夜ふかし閑談

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秘密-トップ・シークレット6巻「コンビニ店員惨殺事件」ネタバレ・あらすじ

こんばんは、紫栞です。
今回は清水玲子さんの『秘密-トップ・シークレット』

 

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6巻収録の「コンビニ店員惨殺事件」をご紹介。あと「特別編」も。

 

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あらすじ
2059年8月。コンビニエンスストア店員の小島郁子が同僚である山崎正、神内忍に突如包丁で襲いかかり殺害。さらに逃げ出した同じくコンビニエンスストア店員の佐藤佳代子を路上まで追いかけて公衆の面前で刺殺し、その際に巻き添えとなって重傷を負った通行人一人も病院で二日後に死亡するという事件が発生。
小島郁子は犯行後に自宅で自殺。郁子の同居人である父親は認知症のため証言をすることは困難を極めた。通行人を含む4人を惨殺するという女性犯罪では稀な事件であり、動機と原因を究明するべく小島郁子と被害者たちの脳は科学捜査研究所「第九」研究室で『MRI』にかけられることとなり、室長の薪と新たに「第九」に配属された岡部・曽我・小池らは捜査に当たる。
被害者の山崎正は大学で介護や医療に関心があり、何度か好意で小島郁子の父親の介護を手伝っていた。山崎と交際していた佐藤佳代子はそのことが面白くなく、幾度も小島郁子を詰問していた様子が確認されたこと、郁子には虚言癖があったなどの事実から、当初事件は郁子の山崎への横恋慕が叶わぬゆえの犯行だと推測された。だが、『MRI捜査』を進めるうちに犯人・小島郁子の意外な事実が明らかとなり――。

 

 

 

 

 

 

 


薄いけど重い
この「コンビニ店員殺害事件」は青木が「第九」に配属される少し前の事件。時系列としては「貝沼事件」捜査中に薪さんが正当防衛で鈴木を撃ち殺してしまってから数日後、壊滅状態になった「第九」に岡部さん、曽我、小池の3人が配属されたばかりの頃の事件。

青木は登場せず、視点は主に岡部さんで描かれているのでスプンオフというか、ちょっとした過去編てな感じのお話ですね。そのためページ数は他の巻に比べると少なく、本の厚さもシリーズのなかでもっとも薄いです。が、厚さは薄くとも中身は激重いので侮っちゃダメ。私は貸した友達皆に「重すぎて辛い」と言われた苦笑ものの思い出があります(^_^;)。

 

お話は岡部さんが「第九」に配属されて、薪さんと初対面するところから始まるのですが、この時の岡部さんは『MRI捜査』なんて「のぞき見と同じじゃないか」と否定的な意見を持っていて、初対面の薪さんにも嫌悪感剥き出し。青木が知る“薪さんの一番の側近”的姿からは想像も出来ないものでした。

この2人にもそれなりのドラマがあったということで、薪さんと岡部さんの馴れ初め話が描かれているのはファン必見ですね。岡部さん回に外れなしです。

 

 

 

 

動機の解明
今作の事件は小島郁子という女性が包丁で4人を惨殺したのは疑いようのない事実であり、犯人も被害者もみんな死んでしまっているので一見するとわざわざMRIで脳見る必要があるのか?と、いう気がするのですけども。
しかし、みんな死んでしまっているからこそ「虚言癖のある中年女が若い男に入れあげて恋人もろとも惨殺した」という“検察側”にあたる一方的な見解だけでなく、“弁護側”にあたる犯人側“郁子の脳”を見ないと事件の「客観性」が得られないってな訳で。つまり、動機を解明することに絞られたお話になっています。

 

 

 

 

 

 


以下ネタバレ~

 

 

 

 

 

 

 

 

 


幻覚
犯人の小島郁子は40歳で化粧っ気のない顔にシミ・シワが目立ち、体型は小太り。それでいて恰好は年齢に似合わぬ少女趣味。作中の文面では“少女趣味な服”となっていますが絵をみるとこれは明らかにピンク〇ウスですね。どんな恰好をしようと個人の自由だし、現に高齢でも肥満体型でもピン〇ハウスが好きで着ている人は訳で他人がとやかく言う筋合いはないのですが、妄想のようなことも口にする郁子は端から見ると“イタイタしい人”と捉えられていた。


