こんばんは、紫栞です。
今回は本多孝好さんの『dele3』の紹介と感想を少し。
待望!
2018年放送のドラマとの連動企画で書かれた原作(原案)小説【dele】のシリーズ第3弾です。
続いてくれましたね・・・!歓喜です。
『dele2』で思いがけない展開になって祐太朗が事務所を去り、切なくも感動のラストを迎えていたので続編は望み薄かと思っていたのですが、(※1・2の詳細につきましてはこちら↓)
2019年6月にめでたく『dele3』が発売されました。
祐太朗と圭司がまた一緒に働く姿を熱望していたので、あのラストから続いてくれたのは読者として本当に嬉しいです。熱望していたくせに発売されたのに気づかずに読むのが遅くなってしまいましたが(^^;)。やはり小説の刊行情報はこまめにチェックしないとダメですね・・・。
ドラマの最終回が小説と違って祐太朗が事務所に残ることを選んでの終わりだったので、ひょっとしたら小説の方も続いてくれる・・・・・・?と淡い期待をしていたのですが、それが現実のものに。
ドラマはドラマで小説とは違う独自の展開をしていて、それはそれで面白かったですね。完成度の高い良いドラマでした。個人的にドラマも続編希望です。
dele(ディーリー)Blu-ray PREMIUM "undeleted" EDITION【8枚組】
- 出版社/メーカー: KADOKAWA / 角川書店
- 発売日: 2019/01/30
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今回は最初から文庫での刊行で「リターン・ジャーニー」と「スタンド・アローン」の二編収録。
では順番にご紹介。
●「リターン・ジャーニー」
あらすじ
死後、誰にも見られたくないデータを故人に代わってデバイスから削除する会社・『dele.LEFT』の所長である坂上圭司がある日突然姿を消した。
圭司の姉・坂上舞から事情を聞いた真柴祐太朗は、かつての勤務先であった『dele.LEFT』の事務所を訪れるが、圭司の机の上には今までに見覚えのないパソコンが置かれており、ディスプレイ画面には四桁の暗証番号が要求されていた。
このパソコンの中に圭司の失踪に繋がる何らかの手掛かりが残されているのではないかと考えた祐太朗はデジタルに関する知識が豊富な中学生・堂本ナナミの元を訪れる。
舞とナナミ、祐太朗の三人でパソコンに入っていたファイルの情報から圭司の行方を追うが、そのファイル内容は得体の知れぬ陰謀へと繋がっていて――。
職場復帰
どうです、この展開。何かワクワクしますよね(笑)。
『dele2』で祐太朗が事務所を去ってから四ヶ月ほど経っている設定です。意外とそこまで経っていないんだなとちょっと拍子抜けしつつも安堵。あれからもう一、二年程の月日が流れた~とか言ってくるのかっていう気になっていたので。前作での最後の「期限のない約束~」とか「いつか遠くない未来に・・・・・・」などの言い回しの雰囲気的にそうかと。ま、祐太朗が思っていたよりも早く“その時”が来たってことなんですね。良かった良かった。
前作でのあのラストからどう繋げるのかな~と思っていたらケイが失踪するところからのスタート。
『dele2』に収録されている「ファントム・ガールズ」
に登場したデジタルの凄腕で登校拒否女子中学生の堂本ナナミが再登場。ケイとデジタル上で張り合うほどの腕をもった女子中学生という“只者じゃない”キャラクターで、一話のみにしか出て来ないの勿体ないなとか読んだときは思ったものですが、まさかの再登場です。かなり活躍してくれています。ナナミちゃんがいなかったらこのお話はにっちもさっちもいかなかったですね。
以下ネタバレ注意~
祐太朗がケイの行方を追うという形式でお話が展開していくので、ケイは終盤まで姿を現しません。暗証番号が設定されたパソコンを置いて失踪というところからしてそうですが、他にも色々と不吉な事柄がチラホラしてくるので、終始、ケイの安否にハラハラ。どう展開してもおかしくないシリーズですからねぇ。死なすことも十分考えられる訳で・・・(^_^;)。
しかし、読者の期待通りの立ち振る舞いで無事生きて登場してくれて「おお、キタ」と興奮、そして、安心しました。ホント良かった・・・。
色々とあったケイと祐太朗の二人ですが、再会した途端に前と変わらぬ調子でやり取りしているのにニンマリ。
