こんばんは、紫栞です。
今回は東野圭吾さんの小説シリーズ【ガリレオシリーズ】をまとめてご紹介。
概要
【ガリレオシリーズ】は帝都大学理工学部物理学科助教授(准教授)の湯川学が探偵役を務める推理小説のシリーズ。
パターンとしては、警視庁捜査一課の草薙俊平が奇怪な事件に直面したときに湯川の元に相談しに訪ねて・・・と、いう、よくある刑事のブレーンもの。湯川と草薙は大学時代の同級生で友人。因みに、“ガリレオ”という名称は学生時代の湯川につけられた綽名から。警察への貢献が相次ぐと今度は警察内でも「ガリレオ先生」と呼ばれていたりします。
作者の東野圭吾さんは大阪府立大学電気工学科卒の元エンジニアさん。そんな前歴からか、科学・物理学を題材にしたミステリーを書きたいという思いからうまれたのがこのシリーズで、長編はともかく短編は科学的専門知識がないと謎が解けないものが殆どです。
なので、ま、読んでいてもまず解けないんですけども。通常推理小説というのはフェアに情報を提示して読者が謎解きを出来るように書かれるものですが、このシリーズは(特に短編は)推理小説の謎解きと物理学の面白知識、二つの要素の匙加減を楽しむミステリですね。
ドラマとの違い
東野圭吾さん自体が売れ売れの作家さんであるものの、この【ガリレオシリーズ】は2007年にフジテレビでドラマ化されたことで一気に世間での認知度が上がったシリーズだと思います。
ドラマでは湯川学を福山雅治さんが演じており、相方の刑事は草薙俊平から女刑事の内海薫に変更されて柴咲コウさんが演じていました。おそらく女性を相方にしてドラマを華やかにしようという目論みでの変更なのだと思います。原作は男性二人で交わされる友人間のやり取りが割と楽しいのですがね。オヤジ二人じゃダメですか・・・。ま、ドラマの湯川と内海のやり取りも面白かったですけど。
じゃあ草薙はドラマではどんな扱いになっているのかというと、湯川の協力の下解決した数々の功績が認められて本庁に栄転。内海に湯川を紹介するという役回りをし、その後は原作と比べると極端に出番は少ないものの、ドラマシリーズや映画で時偶登場しています。演じているのは北村一輝さん。
原作の湯川はドラマのような容姿端麗・スポーツ万能、女子大生にキャーキャー言われるような大人気の先生ではなく(有栖川さんの【火村シリーズ】がドラマ化された際、モテモテの准教授という原作の設定が変更されたのは『ガリレオ』で先にやられてしまったせいだと勝手に思っている・・・)、いきなり方程式を書き始めたり決めポーズしたり決めゼリフを言うこともないし、草薙もあんなエキゾチックな顔立ちの女性に受けが良い刑事ではない。ドラマ版では女性刑事を相方にするという変更以外にも色々な点が華やかになっています。
原作でもシリーズ途中から女刑事で草薙の部下として「内海薫」が登場して重要な役割を担っています。まるでドラマオリジナルキャラクターであるかのような「内海薫」ですが、ドラマ化されるより少し前に原作に先に登場しています。細かな設定はドラマとは異なるのですが、容姿などは何となく役者さんによせている。
このドラマシリーズはヒットして、スペシャルドラマや映画、連続ドラマの第二シリーズも制作されたのですが、第二シリーズからは大人の事情なのか相方がまた別の女刑事・岸谷美砂(吉高由里子)に変わっています(やっぱりオヤジ二人じゃダメなようだ)。
今度は内海が異動になって湯川の後任を岸谷に~と、いう流れ。湯川担当をいちいち設けるのは警察機構としてどうなんだって感じですが。内海とは違い、岸谷美砂は今のところ原作には登場していません。
では原作小説を刊行順にご紹介。
『探偵ガリレオ』
短編集。
- 燃える(もえる)
- 転写る(うつる)
- 壊死る(くさる)
- 爆ぜる(はぜる)
- 離脱る(ぬける)
の、五編収録。
シリーズの名称そのままのタイトルの短編集。ガリレオシリーズの短編はこの第1弾の短編集以降も一貫して3文字の当て字タイトルがつけられています。私はこの当て字タイトルが「次はどうくるか」というのも読んでいる上での楽しみの一つになっていました。話の内容ともちゃんとマッチしていてセンスの良さが光っているなぁと感じる。
『予知夢』
短編集。
- 夢想る(ゆめみる)
- 霊視る(みえる)
- 騒霊ぐ(さわぐ)
- 絞殺る(しめる)
- 予知る(しる)
の、五編収録。
連続ドラマの第1シーズンで映像化されたのはこの短編集までになります。ドラマだと最終回で東京が大爆発だなんだと劇的な展開をしていましたが、原作ですとここまでの短編は草薙がオカルトチックな事件に直面して湯川に相談するというパターンがほぼほぼですね。
『容疑者Xの献身』
長編。第134回直木賞受賞作。
