こんばんは、紫栞です。
今回は清水玲子さんの『秘密season0』9巻〈悪戯〉をご紹介。
前作から一年二ヶ月ぶりの新刊。8巻からスタートした「悪戯(ゲーム)」編
の続きと読み切り作品の〈目撃〉が収録されています。表紙絵はこれまた美しいですが、また誤解されそうな・・・サブタイトル“悪戯”だし・・・(^_^;)。耽美な見た目ですが、今作も中身は近未来警察ミステリですので悪しからず。
『秘密』のシリーズは年一刊行が通常なので待たされた期間の長さはいつもとさほど変わらないのですが、いつもはお話が一冊完結型なのに対して〈悪戯〉は続きもので細部を忘れてしまっていたので、前巻の読み返しをしてから挑みました。読んでいたらさらに5・6巻の〈増殖〉も気になり読み返した・・・。
前巻ではカルト教団の本拠地であった保育園跡地から四人の子供の遺体が新たに発見され、事件への関係が疑われる須田光を監視対象として青木家で里子として迎え入れるところで終わっていました。
今巻では光君を迎え入れた青木家の様子と、薪さん・岡部さんらの「第九」での捜査が並行して描かれています。
以下、がっつりとネタバレ~
光の過去
「悪戯(ゲーム)」編の2集である今巻は、前巻の段階では唯々得体の知れない「怪物」だった須田光少年の凄絶な過去が明らかになり、本人の内面なども描写されています。
大量殺戮を起したカルト教団の教祖の息子である須田光。やはりまともな環境で育っているはずもなく、今巻で明らかになるのは教団内での儀式の際、彼は無理やり薬物を摂取させられ、指示されるままに幼児を異様な遣り方で殺害し、その儀式の後には集団での淫行(このハーレムシーンですが、教団にこんな綺麗な女の人たちいたっけ?と疑問だった)に参加して実の父親である教祖の児玉に凌辱されていました。
世にもおぞましい儀式ですが、恐ろしいことにカルト教団では教祖を中心としてこのような行為がなされるのは珍しいことではなく、一種の定番なので光君がこのような目に遭っていただろうことは割と想像出来たなぁというのが正直なところ。
個人的にそれよりも驚いたのは、前巻で光君に殺されていた神父さんが性的暴行をしていたことですね。善良ぶってあの神父・・・!!
しかし、神父が子供相手にそのようなことをするというのも創作物では“オキマリ”ではある・・・。ホント、海外ドラマやミステリだとほぼほぼそうで、「神父出て来たらまず疑え」みたくなってる・・・。けども、この神父さんは違うだろうと思っていたのに・・・(-_-)
前巻で薪さんは「彼が一体なにをした・・・神父は君に親切にしただけだろう?なのに何故」と光君に訊いて「動機がないといけませんか?」と子供離れした論説でかわしていましたが、結局「動機」たりえることがあったということなのですね。
ま、青木のところに里子にいくためという方が理由としてはデカイのではないかという気はしますが。
光君が青木のことをゲイだと勘違いしていたのには笑ってしまった(^_^;)。確かに、薪さんとのあの距離感じゃあ誤解してもしょうがないとは思う…。
青木や舞ちゃんに対しての態度も、執着の仕方は空恐ろしいものの“愛に飢えている子供”という部分も垣間見ることが出来ますし、これらの事実が分かってみると前巻でのただ悪戯に害悪をもたらす「怪物」という印象からだいぶ変わってくる訳です。
やっぱりというかなんというか、やはり環境と周りの大人たちが彼に害ばかり与えたための結果なのだなぁと。
思い上がり
心配する薪さんと里親として光君を迎え入れたい青木とで一悶着あったものの、光君に対して客観性を失っていたと気づかされた薪さんは、“監視対象という事でなら”と、青木家にカメラなどを設置することなどを条件に里子として迎え入れることを上司として容認したのが前巻でのラストでした。
里子として青木家にやってきた光は、青木の母や姪っ子の舞、クラスメイトにも優しく素直に、社交的に振る舞い、容姿のこともあってすぐに周りに受け入れられます。「赤ん坊からババアまでイチコロだな!」「あれくらいのあざとさ行ちゃんも見習うべきなんだよ」という舞ちゃんの台詞には青木同様に「舞ちゃん!?」と驚いてしまった・・・。
疑惑の渦中にある少年だと聞かされていたものの、このような様子と過酷な過去を知ってますます光君に「自分がこの子を信じて手を差し伸べなければ」という想いを強くする青木。
前巻で青木の意思を尊重した薪さんですが、MRI画像で幼児の目に棒を突っ込んでいる光の姿を目の当たりにして平静でいられる訳もなく、青木は青木で監視カメラオフにしやがるし、心配のあまり情緒不安定気味に(いつものことかもしれませんが)、そんな薪さんの横で心労が絶えない岡部さん(これもいつものことかもしれませんが)。
状況的に、やはり光を里子として一般家庭にいさせるのは危険すぎると判断し、薪さんと岡部さん二人で青木に須田光を引き渡すように言うのですが・・・善良さマックスな青木を前にまた一悶着(^_^;)。
