夜ふかし閑談

夜更けの無駄話。おもにミステリー中心に小説、漫画、ドラマ、映画などの紹介・感想をお届けします

屍人荘の殺人(しじんそうの殺人) 感想 ネタバレ厳禁!トンデモ展開ミステリ!

こんばんは、紫栞です。
今回は今村昌弘さんの『屍人荘の殺人』をご紹介。

屍人荘の殺人 (創元推理文庫)

第27回鮎川哲也賞、第18回本格ミステリ大賞受賞作。

 

あらすじ
神紅大学ミステリ愛好会。メンバーは会長の明智恭介と後輩の葉村譲の二人のみ。「神紅のホームズ」と学内で呼ばれ、謎解きを求めて事件に自ら飛び込んでいく明智に、後輩の葉村は助手兼ブレーキ役として監視しつつ付きそう毎日だ。
夏休み目前、「いかにも事件が起きそうだ」という理由で明智は映画研究会の夏合宿に加わろうと孤軍奮闘するが、映画研究会部長の進藤歩には再三断られ続けていた。諦めかけていた時、幾多の事件を解決に導いた探偵少女・剣崎比留子に取引を持ち掛けられる。自分と一緒に葉村と明智の二人に件の映研の夏合宿に参加してくれというのだ。
降って湧いたようなうまい話にのり、葉村と明智は剣崎と共に合宿先のペンション「紫湛荘(しじんそう)」に訪れるが、合宿一日目の夜に映研のメンバーたちと肝試しをしていた最中、“予想外の事態”に遭遇。「紫湛荘」に立て籠もりを余儀なくされてしまう。
“外の状態”に怯えながらも「紫湛荘」の中で一夜を過ごすが、夜が明けると映研部員の一人が密室の中で殺害されていた。メンバーたちはより一層の恐怖と混乱に陥っていく。しかし、これは恐ろしい連続殺人の幕開けに過ぎなかった。
常軌を逸した閉鎖空間で繰り広げられる凄惨な連続殺人。葉村たちは生き残り、犯人を突き止めることが出来るのか――?

 

 

 

 

 

 

本格推理小説界の超話題作
『屍人荘の殺人』は今村昌弘さんのデビュー作。

鮎川哲也賞本格ミステリ大賞受賞に加え、このミステリーがすごい!】第1位、【週刊文春ミステリーベスト10】 2017年国内部門第1位、【本格ミステリ・ベスト10】2018年版国内ランキング第1位。と、デビュー作にして数々の冠を獲得している華々しい作品。

 
刊行された当初は本屋さんに平積みされまくっていたので、内容を知らずとも表紙には見覚えが有る人も多いのではないかと思います。最近になって文庫版が刊行されました。

 

 

WEB漫画サイト【ジャンプ+】で連載されたミヨカワ将さん作画による漫画もあります。

 

 

小説は装丁のデザインがまた良いんですよね。装画は『Another』などで有名な遠田志帆さんによるものです。

 

www.yofukasikanndann.pink

 

本格推理小説界の人気作家10人の絶賛コメントが書かれた帯も目立っておりました。巻末には、加納朋子さん、北村薫さん、辻真先さん、鮎川哲也賞選考委員三氏の選評が掲載されています。『屍人荘の殺人』は全員一致で受賞が決定した模様。

 

物語りは上記のあらすじでも分かるように、学生グループが山荘に閉じ込められて~・・・と、いう本格推理小説におけるベタベタなクローズド・サークルものですが、クローズド・サークルに至る、その過程が前代未聞。とにかく驚かされる展開で、読むならぜ~たいネタバレ厳禁の真っさらな状態で読みましょう!
本格推理小説あるまじき展開で困惑必至ですが、そのくせ本質はガチガチの本格推理で謎解きを存分に愉しませてくれる“この分野”の傑作で、大絶賛も納得の作品です。

 

 

 


映画
映画化が決定しており、2019年12月13日に公開予定です。


映画『屍人荘の殺人』予告【12月13日(金)公開】

キャスト
葉村譲神木隆之介
剣崎比留子浜辺美波
明智恭介中村倫也
進藤歩葉山奨之
重元充矢本悠馬
名張純江佐久間由衣
静原美冬山田杏奈
下松孝子大関れいか
星川麗花福本莉子
出目飛雄塚地武雅
高木凛ふせえり
菅野唯人池田鉄洋
立浪波流也小川雄輝
七宮兼光柄本時生


監督が木村ひさしさん、脚本が蒔田光治さん。このコンビで連想されるのはテレビ朝日系列の連続ドラマシリーズTRICKなどで、

 

トリック(1) [DVD]

トリック(1) [DVD]

 

 お二人とも作品スタイルはコミカルなミステリ作品を手掛けているイメージ。予告を観た限り、この映画もだいぶコメディ色が強そうな仕上がりになっていそうです。


映画の予告やポスターなどから受けるポップな感じは、原作を読んだ人間からすると結構な驚きで、意外な気持ちになると思います。と、いうか、私がそうなんですけど。原作もまぁコミカルな語り口の部分はあって、それが読みやすさにも繋がっている訳ですが、でもやっぱり全体としては過酷で恐くって、緊張感の方が強い状況下でのお話ですからねぇ・・・。原作のあんな展開やこんな展開をそのままやるなら、コメディとの兼ね合いは難しいのでは。もの凄くブラックでシュールなことになっちゃうんじゃ?と、思うのですが・・・どうなんでしょう(^^;)?