直木賞受賞作だからということもありますが、シリーズの中でというか全東野圭吾作品の中でも一番有名なのではないかというのがこの長編小説。
あまりにも有名で刊行当初は様々のミステリランキングで上位となり、評価されまくった作品で反響が大きいぶんその評価に物申す人も割といたりしますが(それだけ多くの人に読まれているってことなんですけどね)、なんやかんや言ってもやっぱり作者の代表作で傑作に数えられるべき作品だと思います。東野圭吾作品を読みあさっている人は「有名だから」とあまのじゃく気取って「あえて避けて通る~(^^)」とかせずに、とりあえず読んでおけよと思う。
読者の虚を突くトリックが素晴らしく、終盤で湯川がトリック解明のときにいった一言ですべてが解ったときは読んでいて興奮しました。それと同時に“献身”でこんな事までしてしまった容疑者に哀しさや残念な気持ちが押し寄せて切なくなってしまったんですけど・・・。
前2作の短編集とはだいぶ雰囲気が異なり、主役も湯川や草薙というよりは“容疑者たち”の方といった感じ。
2008年にドラマと同じキャスト・スタッフで映画化されることとなり、その情報を聞いた当初は「ドラマのあのコミカルさと『容疑者Xの献身』は絶対相容れないだろうけどどうするんだろう?」と思ったものですが、同じキャスト・スタッフであるものの、劇場版はドラマとは一味違う重厚感がある映像で確り原作の雰囲気に合わせていたので安心した記憶が。
映画も良作ですのでオススメ。
『ガリレオの苦悩』
短編集。
- 落下る(おちる)
- 操縦る(あやつる)
- 密室る(とじる)
- 指標す(しめす)
- 攪乱す(みだす)
の、五編収録。
この短編集から新米の女刑事・内海薫が登場。原作の内海は基本的に捜査の際は草薙
とコンビを組んでいます。なので内海が居るからお役ごめんになる訳ではなく、ちゃんと草薙も今まで通り登場しています。ま、最初の短編集二冊の頃にくらべるとやっぱり登場シーンは減っていますし、湯川に相談しにいく役割が内海になってしまっていますが。草薙はこの本で巡査部長から警部補になっています。
ドラマではこの本の収録作から連続ドラマの第2シーズンになります。
原作ではこの短編集から内海が活躍するのに、ドラマでは真逆にここで去ってしまうので奇妙な感じ。ドラマスペシャルで内海が主役の「ガリレオXX」も放送されました。
「落下る」と「操縦る」の2編はドラマスペシャル「ガリレオΦ」で湯川と草薙の大学時代の話として変更されつつでしたね。
大学時代の湯川は三浦春馬さんが演じていました。
『聖女の救済』
長編。
女性が容疑者の事件なのですが、「草薙が容疑者に恋…しちゃって・・・る?」な感じになっちゃって、内海が湯川に相談するってなお話で割りと草薙が危ういことに。親友の危機!ってことで湯川が捜査協力することとなります。この長編らへんから湯川と内海が気安い関係になっている…と、いうか、内海がより気軽に湯川に相談持ち込む感じになっているかなと。仲が良くなっている。
トリックに関しては結構早い段階で解っちゃうかなぁと思います。女を甘く見ると痛い目にあうよ。
連続ドラマ第2シーズンの最終話はこのお話が使われています。ドラマですと草薙が不在なので、話の筋はかなり変更されていますけどね。容疑者の女性は天海祐希さんが演じていました。
『真夏の方程式』
長編。
湯川と少年がペットボトルロケットを飛ばすために奮闘するシーンが書きたかったという本作。
そのため、殺人事件がどうのこうのよりも湯川と少年との一夏の交流が主になっている長編ですね。子供嫌いで子供と接すると蕁麻疹が出るほどだった湯川ですが、この少年相手には最初っから普通に接しています。一瞬「作者、設定忘れちゃったのかな?」と疑ってしまうところですけど、子供でも論理的なら大丈夫なのだということらしい。『容疑者Xの献身』に続きこちらも2013年に映画化されていますが、映画の方ではちゃんと湯川が蕁麻疹出ないのを不思議がるシーンがあります。
作者の意図の通り、やはり湯川と少年が交流している場面が読んでいて面白いです。少年が湯川のことを「博士」と呼んで慕っているのが微笑ましい。
事件の方は、個人的にこの形の決着のつけかたが好きではなくってモヤモヤしてしまいました。
『虚像の道化師』(単行本版)
短編集。
- 幻惑す(まどわす)
- 心聴る(きこえる)
- 偽装う(よそおう)
- 演技る(えんじる)
の、四編収録。
(文庫版)
短編集。
- 幻惑す(まどわす)
- 透視す(みとおす)
- 心聴る(きこえる)
- 曲球る(まがる)
- 念波る(おくる)
- 偽装う(よそおう)
- 演技る(えんじる)
の、七編収録。
『禁断の魔術』(単行本版)
