夜ふかし閑談

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六番目の小夜子 ネタバレ・解説 夏のオススメ本~⑥

こんばんは、紫栞です。
今回は久しぶりに夏のオススメ本で恩田陸さんの六番目の小夜子を紹介したいと思います。

六番目の小夜子(新潮文庫)

 

あらすじ
私たちの高校にはある奇妙な『行事』がある。
三年に一度、“サヨコ”と呼ばれる生徒が指名される。指名をするのは前回の“サヨコ”で、他の生徒には誰が“サヨコ”なのかは分からない。引き継がれるのは卒業式当日の在校生が卒業生に花束を渡す時で、そのメッセージを受け取った者は“サヨコ”になることを承知したという証に、四月の始業式の朝、自分の教室に赤い花を決められた花瓶に活けなければならない。赤い花が活けられた瞬間から『ゲーム』は始まる。
“サヨコ”は誰にも自分が“サヨコ”だと悟られることなく、文化祭で「小夜子」という女の子が出て来る芝居をやりとげられれば“勝ち”。それがその年の“吉きしるし”となり、学内での大学合格率が非常に良くなるという。
いつ、誰が始めたのかは正確には分からない。だがこの『行事』は十数年間にわたり続けられてきた。
そして、私たちの卒業するその年は「六番目のサヨコ」の年。
しかし、謎めいた美少女・津村沙世子が“サヨコのクラス”に転校してきたことで、「サヨコ伝説」は思わぬ事件を引き起すこととなった――。
「小夜子」を巡る、私たちの卒業までの一年間の物語り。

 

 

 

 

 


デビュー作
六番目の小夜子』は奥田陸さんの初作品でデビュー作。新潮社の第三回ファンタジーノベル大賞の候補となり、1992年に文庫として刊行されたもののすぐに絶版。

 

六番目の小夜子 (新潮文庫―ファンタジーノベル・シリーズ)

六番目の小夜子 (新潮文庫―ファンタジーノベル・シリーズ)

 

 

しかしその後、口コミなどで評判になり、大幅な加筆がされて1998年に単行本として改めて刊行された希有な作品。
こういった刊行経緯は桜庭一樹さんの砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけないに似ていますね。

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作家の綾辻行人さん・小野不由美さん夫婦は、『六番目の小夜子』を熱心に宣伝し世に広めた立役者であるとのこと。私は2000年刊行の文庫で読んだのですが、

 

六番目の小夜子 (新潮文庫)

六番目の小夜子 (新潮文庫)

 

 

98年の単行本には綾辻さんの解説が収録されているらしいです。

 

六番目の小夜子

六番目の小夜子

 

 

あと、綾辻さんは『Another』を書く際、『六番目の小夜子』のイメージを参考にしたとあとがきで書かれていますね。

 

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確かに世界観や雰囲気は共通する部分がありますので『Another』が好きな人にはオススメです。『Another』はこの作品とは比較にならないほど血みどろなホラーミステリですけどね・・・(^_^;)。

 

 


ドラマ
私は未視聴なんですが、『六番目の小夜子』は2000年にNHKドラマ愛の詩】という学生向けの枠で放送されていたドラマで一般に広く知られているようです。
もともと、このドラマ枠の前身的な枠NHKの【少年ドラマシリーズ】へのオマージュとしてこの作品を書かれたとのことで、まさに“おあつらえ向き”なドラマ化だったのではと思います。
このドラマでは主役の女の子がドラマオリジナルキャラクターだったり、高校生から中学生の設定になっていたり、人物関係も話の展開も変更されているらしいので、原作小説とは別物として愉しむものですかね。
しかし、そもそもこの小説自体が細かいところは気にせずに雰囲気を愉しむのが第一みたいな作品ってところがあるので、世界観が崩されていなければ違いをとやかく言うものでもないのかなぁと思います。

 

キャスト
●潮田玲鈴木杏
●津村沙世子栗山千明
●関根秋山田孝之
●花宮雅子松本まりか
●唐沢由紀夫勝地涼

 

潮田玲というのがドラマオリジナルキャラクターですね。原作だと沙世子、秋、雅子、由紀夫の四人がお話の主要人物となっています。

19年前のドラマなんですが、今こうやってキャストを見てみると有名俳優さんばかりで驚きますね。皆さん今もご活躍なのは凄い。キャスティングの段階で将来性が見抜かれていたのだろうか。他にも生徒役で山崎育三郎さんや佐野ひなこさんが出演しています。

