夜ふかし閑談

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「百鬼夜行 陽」10編のあらすじ・繋がりまとめ ~”あの”長編はどうなっている!?な短編集

こんばんは、紫栞です。
今回は京極夏彦さんの百鬼夜行-陽』をご紹介。

定本 百鬼夜行 陽

 

サイドストーリーズ第二弾
百鬼夜行-陽』は短編妖怪小説集で百鬼夜行シリーズ】(京極堂シリーズ)

 

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のサイドストーリーズの第二弾。概要は百鬼夜行-陰』と同じで、シリーズの各事件に関わった人々の物語りが描かれています。
※『百鬼夜行-陰』について、詳しくはこちら↓

 

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百鬼夜行シリーズ】の二作目の短編集なのですが、「陰」が最初に刊行されたのが1999年で、この「陽」の刊行は2012年。十三年間の開きがありますね。


「陰」の方は『塗仏の宴』終了後の短編集だったので触れられているのは姑獲鳥の夏『塗仏の宴』までの関係者達でした。「陽」の方では主に『陰摩羅鬼の疵』邪魅の雫、そしてまだ見ぬシリーズ次回作の『鵼の碑』に関わる短編が二作ぐらいずつ収録されていて、『塗仏の宴』以降の事件関係者の短編集なのかという風に最初は思ってしまいますが、実は魍魎の匣狂骨の夢『格新婦の理』の関係者のお話も収録されているので、やっぱりシリーズ全作を読んでいた方が愉しめる作品集となっています。

巻末に著者の京極夏彦さん自身による妖怪画と説明文による「百鬼図」が収録されています。「陰」ですと、本によってはこの「百鬼図」が収録されているものとされていないものとありますが、「陽」の方は最初に刊行されたのが「百鬼図」が収録された文藝春秋の定本版でしたので、

 

定本 百鬼夜行 陽

定本 百鬼夜行 陽

 

 

その後刊行の文庫版、

 

定本 百鬼夜行 陽 (文春文庫)

定本 百鬼夜行 陽 (文春文庫)

 

 

講談社

 

完本 百鬼夜行 陽 (講談社ノベルス)

完本 百鬼夜行 陽 (講談社ノベルス)

 

 

にも、収録されていると思います。電子書籍版はよく分かりませんが・・・。

 

百鬼夜行 陽 青行燈 大首 屏風のぞき【電子百鬼夜行】

百鬼夜行 陽 青行燈 大首 屏風のぞき【電子百鬼夜行】

 

 

 

 

 

 

収録作品
「陰」同様、今作も十編収録されています。前回の記事と同じように、自分用を兼ねて順番に各編の主役と物語りの概要や繋がりをまとめたいと思います。

 

 

 

 

以下、シリーズのネタバレを多大に含みますのでご注意~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


●青行燈(あおあんどう)
主役・平田兼三
平田兼三は『陰摩羅鬼の疵』で登場した人物。由良家の財産管理を任されている「由良奉賛会」の一人。由良胤篤に見込まれて会社から出向してきたという扱いで、『陰摩羅鬼の疵』での事件後、由良家の財産処理のいっさいを担当することに。お話は由良家に残された莫大な書物の処分を請け負った古書肆・中禅寺秋彦から、由良家の歴史書的なもの(歴代当主たちの日記)の扱いについて相談されるところから始まっています。短編に中禅寺が登場すると何かスペシャルな気分になる。本編でも中禅寺は出し惜しみされている感ありますからね・・・(^^;)。
平田は幼少の頃から、実際には存在しないのに「自分には妹が居る」という根拠のない違和感に囚われていて・・・というもの。何故そんな“気がする”のか解らないままにお話は終わっています。今後長編の方で何かしら関わってくる可能性もあるかもですが・・・でもただこの短編の要素としてというだけのことかも。
『陰摩羅鬼の疵』自体が別シリーズの後巷説百物語

 

後巷説百物語 「巷説百物語」シリーズ (角川文庫)

後巷説百物語 「巷説百物語」シリーズ (角川文庫)

 

 

 

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と密接な繋がりがあり、この「青行燈」でもかなりの部分で言及されています。巷説を読んでいる人の方が何倍も愉しめるお話ですね。

 

 

 

