こんばんは、紫栞です。
今回は京極夏彦さんの『今昔百鬼拾遺 鬼』(こんじゃくひゃっきしゅうい おに)をご紹介。
あらすじ
「あ――そう、鬼の因縁だとか云っていました」
昭和29年3月、駒沢野球場周辺では「昭和の辻斬り事件」と呼ばれる日本刀を使った連続通り魔事件が発生。容疑者は捕まり、事件は収束に向かっていたが、最後の七人目の被害者・片倉ハル子は殺害される以前から学院の後輩だった呉美由紀に「先祖代代、片倉家の女は斬り殺される定めだ」と云い、自らの“女が斬り殺される家系”を畏れていたらしい。
自分が被害者になることを予見していたかのような生前のハル子の発言に疑問を持った呉美由紀から事件の相談を受けた「奇譚月報」の記者・中禅寺敦子は調査に乗り出す。
調査する先々で耳にするのは「鬼の因縁」、そして「鬼の刀」。片倉家の家系を辿っていくうち、敦子と美由紀の二人はとんでもない“因果”を目の当たりにするのだが――。
百鬼夜行シリーズ!新作!
2019年4月19日に出ました~【百鬼夜行シリーズ】最新作!
サイドストーリーズの『百鬼夜行-陽』から数えるなら七年ぶり、
長編で数えるなら『邪魅の雫』以来十三年ぶりの新作となります。
もう発売を知ってから楽しみでそわそわしていました。こうして無事(?)読めて嬉しい限りです(^^)
今作『今昔百鬼拾遺 鬼』は正確にいうと【百鬼夜行シリーズ】のスピンオフ的作品で、昨年2018年に行われた三社横断京極夏彦新刊祭り・「三京祭」の期間限定サイトで公開されていたお話の書籍化です。講談社の『鉄鼠の檻 愛蔵版』、
角川の『虚談』、
新潮社の『ヒトごろし』
をそれぞれ購入し、各単行本の帯についているパスワードを全て集めると読めるという代物でした。
私は『虚談』と『ヒトごろし』は購入したものの、『鉄鼠の檻 愛蔵版』は田舎で直接目にすることも叶わずに買わずじまいだったので(ネットで買えるんですけど、お高いので実物を見ないまま購入は気が引けてしまった^^;)、こんなに早く書籍化してくれるとは思っていなかった分、嬉しさ爆発です。
このスピンオフ『今昔百鬼拾遺』はどうやら中禅寺敦子が主役のシリーズもので、昨年同様に三ヶ月連続で刊行されるのですが、なんと、同じシリーズなのに三社別々のところから刊行されます。
今作の「鬼」は講談社タイガからで、5月24日に「河童」が角川文庫から、
6月26日には「天狗」が新潮文庫から
刊行されます。
同じシリーズなのに何故こんな刊行に?と、ちょっとややこしい感じになっていますが、三社横断企画のサイトで公開されていたものなので、ケンカしないようにってことなんですかね(^_^;)
すべて文庫での刊行ということで講談社からは講談社タイガでの刊行。創立のときに作家一覧に名前を連ねていたのに長年刊行されずじまいだった“アレ”です。
個人的に講談社ではもう百鬼夜行シリーズは書かないのだと思っていたので、ちょっと驚きでした。スピンオフだからいいのかな?
※2020年に「鬼」「河童」「天狗」の三作を一冊にまとめたものが講談社からノベルス・文庫と『今昔百鬼拾遺 月』として刊行されました。↓
いや、結局講談社からまとめて出すんかい。
どうなってんのでしょう。大人の事情は。講談社と【百鬼夜行シリーズ】はどんなことになってるのよ今のところ。
ま、シリーズファンとしては講談社ノベルスと本の分厚さに愛着があるので嬉しいは嬉しいですけどね。
『今昔百鬼拾遺』は三作とも表紙に使われているモデルは今「福岡一の美少女」と話題の女優・今田美桜さんです。
・・・・・・三作ともお面被っていて顔が写っていないのですが。
なんという“かわいい”の無駄遣い。少なくとも今作の「鬼」では表紙以外の写真でも顔が隠れているので意味不明の試みに驚きです。著者の京極さんも驚いていましたね。
登場人物
『今昔百鬼拾遺』は敦子と、『格新婦の理』に登場した呉美由紀の二人が事件を追う役割を担ったシリーズです。
この記事↓
でも書いたように、私は呉美由紀ちゃんの再登場を熱望しておりましたので、これもまた嬉しさ爆発。ありがとうございます!ですね(^o^)
呉美由紀は『格新婦の理』での事件後、閉鎖された「聖ベルナール女学院」理事長代理の鈍感で楽観的な正義漢の柴田の便宜でまた全寮制の女学院に編入しています。最初は中禅寺か榎木津に相談しようと思っていたものの、両者とも例によって旅行中に起きた事件に関わっている最中で不在。※栃木に行っているらしい(おお!?)