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学園ホラー・ファンタジー・ミステリ
この作品がどんな作品かというと、ホラーとファンタジーとミステリで彩られた高校生の青春群像劇。

言い表すと色々と欲張りに詰め込まれていると感じるかもですが、これらの要素が絶妙な塩梅で構成されてします。


まず、六番目の小夜子というタイトルが良いですよね。このタイトルだけで興味をそそられます。そして、冒頭で説明される「サヨコ伝説」が不気味ながらもワクワクさせてくれて、その後をどんどんと読ませてくれる。
この感覚は七不思議や都市伝説を知りたがる感覚に似ていますね。ちょっとしたことに意味を持たしてああだこうだと思いをめぐらす愉しさというか。学校っていうのはこういう怪談ちっくな話で盛り上がりたくなる場所なんですよね。

「サヨコ伝説」は“学校”という特殊な閉鎖空間ならではの『行事』で、“学校”でなければ成立しない伝承で、そこら辺がこのお話の巧みなところだなと思います。“サヨコ”の継承が毎年ではなく三年に一度というのがミソなんですね。
三年間一つの箱にいて、卒業して去って行き、入れ替わりで新たな者たちが箱に入ってくるという、学校のシステムが最大限に利用されている。

 

この物語りは主要人物たちの高校卒業とともに終わります。「サヨコ伝説」は学校にいる間のみ、大人未満でいる刹那にかかっている魔法みたいなもので、卒業して“大人”となればとけてしまう。こう言うとトトロみたいですけど(^^;)「サヨコ伝説」を通してやがて失われてしまう青春の煌めきが描かれているのです。

 

 

 


歴代の「小夜子」
読んでいる最中にも忘れかけたりしたので、個人的備忘録もかねて五番目の「小夜子」までがしてきた行動や特徴を少しまとめてみます。

 

●最初の「小夜子」
文化祭で匿名の台本による『小夜子』という女の子の一人芝居の舞台が好評で、その年の大学合格率が非常に良かったため、『小夜子』をやった年は縁起が良かったのだ、となんとなく皆が思いこんだ。

 

●二番目の「小夜子」
三年が経ち、文化祭で『小夜子』を再上演しようということになり、イメージがピッタリだった女の子が小夜子役に選ばれるも、女の子は役に選ばれたことを知る前に交通事故で両親とともに死亡。上演は中止となり、その年の大学合格率は史上最低を記録した。

 

●三番目の「小夜子」
関根秋の兄が、花瓶が置いてある場所の鍵と手紙を受け取る。手紙の内容は
「きみが今年のサヨコをやるのならば、赤い花を自分の教室に飾りなさい、誰にも見つからないようにサヨコの芝居の準備をしなさい。
サヨコの選択股は三つある、きみが新たにサヨコを凌ぐものを用意できるのなら、再び赤い花を活けなさい、しれができず昔のサヨコを再上演するなら、からの花瓶を置きなさい、何もできないならば、何も置いてはいけない」
と、いうもの。
秋の兄は赤い花を活け、過去の『小夜子』を知る男子生徒が彼女を回想するという形の、男の一人芝居を書いた。劇の評判は良く、その年の大学合格率も史上一、二を争うほどよかった。

 

●四番目の「小夜子」
鍵を受け取ったのは気が強い女生徒で、「受験勉強で忙しいのに何故こんな訳のわからない変なことをしないといけない。こんな因習はやめるべきだ」と生徒総会に訴えた。
その後、その女生徒は受験の時期に原因不明の高熱を出して浪人、翌年もまた同じ時期に高熱を出し、ノイローゼとなってしまった。

 

●五番目の「小夜子」
四月の始業式に赤い花は活けてあったものの、あとは何もしなかった。『無言のサヨコ』と呼ばれている。

 


二番目の「小夜子」の事故死が大きな要因となって一連の『行事』に発展している訳ですが、作中でこの二番目の「小夜子」、事故死した女生徒の名前が「津村沙世子」だと判明。関根秋は自分のクラスに転入してきた津村沙世子と何か関係があるのでは?と、探り始めます。
お話の最初は花宮雅子と唐沢由紀夫が主のように書かれているのですが、この二人は途中からサヨコ伝説とはさほど関わらなくなり、関根秋と津村沙世子の二人が主軸となっていきます。