●大首(おおくび)
主役・大鷹篤志
大鷹篤志『陰摩羅鬼の疵』で刑事として登場。由良邸での事件後に失踪し、邪魅の雫では思わぬことで渦中の人物の一人となる。
インターネットサイト『e-ROTICA 』で発表された短編作品。『e-ROTICA 』は官能小説に馴染みのない有名小説家達に官能小説を書いてもらおうという野心的な企画特集であり、この「大首」も官能小説として書かれたものです。


愛情と性的興奮の乖離に悩む大鷹の心情が描かれる話で、好意を持っている人物によりも女体の“部分”に興奮してしまうという、フェチシズム的な印象を受ける。こういう事で悩む人、男女限らず結構な数いるのではないかと思いますね。
「官能」にスポットを当てられた小説なので“官能小説”ではあるのでしょうが、読んでいて性的興奮をするようなお話ではありません。つまり、別にエロくない。やっぱり京極夏彦作品だなぁといった感じ。なので安心(?)して下さい。
このお話では大鷹が『陰摩羅鬼の疵』の事件被害者・奥貫薫に懸想していたことが書かれています。と、いっても言葉を交わしたりはしていない。姿を見て憧れていたというもので、唯一の自発的行動はお風呂を覗いたことだけ。・・・愚かですね。

 

 


●屛風闚(びょうぶのぞき)
主役・多田マキ
多田マキは『格新婦の理』に登場。非合法で小間式簡易宿泊施設(主に娼婦相手の部屋貸し)をしている老婆で、『格新婦の理』ではこの宿に川島新造前島八千代がやって来て事件が・・・――といった運び。

多田マキは川島喜市に「今夜泊まりに来る女の着物を盗って欲しい」と頼まれ、盗った友禅を近所の質屋に質入れするのですが、その行為をする直前に多田マキが今までの自分の人生を回想する。幼少の頃に高価な屏風に傷をつけてしまい、言い出せずにいたら使用人が暇を出されたという体験から、常々「うしろめたい」という想いに囚われながら生きてきたというお話。
多田マキは本人も自覚している通りの“糞婆ァ”。『格新婦の理』でも逞しい婆さんだなぁといった印象で如何にも受難の人生を歩んでいそうでしたが、今作ではその詳細が明らかにされます。親が破産し、亭主に棄てられ、男に騙されて売られて・・・と、なるほど、逞しくなるには充分な人生を歩んでいますね。

 

 


●鬼童(きどう)
主役・江藤徹也
江藤徹也は邪魅の雫に登場する「愚か者」。“榎木津に初対面で叱責された人”ですね。今作では『邪魅の雫』での事件より以前、酒屋で住み込みの手伝いをすることになる直前の、母親が死んでしまった直後の江藤の心情が描かれる。
榎木津に叱責されるだけあって、江藤徹也はまさに“邪”といった人物。どんな時でも「つまらない」という態度で、心中では常に周りに文句と苛立ちばかり唱え、変化を求めて邪なことをする。虚ろで害悪なヤツです。『邪魅の雫』でもそうでしたが、読んでいると何ともむかっ腹が立ってくる人物ですね。今作では『邪魅の雫』で事を起す前段階が描かれていて、「ああ、“これ”をしたから“あれ”もしたんだなぁと」。江藤の母親のことを想うとやりきれない気分になります。邪魅の雫』では榎木津が叱ってくれて本当にスッキリした。

 

 


●青鷺火(あおさぎのひ)
主役・宇田川崇
宇田川崇は狂骨の夢に登場した小説家の先生。『狂骨の夢』では宇田川先生が関口に妻の奇妙な体験と言動を相談することで物語りが開始されます。
今作では宇田川先生が戦時下に埼玉県本庄に疎開してきてから、利根川で後に妻となる女性を助ける直前までが描かれる。
お話としては近所に住む老人・宗吉さんから「人は死ぬと鳥になるのじゃないか」と訊かれて、若くして死んでしまった妻・“さと”のことに思いをはせるというもの。宇田川先生は【百鬼夜行シリーズ】のなかでもホントに不遇な目にあってしまう人物。好感度が高いせいもあり、『狂骨の夢』での先生の結末を考えると、この短編も何か胸に迫ってくるものが。
「人は死ぬと鳥になる」という考えが新鮮で面白いです。

