夜ふかし閑談

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『太陽は動かない』映画 原作小説2作 まとめて紹介!

こんばんは、紫栞です。
今回は吉田修一さんの『太陽は動かない』『森は知っている』の二作品の紹介と感想を少し。

太陽は動かない (幻冬舎文庫)

 

鷹野一彦シリーズ
『太陽は動かない』『森は知っている』は産業スパイの鷹野一彦を主役とした【鷹野一彦シリーズ】のうちの二作。シリーズは2020年5月現在3冊刊行されていて、一作目が『太陽は動かない』、二作目が『森は知っている』、三作目が『ウォーターゲーム』

 

今年『太陽は動かない』のタイトルで映画公開予定(※延期されていましたが、2021年3月5日に公開決定しました)なのですが、原作として使われているのが『太陽は動かない』と『森は知っている』の二作らしいので、まずこの二作を読んでみました。

『怒り』『悪人』など重厚な人間ドラマを描くことで有名な吉田修一さんですが、

 

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このシリーズは産業スパイが主役ということで、超直球でド派手な“スパイ大作戦”が展開されるというTHE・エンタメな作品になっています。吉田さんのファンの人ほど新鮮なシリーズになっているようですね。

 


心臓に爆弾!
かつてNHKで計画されていたアジアの情報を日本で集めてネットワークを作り、各世界のニュース局も合わせて24時間のワールドニュースを放送しようという、『GNN構造』
スキャンダルにより頓挫してしまったが、この計画のために使われるべき金がプールされて作られたのが、主役の鷹野や部下で相棒の田岡が所属している「AN 通信」で、表向きネットでアジアの情報を発信する小さな通信会社ですが、実体は機密情報を高値で売ることを目的とする諜報活動をしている組織。
アジア各国から集めた情報を大衆のために使うことから、一部の者たちのために使うことにシフトチェンジされたという設定なのですね。(※NHKはもう関係していない組織とされている)

 

で、この「AN 通信」なんですが、諜報員をどうやって調達しているのかというと、主に親から虐待などを受けている子供を秘密裏に引き取り、徹底的に訓練して諜報員に育て上げるというもの。
そうして「AN 通信」の諜報員になった者には情報の持ち出しを防ぐために心臓に爆弾が埋め込まれる。毎日決まった時間に上司に報告を入れないと遠隔操作でボンっ!とされてしまう訳。


スパイ活動をしているなかで毎日定時連絡入れなくちゃいけないのですよ。仕事内容的に規則正しい生活が出来るハズもないですし、取り込み中で連絡が出来ないような状況下はもちろんですが、単に寝過ごしちゃっただけでも駄目なんでしょうからかなりキツい。
危険なミッションをこなすことの他に、定時連絡をしないと死んでしまうという危機と、自身の命を常に他者の思うままにされている諜報員たちの心情が物語りに緊迫感とドラマを与えています。

 

 

 

 

 


では順番にご紹介。

 

 

 

 

 

 

●『太陽は動かない』

 

太陽は動かない

太陽は動かない

 

次世代エネルギー開発の利権争いを巡ってのゴタゴタが描かれる作品。


鷹野と部下の田岡コンビが中心として展開されますが、他にも鷹野の商売敵で昔からライバル関係にあるハンサムスパイのデイビット・キム、謎のゴージャス美女のAYAKO、色々と複雑な事情がありそうな鷹野の上司・風間など、スパイものではお馴染みで“いかにも”なキャラクターたちが登場しています。

 

スタジアムが爆破され、ヘリが落され、船が沈められて、田岡は捕まって拷問されるし、鷹野も捕まって拷問されるし・・・もう、スパイもので起こりそうな事柄すべてが詰め込みました!な、ストーリー。

読みながら「損害額が・・・」とか要らん心配をしてしまう(^_^;)。映画化されるのですが、原作通りにするなら相当制作費かかるだろうなぁと思う。今まで「映像化不可能!」とか言われていたらしいですが(この謳い文句は結構何にでも付けられていたりしますが・・・)、予算のせいでそう言われていたのですかね。

 

情報戦のやり取りが割とややこしく、完全には理解出来なくって部分的にフワッと読んでしまったのですが(^^;)。派手な展開をしてくれるのと、各登場人物たちにその都度感情移入出来るので面白く読めます。
こういった産業スパイものだと裏切りや人材の切り捨てが当たり前の殺伐とした世界が描かれがちですが、今作は出て来る人物たちがスパイだったり政治家だったりするものの、弱さがあったり、最終的に良心を棄てきれないような人間味溢れる人物が多く、巻き込まれて拉致された発明家や船員さんたちまで良心的。本来ならもっと悪意にまみれそうな場面なのですけどね。読むと「人間、棄てたもんじゃないな」と。

 

メインの鷹野と田岡もお互いが危機に瀕していると全力で助けようとしていて、これもスパイらしからぬ良さが。上司の風間さんもね。
デイビット・キムやAYAKOは時と場合によって敵にも味方にもなるという、スパイものの醍醐味的なキャラクターで楽しませてくれます。終盤のところとか「デイビット~!」って叫びたくなる箇所が。この二人はシリーズで今後も出続けてくれるのを希望。

 

エピローグの「大草原」で乗馬している様子が平和的でほっこりする。死にいつも晒されている鷹野や田岡にも気を抜くことが出来る時間があることにホッとしますね。

 

 

 

 

●『森は知っている』 

森は知っている (幻冬舎文庫)

森は知っている (幻冬舎文庫)

 

