の中では「盗まれた恋文」が、個人的に好きです。綺麗にオチがついていて感服しました。

 

「劇的な幕切れ」はコレ、まずタイトルが良いですね。「毒」がテーマの短編で、この本の中ではミステリ色が強いお話。大元は予想がつく展開なんですが、主役の男性の感情の移り変わりが予想外でタイトルとうまい具合に繋がっています。あとがきで「この幕切れには救いがないのか、微かにあるのか、読者によって見方が分かれそうだ」とありますが、私は救いがある終わりなんじゃないかと思います。

 

 

やっぱり一番読みごたえがあるのは表題作の「こうして誰もいなくなった」で、これはタイトルからも解る通りアガサ・クリスティそして誰もいなくなった

 

そして誰もいなくなった (クリスティー文庫)
 

 

が下敷きにされたお話で舞台設定や状況は原典の『そして誰もいなくなった』とほぼ一緒。歌は出て来ませんけどね。

時代設定は現在で登場人物の職業などが一部今風だったり、スマホが出て来たりと現在の世相がふんだんに盛込まれています。
お恥ずかしいことに私は原典の『そして誰もいなくなった』をちゃんと読んだ事はないので(^^;)あまり詳しくどう違うとは言えないんですが、映像化作品などで大まかなストーリーは知っている状態(私がそう)でも別物として愉しめます。原典を確り読んだ事がある人はさらに愉しめるのではないかと。
有栖川さんは「原典は名探偵が不在なのが寂しかった」らしく、今作では本の帯にある“有栖川史上最高に劇的な名探偵”、響・フェデリコ・航という奇抜な名探偵が登場するのが愉快です。有栖川さんはやっぱり名探偵が登場する本格推理小説がお好きなんですね~(^^)

 

 

見本市

とにかく色々なお話が収録されている今作ですが、読後の感想としては、つくづく有栖川さんは本格推理小説に真摯に向き合い続けている作家さんだなぁと改めて思うような作品集でした。
ファンは勿論ですが、読みやすい短編がいくつも入っている作品集なので、空き時間などに読むのに丁度良い本を探している方などにもオススメ。今まで有栖川さんの本を読んだことがない人も、この本で有栖川作品を知るきっかけになったら良いなぁと思います。

 

 


ではではまた~

 

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