今回のゴタゴタの末、なんやかんやで自然と祐太朗は『dele.LIFE』に戻ってくることに。いったん辞めていたというより、ケイの「また連絡する」の言葉通り、少~し、四ヶ月間休職していただけって感じですね、状況的には。まあ祐太朗も「辞める」とハッキリ宣言した訳じゃなかったですしねぇ・・・。
夏目(ミツメ)
今までの作中でも度々名前が挙がっていたケイの大学の先輩で『dele.LIFE』の元従業員「夏目」が今作では深く関係してきます。
夏目は”クラッキングに関してはウィザード級を超えてルシファー級だと評される“そっちの世界”では「ミツメ」という通称で呼ばれ、ほとんど伝説みたいな扱いをされている有名人。
・・・と、いう、よく分からないけどとりあえず何とも凄そうな人物として『dele2』収録の「チェイシング・シャドウズ」で語られていました。祐太朗の妹絡みの事件にも関わっていた人物です。
これまでは名前が出て来るだけで実際に登場はしなかったのですが、このお話の終盤で電話ごしの会話という形で登場します。相変わらず性別も年齢もハッキリとは解らずじまいですけどね。
ケイはいつまでも裏で暗躍し続ける「夏目」を表舞台に引きずり出そうと行動していたのですが、国益のため「夏目」の存在を隠しておきたい国の連中に邪魔をされて捕まってしまった。実は『dele.LIFE』の事務所にパソコンを置いたのは「夏目」で、捕まったケイを逃がすために祐太朗たちを巻き込んで色々と画策したというのが事の真相。
「夏目」は今現在、国家権力とつるんで「正しい愛国者を作るための世論形成」をしているところなんだとか。「夏目」としてはそれを名目に国家権力を利用して人間観察をすることが真の目的なんですけどね。
「一つの情報が、受け手にどんな影響を与えるのか。そういうことに病的に興味がある」
と前作でもケイの口から語られていました。
ケイを祐太朗たちの手を使って連中から逃がしたものの、「夏目」には表舞台に出て来る気も、今している“観察”も辞めるつもりはサラサラないようです。
表面上だけ見ると、人々の意思を好き勝手に操作して高みの見物を決め込んでいる化け物のような人物に思えてきますが、ケイは「夏目」に対しては簡単な敵意だけではなく複雑な思いを抱いているようです。“表舞台に引きずり出す”というのは最初からダメ元で、本当の目的は一言文句を言うことと、一言「俺が見ているってことを」伝える為でした。
「化け物を作るのは、本人の超人的な才能でもなければ、強力な権力による圧力でもない」
「あー、それじゃ、何?」
「孤独だよ」
「孤独」と祐太朗は言った。
「放っておくと、本当に化け物になる気がしてな」
誰かが自分の行いを見ていると思えるだけで気持ちの安定が保てるというのは、様々な宗教や何やらにも見られるあり方ですね。大袈裟なことじゃなくっても、「人道から外れることをすれば罰が当たる。神様が見ているから」と、少しでも思って罪悪感を生じることが出来れば“歯止め”になる。具体的に、より身近に見守ってくれる人がいるなら、それは強固なものとなりますよね。
「夏目」はケイのこの想いに気づいてくれているのかどうなのか・・・。祐太朗の妹絡みの事件が終わり、今度は「夏目」絡みでの大きな流れに物語りは動きそうな気配です。一気に話が世界規模のものになったのでちょっと戸惑いましたがね(^^;)。
●「スタンド・アローン」
あらすじ
誰に対しても優しく、いつも楽しそうで、クラスで誰よりも慕われていた女子中学生・蕗田唯が自殺した。
彼女は死ぬ前に『dele.LIFE』にデータ削除の依頼をしていたのだが、父親のクレジット名義で契約していること、依頼人が未成年者であることから、所長の圭司は契約不成立だとしてデータの削除は行わず、金も依頼人の父親に返金し事情を説明するという。
それでは『dele.LIFE』に託した依頼人の思いを裏切ることになると、祐太朗とナナミの二人は蕗田唯が通学していた中学校まで赴き級友達などに話を聞いてまわるが――。
通常モード
「リターン・ジャーニー」で大騒ぎした後に収録されているのがこちら。
国家権力だなんだとスケールがでかく、映画のような大立ち回りをした「リターン・ジャーニー」ですが、この「スタンド・アローン」はこのシリーズの通常運転というか、依頼が来て、死亡確認して~という流れで、データに残された秘密や想いが意外な真相と共に明かされるといった“記憶と記録のミステリ”が展開されています。
