夜ふかし閑談

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パラレルワールド・ラブストーリー 原作小説、ネタバレ! 異色の謎解き恋愛小説~

こんばんは、紫栞です。
今回は東野圭吾さんのパラレルワールド・ラブストーリー』をご紹介。

 

パラレルワールド・ラブストーリー (講談社文庫)

 

2019年5月31日に公開予定の映画の原作本ですね。

 

あらすじ
敦賀崇史は大学院在学中、週に三度ほど山手線を利用していた。毎回、決まった時刻に同じ電車に乗り、同じ車両、同じドアの脇に立って外の風景を眺めるのが習慣となっていたが、いつからか崇史は山手線と並行して走っている京浜東北線の車両に乗っている若い女性に目を留めるようになる。

彼女は毎週火曜日に同じ時刻の電車、同じ車両の同じドアに立っていた。並走する車両に彼女の姿を探すようになるうち、彼女と目が合うことが多くなった。毎週二人は二枚のガラス越しにほんの二・三秒見つめ合う。
崇史は名前も知らない彼女に恋をした。

しかし、卒業にともなって山手線を利用することもなくなり、結局彼女とは直接会うことも出来ないままに崇史の恋は終わってしまう。

大学院を卒業後、崇史はアメリカに本社のあるバイテックという企業が運営しているMACという学校に幼馴染みで親友の三輪智彦と共に入り、リアリティ工学の研究者として給料を貰いながら研究を行う日々を過ごしていた。

ある日、崇史は智彦から「彼女を紹介したい」と言われ、喫茶店で待ち合わせをする。足に障害があり、今まで女性・恋愛に距離を置いている様子だった智彦に恋人が出来たと聞き、大親友の幸せを心から喜ぶ崇史だったが、智彦が連れてきた津野麻由子と会った瞬間、そんな思いは吹き飛んでしまう。

麻由子はあの京浜東北線の彼女だった。

智彦への嫉妬に苦しむ崇史だったが、ある朝目が覚めると、彼女は自分の恋人として隣にいた。夢と記憶との符合や記憶と食い違う状況に混乱する崇史。麻由子が自分の恋人である「世界」と、麻由子が親友の恋人である「世界」。どちらが現実なのか?

目覚める度に変わる二つの「世界」で恋と友情は翻弄されていく。いったい自分に“何が”起こっているのか、崇史は謎を解明しようと調べ始めるが――。

 

 

 

 

 

 

 

「恋」と「友情」と「記憶」の物語り


パラレルワールド・ラブストーリー』は1995年刊行で、今から20年以上前の作品となります。スマホはおろか携帯電話も作中には登場しないので、電話事情に関しては読んでいると時代を感じますが(電話環境ってのはここ二十年でホント様変わりしましたよね)、違和感はそれぐらいで他は驚くほど今の時代と齟齬なく読めます。むしろ近未来的なお話だという印象。リアリティ工学の研究について色々と出てきますので、専門的知識がある人には気になる点もあるかもですが、大多数の人には今現在の方がより受け入れやすいお話になっているんじゃないかと。


タイトルに“ラブストーリー”と入っている通り、今作は一人の女性を巡る親友との三角関係が展開される普遍的な(しかし悲劇的な)ラブストーリーが展開されるのですが、これに「記憶」の混乱が入ることによって他にはない“ある意味ホラー”な謎解き恋愛小説になっております。ぶっ飛んでいて少しファンタジックな設定ではありますが、ラブストーリーにくわえ、親友との友情の行方、数々の謎や伏線が繋がっていく過程など、東野圭吾作品らしく楽しませてくれます。


「アイデアが生まれたのは20代。
小説にしたのは30代。
そして今ではもう書けない。」

と、いう、40代の頃に東野さんが言った今作についてのコメントが印象的。

上の画像による文庫の他に、最近になって映画化にあわせてか吉田健一さんによるイラストカバー版も刊行されています。

 

 

 

映画

 

 


映画の監督は『ひゃくはち』『宇宙兄弟』『聖の青春』などの森義隆さん。主題歌は宇多田ヒカルさんのアルバム『初恋』

 

初恋

初恋

 

 

に収録された「嫉妬されるべき人生」が使われています。タイトルが凄く合っている・・・。

キャスト
敦賀崇史玉森裕太
津野麻由子吉岡里帆
三輪智彦染谷将太
小山内譲筒井道隆
桐山景子美村里江
篠崎悟郎清水尋也
柳瀬礼央水間ロン
岡田夏江石田ニコル
須藤隆明田口トモロヲ


このお話はとにかく崇史・麻由子・智彦の三人の三角関係物語りなので、この三人がキャストでは重要なことになりますね。感情の揺れ動きがお話のキーになっているので役者さんの演技に注目です。

 

キャスト一覧に篠崎の恋人の直井雅美の名前がないのがチト気になる。映画には登場しないんでしょうか。

映画の公式サイトには「驚愕の108分!」「頭フル回転ミステリー」という文句が躍っていますので『去年の冬、君と別れ』

 