こちらは鷹野が17歳の時のお話。鷹野は虐待していた親の元から離れた後、風間さんの家で家政婦さんに面倒を見てもらいながら過していたのですが、数年前から南蘭島という南の島で普通の高校生活をおくる一方で、諜報機関の訓練を受けているという設定。


ある日、同じく「AN 通信」諜報員として訓練を受けていた親友・柳が鷹野に手紙を残して失踪。逃亡なのか、裏切りなのか、柳の行方を案じながらも鷹野は訓練の最終テストとなる初仕事に挑むが――。
な、お話。

 

収容所みたいな施設での訓練かと思いきや、自然豊かな南の島で普通の高校生をしつつという、「最後に人並みの青春もさせてやる」みたいな訓練生活。
友達とワチャワチャ騒いだり、転校生の女の子・詩織との淡い恋が繰り広げられる裏で、スパイ教育を受けているというギャップが読んでいてやるせない。どんなに楽しい青春を過していても、18歳になって待ち受けているのは心臓に爆弾を埋め込まれてのスパイ活動ですからね。他同級生と同じように卒業後の進路を夢見たり出来ないし、恋をしても組織とは無関係の一般人との将来なんて考えられないし、若き鷹野の心境を思うと悲しくて切ないです(-_-)。


個人的に、この詩織ちゃんと鷹野の何気ないやり取りや恋模様の淡さ具合が好ましかったですね。生々しいところまでいかない匙加減が良い。お互いに“なんてことはないけど大切な思い出”になるのだろうな~と。

 

デイビット・キムとの初対面や、風間さんが足を失った理由なども知る事が出来て、前作を読んでいる読者には嬉しいです。こちらを先に読んでから『太陽は動かない』を読んでも良いと思います。「鷹野・・・立派になって・・・!」って感じになるかな。
風間さんも、家政婦の富美子さんも、鷹野のことを非常に思いやっていて感動します。過酷な環境下に置かれている鷹野ですが、身近にこういう人がいてくれているということに救われますね。
デイビットは昔っから鷹野とこんな感じだったのかと、読んでいるとなにやら愉快な気分になる。
柳やその弟の寛太は今後シリーズで触れられることはあるのですかね?気になるところです。

 

一作目の『太陽は動かない』や三作目の『ウォーターゲーム』から考えると番外編的位置付けのお話なんでしょうが、本編とはまた違った面白さがあってグイグイ読ませてくれます。田岡が登場しないのは少し寂しいですけどね。

 

 

 

 

 

 

 

映画・ドラマ
映画は2020年5月公開予定でしたが、感染症の騒動により公開延期となっています。

キャスト
鷹野一彦藤原竜也
田岡亮一竹内涼真
風間武佐藤浩市
デイビット・キムピョン・ヨハン
AYAKOハン・ヒョジュ
柳勇次加藤清史郎
菊池詩織南沙良

 

タイトルは『太陽は動かない』ですが、柳や詩織ちゃんがキャストに組み込まれているので、回想という形で『森は知っている』の内容も映画で描かれるのかなぁと思います。

鷹野の同僚で田岡の指導をした「AN 通信」エージェントとして原作には登場しない山下竜二(市川隼人)たる人物がいることと、原作では重要人物の一人だった青木優の名前が映画紹介に書かれていないので結構オリジナル要素が入るストーリーなのかも知れないですね。


映画と連動しての企画だったWOWOWドラマ『太陽は動かない-THE ECLPSE-』は予定通りに放送開始されています。全6話。

 

ドラマ版は原作者・吉田修一さん原案によるオリジナルストーリーになっているようです。無料配信されている一話目を観たのですが、鷹野と田岡が組まされることになっての初事件になっていました。原作ではこの二人の初対面は描かれていないので、原作ファンにとっても興味深いお話ですね。

 

 

 

 

 

 

 

一日を生きる
設定からして、鷹野たちが所属する「AN 通信」は非人道的組織に違いはないのですが、作中では「AN 通信」の本部に対しての批判だとか怒りだとかは描かれていません。“本部”自体が存在感を持っていない作品なのですよね。いまのところ・・・と、いうだけかも知れませんが。


心臓に爆弾が埋め込まれているという特殊設定を使ってこのシリーズが描きたいのは「一日を生きる」ということだと思います。

 

「生きるのが苦しいんなら、いつ死んだっていい!でも考えてくれ!今日死のうが、明日死のうがそう変りはないだろ!だったら、一日だけでいい・・・・・・、ただ一日だけ生きてみろ!そしてその日を生きられたなら、また一日だけ試してみるんだ。お前が恐くて仕方ないものからは、お前は一生逃げられない。でも一日だけなら、たったの一日だけなら、お前にだって耐えられる。お前はこれまでだって、それに耐えてきたんだ。一日だ。たった一日でいいから生きてみろ!(略)」

 

作中で風間さんが幼い頃の鷹野に言う台詞なのですが、まるで今生きるのが辛いと苦しんでいる人すべてへのメッセージのように思えますね。

 

「AN 通信」では35歳まで任務を無事遂行できれば爆弾を外されて自由の身となり、望みを何でも一つかなえてもらえるという約束があります。信憑性は定かでなく、そんな約束が果たされるのを夢見るのは馬鹿馬鹿しいとされていますが、シリーズの最後に鷹野がどうなるのか見届けたいものです。


とりあえず、私は三作目の『ウォーターゲーム』を読まないとですが(^_^;)。

 ※読みました!詳しくはこちら↓

 

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ではではまた~

 

 

太陽は動かない

太陽は動かない

 

 

 

森は知っている (幻冬舎文庫)

森は知っている (幻冬舎文庫)

 

 

 

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