夜ふかし閑談

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七瀬ふたたび シリーズ三作品 小説・ドラマ・映画・・・諸々まとめ

こんばんは、紫栞です。
今回は筒井康隆さんの七瀬シリーズを紹介したいと思います。

七瀬ふたたび (新潮文庫)


七瀬シリーズ】(「七瀬三部作」「七瀬もの」)は1972年から1977年の間に刊行された筒井康隆さんの初期の代表的シリーズ。
生まれながらに人の心を読むことが出来る精神感応能力者(テレパス)である火田七瀬(ひた ななせ)という、うら若き美女が主役として活躍するシリーズで、家族八景』『七瀬ふたたび』『エディプスの恋人』の三作品が合わせてそう呼ばれます。


しかし、主役が同じ七瀬で時系列も順番であるものの、三作品とも趣はまったく異なりますので、通常思い浮かべるような“シリーズもの”とは違うアクロバティックな発展をしているのが特徴ですね。

 

 

 

三作品・概要

 

家族八景は18歳~20歳手前までの、住み込みのお手伝いさん時代が描かれています。第67回直木賞候補作。

家族八景 (新潮文庫)

家族八景 (新潮文庫)

 

 目次
●無風地帯
●澱の呪縛
●青春賛歌
水蜜桃
●紅蓮菩薩
●芝生は緑
●日曜画家
●亡母渇仰

連作短編で、タイトルの通り8編収録されています。


“お手伝いさん”として転々と移り住む七瀬が、八軒の家人たちの虚偽を抉り出すというもの。
簡単にいうと、ドラマ『家政婦は見た』のテレパス版で、「家庭」という小さなハコの異様さや危うい均衡が「家政婦」という家人以外の外側からの視点が入ることで崩壊する様などが描かれています。
テレパス云々の前に、年頃の美人がお手伝いさんとして家に住み込めばトラブルが起きるのは必至だろうとは思いますけどね(^_^;)。七瀬が読み取る男たちの心の声がえげつない。一体男性というのは、そんなに美女を前にすると即スケベなことを考えるものなのか・・・。作品と作者自身を同一視するなといいますが、少なくとも作者はそうなのかなぁ~とかどうしても思っちゃいますね・・・。朴念仁というか、色欲が薄い男性もいそうなものですが。
成長と共にグラマーになり、性的な関心ばかり向けられるようになった七瀬は限界を感じ、最終話の「亡母渇仰」でお手伝いさんを辞めることを決意します。

 


二作目の『七瀬ふたたび』は 

七瀬ふたたび (新潮文庫)

七瀬ふたたび (新潮文庫)

 

 

20歳になり、お手伝いさんを辞めた七瀬は、母の実家に向かうために乗った夜行列車内で七瀬と同じくテレパスである幼い少年・ノリオと、予知能力を持つ青年・恒夫と出会う。恒夫は列車が事故に遭うことを予知し、七瀬ら三人は途中の駅で降りて難を逃れる。
その後、七瀬はさらに念動力(テレキネシス)を持つ黒人・ヘンリー、透視能力を持つ西尾、時間遡行が出来るタイム・トラベラー・藤子と、次々と超能力者と出会い、協力し合ったり時には対決したりする。
能力者であることを隠すためにノリオ、ヘンリーとの静かな生活を求め、北海道にホステスで貯めた金で家を買った七瀬は、カジノでテレパス能力を使って生活費を稼いだことから謎の超能力者抹殺集団に存在を知られてしまい・・・。

 

という、『家族八景』とはうって変わっての超能力バトルサスペンスもの。
シリーズのなかでは一番エンタメに特化していて、映像化を何度もされていて知名度が高いのが『七瀬ふたたび』だと思います。
“七瀬ふたたび”という、タイトルが印象的で良いですよね。一作目を知らない人にとっては何で“ふたたび”なのか分からないとは思いますが。
次々に新たな能力者と知り合っていく過程や対決などが面白いです。スピード感のあるストーリーで、特にラストの超能力者抹殺集団(おそらく国が直接関わる集団)との戦は展開があまりにも早くてビックリする。「あと何ページもないけど収拾つくのこれ?」と、ハラハラして・・・ハラハラしたまま終わる

 

 


三作目の『エディプスの恋人』 

エディプスの恋人

エディプスの恋人

 

 はシリーズ最終作。前作のラストからは想像も出来ない続編となっていて、なんと言ったら良いのか分からない代物になっています。SFではあるとは思いますが。とりあえず、とんでもなくぶっ飛んでいる作品
詳細は後述しますが、ストーリーの都合上か、シリーズのなかで今作だけは一度も映像化されていません。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドラマ・映画・漫画