 

 


●墓の火(はかのひ)
主役・寒川秀巳
シリーズ全作を読んでいる人でも「誰!?」となるでしょう。それもそのはず、この寒川秀巳は未だ長編には登場していません。つまり、まだ見ぬ次作長編『鵼の碑』に登場が予想される人物だと思われます。
今作で寒川は植物学者だった父の死の真相を究明するために日光を訪れ、寒川の父が死んだとおぼしき現場である山の岩場で“光りを放つ墓”を発見するところで終わっています。この石碑がやがて日光で起こる不可解な事件の契機になる――らしい。


今作には笹村市雄という、十九年前に殺害された両親の死の真相を追っている人物も登場しています。笹村の父は新聞記者で汚職事件を追っていたらしいとのことです。寒川の父も笹村の父も何らかの隠蔽絡みで死亡したのではと匂わされている感じですが・・・果たしてどうなのでしょう。

 

 

 

 

 

 


●青女房(あおにょうぼう)
主役・寺田兵衛
寺田兵衛は魍魎の匣に登場した「穢封じ御筥様」。“あの”久保竣工の父親ですね。
寺田兵衛の、というか、寺田家の箱作り過程については『魍魎の匣』の作中でも客観的事柄として語られていますが、今作では当人目線でより細部が分かるようになっています。
話は戦場から戻る復員船の中での元上官との会話が主になっています。題名からもわかるように、妻のことを思う兵衛の心情のお話。兵衛の妻・サトは出産後に気が触れてしまい、産まれた子供もまったく口をきかないしで、兵衛は日々辟易していました。そこに召集令状が届き、逃げるように妻子を残して出征してきたことから、兵衛は家に帰るのを恐れているのですね。

復員船の中で兵衛は妻がおかしくなったのは箱作りに夢中になった自分のせいだと反省。やり直そうと前向きな気持ちになり家に帰りますが、そこには“あの”、箱が――。さらなる苦悩の始まりということで、空恐ろしい結末ですね。

 

 


●雨女(あめおんな)
主役・赤木大輔
赤木大輔は邪魅の雫に登場。簡単に言うとヤクザ崩れのチンピラで、根は悪くないんだけど、良かれと思ってやることが裏目に出てしまう人物。『邪魅の雫』では加害者であり被害者なんですが、今作では犯行後に逡巡し、己の半生を回想。自身が殺害されるまでが描かれています。
雨の時に見える女の幻覚によって良心が揺さぶられてきた赤木の心情が話の主軸になっています。可哀想なぐらいやることが裏目に出る人生ですね。
赤木は困っている女をほっとけない質で、チンピラだけども独自の正義漢を貫こうとする男。何というか、属性(?)は木場にちょっと近いのですが、決定的な違いによって受ける印象はまったく違う。それは偽善的で独りよがりであるところ。そしてその事に無自覚であること。『邪魅の雫』では女性視点の際に散々指摘されていましたね。赤木みたいな男は確かに女性側からみると滑稽に見えるだろうなぁと思う。

 

 

 

●蛇帯(じゅたい)
主役・桜田登和子
『墓の火』に続き、こちらも未発表の長編『鵼の碑』に関係してのお話。主役の桜田登和子もシリーズ長編には登場していない人物ですね。桜田登和子は榎木津の兄が経営している「日光榎木津ホテル」に勤めているメイドで、紐状の物を異常に恐れるという恐怖症に苦しんでいて――と、いうお話。最後にはある真相が明かされるのですが、果たしてこの事が『鵼の碑』ではどう作用するのか・・・。


同僚のメイドとして『格新婦の理』『百器徒然袋-風』に登場した奈美木セツが登場しています。『百器徒然袋-風』でのゴタゴタで失職した後、「日光榎木津ホテル」に来たようです。榎木津が口利きをしたのではないかと思われます。「責任取れ」云っていましたからね(^^;)。

 

百器徒然袋 風【電子百鬼夜行】 (講談社文庫)

百器徒然袋 風【電子百鬼夜行】 (講談社文庫)

 

 

