夜ふかし閑談

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ルパンの娘 原作小説のあらすじ・内容ネタバレ ドラマとはまったくの別物?

こんばんは、紫栞です。
今回は横関大さんの『ルパンの娘』をご紹介。

ルパンの娘 (講談社文庫)

2019年7月11日から放送予定の連続ドラマの原作本ですね。

 

あらすじ
三雲華はある日突然恋人の桜庭数馬の家に挨拶に行くことに。結婚を意識していたとはいえ急な展開に緊張しつつも桜庭家を訪れた華だったが、到着早々、桜庭家の玄関に飾られていた家族写真を見て愕然とする。全員が警察の制服らしき服装に身を包み、それぞれ敬礼のポーズをしている写真だった。桜庭家は代々警察官を輩出してきた家系で今の家族は全員が警察関係者であり、公務員だと言っていた数馬自身も実は警視庁捜査一課の刑事であるという。
まったくどうしたものやら・・・。
華は途方に暮れてしまう。警察官一家の桜庭家と自分の三雲家では釣り合いがとれるとれない以前の問題だった。華自身は平凡な図書館司書であるが、三雲家は代々泥棒を生業とする家柄であり、今も華以外は家族全員が泥棒なのだ。
そんな中、荒川の河川敷で顔を潰された遺体が発見され、数馬はこの事件の捜査にあたることに。この遺体の主は華の祖父で伝説のスリ師・三雲巌だった。数馬も華もそれぞれに事件の謎を追うが――。
巌を殺した犯人は誰なのか?そして泥棒の娘と刑事の息子、報われない二人の恋の行方は?

 

 

 

 

珍妙なロミオ&ジュリエット
横関大さんは2010年に『再会』第56回江戸川乱歩賞を受賞して作家デビューされているミステリ作家さん。横関さんの作品を読むのは初めてなのですが、ドラマ化の情報を知って楽しそうな設定なので読んでみました。

著作が映像化されるのは受賞作でデビュー作の『再会』が2012年にフジテレビ系の土曜プレミアム枠で放送されて以来だそうです。

 

再会 (講談社文庫)

再会 (講談社文庫)

 

 

泥棒一家の娘と警察一家の息子の恋の行方・・・・・・・。当然のように前途多難でどんなロミジュリだよって感じなんですが、このあり得ない設定を活かしてコミカルにミステリが展開されていき、終盤には読者の期待通りのド派手な大団円が待ち構えているという、読んでいて気分の良い娯楽作品。恋愛小説で、家族小説で、ミステリ小説であるといった欲張りな作品でもあります。
題名の『ルパンの娘』というのは三雲家が「Lの一族」と呼ばれていることに由来していて、“L”というのがアルセーヌ・ルパンから取っての名称なので“ルパンの娘”。別にアルセーヌ・ルパンと何らかの関わりがあるという訳ではないので勘違いしないように注意(?)。

 

 

 


ドラマ
ドラマは2019年7月11日からフジテレビ系木曜劇場で放送予定。演出を担当されるのはのだめカンタービレ』『テルマエ・ロマエ』『翔んで埼玉』などを手掛けた武内英樹さんということで、コメディ一直線な楽しいドラマに仕上がるのではないかと。原作には無いアクションやミュージック要素(!?)まで入るらしいです。とにかく娯楽に特化したドラマになりそうな予感。

 

キャスト

三雲家
三雲華深田恭子
三雲尊(華の父。美術品専門の泥棒)-渡部篤郎
三雲悦子(華の母。宝飾品専門の泥棒)-小沢真珠
三雲渉(華の兄。ハッカー)-栗原類
三雲マツ(華の祖母。鍵師)-どんぐり
三雲巌(華の祖父。スリ師)-麿赤兒

桜庭家
桜庭数馬瀬戸康史
桜庭典和(数馬の父。警視庁警備部勤務)-信太昌之
桜庭美佐子(数馬の母。鑑識課の非常勤職員)-マルシア
新谷香(数馬の妹。交通課勤務)-さとうほなみ
桜庭和一(数馬の祖父)-藤岡弘


巻栄一(数馬の先輩刑事)-加藤諒

円城寺輝大貫勇輔

 