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みたいな視聴者ダマシ系(?)の仕掛けでアッと言わせる感じの映画になっているんですかね。
公式サイトには「映像化不可能と言われ続けてきた~」とも書いてありますが・・・個人的に原作小説を読んだ感じとしては「え?そうかな?」と。構成は少し複雑ですけど、別に原作通りにやれば結末で普通に驚かせることが出来るんじゃないかと思います。『去年の冬、君と別れ』や『イニシエーション・ラブ』みたいに原作がバリバリの叙述モノといった訳でもないので(叙述は叙述なんですけど)・・・まぁ場面がドンドン変わるので視聴者が混乱しないように作るのは難しいのかな。

 

 

 

 

 

 

 

以下ネタバレ~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パラレルワールド
今作は第10章まであり、視点は全て崇史。各章始めに麻由子が崇史の恋人で同棲している「世界」が描かれ、その後で“SCENE”として麻由子が智彦の恋人である「世界」が描かれる構成。各章、そんなに長くない中で「世界」が変わるので読んでいると場面の変動がせわしなく感じるかと。状況が把握出来ないまま二つの違う「世界」が交互に示される訳で、読者も序盤は主役の崇史同様に混乱します。
タイトルに“パラレルワールド”とあるので、読者にこれはちょっとしたファンタジーで、二つの別世界を並行して小説で描いているのだと思わせられるようになっています。しかし、延々並行して進めていったところで「このお話はどう着地するんだ?」と、読みながら疑問を常に感じるんですよね。作者の意図が解らなくって戸惑う。小説ジャンルもちゃんと説明書きにありませんし。ファンタジーなのかミステリーなのか判断しかねるなぁと。

話が進むにつれ、崇史が“思い出していく”ことでこの二つの「世界」は別ものではではなく、繋がっているのだということが明らかになっていきます。


麻由子が智彦の恋人だったのが過去の出来事で、麻由子が崇史の恋人であるのが今現在。


一つの「世界」が時系列を変えて描かれていることで、まるで二つの別世界があるかのように見せかけられている。タイトルにある“パラレルワールド”というワードが読者をミスリードさせる一要因になっている仕掛け。

 

では何故崇史は前から麻由子は自分の恋人だったと思い、智彦とのことを都合良く忘れていたのか。崇史はここで自分の「記憶の改編」が何者かによってされたのではないかと考え、智彦が研究していた「リアリティ工学の常識を根底から覆す大発見」に思い至る。
で、智彦や須藤と共に研究していたメンバーの一人、須藤の不可解な言動やいきなりの辞職、智彦の急なアメリカ行きの事柄などからかなりきな臭い事態に話は展開していきます。

 

 

 

 

ラブストーリー
個人的な話ですが、私は普段ラブストーリー、特に三角関係を扱った作品はそこまで好んで読まないし、映像作品で観ることも少ないです。(ラブコメは好きなんですけどね)
それというのも、「恋愛」には推理小説やクライムサスペンスのような“かくあるべし”な理路整然とした解決というのは無いからです。どんなに前後の行動とかけ離れていようと、理不尽な選択や結末を迎えようと、それが「恋」だから!と、言われば納得するしかなくなる。人の気持ちは理屈じゃないから・・・・・・と、まぁ、そういった部分が普段ミステリー作品ばかりに触れている人間には不服なときもある(^^;)

 

今作も親友との三角関係が主軸ということで、やっぱり読んでいるとモヤモヤしてしまうんですよね。
主人公で語り手の崇史は、親友の恋人に横恋慕することで智彦に嫉妬や憎しみを抱くようになるうちに足が不自由な彼に対し、自分が心の底では見下していたんだということに思い至っていきます。ついには智彦がハンディを持っているせいで麻由子が自分の元に来てくれないのだとまで。

麻由子はあいつに縛られている。
あいつが普通の身体なら、彼女もあいつと別れる決心がついたに違いない。だけどハンディキャップのあるあいつを捨てることが、彼女にはどうしてもできないのだ。
あいつはそういう彼女の優しさにつけこんでいる。
それをフルに利用して、彼女を得ようとしている。
あいつさえいなければ。
智彦さえいなければ。

これは智彦に黙って麻由子と関係を持った後の崇史の心境で、まったくもって得手勝手で酷いんですよ。端から見れば。

裏切っておいて、何もしていない智彦に殺意まで芽生えさせるほどに歪んでしまう。何よりも大切な親友だったはずなのに。まさに恋は人を狂わせるといった感じでしょうか。

崇史は作中の割と早い段階で「智彦との友情が壊れてもいい。仕方がない」と思い始めます。それほどまでに自分は麻由子のことをどうしても諦められない程に好きなんだと。あっさりと「友情」より「恋愛」を選んでしまおうとするのですが、麻由子は「大事なものを、どうして簡単に壊せるの?」と言って二人の「友情」を守ろうと、崇史に心引かれている素振りをさせつつも“誘い”を拒み続ける。(その態度がまた崇史の心をこじらせさせているんですが・・・)