 

家族八景は今までに単発ドラマが2本、連続ドラマが1作制作されています。

 

1978年版はTBS系列の『東芝日曜劇場』にて「芝生は緑」というタイトルで単発ドラマとして放送。多岐川裕美さんが火田七瀬を演じました。

 

1986年版はフジテレビ系列の木曜ドラマストリート枠で家族八景 18歳の家政婦は見た!!すべての秘密は今暴かれる?』と、なんとも時代を感じさせる長いタイトルで単発ドラマとして放送。火田七瀬役は堀ちえみさん。

 

2012年版はTBS系列の深夜ドラマ枠で家族八景 Nanase,Telepathy Girl’s Ballad』のタイトルで連続ドラマ化。火田七瀬役は木南晴夏さん。

 

 原作のお話はすべてやっていて、七話目の「知と欲」はドラマオリジナルエピソードらしい。
地方では放送されなかったらしく、私はこの連ドラをまったく知りませんでした。『家族八景』を堤幸彦監督が映像化しているなんて、観られていたら絶対に観たのですが・・・残念(^_^;)。

 


漫画
家族八景』は漫画化もされています。

  

 

 

 

 

 

『七瀬ふたたび』テレビドラマ・映画と全部で5回映像化されています。

 

●1979年「NHK少年ドラマシリーズ」版 

NHK少年ドラマシリーズ七瀬ふたたび  (新価格) [DVD]
 

キャスト
火田七瀬多岐川裕美
ノリオ新垣嘉啓
岩淵恒夫堀内正美
漁藤子村地弘美
ヘンリーアレクサンダー・イーズリー 

 

全13話。上記した「芝生は緑」で七瀬役を演じた多岐川裕美さんがこちらでも兼任。放送は「芝生は緑」より後になったものの、制作はこの「NHK少年ドラマシリーズ」の方が先に終わっていたようで、この作品での多岐川裕美さんの七瀬が気に入って、原作者である筒井康隆さんが「芝生は緑」の方でも多岐川裕美さんを七瀬役に推薦したのだとか。

 

 


●1995年「木曜の怪談」版
キャスト
七瀬水野真紀
恒夫袴田吉彦
藤子秋本祐希
西尾筒井康隆

全6回。「木曜の怪談」は1995年~1997年にフジテレビで放送されたテレビドラマ。オカルトチックなドラマを続けて放送するドラマ枠といったもので、その中の1作として放送されました。西尾役を原作者の筒井康隆さんが演じていますね。

 


●1998年「テレビ東京ドラマシリーズ」版

七瀬ふたたび 涅槃原則 [DVD]

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  • 発売日: 2010/01/29
  • メディア: DVD
 

キャスト
火田七瀬渡辺由紀
ノリオ安達哲
岩淵恒夫谷原章介
漁藤子篠原直美
ヘンリーSLY・ATAGA

全13話。『七瀬ふたたび 超能力者・完全抹殺』のタイトルで放送。こちらにも藤子の父・漁連平役で筒井康隆さんが登場しています。

 

 


●2008年「NHKドラマ8」版

キャスト
七瀬蓮佛美沙子
岩淵恒介塩谷瞬
漁藤子水野美紀
真弓瑠璃柳原可奈子
ヘンリー郭智博

全10回。登場人物の名前が一部変更されていたり、七瀬が介護ヘルパーでテレパス能力に目覚めたのが途中からだったり、岩淵がマジシャンだったり、物語りに七瀬の父親(小日向文世)が深く関わっていたり・・・と、原作とはかなり異なるものになっています。
また、このドラマでは七瀬が“アクティブ・テレパスたる、原作にはない、他者の潜在意識に働きかけることが出来る能力も開花させていたらしいです。おそらく“アクティブ・テレパス”という言葉はこのドラマでのみの造語だと思うのですが・・・どうなのでしょう?