 

映画では浜辺美波さん演じる剣崎比留子は特徴的な恰好と言動をするキャラクターとして描かれているようですが、原作の剣崎比留子はお嬢様然とした上品な恰好で、ミステリアスななかに少女っぽさもあるといった人物像で“変人っぽさ”は特にないです。

他の登場人物達も原作より個性が強くなっていそうですね。設定が大きく変更されていそうなのは原作では映画研究会の一員の高木凛(ふせえり)と、大学オービーで御曹司と連んでいた出目飛雄(塚地武雅)。映画の公式サイトだとそれぞれ「クレーマーおばちゃん」「関西のおっちゃん」となっていますが、原作ですとどちらも若者です。

個人的に原作の高木さんが好きだったので、変更されているのはちょっと残念ですね。

 

※映画観ました。結果はこちら↓

 

www.yofukasikanndann.pink

 

 

 

 

以下ネタバレ!ご注意下さい!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

トンデモ展開
今作には驚きの点が大きく分けて二つあります(謎解きとは別で)。
そのうちの一つは実はタイトルでモロに示されているのですが、動き回る屍・ゾンビが登場すること。そう、『屍人荘の殺人』は、ゾンビに山を占拠されて館から出られなくなってしまう前代未聞のクローズド・サークルなのです。

 

斑目機関」たる特異集団がバイオテロを実行、山中で開催されていた大型ロックフェスで薬品を撒布。この薬品は死後、ゾンビ化してしまうという代物で、ゾンビもののご多分に漏れず、噛まれた人もゾンビとなって感染していって、あっという間に山中はゾンビだらけに。このロックフェス会場の近くだった「紫湛荘」はたちまちゾンビに包囲され、葉山や映研部員たちは立て籠もりを余儀なくされるという訳です。

 

鮎川哲也賞受賞作ならばガチガチの本格推理小説だろうという考えが読む前からあるので、冒頭のホテルの見取り図、大学のミステリ愛好会、夏休みに映研のホラービデオ撮影のための合宿などなど、古典をこれでもか!だなぁ~でも好きだよこの感じ(^_^)とか、思っていたところにいきなりのゾンビなのでとにかく困惑。「いったい何が始まって、何を読まされようとしているのか」といった気分に。

 

しかし、よくよく考えてみると、ホラービデオを撮影するために山中に来た大学生グループがホラーな目に遭うというのは、ホラーものの王道でもある訳で。

同じシチュエーションの王道定番二つを混ぜた、一粒で二度美味しい、お得な(?)物語りになっているのですね。別に推理物読みながらゾンビものを楽しみたいと思う人はそうそういないとは思いますが・・・(^_^;)

 

ゾンビ初心者のためのゾンビ解説者として、ゾンビ映画マニアの重元充が他メンバーに訳知り顔で「ゾンビはこういうルールだ」的なことをアレコレ言いますが、これはちょっと懐疑的な意見が湧いてしまいますね。重元さんが言うのはあくまで映画の中のゾンビの話であって、今貴方達が直面しているバイオテロゾンビには当てはまるかどうか誰も知るよしもないじゃろ・・・と、いうか、当てはまると考える方がどうかしていると思う。結果的には重元さんのいう映画のゾンビルールが作中ではそのまま適用されているから、何ともはやなことではありますけども・・・。

 

そんなこんなで、ゾンビ映画知識が所々で披露されていますので、ゾンビもの好きな人はそこら辺も楽しめるお話になっています。

ゾンビが出てくる推理小説ですと、山口雅也さんの『生ける屍の死』を連想する人も多いですかね。

 

www.yofukasikanndann.pink

 

 

 

 

 

 

明智
はて、今作の驚きの点もう一つは、登場人物の一人でミステリ愛好会会長、主人公・葉村にとってのホームズ・明智恭介の処遇についてです。


明智恭介」という名前は日本三大名探偵のうちの二人の名前を合わせた安易なものですが、この明智さんは愉快で如何にも困った癖を持った探偵然としていて、この人中心にお話が進んでいくんだろうと当然思う訳ですよ。冒頭の登場人物一覧にも一番に名前が書かれていますからね。


ところが・・・ですよ。

 

肝試し中にゾンビに襲われて登場人物の何人かはここで退場になるのですが、なんと、明智さんも退場。死んでしまいます。

 

個人的に、ゾンビが出て来る云々よりも明智さんが死んでしまうことの方がずっとショックでした。
読んでいてもしばらく立ち直れず・・・。
途中、葉山君の語りの中で生存の可能性をほのめかす部分があるので、「絶望的だけどひょっとして・・・!」なんて希望を持つんですが、結果は・・・・・・です(T_T)。

