夜ふかし閑談

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スマホを落しただけなのに3 戦慄するメガロポリス ネタバレ・感想

こんばんは、紫栞です。
今回は志駕晃さんのスマホを落しただけなのに 戦慄するメガロポリスをご紹介。

スマホを落としただけなのに 戦慄するメガロポリス (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

あらすじ
都内の清掃人材派遣会社に勤めている粟野有希は、公園で食事をしている最中にベンチの下で鳴りだしたスマホを拾う。無事落とし主である瀧嶋慎一に返したのだが、その後同棲していた彼氏の浮気がLINEの誤送信で発覚し破局。傷心していたところ、レンタルビデオ店で瀧嶋と再開し、二人は交際を始め一緒に住むことに。運命的な出会いに感謝し、瀧嶋と幸福は日々を過す有希だったが、その頃から身のまわりで不可解な出来事が次々と起こり始めて・・・。

一方、神奈川県警生活安全部サイバー犯罪対策課の刑事・桐野良一は2020年東京オリンピックサイバー攻撃対策のため、内閣サイバーセキュリティセンターに出向を命じられる。サイバー技術の腕が見込まれてではあるが、桐野が内閣によばれた最大の理由は東京オリンピックを標的にした他国からのサイバーテロに、天才クラッカーにして連続殺人鬼でもある“あの男”が協力するのではないかという情報が入ったためだった。
そんな最中、桐野の元に「内閣サイバーセキュリティセンター内に、北のスパイがいる」という手紙が届く。その手紙には“あの男”の指紋がついていた――。

 

 

 

 

 

 

 

 

スマホを拾っただけなのに~総出演のシリーズ第3弾
スマホを落しただけなのにシリーズ(?)】の第3弾。

 

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第3弾は「スマホを落しただけなのに」というか、スマホを拾っただけなのに」なお話ですね。


シリーズ2作目での事件から一年あまりが経過しており、東京オリンピックまで残り半年ほどというところから始まる舞台設定になっており、お話の主軸は東京オリンピックサイバー攻撃での攻防戦。今作が刊行されたのは2020年1月なので、随分と時事ネタが盛込まれたタイムリーすぎるほどタイムリーな物語りとなっています。

前作の『囚われの殺人鬼』は話がスケールアップしたぶん、

 

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1作目の身に迫るような恐怖が薄らいでしまっている感じでしたが、今作は国家間のサイバー上の戦いで前作よりさらにスケールアップしているものの、2020年東京オリンピックという半年後に本当に開催予定のある一大イベントへのサイバー攻撃が描かれるということで現実的な恐怖があります。“もし東京オリンピックサイバーテロにあったら”という再現ドラマを観ているような恐怖ですね。
しかし、タイムリーだからこその恐怖感なので、オリンピックが終わってしまった後だとこの怖さは半減するかもですが(^^;)。読むなら今!な小説ですね。

 

2作目の主役・桐野とその恋人の美乃里、公安の刑事である兵頭と、殺人鬼の浦井(浦井というのは本名ではないと前作で明らかになっていますが、本当の名前がまだ分からずじまいなので作中では便宜上周りに浦井と呼ばれています)が今作でも引き続き登場しています。浦井は前作の最後で国外逃亡していたのですが、今作ではサイバーテロのために北朝鮮にスカウトされ協力するという立場になっています。前作は超法規的処置として浦井が警察の捜査に協力するということで桐野と共に犯人を追う側だったのですが、今回は桐野とは敵同士。ま、国外逃亡した殺人犯なんですから当たり前でしょうけど。浦井はいまだに桐野のことを友達だと思っている模様ですがね・・・。


また、今作では1作目の主要人物である麻美と富田が結婚して夫婦として登場。シリーズ主要人物総出演の作品で、シリーズファンには嬉しい作品にもなっています。

 

 

 

 


以下がっつりとネタバレ~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

複雑に
1作目と2作目はAパート、Bパート、Cパートと3パートそれぞれの視点が交互に描かれ展開していくという構成だったのですが、今作ではA、B、C、D、Eと5パートあり、さらにこのパート以外の誰のものなのか分からない視点なども入ったりでだいぶ混線しています。短い文でころころと視点が入れ替わる構成はテンポ良くスピーディに読めて良いのですが、パートが多いぶん気を付けて読まないとこんがらがって訳がわからなくなってしまうかもしれません。


Aパートが有希視点、
Bパートがホステスを使って何やらスパイ工作らしきことをしている謎の男・竜崎視点、
Cパートが北朝鮮で浦井の通訳と世話役をつとめる女性・崔淑姫(チエスクヒ)視点、
Dパートが桐野視点、
Eパートが浦井視点

と、いった具合ですね。

 

作中での大きな謎は主に3つ。


●Bパートの謎の男・竜崎の正体
●竜崎にスパイ工作の駒として使われているホステス・蝶野泰子の正体
●有希に近づいてきた瀧嶋の正体

 