津村沙世子が色々と不可解な行動をとる中、関根秋がサヨコの謎を追い、その傍らで青春を謳歌する花宮雅子と唐沢由紀夫が描かれるといった形ですね。

 

三番目の「小夜子」の時点で生徒総会の手によってサヨコ伝説のシステムが決められていて、間の二年間は鍵の受け渡しはどうなっているのかというと、鍵を「渡すだけのサヨコ」がいるという設定。四番目と五番目の「小夜子」の間には、関根秋の姉・夏が「渡すだけのサヨコ」をしており、短編集『図書室の海』で今作の番外編としてその時のエピソードが描かれているようです。

 

図書室の海 (新潮文庫)

図書室の海 (新潮文庫)

 

 

関根家は兄弟三人ともがサヨコ伝説に関わったということで、何か因縁めいたものを感じますが・・・単に家系が優秀なので目立つってことなんでしょうか。

 

 

 

 

 

 

以下ネタバレ~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おかしな?結末
私は『六番目の小夜子』を最初に読んだのは十年以上前で、今回久しぶりに再読してみた訳ですが、最初に読み終わったときは結末が解せないというか、納得がいかなかったんですよね。詳細を忘れたなぁと思って改めて読み返してみたんですけど、終盤まではミステリアスな展開に惹きつけられて面白く読み進められたものの、やっぱり結末は腑に落ちない箇所が多々ある。


ハッキリ言って、ミステリ小説だと思って読んだら後悔するだろうと思います。

 

作中では思わせぶりな謎が多数出て来るのですが、これらの謎や伏線が殆ど回収されないままにこの物語りは終わってしまいます。
疑問はありすぎるほどあるのですけども、特にわからないのは「津村沙世子」ですね。
この『六番目の小夜子』は津村沙世子が謎の中心人物として描かれているお話ですが、この沙世子が行動に一貫性がないというか、「いったいなのをしたいんだ、コイツ」と理解しがたいんです。
なにか目的があって行動している風で、終盤で秋が

「そうか、わかった、津村は『サヨコ』をやめさせるために来たんだ」

と、突如理解したと地の文で語っていますが、その後の津村沙世子の行動はむしろサヨコ伝説を続ける後押しをしているように見えるし、転入してきた訳が語られる沙世子の独白では、サヨコ伝説を知って高揚したと書かれているだけで「やめさせるため」とは出て来ない。


関根秋へ恋心を抱いている佐野美香子を唆して部室に火をつけさせるのですが、何故そんな回りくどいことをするのかがわからない。自分でやれよと思うし、そもそもマニュアルを消したいだけなら火を点ける以外にいくらでもスマートな方法があるでしょう。放火は大罪だし。
人の気持ちを弄ぶのって、ホント罪深いですよね。読んでいて沙世子にムカムカしました。自分がそう誘導したくせに、秋が火事に巻き込まれたと気づくと助けようとパニックになるのがまた意味不明。

火事が起こって以降と以前でまるっきり違う人物になっているような印象を受けます。いきなり神秘性が剥奪されて唯の女の子になったというか。

火事以前までは「二番目の小夜子」が取り憑いていたとかそういうことなんでしょうか?そう考えると操れていたはずの野犬が、火事のときには追っ払えなかったのとか納得いくような気がする。気がするだけですけど(^^;)。

 

他にも黒川先生のこととかもハッキリとはわからずじまいでモヤモヤするのですが、しかし、まあ、この物語りは“学校”という特殊空間に満ちている刹那の輝きと愛しさ、不気味さと恐ろしさを描くのが目的で、意図的にこうなのかも知れません。学校の不思議というのはわからないままに円環していくものですからね。

 


謎は雰囲気を盛り上げるためのスパイスで、ホラーファンタジーの世界観の中で青春小説を満喫するのがこの作品の愉しみかたなのかなと思います。
凄く怖いというものではないですが、演劇の部分は読んでいて何ともゾクゾク・ザワザワしてきて今作の見所の一つです。
夏の夜に読むのがオススメですね。

 

 

六番目の小夜子(新潮文庫)

六番目の小夜子(新潮文庫)

 

 

 

六番目の小夜子 (新潮文庫)

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ではではまた~

 

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