短編集。
- 透視す(みとおす)
- 曲球る(まがる)
- 念波る(おくる)
- 猛射つ(うつ)
の、四編収録。
(文庫版)
長編。(単行本収録の短編「猛射つ(うつ)」を加筆して長編にしたもの)
『虚像の道化師』と『禁断の魔術』は元々1冊にまとめるつもりが話数の多さで2冊にわけたという事情があり、単行本はほぼ同時期に刊行されました。
私はどちらも発売されてすぐに単行本で購入したので今まで知らなかったのですが、文庫オリジナルで単行本の最後に収録されていた短編「猛射つ(うつ)」を改稿して長編作品『禁断の魔術』として改めて刊行。単行本に収録されていた他の「透視す(みとおす)」「曲球る(まがる)」「念波る(おくる)」の短編三編は『虚像の道化師』の文庫版にまとめて収録されています。
確かに「猛射つ(うつ)」は読んだ当初「短編なのもったいないなぁ」とか思ったものでしたが、まさか長編に書き直して文庫オリジナルとして出すとは・・・「ああ、そういう事しちゃいますか・・・」って感じ。
ともかく、今買うなら『虚像の道化師』も『禁断の魔術』も文庫版の方が良いということですのでそのように(^_^;)。
単行本刊行よりも先に連続ドラマの第2シリーズで映像化された短編もあります。ここまではほとんど映像化されている状態ですね。
『沈黙のパレード』
長編。
久し振りに刊行された長編。それというのも、作者の東野圭吾さんが前作『虚像の道化師』と『禁断の魔術』が刊行された際のインタビューにてこれでシリーズ打ち止め的な発言をされていたので、完結したというような雰囲気が流れていたんですよね。『禁断の魔術』は湯川がニューヨークに行くところで終わっていますし。
私も一読者としてもう【ガリレオシリーズ】は書く気ないのかなぁ~と思っていたところに長編発売だったので驚きました。ネタ的な問題で短編は打ち止めであるものの、長編は続けていくってことなのですかね。
本作で湯川は准教授から教授となりニューヨークから日本に四年ぶりに帰還。草薙も警部・係長に出世していますが、内海とコンビを組んで捜査するところは相変わらずですね。シリーズ当初三十代半ばだった湯川と草薙も四十代となり、職場での立場も変化して登場人物たちの成長が感じられる1冊になっています。二人とも独身なのは相変わらずですけど。
※詳しくはこちら↓
※『沈黙のパレード』は2022年に映画公開が決定しました。
以上、2020年現在で9冊刊行。
上記したように短編はオカルト的謎を科学知識で解明するもので、長編はいつもの東野圭吾作品の特徴である驚きの展開と人間味溢れるお話になっている印象。
※2021年9月にシリーズ10冊目の長編が出ました!詳しくはこちら↓
後、単発作品ではありますが『むかし僕が死んだ家』という【ガリレオシリーズ】が刊行されるよりも前に書かれた長編も非常に密接な繋がりがあるので、シリーズを読む前でも後でもいいので読んで欲しいなぁと思います。
“原作”として
シリーズ当初の解説でも書かれていたことですが、もともと作者が湯川のモデルだとしていたのは俳優の佐野史郎さんでした。映画『夢見るように眠りたい』
で佐野史郎さんが演じていた探偵役が印象に残っていたのでイメージして書いたということらしい。シリーズ第1弾の短編集『探偵ガリレオ』の文庫版では巻末に佐野史郎さんによる解説が収録されています。
なので、当初は湯川の容姿に関して眼鏡のぱっつん前髪だという記述があったりしたのですが、ドラマ化されたことで作者も引きずられてしまったのか、ドラマ視聴者に合わせようということなのか、いつのまにやら原作の湯川の容姿が端正な顔立ちの足長男にすりかわっていたり、内海とのやり取りや他の部分でもドラマ化されたことでの影響がみられます。
ドラマ視聴者としてはその方が違和感なく原作小説として入り込めるのだろうし、ドラマでの映像イメージを損なうことなく楽しめるのでしょうが、個人的にはドラマ化されようと原作は原作として元々の設定や世界観を崩すことなく続けて欲しいと思っちゃうのですよね。作者自身が別物と示して欲しいというか。
私はドラマの第1シーズン視聴途中にこの小説シリーズを読み初めたのですが、もしドラマより小説を先に読んでいる状態で愛読者になっていたらドラマに合わせて原作が変更されるのにはかなりの抵抗があっただろうと思います。
とは言え、小説での設定や展開は損なわれずに確りと面白いのでそんなに気にすることでもないかも知れません。
【ガリレオシリーズ】の短編はともかく長編は今後も続くと思いますので、読者としてやはり楽しみにしています。
ではではまた~
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