夜ふかし閑談

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『アリバイ崩し承ります』原作小説 あらすじ・紹介 上質の”アリバイ崩し”ミステリ7編

こんばんは、紫栞です。
今回は大山誠一郎さんの『アリバイ崩し承ります』をご紹介。

アリバイ崩し承ります (実業之日本社文庫)

2020年1月からテレビ朝日系の土曜ナイトドラマ枠で放送開始される連続ドラマの原作本ですね。

 

アリバイ崩しに特化した短編集
『アリバイ崩し承ります』は数あるミステリの分野の中でも“アリバイ崩し”に特化した作品集。7編収録されていますが、すべてのお話でアリバイに関わる謎解きが展開されます。

お話の舞台は〈美谷時計店〉。店内には数々の時計と「時計修理承ります」の張り紙と共に「アリバイ崩し承ります」と書かれた紙が。
「当店では、先代の店主からの方針で、時計にまつわるご依頼は何でも承るようにしております」
とのことで、成功報酬としてアリバイ崩しに成功したら五千円をいただくというシステムで常時依頼を受け入れている何やら奇特なお店。


亡くなった祖父に十四年間、時計修理の知識とアリバイ崩しの仕方を仕込まれ、店を引き継いだ若き店主(二十代半ばぐらい)美谷時乃の元に、捜査一課の新米刑事の「僕」が毎度仕事などで直面したアリバイ崩しを依頼しにやってきて、内容を説明。聞き終わった時乃さんが「時を戻すことができました。――アリバイは、崩れました」と言って、鮮やかに解決してくれるといったパターンとなっています。

「何で時計屋さんが仕事としてアリバイ崩しを?」と当然の疑問を抱くでしょう。作中の「僕」も作中で時乃さんに問いかけているのですが、その答えが、

 

「アリバイがあると主張する人は、何時何分、自分はどこそこにいたと言います。つまり、時計がその主張の根拠となっているのです」
「まあ、そうですね」
「ならば、時計屋こそが、アリバイの問題をもっともよく扱える人間ではないでしょうか」
いや、それは違うだろう。

 

そう、「違うだろう」なんですけども(^^;)。


でも一応このよくわからない理屈でアリバイ崩しを承っていると。先代からの教えだと真面目にこう答える時乃さん。ま、実際はお祖父さんの趣味だったんだろうなぁって感じですが・・・。

刑事が民間人に捜査中の事件の詳細をペラペラ話すのは問題であり、作中の「僕」もダメなことは承知しているのですが、困るとついつい時乃さんを頼ってしまうという有り様。

 

 

 

 

 

 

 

 


各話紹介

●時計屋探偵とストーカーのアリバイ
大学教授が殺害された事件。最有力容疑者は被害者にストーカー行為をしていた元夫だが、胃の内容物から特定された死亡推定時刻に居酒屋で友人二人と飲んでいたというアリバイがあった。

 

●時計屋探偵と凶器のアリバイ
死体よりも先に凶器の拳銃がポストから発見された殺人事件。製薬会社に勤めていた被害者の上司が容疑者として浮上するが、犯行時刻だと思われる時間に従妹達と喫茶店で話しをしていたというアリバイがあった。

 

●時計屋探偵と死者のアリバイ
「僕」は散歩の最中に交通事故現場に遭遇。轢かれて瀕死の重体を負った推理作家から殺人の告白をうけるが、詳細を述べる前に推理作家は死亡してしまう。証言の通りの場所で他殺体が発見されるが、推理作家には被害者の死亡推定時刻にアリバイがあった。

 

●時計屋探偵と失われたアリバイ
ピアノ講師が自宅マンションで他殺体として発見される。アリバイのない被害者の妹が容疑者としてあげられるが、その妹が犯人だと思えない「僕」は、時乃に“アリバイ探し”を依頼する。

 