 

「きっと、あなただって気がつくわ」と彼女は静かに続けた。「彼との友情を犠牲にするなんてこと、結局できないんだってことにね」

 

 

 

真相
智彦は二つのことに悩んでいました。一つは研究班の助手だった篠崎のこと。もう一つは麻由子のこと。

智彦の記憶パッケージ研究班では「記憶の改編」に成功していました。しかし、実験途中で篠崎が意識をなくして昏睡状態になるという事故が起こってしまった。上司の須藤らと共に篠崎の身体を隠し、昏睡状態から目覚める方法を模索する智彦でしたが、篠崎が昏睡してしまったのは自分が研究を進めることに必死で安全性を考慮しなかったためだと自責の念に駆られます。
そして、麻由子については彼女の気持ちが崇史のほうにむいていることに以前から気づき、早くあきらめなければと思っていました。だけど、どうしてもあきらめられないと悩んでいたのです。
悩み続けた結果、智彦は両方を同時に解決させる方法を見つけだします。自分が実験台になって篠崎の事故の再実験を行い、その結果を参考に須藤たちに昏睡状態から目覚める方法を開発してもらう。そして、自分は記憶改編システムを使って麻由子が恋人だったことを記憶から消し去り、昏睡状態になっている間に崇史と麻由子にも記憶を改編してもらって二人に恋人として結ばれてもらう。そうすれば昏睡から目覚めたとき、自分は心の底から二人を祝福出来るはずだ、と。

 

「恋」のために「友情」を犠牲にしようとした崇史に対し、智彦は自分の「記憶」と引き替えに「友情」を保つことを選んだのです。

 

促されて智彦の麻由子に関しての記憶改編を手伝ったのは崇史です。実験の最中に崇史は自分も麻由子を忘れるよう記憶改編をすれば良いのではないかと思いはしますが、恐怖が勝って尻込みします。
“記憶を変えるのは、自分を変えること”
並大抵の覚悟で決断できることではないのです。それでも智彦は崇史との友情を保とうとこのような方法を選んだ。
崇史は激しい後悔と悲しみ、感動に胸が締め付けられます。自分の弱さと愚かさを突き付けられ、智彦の強さを知るのです。


以前から麻由子は自分の恋人だったという「世界」は、崇史に施された記憶改編によるものでした。智彦の昏睡をうけ、麻由子がそうしようと言い出したのです。
すべてを忘れてやり直しましょう――。
と。
崇史は苦しみからその提案に乗ります。しかし、後になって須藤たちが智彦の研究データを探すも見付からず、昏睡の直前にデータを崇史に託したのではないかという事になります。記憶改編された崇史を監視するため、麻由子は崇史と同棲します。麻由子が希望したことでした。

 

 

 

 

結末
「友情を壊さないで」とか言っている麻由子ですけど、真相が解ってみると、見方によっては麻由子が一番酷いことしているんじゃないかって気がします。
ずっとあやふやな態度とって智彦との肉体関係を拒み続け、結局崇史と関係を持って裏切り、智彦が昏睡状態になったら今度は崇史と恋人として幸せそうに同棲生活とする・・・・・・・なんなんだいったい

 

ラスト、崇史は「俺は弱い人間だ」と言い、麻由子は「わたしもよ」と言ってこの物語りは終わります。
何かときれい事を言っていた麻由子でしたが、実際は行動が伴わずに事態を悪化させ、最終的には「崇史との恋人生活」という欲望に負けている。崇史だけじゃなく、麻由子の人間的な弱さも明るみになる訳です。

 


智彦と篠崎は無事昏睡から目覚められるのか?全てを知った崇史と麻由子はこの後どうなったのか?今作は解らずじまいで終わっています。


運命的に恋に落ちた二人ですが、たとえ智彦が無事昏睡から目覚めたとしても、やっぱり何事もなかったように晴れて恋人になるなんて道はないだろうとは思います。個人的にはそうじゃないと駄目でしょうと言いたい。読んでいて終始智彦にばかり同情してしまっていたので、欲に負けて勝手な行動ばかりとった二人には怒りばっかり感じていましたから。

でもわかってはいます。「恋」だから誰にどう言ってもしょうがないのだということは(^^;)

 

そんな訳で、『パラレルワールド・ラブストーリー』は“ラブストーリー”を改めて思い知らされるお話でした。「恋」のキラキラした部分じゃなくて、「恋」によって明るみになる人間の弱さが描かれているものですね。
もちろんミステリー部分も面白かったです。やっぱり東野圭吾作品は謎を紐解いていく過程が読んでいて愉しく、次々とページをめくることが出来ます。


映画で気になった、恋愛謎解き小説に興味がある方は是非。

 

 

 

 

ではではまた~

 

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