それで妹の敦子におはちが回ってきたという訳です。
敦子と美由紀ちゃんの組み合わせって予想していなかったんですが、属性が同じ?というか、何というか、云われてみれば馬が合いそうな組み合わせですね。敦子の方が論理的で、美由紀ちゃんの方が爆発力(?)がありますけど。
他、【百鬼夜行シリーズ】からは鳥口守彦が登場します。敦子が調べ物の際に頼るという流れです。こういう協力をするから兄の中禅寺秋彦に「妹を誑かす不届き者」扱いをされるんですが(^^;)
鳥口といえば、『塗仏の宴』
以降の『陰摩羅鬼の瑕』『邪魅の雫』と二作続けて不在で、スピンオフの『百鬼徒然袋』
でチョロと登場したぐらいで音沙汰なしでしたので、ファンの間では登場を熱望されていた一人。登場して嬉しいですが、予定されている本命シリーズの長編・栃木で起こる『鵺の碑』にはやっぱり置いてけぼりをくらっているみたいで残念です。大作に出られないぶん、この『今昔百鬼拾遺』には多く登場して欲しいものですね。今作「鬼」ではやっぱり少ししか登場していませんが・・・。
シリーズの空気感もそうですが、敦子や鳥口にしろ、十年以上ぶりに書いているとはまったく思えないくらいに前作との齟齬がありません。間隔開けずにずっと書き続けてきたかのようです。呉美由紀に至っては二十年以上前に登場したきりのキャラクターなんですけどね。この“しれっ”とした感じが逆に凄まじく思える。流石。
後、青木の紹介で玉川署刑事課捜査一係の刑事・賀川太一が登場します。見た目が子供っぽく、思ったことをどんどん口走っちゃうなかなか愉快な刑事さんで楽しいです。次作の「河童」や「天狗」にも出て来るのかな?
青木は名前のみの登場でしたね。敦子視点だと青木も鳥口もてんで意識されてないなと何か気の毒になってくる。脈なしなのかな、やっぱり(^_^;)
リンク
今作は期間限定サイトで公開される前から触れ込みとして『虚談』と『ヒトごろし』にリンクした物語りだとなっていました。
個人的に“リンクした”とはいってもすこ~し関係するだけかな~と侮って(?)いたのですが、もうリンクもリンク、今作の事件の大元にめちゃくちゃ関わってくるお話になっていました。
『虚談』の方は収録されている短編の「ちくら」とリンクしているのですが、
『ヒトごろし』の方はもうガッツリですね。
もはや今作は『ヒトごろし』の後日談レベルです。
“鬼の刀”と出て来るあたりから「お?」ですね。まさか“あの刀”やお涼があんなことになっていたとは・・・・。
事件の真相と相まって『ヒトごろし』を読んだ人にはさまざまな思いが去来するお話になっています。単体でも愉しめる作りにはなっていますが、『ヒトごろし』を読んだなら後に必ず読むべきお話で、絶対にセットで愉しむべきだと思います。順序が逆になっても然り。『ヒトごろし』の単行本はぶ厚くって見るだけで心が折れるかもですが、最近電子書籍版も出たので是非・・・・・・!↓
この本の素晴らしさについて、詳しくはこちら↓
我ながら長々書いた・・・(^^;)
美由紀ちゃんが登場しているので、もちろん『格新婦の理』も読んでおいた方が良いですね。京極夏彦作品は全部が全部なんかしら繋がっているので云っていくとキリがないですが・・・。
ライトじゃない
今作は講談社タイガからの刊行とあって、ページ数も250ページぐらいと百鬼夜行シリーズとは思えぬほどに薄いです(一応長編となっていますけどね。レンガ本になれているファンは短編のように感じてしまう)。じゃあ内容もライトなのかというと全然ライトじゃないんですけど。
ところどころクスリとする部分はありますが、他のスピンオフの『百鬼徒然袋』や『今昔続百鬼-雲』
みたいなコミカルよりではなく、扱っている事件自体はだいぶ重くて雰囲気も本来の百鬼夜行シリーズに近いです。妖怪のウンチクとかは入らないですが、因縁や妄信に囚われてしまった人々が描かれるミステリというのはこのシリーズ独自のものですね。
『今昔百鬼拾遺 鬼』では謎解き役を敦子が担っています。作中、美由紀ちゃんに何度も「お兄さんに似ていますね」と云われていますね。どうやら美由紀ちゃんは『格新婦の理』での憑物落としに感銘を受けたらしく、あの中禅寺の理路整然としたしゃべりを見習いたいらしいです。で、敦子に何度も「やめとけ」云われてる(笑)
謎解きはしませんが、美由紀ちゃんは終盤で思いがけない活躍をします。「どちらかと云うと探偵さんの影響が濃い」ですね。
とりあえず、美由紀ちゃん最高。惚れ直しました(^o^)
久しぶりすぎる百鬼夜行シリーズの新作、期待通りの面白さで一気読みでした。もう読み終わった直後から「今すぐ次作読みたい!」とウズウズしております。
次作の『今昔百鬼拾遺 河童』は5月24日発売。待ち遠しいです!
※出ました!読みました!詳しくはこちら↓
ではではまた~