 

なので、探偵役は剣崎さんが務めることになります。明智さんのことがあるのでなかなか受け入れられないんですけどね。私個人が剣崎さんより明智さんの方が気に入っていたというのが大きいんでしょうけど・・・。

 

※この事件より前に起こったこととして、明智さんと葉村君が活躍する短編があります↓

www.yofukasikanndann.pink

 

 

 

〇〇〇フル活用トリック
ゾンビが出て来たり、主人公だと思われた人物が死んでしまったりと奇抜な展開をするものの、その後の流れは本格推理小説“ソレ”です。

クローズド・サークルで密室殺人・連続殺人が発生、謎解明のために探偵役と語り手が一緒に調査し、最後は全員の前で謎解きを披露する。


外に何百ものゾンビが居る非常事態で本格推理なんてしてる場合かっ!でしょうが、ま、しちゃうんですよね。

 

ゾンビが登場するのは突飛だし、類を見ない展開ではあるのですが、今作はあくまでもゾンビを扱ったホラー小説ではなく本格推理小説。ゾンビはこの物語りでは“装置として”作用している“だけ”のものです。だけど、ゾンビなしにはこの謎解きミステリは成立しない。
ゾンビの存在があるからこその不可能犯罪。ゾンビの存在を利用しなければ成り立たちようのないトリック。
ゾンビフル活用の、特殊設定を利用した本格推理小説です。

 

具体的な謎の提示としては、ゾンビが絶対に入ってこられないはずの空間で、ゾンビの仕業としか思えない状態の遺体が発見されるというもの。
トリックはおぼろげに想像つくのですが、細部が掴めないので解決編を読んでなるほどなぁと。「ゾンビ」というワードがキーになって殆どの謎が解明されるのが綺麗ですね。
犯人当てに関しては消去法推理。これは注意深く読んでいれば読者にも消去法で当てるのは難しくないと思います。
葉村君の語り口が途中から怪しくなっていますが、ミスリードだろうと察しは付きますかね。ワトソン役が嘘をつくというのはノックスの十戒的にはアウトになるのでしょうか。でも“嘘をついている”と語りで提示されているから推理物としてはフェアなのかな。

 

 

 


人の助手をとるな
今作で探偵役の剣崎比留子さん。ミステリ愛好会に接触してきた理由は葉村君のことが“狙い”だったと中盤で明らかになります。
なんでも、剣崎さんは何処に行って何をするにも殺人事件が周りで巻き起こるという、俗に言う「死神体質」(コ〇ン君や金田〇少年でお馴染みのアレ)で、今まで数ある事件を解決してきたのも、状況的に必要に迫られて、自らの生存のために仕方なく対応していたら意図せず「名探偵」と呼ばれるようになっちゃったという、“難儀な人”なんだそうです。

で、大学で明智&葉村コンビのことを知り、「私も助手が欲しい」と葉村君を自分の助手として引き抜くために二人に接触してきた、と。


ええ、まず、助手は助手でも自分で人材発掘しろよと思いますよね。本格推理小説における助手役・ワトソン役たるもの、軽々しく専属の探偵を乗り換えるべからず。まして、探偵役が別の探偵の助手を横取りしようとするんじゃない!

 

終盤、ゾンビになった明智さんが葉村たちの前に現われ、襲いかかってきます(哀しい・・・)。葉村は“俺のホームズだ”との想いから反撃することが出来ずに噛まれそうになるのですが、そこで剣崎さんが槍で脳天をぶっ刺し、
「――あげない」
「彼は、私のワトソンだ」
と、言って明智さんを倒し、葉村君を救う。


・・・・・・カッコいいんですけども。個人的には腑に落ちないし、何か面白くない(-_-)。

 

このまま葉村君がすんなり剣崎さんの助手を引き受けてしまったら、葉村君に対しても怒りを向けるところですが、そこは「すみません。あなたの助手には、なれない」と、断ってくれました。ま、そうだよね・・・もうちょっと明智さんの余韻に浸っていて欲しいよ・・・。

 

助手を断られたものの、明智さん亡き後、剣崎さんはミステリ愛好会に入会。葉村君と剣崎さんの二人で今回の事件の発端、バイオテロを起した「斑目機関」について調べているところで今作は終了しています。


書き方が紛らわしいのか、最後に喫茶店で葉村が待ち合わせをしていた女性は誰なのかと疑問に思う人もいるようですが、これは剣崎さんで間違いないでしょう。今作は続編がありますので、そちらを読むとよりハッキリすると思うのですが・・・。

トンデモ展開に驚きはしましたが、『屍人荘の殺人』は「私やっぱり、本格推理小説好きだなぁ」と再認識させてくれた、とてもお気に入りの一冊となりました。続編も読んで、また当ブログに纏めますね。

 

※読みました!詳しくはこちら↓

 

www.yofukasikanndann.pink

 

 


ではではまた~