はい。このキャスト一覧を見るとまず気になるのが役柄と役者さんとの年齢の齟齬ですよね。

得に気になるのは三雲家でを演じる深田恭子さん現在の実年齢36歳。その母役の小沢真珠さんが42歳。役の栗原類さんが24歳・・・・・・家族の設定としては明らかに可笑しいですね。一応原作では母の悦子は五十代だが見た目は三十代に見えるという設定ではあるのですが・・・。
ドラマでの華は何歳設定なのでしょう?原作では華は25歳で恋人の数馬(瀬戸康史)は華の三つ年上の28歳という設定なんですけどね。


これはもう舞台演劇のように与えられた設定を飲み込んで役者の実年齢などには囚われずに鑑賞しろということなんでしょうか。

 

ドラマの公式サイトを見る限り、泥棒一家の娘と刑事の息子のラブコメディという設定を原作から頂いて別の娯楽作品に作り替える感じなんじゃないかなぁと思います。原作というより“原案”。
ドラマは人一倍盗みの技術はあるもののカタギの道を歩んでいる華が恋人の刑事・数馬を助ける為に毎回結果的に影で泥棒の手伝いをするといったストーリー展開なんだそうです。
数馬は捜査三課所属で窃盗事件捜査の中でいつも三雲家と関わってしまうという流れらしい。

原作では華は気を抜いていると無意識で財布をすってしまうといったことをするぐらいで(それもどうかと思いますけど)具体的に盗みに入るシーンはありませんし、小説内で追っている事件はあくまで祖父・三雲巌が殺された事件のみですので、そんなバラエティに富んだ窃盗事件は登場しません。そもそも原作での数馬は捜査一課所属で殺しの捜査が専門なので窃盗事件には関わらないんですよね。


なので何かと話題になっている泥棒スーツも原作ではもちろん着ないんですけど。ドラマのポスターは完全に泥棒活劇の映画。
でも、この設定変更はエンターテインメントとして面白そうですよね。連続ドラマでやるならこの方が楽しそう。原作以上のコミカルな作品に期待です。

 

他、数馬の妹の(さとうほなみ)はドラマでは既婚者設定のようですが原作ではバリバリ独身で、身体を鍛えてばかりいる男勝りな女性。最初は華に対して悪感情を抱いていたものの、一回華と飲みに行ってからは数馬と華の結婚を全力で応援してくれるようになるという原作の中でも特に魅力的な人物で私も一番好きなキャラクターなんですが、ドラマだと性格とかも変更されちゃいそうですかね(^^;)


円城寺輝(大貫勇輔)はドラマ完全オリジナルキャラクター。華の幼馴染みで大泥棒。華に想いを寄せていて何とか数馬から奪おうと画策するキャラクターなんだそうな。

気になるのは原作でのキーパーソンである元警察犬訓練士で数馬の祖母・桜庭伸枝がキャスト一覧に紹介されていないことですね。元警察犬の桜庭家の飼い犬・ドンの存在も公式サイトで紹介されていないのはどうしたことなのか・・・。伸枝が不在となると原作での事件の成り立ちがガラッと変わってしまうのですが・・・遅れて紹介なんでしょうか?

 

 

 

 

 

 

 

以下ネタバレ~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


内容
小説は全四章。
華の苦悩をよそに何も知らぬ数馬と泥棒一家と警察一家で仲良く結婚に向けてとんとん拍子に進んでいく中、第二章の途中で数馬が華の祖父が殺された事件を捜査している中で華の素性を知ってしまい、第三章で結婚話はご破算になって華の両親は窃盗事件で指名手配となり、三雲家は一家離散に。最後の第四章で別の相手との見合い結婚を決めた数馬を三雲家一同で盗もうという「花婿強奪計画」を実行。そんな中で数馬は華の祖父が殺された事件の真相に気がつき、三雲家と一席ぶって犯人を罠にはめる――。
と、いった流れ。

 

語り手は華と数馬が交互。章とか関係なく5・6ページおきに目まぐるしく語りが替わるので、シンプルながらも500ページと結構な分量がある本ですが飽きずにズンズンと読む事が出来ます。

 

