夜ふかし閑談

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屍人荘の殺人 続編!「魔眼の匣の殺人」感想・解説~〇〇〇に続き、今度は予言!?

こんばんは、紫栞です。
今回は今村昌弘さんの『魔眼の匣の殺人』(まがんのはこのさつじん)をご紹介。

魔眼の匣の殺人

 

あらすじ
夏に起こった娑可安湖集団感染テロ事件から数ヶ月が経ち、季節は冬。神紅大学ミステリ愛好会の葉村譲と剣崎比留子はテロ事件に深く関わっていたと思われる「斑目機関」について独自に調べていたところ、『月刊アトランティス』という雑誌に掲載されていた記事にいきあう。その記事では、娑可安湖集団感染テロ事件が発生する前に事件が“予言”されていたのだ。
『月刊アトランティス』にはこの“予言”は編集部に届けられた差出人不明の怪文書であり、テロ事件後に続けて届けられた同一人物によるものと思われる手紙には「数十年前W県の人里離れた村に見知らぬ男たちがやってきた。彼らはM機関と自称し、村人に多額の謝金を渡し、村の最奥に実験施設を建て、各地から人を集めて超能力実験を行っていた」と書かれていたという。
記事を元手に問題の村を突き止め、11月の最終週にその場所に赴いた葉村と剣崎。道中、目的地を同じくする男女の高校生、ツーリングの途中でガス欠になってしまった男性、葬儀帰りに車のトラブルに見舞われた父子、墓参りに来た元村民の女性といった面々と次々と遭遇し一緒になって村を捜索するも、何故か村には村民が一人も居なかった。

元村民の女性の案内により、村の川を越えた向こうにある『魔眼の匣』と呼ばれる箱形の建物に向かうことにした一行。『魔眼の匣』の主・“サキミ様”は村で予言者として恐れられている老女だった。彼女は来訪者に「あと二日のうちに、この場所で男女が二人ずつ、四人死ぬ」と“予言”する。
橋が燃え落ち、閉じ込められてしまった葉村たち。予言が成就するがごとく一人の死者が。さらに、客の一人である女子高生も予知能力があるらしく――?

“予言”によって混乱と恐怖に満ちていく“匣の中”、葉村たちはこの二日間を生き残り、謎を解き明かすことが出来るのか。

 

 

 

 

 

 

シリーズ第二弾
『魔眼の匣の殺人』は前作『屍人荘の殺人』で強烈なデビューを果たした今村昌弘さんの第二作。

 

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思わせぶりな描写で締められていたものの、内容が内容だけに1回こっきりの単発ものだろうという印象が強かった前作・『屍人荘の殺人』ですが、なんとシリーズ化。ミステリ愛好会の葉村君を語り手に、剣崎さんが探偵役として展開する作品になっています。

あまりにもインパクトが強すぎた前作・・・続編をやるにしてもここでいきなり普通の推理小説を持ってくる訳にいかないだろうし、いったいどんな作品になるんだろうといった感じですが、読んでみると前作の設定と遜色なく「なるほど、こういった特色のシリーズにするのか」とすんなりと納得出来る作品になっています。この第二弾によってシリーズ在り方がハッキリしたと思われますね。

 

 

 


予言とクローズド・サークル
『屍人荘の殺人』は〇〇〇とクローズド・サークルでしたが、今作は予言とクローズド・サークル。
前作のテロ事件の黒幕である斑目機関」には現在判明しているだけで拠点施設の他に分署とも呼ぶべきいくつかの研究施設があり、関東地方に一つ、近畿地方に二つ、中国地方に一つ存在し、それぞれの施設ではテーマの全く異なる研究を行っていたとのこと。
つまり、怪しげで一見すると荒唐無稽なことをそれぞれの場所で研究してたよ~と。戦中の中野学校的イメージでしょうか。

 

今作ではそのうちの一つの施設、超能力実験が行われていた施設での出来事が尾を引いている事件ということですね。
前作同様、今作も信じがたい現象が起こるものの、その実中身はひたすらベタな本格推理モノになっています。
本格推理ド定番に“トンデモ要素”をぶっこむ、“トンデモ要素”を踏まえた条件下でのみ成り立つ推理劇を展開する。
と、いうのがこのシリーズの流れというかパターンなんだろうと。まだ二作目なので今後どの様になるのか分かりませんが・・・。

 

今作での“トンデモ要素”は「絶対にはずれない予言」
サキミ様という老女による「二日の間にこの地で、男女が二人ずつ四人死ぬ」という予言と、十色真理絵(といろまりえ)という女子高生による「絵に描いた光景が数十分後に現実のものとなる」というタイプの(?)異なる予言が組み合わさって物語りは構成されています。

 

 

 

ホワイダニット
今作は本格推理小説としてはホワイダニット(なぜ犯行を行ったか)が主題の作品となっています。閉ざされた空間で、容疑者も限られる不利な状況下でなぜ犯人は殺人を犯したのか。それには唯のクローズド・サークルにはない「予言」が大きく関わっているようだが、しかしどうして・・・?と、いう謎ですね。

「二日間で男女が二人ずつ四人死ぬ」という予言によって引き起こされる動機と犯行。「予言」が装置として最大限に活用されたミステリとなっています。

 

とはいえ、普通に犯人当ても難しいんですけど(^^;)。フーダニット(誰が犯人か)としても充分な読みごたえがあると思います。犯人当てに関してはロジックで解き明かす感じですね。今作では物理トリックがないので、人によっては長編なのに地味だと感じることもあるかもしれませんが(ロジックものは本格ファンが好むイメージ・・・)、最後のどんでん返しは必見ですよ~。