●時計屋探偵とお祖父さんのアリバイ
珍しくアリバイ崩しの依頼ではなく、壁掛け時計を買いに〈美谷時計店〉を訪れた「僕」。お茶をごちそうになる際に時乃から昔祖父に出題された“アリバイ問題”の話を聞いてアリバイ崩しに挑戦する。

 

●時計屋探偵と山荘のアリバイ
「僕」は休日に訪れた山荘で殺人事件に直面する。現場に残された足跡から、犯行が可能だったのは中学生の少年一人だということになるが、どうしても少年が犯人だと思えない「僕」は、少年が逮捕されるのを阻止しようと〈美谷時計店〉に他の容疑者のアリバイ崩しを依頼する。

 

●時計屋探偵とダウンロードのアリバイ
元会社経営者の男性が自宅で死体となって発見される。事件発生から3ヶ月が経過したころ、ある大学生が容疑者として浮上し、友人と一緒に居たと主張するが、友人は日にちをはっきりとは覚えていなかった。しかし、犯行日の当日のみダウンロードすることが出来た楽曲を容疑者は友人の前でダウンロードしており、そのことは友人も確りと覚えていた。脆弱だが崩せないアリバイに悩まされ、「僕」は時乃にアリバイ崩しを依頼する。


以上7編。

 

 

 

 

お話はどれも30、40ページほどなので読みやすいです。問題提示の後にすぐ解答があるので、読んでいて清々しいですね。しかもそれらが殆ど殺人事件を扱った本格ものの、長編でも充分使えそうな謎ばかりなのが凄い。このページ数ならば荒削りなことになりそうなものですが、どれも細部まで練り込まれたアリバイトリックで、本格推理短編小説としてとても上質です。こんなに贅沢に愉しませてもらって良いのですか?と言いたくなるような作品集。ちょっとした時間の合間に読むのに丁度良い本ですね。


ページの関係で非常にタイトな構成になっているので、そのぶんドラマではお話を色々と膨らませるのではないかと思います。

 

どのお話も読んでいて解くことは出来なかったし、トリックはどれも見事なのですが、私は特に「お祖父さんのアリバイ」「山荘のアリバイ」がお気に入り。「お祖父さんのアリバイ」はお祖父さんの“アリバイ問題”への気合いが可笑しく、孫への愛情も垣間見られて良い。「山荘のアリバイ」は足跡もので如何にも本格推理小説なところが個人的にツボです。


主人公の新米刑事「僕」は、作中で名前が明かされません。時乃さんは終始「お客様」と呼んでいるし、同僚の先輩刑事たちには「新人」と呼ばれています。


この本では「時計屋探偵とダウンロードのアリバイ」の最後で時乃さんと「僕」がほのかに“いい感じ”になるところで終わっているのですが、ドラマの方では刑事さんが「ひょんなことから〈美谷時計店〉の裏にある母屋に下宿することになった左遷されてきた警察キャリア・察時美幸(さじ・よしゆき)」という風に変更されています。演じるのは安田顕さんとあって、年齢も警察内での立場もだいぶ違いますので、ほぼドラマオリジナルキャラクターでしょうね。原作のような“いい感じ”になるとは到底思えない設定ですが、時計店の母屋に下宿とは、何やら楽しそうな変更。


“見た目だけはクールな空回り刑事”渡海雄馬(とかい・ゆうま)として成田凌さんも主要キャストで出演されるのだとか。こちらのキャラクターもドラマオリジナルですね。


公式サイトでドラマの設定を見るにオリジナル要素が強そうですが、浜辺美波さんが演じる探偵役の美谷時乃は原作通りのキャスティングだと思います。原作の時乃さんは小柄で色白、兎を思わせる風貌で、ボブヘアーというところも一致していてピッタリ。
個人的にテレビ朝日土曜ナイトドラマ枠が好きなので、オリジナル要素も含めて楽しみたいと思っています。

 

好青年な新人刑事「僕」に出会えるのは原作のみとなりそうなので、ドラマで気になった方にはこの原作本も是非読んで欲しいなぁと。もちろん本格推理小説好きも是非。

 

 

 

 

ではではまた~