祐太朗が『dele.LIFE』に戻って三日後の出来事として描かれており、引き続き登校拒否女子中学生・ナナミちゃんが事務所に居座っています。中学三年生とあって、ナナミちゃんなりに進路に思い悩んでいるようで、何というか社会見学(?)で、しばらくいるということに。
買った当初や読んでいる最中は「今作は何でこの二編を収録なんだろう?お話の雰囲気も違うし、どうせなら短編集として後一編くらい足して刊行すればいいのに」とか思ったのですが、読み終わってみると納得。「リターン・ジャーニー」も「スタンド・アローン」もナナミちゃんの成長が描かれているので、この二編はセットで読むべきもので他の一編を足したらかえって纏まりが悪くなるのですね。
「スタンド・アローン」で自殺した依頼人の唯はナナミちゃんと同じ中学三年生だったということで、同学年の女子なら学校周辺で話を聞き回っても怪しまれないだろうとナナミちゃんがもっぱら聞き出し役になっています。祐太朗は「妹が心配で付き添っている兄」設定であまり口出しせずにナナミちゃんに会話を任せています。
同学年の唯の残された友人達と会話していく中でナナミちゃんの中で変化が生じていきますね。大人びすぎた、肝が据わりまくった子でしたが、このお話の終盤ではやっと本来の中学生らしい顔に。
このまま学校に行かずに『dele.LIFE』の一員として事務所に居座り続けるのかな~とか思ったのですが、学校に登校する決意をして「またきますよ」と事務所を去っていきます。また再登場しそうですね。
クラッカー
デジタル上じゃなく、生身の同級生と真っ直ぐに向き合ったからというのもありますが、ナナミちゃんを変えたのは祐太朗によるところが大きいようです。
「スタンド・アローン」で最後に解る事の真相はとても苦々しいものでした。
相手の中に入っていって、そこにしまってある声を聞ける人だったという蕗田唯。彼女の前では皆が素直になり、大事な何か、秘めた想いを話していた。聞いている唯のことは無視で、皆が好き勝手に。
負の感情もありのままに話してくる周りに、何に対しても本気で向き合うことしか出来なかった蕗田唯は聞き役として耐えられなくなってパンクした。親友や両親も内心悲鳴を上げている彼女に気づかず、自殺しても自分たちがした仕打ちに思い当たらずに「わからない、わからない」と嘆いている。
ナナミちゃん曰く、祐太朗のように相手の思惑なんかにお構いなく、ずかずかと中に入っていく人がそばに居たなら、蕗田唯もきっと死ななかっただろうと。だから自分も自分がいるべき場所でそれをやってみると。
「確かにお前は暴力的なクラッカーだ」
「あー、え?」
「パスワードも、プロトコルもお構いなしに、堂本ナナミの中に入っていって、彼女を変えた」
「いや、そんなつもりはなかったけど」
「悪意のないクラッカーか。一番タチが悪い」
と、ケイも言っています。
ケイも祐太朗に変えられた一人なのでこのように言い表す訳ですが。「リターン・ジャーニー」での行動も祐太朗に出会ってなければしなかったでしょうし。コレについては「夏目」も、自分よりも祐太朗の方がケイを劇的に変えたのが気に入らなくって嫉妬したと言っていました。“情報”って言い方していたんですけども。
今後
「夏目」は「戻ったところで、前の時ほど楽しくもないし刺激的でもない。それとも、変化を止めた怠惰な次巻の中でほのぼのとした余生をすごす?」と言っていますが、祐太朗もケイも一緒に仕事をこなしていく中でまだまだ互いから影響を受けて変化し続けていくと思います。データと違って、生き物というのは“情報”だけにとどまるモノではないですからね。個人的には「ほのぼのとした余生」のなにが悪いって感じですが。
二人の変化も「夏目」の今後も気になりますし、また続きが待ち遠しいです。
もう勝手にシリーズ続くもんだと決めつけているのですが・・・え?続く・・・よね?だって「夏目」関連がまだちゃんと終結してないし・・・。
今作『dele3』の繋げかたは見事でした。無理に繋げたんじゃなく、著者の中では当初からの決まった流れだったのではないかと思います。前作からの伏線の回収が確りされていて、“後付け感”がまったくなかったですからね。
ドラマ化で気になって読み始めたシリーズですが、私の中では今後も読み続けたい大事なシリーズとなりました。
『dele4』、お待ちしております!
ではではまた~