竜崎の正体は公安警察の兵頭彰。手紙にあった「内閣サイバーセキュリティセンター内に、北のスパイがいる」というのは兵頭のことで、外事警察でありながら北のためにスパイをしてきた二重スパイだったんですね。兵頭は2作目の『とらわれの殺人鬼』で終盤に桐野を窮地から救ってくれた人物だったので、この展開は前作を読んでいた人ほど驚きだと思います。今作だと麻美に浦井を誘き出す囮として協力させようとする際、随分と高圧的に意地汚く脅す場面などがあって“嫌なヤツ”感が漂っていたので「おや?」ではあったのですが。

 

兵頭(北朝鮮側)の目的は浦井に「オリンピックを攻撃させて、日本で浦井を殺害し、すべてを浦井一人がした犯行として処理すること」。麻美に無理やり協力させたりしたのも、日本で浦井を殺害するためだったんですね。日本で捕まってしまえば間違いなく死刑なのにまんまと来てしまう浦井も浦井ですが。浦井は北朝鮮エンバーミング技術を使って麻美の剥製を作ろうと恐ろしいことを目論んでいたようです。いまだにそんなに執着していたのか、麻美に・・・って感じですが(^^;)。

 

兵頭が駒として使っていたホステス・蝶野康子の正体は粟野有希。有希には病気の妹がおり、実家への送金のために蝶野康子という源氏名を使って夜は銀座でホステスをしていました。店の客筋から狙いを付けられ、兵頭からの脅しによって詳しいことを聞かされないままスパイ工作に利用されていたのです。

 

そして、瀧嶋慎一の正体は兵頭を二重スパイと疑って内偵していた人物。兵頭が協力者として利用していた有希から兵頭が二重スパイである証拠を掴もうと、瀧嶋と名乗り偶然を装って有希に接触。有希の自宅、スマホ、会社のネットワークにいたるまで徹底的に調べるかたわら、兵頭には後輩刑事の三嶋として張り付き、ずっと内偵調査をしていた。※ちなみに、三嶋という名前も偽名で本名は明かされないままです。


スリードとしては瀧嶋慎一が北のスパイであるかのように匂わせているところと、美乃里と有希のどちらがホステス・蝶野康子なのかというところですね。二人とも夜に仕事をしているらしき描写があるのですが、美乃里の方がより怪しいように書かれていますかね。美乃里は傾いた父親の会社のために奮闘していたというのが真相なのですが。今作の最後では会社にビジネスチャンスをもたらし、父親に代わって会社社長に就任しています。驚きの有能さですね(^_^;)。

 

 

 


引っかけや仕掛けが前2作以上に盛り沢山で面白いは面白いのですが、仕掛けを多く盛込んでいるぶん、展開や人物描写に雑さが目立ちます。
まず言いたいのが、麻美が浦井に襲われかけ、冷凍車に放置されてそれっきりなところです。みんな、麻美に対して酷くない?捜査に協力したからこんな目に遭ったっていうのに。陵辱されかけて冷凍車に放置されているのだから早く助けてあげてよと思う。生死の心配はないんでしょうけど、それっきりエピローグでも麻美のことについての言及がないのはどうなのかと思いますね。作者自身も麻美のことは忘れてしまったかのようです。
1作目の事件から時間が経ってはいますが、いまだにロングの黒髪のままでいる麻美も被害者心理として不自然だと感じる。浦井も逃亡者なのに迂闊だし、崔淑姫も筋金入りの北朝鮮諜報員だというわりには行動が浅はか・・・と、いうか、浦井に心惹かれる心情が意味不明。有希は元彼に未練があるのかと思いきや瀧嶋のことが忘れられないとか言うし、前作で「一国が左右される事件」と大袈裟に言っていた桐野の父親の死の真相もアッサリと明かされるし・・・・・・色々と強引だなし慌ただしいなぁと思ってしまいますね。ページ数が増えてもいいからもう少し丁寧に描いて欲しいなぁと思います。

 

今作で浦井は消息不明となっています。おそらく崔淑姫が連れて逃げたのではないかと思われるので、まだシリーズは続くのではないかと。桐野は警察辞めようかどうしよっかな~てなところで今作では終了していますので、桐野が次登場するのかは微妙ですが。桐野は浦井に友達だと思われているし、対抗できるほどのサイバー技術もあるという設定なのでシリーズから完全退場なんてことはないと思いますがね・・・どうでしょう。

どんどんとスケールアップしてきたこのシリーズ。次はどんな事件が描かれることになるのか気になりますね。今のところシリーズ全てに共通しているのは女性が服を脱がされるシーンが必ず入っているところぐらいですが・・・(^_^;)。

どうなるのでしょう。

 

 

ではではまた~

 

 

 

 

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