セツは相変わらずの調子ですね。他に倫子という十九歳の娘もメイド見習いとして作中に登場していて、この倫子もおそらく『鵼の碑』にも登場するのではないかと思います。『鵼の碑』は「日光榎木津ホテル」が舞台の一つとなるらしいので。この倫子、な~んか思わせぶりな感じなんですよね。何かしらありそうな予感。

 

 


●目競(めくらべ)
主役・榎木津礼二郎
百鬼夜行-陰』の方は最後に関口巽が主役の短編がボーナストラック的に収録されていましたが、この「陽」の方では榎木津が語りの短編が最後に収録されています。榎木津の語りというのは『魍魎の匣』で少~しあって以来ですので、「陰」以上に大サービスなボーナストラックだと感じる。


榎木津視点で何が語られるのかというと、ズバリ“異能の目”のこと。幼少の頃からどの様に“それ”が視えていたのかが明らかにされます。幼少期はさすがの榎木津もそれなりに戸惑っていたようですね。親父さんが目のことを訊かされて開口一番に「そうなのかい」と気楽に流しているのが可笑しい。しかし、それ以上に初対面で先輩に向かっていきなり「あんたに視えているのは他人の記憶ですよ」と云い放つ中禅寺はもっと可笑しい。別の意味で。

中禅寺にこう云われるまで榎木津自身も何が視えているのかよく解っていなかったらしいので、何の言葉も交わしていない後輩にいきなり謎の解明をされたといった妙ちくりんな展開だったんですね。中禅寺は何で話も聞いていないのに解ったのでしょう?「不思議はない」と云いますが、中禅寺自体が一番の不思議ですよね。ホント。


お話は榎木津が京極堂の座敷で中禅寺と関口と喋っている最中、「そうだな。探偵をしよう」といって事務所の名前を中禅寺が読んでいた「薔薇十字の名声」からとるところで終わっています。姑獲鳥の夏で語られていたあの逸話ですね。
他にも、榎木津が週に何度かただ昼寝しに来ている理由が座敷が好きだから(金持ちだったんで座敷の生活に馴染みがないらしい)とかいったことも分かったりしてなんともファン心をくすぐる短編になっていますので必見です。シリーズファンは絶対読むべし!

 

 

以上、十編。

 

 

 

『鵼の碑』はどうなった
この『百鬼夜行-陽』が2012年に刊行された当初、収録作に『鵼の碑』に関係している短編も含まれているとあって、「よし、やっと『鵼の碑』が刊行されるのね!」と胸躍らせたファンは多数いるだろうと思います。著者の京極さん自身もテレビ番組で「やっと出せそう」と云っていましたからね。しかし、待てど暮らせど刊行されず、もはや2020年。刊行されないままに元号まで変わってしまった訳ですが。

ファンは『百鬼夜行-陽』を読んでの期待が宙ぶらりんのままにされてしまっているのですよ・・・どういうつもりなのでしょう。なんらかの大人の事情でもあるのでしょうか。


昨年刊行された『今昔百鬼拾遺』

 

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今昔百鬼拾遺 月 (講談社ノベルス)

今昔百鬼拾遺 月 (講談社ノベルス)

 

 

でも“日光の事件”のことが言及されているので、話の内容などは当初の予定から大きく外れるものではなさそうですけどねぇ・・・。

 

『鵼の碑』について、現在分かっていることは、

●日光が舞台
●榎木津の兄が経営する「日光榎木津ホテル」が出てくる
●榎木津の兄と奈美木セツが登場する
●山にある墓が関係している
●なんらかの隠蔽が十九年前に行われた

などですかねぇ・・・。


出ない限り妄想を逞しくするしかない訳ですが。いつか!いつか読める!と夢見てこれからも日々を過していこうと思います。ま、とにかく出して下さいお願いします!と。頼みます・・・(T_T)。

 

※2023年、『鵼の碑』の発売がついに決定しました!↓

 

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そして読みました!

 

ネタバレなし↓

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ネタバレあり↓

 

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ではではまた~

 

百鬼夜行 陽 青行燈 大首 屏風のぞき【電子百鬼夜行】

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百鬼夜行 陽 鬼童 青鷺火 墓の火 青女房【電子百鬼夜行】
 

 

 

百鬼夜行 陽 雨女 蛇帯 目競【電子百鬼夜行】

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