 

 

 

 


以下若干のネタバレ~

 

 

 

 

 

 

 

 

受け入れがたい
「絶対にはずれない予言」が前提になっている今作。個人的なことではありますが、私は他の超能力はともかくも、未来予知だけは懐疑的に思っていまうんですよね。絶対当たるなんて受け入れがたい。もちろんファンタジーなら話は違うのですが・・・。


そもそも、性別と人数だけが分かる予言ってなに。なんでそんなに中途半端な予言なの?お話の都合上としか思えない。そしてまさにその通りだったし。


犯人の犯行動機は「予言による死が自分に降りかからないように先に他の人間を殺す」というもの。予言を信じたからこその犯行動機ですが、信じたからといって他の人を殺害すれば自分は難を逃れるはずだなんて考えるかなぁと疑問。もっと超常現象的な風にとらえるというか、人為的な行為で変えられるという考えは飛躍だという気がする。危険物がないところに閉じこもるとか、そういったことをする方が先じゃないかなぁと。恐慌状態になって誰彼構わず殴りかかるとかならまだ分かりますけどね。

 

アリバイを確保するために交換殺人を持ち掛けたという話ですが、これもアリバイなんて気にせずに自分でさっさと同性の人物を一人殺して、遺体を隠すなりなんなりした方が手っ取り早いし論理的(予言を信じている時点で論理的ではないですが・・・)だと思う。結果的に同性が二人、事故で死んだから本来は殺人なんてする必要もなかった訳で。犯人は無駄に異性を二人殺すという非常に馬鹿馬鹿しい事態に陥っていると言って良い。

十色真理絵「絵に描いた光景が数十分後に現実のものとなる」という予知能力に関しても、

「絵に描いてある状況が誰かの身に起きるなら、他人を絵の状況に近づけてやればいい。十色さんの予知能力を逆手にとる、まさに斬新な発想です」

 

と、ありますが、ホントに斬新(^_^;)


しかもこの方法が有効だというのだから「絶対はずれないくせにそんなにポンポン変えられるって・・・なんなの?予言って」と言いたくなってしまう。

予言の絵にあわせて何やかんやするってジョジョ三部のトト神の話思い出しますね。

 

 

アレは傑作だった・・・。どことなくドラえもん的でもあるような感じ。


いずれの出来事も「予言」があったがために起こったことであり、「予言」があったからこその「予言」
本末転倒というかなんというか・・・この作品を読んで思ったことは「絶対にはずれない予言など、無意味で余計で人を不幸にするものでしかない」ということですね。それがテーマにされているなら納得するお話ではあるのですが、どうもそうではないので、「予言」についてや人物たちの行動は不自然でやはり釈然としないモノがあります。ま、ファナンタジックな設定を受け入れて愉しんで欲しいという事なんでしょうが・・・。

 

こんな感じで犯行動機は「うぅ~ん」だったのですが、最後の「呪い」の話で説得力が増したのでなんとか納得。これに関しての伏線は見事でした。最後のどんでん返しの真相の伏線も見事でしたね。
犯人指摘終了までがモヤモヤするものの、終盤で驚くほど巻き返されている印象。犯人判明後に今作の本領が発揮されているのではと思います。

 

 

 


登場人物たち
前作同様、本には最初に本格推理小説らしく見取り図と登場人物一覧が載っています。この登場人物一覧に明智恭介」の名前が書かれているので前作の読者はあらぬ期待をしてしまうのですが・・・。ま、やはり期待は期待のままでした(^^;)。

トンデモ要素を盛込んだシリーズならば、いっそのこと“死人が(まともに)生き返る”なんてこともして欲しいものです。ダメでしょうか・・・?

 

個人的に主要人物の二人、葉村君と剣崎さんにさほど魅力を感じることが出来ないので、明智さんの存在をいつまでも気にしてしまう(-_-)。前作よりも親しくなっている二人ですが、やり取りがどうも浮かれたラブコメじみていて、読んでいると何やらシラける。著者としてはコミカルに読みやすくって意図なんでしょうけど、ひたすら滑っている印象。特に剣崎さんが“男性が思い浮かべるクールだけど茶目っ気もある理想の女の子”という妄想の範疇から抜け出ていない感じで、もっと深い描写が欲しいなぁと思うところ。個人的に前作での剣崎さんの行為に反感を持っているので、それを引きずっているというのもあるでしょうが・・・。

 

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脇の人達のほうが魅力的に感じますね。でも容赦なく死んじゃったり犯人だったりするっていう・・・(^^;)
前作同様、剣崎さんによる人物記憶術が今作でも披露されていますが、人数は多いものの今回は年齢や性別もバラバラで皆それなりに特徴的なのでこの記述は別に要らないように感じました。
最初は嫌な感じでしたが、師々田さんが読んでいて段々と愛着が湧いてきて可笑しかったです。親子のやり取りも楽しかったですね。また出してくれたらなぁと思うのですが・・・どうでしょう?

 

 

 

今後
今作の最後に次の事件への言及があります。なんでも、「サミミが予言を的中させた、極秘研究施設での大量殺人--のその後に関わる」事態になるらしいです。

 

※2021年8月。シリーズ第3弾出ました!詳しくはこちら↓

 

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結構長いシリーズになりそうな予感ですね。何シリーズと呼べば良いのかまだよく分かりませんが。

次はどんな“トンデモ要素”が登場するのか気になるところ。前作で失踪した重元さんがどうなったのかなど、「斑目機関」に関してはシリーズを追うごとに全貌が明らかになっていくでしょうからそこら辺も必見ですね。

 

 


ではではまた~