劇場版(2010年)

七瀬ふたたび [DVD]

七瀬ふたたび [DVD]

  • 発売日: 2011/04/07
  • メディア: DVD
 

キャスト
火田七瀬芦名星
漁藤子佐藤江梨子
岩淵了田中圭
真弓瑠璃前田愛
ヘンリー・フリーマンダンテ・カーヴァー
山沢ノリオ今井悠貴

 

筒井康隆作家生活50周年記念映画」として上映された初の劇場版。

原作に忠実に~ということで作られたらしいですが、登場人物の名前から割と変更されていますね・・・。原作との時代背景の違いからラストも違うものになっています。原作のラストはどの時代でも救いがなさ過ぎるものだと思いますけども。この映画だとまだ希望が持てる結末になっている。
制作が難航したらしく、七瀬役もなかなか決まらなかったようですが、クールな美貌が原作に近いと芦名星さんが抜擢されたのだとか。原作者の筒井さんは「もっとも七瀬らしい七瀬」と評されています。

また、この映画の本編前に『七瀬ふたたび プロローグ』という10分間の短編映画が上映されたのですが、七瀬の母親役で初代七瀬役を演じられた多岐川裕美さんが出演しています。監督は中川翔子さんで、これが初の監督作品。中川さんは筒井康隆さんの大ファンでそういうことになったらしい。色々と凄いですね。

 

 


漫画
『七瀬ふたたび』も『NANASE』というタイトルで漫画化されています↓

NANASE(1) (ヤンマガKCスペシャル)

NANASE(1) (ヤンマガKCスペシャル)

 

 

 

 

 

 

 

 


以下、原作小説のネタバレ~

 

 

 

 

 

 

 

 

 


宇宙へ
シリーズ二作目の『七瀬ふたたび』は、七瀬とその仲間たちが超能力者抹殺集団に全員殺害されてしまうところで終わっています。

超能力者抹殺集団は国の組織であるらしいというだけで詳細は明かされぬままに、七瀬たちは訳のわからぬ集団に殺されて終わるとあって、読後はポカーンとしてしまいます。


で、「じゃあ三作目の『エディプスの恋人』はどうなっているのだ!」と、慌てて読んでみたらば、前作で死んだはずの七瀬が何故か私立高校の事務職員として登場して益々ポカーンとすることに。

 

ノリオ達のことも抹殺集団のことも触れられぬままに物語りは進み、七瀬は特別な力で守られているらしき男子高校生・智広の謎を追ううちに、その少年と恋に落ちていく。初恋に夢中になる七瀬だが、智広を守っている「意思」の正体に気づく。
少年を守っていたのは亡くなった彼の母親・珠子の「意思」。珠子は死んだあと生前の奉仕精神が見込まれ、「宇宙意思」として選ばれた超絶対者、我々がいうところの「神」となっていた。
「彼女」は息子を溺愛しており、死んで神となった後も息子をその超絶対者的力で守り続け、息子の恋人にもっともふさわしい者として七瀬を選び蘇らせる。

二人が恋人になるようにとりはからった「彼女」の目的は、息子の将来をおもんばかってという他に自身の近親相姦的願望を成就させようというものがあり、息子の“初めて”を七瀬の身体を通して“いただく”ことだった。

かくして、七瀬は破瓜の瞬間に「彼女」に身体を盗られ、「彼」と睦み合っている自分の姿を宇宙視点で傍観させられることとなる・・・・・・。

 

 

 

わけがわからないよ!

と、叫びたい衝動に駆られますね(^^;)。


一応、前作の『七瀬ふたたび』の終盤で多元宇宙の話をしていたりするのが前振りになっているのかとは思われますが、まさか息子を溺愛する全知全能の神を出してくるとは恐れ入りましたといった感じ。こんな神様いやだ・・・。

 

家族八景』で「家庭」という普遍的なハコを描き、『七瀬ふたたび』で秩序を守ろうとする国との戦を描き、『エディプスの恋人』で「神」との接触を描く。
シリーズは段々スケールアップしているという訳ですね。

 

意思の操作も、存在させることも非存在にさせることも思いのままに出来る「神」が相手では、テレパスの七瀬も太刀打ちしようがありません。
すべてが「彼女」の思うままになる世界で、七瀬は自己の非現実感を強めつつも「彼女」の望む“エディプスの恋人”(※エディプスはギリシャ悲劇の最高傑作といわれる『オイディプス王』から。父と知らずに父を殺し、母と知らずに母と交わってしまったオイディプスの悲劇が描かれている戯曲)の役割を果たすしかないという事実を確信したところで物語りは終わっています。

 

 

能力を持ったが故に世間に溶け込めず、国には脅威として抹殺され、遂には「神」に理不尽に存在を弄ばれる。
三作とも趣が異なる作品ですが、七瀬という女性の悲劇の顛末を描いているのがこのシリーズなのだといえるのかもしれません。


火田七瀬の悲劇三部作。気になった方は是非。

 

 

家族八景 (新潮文庫)

家族八景 (新潮文庫)

 

 

 

七瀬ふたたび (新潮文庫)

七瀬ふたたび (新潮文庫)

 

 

 

エディプスの恋人

エディプスの恋人

 

 


ではではまた~

 

 

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