MRIで郁子の脳を見てわかったのは、郁子が「自分が美女に見える幻覚」をみていたこと。

郁子は数年前に母が他界、その後父親が認知症となり介護のため地元に戻ることになった郁子は東京での服飾メーカーでの勤めを辞め、結婚間近だったものの破談に。頑張ってきた仕事と家庭を持つことが一度に奪われ、認知症の父親に文句を言われながらの汚物まみれの毎日でこの先明るい展望もない。

ストレスをため込み、精神的に追い詰められ自殺未遂を繰り返すものの、父親を残して死ぬことも出来ない郁子は「美しい幻想の世界」を造り出し逃避することでこの生活に耐えていたのですね。

 

「現実」や「真実」はもう彼女にとって意味がない


そしてこの頃は多分 彼女にとって一番幸せな日々だった

 

「幻覚」は郁子が“死なずにいるため”に必要不可欠なものだったのです。

 

 

 

 

 

余計なお世話
そんな郁子に職場の同僚たちはにバカにしたり陰口を言ったりしていましたが、ただ1人、山崎正だけは郁子に常に親切で医療や看護等に興味があったこともあり、気にかけて介護の手伝いをしたりと他の誰よりも郁子の事を、将来を心配していました。


そして山崎は「幻想の世界」に住んでいる郁子を「治してやろう」と思い、心療内科医から手に入れた幻覚・妄想の症状を抑える安定剤を飲ませ「現実をちゃんと見て!!」「空想の世界に逃げてばかりじゃダメだ!!」「この先もあなたが何年も働いてお父さんを助けていくんでしょ?」「あなたがしっかりしてお父さんを支えてあげないで」「この先一体どうするんですか」と郁子にとっては耳を塞ぎたい、耐えがたいことを言いつのる訳です。

 

郁子じゃなくとも、40歳でお先真っ暗なときに20歳の大学生にこんなこと言われたら死にたくもなるって感じですが。

 

「幻覚」を薬で抑えられたあげく、こんな絶望的な現実ばかり言われ続けて、「この先はいらない」「こんな現実ならもういらない」と郁子は凶行に走ってしまったというのが事の真相。山崎が郁子に渡した安定剤は試薬段階の強い成分も入っていたらしく攻撃性が増してしまったというのもあるのだとか。

 

 

山崎正は真実”いい人”なのだろうし、郁子にしたことも100%の善意なのでしょうが・・・個人的には読んでいると郁子にばかり同情してしまいますね。


お話の導入部分で郁子が「誰にも迷惑はかけてなかったのに・・・ちゃんとしてきたのに・・・」と言っているように、郁子は「幻覚」をみつつもコンビニの仕事も父親の介護もしっかりこなして社会に適応していました。“空想の世界に逃げちゃだめだ”というが、そもそも目を覚まさなくてはいけないのか。郁子と“趣味が日々の息抜きになっている人”との間にどれほどの差があるというのか。
すべきことはしてキチンとして生活出来ているのだし、山崎がやったことは要らぬお節介、余計なお世話と捉えてしまいますよね。
山崎が何もしなかったにしても郁子の「幻覚」はどこかで限界がくるのかもなぁという気もしますが。いずれにせよ、治してやろうとするならするで、もっとちゃんとした治療の段階を踏んでいかないとダメですよね。素人が薬渡して説教して~・・・なんて、やっぱり浅はかですよ。

 

 

と、郁子への同情ばっかりになりそうなところを「気の毒なのは何の関係もないのに殺された3人だ」と薪さんがしっかり言及しているところがこの漫画だなぁと思う。確かにそりゃそうだ。


MRI捜査』されなければ「虚言癖のある中年女が若い男に入れあげて恋人もろとも惨殺した事件」として片付けられていたということで、状況証拠や物証では絶対にわからない真実をMRIだと明らかに出来ると改めて示される事件ですね。

 

 

 

 


特別編
巻末に「2008 特別編」という短編が収録されています。
こちらは青木が主役で、2年前に鈴木の脳を見たことで※1巻参照↓

 

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青木が自身の気持ちが鈴木の脳映像に感化されてしまっているのではないかと思い悩むお話。捜査員の精神を破壊しまくった貝沼の脳を、鈴木の脳を通して見た割にはかなり平気そうで「たくましいな青木」って感じだったのですが(ラリってたけどね※1巻参照)、やっぱり思わぬ形で弊害が生じている。発端は鈴木の元婚約者である三好先生と付き合い始めたからですね。

それだけでなく、この特別編は実は思わぬ形でシリーズの伏線になっているので読み飛ばし注意です。

 

 


そんな訳で、薄いけれどもいつものように重厚な物語りが描かれているので是非。

 

ではではまた~

 

 

 

 

 

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