「光のような特殊な環境下にいた子供は専門の知識をもつ医師のもとで治療し 洗脳・影響がとけるまで隔離して育てるべきだ」と、岡部さんがド正論をいって青木を説得するのですが、青木は「舞を傷つけない限り家族として家に迎え入れると約束した」「彼は約束を守ってくれている」「俺まで彼を裏切る――傷つける大人になりたくないんです」と、毎度お馴染みの涙を流しながら訴える。
で、薪さんはというと「お前の善良さには時々反吐が出る」「なんで「愚者」でさえ「子供」でさえ経験に学ぶというのにこの男は学ばないんだろう」と先ずは静かに罵倒。
「舞の死体まで転がさないとその目はさめないのか」と激昂して、「不満なら今ここで「第九」を辞めろ」「辞めて僕の目の前から消えろ」とまで言ってしまう。後になって「あいつ馬鹿だから本当に辞めるかもしれない」と後悔していましたが・・・(^_^;)。
大人たちがこのようなやり取りをしている最中、舞ちゃんが元教団にいた男児・淳一に襲われる事件が発生。友人を殺されたことで光を恨んでおり、一緒に行動している舞に危害を加えようとしたのですね。
あの教団に居て、洗脳下にあって、友人の死を悼むような子供がいたのには驚きですが。駆け付けた光は頭に血が上って淳一に過剰な暴行をしてしまう。舞ちゃんが止めたので死にはしなかったですが、「殺し損ねてごめんなさい。次こそは仕留める」と当然のように口にする光を目の当たりにした青木は「思い上がっていた。自分ではとても力不足だ」と痛感して里親は諦めることに。
個人的に、今回の里子云々話は青木のエゴがすぎると思う。
あそこまでの異常な環境で育った光には専門医の治療を受けさせるべきで、素人が軽はずみにでしゃばるのはナンセンス。光に様々な犯罪的疑惑があるのは事実で、何かあった際には自分だけでなく周りも危険にさらされることになるのだから、青木一人の想いだけで光を家に迎え入れるのはあまりに勝手なことでしょう。
青木は「舞を傷つけないこと。それだけです」と条件をだして約束させる訳ですが、“それだけ”ではたりない。約束させるなら「誰にも危害をくわえないこと」とするべきだったろうし、いずれにせよ青木一人の自己犠牲でどうなることではないはずです。
「ほんの少しの事で彼は変わるかもしれない」「どんな人間にも可能性はある筈です」とはご立派で善良な意見なのでしょうが、“救ってあげよう”なんて独りよがりの思い上がり。傲慢で浅はかな考え。私が青木の母親の立場で光の詳細を知らされたなら「あんたのエゴに孫を巻き込むな」と言うでしょう。
挙げ句、悪戯に光に希望をもたせて家から放り出す結果になる訳で。これはもう最悪ですよ。半端なことをするのがね、一番罪深いですから。
しかし、あのカウンセラーの先生はどういうつもりなのでしょう?淳一が光に暴行されているのを見て、スマホのカメラをまわしつつも止めようとしませんでした。口をおさえて怖がっているだけ。大人でしょ?止めなさいよ。
次のゲームは?
そんなこんなで須田光は青木家を去ることとなるのですが、今度は暴行を受けた淳一が病院から連れ去られ、どこかの汚ないトイレに閉じ込められている描写が。
前巻で舞ちゃんらしき少女が同じような目に遭わされている場面が“先に起こること”というようにちらほら作中に挿入されていましたが、どういうことなのでしょう。
また、この〈悪戯〉編は薪さんが青木・舞・ミドリが写っている写真を握りしめて泣き崩れているところから始まっているし…。
今巻は事件の物語りとしては大きな展開はあまりなく、起承転結の“承”のところとでもいう様相でした。しかし、事は確実に何らかの悲劇に向かって進んでいる不穏感がひしひしと。
続きが気になるところですが、コミックで読めるのはまた一年後か…。と、いうか、この〈悪戯〉編、あと何冊続けるつもりなんだろう…。
〈目撃〉
本編の続きが大変気になるところで、読者の期待を裏切るように待ち受けているのが読み切り編の〈目撃〉です。
思わず「ちょっとぉ!読み切りより本編の続き読ませてよ!」となってしまいましたが、この読み切りは読み切りで確り面白いです。
強盗をした男が、記憶喪失になった目撃者の女を見張るために近付くが――てなストーリー。
世にも奇妙な物語ちっくな話ですね。女をあまく見ると痛い目にあう。
「第九」とはまったく関係ない話なのかと思いきや、後半で登場します。独立した話ぽいですが、前シリーズの時は関係なさそうな読み切りにも実は伏線がはられていたので、
ひょっとしたら後々関係してくる…かも……?
色々気になりますが、一年後のお楽しみとして気長に待とうと思います。
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ではではまた~