両家の顔合わせで両家が互いの素性を知らないままに思いがけず仲良くなってしまうところが面白いです。また登場する家族達が個性豊かで楽しいんですよね。なので、正体がばれてしまった時は「あーあ」って感じでした。
警察一家の息子と泥棒一家の娘で“ロミオとジュリエット”設定ではありますが、当人の華と数馬は互いの素性を知ってからは早々に“あきらめムード”になって第三章ではすぐに結婚はご破算になってしまうので、ロミオとジュリエットほど熱量がないのが何だか肩透かし。数馬の妹の香や祖父の和一は一生懸命に華の味方をしているってのに・・・。四章では早々に他の人との結婚を決めているし・・・ちょっとモヤモヤ(^^;)
主要二人の恋愛部分に熱を感じられないぶん、家族の面々が際立っているので恋愛小説の要素より家族小説の印象の方が強くなっているかなと思います。

 

 


結末
事件の犯人は数馬の先輩刑事・巻栄一。殺された華の祖父・巌は数馬の祖父・和一と祖母・伸枝と大学生時代の同級生で、巌が伸枝を家に送っていく途中で強姦目的の男に襲われ、未遂に終わったものの、伸枝は顔に一生消えない傷が出来てしまうという事件が発生。巌は長年この事件の犯人を追っており、やっと突き止めた人物は元警察上層部の巻の祖父。巻は祖父に頼まれて脅して口封じしようとするも、勢い余って殺害してしまったという真相。

しかし、この真相には続きがあって、実は顔を潰された遺体の主は巌が影武者として使っていた男で、巌は生きていた。最後に家族と合流して皆と幸せそうに過ごしています。華と数馬も両家の了承が取れて立場上結婚とはいけないまでも一緒に暮らして(実際には同棲相手も内部調査されるはずだから無理ではとは思いますが)新しい命を授かっています。

 

なんという大団円。これ以上ないほどのハッピーエンドですね。

 

 


いろいろ言いたい
こんな読者の期待通りの結末を迎える今作ですが、設定が設定なのだから多少のご都合主義には目をつむるべきだろうとは思いつつも、やっぱり色々と言いたいところがチラホラリ。

まず、数馬ですが、華が住んでいると偽っていた自宅の近隣住民に思いつきで事件捜査のために手にしていた巌の写真を見せて華の素性を知ることになるというのは都合が良すぎて解せないです。方やプライベート、方や事件捜査と二つの事柄にはこの時点では接点を見出しようもないのにこの行動は納得がいかないですね。

巻が犯人だろうというのは事件現場に行く前にトイレに寄っていく描写が何故か入っていることから読者は予想がつくのですが、犯人だとする根拠がこれだけだというのもミステリとしては少し足りないような気がしてしまいます。
巌が実は死んでいないというのも本格推理小説界の定説「顔が解らぬ死体=被害者偽装トリック」というので王道中の王道ではありますが、無理やりというかやり過ぎ感は否めないですね。

あと、巌さん、強姦未遂の犯人を突き止めるのに50年って、時間かかりすぎてやしないか。

 

個人的には個性豊かな家族の面々に比べて肝心の主役二人、華と数馬が魅力に欠けているように感じてしまうのが読んでいて少しネックでした。
恋愛部分の熱量が足りないとは上記した通りですが、華は三雲家に不平不満を抱きつつもハッキリした態度を示さずに流されてばかり。何故周りの人々にあんなに好かれているのかよくわからないんですよね。
数馬はあんなに結婚したがっていたのに華の素性を知ってすぐに諦めてやけくそで他の相手と結婚を決断したかと思いきや事が終わると「やっぱり華が好きだ」って・・・なんとも薄っぺらな。打算的な婚約者ではありますが、公の場であんな目に遭わせてしまうのはやはり気の毒だよなぁと女性としては思ってしまいます。この婚約者は別に何も悪いことしていないのに・・・・・・。

 

 

 

 

楽しめれば良い
と、思わず愚痴っぽく書いてしまいましたが(^^;)
これはエンタメとして細かいことや深いことは気にせずに振り切って楽しむべき作品なんだと思います。警察一家と泥棒一家という設定を生かした結婚式での結末は「やっぱりこうでなくちゃ」といった爽快感に溢れていてこの作品、この設定ならではの大団円で読者を気持ちよく満足させてくれますので、ドラマ化で気になった方は是非是非。

 

ルパンの娘 (講談社文庫)

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ルパンの帰還 (講談社文庫)

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ではではまた~